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円周螺旋のパイレーツ

木原円周と云う少女がいる。
 知る者が聞けばまず顔をしかめ、怪訝な顔をするだろう『木原』の名字を持って生まれながら、とある事件によって徹底的な『馬鹿』として育てられた少女である。
 彼女の『木原』は他の一族の人間と比べると足りない。
 しかしその吸収力と学習能力はまさしく『木原』のそれである――それでも及第点とは呼べないが。
 その円周は今、森の木に細い身体を凭れさせて微睡んでいた。
 中学生くらいの幼さ残る外見。
 その首から提げられているネックストラップまでもが彼女の『武器』であり同時に『学習装置』とも呼べる、木原円周が戦闘行為を行うにおいて必要不可欠な物。
 携帯端末やワンセグなどからありとあらゆる『情報』を基に『発想』を得て戦う――――、欠点も多いが強い相手にはとことん強い、それが彼女のスタイルであった。
 五千人の『木原一族』の思考回路をインプットした少女は、こうして眠りこけている。

 一言で言うなら――――わけが分からなかった。

 あの血みどろの殺し合いで学園都市のメイド少女、雲川鞠亜に破られ、意識を失ったと記憶している。
 なのに目を覚ませば、負っていた傷は欠片も残らず消え失せていた。
 誰かが処置してくれたのか――そう思えば、お次は白髪の老獪なる男に殺し合いの『ゲーム』とやらの説明をされ、少女の首が吹き飛び、また意識が消え、目を覚ませば森の中。
 あまりに目まぐるしく事が発展し過ぎていたのもあるが、木原円周が思考回路を放棄するに至った一つの理由が、『携帯端末の使用不能』だった。
 『端末』に頼り、『発想』を得ることに卓越した円周の『木原』にとってこれは由々しき事態だ。

 例えば今は亡き『数多おじさん』ならば、既に何かしらの行動を起こしているだろう。
 『加群おじさん』も同じく、無駄な時間を一秒たりとも生み出さずに動いている筈だ。
 『上条当麻お兄ちゃん』だったら、一人でも多くの人間を救おうと行動している。
 木原円周には――――それが希薄だった。

 何しろ勝手が違いすぎる。
 こんな策も準備もさせてもらえないような突然の開幕など、考慮しているわけがない。


 しかし円周は、ただ自暴自棄になってふて寝しているわけでもない。
 落ちこぼれの少女とはいえ木原円周もまた『木原』の名を持つ。
 発想が得られなければ零から発想するしかない――――その手段として円周は睡眠を選んだ。
 人間が寝ている間に整理する情報の量は想像するよりも遥かに多い。
 起きていて得られる情報の量とは比べ物にならない程の莫大な情報の整理が行われる。
 その中から、『発想』に転換できるものを掠め取るという常人には困難な芸当であるが、円周のような『木原』の人間には十分可能な芸当だった。
 尤も円周とてこんなことは流石に経験したことがない。
 無意識下に行っていたかどうかは知らないが、意識してそれを行うとなればかなり難儀な話だ。




「………すぅ………くぅ…………」


 やらないよりはましだ、と実行してみた結果がこれだった。
 無防備もいいところの睡眠状態に入っていて、幸せそうな寝息を立てている。
 体感時間にして数時間前まで命を懸けた殺し合いを行っていた少女とは思えない程に普通の寝顔。
 暗部に生きるような人間でも、一目で彼女を『木原』と見抜くことは出来ないかもしれない。
 だが結局それは、バトルロワイアルにおいてはただ隙を生んでしまう自殺行為に過ぎなかった。


「う……ん、分かっているよ、数多おじさん……むにゅ」


 木原数多という人物を知る人間なら戦慄しただろうが端からは微笑ましい寝言。
 口元の端からたらー、と透明の涎が垂れていき、凭れている樹木の幹を僅かに濡らした。
 身体を少し動かす度にがちゃがちゃとネックストラップがぶつかり合って音を立てる。


 このまま放っておいても第一の定時放送前には目を覚ましただろうが――――、バトルロワイアルはそう甘くはなかった。


 静かに、朝のやや肌寒い風が吹き抜けていく森の土を踏みしめるは赤い外套の男。
 白髪に褐色の素肌、何よりも歴戦を感じさせるその物悲しささえ放つ立ち姿が特徴的だった。

