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血、死体、酒場にて

第六十話≪血、死体、酒場にて≫

「うえ……こりゃ酷ぇ。あのオヤジが殺ったのか? 殺ったんだろうな、状況から考えて」

酒場の奥にある和室で、四宮勝憲は現場の余りの凄惨さに顔を歪めていた。
頭部から頸椎にかけて、文字通り「両断」されている人間の男の死体がうつ伏せで倒れていた。
両断された部分から赤黒い血液の水溜まりが畳の上に大きく広がっており、
ピンク色のゼリー状の何かが、裂けた頭蓋骨から溢れ出ていた。
こんな物、わざわざ凝視せずとも死体の状況からすれば脳漿だという事は容易に分かる。
いつまでもそんな物を見ていて平然としていられる程、彼はグロ耐性がある訳では無い。

「あー? 何だこりゃ? アサルトライフルか? 何で真っ二つになってんだよ」

男の手元には、機関部で真っ二つに切断されたアサルトライフル・ハーネルStG44が落ちていた。
当然、もはや使い物にはならないが、なぜこんな事になっているのか。
そう思った勝憲は、つい数十分程前に自分が殺害した、あの白い料理人服姿の中年男性を思い出す。
あの中年男性は、鋭利な長剣を持って襲い掛かって来た。
明らかに正気には見えず、説得は間に合わないと判断した勝憲は、装備していたセミオート限定のFALで、
その中年男性を射殺した。
目の前で人が無惨に殺されるのを目撃した彼の同行者の少女・金ヶ崎陵華は、
気分が悪くなったと訴え、現在酒場の店舗部分で待機している。
中年男性の死体はカウンターの奥に勝憲が移動させ、テーブルクロスで覆った。

「多分、こいつはこのアサルトライフルであのオヤジの剣防ごうとしたんだな」

恐らくこの男はあの中年男性に襲われた際、銃で剣の攻撃――状況から察するに振り下ろしだ――を、
防ごうとしたのだろう。だが残念、剣の切れ味は銃の強度を上回っていたようだ。
「ご愁傷様」と心にも無い事を言い勝憲が死体に手を合わせる。
この和室に来る途中の短い通路の部分にも、シェパード種犬獣人の婦警の死体が倒れていた。
婦警の方は胴体を刺し貫かれて殺されたようだった。少なくともこの男と中年男性よりはだいぶマシで、
綺麗な死に方ではなかろうか。綺麗と言うのは語弊かもしれないが。
恐らく、いやほぼ間違い無く、あの婦警も中年男性にやられたのだろう。

「しっかしまあ、何でこんな事になったのかねー。仲間割れかぁ?」

酒場のカウンターに二つ、この和室にも一つ、デイパックがあるので、
中年男性、婦警、男の三人は行動を共にしていた可能性が高い。
この酒場を拠点にしていたのかどうかは知らないが、何らかの理由で仲間割れが発生し、
中年男性が二人を惨殺した、と考えるのが妥当だろうか。
もっとも、当事者が全員死亡しているので、真相は永久に闇の中、だが。

「どうでもいいけどな。俺にゃ関係ねーし」

そう。自分と無関係の赤の他人のグループでの内輪もめなど、彼にとっては興味の外だ。

「陵華の奴、大丈夫か? ちっと様子見てくっか……」

酒場店舗部分に待機させた陵華の事が心配になった勝憲は、
血の臭気が充満する和室を後にした。


テーブル席に座り、ブレザーを着たツインテールの少女・金ヶ崎陵華は両手を額の辺りで組ませ、
俯くようにして憔悴しきった表情を浮かべていた。
決して疲労している訳では無い。気分が悪いのである。
つい数十分前、彼女は18年生きてきて初めて人が殺される所を見た。
この酒場と入口の扉を初めて開けた直後、食堂の主人が着るような白い料理人服を着た中年男性が、
雄叫びをあげながら自分と、同行している黒髪の青年・四宮勝憲に向かって襲い掛かってきたのだ。
陵華は突然の事に、身体が固まってしまい動けなかった。
だが、勝憲は持っていたアサルトライフルの銃口を中年男性に向け、臆する事無く、引き金を引いた。
爆ぜるような音が何発も室内に響き、中年男性の身体には大きな穴が銃声の度に空いていった。
そして最後に中年男性の頭部が弾け飛び、白い料理人服を真っ赤に染めた中年男性は、
ただの有機物の塊となり、床に転げ落ちた。
初めて目にした人の死。それも、かなり凄惨な。
それを目にした陵華は――。

