2話「森の反則王女にご用心」
H-8森。会場マップの東南端、隅の隅に当たるこの場所で、
白い半袖のパーカーの下に黒いYシャツを着込んだ青年、
石川清隆はゲームを開始した。
「マジ有り得ねぇよ、
殺し合いとか。俺、ただの大学生だぜ?」
清隆はバイトをしながら地元の大学に通う平均的な今時の若者だった。
当然、今自分が置かれている状況には全く納得がいかない。
なぜ戦闘経験も無い一般人である自分が殺し合いなどしなくてはいけないのか。
しかも今現在自分がいるのは暗い森の中。
空からの月明かりによって多少は視界は利くが、それでも夜の樹海の中に一人きりという状況は、
成人男性である清隆でも不安や恐怖心を抱かずにはいられない。
「はぁ……とにかく支給品を確認するか」
そう言って、清隆は足元に落ちていたデイパックを拾い上げ、適当な木の根元に座り中身を確かめる。
参加者名簿に目を通すが、どうやら自分の知り合いは一人もいないようだ。
「
石川清憲」という、自分とよく似た名前が少し気になったが、知り合いで無い事は確かなのでそのまま置いておいた。
現在位置が分かるというデバイス――小型端末機を使ってみると、この辺はエリアH-8らしい。
地図を見ると、マップの本当に隅の方だという事が分かった。
地図の外に出たらどうなるか、という考えが清隆の頭を過ったが、
首にはめられた首輪の事を思い出し、思い止まった。
主催者である
セイファートに逆らったり、無理に外そうとしたり、逃げようとすれば、この首輪は爆発するらしい。
あの円形ホール内で首輪を爆破されて殺された夢野カケラという男のようにはなりたくは無い。
そしてメモ帳とボールペン、ランタン、水とコッペパンの次に出てきた物は、
小型のリボルバー拳銃とその予備弾薬、そしてガントレットという籠手だった。
アタリを引いたと、清隆は思わず笑みをこぼす。
ガントレットを左腕に装着し、右手にリボルバー拳銃――38口径短銃を装備し、
清隆はこれからどうしようか考える。
「知り合いもいないしなぁ、最後の一人になんないと帰れないって言うし、
乗るか? 乗っちまうか? 殺し合いに、いや……待て……」
「そこのお方」
「ん?」
不意に聞こえた女性の声に清隆が振り向くと、暗くて分かりにくいが、
ドレスを着た、どこかの国のお姫様のような美しい女性が立っていた。
しかし、その背中にはまるで悪魔のような大きな翼が生えていた。
そのいでたちにも清隆は異様さを覚えたが、それよりも何よりも、
その女性が持っている得物に、清隆の表情が凍り付く。
女性は柔和な口調で清隆に話し掛けてきた。
「あなたもこの殺し合いの参加者ですか。私もです。全く不運ですね」
「そ、そうだな、全く参っちまうよ。えーと、何か用?」
とりあえず適当に受け答えする清隆だったが、その足は既に逃げ出す準備を始めていた。
別段、普段から直感に優れている訳でも無い普通の人間である清隆だったが、
なぜかこの時は、第六感が異常な程警告を発していた、
この女はヤバイ、早く逃げた方がいい、と。
「……私はリリア・ミスティーズと申します。
あなたのお名前をお聞かせ頂けますか?」
「俺? えと、俺は石川清隆って言うんだ。ただのしがない大学生だよ。
外国の人なの? 日本語うまいね。で、何か用なの?」
「はい。会ったばかりで誠に申し訳ありませんが……」
