その男の名前は、野村和也と云う。
正直で、真面目。
それ故に時々融通の効かないところも出てきてしまうのが厄介なところだ。
今の彼は大学生であり、
それまでの経歴はと言うと、周りから頭一つ抜いた高い成績を取り、
結果、それなりにいい学校にも通っている。
中学、高校ともにバスケットボール部に務め、体格は良かったが、
今現在はスポーツから離れたためか、それ相応の体力不足は否めない状況にあった。
趣味は読書、そしてインターネットと極一般的な思想を体現しており、
それに見合ったブラインドタッチという特技も、もっていたりする。
そんな恐らく普通の少年が、三度。
コロシアイの土を踏んだ。
皮肉か、はたまた定められた運命なのか。
彼はその道中で出あうこととなる。
コロシアイに幾度も参加した中学生と。
×××××
目の前には相変わらず森がある。
歩けど、歩けど、その風景は極些細な至極どうでもいい一部が所々変わる以外に変化がない。
視界が広がることもなければ、狭まることもない
しかしながら、野村にそれを語る程の気力があればと言えば、答えはNOだ。
今の彼に許された思考は、つい10分ほど前に聞こえたあの声だ。
急に流されたあの、放送の内容についてだ。
《次に禁止エリアは…いや、もう言う必要は無いか。なぜなら、お前らには、ある所に行って貰うからだ。
ある所ってのは…まあ、行けば分かるか。でも、楽しいところじゃねえぞ?
まあ、そこでも
殺し合いやってるしな…。
さあ、お前ら行ってこい!俺も、また主催としてそっちに行くからな!》
名前を何と言ったか。
野村の頭に儚げに漂う主催の名前を思い浮かべながら、野村は呆然し、苛立っていた。
朦朧とし、上手く働かない思考の中でも、ただそれだけの思念は巡回する。
「……………くそっ!」
おかしい。
可笑しい。
何で?
どうして?
また、また、また。
一から殺し合え。何ていわれなければいけないのか。
野村は唸るが現実問題、それで解決できたのならば誰も苦労しなかっただろう。
「………………くそっ! くそっ!」
何回叫んでも結果は変わらず、ただただ不変的、普遍的な森の光景がうつしだされる。
ただ、森が、そこに、あって、同じ、光景が、ただ、無情に、野村の、瞳に、うつしだされた。
もう何度繰り返されただろう。
一回目の殺し合い。
ハリセンが武器だと言われ、妖刀に襲われたり、慕う人物ができたり、
最後の最後に殺されたり。
二回目の殺し合い。
変な気味悪い紙を渡されて、殺されかけた人物との再会を果たし、その人物が胸の中で死んだり、いつのまにかどっかに跳んだり。
――――そして、三回目。
野村は、ようやく。本当に時間はかかったがようやく冷静な判断や思考分析などを行えるほどにはなった。
だからこそ、当たり前だが名簿と、支給品を確認を始めた。
まずは、名簿。
「………」
一秒。
二秒。
三秒――――――――と。
全名前を見渡した後、言葉はようやく漏れ出して、
「―――――――はぁ?」
そして、思いは感情に、交錯する。
ただ、一点の名前に激昂する大学生の姿が、そこにはあった。
「なんでまた…………こいつ名前があるんだッ!」
その一点。
『守谷彩子』に注がれた迸る感情は確かにあった。
例え最初は宿敵だったとしても、最後には和解して、安らかには程遠かったが静かに息を引き取ったじゃないか。
そこから、その思いから迸り、漏れ出して、溢れ出すナニカは、確かに野村の心中にあった。
「救えない……………のか? こいつを」
真面目で、
「だって…………二回も死んで、もう一回繰り返すなんて…………そんなのって、無いだろ」
正直で、
「…………こいつを救いだす、方法。…………あれしか、無いだろ」
それ故に、
「―――――――――計画に、乗ろう」
融通のきかない学生である。
◆
川田章吾は今、静かに舌打ちを打っていた。
彼も、野村と同じ、三度目のゲームを迎えていた。
最後の最後に、迎えてしまった死。
それ自体は何も問題ない。
自らが進んで死を選んだとも同義なのだから。
「…………どうして俺が生きてるんだろうな」
そちらの方が問題だった。
死とは絶対。
そんな世界で、そんな常識をもって生きていたのだから当たり前の疑問だ。
「七原はまだいいとして、桐山は、死んだはずだよな」
それも、彼らの目の前で、死んだはずだ。殺したはずだ。