 幸せそうに眠りこけている木原円周の姿を確認すると、一瞬だけ彼は、目を辛そうに細めた。

 次の瞬間、その両腕に何の前兆も見せずに空間から二本の剣が顕現する。
 仮に円周の意識があったとしてもその原理は理解できなかったろうが、それは『投影』と呼ばれる『素晴らしく無駄の多い魔術』、言ってしまえば贋作作りの魔術であった。
 本物と物質単位で寸分狂わぬ精巧な模造品を生み出す魔術。
 しかしいくら無駄の多い魔術とはいえ、これほどまでの精度を実現するとなれば話が違ってくる。
 一流の素質を持った魔術師が一生をかけて尚辿り着けるか分からない、それほどの技術者。


 彼の仮なる名前を――――アーチャー。
 弓兵のクラスに据えられながらも卓越した剣の腕前を持ち、防護の結界術まである程度のものを会得している人外の存在である。
 かつて自らの理想に従って『世界』そのものと契約し、守り手となって初めて己の掲げた正義がどれほど愚かしく、馬鹿馬鹿しいまやかしであったかを知った男。


 黙って、何の迷いも見せずに木原円周の元へと歩を進めていく。
 両腕に持った贋作の剣に明確な殺意を宿らせて、更にその相貌には揺るがぬ覚悟の炎を燃やして、理想に破れたリアリストが『木原円周を殺害する』為に、進んでいく。
 別に、円周に個人的な恨みを懐いているわけではない。
 それでも彼は自らの役割をある意味盲目的に果たす為に、たとえ見知らぬ人間でも殺す覚悟を決めていた。


「……君に恨みはない。しかし私には理由がある……――――だから、死んでもらうぞ」


 高く、その腕を曇り空に向けて突き上げる。
 剣が雲間から射し込む日光を反射して照り返し、独特の少し渋い光沢を放っていた。



 きっと誰もが木原円周の細い首が宙を舞い、頭部と泣き別れになった胴体がべちゃり、と奇怪な音を立てて地面に崩れ落ちる光景を想像しただろう。
 何も分からないまま、お得意の発想も得られぬままに落ちこぼれの『木原』が朽ちていく様を。
 しかし、世の中は時にご都合主義をもたらすものだ。


 アーチャーが斬撃を放った。
 空を裂く小気味いい音がして、風圧が近くに生じる。
 ただしその一撃は木原円周に向けて放たれたものではなかった。
 彼の背後に向けて、振り返りざまに放たれる人外の威力の斬撃。
 常人では対応しきれぬ高速の一太刀を、一切の容赦という感情を取り除いた守護者が放つ。
 人の器に収まっている者からすればそれだけで必殺級の一撃だった。



「――――おおぅ、なかなかじゃねえか、お前さん」


 しかし、彼の攻撃は一本の槍によって呆気なく遮られた。
 鮮血のような紅さを放つ業物を握るは白髪の、片目を眼帯で覆い隠した偉丈夫。
 浅黒い笑みを浮かべて、口元から白い歯を覗かせている。


「やれやれ、まさか止めてくるとはな」
「ハッ! あんなちゃちな一撃で西海の鬼を仕留められると思ってたんなら片腹痛えぜ、色男!!」


 両手で挑発的に槍をぐるぐると回し、その鋭利な切っ先を地面に突き立てて男は問う。


「なあ、貴様はそこの嬢ちゃんを斬ろうとしていた、で間違いねえよな」
「――――――――だとすればどうする? 『西海の鬼』とやら」


 食えねえ野郎だ、と溜め息交じりの呟きを漏らし、鬼――長宗我部元親は、静かに槍を地面から引き抜き、構えた。
 目に宿る好戦的な炎を見てアーチャーもまた溜め息をつき、両手に握った姉妹剣を一回転させ、構える。
 互いの言葉を待たずして臨戦態勢に入った二人の猛者は、僅かに後退する。


