一人の益荒男があった。
その体は神の適性さえ併せ持ち、他者と比べて圧倒的な怪物。
彼は時空の彼方、とある戦乱に招かれる。
白い少女を主に認め、少女を守るために戦う。
最強の英霊として、少女に万能の願望器を与える為に、吼える。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
名家アインツベルンのホムンクルス―――『聖杯の器』。
彼女が望めば誰でも殺す。
彼女が望めば何でも壊す。
彼女が望めば幾らでも狂う。
彼女が望めば幾らでも死ぬ。
誇りなんてモノは必要ない。
『バーサーカー』は操り人形であることを受け入れた。
狂化しながらも白い少女を守ることだけは絶対に忘れずに。
はてさて。
『バーサーカー』ことヘラクレスは、主を放って宴に招かれる。
それが彼の逆鱗に触れたのはもはや言うまでもないだろう。
彼の僅かな思考回路には既に一つしか無い。
全ての参加者を殺害し、『白い少女』の元に帰還する。
手には剣。
本来の機能などとうに失ったその剣は、今も尚ヘラクレスの手に。
『射殺す百頭(ナインライブズ)』――――を、降り下ろす。
「■■■■■■■■――――――――――!!」
雄叫び。始まりの、静かな合図。
■
驚きはそこまで大きくなかった。
◆6LQfwU/9.Mは、いつかこうなるとどこか悟っていた。
バトルロワイアル―――そんな書物に、出会ったその日から。
だから不思議と冷静に。
彼は、
殺し合いの考察を開始した。
――――まずは一つ。
自分と同じく、恐らくは『イレギュラー』な存在、書き手。
同じ書き手の中には、自分が主催者となるバトルロワイアルを書く者たちも何人かいる。しかし、彼はあくまで『外側』。――――いや、少し語弊がある。
彼自身が自覚しているかどうかは別として、少なくともこの『◆6LQfwU/9.M』は、バトルロワイアルの外側の存在だ。
いわゆる平行世界(パラレルワールド)理論。
◆VxAX.uhVsMがバトルロワイアルを開催しなかった世界。
創作としてバトルロワイアルを捉えていた『彼』。
その彼は、書き手たちを素直に信頼していいものか迷っている。
書き手たちとは親しい仲だが、それは絶対の信頼とまではいかない。
人間とは揺らぐ生き物だ。
ほんの些細なきっかけで崩壊するあまりにも脆い存在、それが人間だ。
それはきっと◆6LQfwU/9.Mも例外ではないだろう。
だから、信用できない。
そんな得体の知れない不安に付き纏われていては心痛の種だ。
状況が状況なだけに、出来るだけ不安は取り払っておきたい。
それがたとえ禁断の罪に触れる行為であっても。
◆6LQfwU/9.Mは殺し合いを積極的に打倒する気など毛頭ない。
いわば保身、生存優先といったところか。
願望など特に思い当たらないし、だが死にたいとは思わない。
矛盾している。
だからとりあえず、我が身を守ることにした。
熱血な奴らが勝ちそうならそちらに着く。
優勝できそうなら笑って手を血に染める。
歪みきった、どこまでも宙ぶらりんなそのスタンス。
「俺は気に入ってるけどな」
自嘲などなく、どこか挑発的にも見える笑いを漏らす。
そして決定。書き手に限らず、誰にも信頼は置かない。
全てを疑い、何もかも利用して生還だけを求める。
と、第一の考察に結論を出す。
さて、第二の考察。
これは彼自身の在り方とは違うベクトルで彼のバトルロワイアルに大きな影響を与える事象についての考察となるだろう。
幾つもの『バトルロワイアル』の中でも希少なとあるルール。
ルールと言うよりはハンディキャップかもしれないが。
能力。
書き手たちにのみ特別に付加されるシステムになっているらしい。
これだけなら彼は喜びもしただろう。『これだけなら』。
問題は、その能力名がどう見ても色物にしか見えないところだ。
どうも付加される能力はランダムに決めているらしいのだ。
クジかルーレットか、そんなものはどうでもいい。
その結果、強力な能力から貧弱な能力まで様々な能力が付加されるという。
解説曰く、◆6LQfwU/9.Mに与えられたのはとんでもない代物。
最強にも最悪にもはたまた最凶にもなるような、間違いなく最大の当たりらしい。
なのに、その名前は何だろうか。
能力名・『妄想彼女(フェイクガールフレンド)』
もし彼が出会いのない男だったなら、嫌がらせはやめろと怒鳴ったろう。
