「ふぅ、何とか逃げ切れたか」
カールスラントが誇るエースウイッチ・ゲルトルート・バルクホルンはD-4の森林にて安堵の息を吐いていた。
十数分前に遠方の空にて発生した謎の発光現象。
空気が揺れ、森林が割れた。
余波を喰らっただけだというのに、世界が怯えるように揺れていた。
何が起きたのか、と考えるまでもない。
誰かが戦闘を行い、その結果が先の状況だったのだろう。
ウイッチであったとしても、あれだけの現象を起こせるかどうか。
少なくとも、相当な強者がこの
殺し合いに参加しているという事は確かだろう。
「それにしても何がどうなっているのか……」
バルクホルンは苦い表情で空を見上げ、思考する。
爆薬の詰められた首輪により命が握られている状況。
自分を含めて四名のエースウイッチが拉致され、殺し合いを強要されているという状況。
最悪という一言では片づけられない。
唐突に四名ものエースウイッチが消えた今、部隊の戦闘力は著しく低下している事だろう。
一刻も早く帰還せねば、部隊そのものが危機的な状況に陥る筈だ。
もし、連合軍第501統合戦闘航空団『ストライクウイッチーズ』が陥落すれば、世界の情勢は大きく変わる。
この殺し合いの主催者が何者なのかは知らないが、良くぞやってくれたものだと思う。
何を思ってこのような事を起こしたのか、まるで理解ができない。
同じ地球にいる以上、ネウロイの勢力が拡大するという事は、己の首を絞めるようなものだ。
「……ともかくこの少女を休ませるか」
苛立ちに塗れた思考を悶々と繰り返すバルクホルンであったが、頭を切り替える。
先の存在が何者で動機が何なのかなど、今の状況で分かる訳がない。
とにかく、現状の打開に向けて、何らかの行動を起こさなければいけない。
あれこれ考えるのは、その後で良い。
(こんな小さな子にまで殺し合いを強要するとはな……)
バルクホルンの両腕では、一人の少女が顔を歪めながら眠っている。
突然と空から落ちてきた名も知らぬ少女だ。
身体に大きな怪我は見られないが、相当に疲労しているように見える。
冷や汗に濡れた少女の前髪を優しく掻き上げてあげるバルクホルン。
憂いに満ちた瞳で少女を見詰めながら、バルクホルンは己の内に湧き上がる想いを感じていた。
その胸中に湧き上がる感情は怒りだ。
戦いを知らぬ子どもをも巻き込んだ殺し合い。
怒りを覚えるなという方が、土台無理な話だ。
「……安心して寝ていろ。絶対に死なせはしないさ」
バルクホルンは優しい表情でそう呟くと、眼前の施設に入っていった。
それは地図中にて、『キメラアント討伐隊・アジト』と記されている建物。
周囲を警戒しながら歩んでいき、手頃な部屋にて手中の少女を寝かせた。
毛布を掛け、額に浮かぶ冷や汗を優しい手つきで吹いていく。
泥のように眠る少女を見詰めるバルクホルンの瞳は、冷徹な軍人のものとはかけ離れて見える。
ジッと少女を見詰め続けるバルクホルン。
もし戦友たる天使のように可愛らしい少女が、そのバルクホルンの姿を見ていれば、気付いていた事だろう。
バルクホルンの瞳が、段々と変化している事に。
規律を重んじる軍人の目から、まるで別種のものに変わってきている。
それは、まるで妹を見守る姉のそれであった。
「……うう……」
そして、看病を始めて数分後。
少女は小さく呻きを発しながら、目を覚ました。
ボンヤリとした視線で天井を見詰め、その少し後で勢いよく体を起こす。
「うっ!」
だが、急激な動作は身体から鈍い痛みを引き出した。
苦悶に顔を歪めて、少女は重力に引かれるように後ろへと倒れる。
「無理をするな。今はゆっくり休んでおけ」
「……あ、あなたは……?」
「私はカールスラント空軍・第501統合戦闘航空団『ストライクウイッチーズ』所属・ゲルトルート・バルクホルン大尉だ」
「はあ……あ、私はアーチャ……高町なのはっていいます。その、バルクホルン……大尉……?」
軍人としての名乗りに対して、英霊『高町なのは』―――アーチャーは困ったような表情でバルクホルンを見詰めていた。
どう呼べば良いのか、アーチャーには判断が付かなかったのだ。
そんなアーチャーに、バルクホルンは柔らかな笑みを浮かべて、口を開いた。
「すまないな、面を喰らわせてしまったか。バルクホルンで良いさ、高町」
「分かりました、バルクホルンさん。あの、私いったい……」
どうにも記憶が定まらないのだろうか、アーチャーは困惑の表情でバルクホルンへと問い掛ける。
そんなアーチャーへバルクホルンは自身が見た事をそのままに伝えた。
森林の奥底から唐突に発生した破壊現象。
破壊現象の直後にアーチャーが空から落ちてきた事。
アーチャーを抱えて敵前から逃亡した事。
全てをあるがままに伝え、バルクホルンはアーチャーの反応を待った。
アーチャーは黙りこくったまま俯いていた。
