暗闇の中を駆ける影があった。
黒色のマントを羽織った青年が、時折後方を振り返りながら、息も絶え絶えに走っていた。
既に肩で息をしている状態で、誰が見ても限界に近い状態だということが分かる。
(くっ、くそ……何でこんな事になっている!?)
疲労に霞む思考で悪態をつきながら、青年―――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは自身の不幸を思い返していた。
聖杯戦争の最後、万感の覚悟と共にあの少年の拳を受けた。
失意と、だがそれを遥かに超える達成感の中で、ルルーシュは現世から消失した筈であった。
その筈だったのだが……気付けば先程の空間にいた。
人間とも付かぬ存在から告げられた
殺し合い。
殺し合いに優勝すればあらゆる願いを叶えるという言葉。
それは聖杯という願望成就機を失ったルルーシュにとって、まさに渡りに船であった。
先の存在がどれ程の力を有しているのかは分からない。
だが、どうせもう聖杯は存在しないのだ。ならば、僅かでも希望のある選択肢に縋るのは別段悪いことでもない。
所詮、一度は死んだ身だ。願いを叶えるために行動させてもらおう。
そう決意したルルーシュは、再びの殺し合いの会場へと移された。
さてこれからどうするか、と行く先について思案を始めたルルーシュに早速の試練が襲い掛かった。
殺し合いに乗ったらしき他の参加者が、問答無用で襲い掛かってきたのだ。
ルルーシュはサーヴァントである。
過去、もしくは未来の時代にて、英霊と称されるに値する功業を成した者。
人外の力と宝具を用い、人間には到底至らぬ力を振るう者。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは将にサーヴァントであり―――だが、悲しい事に、その実力の程は精々常人と同等のものしかなかった。
サーヴァントとの戦闘は勿論、人間との戦闘であっても敗北の可能性がチラつく悲しいサーヴァントである。
そして、ルルーシュを襲った人物はサーヴァントにも勝るとも劣らない力を有した人物であった。
紫色の髪に刃物のように鋭い眼光を光らせる女性。
美人と言い切るに十分な美貌と、男どもを容易く誘惑できるであろう妖艶な肉体。
手には剣が一振りあり、女性とは……いや、人間とは思えない速度で迫ってくる。
到底ルルーシュがどうこう出来る相手ではない。
武器として装備していた拳銃も、まるで意味をなさなかった。
結果としてルルーシュは逃げの一手を選ばざるを得ず、生涯三度目の死の淵に立たされていた。
(相手は撃った弾丸を剣で弾く化け物……! 空を飛び、ギアスも通じない……!
くそっ、何が『絶対遵守』の力だ、ふざけやがって! 肝心な時に使えない力に何の意味がある!)
切り札であるギアスも試したものの、全く効果を成さない。
相手はサーヴァントか、サーヴァント並みの対魔スキルを持つ存在。
尚更、勝機があるとは思えない。
「くっ、止めろ! こんな殺し合いに乗って何の利益がある!? 先程の存在が本当に約束を守ると思っているのか!!」
ルルーシュは己の命運を口車に賭けた。
適当に綺麗事を並べ、襲撃者の心中に不審が生まれるように仕向ける。
これでほんの少しでも追撃の手が揺らげば御の字。何もしないで殺されるよりは遥かにマシと言える。
ルルーシュの視線の先では襲撃者が得物を構えたまま、俯くきながら立っている。
執拗というに十分すぎた攻撃は、ルルーシュの言葉を境に止まっていた。
(上手くいったのか……? ならば好都合……口八丁で手駒としてやれば……!)
安堵の息を吐きながら、ルルーシュは和らげな笑みを浮かべて、襲撃者を見る。
その表情も勿論演技でしかないが、演技力ならば相当に自信があった。
出来るだけ柔らかい笑顔で、優しげな言葉を掛ける。
「落ち着いてくれ。ここで自分を見失えばあいつの思うがままだ。殺し合いになんて乗っちゃいけない。落ち着いて、事態を見極め直すんだ」
ルルーシュの言葉は届いている筈だが、襲撃者は俯いたまま動かない。
ルルーシュは自身の説得に手応えが感じられずにいた。
現状に我を見失った者ならば何らかの反応を見せる筈だが……。
「……止まれんのだ……」
数秒の沈黙を経て、返答があった。
それは悔恨と苦痛に満ちた、心の底にある何かを振り絞るような一言。
嫌な予感がルルーシュの脳裏を過ぎる。
「もう止まれん……二度目の殺し合いであろうと、私はもう止まれない。主の為、それだけの為に、私は外道へと身を堕としたのだ!
