終わりは、全てに等しく訪れる必然。
それから逃れようと足掻いた先人達もまた、必然に死んでいった。
人類の歴史で、そんな滑稽な茶番劇が何度繰り返されてきたことか。
だが、終わりから逃れることだけは絶対に不可能だ。
どれほど栄えた国を持つ王でも、不老不死の魔術師にも避けられない。
話は変わるが、今回のお話には一人の少女が登場する。
生まれながらに千年の悲しみの連鎖――――『星の記憶』を背負い、ある夏に壊れてしまった少女。そして最期には、最愛の母に抱かれながら悲しみの連鎖を終わらせた少女。
伝説の種族『翼人』からつながってきた連鎖が、彼女に集中した。
しかし彼女はそれを終わらせた。
もう二度と、鎖は絡まない。
少女の名は神尾観鈴。
これは、終わりを約束された少女の別の終わりまでの物語。
彼女の隣にやがて立つのは一人の少年。
彼女とは別に、訪れたとある試練を越えた少年。
静かな終わりを約束された少女。
喧噪の始まりを約束された少年。
□□□
「…………ふざけやがって!!」
乱暴な叫び声が、闇夜の静寂に響き渡る。
誰かに見つけられるかもしれないとは考えなかった。
それだけ、周囲が目に入らなくなるほどに、少年は激怒していた。
バトルロワイアル。
殺し合い。
参加者数は148人、見せしめ合わせて149人。既に一人死亡。
…………認めない。これを喜劇と称した主催者を、認められない。
あれだけ無惨に肉を撒き散らして死んだ少女を見てあいつは笑った。
それだけで、少年に火を点けるには事足りた。
「上等だ!古戸ヱリカ、お前は絶対に許さねえ!たとえめだかちゃんがお前を許しても―――――俺だけは!お前を許さない!」
決意の叫びが、一際大きく響いていた。
少年の名は人吉善吉。箱庭学園生徒会庶務の『普通(ノーマル)』。
しかしながら、度重なる戦いの中で身につけた体術は強力だ。
いや、『普通』とか『特別』とか『異常』とか『過負荷』とか『悪平等』とか、そんなのは今の彼にとっては些末な事項だ。もっと大きなところに、問題がある。
つい最近、人吉善吉は幼なじみの少女の敵になった。
『主人公』を裏切って『悪役』になる。それは禁断の行為だ。
そして、長年連れ添ってきた相手と敵対した今。
人吉善吉は、バトルロワイアルにおいてどう変わってしまうのか。
安心院なじみが企んだより更に最悪に。
人の命に何の関心も抱かない快楽殺人者になるか。
もしくは―――万一黒神めだかがこのバトルロワイアルによって死した場合。人吉善吉はきっと壊れる。二度と立ち上がれないほどの傷を負い、堕ちる。
善吉の未来にある希望は極小だった。
それでも希望に縋ろうとする彼を素晴らしいと形容するか、哀れだと形容するかはまさに
三者三様と言ったところだろう。が、善吉は自らの危うさに気付かない。
デイバックを開く。
まず最初に出てきたのは一本のバットだった。
特に何ら変哲もないバット。当たりではないが、まあラッキーか。
善吉の場合バットより肉体で戦った方が強いだろうが。
次に出てきたのは―――パックに詰められたおはぎ。
空腹の時に食えという意味合いなのかは知らないが、外れだろう。
しかもそれは、中にタバスコが入ったものが混じっている。
元は他愛もない悪戯だったのだが、結果惨劇を招いてしまった。
念の為、バットを右手に持って歩き出す。
まずは同じ志を持つ者を探して行動するのが第一と彼は考えた。
名簿に記載されていた名前を善吉は思い出していた。
彼の知る人物は三人。
球磨川禊。
少し前の彼なら最大級の警戒を置くに値した。
が、善吉の知る限り球磨川は既に改心している。相も変わらず『過負荷(マイナス)』ではあったが、それでも『生徒会戦挙』の時に比べると随分丸くなった。
危険人物ではあっても、殺し合いには乗らないと見ていいだろう。
合流しておきたい気もするが、別に急がなくてもいい気もする。
日之影空洞。
『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』と呼ばれなかった男。
彼もまた殺し合いには乗らないと見ていいだろう。
むしろ善吉には日之影が殺し合いに乗るヴィジョンが想像できない。
それよりも問題は彼の名前を、存在を『記憶できている』点だ。
『知られざる英雄』。その効力は『消える』こと。
正確には『他人の認識から消える』ことだ。
当然、彼の姿を視認することも常人には困難。
それどころか。彼の存在は記憶からさえ消える。
―――――そう。記憶からさえ『消える』。