「――――ここで討ち果たす、それまでだ!!」


 元親の大声を皮切りとし、二人の得物が激しい金属音を立てて衝突する。
 人外クラスの担い手が振るう剣と、鬼ヶ島の鬼と称される海賊が振るう槍―――酷使とさえ言える無茶な戦いにおいても互いの得物が砕けないのは、担い手に相応しい業物同士だからか。
 元親の槍の刺突を、交差させた剣で見事に受け止め、カウンターの斬撃に繋げてゆく。
 しかしその乱舞に対応出来ぬようでは戦国乱世の覇者となるなど夢のまた夢
 日ノ本の戦国武将共には、拳だけで海を割るような化け物だって存在するのだ――――この程度に屈しては鬼の名が泣く。



地面に叩きつけるかのような乱暴さで槍を踏み台とし、大きく空中に跳躍する元親。
 地上で迎え撃つのは少々分が悪いか……と、眉間に皺を寄せて赤い外套の騎士は自らの脚力のみで元親の高さへ追い付く。


 しかし、アーチャーに長々と戦闘を続行する気はなかった。
 本来彼のような英霊が参加させられるべき『聖杯戦争』ならばともかく、時間制限付き、更にあの胸糞悪い主催者連中に命を握られている絶対的不利なる状況。
 覆す術は未だ無く、故に要求されるは迅速かつ早急なる殲滅。
 海賊の槍を空中で受け止めると、その衝撃を利用して再び後退、『それ』を放つための準備へと入る。


しんぎ、むけつにしてばんじゃく
「鶴翼、欠落ヲ不ラズ――――」

 投影し、振るい続けた一対の夫婦剣。それを、投げた。
 それらは一度、元親の首元へ紅き槍の一撃を食い止めんと斬撃を放った直後。
 風切り音と共に、彼の背後へと飛んでいく。
 またそれとほぼ同時、次も同じモノが投影されていた。

ちから、やまをぬき
「心技、泰山ニ至リ――――」

 彼が腕を引くと、まるでそこに糸があったかのように。アーチャーが両手に握る双剣に引き寄せられ、元親の本来、有り得ぬ死角から奇襲があった。
 それこそ先程、投擲した片翼。純白の刃、陰剣莫耶に他ならない。
 そしてアーチャーは、更なる追撃。自らの手にある漆黒の刃、陽剣干将を叩きつけるように、敵の腹部目掛けて投擲。

     つるぎ、みずをわかつ
「――――心技、黄河ヲ渡ル」

 更に背後から現れる、漆黒の剣。
 見計らったらしく、アーチャーはそれが飛来すると同時に、左手に残る莫耶を、魔力を込めて一気に投擲する。

せいめい、りきゅうにとどき
「唯名、別天ニ納メ――――」

 再び魔術回路を輝かせ、そこから産み落とされる、錬鉄の夫婦剣。次第にそれは、泡立つような音と共に肥大化し、干将莫耶・オーバーエッジというものへと姿を変化させる。

 ――――初撃でまず、後方の気を逸らす。再び行う投影によって、それを相乗させる。
 そして、斬撃。更に本来ない、と誰もが思う方向から行われる、突然の挟撃。


     われら、ともにてんをいだかず
「――――両雄、共ニ命別ツ!」

 鶴翼三連の、最後の一撃。
 行われる、ほぼ同時。合計六方向からの、不可避、必殺の一撃――――!

 対する元親は。

「ッ――――!?」

 唱えられる、謎の詠唱。
 アーチャー・エミヤシロウのみに許された、テンカウント詠唱。
 英霊や人間では本来行うことは、決して許されぬ大禁呪。
 魔術の到達点とされ、魔法に最も近いとされる、術者の心象風景で現実世界を握りつぶす、協会によって禁忌中の禁忌とされる。




突如。
 それらは、飛来する。
 歴戦の猛者・西海の鬼さえ見たことのないレベルの必殺の連撃。
 その真意は、不意に行われる奇襲と、連続投影。

 まず放たれる、初撃。
 鉄の塊すら粉砕する、宝具が二つ。
 それが左右同時に襲い掛かる攻撃に対し、海賊は弾くのではなく、屈むと同時に槍を振るい、やがて飛来する武器の延長線上へと。
 地雷の如く、座標に設置する。
 振り払われる、前方と後方の一撃。
 されど後方からの攻撃は、槍――奇跡の権化たる宝槍・ゲイボルクによって途中で弾かれ、されど相変わらず引き付けあう力によって、元親の元へ。
 前方と後方からの攻撃。

 ――――だが。これだけで、鶴翼三連の真意は崩壊する。

 これらは、同時に行われるからこそ意味がある。数秒の誤差があれば、それだけで致命的。
 干将莫耶から織り成される、前方からの一撃を――――。



 ガキンッ!



