希望の破壊者

「少女殺しの次は今度は殺し合いってわけか……。流石は『疫病神』だな」

上条は嘲笑気味に笑う。自分のあまりもの不幸さに。
上条はあの時、インデックスを殺してしまった。神の域へ達する程に磨かれた危機察知能力によってインデックスを助けることよりも自分の命を守ることを選んでしまった。
別に上条が悪いわけではない。ただ、彼は不幸だったのだ。上条が不幸だったが故にインデックスも自分の不幸に巻き込んでしまい、見殺しにしてしまった。

もう誰かを助けようとも思わない。インデックスは自分と関わっていなければ幸せな未来が待っていたのかもしれないから。
名簿にはインデックスの名前が載っていた。インデックスは体だけは生きている。
だからこうして、殺し合いに参加出来ているのかもしれない。死んでいても、体さえ生きていれば参加資格があるのかもしれない。

だが、上条はインデックスに出会っても助けないと強く思う。
自分が関わっても相手が不幸になるだけなのだ。ならば助ける必要は無い、関わる必要はない。
自分一人が不幸になるのにはもう慣れた。小さい頃から不幸体質だったから。
誰かが自分のせいで不幸になるのは慣れることが出来なかった。何度経験しても、これだけは慣れることが出来なかった。

「あんたは……」

上条の前に、一人の少女が通りかかった。
普段なら目と口以外に包帯をグルグル巻いてすぐ自分に襲いかかってくる少女、御坂美琴だ。
名簿を見たから参加をしているということは知っていたが、まさかこう早く会うとは思っていなかった。

上条当麻は不幸だ。おそらくこの世で誰よりも不幸な男だ。
自分の不幸のせいで両親が死んだ。両親は自分の身を呈して上条を庇ったが、上条はそれを『幸運』だとは思わない。
両親を失い、とうとう上条は居場所を失った。理解してくれる人間がいなくなった。

インデックスの時も、自分さえいなければあんな不幸な目にはあっていなかったかもしれない。
自分で相手を不幸にし、それをヒーローのように助けようとする『自作自演野郎』。上条当麻はわかっている。自分が誰かを助けれないことなど。
上条当麻という疫病神と関わった結果、インデックスは死んでしまった。


――――だって、とーまは、私からしたら窮地を助けに来てくれたヒーローなんだもの


正直あの時はインデックスを救えるとばかり思っていた。
実際に呪いは解くことが出来たし、インデックスの暴走も止めることが出来た。
不幸なのは今までの『不幸な出来事』のせいで自然に身に付いてしまっていた超人的な危機察知能力を持っていたということ。
インデックスを助けれたと思った直後にインデックスは死んだ。自分をヒーローと言ってくれた不幸な少女は永遠の眠りについた。


(俺はヒーローなんかじゃねえ)


むしろその正反対。誰かを助けるのではなく、誰かを不幸にしてしまう悪党。
全てはこの右手のせいだ。この右手は、どんな幻想でも壊してしまう。幸せな未来が待っている人間の運命をも、ねじ曲げてしまう。
希望なんて持っているから駄目なんだ。不幸な疫病神に希望なんてものはあまりにも不似合いだ。

――――迷いに迷っていたとーまが、私という修道女に出会えたことでようやく正しい道にたどり着く。あは、よく出来すぎてて、聖書が一編書けそうだね!


「はは……」

自然と笑いが溢れてくる。
インデックスは俺が正しい道に辿り着くって言っていたが、そんなのはやっぱりただの夢物語(げんそう)だ。
だから壊れた。だから壊した。この右手は、どんな幻想でも殺してしまう、正に不幸の源だ。
こんな右手さえなければと思ったことは今まで何度もある。切断したこともあるけど、右腕は冥土帰しによってまたつけられた。

――――いつかお前にも、お前を理解し、共に在ろうとしてくれる人は現れる。


俺は心の何処かで思っていた。こんな自分でも、いつか理解してくれる奴が出来るんじゃないかって。
でも、そんなものはただの幻想だ。そんなふざけた希望(げんそう)を持っていたから、あんなことになったんだ。

だから決めたんだ。俺はもう、絶対に希望を抱かないってな。

「アンタ……何、それ」

御坂美琴が引きつった顔で上条に質問する。
上条の手に握られているのは、一丁の拳銃。引き金さえ引けば簡単に目の前の少女を殺すことが出来る。
今までは軽く怪我をさせたくらいで済ませていた。自分に関わらないようにするにはそれが一番手っ取り早いと思ったから。
今は違う。此処は殺し合いの場だ。喧嘩の末に待っているのは相手が死ぬか、自分が死ぬかのどちらか。

