1話「Forest of midnight」
気がついた時には僕――小野妹子は、夜の闇に包まれた森の中で倒れていた。
起き上がって周囲を見渡してみるけど、やはりアホ太子――じゃない、太子の姿はどこにも無い。
それどころか人っ子一人見当たらない。
首に感じるひんやりとした感触に首に手を当ててみると、
やはり、頑丈そうな金属製の首輪がガッチリとはめられていた。
意識を失う前、あの広い円形のホールでの出来事を思い出す。
いつものように仕事を終えた僕は、帰宅して就寝したはずだったのに、
目が覚めたら全く知らない場所、そして周囲には大勢の人々。
頭がまるで、いや、狼や狐といった動物そのものの、妙な人間もかなりの数がいた。
そして、一応僕の上司であり、倭国の最高指導者である聖徳太子もホールにいた。
やはり太子も気が付いたら円形ホールに倒れていたらしく、かなり動揺している様子だった。
その時、突然紫色の光と共に現れた、狼の頭を持った人間。
声や身体付きからして女性らしかったが、
セイファートと名乗ったその狼の女性は信じられない事を僕達に宣言した。
当然、人々は反発し、セイファートに向かって抗議の声をあげる。
当たり前だ。突然連れて来られて殺し合えなんて、ふざけてるなんてものじゃない。
太子も激怒し怒りの声をあげた。だけど僕はそんな太子を制止しようとした。
なぜか分からないけど……セイファートが漂わせる雰囲気が、何だか不吉に思えてならなかった。
そして、その不吉な思いは最悪の形で具現化した。
セイファートが何か呪文のようなものを唱えて右腕を高く掲げた直後、僕達の首に光の輪が出現し、
そしてそれは、今僕の首にはめられている首輪へと変化した。
僕と太子、そしてその他の人々が突然現れた首輪に戸惑いの表情を浮かべていると、
セイファートが何やら小さなリモコンのような物を僕達の方へ向け、スイッチを押した。
直後、短い電子音が鳴り響き、爆発音がホールに木霊する。
そして悲鳴。そこで僕と、太子、そして大勢の人々が目にしたのは、
首から大量の鮮血を噴き出して、倒れる男性。
「何でこんな事になったんだ……!」
すぐ近くに立っていた樹木の幹に寄り掛かり、頭を抱える。
一体なぜ、殺し合いなんてしなければいけないのだろう。あのセイファートという狼の女性は何者なんだ。
一体どうしてこんな馬鹿げた事を? 何が目的なんだ!
だけど、特に鋭い洞察力を持っている訳でも無い僕がいくらそんな事に思考を巡らせても、
納得出来るような答えを導き出せるはずが無い。
溜息をつきながらふと地面を見ると、黒っぽいリュックサックらしき物が雑草の上に落ちていた。
いや、「置かれていた」と言った方がいいのかもしれない。
リュックサックを拾い、僕はセイファートが言っていた事を再び思い出す。
「そういえば、支給品を渡すって、言ってたな……」
地図や名簿、食糧、ランダム支給品なるものが入ったデイパックを渡す、と言っていた。
多分、これがそうなんだろう。
僕はさっきまでもたれかかっていた樹木の根元に腰を下ろし、リュックサック――いや、デイパックと言おうか。
デイパックのチャックを開け、中身を漁る。
電池式のランタンがあったので明かりを灯し、デイパックの中身を探っていると、まずは白い小冊子が出てきた。
開くと、この殺し合いの参加者、総勢48人の氏名が五十音順で書かれていた。
どうやら異国からも集められているようで、カタカナの名前も多く見られる。
確かにあのホールにはまるで獣のような外見の人間や、明らかに倭国人では無い人間も多数いた。
当然、僕の名前と太子の名前もあった。しかし太子以外に僕の知り合いは呼ばれていないようだ。
名簿の次に地図が出てくる。この殺し合いの会場の地図だ。
四角のマスで幾つも区切られている。これはセイファートの言っていた「禁止エリア」と関係がありそうだ。
次に出てきた物はごく普通の小さなメモ帳とペン。多分メモを取るのに使うものだろう。今は必要無いな。
そして次は……これは?
出てきた物は小さい画面が付いた小型の機械。ボタンのような物が幾つか付いている。
機械の裏に説明書らしき物が貼ってあったので見てみると、この機械は「デバイス」といって、
方角と現在位置、現在の時刻が分かる機械らしい。
説明書通りに操作して、現在位置が地図で言うB-4の森だという事が分かった。
これは便利な機械だ。でも……誰が作った物なのだろうか?
