中世ヨーロッパの宮殿を思わせる、巨大な石造りの建物は、近隣を囲む遊園地のアトラクションから流れる軽快な音楽に晒され、さながら某有名テーマパークのシンボルがごとき存在感を放っている。
しかし正確には煉瓦を模して造られただけの安っぽいコンクリートの外観は、見るものが見れば胡散臭い雰囲気を感じ取る――そんなものの前で佇むのは、継ぎ接ぎだらけの顔に深き悲哀の色を滲ませる黒衣の男、ブラック・ジャックであった。
「……なんて惨いことを」
奇跡の天才外科医と謳われる彼にとって、人の死などそれこそ日常茶飯事である。
中東における内紛の最中に行われた野外手術の際など、彼の腕をもってしても尚救うことのできなかった命がごまんとあった。それは手の施しようのない、いわば運命とも言うべき死である。
しかし、先の女の死は本当に運命だったのだろうか――ブラック・ジャックは静かに自問する。
答えは否。救える命だった。
一言だけ彼女に声をかければ良かったのだ。
「駄目だ、下手に奴を刺激するな」とでも。
だがそれをしなかったのは自身の油断、置かれた状況に順応しきれずにいた甘さが心に燻っていたからだ――ブラック・ジャックはそう推察する。
また、爆弾はブラック・ジャックにとって最も忌むべき災厄であった。
一瞬にして人体を粉々に吹き飛ばす暴力性といい、どこにでも潜む可能性を持つそのステルス性といい、まさに悪魔の兵器であるそれの恐ろしさを彼は二度、続けざまに味わっている。一度目は母の死、二度目は己の身をもって。
彼はそっと、顔の縫い目に沿って頬を撫でる。
生々しく蘇る過去の悲劇に、一時期はメスすら持てない状態に陥ったこともあるブラック・ジャックは恐怖していた。
名も知らぬ女の死によって、またメスが握れなくなることを。
――トラウマってのはどうも拭い去れないものだな。母さん、俺はまだまだひよっこみたいだよ。
彼はふっと自嘲すると、肩にかけたデイパックから、自分にあてがわれた支給品をおもむろに取り出す。
名称通りの用途を持つ「腕時計型麻酔銃」と、うねうねと絶え間なく不気味な動きをする髪の毛の携帯ストラップ「あかねちゃん」を眺めながら、果たしてこれらだけで来たるべき危機を乗り越えられるのかという疑念に苛まれる。
――しかし、俺は俺にしか出来ないことをするまでだ。いや……そうすることが自ずと最善の選択になり得るはず。
先程、いち早くこの島の地図を開いたブラック・ジャックは、中央街の北に病院が設置されてあることに目敏く気付いていた。
――異常な状況下に置かれた大多数の人間の中には、必然的に狂人が出現する。
雪山で遭難し、食料も尽きた人間が、最後に共食いを始めるというのは有名な話だが、その惨劇がこの場で実現しようとしている。そしてそれを止める術はないだろう。
だが、抑制はできる。
この
殺し合い中は多くの負傷者が出るはずだ。そんな彼らが怪我の治療を目的に病院に立ち寄ることも少なくあるまい。
そして俺は医者だ。器材さえ揃っていればどのような怪我人にも対応できる。
幸いにも相応の医療器機を期待できる病院があるということなら、大がかりな手術もおそらく可能だろう。
この二つの点を考慮すれば、俺が今為さなければならないことは病院に訪れる者への奉仕、という結論に自然と辿り着く。
しかしただ奉仕するばかりではない。立ち寄る怪我人に適切な治療を施す代償として、人命救助に協力することを誓わせる。
リスクは高いが、参加者の救済のチャンスが増え、首輪を解除する知識を持った人物と接触できる可能性も十二分にある。
そうと決まれば話は早い――ブラック・ジャックは手元の腕時計型麻酔銃を左手に付け、ストラップを懐にしまうと、新たに取り出した島の地図を右手に携え、西に進路を向けて歩き始める。
――遊園地エリアから病院までのルートは存外短い。このまま西に直進すれば、およそ二時間の内には辿り着けるだろう。
……ふっ、待っているんだなアノン。貴様の思惑通りにはいかないってこと……必ず証明してみせるぜ。
【遊園地/1日目/06:20】
【ブラック・ジャック@ブラックジャック】
[状態]:健康
[装備]:腕時計型麻酔銃@名探偵コナン/あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ
[道具]:なし
[思考]
第一
行動方針:病院へ行こう
第二行動方針:怪我人は治療しないとな
第三行動方針:トラウマも解消しないと
基本行動方針:殺し合いを止めねば
最終更新:2011年07月26日 22:23