主がこの場にいる限り私はただの剣となる。ただ主に仇名す者を切り裂くだけの剣に―――私はそれだけの存在で良い!!」
予感は最悪なことに的中した。
叫びと共に剣を振り上げ、とんでもない速さでルルーシュへと突進を始める襲撃者。
二度目の殺し合い、主、気になるワードは幾つもあったが、それを指摘するだけの余裕はない。
止めろ、と叫ぶことすら叶わない。
ルルーシュは身に迫る危機に必死の思いで拳銃を掲げ、ろくに狙いも付けずに引き金を絞る。
幸運にも、放たれた弾丸は襲撃者の眉間めがけて飛んでいったが、襲撃者の動きは更にその上をいった。
発砲と同時に首を傾け、最小限の動きで攻撃の手を緩めることなく、弾丸を回避。
もはやルルーシュには知覚すらできない速度で、襲撃者が迫る。
思わず目を閉じ、最弱のサーヴァントにして第六次聖杯戦争の覇者が、己の死を覚悟する。
―――ザン
命を奪う音は、思っていたよりもずっと小さい音であった。
◇
少女は人々を救いたかった。
こんな殺し合いで誰かが死ぬなんて間違っている。
だから、行くあてもないにも関わらず、全力で走っていた。
少女は後悔していた。
救えたかもしれない人を助けられなかった。
だから、行くあてもないにも関わらず、全力で走っていた。
後悔に押されるように、願望に押されるように、少女は走る。
その末で少女が遭遇したのは、殺し合いの中で幾数も発生している戦闘の一つ。
少女に迷いはなかった。
少女は駆ける。
己の思いに任せて、前へ踏み出す。
私にできること。
ただそれだけを思って、少女は戦場へと躍り出た。
◇
(っ……!? 痛みが、ない……?)
斬撃の音は遠くから聞こえていた。
恐る恐る目を開けると、そこには青色に光る魔方陣のようなもので襲撃者の攻撃を防ぐ少女がいた。
物語の中ででてくるような幾何学模様の魔方陣。
魔方陣には一筋の線が走っており、完全に斬撃を防ぐにはいたらなかったようだ。
だが、それでも斬撃は確かに逸れており、ルルーシュを切り裂くには至らなかった。
その代償として傷を負ったものはいるのだが。
「…………!」
「お、おい、大丈夫か」
ルルーシュの前で魔方陣を発生させている少女。
少女の左肩からは血が滲み出ており、纏ったセーラー服を汚していた。
よくよく見てみると、ルルーシュを救出した少女は大分奇抜な恰好をしている。
セーラー服は上半身を覆うのみで、下半身は露出されており、紺色の下着が丸見えであった。
極め付けは少女の頭部から生える犬のような獣耳と、丸見えの下着から生える尻尾。
この窮地で流石にその恰好に言及するルルーシュではなかったが、僅かに思考を止めてしまったのは確かである。
その隙を、襲撃者は見逃さない。
「ハァァァアアアアア!」
裂帛の気合いと共に再度剣を構え直し、最上段から魔方陣に向けて振り下ろす。
一度傷ついた盾は、今度は斬撃を防ぐことができないだろう。
おさらくは術者たる少女ごと切り裂かれ、今度こそルルーシュにも死が訪れる。
あまりに気の抜けた自身の行動に、ルルーシュは強く強く唇を噛んだ。
が、予想されていた破壊がもたらされることはない。
「な……!?」
驚きの声は、二つの口から漏れたものであった。
ルルーシュと襲撃者。加害者と被害者との両端の立場にありながら、驚きは同様のもの。
手負いの魔方陣が、今度は易々と攻撃を防ぎ切ったのだ。
ヒビすら入らず、先程と同じものとは思えぬ堅牢さで剣を受け止めている。
攻撃は一撃目以上の力でもって振り抜かれたものであった。