しかし冷静だった彼は、その使い道に頭を抱えた。
妄想彼女。
妄想した彼女を完璧に生み出せる――――なんて便利?なものではない。
三種類の性格の少女たちを具現化させる能力。
『支配願望(ヤンデレーション)』
『頭脳明晰(カリキュレーター)』
『二面性格(ダブルパラメータ)』
使用に伴うリスク。
『彼女』は各個が意思を持ち各個が実体。参加者には含まれない。
一応、召喚者には従うようだが。
そこで説明は終わっている。
不明点が多すぎて、試す気にも全くなれなかった。
この能力に関してのみ、考察がまとまらない。
それもそうだ、仮説を幾ら立てようが実説を見ていないのだから。
発動すれば消すことは出来ない。これは確実だろう。
そして最悪なデメリットでもある。
各個が実体を持つなら、謀反による危険も考慮しなければならない。
「………あー、仕方ねえか……とりあえず保留だな」
そう呟いたまさに刹那。
無骨な銃口が、◆6LQfwU/9.Mの背中に押し当てられていた。
慎重な立ち回りを求めた男は、唐突に、必然の王手を掛けられる。
背後に立つのは、白い髪に紅い瞳、性別不祥の怪物。
学園都市230万人の頂点、第一位の『超能力者』。
―――――――『一方通行(アクセラレータ)』が、君臨した。
□
吸血忍者・セラフィム。
一般人に話しても笑い飛ばされるのがオチだろう。
日本の『忍者』と西洋の『吸血鬼』、二つは余りに違いすぎる。
しかし吸血忍者は実在する。
冷酷な一面も持ち併せたまさに精鋭揃いの、闇に生きる者たち。
一度は掟に背くという禁忌を犯した彼女―――セラフィムは、生涯最大と言っても過言ではないほどの危機を迎えていた。今まで数々の敵と戦ったが、それら全てを優に越すほどの相手。まさに、『怪物』という言葉がぴったりだろう。
「………ッ、出鱈目、なっ!!」
「■■■■■■■■■―――――――!!!」
あまりに人間離れしたその巨駆。
辛うじて人の形こそ保っているが、彼を人間と言える人間は居ないだろう。厳密に言えば、彼は人間ではない。大英雄ヘラクレス、バーサーカーのサーヴァントだ。
相手に不足はない、などと余裕を叩く時間さえなかった。
彼女に支給された刀、『六爪』。
六本の刀。本来の使い手である独眼竜・伊達政宗は六本同時に振るって戦うのだが、そこまで奇抜な真似は如何にセラフィムといえど不可能だった。
内一本を片手に、その刀を振るっていたのだが。
――――戦闘開始から数分。
破壊された刀の数、二本。
戦況は誰の目から見ても明らかなほどに劣勢だった。
武器の質が違いすぎるのも確かにあるだろう――――機能を失ったとはいえ『射殺す百頭』は宝具。六爪とでは差が大きすぎる。
それでも、相手に俊敏性は無いと見て。
彼女の十八番(おはこ)『秘剣燕返し』。超高速の剣戟。
だが、その点彼女はまだまだ『バーサーカー』を侮っていた。
数いる英霊の中でも最強と評される彼のステータスは全てがAランク。
即ち、『速度』でも彼女はようやく追いつけるのだ。
「■■■■■――――!!」
「………秘剣っ!!燕返し―――――――――――!!」
ガキィィイイインン、と激しい音が鳴り響く。
バーサーカーの怪力を越えるには彼女も秘剣で対応しなければならなかった。
六爪の三本目が無慈悲に叩き折られる。
しかしこの間に、一気に懐に飛び込む好機が訪れる。
「(―――――いける!!)」
イメージは完了した。
バーサーカーが懐の自分に対応するより先に、秘剣を叩き込む。
幾らあれが未だ底の見えない未知数の敵だとしても、殺すことは出来る筈だ。首を刈りでもすれば永遠の眠りに落とせるだろう。
僅か一瞬。
それだけの時間で思考を完了し、実行に移す。
バーサーカーの『射殺す百頭』が地に完全に降り下ろされた時。
セラフィムは『予定通り』、巨漢の懐に進入してみせる。
デイバックの六爪の内一本を抜き出し、普段より幾分か雑な構えではあったが――――――『秘剣燕返し』を、放った。
バーサーカーの胸元から首にかけて、一筋の刀傷が走る。
ここまでの戦いで、やっと入った渾身の一撃だった。
――――――――――と、思っていたのは彼女だけだった。
バーサーカーは直立不動。しかしその双貌には未だ殺意がたぎっている。
彼の耐久はAランクだ。それでも、彼女の秘剣をまともに受ければ死亡しただろう。――――――――あくまで彼女が『全開』であったならの話、であるが。