 防ぐ。
 後方からの一撃を――――。



 ブンッ!


 首を逸らすだけで、難なく回避する。
 問題は、ここからだ。タイミングを、計る。
 背後に飛来する莫耶と、自らの立つ位置。
 そこを計算して、全力を込めた一発の突きを放つ。
 莫耶が壊れたかどうかは定かではないが、これで完全に吹き飛ばす。

 残るは、前方からの一撃。
 これを横に避け、本来ならば度重なる防御と回避によって生まれる隙を突く技だが。
 二つの鶴翼が欠落した今、それらはもはや、三羽の内、一羽は悉く打ち落とされ、もう一羽は防がれ、最後の一振り。




「――――!!」


 干将莫耶・オーバーエッジ。
 強化の魔術で基本骨子に細工を施し、範囲と切れ味を極端に上げるというもの。それらを視認した元親は。



「海賊をぉぉぉぉぉ………舐めんじゃねえぇぇえぇええええ!!!」


 不壊たる槍を以ってして、軋む腕に鞭を打ちながら、自らの体に傷を負わせることだけは、なんとか無くした。
 鶴翼三連。
 ここに、欠落のなかった鶴翼は、全てが叩き落される。


(――――バカな。単なる人間如きがアレを防ぎ切っただと!?)
「おいおい―――ぼーっとしてる暇なんざねえんじゃねえかァ!?」


 有り得ない。
 決死の中で積み上げてきた修羅場があってこその、この必殺の剣。
 あの若さで、英霊として世界に召し上げられた自分に比べればまだ若いというのに、どうしてこれを理解していようか。
 最早驚嘆せざる終えない。
 素晴らしい――同時に恐ろしくもある、有り余るポテンシャル。
 これが戦国武将か――歯噛みする。

 だがそれを理解しているだけで、やはり、身体はこの守護者、英霊となった身の自分に追いつけるわけではない。
 再び襲い掛かってくる間にこちらも即座に投影し、詠唱する。



 再び投影されるは、またも陰陽の夫婦剣干将・莫耶。
 これにより、またも敵と正面から打ち合う――などと言う、同じ戦法をとるほど、アーチャーは甘くはない。
 キッと鋭い視線を向け、両手に投影していた干将・莫耶を――――オーバーエッジへと昇華させる。
 今度のは連撃の中ではない、ただ一撃にかけたもので。
 しかしそれさえも、単なる牽制の投擲でしかない。
 次に投影するべきは、干将莫耶程度の負担で済む、“絶世の名剣(デュランダル)”。
 精密かつ完全なる制度を誇るデュランダル、そしてもう片方にも、デュランダルだ。
 つまり、二刀のデュランダルを以って相手を制圧することを目論んだ。
 策を練り、一瞬にして脳内でイメージを構築――――いける。




「おいおい―――ぼーっとしてる暇なんざねえんじゃねえかァ!?」




 威勢のいい叫びと共に突きだされるのは、紅き槍。
 海賊と守護者。
 乱世の英雄と、世界の抑止力が己の存在と理想を懸けて衝突する、まさに無双の戦い。
 干将莫耶。
 中国の名匠夫婦、干将、莫耶に鍛えられた陰陽一対の夫婦剣。
 絶大な耐久力を誇り、並みの筋力、武装では破壊どころか打ち合うことすらできない。
 まさに人間の器にして英霊と同等クラスの力を振るう戦国武将だからこそ打ち合えた、そのレベルの超高位兵装――宝具。
 目だった能力こそないものの、磁石のように互いを引き寄せる性質がある。
 これを用いた、必殺の連撃が鶴翼三連。


 射し込む鈍い光に照らされ、その流麗さをより際立てる、黒と白。
 陰と陽。
 闇と光。
 両義の関係にあるそれらを内包する剣は、決して離別させることの出来ない、双剣の名を冠すに相応しい武器だ。

 ――――走る!

