「……大丈夫かな、美神さん」
――危ない人に出くわさなければいいけど。
自らの命も危ういこの状況下、己が恩師の安否を気配する少年――横島忠夫。
アノンの一声と共に眩い光に包まれた彼は、いつの間にやら見知らぬ森の中にぽつねんと取り残されていた。隣にデイパックが一つ落ちているだけで周りに人気はない。
――ゴーストスイーパー見習いではあるものの、生き死にをかけた修羅場は人並み以上に乗り越えてきたつもりだ。
だが、このバトルロワイヤル――俺の経験してきたそれとは、全く違う。
これはあくまでも人殺し。
この世に蔓延る魑魅魍魎を退治するというならともかく、社会のルールを……まあ俺がそんなこと言える義理ではないが、そもそも人道に外れるような惨い真似など俺には出来ない。
それに、だ。
さっき無惨にも殺されてしまった、ナイスバディなお姉さん――何だか、美神さんと同じような雰囲気を纏っていた。
だからこそ怖かった。仮に彼女が先駆けて行動していなかったなら、もしかすれば美神さんが代わりにアノンに楯突いていたかもしれない。
そうなっていたら、美神さんは彼女と同じように――。
そこまで考えて彼は首を左右に振り、不吉な予感を払拭する。そして瞳を閉じ、何か思いつめるようにしばし俯いた。
(こんな狂ったゲーム、誰が乗るか!)
彼女のような犠牲者をこれ以上増やさないためにも、早く美神さんと合流して何か対策を練らないと。
これからの
行動方針を定めた彼の顔が、おもむろに直上していく。そこに先程までの不安に淀んだ気色は窺えない。
そこにあるのは、決意の輝きに満ちた瞳。
「よっしゃあ!」と頬に両手を打ちつけ気合いをいれた彼は、地べたに無造作に置かれてあるデイパックに手をかけた。
(さっきの部屋で美神さんの姿ははっきりと確認できた。
だけどあの混乱の最中だ。もしかしたら他にも、姿を見逃した知人がいるかも知れない)
まずは参加者名簿――と、デイパックの中に手を入れた横島は不思議がる。
それもそのはず、デイパックには底が無かった。肩がつくまで腕を伸ばすが、一向として底に届く気配がない。
「おいおい、冗談じゃないぜ」
どこにあるんだ参加者名簿――。
予想外のアクシデントに少なからず焦燥に駆られた刹那、指先にコツンと何か堅いものが当たる。
反射的に掴んだそれをデイパックから取り出すと、まるで見計らったかのように、赤黒い表紙に「名簿」と殴り書きされている冊子が現れた。
「……こいつはもしかして」
横島は何やら思う所があるのか、再びデイパックの中に手を突っ込むと、今度は群青色の冊子を彼はすぐに取り出した。
「やっぱり。こりゃ便利だな~」
横島は感嘆の溜め息を漏らしながら、取り出した冊子を捲ると、ページ毎にこのバトルロワイヤルの詳細なルールが記載されていた。
このデイパックの中は、どうやら四次元空間となっているらしい。原理はよくわからないが、取り出したいものを念じると、引き寄せられるように手に吸い付いてくる。
――このデイパック、結構いろんな用途に使えるかも知れないな。
そんなことを思案しつつ、今度は先程取り出した参加者名簿を開いた。
「えーっと、美神さんにドクター・カオス……それに冥子さんとマリアって、あれ? マリアの名前が2つ……ってことは、同名のやつがもう一人いるってことか?」
マリアが2人、ね……どうも焦臭いな。偶然にしては都合が良すぎる気がする。
まぁとにかく、俺の知ってる奴らはこれくら――っ!!!?
あらかたメンバーを確認し終えた彼が名簿を閉じかけたその時、ある参加者の名前が横島の目を強く引いた。
「う、嘘だろぉ~~っ!!!?」
ななななんで「メドゥーサ」が
殺し合いに参加してんだよォーーッ!?
横島の顔からサァと血の気が引いてゆく。「あのネーちゃん魔族だろ、どうやって倒せばいいんじゃ!
小龍姫さまもいないんだぞ!? カオスはボケてるし、マリアと美神さんだけであいつを倒せるわけもないし……だけど……」
頭をかきむしりながら、ぶつぶつと自問自答を繰り返す少年。
「うむぐぐ…………ん?」
そんな時、不意に背後から何者かの視線を横島は感じ取る。
参加者名簿に気を取られ、周囲に全く意識を向けていなかった隙に接近されたのか。
(くそ、どうする!?)