襲撃者が有する全力全開。だというのに剣はまるで進まない。
火花は散らせどそれ以上の前進はなく、攻撃は完全に無力化されていた。
「くっ……!」
驚愕に顔を歪ませる襲撃者に、ルルーシュは躊躇いなく行動を映した。
隙だらけの顔面へと弾丸を一発放つ。
魔方陣に弾かれる可能性もあったが、こちらからの攻撃は通過する仕組みらしい。
音速の弾丸はギリギリのところで回避されるが、体勢は立て直せた。
また強固な防御壁を有した少女も助けに回っている。
形勢は此方が有利、とルルーシュは判断していた。
牽制の意味を込めて、拳銃を連射するルルーシュ。
弾丸が襲撃者に命中することはないが、一旦の後退を引き出すには十二分であった。
二発、三発と撃たれる弾丸に襲撃者は堪らず飛び退り、距離を開ける。
「君、助かったよ。すまないが、アイツが後退するまで防御を頼んでもいいかい?」
好青年を気取りながら、ルルーシュは促すように獣耳の少女へと指示を送る。
しかしながら、少女は何ら反応を見せない。
ジッと襲撃者を見詰めながら、ただ沈黙をもって止まっていた。
自身の負傷を気に留める様子もなく、ルルーシュの声すらも耳に届いていないようである。
「おい、大丈夫か?」
油断なく銃口を向けながら、更に声を掛けるルルーシュであったが、やはり反応はない。
ただ、意思を喪失してしまったかのように一点を見詰め、動かない。
表情を伺うルルーシュも不審を覚えずにはいられなかった。
こいつは一体どうしたのだ?
あの窮地に飛び出すだけの勇気と正義感がありながら、どうして何もせずに静止している?
事態はやはりルルーシュの予測できない次元にあった。
襲撃者も強力な防壁を前に、軽々に攻撃へと転じることができないようであった。
沈黙の中で発生した奇妙な均衡状態に、ルルーシュも襲撃者も動くことができない状況だった。
「……………い………」
そんな均衡状態の中、ルルーシュは聞いた。
身じろぎ一つせずに襲撃者を凝視していた少女が発した、小さな声。
あまりに小さい声に、ルルーシュもよく聞き取ることができなかった。
何と言ったのだと、ルルーシュが思わず聞き返しそうになったその時である。
―――余りに一方的な蹂躙が始まった。
「あ、」
「ああ、」
「あああああああああああぁぁぁあああああ!!」
勝負は一瞬であった。
数秒の間で襲撃者は倒れ、場に立つのはルルーシュと少女だけとなる。
ルルーシュは少女の行動を一部始終見ていた。
何がどうなったのか理解すらできなかったし、正直に言えば眼前で起きた光景を信じることができなかった。
だが、それは紛れもない現実であり、ルルーシュを危機から救ったのも事実である。
少女は……少女はそう、襲撃者に対して―――胸を揉んだ。
もう一度言おう。
少女は、襲撃者の、胸を揉んだ。
胸を揉み、何をどうやったのか、襲撃者の意識を奪ったのだ。
その動きはまさに疾風の如く。
襲撃者も抵抗するにはしたが、その剣術の悉くを回避し、接近し、胸を揉んだ。
そう、少女は胸を揉んで、襲撃者を撃退したのだ。
「……はっ、私ってば何を……? あ、さっきの人! 大丈夫ですか、怪我は!? って、アレ? いたたたた! いつのまにか傷が……」
そして少女は、何事もなかったかのようにルルーシュに語りかけてきて、一人で盛り上がり一人で痛がっている。
ルルーシュはもはや完全に思考停止であった。
あの窮地を脱した方法が、あんなサーヴァント並みの力を有した女を撃退した方法が、胸を揉むだと?