 もはや当初の目的たる少女の守護などという目的は、長宗我部元親の中から消え去っていた。
 呼吸は止まる程に乱れ、今までの激闘乱世でも未経験の化け物との激突。
 それが、血気盛んな海賊の心を躍らせない道理が一体何処に在ろうか。
 その足は、ただ一度距離を取った、赤い外套へと。
 その足は、ただ一度距離を取った、猛る海賊へと。 
 漆黒の刃。陽剣干将が。
 赤き槍。ゲイ・ボルクが。
 衝突した。


「はぁ、はぁ、はぁ、は、あぁぁあああ――――――!!」

 オーバーエッジによる投擲を、転がるようにヘッドスライディング。
 地面に頭を打ちつけ、額から血が溢れ出るが、それすら気にすることはない。
 だが、突如として現れる二本の“絶世の名剣”。
 それらは絶対に破壊することは出来ない、という概念を有しているがため、投影のイメージが崩れた程度では、早々に瓦解することのない、防御に使うことすら可能の剣。

 まるで、これは断頭台だ。
 長宗我部元親の使役する鶴は、自らその死刑執行台へと登ったのである。

 それに構うこともなく、元親は攻撃を続けていく。
 両の手で握られる、『クランの猛犬』が振るいし伝説の槍。
 真名を解放すれば、確実に敵の心臓を破壊した事実を作り出す”ゲイ・ボルク”。
 デュランダルによる追撃を阻止すべく。
 二本の白銀を、打ち払う。


こうして再び、両者互いに同じ条件が揃うこととなる。
 アーチャーの秘策は破られ、元親も体力の限界がそろそろ見えてきた。

 果たして世界は、どちらを優先することとなるのか。
 理想に破れた男か、夢に燃える男か、それとも――――両者共倒れの結末を迎えるか。


 そして今、アーチャーの――――エミヤシロウの上方に、鬼が跳びあがる。
 物理法則を無視する身体能力を利用し、大気を切り裂き、赤い外套の騎士の肉体目掛けて突撃する――――!!


 海賊の、誇りを懸けた突撃。
 歴戦の英霊たるアーチャーでさえも危険視するレベルの、まさに英霊級の一撃。
 そしてアーチャー自らもまた、再度投影したデュランダルを以て迎え撃つ。
 矛盾した、熱気と寒気が互いの間を吹き抜け、互いの、恐らくはこの激突の決めてとなるだろう衝突。
 互いの刃が、吼える。


 精度は――――やはり、アーチャーの方が上手か。
 如何に戦国武将が怪物とはいえ、英霊と人間とでは最初から限界(リミット)が異なっている。
 衝突の一瞬前。
 大気がその時から、悲鳴じみた震えを見せていた。

 アーチャーがイメージする心象の風景には、歯車が回る緋色の空と、血を吸ったかのように赤い土。
 夥しい量の、無限の剣。
 対して長宗我部元親は、何処までも広がる海原と、暮れ行く太陽と同じ色を持つ、やや明るい赤の海面。
 あるのは同じく無数の、限りこそあるものの誰一人無駄ではない、長宗我部元親を慕い、追ってきた大切な『野郎共』。




そして、衝突。
 威力はやはり、性質を考えるとアーチャーの方が上手か。
 今にも長宗我部元親の放った一撃は、逆に食いつぶされそうな程。
 ギチギチ、と不吉な音を立てながら、少しずつ赤い外套の持つ絶世の名剣に押されつつある。
 だが、それでも勝負は終わらない。
 一生に一度巡り合えるか否かという程の強敵と、排除せねばならない外敵。
 剣の丘と広がる海原。
 地面に両足を付き、限界を超えて海賊は死刑宣告を行う。


