俺には通じない

自分の好きな言葉は何か。そう聞かれたら、思いつく限りの言葉を挙げるだろう。
無愛、無愛想、無案内、無闇、無位、無依、無意、無意気、無意義、無意識、無意味、無為、無異、無印、無韻、無影、無益、無援、無下、無我、無駄…
これ以上並べてもキリがない…つまり俺は「無」という言葉が好きだ。
何もせず生きたい。恐らく俺が生きていること自体、無意味だろう。
しかし、死にたいというわけでもない。
さて…どう無駄にがんばろうか…結果は見えているが。


□□□


A-3の街、もちろんこちらも廃墟である。そしてその廃墟のなかの家のベッドで、福富は寝ていた。
殺し合いには乗らないと彼は最初に決めていた。争っても無駄、無意味。何より、無気力だから。
殺されないように最低限の努力はしてもようと思った。しかし、それも無駄だろうが。
むくりと体を起こすとデイバッグの中身を確認した。
中には濃硫酸と盾があった。盾はどうやら防弾盾らしい。

「まあ、気休めか…」

盾など攻撃しか守れない、気休めだ。
攻撃できるのは濃硫酸のみ、至近距離で近づかないとダメ。これも気休めかな…
とりあえずはこの家から出た。するとそこには絵に描いたような幼児体型の女性がいた。
無意識に嫌な予感がする。

「誰だ?背が低くて、ぺったんこの高校生さんよ。」
「むー!失礼な!これから成長するんだよ!」

女性が怒る。しかし、そのしぐさがかわいい。
裏がなけりゃあいいんだけどな…
いまだ、俺のセンサーは危険を指している。

「それはさておき、私に協力してくれませんか?」
「協力?俺にできる範囲ならね。」

一応は協力すると示す。
絶対裏があるな…
俺のセンサーは危険を指し続けている。

「じゃあ、その…」
「・・・」

盾を横に持つ。この女性の意図が読めてきた。
殺す気だな…残念ながら…

「私の為に死んでくださいっ!」
「やっぱりな!」

女性は銃の引き金を引くが、俺が盾を構えるほうが早かった。
盾で防ぐと、すぐに女性を抑えた。
残念ながら、俺にはそんなの通用しない。

「は、放してくださいっ!この汚らわしい虫ケラめ!」
「初対面の人に向かって虫ケラは失礼じゃないか?」

俺も人のことは言えないがな…

「じゃあ、雄豚のほうがいいですか?」
「虫ケラでいい…」

嫌な予感は的中した…性格悪いな…この子
とりあえず、抑えたまま先ほど出てきた家に入る。

「放してくださいっ!汚い手で私を触らないでください!」
「じゃあ、大人しくすることだな。」
「……分かりました。」

女性もさすがに大人しくなった。
そして、家に置いてあったロープで女性の手を縛る。
都合よくないか…?と思ったのは俺だけだと思う。つーか、俺とコイツしかいないんだが…

「それで、私をどうするんですか?レイプするんですか?殺すんですか?」
「しねえよ…質問するだけだ。」
「じゃあ、これを解いてくれませんか?」
「質問してる最中に殺されるのはゴメンだ。妙なそぶりをしたら…」

濃硫酸が入ったビンをデイバッグから取り出す。
女性がゴクリと唾を飲む。どうやら分かったらしい。

「これをかける。分かったな?」
「分かりました…」

さて質問タイムだ…


□□□


「まず聞こう。お前の名前はなんだ?」

これは基本中の基本だろう。女性はむすっとした顔で

「田野屋美雪…じゃあ虫ケラさんの名前は?」

虫ケラは継続かよ…確かに答えなければいけないので答える。

「福富安兵衛だ。次、お前はなぜ俺を殺そうとした?」

これも聞いておこう。いきなり殺そうとしたんだからな。いや、殺すことに理由があったっけな?

