42話:get out from the shell
今給黎涼華、高光明秀、小崎史哉の世界とクラリッサ・ブランチャードの世界は異なるが、
どちらにも様々な種族がいる事においては共通している。
獣人、魔獣、幽霊、果ては神まで。
当然先述の四人も今まで様々な種族の人物を見てきた。
ただ、それでも、全身から触手が生え、蠢いている人間、と言うものは見た事が無い。
四人はそんな存在と、不幸にも遭遇してしまった。
触手獣人と化した井本萌実は四人に襲い掛かる。
「うあああぁあああぁあ!?」
髪の毛では無く不気味な触手を振り乱しながら突進してくる怪物に、
涼華が驚き、持っていたベクターCP1自動拳銃を乱射した。
素人なりに狙いは割と正確だった。
銃弾は確実に萌実の身体を抉りダメージを与えていた。
与えてはいたが、それでも萌実の突進は止まらない。
「ウウゥオオオァアアアアアァアアアアアアアアアアアアアァア!!!!!」
少女のそれとは思えない咆哮を発しながら萌実は右手から生えた触手の束を薙ぎ払う。
涼華と明秀が雑草の生い茂る地帯に吹き飛ばされた。
「いっ、あ、ああぁあ、痛い、痛い……!」
「ぐう……涼華、さん……」
凄まじい質量と速さで薙ぎ払われた涼華と明秀は全身の骨が悲鳴を上げ、激痛に身動きもままならない。
それでも明秀は何とかして、痛みに悶える涼華を助けようとした。
その二人に止めを刺すべく萌実が近付く。
「やらせない!」
「く、クラリッサさ……!」
史哉が制止しようとしたが、それより先にクラリッサが持っていた日本刀を構え萌実に向かって突進して行った。
「でやあぁあああ!!」
雄叫びをあげ、クラリッサが触手獣人少女に斬り掛かる。
斬撃は少女の胴体と共に触手を何本か斬り裂いた。
萌実はよろめきはしたが動きを止める気配は無い。
クラリッサは何度も斬撃を叩き込み、萌実を止めようとした。
だが。
ドゴォ!!
「あ」
離れた所から様子を見ていた史哉が声を上げる。
触手の束を頭上から振り下ろされ、クラリッサが叩き潰された。
「あ……あ」
クラリッサはアスファルトにうつ伏せにのめり込んだままピクリとも動かない。
僅かに頭の辺りからピンク色と赤色が混ざった物が見える。
赤い液体が広がっていくのも見えた。
恐らく、いやきっと、生きてはいない。
クラリッサの捨て身の攻撃により萌実の身体はズタズタにされていたが、それでも彼女を止める事は出来なかった。
「あっ……」
史哉は股間が急速に湿って行くのを感じる。
アンモニアの臭いが鼻をついた。
この年になって漏らすなんて、と一瞬思ったが、この状況で失禁するのは、
恐怖が既に臨界点を超えている証拠である。
腰が完全に抜けてしまい動く事が出来ない。
怖い。怖い。怖い。ただ、怖かった。
萌実は草むらの中に移動していく。何をしようとしているかは深く考えずとも分かる。
「ひっ、や、やめ、て……あ、あ! あぁああああぁああぁああぁああぁあああああああああああ!!!!!」
「がはっ、あ、ア……ア……」
バキッ、グシャッ、と言う生々しい音が、涙を流しながら、目を固く瞑り震える史哉の耳に届く。
耳を塞ぎたかったが塞いだ所で、現実から逃れる事など出来ない。
それより、余りにも無力で何も出来ない自分がとても悔しかった。苛立たしかった。
やがて、静かになった。
「……」
前方に気配を感じ、恐る恐る目を開け、上を見上げた。
「あっ……ああ」
全身が血塗れになった、触手獣人少女が目の前に立っていた。
生気の感じられない片方残った瞳が自分を見下ろしていた。
身体中を蠢く触手、身体中にこびり付いた血や肉片、むせかえる血臭。
これが古い時代のプ*イステーションゲームのムービーだったらどんなに良い事か。
「――――――」
そして、史哉の意識は途絶えてしまった。
萌実に何かされた訳では無い、恐怖と緊張が限界を超えてしまったのだ。
「……」
萌実はそんなリカオン獣人の少年を覗き込み、そして――――。
◆
リカオン獣人の少年は目を覚ました。
自分はどうやら生きているようだ。
「え……何、で」
触手獣人少女がすぐ目の前で倒れ、動かなくなっていた。
あれ程蠢いていた触手達も今やただの管となり静止している。
「……助かったのか、俺」
気絶している間に、この触手獣人少女はついに力尽きたらしい。
クラリッサによる斬撃と、涼華による銃撃が功を奏したのだろうか。
「……う……」
しかしここで史哉は身体に違和感を感じる。
妙に熱っぽい上に、腹に鈍痛。
股間の湿り具合も相当な違和感だが、それとはベクトルが違う。
「……」
どこか虚ろな目で、史哉はかつての同行者達の死体には目もくれず、町の方へ歩き出した。
◆
井本萌実――いや、彼女に宿った寄生虫は、宿主が死ねば自分も死んでしまう事を「理解」していた。
それ故、「井本萌実」の肉体が限界を超えるダメージを受けた時、
寄生虫は宿主を変える事を「考えた」。
そして新たな宿主に選んだのは、失禁し震えていた、リカオン獣人の少年――――。
新たな、健康な宿主を得た寄生虫は、ゆっくりと、少年、小崎史哉を「支配」して行く。
【クラリッサ・ブランチャード 死亡】
【今給黎涼華 死亡】
【高光明秀 死亡】
【井本萌実 死亡】
【残り 9人】
【昼/E-5市街地付近】
【小崎史哉】
[状態]後頭部から下顎付近にかけ貫通銃創(応急処置済)、寄生虫寄生による意識混濁、失禁跡
[装備]草刈鎌、防弾チョッキ(衣服の下に着込んでいる)
[持物]基本支給品一式(食糧消費)
[思考・行動]
0:……。
[備考]
※寄生虫が寄生しました。思考能力が低下しています。
最終更新:2012年05月27日 23:32