12 「主人公」
【1】
天王寺深雪、彼女を紹介する必要はないかもしれない。
いや、必要なのだろう、この場にとっては。
彼女の人生は波乱であった。
小さい頃親に捨てられた。
阿見音弘之という男に拾われた。
新興宗教『白鷺教』を信仰することになった。
結果的に、手駒のようなものになってしまった。
しかし彼女は、それに気づかない。
気づこうともしないのだ。
彼女は阿見音に心酔しているのだ。
彼女に彼を疑うなど、あり得ない。
万死に値すべき行為なのだ。
そのため、彼女は気づく事が不可能なのだ。
自分が、手駒として利用されている事を。
そして今彼女は、この地に立っていた。
周りを見渡すと、どこかの球場のような場所だった。
しかし、彼女のような女子にとっては興味のない場所だ。
そばに置いてあった野球ボールを手に取る。
だが、それをすぐに投げた。
意味などはない、ただ気を紛らわせただけだ。
彼女は落ち付いていなかった。
名簿には、阿見音弘之の名前はなかった。
それは彼女にとって良かった事である。
では、彼がいないならばどうすべきだろう。
その答えは、すぐに彼女の頭の中で出た。
ただし、頭の中だけである。
手元にある武器は、医療用のメスである。
銃などがあればすぐに殺して回ることを決められただろう。
だが、弱いと言ってもいい彼女には満足な武器がない。
メス一本でどうしろというのだ。
いや、正確には5本入っていた。
しかしながら、今の時点では関係のない事だ。
「……阿見音様」
天王寺深雪、彼女は死ぬわけにはいかなかった。
深雪が心酔している、阿見音のためにだ。
彼のためならどんな事でもやる。
そう、彼女は考えている。
だがしかし、彼女は13歳の中学生だ。
出来ることと、出来ない事がある。
肉体的な問題もある、精神的な問題もある。
今の状況は、肉体的に不可能な事をやろうとしている。
だが、彼女は曲げなかった。
敬愛する阿見音弘之の為に、人殺しになる。
己の手をどこまでも汚してやろう。
ただの女子中学生は、鬼神にもなる覚悟を示した。
それが、不可能であることもわからずに。
【2】
人吉善吉、彼は普通の男だった。
『完成』された女でもなく。
すべてを螺子曲げる『過負荷』の男でもなく。
反則王の弟子で柔道界のプリンスと言われた彼でもなく。
水泳部のエースで友人思いな彼女でなく。
何も能力のない普通の男だった。
だが、彼には一つだけあるものがあった。
努力――――そんな簡単に見えて難しいものだった。
しかし彼は、努力だけである女についていった。
どんな事があろうとも、意地でやろうとする。
そんな負けず嫌いな普通の男だ。
だが、そんな彼は心が折られた。
彼が好きだった女に、失望されたのだ。
彼はショックから立ち直れない、という事はなかった。
とある、人外、安心院なじみという女によって、変わった。
自分のプライドを曲げて、戦う事を決めた。
「……どういう事だよ、これ」
彼は気づいたら球場の観客席にいた。
あまり衛生は良くない、と思いながらも立ち上がる。
周りを見渡しても誰もいない。
自分以外は誰もいないのだろうか、そう思わせた。
「主人公らしく、動けとかなんか言われて……どういう意味だよ、本当」
主人公という言葉は彼には無縁だった。
いつも脇役として生きて、戦ってきた。
そんな彼が、主人公になれと言われても、すぐに理解できなかった。
主人公――――その言葉の意味を考える。
ヒーロー、英雄、誰かを助ける。
そんなイメージがある、主人公だが、そんなものになれるか彼は分からない。
全員を助けて、ハッピーエンドを迎える主人公。
少なくとも彼では無理だろう。
だったら、どういう主人公になれと言うのだろうか。
頭を無理やりに回らせる。
悪を成敗するような主人公になる?
いや、この場ではそれは意味をなさないだろう。
少なくとも自分自身が主催の手先のようなものである。
これは違う、という風に仮定しよう。
じゃあ、なんだ?
皆で笑い合えるような主人公か?