攻撃こそ致命的なものは喰らっていないが、疲労は蓄積している。
相手は人ならざる、最強と唱われる英霊だ。
簡単に避けていたつもりでも、蓄積する疲労は馬鹿にならない。
それが彼女の運の尽きだったのだろう。
必殺の秘剣は威力が落ちるばかりだ。
もう一撃叩き込めば決め手になり得るだろうが、それは叶わない。
体力の限界だった。もう出来るのは逃走くらいしかない。
セラフィムは決断する。
プライドを投げ捨てて恥も外聞もなく逃げ回ってでも、生ききることを。
彼女にはとある目的がある。
彼女の使命のようなものでさえある、とある目的。
「……死ぬわけには、いかない」
吸血忍者・セラフィム。
一世一代、命を懸けた逃走劇が幕を開ける。
◇◇◇
戯言だよね。
………なんて、傍観者を気取ってもいられないみたいだけど。
しかし、参った。
今まで《悲惨さ》ならもっと上の物事に立ち会ってきたけど、ここまでぶっ飛んでるのは二度目だ。何も終わってなんかいない、あんなのは
プロローグにもなりきれない些末な事件だって、《これ》に比べれば心の底からそう思える。
《最悪》の狐。
彼が発端となった一連の騒動も、生きた心地がしないところもあった。
だけど――――――《これ》はそんなものじゃない。
最初から殺し合うことのみを前提にしているんだから。
生きた心地がしたらそれは主催側――――ヱリカちゃんの計画にとってはバグみたいなものなんだろう。
当然、今だって生きた心地が全くしない。
はっきり言って滅茶苦茶怖い。
………まあ、戯言だけど。
さて、ぼくが今までしてきたことを挙げてみようか。
何もしてないんだけどね。
こればっかりは罵倒される覚えはない。
少し離れた位置から雄叫びのような声が何度か響いていた。
人間の声とは思えないけど、あんな鳴き声の動物なんて考えられない。多分あれは、元々人間だったモノ。ぼくが出会ってきた色々な人たちにも。そんな人たちがたくさん居たから直感的に分かった。
《人類最強の請負人》。
《橙なる種》。
あとは《人喰い》《
人間失格》、《危険信号》。
彼らも相当に人間をやめたような馬鹿げた連中だったから。
幾ら記憶力の悪さに定評があるこのぼくだからって、何度も何度もそんなのと絡んでたら学習する。というかあれには話が通じなそう。
理性がぶっ飛んだやつってのは怖いよ。
人間性がぶっ飛んでるぼくが言えたことじゃないけどさ。
それで、ぼくは
スタート地点から動いていない。今ここ。
ぼくは人を殺せない。殺せる。殺したくない。殺すことが許せない。
心の中の自分多数決で殺し合いには乗らないことにする。
たとえ百対零でも、ぼくは殺し合う気はなかったろうけど。
ぼくはデイバックの中の物を地面にぶちまけた。
水や包帯、参加者全員の名が載った名簿。
無骨な銃身の銃。
使ったことなんて一回もないショットガンだった。
名前は《イサカM37》だそうだ。
もう一つは――――――わーお。
こりゃあ凄ぇ、純金のインゴットだ。
試しに持ち上げてみると、かなりずっしりとした重みがある。
帰ってから売れば二百万円くらいになるだろう、このサイズなら。
ラッキーラッキー。ぼくの支給品はどうやら当たりの部類らしい。
と言っても、出来れば―――頭巾ちゃんには悪いけど《無銘》か、お馴染みの《錠開け専用鉄具》あたりが配られたら最高だったんだけどね。
贅沢はあまり言わないでおこうかな、バチが当たったら困るし。
名簿。実は支給品よりも気になってたのはこっちだったりする。
ぼくにとって見知った名前があることを願ったり願わなかったり。
150近い数の名前と写真を眺めていく。
おっと、哀川さん。やっぱりあなたは呼ばれていましたか。
…………玖渚。
お前が呼ばれてることも、ぼくは心のどこかで確信してたよ。
安心しろ。お前はぼくが必ず守る。
零崎。
ぼくの鏡写しの殺人鬼。
お前は心配するまでもない、とっととくたばれこの野郎。
………というのはちょっとだけ戯言だ。
あいつは殺し合いはしないだろう。
ぼくの鏡写し。なら、あいつに叶えたい願望なんてあるはずがない。
崩子ちゃん。
君はもう戦えないだろう。ぼくが、君を守る。
うん、ここまでは冷静に語ってみた。
問題はこれからだ。
「―――――どういうことだよ、これ」
《人喰い(マンイーター)》匂宮出夢。
《危険信号(シグナルイエロー)》紫木一姫。
《闇突》西条玉藻。
――――――いやいや。おかしいだろ、これは?