彼は洗練された戦士ではない。
人の気配を嗅ぎ付けることは出来ても、そこに殺気の有無を確かめる術は持っていないのだ。
ゆえに彼は迷う。このまま逃走するべきか否かを。
仮に好戦的な者ならば、戦わないにこしたことはない。死ぬリスクは少しでも低い方がいい。
だが参加者として集められた者の中には、戦闘能力を持たないと思われる少年少女がたくさんいたはずだ。
とすれば、危険を承知で接触し、危険人物から彼らを保護しなければならないのではないか?
「――おい、誰だ!」
結局、彼は後者を選択した。
もし仮に騙し討ちを食らったとしても、そこはゴーストスイーパーの端くれ――そんじょそこらの一般人には負けないという自負が彼にはあった。
「きゃっ!?」
息を切るような小さな悲鳴が、林の陰からから上がる。
慌てた様子で草木を掻き分けて飛び出してきたのは、夕陽のように赤いショートヘア、そしてつぶらな眼鏡が印象的な若い女性だった。
「あっ……」
「すす、すいません! あ、あの、、別に隠れて襲おうとしてたわけじゃないんです! ただ、安心できるような人か確かめたくて、その、だから……えぐ……ひっく」
女は横島の前に進み出るやいなや、まるで奴隷のように地面に這い蹲りながら、涙ながらに許しを懇願し始めた。
「お願いします……殺さないで……」
矢継ぎ早に弁解をする女は、どこか儚げな印象を横島に与えた。まるで頼りない……俺が守ってやらなくては――彼の意志はすぐに固まった。
「お嬢さん、どうかお顔をお上げになって」
「えぐ……こ……殺さないんですか……?」
「僕と出逢ったのも何かの縁……大丈夫、貴女を傷付けたりなんかしません。
それよりもほら……綺麗なお顔が台無しですよ」
そう言うと彼は女の肩を抱き寄せ、頬に伝う涙を拭い去る。
女は恥ずかしげに頬を朱に染めながら「ごめんなさい」と横島の胸に頭をうずめると、彼女も両手を彼の肩に回した。
「ぶほぉ!?
い、いいんですよ……ところでお嬢さん。失礼ながらお訊きしたいのですが、御名前は?」
「……エミリー。エミリー・オブライアンと言います。貴方は?」
「僕は横島忠夫。しがないゴーストスイーパーですよ」
「……素敵な御名前」
ギュウウ
(ウホッ! こ、こんな状況で不謹慎だが……!
今なら死んでもいいーっ!!!!)
殺し合い開始直後の凛々しさは何処へと消えたのやら、涎を垂らしながら邪な快感を享受する横島忠夫であった。
だが参加者として集められた者の中には、戦闘能力を持たないと思われる少年少女がたくさんいたはずだ。
とすれば、危険を承知で接触し、危険人物から彼らを保護しなければならないのではないか?
「――おい、誰だ!」
結局、彼は後者を選択した。
もし仮に騙し討ちを食らったとしても、そこはゴーストスイーパーの端くれ――そんじょそこらの一般人には負けないという自負が彼にはあった。
「きゃっ!?」
息を切るような小さな悲鳴が、林の陰からから上がる。
慌てた様子で草木を掻き分けて飛び出してきたのは、夕陽のように赤いショートヘア、そしてつぶらな眼鏡が印象的な若い女性だった。
「あっ……」
「すす、すいません! あ、あの、、別に隠れて襲おうとしてたわけじゃないんです! ただ、安心できるような人か確かめたくて、その、だから……えぐ……ひっく」
女は横島の前に進み出るやいなや、まるで奴隷のように地面に這い蹲りながら、涙ながらに許しを懇願し始めた。
「お願いします……殺さないで……」
矢継ぎ早に弁解をする女は、どこか儚げな印象を横島に与えた。まるで頼りない……俺が守ってやらなくては――彼の意志はすぐに固まった。
「お嬢さん、どうかお顔をお上げになって」
「えぐ……こ……殺さないんですか……?」
「僕と出逢ったのも何かの縁……大丈夫、貴女を傷付けたりなんかしません。
それよりもほら……綺麗なお顔が台無しですよ」
そう言うと彼は女の肩を抱き寄せ、頬に伝う涙を拭い去る。
女は恥ずかしげに頬を朱に染めながら「ごめんなさい」と横島の胸に頭をうずめると、彼女も両手を彼の肩に回した。
「ぶほぉ!?
い、いいんですよ……ところでお嬢さん。失礼ながらお訊きしたいのですが、御名前は?」
「……エミリー。エミリー・オブライアンと言います。貴方は?」
「僕は横島忠夫。しがないゴーストスイーパーですよ」
「……素敵な御名前」
ギュウウ
(ウホッ! こ、こんな状況で不謹慎だが……!
今なら死んでもいいーっ!!!!)
殺し合い開始直後の凛々しさは何処へと消えたのやら、涎を垂らしながら邪な快感を享受する横島忠夫であった。