世の中は実に奇妙な事象に満ち溢れていることを、幸か不幸か俺は知っている。
無口な宇宙人、挙動不審な未来人、饒舌な超能力者――多種多様な奴らと共に、それはもう様々な超常現象をやたら滅多目の当たりにしてきた。
だがこれはなんだ。
バトルロワイヤル。
殺し合い。
信じられないねまったく。
しかし人が一人殺されたとあっちゃ俺もビビらざるを得ない。
何だかんだ言ってハルヒの暴走は、度を過ぎず安全な領域で今まで止まっていた。
自身に直接の被害は齎さない、まあそれは逆に言えば間接的な所で被害を被っている奴がいるということだが、兎にも角にもこんなに直接的な形でハルヒの願望が叶えられるとは思いもよらなかった。
いや、そもそもこの殺し合いは本当にハルヒが関与しているのか?
確かに朝倉涼子の一件、閉鎖空間の一件にもあるように、命の危機にはいくらか晒されている。
だとしてもだ。ハルヒがこんな事を望むのか? 殺し合いを? そんなことはない。そんな奴ではないと俺は信じている。
ともあれ、臆測は蜃気楼揺らめく砂漠のように不毛である。
今はSOS団メンバーがこの馬鹿げた殺し合いに参加してるのかを確かめるのが先決だろう。
そして一刻も早くあいつらと合流し、アノンとかいう中二病臭いお子ちゃまにお灸を据えねばなるまい。
さて、不幸なことにハルヒの姿は既に確認済みである。今にも泣きそうなあの表情を思い出すと、殊更アノンに対する怒りが沸いてくるというものだ。
となると残りのメンバーだ。俺は本当に物が入っているのかと疑わしくなるほど軽いバッグを逆さまにひっくり返す。
いや、本当に驚いた。
だってそうだろう、明らかにバッグの大きさを超越した質量の支給品が、俺の目の前に滝のごとく流れ落ちてきたんだから。
「…………」
俺は目頭を指で押さえつけながら、力無くうなだれるしかなかった。
悔しいが、本当に非現実的な世界に迷い込んでしまったのだということを再確認させられてしまったようだ。
気を取り直して、俺は数ある支給品の中で一際目立つ、悪趣味な血色の冊子を手に取った。タイトルは「参加者名簿」と、いたって捻りのないシンプルさである。
表紙を開くと、ずらりと並んだ参加者たちの名前が目に飛び込んでくる。その数およそ九十名ほどであろうか。
どうやら世界各国から手広く集められたのだろう。カタカナ名や英名、独名、はたまたどう考えてもペンネームとしか思えない名前の奴までいる。
そう、この俺を含め。
何故だ、何故本名を載せずわざわざ渾名で表記する。
納得行かないが閑話休題、そんなことよりもっと重要な点がある。
信じられないことに、俺の後には次いで
涼宮ハルヒ、長門有希、
朝比奈みくると続き、何故か色々あって消滅したはずの朝倉涼子の名前まであったのだ。
もう訳がわからない。どこから突っ込めばいいんだ? 長門、お前なら何か知ってるのか。
「はぁ、幸先が思いやられるな」
独り言は趣味ではないが、それでもぼやかずにはいられない。
それはさておき、身動きが取れない。
周辺を探索しようにもここは森の中。
地図を見ると森に当たるエリアは意外にも多く、更に俺の視認可能な範囲には、これといった特徴のある建物は見当たらない。
現在地の特定は困難だな、と俺が何気なく空に目を配ると。
「こにゃにゃちわ~!」
変な生き物がいた。
「いやぁ、えらい目におうてもうたな~、今日日の学生はん」
「は、はぁ」
ライオンのぬいぐるみに小さな翼を付けたかのような姿の珍奇なる生命体は、かくも馴れ馴れしく俺に話しかけてきた。
しかも日本語。
おまけに関西弁。
プラスやけに流暢。
「あの」
「ん、なんや若人?」
「あなたはいったい何なんですか?」
ああ、実に失礼な質問だと思う。
だが実際のところ、これ以上に俺の疑問をすっきり解消できる適切な言葉の羅列はないはずだ。
「わいか? わいは誇り高きクロウカードの守護者! 人呼んで封印の魔物――ケルベロスや!」
「……クロウ……なんだって?」
「あんさんも持っとるやろ~、そこに落ちとるそれや、ほれ、それそれ!」
指と思しき部分が示した先の、地面に散らばる支給品の中に、手の平大はあるであろうカードを二枚見つける。
「……説明書が貼り付いてるな……ざ、しーるど……ざ、ぐろう……盾を張り、光を降らし、封印の杖があれば発動できる?」
意味が分からん。
そもそも封印の杖とは何だ。
「偉大な魔術師、クロウ・リードが生み出した魔法のカード……それがクロウカードや。ほれ、ここにも一枚あるで」
そう言うと、そいつは背中に背負った小さなバッグから、自身の身の丈ほどもあるクロウカードを重そうに取り出した。
いや、もう何も言うまい。
「はぁ……で、そのクロウカードとやらを守るのがあなたの仕事というわけですか?」
「そや。せやけど……あのアノンとかいうスットコドッコイ! よりによってその大切なクロウカードを殺し合いの玩具に使うやと? アホか、どないな了見や!」
黄色いぬいぐるみ、もといケルベロスは憤慨するように空中で地団駄を踏む。
器用だな。俺は素直に感心する。