それでも、ここにはきっちりと、『桐山和雄』と確かに記されている。
もしかしたら、それは同姓同名かもしれない。
もしかしたら、それは名前が書いてあるだけかもしれない。
でも、川田自身がこうして立っている以上、絶対に桐山がここに立っていないなんて確証はどこにもない。
死人が生き返るはずがない、なんて証拠は、どこにもない。
「…………そうだとしたら、厄介だな。それに………」
川田には、もう一つの疑念がある。
ただ、単純なる、疑問。
「こんなプログラムがあるなんて、俺は知らないぞ」
この多すぎるクラスは無いだろう。
それこそこれは学年単位の数値になっている。
いや、少ない学校だったならば、一つの学校分の数の名がそこに記されている。
そんなの、聞いたことがない。
だから、彼の知っているプログラムからは、外れてしまう。
「チッ、色々不可解だな。今回は。――――まずは七原と合流するのが最優先か、あいつなら乗らないだろう」
こうして、この男も、歩きだす。
そして、出遭った。
今や人を殺すことを目指す野村和也と。
口からは、一筋の煙が上がる。
◆
野村和也は人を殺すべく、支給品を漁る。
ゴソゴソと乱雑に扱われたディパックは既に少々痛んでいた。
そんな事、野村にとってはどうでもよく、同じ調子で弄り続ける。
そんなこんなで出てきたのは――――。
「日本刀ねぇ………。何かの縁かよ」
ずばり思い出すは、守谷と初めて遭遇してきたときの事。
彼女は、妖刀に侵されていた。
人格か、はたまた精神か。
それを野村は知る由もないが、とにかく襲われた。
「………………まぁ、呪われてるってわけでもなさそうだし、遠慮なく使わしてもらおうか」
と。
その時、風が揺れ、何かを予感させる。
そんな曖昧模糊な感覚は、当たっていたようで。
野村の暗闇ではっきり視界には、一つの影がおぼろげに映った。
何を隠そう、それは川田章吾の人影だ
野村は、日本刀を右手にしっかりと持つと、後の支給品は確認もせずに、
さっさとその影を追う。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
また一歩、歩みを進め。
ようやくのことで、辿りついた。
その影に、川田章吾という人間に。
久しぶりに、そんなことは全然なかったのだが、
感覚が叫ぶ懐かしげな疲労に、息が上がったまま、辿りついた。
その格好は不格好で。
その様は、無様で。
その行いは、非行で。
その目的は、未遂で。
それでも、決意は、揺るがなくて。
「………ハァ、ハァ、ハァ」
その野村の過呼吸に、気が付いたのか、それとも元から気が付いていたのか。
川田が振り返る。
「………懐中電灯もつけてないで、何の真似だ」
そう言うが、もはや野村の耳には届いていない。
野村にあるのは、救いたいという気持ち。
救ってやりたいという気持ち。
それが恋と聞かれたら答えはNOと答えるけれど、
それでも救ってやりたい、何て思えるほどに思ってた。
胸の中で死んだという思いで補正か。
それとも何回も死んで可哀相という同情か。
はたまたそれが彼の正義なのか。
分からない。
野村には知る由もない。
でも、
それでも、
救ってやりたい、そう思うのだから仕方がない。
「高校生……いや、中学生か? 駄目だろ、煙草なんか吸っちゃ」
諭すように言うが、言葉に深みを感じない。
ただ、言っただけだ。
「はぁん、成程なぁ」
そんな野村の様子で全てを汲み取ったかのように、
それと同時に、軽蔑を含む視線を浴びせる。
並の、不良もどきは直ぐに退散するだろう威厳がそこにはあった。
―――――が、所詮中学生である。
場数だって、負けていない。
どちらも、こういった場ではベテランなのだ。
「………分かったか。―――――――――なら容赦はできねぇよな」
突然だった。
唐突だった。
野村が、そう言い放った直後には、足は踏みこみだしていた。
今、川田には、何も手に取っていなかった。
この煙草も、偶々主催者から取られなかっただけであり、
川田自身もこの異常な事態に、対応しきれていなかった。
ベテラン故の動揺であった。
動揺から出る波紋は、彼の思考を通常に戻すのを許さない。
だから、支給品なんて確認できていない。
「――――――チッ」
再度舌打ち。
だが、それで攻撃が止めれば、誰も死ぬはずもない。
だから、逃げ出した。