それならできるかもしれない。
けれども、この場で笑うと言うのは狂気の沙汰である。
これも、違うと言う事にしよう。
じゃあ、何なのだろうか。
わからない、考え付かない。
「……あー、クソッ……全然考えつかねぇ……」
腕を座席の手すり部分に置く。
考えがつかないイライラと焦りが襲ってきていた。
すぐに結論付けなければいけないわけではない。
だが、あの時――――新人研修のレクリエーションの時を思い出した。
自分が答えを出すのが遅かった。
いや、わからなかっただけだ。
そのために、俺はこんな事をしている感じになっている。
そのせいだからか、いや……そのせいだ。
「……はぁ」
これから何をすべきなのか。
答えが出ては打ち消される。
すべて0へと戻ってしまう。
正しい答えの片鱗が何一つ見えない、これほど辛いモノはない。
だがしかし、焦っていてはダメなのだろう。
あの時と同じ、それかもっと最悪な事になってしまう。
だから、一旦答えは保留しておくことにしよう。
どこかにヒントとなるものがあるかもしれない。
それにもともと考えるより動くタイプだ。
色々な敵と戦ってきたときも、こうしてやってきただろう。
だから、今回もそうだ。
大きな目標が前にあろうが、自分は自分だ。
決して、己を曲げないで戦う。
それでこその、人吉善吉なのかもしれない。
「さぁて、じゃあ行くか……阿久根先輩とか球磨川にも会わなきゃいけないしな……鰐塚に雲仙先輩もいるし」
と、立ち上がった時に寒気が体を襲った。
悪意、殺意、そういった類の物を感じたからだ。
それも、かなり禍々しいモノだ。
「チッ……早速お出ましかよ…………」
とりあえずしゃがんで相手の出方を見る。
銃を持っているのだろうか。
いや、それだったらすでに攻撃してきているだろう。
そうなると近距離線用の武器か。
それとも、威力の弱い遠距離武器か。
だが、どっちにしろ何かを持っている事に間違いはなかった。
隠れていると、一人の女の子が出てきた。
見た目からして、中学生といったところだろうか。
彼女の手に握られている物は、メスだった。
医療用の道具、ということくらいは知っている。
だが、それを思いきり取り出している時点でかなり不用心だとも思える。
その時点で彼女は殺しに慣れていないと言う事も分かる。
いや、殺しの前に戦う事と言った方がいいか。
まぁ、女子中学生にそんな求めてはいけないけどな。
ある意味、まともな女の子を見たのかもしれない。
自分にしては絶滅危惧種のようなものだからな、普通の女子は。
完璧系女子とか肉食(本当の意味で)系女子とか、守銭奴系女子とか、ヤンデレ系女子とか……。
あれ、なんか怖くなってきた。
何やっているんだよ俺。
(…………やり過ごすか?)
そういう思いが強くなる。
あれは実は護身用に持っているだけかもしれないが、危険は冒すものではない。
ここで隠れていれば、そのうち諦めてくれるかもしれない。
――――――だが、そうもいかなかった。
俺の目に入ったもの。
それは、1人の男のような、わからない奴だった。
白衣を着て、仮面をつけている。
手に持っているのは、拳銃だった。
それは、自分でも見た事があるものだった。
ワルサーGSP、大分昔に作られたものだ。
威力自体はそこまで高くなかった覚えがある。
だが、あんな女の子が撃たれたらどうなるのか。
それくらいは予想がついた。
そして予想がついた瞬間、座席を飛び越えて女の子のところに走る。
女の子は獲物を見つけたようにメスを握り直し刺そうとしてくる。
それよりも、俺が気になっているのは男の方だ。
男は驚いた様子を見せていた。
そして、銃弾を放った。
それは彼女の腹部に向けられているのが見えた。
一瞬でメスを持った手を握り、地面に伏せる。
その時に右腕に傷を負ったが、これくらいは気にならない。
それよりも、腹部にかすっただけだが、銃弾の方が痛かった。
「ッ――――待てぇ!」
叫ぶが、男は猛スピードで非常口から逃げていった。
正直言って追いかけたかったが、女の子の無事が優先だ。