「しっかし、ご丁寧にクロウカードの意志まで封じ込めるとは……並み大抵の魔術師なんかやないで、あのがきんちょ……いったいナニモンなんや!?」
「……あー、ということは、つまりあなたも被害者……ということなんですか?」
「ったりまえや! せっかく桜が苦労して集めたカードを奪われたんやで!?」
だから俺の知らない固有名詞をバーゲンセールのようにポンポン出さないでくれ。
「おまけに桜の奴……まだ小学生やっちゅうに、あないな怖い目におうてもうて……かわいそうや……」
「な……小学生って、そんな子供までこの殺し合いに参加してるんですか!?」
「ああ……しかもエラい殺気立った変人までおったわ。もしもそないな外道と桜が鉢合わせになったらと思うと……」
なんてことだ。
これは悠長に構えてる暇なんてないぞ。
俺たち高校生ならまだしも、身を守る術を持たない子供をほったらかしにはできないだろう。
更にこんな未知の生命体まで殺し合いに参加してる始末だ。どんな化け物が徘徊してるかわかったものじゃない。
「い、今すぐその子、探しに行きましょう! 早く助け出さないと!」
「……お、おい、あんさんええんか? 別に無理せんでも……」
「ここまで首を突っ込んでおいて、今更引き返せませんよ。それに、そうして欲しいから俺に話しかけてきたんでしょう?」
「バレとったか……」
「わからいでか。兎に角、今は組になって、手当たり次第に周辺一帯を探索するべきでしょうね」
「なんやて? 別々に行動したほうええんちゃうか?」
「それじゃ危険です! 仮にあなたが敵に襲われたとき、ぜったいに殺されない自信はありますか?」
「ある! ……と言いたいところやけど、支給品もこんなんやしな~」
がっかりした様子で肩をすくめたケルベロスは、バッグの中からおもむろに小さな紙切れを取り出し俺に差し出してきた。
地獄の片道切符。そう書いてある。
何これ、支給品?
「大はずれじゃないですか」
「しゃあないやろ、引いちまったもんは。それよりあんさん、何かもう一つ支給品貰うとるみたいやけど?」
ケルベロスはまたつんつんと地面を指差す。
はて、カード以外に何かあっただろうか?
半信半疑で注目してみると、確かにあった。
市販の薬のようなパッケージに「カタストロフA」と銘打たれた、いかにも胡散臭いアイテムが。
「えーと……一定時間だけ超人的な力を得られる薬。副作用として効果後、著しく身体、精神に疲労を伴う、か」
当たりと称するには些か危険過ぎる。
まあ、もしもの時の保険みたいなものにしとくか。
「ポケットに入れといたらどや?」
「わかりました……出来れば使う機会が来なければいいんですけどね。
ところで、早速ですけど周辺に何か特徴的なものはないか見てきてくれませんか?」
「ほう、どないするつもりや?」
「とりあえず何か一つでも目印になるような建物や土地が見つかれば、現在地の特定が可能です。これから探索するときに楽になるでしょう?」
「はぁ~、なかなか頭の切れる学生はんやな~! そんなら任しとき、いっちょひとっ飛びしてくるわ!」
「何かありましたかーっ!」
俺は天高く舞い上がったマスコットに、気恥ずかしくなるほどの大声で訊ねる。すると彼は「あった、あったでーっ!」とこれまた大声をもって返事をした。
「あっちのほうに白い建物を発見! ありゃあ多分病院やな! あとなんや知らんけど煙が幾つか昇ってるでーっ!」
病院か。となると俺たちがいる場所は、地図でいうと島の中心部からやや北西に位置する森というわけか。
しかし、煙だと?
何か嫌な予感がする。まさか既に参加者間で戦闘が始まっているのか?
「ケルベロスさん、降りてきてください! 病院へ急ぎましょう!」
「おう、了解や!」
俺は先程散らかした支給品を大急ぎでバッグに詰め込み、早々に森を駆け抜けてゆく。そしてケルベロスはそんな俺の後を、ふよふよと優雅に飛行して付いてくる。
く、忌々しい、羨ましい。
まあ、そんな些細な愚痴は心の引き出しにそっと閉まって、気を引き締めるとしよう。
どうやら、俺は想像以上に厄介な事件に巻き込まれているようだからな。
それはそうと。
なんで俺はこんな奇怪な生物と難なく会話出来てるんだ?
【北西の森/1日目/06:42】
【
キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:デイパック/カタストロフA@GS美神
[道具]:THE SHIELD/THE GLOW
[思考]
第一
行動方針:病院に向かう
第二行動方針:桜の救出
基本行動方針:SOS団メンバーと合流する
※長門に任せれば何とかなると考えてる。
【ケルベロス@カードキャプターさくら】
[状態]:健康
[装備]:小型デイパック
[道具]:THE ERASE/地獄の片道切符@墓場鬼太郎
[思考]
第一行動方針:病院に向かう
第二行動方針:桜の救出
基本行動方針:クロウカード奪還
※桜は
オープニングで発見。参加者名簿は見ていない。よって大道寺知世の参加は認知せず。
最終更新:2008年09月24日 15:29