悲哀を乗り越えて

第六十五話≪悲哀を乗り越えて≫

葛葉さんと一緒に、中山さんの死体を道路脇の草むらの上に安置した後、
路上に落ちていた、私が中山さんに渡した小型のリボルバー拳銃を拾い、
中山さんのデイパックの中から、小型リボルバーの予備弾薬を抜き取り、自分のデイパックの中に入れる。
抜き取るのは予備弾薬だけにした。食糧等はそのままにした。

中山さんの身に着けている衣服は血塗れで、手足は傷だらけで酷い状態だったけど、
顔は比較的綺麗だった。まるで眠っているみたいな死に顔だった。

そして、私と葛葉さんは、当初の予定通り、幹線道路を辿って市街地へ向かう事にした。
横たわる中山さんに二人で手を合わせ、その場を後にした。

そして今、私と葛葉さんは海の見える幹線道路の上を歩いている。
私は上下二連式の散弾銃、葛葉さんは単発式の狙撃銃をその手に持ちながら、
周囲を警戒しつつ進んでいる。
私達は忘れていたのだ。今自分達が置かれている状況を。
三人で雑談を交わして少し楽しい気分になり過ぎていた。和み過ぎていた。
既に何十人もの人が命を落としている、そして殺人者が何人もいる殺人ゲームの舞台に自分達はいるのだ。
そして首にはめられた首輪で、このゲームの運営に命をも握られている。
その事よく自覚していたつもりが、自覚が少し足りなかった。
だから――中山さんは命を落としたのかもしれない。

歩きながら、葛葉さんが沈痛な面持ちで話してくれた。
私達を襲い、そして中山さんを撥ね殺した赤い車――その運転手の事を。
聞けば、その運転手は葛葉さんがこのゲームが始まって、初めて遭遇した参加者で、
そして、初めて襲い掛かってきた参加者らしい。
緑色の長い髪の、白い半袖のカッターシャツに紺色のスカートの、若い人間の女性だそうだ。
あの赤い車で襲い掛かってきた時は、何故か野球帽のような物を頭に被っていたらしいけど。
そして葛葉さんは、悲しみと怒りが入り混じったような、複雑な表情のまま続けた。
あの女性は、自分の事を狙っていたのかもしれない、と。
中山さんは自分を庇って車に撥ねられた、つまり、中山さんは、自分のせいで死んだようなものだ、と。
葛葉さんは両目に涙を浮かべながら言った。

でも、そんな葛葉さんの考えを、私は優しく否定した。
確かにあの車は葛葉さんを狙っていたのかもしれない。でも、中山さんは自分の意思で葛葉さんを助けたんだと思う。
だから、葛葉さんは気に病む事など何も無いと、そんな風に考えてしまったら、中山さんが返って悲しむだけだと、
そう葛葉さんに語り掛けた。
その瞬間、葛葉さんは私の胸に抱き付き、まるで堰を切ったかのように泣き出した。
私は泣きじゃくる葛葉さんの頭を撫でてあげる事しか出来なかった。
きっと、ずっと罪悪感を感じていたのだろう。責任感を感じていたのだろう。
16歳の、まだ子供と言っても過言では無い少女にとって余りにも酷な現実。
そして、こんな状況を作り出すように仕向け、自分は涼しい顔で高見の見物と洒落込んでいるであろう主催者に、
更なる怒りが湧いた。

そして今、私達は市街地に向け歩いている。
仲間を集めて、この狂った理不尽な殺人ゲームを終わらせる方法を見つけるために。


中山さんが死んでから、私はずっと自分を責め続けていた。
中山さんを撥ねた赤い車を運転していたのは、私がこのバトルロワイアルが始まって最初に出遭い、
そして最初に襲い掛かってきた人物だった。
最初は私達三人を狙って車で突進を仕掛けて来たのだろうが、その時私の姿を確認したらしい。
どうやらあの古城で私を取り逃がした事を忘れてはいなかったようだ。
そして次の突進は、間違い無く私を狙ったものだった。
あのままであれば、私は今頃、こうして立ってはいないだろう。

中山さんが、私を突き飛ばしていなかったら……。

私は助かった。けど、身を挺して私を助けてくれた中山さんは、命を落とした。

あの車は走り去った。私が撃った銃弾を何発も浴びながらも。
私は生まれて初めて、心の底から他人を憎んだ。
あの緑髪の女性の事を、憎悪した。
だけど、次第に憎悪よりも、別の感情が湧き起こるようになっていった。

中山さんは自分を助けようとして命を落とした。
中山さんは……自分のせいで命を落としたようなものだと、思い始めるようになった。
自分を責めずにはいられなかった。罪悪感を感じずにはいられなかった。
でも、自分の中でのみ抱え込むのが、とても辛くなって、つい、菊池さんにその事をもらした。
決して慰めて欲しかった訳でも、同情して欲しかった訳でも無かったけど――。

菊池さんに優しく叱られた。

確かにあの車は私を狙っていたのかもしれない。でも、中山さんは自分の意思で私を助けたんだと思う、と。
私は気に病む事など何も無いと、そんな風に考えてしまったら、中山さんが返って悲しむだけだ、と。

その言葉を聞いた瞬間、何だか、とても安心したような、救われたような気がして。
涙が抑えられなくなった。気が付いた時には、私は菊池さんの胸の中で泣いていた。
なぜだろう。どう見ても私と同年代の女の子のはずなのに、
まるで自分よりも何十歳も年上の人から諭されているような、そんな気持ちだった。

私と菊池さんは再び市街地に向けて歩き出した。

まだ立ち止まる事は出来ない。
同じくこの殺し合いに呼ばれた、知り合いの二人にも再会していない。
何としても、このゲームから脱出してやる。
中山さんや、既に死んでいった大勢の人達のためにも、生き延びる。


【一日目/午後/F-8浜辺沿いの幹線道路】

菊池やと
[状態]:健康、市街地方面へ移動中
[装備]:ミロクSP-120(2/2)
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/3消費)、12ゲージショットシェル(50)、S&W M36”チーフスペシャル”(5/5)、38S&WSP弾(50)
[思考・行動]
基本:殺し合いの転覆。或いは脱出。そのために仲間を集う。
1:襲われたらまず説得、駄目なら戦うか逃げる。
2:首輪を外す方法も探す。
3:何で10代の頃の身体に戻ってるの……?
[備考]
※運営側による盗聴の可能性を知りました。

葛葉美琴
[状態]:左頬に掠り傷(治癒中)、緑髪の女性(新藤真紀)に対する憎悪、市街地方面へ移動中
[装備]:十三年式村田銃(1/1)
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/3消費)、11.15㎜×60R弾(ポケットに11、デイパックに22)、出刃包丁
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。
1:絶対に、生き延びる……。
2:首輪に盗聴器が内蔵されている事を他参加者に知らせる。
3:知人(四宮勝憲朱雀麗雅)と合流したい。
4:襲われたら戦う。
[備考]
※運営側による盗聴の可能性を知りました。



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最終更新:2009年11月22日 23:13
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