なら、人吉善吉がここで『日之影空洞』の存在を、概要を、記憶できていることはまさに異常な事態なのだ。彼の異常性を無効化しているということになる。
残念ながらここで、『"自分が"異常性を無力化できた』という風に考え、自分の成長を実感したりするほど善吉は自惚れてはいない。
むしろ事実は悪い方向に向かっている。
日之影の『異常性』を人為的に無効化したということになるのだから。
球磨川禊の持っていた過負荷のスキル・『大嘘憑き』でさえ、他人の『過負荷』を完全に消すことが出来なかった。きっと日之影もまた、完全に無効化されてはいないのだろう。
だが、『大嘘憑き』に匹敵し得るだけの何かがあるのは確かだ。
あれだけの力を所持してこのような殺し合いを運営する。
素直に善吉は、怖いと思った。
以前自分の『視力』を『なかったこと』にしたあの過負荷を。
死の淵に立たされてもそれさえ『なかったこと』にしてしまう力を。
「(………考えても仕方ねえか)」
思考を中断する。
このまま考えていてもマイナス思考の堂々巡りだ。
最後に、黒神めだか。
人吉善吉が世界で一番大好きで、それでいてつい最近敵対した存在。
――――――――彼女には、会いたくない。
今度は先ほどとは別の意味で思考を強引に断ち切る。
考えても仕方ないと言ったのは自分だ。まずは行動しなくては。
そして何となくバットを素振りしてみて。
「………………がお」
一人の、少女と出会い。
同時に殺人者と出会った。
物語は展開される。
◆◆◆
あまりにも突然な展開だった。
善吉の少し前方に金髪の少女が居て、その背後に金髪の少年が居る。
少女は少し小柄で、どこか弱々しく儚げな風貌をしていた。
背後の少年は眼鏡をかけており、高貴な印象を受ける。
―――――ただし、その手には一本のナイフが握られていた。
それが、ゆっくりと振り上げられて。
「っ、やめろぉぉおおおおおおおおッ!!」
靴を、思い切り飛ばした。
安っぽい靴が真っ直ぐ、少年の顔面に向けて飛んでいく。
それを見ると、少年は左手を使ってその靴を叩き落とし、不快そうな視線を善吉に向けた。その瞳にあるのは罪悪感などではなく、ただただ不快感のみ。
だが――――『超高校級の御曹司』十神白夜にとっては当然だったのかもしれない。格下の者を殺そうとしたら靴を飛ばされた、なんて不快で腹立たしいことだ、と彼は考えたろう。
と『しか』考えなかったろう。
十神の手に握られているナイフは、殺傷力の高いサバイバルナイフ。
本来の持ち主は、『死者』――――仲村ゆり。
あれで刺されればあの少女はひとたまりもない。
善吉は急いで少女に向かって駆け、十神に向き直った。
「え?」
少女の声がした。
拍子抜けした様子だ。今になってようやく状況を理解したらしい。
肩に熱さ。
十神の振り下ろしたナイフが僅かに掠めてしまったらしかった。
そのナイフに合わせて靴を掃いている足で十神のサバイバルナイフを思い切り蹴り上げる。十神の丁度背後の地面にそれは真っ直ぐ突き刺さった。
「………チッ。邪魔が入るとはな」
「ああそうだな。悪いけど邪魔させて貰うぜ」
十神と善吉の視線がぶつかり合ったが、先に動いたのは十神だった。
興が削がれたとでも言うかのように、溜息を吐いて背を向ける。
地に刺さったナイフを引き抜き、背後など気にせずに歩いていった。
刺されたら、などという不安は一切無いようだ。
その姿が見えなくなった頃、善吉はやっと、肩の痛みに顔をしかめた。
彼のバトルロワイアル最初の殺人者との短い戦い。
あのまま戦えば運動能力の差で善吉が勝ったろうが、思う所はあった。
―――バトルロワイアル。それが遊びなどではないことを、肩の痛みが人吉善吉に告げていた。安堵する暇など一瞬もなく、ただただ不安が募るのみであった。
□
十神白夜は、不機嫌だった。
あの忌々しい学園生活から抜け出せた、目を覚ました時は思ったのに。
蓋を開けてみれば、あれより更に低俗で劣悪な遊戯ときたものだ。
だから、十神は今、とても不機嫌だった。
彼の求めるのはただ一つ。殺し合いからの生還のみである。
全てを殺してでも、優勝する。ただそれだけ。
尤も、もう少し後なら彼は殺し合いに背いただろう。しかし、時期が早すぎた。今の彼は残念ながら『変わる前』の彼だ。
「………俺は生き残るべきだ」
【深夜/B-7】
【十神白夜@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】
[状態]健康、不機嫌
[所持品]サバイバルナイフ@Angel Beats!