生き延びる策を本気で考えていた自分が馬鹿らしくなる。
これは一体何なのだ。
「あ、あの……」
自嘲の笑みを浮かべるルルーシュへ、少女がおずおずと話しかけてくる。
ルルーシュは一度だけ小さく息を吐き、気を落ち着かせた。
窮地を脱したのは確固たる事実であり、またこの少女も手駒としては十分な要素を有している。
ならば選択肢は既に決まっている。
この殺し合いで優勝する為に、ナナリーに対して優しい世界を手に入れる為に、利用する。それだけだ。
「助かったよ。君がいなければ僕は確実に殺されていた。僕はルルーシュ。君は?」
「あ、わ、私は宮崎芳佳って言います。えと……大丈夫ですか? どこか痛いとかありません?」
少女―――宮崎芳佳は心配そうな瞳でルルーシュを見上げる。
その優しさのこもった瞳に対して、ルルーシュは柔和な微笑みで返した。
裏にある邪悪な感情の一切を滲ますことなく対面する。
「ああ、大丈夫だ。感謝してもしきれない。本当に助かった。ありがとう、芳佳」
「い、いえいえ、そんな。間に合って良かったです」
「謙遜することはないさ。君は俺の命の恩人だ」
「そ、そうですか……えへへ」
パァと輝くような、心底からの笑みを作る宮藤。
そんな宮藤とは裏腹の、漆黒に染まった感情を渦巻かせるルルーシュ。
世界を救うウィッチと、世界を救えなかった魔神とがここに出会った。
「さて、まずはこの襲撃者をどうするかだな」
「あれ。あの人、気絶してるんですか? もしかしてルルーシュさんが倒したんですか? スゴい!」
「……覚えていないのか? さっき君がしたこと」
「私が何かしたんですか? ルルーシュさんを助けようと盾を張ったところまでは覚えているんですけど……」
「そ、そうか。彼女を撃退したのも君なんだが……記憶にないならそれで良いんだ」
「私が!? えぇー、全然思い出せないや……。えっと、私、どうやって倒したんです?」
「いや、無理に思い出すことはないさ。君は俺を救ってくれた。それだけで充分さ」
両者は、互いに互いの本性を知らない。
宮藤芳佳は、言わずもがなルルーシュが持つ魔神『ゼロ』としての内面を。
そして、ルルーシュもまた宮藤の本性を知らない。
いや、この本性とやらは宮藤自身も自覚に乏しいところがある。
おっぱい魔神―――どんな相手であろうと、そこに巨乳がある限り揉まずにはいられない本性。
淫獣とすら揶揄される、宮藤芳佳のもう一つの顔であり、ある種のアイデンティティ。
【一日目/深夜/E-1・森林】
【アサシン(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)@第六次聖杯戦争】
[状態]健康
[装備]ルルーシュの拳銃@第六次聖杯戦争
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:優勝し、ナナリーに優しい世界を手に入れる
1:襲撃者をどうするか決める。ここで殺害しておきたいが……
2:宮藤を利用する。いざとなればギアスの使用も辞さない
3:さっきの宮藤は何だったんだ……?
[備考]
※サーヴァントである為、ほんの少し身体能力が向上しています
【宮藤芳佳@ストライクウイッチーズ】
[状態]右肩に斬り傷(小)、淫獣
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを止める。もう誰も殺させない
1:ルルーシュさんと行動する
2:皆と合流したい
3:私なにをしたんだろう……?
[備考]
※ニコ動補正で淫獣成分がかなり強くなっています
【シグナム@パロロワMAD(アニロワ1st)】
[状態]健康、気絶中
[装備] 獅堂光の剣@アニロワ1st
クラールヴィント@アニロワ1st
鳳凰寺風の弓@アニロワ1st(矢18本)
[道具]基本支給品一式
[思考]
基本:主・はやてを救うため、参加者を皆殺しにする
0:気絶中
【動画紹介】
Fateシリーズの聖杯戦争を元にしたクロスオーバーMAD。
綿密に仕組まれたストーリー展開は素晴らしいの一言。クロスオーバーが好きな人、出典キャラをを知っている人は一度見てみるのをオススメ。
最終更新:2012年03月01日 22:05