最期通牒

32◆最期通牒




 ――優勝者。
 ――主催の尖兵。

「優勝者……それに、主催の尖兵って? おいおい」
「主催とつながってる? 主催……??」

 スピーカーから聞こえてきたその言葉を前に強く反応を見せたのは、
 優柔不断と切磋琢磨の二人だった。
 もとより彼らは傍若無人にほとんど一瞬しか会っておらず、しかもあまり細かいことを気にしない性格だ。
 傍若無人に関しても、完全に”少し雰囲気の違う参加者、あと強い”くらいにしか思っていなかった。
 そこへこの、突然の宣言。
 思わず口をぽかんとあけ、目を瞬かせててしまったのも無理はないことだった。
 ただ、彼らも疑念を抱いていたことはあった。
 第一放送において奇々怪々は、”この短時間で放送を行うのは珍しいケース”と行っていた。
 だから、少なくとも”実験”は、一度や二度ではなく。
 そして……その都度、今回に似た殺し合いが行われただろうという推測は、全員が持っていた。
 今。その推測が、
 確定ではなくともリアルな存在となってスピーカーの向こうに居る。
 前回の四字熟語バトルロワイアル優勝者、首狩りの大男は。
 主催とつながっているという今回における自らの立場をまず明かし、身勝手な放送を続けていく。

『始めに言っておこう。己の言う主催というのは、死者の放送を任されているあの小娘――奇々怪々ではない。
 あの小娘は助手にすぎん。この実験の主催は他に居る。己も会ったのは、前回優勝時の一度きりだがな。
 今思い出しても末恐ろしいモノだ。”あれ”はとてもこんなふざけた催しを開くモノには見えなかった。
 しかし……だからこそ、幼子が公園で蟻をたわむれに殺すようにして、”あれ”は人を殺すのだろうな』

 驚く二人の傍らに立つ少女、勇気凛々は、
 二人に比べればショックは少なく、放送を不思議な心境で聞いていた。
 何かおかしい、と思う出来事はあった。
 傍若無人との遭遇時、大男は勇気凛々のルール能力をあらかじめ知っているような口ぶりを見せていた。
 参加者には知らされないはずの、他の参加者のルール能力を知っている。不可思議だった。
 だが、傍若無人が主催と通じているなら納得できる。
 恐らくは主催陣営からのアドバンテージか何かを貰っていたのだ、と、推測することが出来る。
 ……この推測は、続く大男の語りですぐに肯定された。
 そしてさらに、傍若無人は、B-2に残る五人が知るはずもないこの実験の裏事情を、次々と明かしていった。

『本題に入ろうか。まずは己が今回受けた依頼についてだ。といっても単純なものだがな。
 要するに、実験に対する保険。基本はマーダーとして動き、停滞が起きるようならそれを進行させる役回りだ。
 あくまでも保険、故に己と参加者との明確な違いは二つしかない。
 己の名簿には特別措置として、全参加者の初期配置と大まかなルール能力が記載されていることが一つ。
 そしてもう一つは――”己だけが前回のルールを引き継いでいる”ということだ。
 一千万円。
 前回の殺し合いでは、優勝者に対し、
 殺害人数ひとりにつき一千万円が支払われる仕組みになっていた。
 参加費もまた一千万円。優勝すれば五千万円だ。己は五人殺して、合わせて一億を得た。
 今でも覚えている。四捨五入、鎧袖一触、竜頭蛇尾、ほかにも……中々の強敵だった。
 あのモノどもともまた殺し合ってみたいものだが、もはや叶わんのが辛いところだな。
 ・……ああ、そうだ。
 ”前回の己は参加費を払った”。
 己とモノどもの決定的な差異にもう一つ加えるなら、それだろうな。
 前回の実験は”文字紙の招待状”による拉致ではない。自主的に集まった者たちによる殺し合いだ。
 詳しくは知らんが、主催側は交互に”資金集めを兼ねた実験”と”本格的な実験”を繰り返している。
 ”資金集め”に関しては、各所から道楽者や人生に生き詰った者を集めて行っていたが、
 ”本格的な実験”の参加者は、記憶を操作して完全なモルモットにしているという訳だ。――さて、』

 ここまで言えばモノどもにも分かるだろう? と。
 放送が始まってから初めて、傍若無人はスピーカーの向こうの五人に問いかけるような言葉を発した。
 拡声器を握る紆余曲折はつとめて冷静にそれに応えようと口を開きかけた。
 ……が、その前に横から手が伸びて、彼が持っていた拡声器を乱暴にひったくった。

「ああ、分かったぜ」

 ふてくされたような目で拡声器を構え、遠くの娯楽施設に向かって言葉を差し込んだのは一刀両断だった。

「つまりお前は――単純にあたしたちに潰し合ってほしくなかったんだな。
 楽に優勝するより、五人殺して優勝したほうが金が稼げるから、このタイミングで”取引”を持ちかけたんだ」

 真っ直ぐな声に余雑な感情は混じっていない。
 一度逃げおおせた経験があるからか、彼女には傍若無人に対する畏怖は無いようだった。
 傍若無人の方もそれを分かっているらしく、見透かしたような一刀両断の言葉を素直に受け入れた。

『ほう、さすがだな。そうだ』

 いや、受け入れはしたものの。その次にすぐ、否定した。

『……と言いたいところだが、少しばかり的外れだな、一刀両断』
「何だと?」
『前回に関しては確かに、己も金策で参加した側だった。しかし、前回の優勝で、己には充分な金が入った。
 なのになぜ己がまた嬉々として殺し合いに参加しようとしたのか。それを分かれと、言ったのだ』

