そこは、病院と言うよりも、政治犯罪者を収監する錆びれた刑務所のような外見をしている。
蔦が、壁に覆い茂り、外装であるコンクリートの一部は剥げ初めてきており、煤けた色に変化していた。
人がいる気配はない。強いて言うなら、ゾンビ映画に出てくるゾンビならいそうな気配だ。
深く帽子を被った青年と五条ひとみは、そんな啜れた病院の入り口から、建物を見上げていた。
腹部を刺されて、下手をすれば死ぬ程の傷を負っているのに、痛みに苦しむことも無く青年は落ち着いている。
五条ひとみは、青年を刺したことに対して、後悔していた。
だから、共に行動することで、どこか罪滅ぼしをしようとしていたのかもしれない。
「……本当に、傷は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。血が出ているだけで、傷自体は浅いからね」
帽子を深く被っているため、表情は窺い知れないが、声は苦しそうではなかった。
しかし、応急処置をしたとはいえ、腹部からは少なからず、出血しており、息も少し荒くなっている。
何よりも、辺りに立ち込める血の臭いも濃い。
そして、青年は分かっている。いや、悟っていると言ったほうが正しい。
自分を殺すほど憎んでいる先客がいる事と、自分を殺すこととなる■■■の事も。
青年は何故か、恐れもせず、怯えもせず、戸惑いもしていない。
「けど、気をつけたほうが良いかも知れない……先客がいるみたいだからね」
「先客? まさか―――」
青年は、それ以上のことを、喋ろうとはしなかった。
そして、同時もせず、武器も構えず、丸腰で病院の中へ入ると、軽い足取りで、階段へと向かう。
まるで夢遊病を患っているかのごとく、迷いが無い動きだった。
五条ひとみもついていく事がやっとで、戸惑っている。
質問をしても、聞こえていないのか、黙ったままであるからだ。
◇
ガチャリと、拳銃をリロードする音が聞こえた。
関春翔の携帯電話には、メールで参加者の配置情報や死亡者情報や各戦況などが、一定時間になると届いている。
始まってからまだ、十時間も経過していないのに、八人が何らかの形で殺されているのだ。
幸い、彼が殺したい二人の名前はそこには無く、安心していた。彼は、自分の手で復讐を下したかった。
そして、そのメールには吉報があった。自分が殺したい男が、この病院内にいるのだ。
そのためにも、海棠を殺さないとならなかった。
「分かっていますよ。貴方は、私を騙していますよね」
拳銃をリロードしたのは―――海棠の方だったからだ。
何度も携帯を眺める姿は、刑事の勘と言うものからか、海棠のほうは薄々、違和感を感じていたのだ。
そして、デイパックを探ったところ、殺傷武器ばかりが出てきたと言うわけだ。さすがに、偏りのある支給品には疑問を持つ。
つまり主催者側の人間。ゲームを阻害するものは、すぐに抹殺する使命を持っていると言うのが結論。
「では、貴方は、人の命って平等だと思いますか?」
「平等だと……思います」
少し反応に戸惑ったが、銃口を向けながら海棠は答えた。
関春翔は、銃口を向けられているにもかかわらず、話を続ける。
抑止力として、向けている銃口に怯むことも無く、ただ、淡々と口を開けては言葉を発している。
撃たないと思っているのか。撃てないと思っているのか。
「少し前に、天皇のご子息が不登校になって、マスコミが騒いでいましたよね。
もっと、取り上げるべきことがあるんじゃないのか、って思うくらいに。
じゃあ、イラク派遣の自衛官は、祖国の土を踏むことなく、何人死んだ思いますか?」
アメリカによる、対テロ戦争以後、イラク派遣やインド洋に派遣される自衛官は、常に危険に晒された。
活動の柱は人道復興支援活動と安全確保支援活動であり、活動地域は非戦闘地域に限られたが、実際には、議論が出るような地域も活動していた。
そのためか、直接的な戦闘行為は無いものの、無差別テロや地雷などで車両が破損する事例も多々ある。
イラク特措法により、2003年から2009年まで続いた派遣の過酷な状況下で、自衛官達を苦しめたと言われる。
「2007年の時点で、その答えは、計35人。
なのに、マスコメディアに、大々的に取り上げられたことは無かった。
けど、何故、大戦の原因となった天皇の娘が不登校になっただけで、マスコミは騒ぐ?