衝撃で曖昧となった記憶を、バルクホルンの言葉をヒントに遡る。
思い出されるのは、圧倒的な力を有した『高町なのは』との戦闘にも至らぬ戦闘。
この殺し合いの場にて相対した、もう一人の『高町なのは』。
例え切り札の宝具を使用したとしても、正面から戦えば勝利はなく、確実に負けていただろう。
それ程にあの『高町なのは』は強大な力を有していて、桁違いであった。
自分が何とか逃亡できたのは、戦闘寸前で割り込んできた緑色の閃光による横槍のおかげだ。
と、そこで、アーチャーは思い出す。
自身が『高町なのは』と相対するに至った理由を。
「あ、あの! 私と一緒に落ちてきた人はいませんでしたか? 私と同じような恰好で、私よりもずっと年上の女の人なんですけど」
そう、思い出す。
あの場にいたもう一人の『高町なのは』。
圧倒的な力を有した『高町なのは』に、成す術もなく敗北していた『高町なのは』。
その『高町なのは』を救出する為に、自分は戦ったのだ。
自分は逃げ延びる事ができた。
ならば、彼女は、もう一人の『高町なのは』は助かったのか。
アーチャーはバルクホルンに問い詰める。
「い、いや、他には誰もいなかったと思うが」
アーチャーの
鬼気迫る問い詰めに、バルクホルンは僅かに戸惑いながら答える。
答えは、アーチャーの望んでいたものとは真逆のものであった。
「高町……もしやお前、他に誰かと行動していたのか?」
「……はい」
「……そうか……」
目に見えて表情が曇るアーチャーに、バルクホルンも事情を察する。
それきりバルクホルンは押し黙り、何かを考え込むように俯いた。
「……私は、誰も見なかった。すまない。他に人がいると分かっていれば、もっと周囲を探索したのだが……」
「謝らないで下さい、バルクホルンさん。バルクホルンさんは何も悪い事なんてしてないんですから」
次いで零れた謝罪の言葉に、アーチャーは頭を振る。
バルクホルンが悪い訳ではない。
あの時逃げ切れなかった自分が、力の至らなかった自分が悪いのだ。
アーチャーを自己嫌悪の中で、俯いた。
そんなアーチャーの姿に、バルクホルンは心を痛める。
何と良くできた少女なのだろう。
十にも至らぬ歳で、他人を想い他人のために心底から悲しむ事ができる。
ここまで大人びた少女などそうはいないだろう。
何となく、姿が被る。
出会って数分と立たない人物の危機に本気で悲しむ事ができるアーチャーの姿が、とある人物とダブって見えた。
「……出るぞ、高町」
「え?」
同時に、バルクホルンは立ち上がった。
あいつなら、こんな時にどうするのか。
起きてしまった事だと諦めて、この場に留まるのか。
それとも諦めず、少しでも足掻こうとするのか。
答えは決まっている。
あいつなら、絶対に諦める事をしない。
「私の仲間にはな、自分でこうと信じたら絶対に諦めない奴がいるんだ。お前よりは少しばかり年上かな? だが、お前と何処か似ている奴だよ」
唐突に語りだしたバルクホルンに、アーチャーは何を伝えたいのか分からず戸惑いの表情を浮かべる。
アーチャーの視線を受けながら、バルクホルンは誇るように語った。
「そいつだったらこんな時にどうするのかと思ってな。そう考えたら簡単だったよ。何も悩む事はない。お前の同行人を探すんだ。諦めるにはまだ早い」
新米ウイッチながら、誰よりも心優しく誰よりも強い意志をもった少女。
その姿を思い出し、バルクホルンは決断した。
「行くぞ、高町! お前が落下してきた周辺を探索するんだ!」
「は、はい!」
力強い言葉に、思わずアーチャーも釣られていた。
身体の鈍痛すらも忘れて、立ち上がる。
立ち上がった先で二人は視線を合わせた。
バルクホルンの表情を形成するは、根拠もない自信にあふれた笑みであった。
それは、見たものに活力を与える笑顔。
アーチャーの暗く沈んだ心に、一筋の光が射し込む。
知らずの内にアーチャーの表情にも笑顔が生まれていた。
「バルクホルンさん、ありがとうございます」
絶望の状況の中で笑いあう二人。
謝礼の言葉は自然と零れたものであった。
「いや、こんな風に開き直れたのは私のおかげではないさ。宮藤芳佳―――こいつのおかげさ」
そう告げるバルクホルンは、とても暖かなものを感じさせる。
その様子からバルクホルンがその宮藤芳佳という人物をどれだけ好いているかが分かる。
「宮藤さんですか……その人、強い人なんですね」
だからこそか思わずアーチャーは呟いていた。
バルクホルンが敬服の念と共に語る宮藤という人物。
どのような状況であろうと諦める事をしない人。
自分もそうあれたらどれだけ良いか……サーヴァントとして転生したアーチャーには、バルクホルンの語る『宮藤芳佳』は眩しすぎる姿であった。
「そうだ、宮藤はスゴいんだぞ!!」
「にゃはは。バルクホルンさんがそこまで言い切るなんて、宮藤さんってどんな人なんですか?」
