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EDL――――Advance・2

日が射し込む廊下を歩く。
運動靴で、歩く。
静かに、辺りを警戒しながら、そうやって、ぼくは一つの場所を目指していた。

……。
……。着いたわね。

扉に手をかける。
自然と、手に力が入り、身体が固まる。
……いけないわ。これでは、ぼくはまだいけない。
目的のためには、負けるわけには――いかないっ!

意を決めると、ぼくは乱暴に扉を開けた。
家庭科室。
誰も――いない。
よかった。――いや、よくなかったわね。

まあ。
そこまで考えて、不自然な歩調で、一つの場所まで歩いて、止まり、しゃがむ。
六台あるの薄汚れた白の机の一つの下の扉をあける。
中には、ボウルやら調理器具があるわね。けれどボウルとかは今回いらないもの。
ぼくが興味あるのは、こっち。

「……包丁、ね」

言葉に出して、確認。
扉の裏側に在った、一丁の包丁。まめな家庭科教師だから、割と(今時じゃないけど)砥石で研がれている。
……明らかに殺傷目的につくられたものじゃないけど、人を殺すことは、きっとできるんでしょう。そう信じるわ。

そう、人を、殺す。
誰が――ぼくが。ぼくが、クラスメイトを、殺す。
害意を放って、敵意を孕んで、殺意を抱いて、残酷なまでに、冷酷なほどに、殺す。殺す。殺す。
一人の男の為に。
いや、それではいけないわ。これは独りよがりの、行為なんだから。
勝手に生きてほしいと願って、身勝手な理由で他人を殺すのは、誰に頼まれた訳でもなく、ぼくだから。

――ぼく、こと榊田神菜は考える。
この一件のこと。《バトルロワイアル》。

始まりはなんだったかしら。そう、一通のメールが、始まりだった。
確か土曜日に学校側から、

『タイトル:明日のこと「明日、3年A組全員8時30分体育館集合」』

こんな風にメールが来たんだっけ。今は没収されてるから確認はできないんだけどね。
だから、来た。
なんの不安とか、なんの遠慮とか、なんの予感もなく、のこのこと自ら、敵の住む籠に入りこんだってことね。情けない。
まあ。
そうはいったところで、回避の仕様もなかったんだから、ぼくには非はないんだけどね。

さて、そんな件で始まったこの《バトルロワイアル》。
ぼくは、泣くに泣けない状況下にある。もう今のぼくは、本来であれば泣いて崩れたいところではあるけれど。
それは――守るものとしては、不適格。

楔音契也。
一人の男の子の名前。ここのクラスメイトの、名前。つまるところ――――参加者。

楔音契也。
幼馴染と言うと、一番聞こえはいいんだろう。萌え属性ね。

そう、楔音契也。
ぼくは彼のなにげない動作だって。ありふれた科白だって。
大好きで、大好きで、飲み込まれたいぐらい、愛している……といっても過言ではなく真実なわけよ。

わかる? この気持ち――わかる?
近づくだけで、胸が締め付けられる、この感覚。
幼稚で、拙い、そんな言葉でも十分と伝わる、この感情。

契也に対する想いを形容するなら、どんな言葉がいいんだろうか。
恋?
愛?
……多分、そのどちらかに部類するであろう。
ぼくのこの感情は、いつでも、そしていつまでも、ぼくの心を蝕んで、浸食して、
ぼくの想いを、満たしてくれる。生きがい、というものをひしひしと感じることだって、できるのよ。

彼に愛されたい。
彼に尽くしたい。
その一心で。
――――その一心だったのに。

包丁を、強く握りしめる。
もう柄の部分にひびが入るんじゃないかってぐらい強く、強く。
実際は握力がさしてないため、ひびが入ることはなかったけれど、私……いや、ぼくの心は確かに包丁に込められた。

立ち上がる。周りに人はまだいない。
ふと、窓の外を見れば、快晴の青空。うざったいぐらい、空気読めよって突っ込めるぐらい、綺麗で、澄んだ青空。

とても、人殺しなんて、非人道的、非道徳的な、殺し合いなんて、非日常的な行いが行われているだなんて、思えないでしょうね。

「……ふ」

自嘲的な、笑みが零れる。
なにも面白くないのに、彼だって死ぬかもしれないのに。

楔音、契也。
ぼくの、愛しの人。愛している人。

死ぬ。
ありえない。
そんなことは、させない。

だから、ぼくは動くのよ。
殺人鬼として、級友殺しとして。
たとえ宇宙上の誰からにも摘み出されようと。
たとえ世界中の誰からにも忌み嫌われようと。
たとえ形而下の誰からにも呪い殺されようと。

ぼくは、人を。
大切な、クラスメイトを、殺すんだ。

――――怖くない? 怖いに決まってるでしょ。

でも。
でも、だよ。

ぼくは、彼を失う方が、怖いから。
だから、ぼくは、阿修羅に成りきらないといけない。

自己満足の、自己責任の、上で。
義務でも、責任でもなく、決意の上で。

嫌われるなんてことは百も承知よ。
好かれる行為だなんて思わない。ヒーローなんて言語道断。

だから。もう、いい。
好感度とか、どうでもいい。
最悪のアンチヒーローで構わないもの。

嫌われ者でも、憎まれ者でも。
誰からも疎外され、誰からも非難され。
どうしようもなくなっても、どうにでもなくなってしまっても。


ぼく……いや、私は、奔ろう。
揺るがざる、目的をもって。


【榊田神菜:生存中:包丁一丁】
【6人】


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最終更新:2012年04月09日 12:01
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