清隆はとても嫌な予感を感じた。
そしてその予感は、すぐに現実のものとなる。
「死んで下さい」
リリア・ミスティーズと名乗った女性は、手に持ったドラムマガジン式の短機関銃、
USSR PPSh41の銃口を清隆に向け、引き金を引いた――。
「うわああああああ!! やめろマジ勘弁してくれ!! 正気かテメェェェェェ!!?」
「勿論正気ですよ? だからこそこのゲームのルールに則っているんじゃないですか」
「そういう問題じゃねぇだろおおおおおお!!!」
夜の森を、必死の形相で疾走する青年と、それを追跡し、
手にした短機関銃を青年に向けて発砲する、赤い翼を持った青いドレスの美しい女性。
青年――石川清隆は咄嗟の判断とも言うべきか、リリアが放った最初の射撃を、
ギリギリの所でかわす事に成功した。
その後はもはや無我夢中。脇目も振らずリリアからの逃走を試みる。
「抵抗しなければ、案外あっさりと死ねると思いますがねぇ」
そう言いながら、リリアは再びPPSh41の引き金を引く。
銃口から高速で連続発射される無数の7.62×25㎜トカレフ弾の弾頭が、
前方を走る清隆に容赦無く襲い掛かる。
「ひいいいいいい!!」
清隆は真っ直ぐでは無く、右へ左へ進路を変えつつ逃げていたので、
弾丸は運良く木の幹や地面に着弾し、清隆には当たらなかった。
清隆は反撃する事も考えたが、立ち止まれば瞬殺される可能性が高い上に、
こちらは装弾数6発の単発銃、向こうは多装弾のドラムマガジン式短機関銃であり、
火力的にも圧倒的に不利であった。
「ふう。あまり弾を無駄遣いしたく無いんですよ。さっさと死んで下さい」
「ふっざけんなあああ!! 死にたくねええええええ!!!」
森の中に、青年の叫び声と銃声がしばらく木霊した。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ、な、何とか、逃げ切った、みてぇだ……」
清隆は肩で息をしながら、森を抜け、月明かりによって照らされた草原に出ていた。
あのリリアという女性は追いかけてこない。どうやら、撒いたようだ。
あれだけの弾幕の中で怪我一つ負わなかったのは、奇跡に近い。
だが、かなり走ったせいで疲労していた。
「畜生……殺し合いに乗ってる奴は、やっぱりいるのか……」
清隆は正直な所、本当に殺し合いなど行われるのかと、まだ半信半疑な部分があった。
自分は夢を見ているのではないか、或いは、どこかのテレビ番組の悪質極まりないドッキリなのではないか、と。
だがついさっき出会ったリリアと名乗った翼の生えたドレス姿の女性に、
短機関銃で殺されかけた事により、そんな甘い憶測は潰える事になった。
やはり殺し合いは始まっている。もしかしたら、既に死人が出ているのかもしれない。
――殺さなければ、自分が殺される。
「やるしかねぇのか……!?」
右手に持った38口径短銃をまじまじと見つめ、
清隆は決断しなければならないと知る。
人を殺す、という事を。
【一日目/深夜/G-6草原】
【石川清隆@オリキャラ】
[状態]:肉体的疲労(中)、葛藤
[装備]:38口径短銃@SIREN(6/6)、ガントレット@FEDA
[所持品]:基本支給品一式、38sp弾(30)
[思考・行動]:
0:殺し合いに乗るしか無いのかよ……!?