大多数の人間は、『自分だけは絶対に死なない』などと甘いことを考えているのだろう。
それはそれだけ命のやり取りとは遠い環境で育った人間だということで、幸せなことかもしれない。
だが上条当麻は疫病神だ。疫病神は、不幸を振りまくのが仕事だ。
だから上条当麻は

「じょ、冗談――」

「冗談なら銃を向けたりなんかしねえよ」

引き金を引いた。
パン、という銃声が鳴る。御坂美琴の身体が崩れ落ちる。
更に引き金を引く。御坂美琴の胸を弾丸が貫通する。
御坂美琴の身体を蹴っ飛ばす。彼女は何一つ抵抗することもせず、ただ蹴飛ばされるだけだった。

「はははははは!!」

御坂美琴が死んだと確信した上条当麻は、笑い声をあげる。
少女の死体を見て、不幸な少年は笑う。

今まで不幸な運命に抗ってきた少年は、自分の運命を受け入れた。
自分がどれだけ不幸な運命に抗っても、結局最後には不幸な結末が訪れる。
だったら、疫病神として不幸を振り撒けるだけ振り撒いてやろう。
愛とか希望とか、そんなくだらない希望(げんそう)を抱いている奴らの幻想をぶち殺してやろう。

「じゃあな、ビリビリ中学生。お前の敗因は、俺が殺さないんでくれるかなんてくだらない期待をしたことだ。
俺を前に、期待(げんそう)なんてくだらねえものは何の意味もないってことを忘れちまったか?」


俺の右手はどんな幻想(しあわせ)だろうと壊しちまうから。
幻想(きぼう)を抱いた時点で、お前の負けは決定していたんだよ。

こうして上条当麻の夢物語は終わった。
幻想の破壊者は、次の破壊対象(げんそう)を求めて歩き出す。

【一日目/夜/B-2】
※御坂美琴が放置されています
【上条当麻@上条(悪)「その希望(幻想)をぶっ殺す」】
[状態]健康、固い決意
[装備]ベレッタM92(8/10)@現実
[道具]支給品一式、不明支給品×0~2、御坂美琴のデイパック(支給品一式、不明支給×0~3)
[思考・状況]
1:疫病神として不幸を振り撒く。インデックスに会っても容赦はしない


☆  ☆  ☆

「おい……どうなってんだよ、コレは!」

ウニのようなツンツン頭の少年は地面に倒れた少女を見て驚愕する。
彼の名は上条当麻。先程までの上条当麻よりは何倍も幸運とも言える運命を辿っている上条当麻。

「アンタと同じ姿の奴が紛れ込んでる。せいぜい……気をつけることね」

上条当麻のために――自分にとって大切な人のために最後の力を振り絞り、今度こそ御坂美琴は死んだ。
どうして彼女が先程までの『不幸な上条当麻』とこの上条当麻を見分けられたのか。
それは、彼女が最後まで上条当麻を信じていたからだ。当麻を信じていたからこそ、最後の命を振り絞ってまで伝えた。
上条当麻という存在を信じてしまったが故に上条に殺されてしまったが、彼女はそれを後悔していない。
自分にやれるだけのことはやったのだ。後は当麻がこの殺し合いを止めてくれることを信じて、少女は安らかに眠る。

「……ッ」

親しい人間の死を見て、当麻は自分の身体が熱くなるのを感じた。
今までは誰かが死んでしまう前に自分が駆けつけて、誰かを助けてハッピーエンドだった。
でも、今回は違う。自分が駆け付けることもなく、いつの間にか死んでしまっていた。

これまではそんなこと、滅多に無かった。
まるで何処かの特撮のヒーローのように現れ、悪を倒してピンチに陥っている人を助ける。
そんな甘い日常は、唐突に崩れ去った。全ては、上条の右手が原因で。

悔しかった。悲しかった。助けてやりたかった。
でももう遅い。
当麻は握った拳を地面へと叩きつける。
死んでしまったものはもうどうすることも出来ない。今はこうしてやり場のない怒りを発散するので精一杯だった。


【御坂美琴@とある魔術の禁書目録 死亡】

【一日目/夜/B-2】
※御坂美琴の死体が放置されています
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、喪失感
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品×0~3
[思考・状況]
1:畜生!俺が間に合ってさえいれば……
2:俺と同じ姿の参加者……そんなのが本当にいるのか?



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GAME START 上条当麻 [[]]
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最終更新:2012年03月17日 21:49
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