「決まってます。私以外の参加者は私の踏み台、奴隷なんですっ!奴隷が私の為に死ぬのは当然なんですっ!」

あったよ…しかも、すげー答えが返ってきたよ…どんだけ上からなんだよ…

「……ミナミの帝王は好きか?」

なんか、これを見たから性格が悪くなったような気がするので、一応聞いてみる。

「好きじゃあありませんよ…まさかエンコ詰めてくれるんですか?」
「なぜ小指を詰めなくてはならん。話がそれたな、お前はなぜ、そんな性格だ?」

というわけで聞いてみた。想像はできるがな…

「元からです。そろそろいいですか?」

やっぱりね…

「最後の質問だ。お前の夢は?」

適当。もう質問することもないのだが念のため。

「決まってます。全ての人間を見下す。それだけです。」
「そうか。」
「終わったなら、早く解いてくれませんか?もうキツイです。」
「残念ながらそうは言ってないから無理だ。」
「ひ、ひどいっ!私を騙しましたね!」
「騙してないわっ!」
「私を罵倒した挙句、拉致して騙すとは最低の人間ですっ!」
「分かった分かったから…」

質問も終わったので、ロープを解く。
しっかしなあ…


□□□


「ロープを解くほどの知能はあるんですね。関心関心です。いい子いい子です。」
「俺は猿以下かよ。」
「そうですけど?」
「……そうかい。」

いい子いい子しようと田野屋は頑張るが、背が低いために頭を撫でられない。
そうか、俺は猿以下だったのか…

「そうだ、言いそびれてたんだが、俺と組まないか。」
「嫌です。次言ったらその粗末なモノを噛み千切りますよ。」
「なぜそこまでされりゃならんのよ…分かった。お前の部下になる。ボロ雑巾のように、扱ってくれてかまわない。これならどうだ?」
「逆に引きます。」
「引かれてもかまわん。一生お前の奴隷になる。いざとなれば、命も捨てる。これはどうだ?」
「・・・」
「頼むッ!」

土下座をする俺。この状態で殺されても文句は言わない。つか、言えない。
顔を上げる。田野屋は少しあきれた顔で俺を見ていた。

「なんで、そこまでするんですか?ワケが分からないです。見知らぬ他人が汚い顔を地面につけて、さらに自分の顔を汚くする人なんて見たことがありませんよ?」

そこまで汚かったっけ?俺の顔。
そこまでするには理由がある。もちろんある。しかし、いま言っても無意味なのであえて言わない。

「じゃあ、いっそのこと俺を殺せ。」
「分かりました。」

えっ。即決?
田野屋は銃を取り出し、福富の顔へ銃口を向ける。
終わりか…福富は目を瞑り、静かに自分の終わりを待った。
やがてそこに銃声が響いていた。

「いつまで、目を瞑ってるんですか?バカみたいに。」

目を開けると、銃をしまう田野屋の姿があった。
あれ?俺生きてる…なんでだ?

「早く起きてください。今日からあなたは私の奴隷です。いいですね?」
「なぜ、殺さなかった?」
「はじめは殺そうと考えました。でも…いろいろと使えそうだから生かしました。感謝してください。」
「ああ、ありがとな。」
「もし、使えなかったら即座に殺しますから。」
「ああ、分かってる。ヨロシクな。」
「…よろしくです。」

少し嫌そうな顔をしながら田野屋は握手をしてくれた。
これで、俺ははれて田野屋の下僕になったわけだ。

「さて、何をすればいい?ご主人様。」
「デイバッグを持って。あとおんぶして欲しいわね。汚さないでよ。」
「分かりましたよ。」

そう言い、田野屋と俺のデイバッグを持ち、田野屋をおんぶする。

「うげっ!臭い!やっぱ降りますっ!」
「そうかい。じゃあ、おろすぞ」

少しだけ、気力がわいたような気がする。

さて…少しだけ無駄にがんばりますか…結果は…分からないな。

【A-3/街/一日目・夜】

【福富 安兵衛】
[状態]健康
[装備]盾
[道具]支給品一式、濃硫酸
[思考・行動]
基本:田野屋を生還させる。
1:田野屋を生き残らせるか
2:俺は…無理せずがんばるか

【田野屋 美雪】
[状態]健康
[装備]マグナム
[道具]支給品一式
[思考・行動]
基本:生き残る☆
1:私のために皆さん死んでくださいっ!
2:福富安兵衛さんと行動。

【参加者特徴】

福富安兵衛
無がつく言葉が大好きな高校2年生。
しかし、引きこもりで、髪はボサボサ、目は死んでいる。
無のつく言葉で好きなのは無意味。

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最終更新:2012年03月05日 20:52
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