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冷めた人

「やあケビンくん、楽しい楽しい殺し合いの始まりだよ」
『お兄さん、ぼくワクワクしてきたよ』
「そうだね、ぼくも同じだよ」
『それに勝者には巨万の富!』
「まさにぼくに相応しい景品だね! ヒーヒヒヒヒ!」
腹話術師にして金の亡者――二階堂は、電波塔周辺を徘徊していた。無論、殺すべき標的――それも弱そうな子供を狙って。
卑劣、卑怯……そんな言葉が似合う最低な人間であった。しかもそれを自覚しているのだから、いよいよ始末に追えない。
『しかしラッキーだねお兄さん』
「そうだねケビンくん。何たってこんな便利な武器が手に入ったんだから」
彼が自身の右手に装着しているものは空気砲。未来の秘密道具の一つである。
「もう一つの方はは使い道が無さそうだけど、とりあえずこれさえあれば餓鬼一人くらいは捻り潰せるね」
『そして支給品を奪い取り徐々に武力を付けてゆく。完璧だねお兄さん!』
ヒーヒヒヒヒと高笑いを飛ばし、彼はまた周囲に注意を向ける。
電波塔は島の中央部よりやや北、山林が連なる高地に位置している。見晴らしも良く、崖から下界を見下ろすと、島の全景から遥か彼方の水平線まで一望できる。
「ん、あれは……ヒャハハ、見つけたぜケビンくん、ぼくたちの獲物!」
嬉しさのあまり口調が崩れる二階堂。
彼から見て丁度真下、崖同士の隔たりの境目に、腹を突き出して地に寝そべる男の子がいた。
『あれで隠れてるつもりなのかな、お兄さん?』
「ヒヒ、だとしたら相当間抜けだよね!」
二階堂は下卑た目つきで、見つ出した己の獲物に、空気砲の照準を合わせる。慌てることなく、ゆっくり、慎重に――。
そして、彼は躊躇なく叫んだ。
「――ドッカァァン!!!!」



円谷光彦は正直なところ慢心していた。
葛城ミサトが死んだ時こそ年相応に泣いてしまったものの、少年探偵団として数々の殺人事件に触れてきた中で培った、子供ならざる神経の図太さは今だ健在である。
故に立ち直りは早い。すぐさま与えられた支給品、参加者、ルール等の確認を済ませると、潜伏場所の探索を彼は始めた。
その結果として見つけた、電波塔近くの小さな岩石のクレパス。
崖っぷちの狭い足場を頼りに辿り着いたそこは、まさに子供一人が身を潜めるに丁度良い広さであった。
ようやっと腰を落ち着けることが出来た光彦はふうと一息つくと、デイパックから2つのカードを取り出す。
「THE TIME」
「THE ILLUSION」
光彦は溜め息をつきながら、カードを指先でくるくると回しながら弄ぶ。
説明書によれば、どちらも封印の杖なくしては宝の持ち腐れとのこと。どちらにせよ玩具か――そう光彦は落胆しながらも、今後の事を思案する。
コナンくんたちは無事でいるでしょうか……しかし今回は僕たちが誘拐される側だなんて。少しわくわくしてきましたね。
とりあえずここでコナンくんたちが通りかかるのを待つとしますか。脱出方法を考えるのはそれからでも遅くないでしょうし。
光彦は欠伸を漏らしながら地べたに横になる。
――彼が「普通」の子供であればまともに行動したであろう。少なくとも無防備に寝転がるという無茶な真似など、恐ろしくてけして出来ない。
事件に慣れすぎた故の過信――数瞬後、彼は自分がどれほど愚かだったのか、身をもって知ることとなる。
「ドッカァァン!!!!」
突如響き渡る男の奇声。
光彦がそれに反応するより先に訪れる、全身を引き裂くような痛み――同時に腹の内から逆流する胃酸が、彼の口から勢いよく吐き出される。
「おがあああっ!!!?」
声にならない叫びと共にのた打ち回る光彦。辛うじて意識は保っているが、それもかなり朦朧としている。
いいいいたいぃぃ!?
なんで、どうしてえぇっ!!!?
「ちっ、致命傷には至らねえか。待っててねーぼくぅ! すぐに楽にしてあげるからねーっ! ヒーヒヒヒヒ!」
苦しみに喘ぐ彼を追い詰めるかのように轟く、不気味な男の哄笑。
(な、何が……どうなって……に、逃げなくちゃ……殺され……!)
纏まらない思考ながら、何とか逃走することに思い至った光彦は、まだ痛みの治まらない腹を抱え、必死で地面を這いずりクレパスの奥へと避難する。
(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!)