「う、うえええええっ」

思い切り戻してしまった。

そして現在。最初より随分楽にはなったが、未だに吐き気は収まらない。
勝憲は奥の方へ探索に行っている。陵華はこの酒場店舗部分で待機させて貰う事にした。
もしかしたら奥にも死体があるかもしれない。
これ以上は、陵華に取っては死に勝る苦痛だった。
何かあったらすぐ大声で叫ぶように言われ、待機する許可を得られた。
少し喉が渇いたので、デイパックからペットボトルを取り出し、キャップを開けて口の中に水を流し込む。
食堂を通り過ぎ、胃に落ちていく水の感覚が、彼女の暗くなりつつある気持ちと気分の悪さを和らげてくれた。
水を飲み終え、ペットボトルのキャップを閉め、デイパックの中に戻す。
カウンターの奥の調理場に行けば、もしかしたらオレンジジュースぐらいはあるかもしれなかったが、
カウンターに近付くのは陵華は嫌だった。
何故ならば、カウンターの向こう側には、テーブルクロスを掛けられた中年男性の死体が安置されているからである。
と言うより今この座っているテーブル席から動く事も億劫だった。
すぐ前方の床にはべったりと血の跡が残り、死体を引き摺った跡がかなり生々しかった。

「おい、陵華」

勝憲が陵華の様子を見に戻ってきた。
陵華は気丈に振舞おうとするが、やはり顔色は悪い。

「あ、四宮さん……」
「大丈夫か? 顔色まだ悪そうだけど」
「うん、だいぶ、楽にはなったみたい」
「そうか……お前、奥行かなくて良かったわ」
「え? ……やっぱり、あったの? 死体」
「ああ。二つな。その内の一つはもう、お前見たら死ぬんじゃねぇかと思うぐらい」
「……マジで?」
「どんな死体だったか教えてやろうか?」
「いや、いい」

想像するだけでも非常に危険だというのに、詳しい状況を教えられたら折角良くなりかけている体調がまた悪くなりかねない。
陵華は詳しく聞くのはやめる事にした。
勝憲も陵華の心情や体調が分からない訳では無いので、無理に言う事はしなかった。
目の前でテーブルに伏すように座り、頭を抱えて辛そうな表情を浮かべている陵華と、
最初出会った時に自分に怒声を浴びせたあの元気の良い陵華に、勝憲はギャップを感じずにはいられない。
いくら普段明るい性格とは言え、目の前で人間が肉片同然になってしまえば、無理も無い事なのかもしれないが。

「俺まだ全部見た訳じゃねーから、また戻っけど、何かあったら大声で叫ぶか俺の所来いよ」
「大声で叫ぶわ」
「……まあいい。じゃあもう一回行ってくら」

そう言うと勝憲は再び酒場の奥へと進んで行った。
再び酒場の店舗部分に一人になる陵華。

「……死体に慣れなきゃいけないって、凄い状況よね……」

誰もいない空間に向かって、小さな声で、自嘲気味の笑みを浮かべながら言った。



【一日目/午後/B-3酒場】

【四宮勝憲】
[状態]:全身打撲(軽度)、金ヶ崎陵華がちょっと心配
[装備]:FN FAL(9/20)
[所持品]:基本支給品一式、FN FALの予備マガジン(20×10)
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る気は無いが、襲い掛かってくる奴は殺す。
1:酒場内の探索。
2:陵華と行動する。
3:麗雅と美琴の捜索。
4:あの緑髪の女(新藤真紀)には二度と会いたくない。
[備考]
※支給されたFN FALはセミオート限定モデルです。
※緑髪の女(新藤真紀)の特徴を大まかに把握しました。

【金ヶ崎陵華】
[状態]:足に軽い擦り傷、全身打撲(軽度)、精神的疲労(中)、気分が悪い
[装備]:コルトM1908”ベストポケット”(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、コルトM1908の予備マガジン(6×10)、カッターナイフ、ニンテンドーDS、
ニンテンドーDS用ゲームソフト(4)、調達した食糧及び飲料、牛刀包丁
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:気分悪……。
2:四宮さんと一緒に行動する。
[備考]
※緑髪の女(新藤真紀)の特徴を大まかに把握しました。
※死体や血痕に敏感になっています。見ると気分が悪くなる恐れがあります。



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最終更新:2009年11月16日 20:39
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