この国には、もっと悲しい理由で不登校になる子供はたくさんいるのに。
それでも、外交や国益のため異国の地で死んだ自衛官達と、勝手な理由で不登校になった天応の娘の命が平等なのか?」
それから、物事を話しすぎたのか、関春翔は電池が切れたかのように黙った。
正直、海棠は、関春翔から、そのような事を言われるとは思わずに質問に困っている。
物事に絶望したのか、拳銃を構える手が、震えると、ゆっくりと銃口を下ろした。
「貴方は、一体?」
「俺自身、最近おかしいと思っている」
振り返ったその瞬間―――
二人は互いに銃口を向け合った。
「退いてくれ。俺の殺したい奴が、この建物の中にいるんだ」
「私は刑事よ。目の前で、殺人が起きて止めない方がおかしいでしょ」
カタリと
銃が床に落ちた。
故意に置いたわけではなく、落としたと言うほうが適切な判断だろう。
拳銃を落とした張本人である、関春翔は、苦しそうに咳き込みながら蹲った。
「……クソ、ここでか来たか……」
動揺する海棠を後目に、フラフラと拳銃を拾い上げて、ただ病室から出て行く。
何が起きているか、分からない海棠は、ただ一人、何が何だか分からないまま立ち尽くしていた。
◇
『病院の階段に帽子の男と、少女の生存反応あり』と転送されてきた。
メールで転送されてきた、情報によると、帽子の男の方は腹部に刺し傷を負っており、心拍が低下しているとの事。
また、その二人以外にも、深手を負った二人の参加者と、単独行動中の青年と精霊、もう一人のジョーカーがこの病院へと向かっている。
(クソっ、俺はまだ死ね無い。ここで、死んで堪るかよ)
関春翔は、サイレンサー付きの拳銃を構えて、フラフラと廊下を歩いていた。
息が荒くなっており、走ることは出来ない。
医師に促されていた、薬は服用したくても、主催者であるアンドレイに没収されたため、服用は出来ない。
もちろん、参加者に襲撃されれば、元も子もなく死ぬ。
「先客? まさか―――」
と、近くの階段で少女が誰かに問いかける声が聞こえた。
この病院にいるのは、関春翔と海棠、そして、情報に出ていた二人の参加者。
片方は、復讐の対象。
「ははははは!!! これで終わりだ……■■■」
階段を上がってきた二人に向かって、震える声を抑えながら、ゆっくりと銃口を向けた。
引き金には指が掛けられている。
そして、関春翔はゆっくりと引き金を引く。銃口を向けられた青年は、まだ、無表情だった。
【一日目/深夜/C-1・病院】
【関春翔@単なる伏線キャラ】
[状態]???
[装備]M92(フル装鎮、サイレンサー付き)
[道具]基本支給品、青酸カリ、携帯電話、追加弾奏(個数不明)
[思考]
基本:ジョーカーとしてゲームを盛り上げる
1:■■■を殺し、帽子の男にも復讐する。
2:???
※携帯電話には、情報が届きます。
【五条ひとみ@二つ名キャラ】
[状態]健康 戸惑い
[装備]不明
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~3
[思考]
基本:????
1:???
【細身の男@伏線キャラ】
[状態]腹部から出血 、???
[装備]ブルドックリボルバー(5/5)
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~3 アイスピック
[思考]
基本:“運命”に逆らわない
1:ある目的を果たす
2:■■■に殺される。
3:???
※一定の参加者の情報や支給品の情報を、何故か知っています。
【海棠凪@単なる伏線キャラ】
[状態]健康
[装備]拳銃(種類は不明)
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~3
[思考]
基本:
殺し合いには乗らない
1:……。
最終更新:2012年05月06日 15:45