 ――ぞわり、と。
 五人の背筋にそのとき走ったのは、確かに怖気と呼べるものだった。
 ……傍若無人が”取引”にて要求してくることが何なのか、この少し前まででほぼ全員が推測は出来ていた。 
 とくに紆余曲折たち三名と勇気凛々・優柔不断のコンビの衝突を妨げたその時点で、
 包帯で顔を覆った少年――紆余曲折にはある程度、”その要求”をされる覚悟があった。
 だが、実際にそんな馬鹿なことを要求してくる者がいるのか? という疑念は消えなかった。
 その結果が拡声器による問いかけだ。
 始めの「何が目的なのか?」という問いには、
 傍若無人の要求自体ではなく、その動機部分を語らせる目的があったのだ。
 目論みどおり傍若無人は彼らに対し、素性と、前回のルールの引き継ぎという特殊条件を語った。
 そこから紆余曲折は、そして他五名は、先の一刀両断と同じような思想に至った。
 ”傍若無人は金のために自分たちを生かしたのだ”と、そう思考するに至った。
 しかし。たった今放たれた傍若無人の言葉は、これを否定した。
 金のためでないとしたら……? 彼らの中に浮かぶ答えは、ひとつしかない。

『さあ、”取引”を始めよう。己の要求は”最終戦”。
 己とモノども、一対五で最後の殺し合いを行う、ただそれだけだ。
 場所はこちらが、時間はそちらが決める。指定された時間になったら、もう一度ここから放送を行う。
 ルールは至って単純。――――己はモノどもを殺す。――モノどもは、己を止めてみるがいい。
 もし。万が一、己が負けるようなことがあれば、己は己の持つ”情報”を開示しよう』

 スピーカーから聞こえる声は、尊大な言い回しでB-2の五人に最期通牒を突き付けた。
 ノイズをかき分けて現れるようなその声は、奇々怪々の放送と何ら変わらない。
 ところで。
 放送は先の話(29話C)で言及されたとおり、”モニタールーム”から行われていた。
 奇々怪々はずっとそこにいる。そして、奇々怪々は娯楽施設内にはいない。
 これは会場全体をそのルール能力で見回した少女が、奇々怪々の姿を捉えていないことからも明らかだ。
 つまり。放送は外部から行われている。
 この娯楽施設には、主催が造った空間には、放送に使えるような設備が存在する必要性は無い……。
 いや、断言してしまおう。仮想ショッピングセンター娯楽施設に”放送室”は存在しない。
 では傍若無人は、どこからこの放送を行っているのか?

『己の持つ”情報”……この娯楽施設からの”脱出方法”を、教えてやる』

 小さなマイクとモニターに向かって顔を向けながら、
 最後の条件を五名のモノどもに叩きつけるようにして提示し、傍若無人は小さく息を整えた。
 そう、”最終戦”は優勝者を決めるものではない。ゆえに最終決戦ではない。
 大男が勝てばすべてが死に絶える――大男が負ければすべてが生き延びる。
 それだけの、とてもシンプルな二者択一なのだ。
 ようやくここまで持ってきた。あとは全てが上手くいくことを、自分に祈るだけだった。
 古びたモニターの向こう、紆余曲折たち五人はざわついている。
 当然だ。”脱出の可能性の存在”が提示された今・……彼らにとってはこれまでの苦労が、
 殺し合いのルールに乗っとって行った出来事が、すべて無に帰すかもしれない状況なのだから。
 箱庭に首輪をつけて閉じ込められた参加者たちは、その箱から出られないと思い込む。
 ルール能力という名のルールに縛られている事実が彼らの思考をさらに核心から遠ざける。
 結局、第二放送に至るまで、脱出の可能性を真剣に検討したのは一望千里ただ一人のみだった。
 彼女だけが、本質をついていた。
 本人にその意識はなかったとしても、軽妙洒脱以外の誰にもその心を知られず死んでいった彼女だけが、
 この実験のルールの裏に隠された真実にたどり着きかけていた。
 とある条件を満たした時。この娯楽施設のある場所に、脱出のための扉が開く。
 全員にそのチャンスはあった。――この娯楽施設に送られた段階で、等しく、平等に。

「……無論、全員が生きて帰れるようなおとぎ話は、存在しないが」

 ただ、傍若無人は今の放送、彼らに希望を与えるために意図的に情報を小出しにし、バイアスをかけている。
 嘘こそついていないものの真実も口にしていない。言葉のあやとりは複雑に、何重にも現実を覆い隠す。

「見ていろ、”雷鳥”。此度の実験……己の”勝ち”で終わらせてやろう」

 マイクに入らないように呟く淡々としたその声には、表情というものが無い。
 だが珍しく、感情はあった。体の中心で炎が燃え盛っているかのような……意思のかけらが、垣間見えていた。
 大男にはまだ、隠していることがいくつかある。
 おそらくそれは墓場まで持っていくことになる秘密だろうと彼は思っている。
 モニターの向こう、紆余曲折が拡声器を持ち”取引”に答える旨の発言を行い始めたのを、彼は静かに聞いた。
 ――”最終戦”。
 ――時刻指定は、四時間後。
 ――場所はC-1・中央階段で行うと、彼はすでに決めている。


【???/????????】


【傍若無人/主催の尖兵】
【状態】太股に刺し傷
【装備】斧
【持ち物】????
【ルール能力】不明
【スタンス】???? 



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生員集合 一刀両断 休憩時間
生員集合 切磋琢磨 休憩時間
生員集合 優柔不断 休憩時間
生員集合 勇気凛々 休憩時間
生員集合 傍若無人 休憩時間

用語解説

【一千万円】
宝くじほどではないにせよとにかくすごい額。
クイズ番組の賞金だったり、うまい棒が百万本買える値段でもある。
子供一人の大学までの学費の合計がこのくらいの金額ではないかという説もある。

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最終更新:2013年02月05日 01:49
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