背中を見せて、堂々たる逃亡を図った。
川田は何でもできる、万能人間だ。
運動神経だって、例を漏れない。
――――――が、先ほども言ったが、それは中学生出の範囲の話だ。
彼は大学生。
元々のスペックが違う。
そして、野村は引退したとはいえ、元バスケットボール部で、
落ちたとはいえ、底は計り知れないものがある。
先ほどの疲労だって、つい10分ほど前までにゲームに参加しており、碌に準備運動もせずに走ったからであって。
まともに走ろうと思えば、そこまで疲労は気にならない。
「――――――くっ、………くそっ!」
それに、川田は勘づいた。
このままでは斬られる。
ディパックを漁る時間なんて無い。
漁ってなんかいたら、直ぐに斬られる。
まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい。
「………………」
川田の中で、一つの方法が閃いた。
ただ、それはあまりにも危険で、後を考えれば、ここでするには耐えがたい方法だ。
しかし、それしか方法はない。
だから、一瞬の迷いは、一瞬の迷いで終わり。
その案を行使する。
「―――――――――オラァッ!」
彼には、あまりにも似合わない掛け声を出して、したことは。
「……………ッッ!!」
――――肩から提げていたディパックを野村の顔面に叩きつけることだ。
もう、その距離は、二メートルもなかった。
だからこそ、威力が出た。効力は出た。
ディパックが、野村の視界を覆う。
目の前には、影のできたディパック。
それが、あった。
そして、顔にぶつかった。
一、二秒後。そのバックを振り払い相も変わらず闇に埋もれた視界には、川田の姿は無かった。
ただ、ただ、複雑に入り乱れた木々があった。
◆
川田は、野村が追ってこないことこれでもかと確認した後、ようやく休みを取った。
荷物がないこともあり、その身はとても軽く、あのように複雑に入り乱れた木々があったからこそ、
彼はここまで逃げのびれたのだろう。
「……………先が思いやられるな」
そして、ポケットから、煙草を取り出し、マッチで火をつける。
そこから、ふき出てくる煙は意に介さず、ただ、一つの疑問にもう一度集中していた。
「………大人がいるってことは、俺の知ってるプログラムでは、無いな」
改めて、結論を出した。
彼の知っているプログラムは、対象は中学三年生限定だ。
なのに、こうして大人、大学生が混じっているということは、そういうことなのだろう。
「…………さて、それが意味するのはなんだろうな」
それは、まだ誰にも分からない。
ただ、ただ、時間はこうしている間にも、刻一刻と削られている。
【一日目/深夜/B-7 森】
【川田章吾@バトルロワイアル】
[状態]疲労(中)
[装備]
[道具]WILD7@バトルロワイアル、マッチ(残り18本)
[思考]
基本:ゲームを潰す
1:七原と合流
2:桐山、先ほどの男(野村和也)に警戒
3:………これはいったい
◆
彼は、甘かった。
「…………」
彼は、迷ってしまった。
「…………」
人を殺すことに。
別に二メートルぐらいの距離ぐらい、どうとでもできたはずだ。
刀だって、それなりに尺はあるのだから。
ディパックで攻撃された時。
あれを回避、もしくはキャッチするのは、恐らくできただろう。
何しろ彼は元をたどればバスケット球児だ。
それの応用に過ぎないあのような行為、容易かったはずだった。
「…………」
現実は、辛い。ツライ。
現実は、辛い。カライ。
「…………」
目的と動作が、組み合わない。
そんなな現実に、そんな事実に。
「―――――――――俺は」
救いたい。
全員助けるなんて綺麗事だ。
知っている。
知っている。
だからこそ、彼は人を殺めるしか方法は無かった。
ナノニ、ドウシテ。
「クソオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!」
ショウネンハ、ウケイレガタイ、ゲンジツニ、タダタダ、ホウコウシタ。
【一日目/深夜/B-7 森】
【野村和也@他の書き手様のオリキャラ】
[状態]疲労(小)、精神疲労(中)
[装備]菊一文字RX-7@銀魂
[道具]KS2、RS(3~5)
[思考]
基本:守谷彩子を救いたい
1:俺は…………
2:人を殺す
最終更新:2011年09月22日 00:23