この三人はおかしい。
在り方やその戦闘能力にも言えるけど、もっと根本的に。
彼らは、《死んでいる》。
出夢くんも姫ちゃんも玉藻ちゃんも、この目で死体を確認した。
玉藻ちゃんは斬られた首しか見てないけれど、出夢くんと姫ちゃんは確かに死体を確認した。すり替えなんて通用しないほど明確に、彼女たちは死んでいたはずだ。
それはおかしい。
死人は生き返らない。そんなものは赤子でも分かる常識だ。
《死なない》少女なら見た。尤も結局死んでしまったけど。
《死なない》じゃない。出夢くんたちは《死んでいた》。
死者を生き返らせる。
そんな芸当がもし可能なら。―――――もし可能なら。
ぼくが狂わせてしまった人たちを、――――――?
「―――――戯言だな」
らしくもない。
ぼくが殺し合いに乗るなんてことは、どう考えても有り得ない。
――――たとえ必要でも、玖渚友をぼくは殺せない。
ぼくらしくないことはやめて、とりあえず保留にしておこう。
出夢くんも姫ちゃんも、殺し合いにはもう乗らないだろうし。
玉藻ちゃんはまあ、危ないか。
結論。
玖渚を一早く見つけて守り、殺し合いから抜け出す。
別にヱリカちゃんたちと全面戦争するなんて無謀な気は起こさない。
何しろこちらはあの子に命を握られているんだから、徹底抗戦なんて現実的ではない。
「………じゃあ、友を探すとするかな」
考察終わり。あー、頭使った。
探すとはいえアテも無い。適当に会場を歩き回るしかないだろう。
願わくば、過程で哀川さんとかに会えることをちょっと祈ってみる。
―――――だって、ねぇ?
雄叫びと、木々を薙ぎ倒すような轟音。
どうにもぼくは近々あれに遭遇しそうな気がするんだよね。
ぼくも自分の不幸誘引体質くらいは自覚してるし、今までのパターンに当てはめるとー―――――ああいうデタラメな奴とは絡むことになる。
さて、どうしようかな。
災厄覚悟で動くか?