「いくぜ、贋作使い――――剣の貯蔵は充分かい」


 投影は、この世界からイメージとして引きずり出される劣化品。
 故に二重の複製品である。
 贋作ならば。
 ヤツの剣に、長宗我部元親は拮抗し得る――――。
 故に、勝敗を分けるのは、只一撃。
 戦闘持続の限界時間も近い、いつ倒れ伏してもおかしくない――――それまでに、外套の男を打ち倒す。

 そこまでを、長宗我部元親自らで分析した直後。
 赤き弓兵の両腕には、再び剣が生まれ出る。



「ご覧の通り、貴様が挑むのは人の形をした怪物、英霊だ。
 己の贋作を以ってして……西海の鬼、貴様を屠る!

 ――――恐れずしてかかってこい!!」



 そして、再び投影した剣を元親へと振り下ろす。
 瞬間、今までとは桁違いの『重み』が、海賊に向かって襲い掛かる!
 飛び交う金属音、響きあう剣と槍、火花散り続ける森。
 この中に置いて尚もアーチャーは、冷静に剣を生み出しながら未だ衰えぬ海賊の猛攻に対応し続ける。

        ブロークン・ファンタズム
「――――“ 壊 れ た 幻 想 ” !!」


 更に、今元親の槍と弾け合っている剣に強大な爆発を引き起こさせ、視界を遮り、あわよくば爆発によるダメージを与えんと画策。
 無論至近距離にいるアーチャーとて例外ではないが、それを覚悟しての突撃。


「ハァ――――――!!」


 完全に視界を奪ったこの瞬間から一息置いた後――爆風の中より、元親の目の前へ赤き弓兵が躍り出る。
 視界が奪われている故に、確実に意表をつけたであろう。
 両手に握られているは、やはり愛剣――干将・莫耶。
 それを以って、目の前にいる標的へと斬りかかった!



爆発によって、視界が奪われる。
 必殺の突撃の威力は減衰。
 肉体ダメージこそないものの、アーチャーの思惑通り、海賊の視界が奪われることとなる。
 そして、刹那。

 「ご、ぐ……!!」

 不意に手元へ『手繰り寄せた』干将で防ぐものの、腕に走る鈍痛。
 かの裂海武帝もかくやという一撃に、長宗我部元親は無様にも、ごろごろと転がりながら、森の中を後退する。
 ゲイ・ボルクを必死に掴み、彼がようやく動きを止めたのは―――― 一人の少女にぶつかった結果だ。


 互いに忘れていた少女。
 発想を得て、思考をインプットして、戦う――――落ちこぼれの『木原』。



「…………あなたたち、だあれ?」




 不思議そうな顔をして、やっと存在に気付かれた少女は小首を傾げる。
 しかし長宗我部元親の肉体はもう限界が近く、アーチャーとて魔力を初戦にしては少々酷使しすぎた。
 まだ余裕こそあるが――丁度いい。


「仕方ないな――――鬼よ。この殺し合い、どうやら決着はお預けとなるようだ」
「まぁ――――仕方ねえ、さな。流石にガキ一人守りながら……倒せる敵じゃ、ねえし」


 予想外の結末。
 突然に、その決闘は打ち切られ――――勝負はまたの機会に持ち越される。

 赤い外套の騎士は最初と同じく、浅黒いニヒルな微笑みを浮かべ、静かに二人の元を後にした。





【A-4/森/一日目/朝】



【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]疲労(中)、魔力消費(中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品3
[思考・行動]
基本:優勝し、『守護者』として全ての失われた命を取り戻す
1:衛宮士郎は見つけ次第何の容赦もせずに抹殺する
2:セイバーにはなるべく会いたくない
[備考]
※凛ルート、士郎との決戦前からの参加です