1:リリア・ミスティーズという女には注意。
2:「石川清憲」が少し気になる。
[備考]:
※リリア・ミスティーズの名前と容姿を把握しました。
※自分と似た名前の「石川清憲」なる人物が少し気になっています。
◆◆◆
「逃がしたか……チッ」
銃口から未だ煙を吹き上げる短機関銃、PPSh41を携えながら、
リリア・ミスティーズは森の中で舌打ちを打つ。
「それにしても、本当に面倒な事になったわね」
折角長年自分の王家を苦しめ、さらに自分や兄まで殺そうとした変態マント、もとい、
ガレス・レクイエムをぶちのめし、帰還したというのに、
気がついたら妙な狼獣人の女が催しているこの殺し合いとやらに参加させられていた。
しかも首に窮屈な首輪まではめられたのだ。
この首輪は無理に外そうとしたり、セイファートと名乗った狼獣人の女に刃向かったりすれば、
爆発して死んでしまうらしい。
「この私に首枷をはめて殺し合いを強要させるなど……あのセイファートという女には、
思い知らせる必要がありそうね」
唯我独尊、傍若無人、残忍卑劣、冷酷無比。
そんな四文字熟語が実によく似合う彼女にとって、全く知りもしない他人から殺し合いを強制されるという事は、
到底受け入れられるものでは無い。むしろ彼女はそういった事を他人に強制する方が合っている。
この殺し合いの主催者、セイファートとやらに制裁を下す必要があると、
彼女は判断した。
ならば、手っ取り早く主催者の元へ行く方法は何か。
それはやはり――このゲームの優勝者になる事だろう。
あの女の言いなりになるのは不本意ではあったが、名簿を見る限りでは、
この殺し合いには自分の兄、クリスや伯父であるレオン、
その紹介で仲間になったスケープゴート兼非常食の子竜、バン、
ミスティーズ王家第15代王女であり、自分の曾祖父の妹にあたるが、
時の魔石の力で14歳の少女の姿と精神のままだったティアなどの、
自分の知っている人間の名前は一人も見当たらなかった。
元々殺人に対して忌避感もさほど抱いていない危険な思想を持つリリアにとって、
目的のために見ず知らずの他人を殺害する事など造作も無い事であった。
「ミスティーズ王家第18代王女、リリア・ミスティーズ……セイファートとやら、
この私をこんな下らないゲームに参加させた事、後悔させてやるわ。
すぐにアンタの所へ行ってやるから、覚悟しておきなさい……」
自身のランダム支給品、USSR PPSh41を構えながら、
翼を持った悪魔、もとい、リリア・ミスティーズは、この殺し合いの主催者へ挑戦状を叩き付ける。
その目的のためならば優勝する事も彼女は厭わない。
余談だが彼女に支給されたPPSh41には「ペーペーシャ」という俗称がある。
製造国であるソ連の母国語、ロシア語で「殺せ、殺せ」という意味である。
制式名とかけられたものだが、支給された彼女に相応しい言葉に思えてならない。
【一日目/深夜/H-6森】
【リリア・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:健康
[装備]:USSR PPSh41(10/71)
[所持品]:基本支給品一式、PPSh41の予備ドラムマガジン(5)
[思考・行動]:
0:主催者セイファートに鉄槌を下す。そのために優勝する。
1:目に付いた参加者から皆殺しにしていく。
[備考]:
※本編でガレスを倒し、監獄城から脱出し帰還した直後からの参戦です。
※彼女の身体能力や必殺技に制限が設けられているかどうかは現時点では不明です。
※H-6、H-7、H-8に銃声が響き渡りました。
≪オリキャラ紹介≫
【名前】石川清隆(いしかわ・きよたか)
【年齢】21
【性別】男
【職業】大学生
【性格】軽い
【身体的特徴】髪を明るい茶色に染めている今時の若者、中肉中背
【服装】半袖のパーカーの下に黒いYシャツ、ジーンズにスニーカー
【趣味】メール、音楽鑑賞、合コン
【特技】特に無し
【経歴】彼なりに平凡な普通の人生を送ってきた
【備考】これといって特筆すべき所は無いごく普通の一般人
≪支給品紹介≫
【38口径短銃@SIREN】
城聖大学の講師、竹内多聞が故郷である羽生蛇村を教え子の安野依子と共に訪れる際、
携行していた小型リボルバー拳銃。どのような経路で入手したのかは謎。
ゲーム中においては、後にこの拳銃は別の人物の手に渡る事に。
【ガントレット@FEDA】
いわゆる籠手。手を防護するために着用する防具の一種。
【USSR PPSh41】
旧ソ連が1941年に制式化したゲオルグ・シュパギン技師開発の短機関銃。
PPSh41は、Pistolet-Pulemjot Shpagina (Пистолет-пулемёт Шпагина)1941:
シュパギン式短機関銃1941年型という意味。
ドラムマガジンを採用し装弾数71発と多装弾で、取り回しも良い。
ソ連軍では制式名であるPPShとかけて、ペーペーシャ(意味:殺せ殺せ)と呼ばれていた。
最終更新:2010年01月09日 16:40