まるで自分が褒められたかのように笑顔を浮かべながら、バルクホルンは胸を張る。
そんなバルクホルンを見て、笑顔を浮かべるアーチャー。
二人は笑いあいながら歩き始める。
凄惨な状況にありながら決して諦めずに希望を追い求めて二人の魔法使い。
二人が行く末に待つのは果たしてどのような未来か。
それはまだ誰にも分からないだろう。
「き、聞きたいか!? そうか、そんなに言うなら仕方ない!! 高町にも私のいもう……ゴホン、宮藤の凄さを教えてやる!!」
だがしかし、数多に分岐する未来の中で一つだけ確かな事があった。
それは、アーチャーがある地雷を踏み抜いたという事だ。
「そうだな、まずは宮藤がストライクウイッチーズに入隊したところか話すか!」
そう、アーチャーはバルクホルンに対して最もしてはいけないことをしてしまったのだ。
バルクホルンの前で、宮藤芳佳の事を褒め、その人となりを問うてしまった。
それは、バルクホルンを知るものならば決して取らない行動。
その一言がバルクホルンの悪癖を露呈させる事を知っているからだ。
「宮藤はなあ、本当にスゴいんだ―――」
彼女は語りだす。
「アイツが最初の自己紹介の時に何て言ったと思う? アイツは戦争が嫌だって言ったんだ。護衛用の拳銃の装備すら拒否してな、命懸けの戦いを続ける私達の前に立って、そんな事を言い切ったんだよ。
最初は変な奴だと思ったよ。それと僅かにではあるが腹立たしくもあったさ。だがな、それよりももっと大きな何かを感じたんだ。宮藤を見た瞬間、その意固地なまでの信念を聞いた瞬間、私は心の内から湧き上がるものを抑える事ができなかったんだ。
アイツはさ、似てるんだよ。私の妹のクリスと。その妙に頑固なところと、人懐っこいところと、あの輝くような笑顔と、溌剌とした明るい性格と、誰とでも仲良くできる優しさと……まさに瓜二つだった。
いや、私には何となく分かっていたのかもしれない。宮藤は、私にとっての第二の妹なんじゃないかとな。それもそうだろう。だって考えても見ろ。あの可愛さだぞ? 抱きしめて頭をナデナデしたくなるような愛おしさだ。
クリスにだって勝るとも劣らない凄まじい破壊力だ。アイツを前にして理性を保っていられる仲間達には甚だ感服するよ。いや、そういうならば私も良く耐えている方だろう。いつもいつも必死の想いでナデナデしたくなるのを我慢しているんだ。
私にもキャラというものがあるし、クリスもいることだしな。ほとほと疲れてしまうよ。己の欲望に逆らうというのも楽じゃあない。これならネウロイと戦闘していた方がまだ体も心も楽さ。ああ、ナデナデしたい。
あの可愛い頭をナデナデして、プクリとしたほっぺたをプニプニしたい。見れば分かるさ。悪魔のような可愛らしさだ。ああ、宮藤。お前は今こんな殺し合いの中で何をしているんだろうか。何時も通り人々を助けるために動いているのか。
それとも怖くて何処かで震えているのか? ああ、宮藤、泣くな! 今直ぐにお姉ちゃんが迎えに行ってやるからな! それでこんな殺し合いぶち壊して、また皆の所に帰ろうな! 宮藤、宮藤、宮藤!!
可愛い、可愛いよお! 宮藤ちゃんマジ天使!! MMT! MMT! 戦争が終わったら、お姉ちゃんとクリスと三人で一緒に過ごそうな! いや、ハルトマンの奴も混ぜて四人で過ごそう!! 皆私の妹だ!!
なあ宮藤、宮藤、宮藤ぃぃぃぃぃ!!! あああああ可愛い、可愛い、可愛いよおおおおおおおおおおおお!! 私の妹はこんなに可愛い!! こんなに可愛いなら私の妹に違いない!! この想い宮藤に届けえええええええええええええええええ!!」
「」
―――語りだし、そして止まらない。
バルクホルンの宮藤芳佳談義は延々と一時間ほど続くこととなり、アーチャーはバルクホルンの本質を知る事となった。
妹主義―――バルクホルンの本質を、アーチャーは知る事となったのだ。
【一日目/黎明/D-4・キメラアント討伐隊アジト】
【ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウイッチーズ】
[状態]健康、姉
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを打開する
0:宮藤、宮藤、宮藤ぃぃぃぃぃいいいい!!
1:高町を拾った場所に戻り、高町の仲間を探す
2:宮藤達と合流する
【アーチャー(高町なのは)@第六次聖杯戦争】
[状態]身体の各所に負傷、ダメージ(中)
[装備]レイジングハート・エクセリオン@第六次聖杯戦争
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いを止める。誰も殺させない
0:………
1:バルクホルンと行動し『高町なのは』を探索する
最終更新:2012年05月22日 21:37