倭国にこんな物は無かったはずだけど……いや、難しく考えるのはよそう。
そしてペットボトルに入った水とコッペパンが四つ。
これが食糧だろうか。ふざけてる、余りにも無味乾燥の上に足りない。どう見ても一日も持たない。
セイファートが言っていた通り、食糧は自分で調達する必要がありそうだ。
さて、ここまでが基本支給品らしい。僕が一番気になるのはランダム支給品。
こんな殺し合いに乗る奴はいないと思いたいが、恐らく何人かは乗る奴が出てくるだろう。
そういった奴に出くわした時のためにも、護身用の武器ぐらいは欲しい。
しかしそんな僕の願いを嘲笑うかのように、デイパックから出てきたランダム支給品は余りにも酷い物だった。
リコーダー。
革のケースに入った、何の変哲も無い普通のリコーダーだ。
ケースに「二年二組 大沢木小鉄」と名前が書かれている。
そう言えば参加者名簿の中に同姓同名の名前があったが、同一人物だろうか。
添付されていた説明書には「大沢木小鉄少年愛用のリコーダー」とだけある。
どうやら間違いないようだ。
いや、そんな事より。
僕は他にも何か無いかデイパックの中を漁りに漁ったが、もう何も出てこなかった。
「酷過ぎる……リコーダーでどうやって戦えって言うんだ」
確かにセイファートは「ハズレもある」と言っていた。つまり僕は完璧なハズレを引いてしまったのだ。
もし剣なんかを持っている相手に襲われたら、一溜りも無い。
ケースからリコーダーを取り出し、右手に持って構えてみるけど気休めにもならない。
「これならその辺の木の枝でも折って武器にした方がまだいいよ……」
しかし周囲の樹木はいずれも枝は高い位置にあり、取るのはほとんど不可能だった。
仕方が無い、襲われたら戦いは避けて、逃げるしか無いな……。
リコーダーを地面に置き、樹木の根元に腰掛けながらこれからどうするか考える。
いつ誰に襲われるか分からないこの殺し合いという異常状況下で、僕はどうするべきか。
僕は殺し合いに乗るつもりは無い。他人を殺してまで生き残りたいとは思わない。
もっともこんなリコーダーで人なんて殺せるはずはないけど。
「まずは……太子を探そう」
僕と同じくこの殺し合いに呼ばれている、倭国の摂政、聖徳太子。
なぜかジャージを奨励し、ノーパン主義、自分勝手な振る舞いが多く、
自分で制定した十七条の憲法が何条あるのか忘れる、一週間ロクに仕事をしないなど、
はっきり言ってただのアホなオッサンだが、
それでも倭国の摂政であり、統治者だ。こんな所で死んでいい人じゃ無い。
それに、太子は多少は普通の人間よりタフな面があるかもしれないが、
こんな殺し合いで生き残っていける程の力量がある人とも思えない。
何にせよ、早々に見付け出した方が良い。
でも……殺し合いの会場は地図を見る限りじゃかなりの広さがある。どこに太子がいるかなんて見当も付かない。
まずは、近い所から探してみるしか無いか。
今自分がいるのがB-4。ここから西の方向へ行くと、湖があるらしい。
とりあえずはこの湖に行ってみるとしよう。
「太子……お願いですから簡単に死んだりしないで下さいよ」
僕はどこにいるとも分からない太子の事を心配しつつ、デバイスを頼りに西にある湖を目指して歩き始めた。
【一日目/深夜/B-4森】
【小野妹子@増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和】
[状態]:健康、B-2湖へ移動中
[装備]:小鉄のリコーダー@浦安鉄筋家族
[所持品]:基本支給品一式
[思考・行動]:
0:殺し合いには乗らない。とにかく聖徳太子を探す。
1:とりあえずB-2の湖へ行ってみよう。まともな武器も欲しい。
2:襲われたら逃げる。
[備考]:
※単行本第九巻第168幕「聖徳太子の持っている木の棒」より後からの参戦です。
≪支給品紹介≫
【小鉄のリコーダー@浦安鉄筋家族】
主人公・大沢木小鉄少年が愛用するリコーダー。
吹くと大巨人(事故により記憶喪失となった有名プロレスラー)を召喚出来る。
しかし本ロワでは大巨人がいないため、ただのリコーダー。
最終更新:2010年01月03日 11:31