もしくはこの場で、嵐が通り過ぎるまで黙っているか。
言うまでもなく後者だ。
あくまで勘でしかないけど、あれは話が通じそうに思えない。
そういうのは、管轄外だ。
今まで真の意味で理性がない相手には会ったことがないだけど分かる。ほぼ間違いなくそういうのとぼくの相性は最悪だ。戯言遣いの存在意義を、レゾンテートルをごく普通に破壊してくる。
戯言を幾ら並べても、聞く耳が無ければただの雑音(ノイズ)。
《害悪細菌》や、《雑音》(ノイズ)くんのような存在――――あれはきっと、《戯言遣い》の天敵、《戯言殺し》に俗する存在だ。
正直そういう奴等とは関わりたくない。
だからぼくは避ける。恐らく《天敵》であるそいつを、避ける。
もう暫く物思いに耽るか、と腰を下ろそうとした瞬間。
ぼくは唐突に、背後に猛烈な《存在感》を憶えた。
憶えた、なんて表現は似つかわしくない。もう確実な、存在感。
威圧感に近い、落ち着かない感覚。嫌いじゃないけど。
おそるおそる、振り返る。
そこに居たのは、ぼくよりもかなり背の高い巨漢。
この男との遭遇が、後にぼくのバトルロワイアルを大きく変えることになる。
■
主役は揃った。
■
《Black and White》
一方通行。
◆6LQfwU/9.Mが知るか否かは別として、彼の背後にそれは立つ。
白い髪に紅い瞳。アルビノ個体の特徴に見事に合致している。
その風貌の由来は一方通行の持つとある能力にある。
《ベクトル変換》。
この世のありとあらゆる力の向き(ベクトル)を操る能力。
弾丸は跳ね返り、風は巨大な鈍器になる。
細身の肉体も怪物級の力、速度を実現する立派な凶器に。
人体に触れればその血流を操り、一撃必殺、回避不可能の死を与える。
日光を、風を、熱気を。
外部からの刺激を極端に減らしたことで、外見は中性的になっている。
そんな最強の存在が、◆6LQfwU/9.Mの背中に銃を突きつけていた。
「………おいおい」
「喋るンじゃねェ――――オマエの心臓は、もォ俺の指先一つでぶち壊せるンだよ」
凄味の効いた声。そこには一切の容赦が欠落していた。
殺す気だ。恐らくは、殺す前に情報を聞き出そうといったところか。
冷や汗が頬を伝う。
無骨な銃口を背に感じる中、一分一秒が長く感じられる。
やがて背後に立つ最強の存在は緩やかに口を開く。
「知っている事を―――オマエの知り合いの事も、全部話せ」
大方予想通り。
別に隠し通すほどの重要な情報でもない。
開示するのが惜しいなんて堅い事は言ってられない状況だ。
「………俺は◆6LQfwU/9.M。しがない一書き手さ」
書き手。
一方通行にはその意味も含めて説明する。小説家、と言えば間違いはないか。
物語の外側の存在。そんな事を言おうがどうにもならないだろう。
「………御苦労さン。もう死ンでも構わねェぞ」
一方通行は最初から交換条件など提示していない。
一方的な情報の開示を求め、用が済んだら早急に始末する。
彼は殺し合いの賞品―――――否。確実な元の世界への帰還を求める。
《悪党》として、新たな罪の重荷を背負っても、凱旋を果たす。
彼と対極の存在――――あの《英雄(
ヒーロー)》も、例外ではない。
殺し合いの過酷な道の果てを求めたその理由は、また別の話だが。
しかし、◆6LQfwU/9.Mにも策はある。
一方通行が殺し合いに身を置くなら、見逃せないだろう交換条件。
『自らの命の救済』と引き替えに、『妄想彼女』の内一体をくれてやる。『支配願望』、『頭脳明晰』、『二面性格』。
どれにしても、殺し合いに身を投じるにしては十二分。
断るには惜しい話だろう。
「――――『頭脳明晰』ここに」
呼び出した。少し念じただけだったのに、意外と簡単な話だった。
頭脳明晰。
黒い髪の毛をツインテールにし、白いワンピースの下にスクール水着を着用するという如何にも人目を引きそうな風貌だった。
銃口がより強く押し当てられる。
「………交換だ。お前は俺を見逃せ。そうすれば、頭脳明晰(そいつ)を譲ってやる」
「……成程なァ。どォも普通の人間でもなさそォな女だ」
銃口が静かに下ろされる。
振り返るな、という意味だろうか、一度地面を踏みつける音がした。
「……頭脳明晰は貰う。運が良かったなァ、オマエ」
ようやく振り返った時、一方通行は既に遠くに居た。
その隣には頭脳明晰。くれてやったのは惜しかった、と吐き捨てる。
《White and Black――――He is》
《凶化衰月/鏡花水月》
《奴》が追ってくる。隠れるなんて無意味で、逃げるのが精一杯。
逆に言えば、ここまで逃げ切れていたことが奇跡だったのか。
ともかく、吸血忍者セラフィムは未だ、追いつかれずにいた。
この世の理からずれたサーヴァントという存在。
たとえ長距離走の世界記録所持者でも、長くは保たないだろう。
彼女が英霊バーサーカーから逃亡出来ていたのは、ひとえに忍だから。
戦闘においてこそ互角の速さだが、逃走となれば負けはしない。
体力の配分と適切な距離感を保つことで、未だ逃げ続けていた。
先程の斬傷など意にも介さずに狂戦士は暴虐を尽くす。
一抹の不安が脳裏をよぎる。
傍からこの怪物とは、体力の桁が違うのではないか。忍の並外れた脚力を以てしても所詮はジリ貧で、自分のバトルロワイアルは、もう詰んでいるのではないのか?