[思考・行動]
0:殺し合いから生還するために殺し合いに乗る
1:苗木や霧切たちも容赦無く殺す
2:弱者を狙い、手強そうな相手は相手にしない
3:『願望の成就』には『主催者の自害』を願うつもり
※chapter2.(非)日常編終了後からの参加です
■
少女の名は、神尾観鈴というらしい。
どうもさっきの奴とは情報交換をした直後だったとか。
善吉は包帯を巻いてもらった右肩を軽くさする。
まだ痛みはあったが傷は浅い、しばらくすれば痛まなくなる筈だ。
観鈴を見て善吉は、とある事柄に気が付く。
彼の―――正確にはとある人物のスキル『欲視力(パラサイトシーイング)』。相手の視界を乗っ取るスキルであるが、神尾観鈴の視界が『異常』に『悲痛』だった。
痛々しい。
視界に写るものこそ歪んでいないが、何故かとても痛くて苦しい。
なのに、この少女は笑っている。
末期ガンの患者には常に激痛が付き纏うと聞いたことがあった。
なら、彼女の視界はそれにとても近い。
自分なら―――いや、それこそ黒神めだかや『過負荷』でも無ければ耐えられないほど。善吉はゾッとした。自分は一週間も耐えられないかもしれない。
間違いなく、神尾観鈴は長くない。
善吉は医療に関しては素人だったが、それでも確信を持って言える。
近々、遠くない未来に彼女は天寿を全うするだろう。
このバトルロワイアル中保つかも分からない。
―――なのに、どうして彼女は笑っている?
―――分からない。
―――俺には。
「神、尾」
「何でしょう、善吉くん?」
少し吃驚した様子で、しかし確かに彼女は応えた。
そして善吉は己の口にしようとしたことの浅はかさを悔やむ。
―――もうすぐお前は死ぬぞ、と伝えるのか?
―――それとも、体調悪くないのか、とか気遣うのか?
―――馬鹿馬鹿しい。
―――あんなに頑張ってる奴に、そんなこと言えるかよ。
「神尾―――お前、会いたい奴とか居るか?」
口から不意に、そんな言葉が漏れた。
それしか、自分に出来ることは思いつかなかった。
居るなら、そいつと絶対に会わせてやらなきゃいけない。
独善でも偽善でも構わないから、そうしなければならない。
善吉は静かにそう決意した。
観鈴は少し驚いた様な風だったが、やがてその瞳を潤ませる。
そこで善吉は確信するのだった。
神尾観鈴は、自分の命が長くは保たないことに気付いている。
恐らく、今も彼女は痛みに耐え続けているのだ。
「……神尾、晴子……お母さん、と………」
しばしの沈黙。
まるで思い出せないものを思い出そうとしているようだった。
母親。
それとは別に、大切な存在。
しかし、記憶にはいない。
彼にとっての黒神めだかのような、かけがえのない存在。
何時しか沈黙は嗚咽に変わっていた。
全て思い出したらしい。
忘れ去られる筈の記憶を、全て。
「……国崎、往人さん………ゆきとさんに、会いたいですっ……」
国崎往人。旅人で売れない人形劇を生業としている。
観鈴の先祖にして悲しみの連鎖の始まり、『翼人』神奈備命。
そして神奈備命に仕えた二人の従者―――柳也と裏葉。
国崎往人は二人の子孫で、『法術』と云う力を有している。
本来このタイミングで観鈴が国崎を思い出すことは有り得ない。
彼は他ならぬ神尾観鈴を救うために一羽の烏に転生した。
後に『そら』と名付けられる烏の存在は、国崎の存在を上塗りする。
だから、次第に忘れ去られていき、国崎往人は消え去った。
これは、バトルロワイアルというイレギュラー事態における物語の分岐がもたらした一つの結果。その結果も、彼女の辿る未来を変えるには至らない。
神尾観鈴は必ず死ぬ。
バトルロワイアルからの生還は叶わない。
だからこれは、彼女を死ぬ前に救おうとした少年のお話。
【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]右肩に刺し傷(処置済、浅いので行動に支障なし)
[所持品]絶望バット@ダンガンロンパ、タバスコ入りおはぎ@ひぐらしのなく頃に
[思考・行動]
0:バトルロワイアルを潰す。
1:神尾を守り、『国崎往人』に会わせる
2:球磨川たちは保留。
3:めだかちゃんには会いたくない
※黒神めだかに『敵対すること』を告げた直後からの参加です
※『欲視力』は制限されていません
【神尾観鈴@AIR】
[状態]体調不良(大)、痛み(大)
[所持品]不明支給品
[思考・行動]
0:殺し合いはしない。誰にも死んでほしくない。
1:善吉くんに手伝ってもらって往人さんを探す。
2:お母さんにも会いたい。
※AIR編、『ゴール』する前日からの参加です
※常に体調不良と激痛が走っていて、いつ死亡してもおかしくありません
※主催干渉により、歩行とある程度の運動は可能となっています
最終更新:2011年11月23日 09:09