「ヘイへ~イ、逃げたって無駄だよぼくぅ。ほぉら、行き止まりぃ!」
二階堂は瀕死の獲物を追い詰めると、にやりと禍々しい笑みを漏らしながら言った。
――致命傷とまではいかないが、既にこの餓鬼はまともに動ける状況にはない。
このまま人思いに殺してやるのもいいが、ケビンくんでは物足りなかった、俺のストレス解消役を買ってもらうのも悪くはないな……。
より一層邪悪に歪む二階堂の顔は、まさに鬼畜そのものであった。
「た、助けて……」
涙ながらに命乞いする少年。しかし二階堂は品定めするような厭らしい目つきで彼を見下すばかりである。
「ヘイへ~イ、助けようかなぁ……殺しちゃおうかなぁ……どうするケビンくん?」
『コ・ロ・セ! コ・ロ・セ! たっぷりいたぶってコ・ロ・セ!』
「だって……残念だったねぇぼくぅ。イヒヒヒヒヒヒ!」
――たまらない。見ろよ、このひどく怯えた表情……俺の自虐的嗜好を逆撫でするかのようなこの仕草……ヒヒヒヒ、ヘイへ~イ、ヒヒヒヒ!
二階堂の欲望はこの時頂点に達する。本来理性を司るべき二階堂の頭脳はその役目を放棄し、ただただ背徳的な快楽を求めるジャンキーと化していた。
構える空気砲――その狙いは少年の右足。
高ぶる鼓動を押さえつけながら、彼はゆっくりと引き金となる言葉を口にする。
「ドッ



――四方に飛び散るグロテスクな肉片。
生々しい臭いを発しながら、豪雨のごとく降り注ぐ真っ赤な血液。
光彦は、スローモーションのように流れる「死」の一部始終を、息を呑みながらじっと見守っていた。
やがて力無く頽れる男の肢体。
その後ろには、妖しく黒光りする拳銃を構えながら静かに立ち尽くす、一人の少年がいた。
瞳の表情を完全に隠すゴーグル。
そして見たこともない異国風のコートを身に纏い、頭上にはコートと同じ緑色の帽子を目深に被っている。
「………………」
少年は黙って男の持っていたデイパックを漁り出す。
しかし、めぼしい品は見つからなかったのか、何も抜き取らず、そのまま男の死体の上にデイパックを放り投げた。
「……あ、あの」
ここで漸く光彦は我に帰る。命からがら生き延びた安堵感から、残酷な死を目の当たりにしても比較的平然としていられた。
光彦はその少年に助けてくれたお礼を言おうと、しどろもどろに口を開く。
「た、助けていただいて、どうもあり


……デイパックはない、か。
さっき落ちてたあれがこの子のだったのかな。でもこんなカード、いったい何の役に立つんだろ? 正直いらないけど、ま、持っていて損はないかな。
ぼくは支給品のパースエイダーをホルスターに納めて、一先ずこのクレパスから出ることにした。
……うん、気持ちいい。
薄汚い血の香りを払拭し、新鮮な外の空気を目一杯堪能する。
しかし、東の空が暁に染まってゆくのを静かに眺めていると、少しだけアンニュイな気分に陥った。
……やっぱり子供を殺すのは後味が悪いなぁ。でもまぁ――。
「所詮、他人だし」
変に情が移っても困るし、何より生き抜くためにはこうするしかない。
使い慣れたパースエイダー――森の人とカノンを見つけ出して、あとは適当に暗殺して、このゲームはおしまい。
さっさと解放してもらって、また旅を続けよう。あれ、そういえば、エルメスはどうなったんだろ?
……ま、いっか。大丈夫だよね、きっと。
――キノは一人で勝手に納得すると、最初に与えられた支給品の一つである双眼鏡をデイパックから取り出し、崖の先から下界をレンズ越しに覗きこんだ。
「……あ、煙だ」
誰かが薪でもしてるのかな?
それにしてもやけに立ち上ってる煙が多いような……あ、なんか爆発した……。
「これは……戦闘だね」
だとしたら好都合……漁夫の利を得るなら今しかないよね。
ちょっと卑怯くさいけど、許してね、参加者の皆さん……。


【北の電波塔/1日目/06:40】

【二階堂@ギャグマンガ日和 死亡】
【円谷光彦@名探偵コナン 死亡】

【キノ@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38
[道具]:THE TIME/THE ILLUSION/双眼鏡/空気砲
[思考]
第一行動方針:適当に暗殺
第二行動方針:カノン、森の人の捜索
基本行動方針:生き延びる


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GAME START 二階堂 GEME OVER
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最終更新:2008年09月24日 15:28
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