◇ ◆


「ったく……何で暢気に寝てたんだよ、嬢ちゃん」


 樹木の、先程まで木原円周が眠っていた場所に凭れ掛かり、長宗我部元親は言った。
 一瞬迷ったような様子を見せる円周だが、すぐにおずおずと答える。


「……どう動くかを考えてたの。私の『木原』は弱いから」


 何を言ってるのか分からん、と元親は溜め息をつく。
 あの戦場を見てへたり込みもせずに立ち尽くしていた少女だ、只者ではないと思っていたが、どうやら敵意は無いようだ。
 何がどうなってるんだ、と呟くと元親は空を見上げ、すぐに残してきた子分たちのことを思い返す。
 どうしているだろうか。
 大将が居なくなって崩れ去る程ヤワな連中ではないにしろ、やはり心配ではある。
 元親には、子分の目を欺いてまでどうやってここまで自分を拉致したのかが不思議でならなかった。
 彼の前に現れた謎の白い獣、そして見せられた悪質な虐殺ショー。
 許せるはずがなかった。
 元より義と友情に厚い、西海の鬼こと長宗我部元親が、あんなものを見せつけられて黙っているわけがない。
 このふざけたゲームを企画した連中は一人残らず討つ、それが元親の決意だった。
 木原円周という少女は今の所どうも掴み所がない印象が強かったが、殺し合いに乗るか乗らないかは微妙、中立派のようだ。
 『木原』とかいう、仲間を探してから決める旨のことを言っていた。
 しかし、この少女。
 アーチャーと元親の激闘を見て、それでいて何の恐怖も抱かずにいる――――年頃の少女としてはどうもおかしい。
 余波を受けて損壊している箇所もあるこの森の様子にも関心を示していたが、恐怖にそれが結びついていない。
 やれやれ、と元親は吐き捨てた。

(もう少し休んだら動くか……奥州の独眼竜も呼ばれてやがるみてえだが――――厄介なのも居やがる)



 独眼竜――伊達政宗。
 風聞に伝え聞くに実力と人望の両方を重ね持つ強者らしい、殺し合いなどするような奴ではないだろう。
 が、かつて討ち滅ぼされた筈の第六天魔王・織田信長に厳島の宿敵・毛利元就。
 どちらも相当な強者だし、特に前者の実力はまさしく『魔王』と呼ぶに相応しい。
 先刻の赤い外套の騎士も相当だったが、下手をすればそれと同等以上の実力さえ備えているかもしれない。。
 障害は山積みだ――面倒な。
 だが諦める訳にはいかない。
 この胸糞悪い殺し合いを打破し、帰りを待つ子分どもの元へ颯爽と帰還する為に。
 瀬戸内の海賊は、その相貌に炎を燃やす。



木原円周はそんな元親を見ながら、脳内で先の死闘を反復していた。
 結論から言えば肉体のスペックが違いすぎる――――特にあの外套の男は、本当に人の皮を被った化け物ではないかと思った程だ。
 しかし得られるものはあった。
 発想の源は得られた。
 ひとまず殺し合う気はないが、襲われたら対抗しなければならない。
 『木原』の少女が、『乱世』の海賊と出会う。
 異なる時代異なる世界に生まれ落ちた命がここに交差した。
 この交差が何かをもたらすのは確かだったが、それが良い物か悪い物かはいまだ誰も知らない。
 ただ一つ言えることは、木原円周と長宗我部元親は遠くない未来命の危機に晒されることになる。
 それを乗り越えられるのか、または無様に命を奪われ朽ち果てるのか――――それはまた、後に語るとしよう。


【木原円周@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品3
[思考・行動]
基本:『木原』の人間を捜し、殺し合いに対処する
1:とりあえず元親おじさんが回復するまで待つ
[備考]
※雲川鞠亜に敗北した直後からの参加です


【長宗我部元親@戦国BASARA】
[状態]疲労(大)
[装備]ゲイ・ボルク@Fate/stay night
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品2
[思考・行動]
基本:殺し合いを打破し、主催者連中を打ち倒す
1:休む。
2:織田信長、毛利元就に対抗するべく仲間を集める



支給品

【ゲイ・ボルク@Fate/stay night】
長宗我部元親に支給。
第五次聖杯戦争のランサーの所持する宝具。
『刺し穿つ死棘の槍』、『突き穿つ死翔の槍』の二つの使用法がある。


Future Diary 反逆のルルーシュ 時系列順 魔王再臨
ゲームスタート 木原円周 :[[]]
ゲームスタート 長宗我部元親 :[[]]
ゲームスタート アーチャー :[[]]

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最終更新:2012年03月29日 10:31
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