どうやら、傷自体はないようだがかなり強引に伏せてしまったので結構心配なのだ。
女の子は驚いたようにこっちを見ている。
「……大丈夫か?」
「なんで、助けたの?」
「は?何言っているんだ?」
「私は、貴方を殺そうとしていたのに……なのに、どうして私を助けたの?」
「……なんていうんだろうな、その……さ、あれだよ……こうしなきゃダメかなって思ってさ」
「…………?」
彼女は呆れたように俺を見た。
まぁ、呆れられてもおかしくはないけどな。
でもさ……助けたのに白い目で見られるのって何か心に来るな。
「……怪我した場所を見せてください」
「え?なんでだよ」
「処置くらいは出来ますから……助けてくださったのに、何もしないのは悪いし……」
「ん、そうか……ありがとうな、優しいんだな、お前」
「ッ――――」
女の子が顔を真っ赤にしている。
何か変な事でも言ったか?と考えてみる。
別にデリカシーが無い事も言ったような覚えがない。
いや、むしろ普通の会話じゃないのかって思う。
まぁ、きっと何かあったんだろうな。
「そ、それより早くき、傷を処置するので見せてください」
「あ、ああ……わかった、あ……そういえば名前聞いてなかったな……俺は人吉善吉だ」
「私は、天王寺深雪です」
「ふーん、天王寺か、よろしく頼むぜ」
「は、はい……」
とりあえず、傷口を治療する事を考えよう。
それが今すべき最優先の事なんだから。
【朝/E-10球場観客席】
【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]右腕に切傷(処置中)、左脇腹に銃創(処置中)
[所持品]基本支給品、不明支給品(1~3)
[思考・状況]
基本:主人公になる
1:天王寺に治療してもらう
2:知り合いと合流したい、けど球磨川は……
[備考]
※新人研修のレクリエーション終了後からの参戦です
【天王寺深雪@他の方のオリキャラ】
[状態]背中に若干の痛み、もやもやとした感情
[所持品]基本支給品、メス@現実(5)
[思考・状況]
基本:阿見音様のところに帰る
1:……何か複雑
[備考]
※愛好作品+αロワ参加前からの参戦です
【3】
「っはあ……はぁ……追っては来てないようだな」
先ほどの白衣と仮面の男。
その男が球場前で休んでいた。
仮面を外すと、汗をかいている額が見える。
軽く死んでいるような眼、それにあごに若干残る髭。
岡部倫太郎――――彼は焦っていた。
今まで色々な世界線を通ってきた彼にとって驚きである。
いや、驚きというよりは恐怖だった。
タイムリープマシン、それが今彼の手にはない。
それは、普通当然である。
だがしかし、彼にとっては衝撃以外の何物でもない。
「……俺は、生き残らなければならない……どんな事をしようとも」
彼の目に覚悟は灯っていた。
最悪の場合、全員を殺して優勝する。
そして、この
殺し合いをなかった事にするのだ。
まゆりを――――助けるために。
「――――エル・プサイ・コングルゥ」
【朝/E-10球場7ゲート出口】
【岡部倫太郎@シュタインズゲート】
[状態]身体的疲労(大)
[所持品]基本支給品、ワルサーGSP@現実(5/6)、22ロングライフル弾(18)、時風瞬の仮面@リトルバスターズ!!
[思考・状況]
基本:何が何でも生きて帰る
1:最悪の場合は全員殺す覚悟もある
2:知り合いには、会いたくない
[備考]
※虚像歪曲のコンプレックスでDメールを送った後からの参戦です
【4】
俺は主人公がどんなものかってわからない。
それは、今だって同じだ。
でも、やっぱり俺はこう思う。
目の前の女の子一人救わないで、そんなのは主人公じゃない。
だから俺は、救えるものだけでも救っていこう。
それが独善であろうとも。
それが偽善であろうとも。
それはすべて纏めて『善』だ。
だから俺は――――こういう風にしていこうと思う。
これでいいよな?――――――めだかちゃん
最終更新:2012年05月23日 20:14