セラフィムが立っていた大木の幹がまるで爪楊枝のようにへし折れる。
仕方無い。そう心中で呟き、六爪を抜く。
体力でもこの怪物には勝てない。なら、力で押し切るしかない。
「(―――――チャンスは一度。今度こそアレの首を、刈る!)」
決める。
この一撃で、バーサーカーを殺す。
それが言葉ほど簡単なことでないことぐらいは理解していた。しかし、理解の外に手を伸ばしてでも勝利しなければならないだけの理由が彼女にはあった。
「■■■■■■■■■■―――――――!!」
来る!
イメージはとうの昔に済んでいる。
バーサーカーの『射殺す百頭』を紙一重でかわし、懐に飛び込む。
そして『燕返し』を首に叩き込み、狂戦士に引導を渡す。
しかし。その予定は、予想だにしない形で裏切られることになる。
光の鞭のようなものが、バーサーカーとセラフィムの間の地面に叩きつけられる。
その名は『拘束鞭(バインドウィップ)』。『書き手』にのみ付加された能力。
そこに立つのは、一人の少女。
『書き手』◆meUMrrZs9o。
彼女は薄く微笑みながら、左腕に構えた『それ』を向ける。
ステアー機関銃。
圧倒的な火力で相手を滅殺する『それ』。この距離なら間違いなく二人とも蜂の巣になり、割り込んだ彼女の一人勝ち、ということになるだろう。
セラフィムも巻き込まれる。その脚力を以てしても数発の被弾は確実。
だがその状態でも一人を斬ることくらいは朝飯前。
しかしその後、追った傷が牙を剥く。
治療したところで間に合わない。内臓の一つ二つはやられる。
相討ちが関の山だろう。
御自慢の秘剣もこの距離から間に合うかは分からない。
この時、セラフィムは知らなかった。
彼女が相手取っていたモノがどれほどの怪物かを、理解していなかった。
バーサーカーには後二つ、秘められた性質がある。
その一方がここで明らかになるが、それは何の解決策にもならない。
ただ徒に、絶望を加速させるだけに過ぎないのだ。
引き金が引かれる。暴虐の嵐が吹き荒れるが、弾丸は一発も二人に届いていない。届かずに―――――――地面に墜ちている。
『十二の試練(ゴッドハンド)』。
原典は生前のヘラクレスの武勇にある。
彼が打ち立てた十二の武勇。それを祝福した神からの贈り物――――――宝具であり祝福であり親愛の証であり、そして呪い。
その内一つの性質が、ここでステアー機関銃を無力化した。
『Aランク宝具以外の攻撃を一切通さない』
勿論。そのままの性能ではバトルロワイアルを破綻させるほどの存在になりかねないため、主催側で相当の制限を掛けている―――それでも尚、その呪いのような祝福は。
鉛の弾など肉体に触れることさえ叶わないほどの強度がある。
セラフィムの六爪は只の奇抜な刀に在らず。
奥州の筆頭・『独眼竜』伊達政宗が数多くの強者と、時には人外の魔王とも戦いを繰り広げる中、この六爪が使われていた。鉛弾とは比べ物にならないほど上等。
『十二の試練』に阻まれることは無かった。
光の鞭が、バーサーカーに迫っていく。
成る程、彼の首にこれを引っ掛けるつもりだったらしい。
拘束用の代物とはいえ、絞殺に使うには十二分。
尤もそれは、バーサーカーという怪物相手で無ければの話だが。
『射殺す百頭』の一閃。
それだけで、『書き手』の切り札は、呆気無く叩き斬られてしまう。
もはや打つ手は無い。
◆meUMrrZs9oは、薄っすらと微笑を浮かべ。
バーサーカーは地を蹴り、その巨体からは想像も出来ないような速度で彼女に接近する。そして、彼は『射殺す百頭』を振りかぶり――――
「………良かった」
『彼女』の首を、あまりにも簡単に斬り飛ばした。
『彼女』が最期に呟いた『良かった』という言葉の意味は分からない。
だが、『彼女』は確かに、そう呟いて逝った。
感傷に浸る暇など無い。
最終更新:2011年11月19日 09:42