ex40.5#得意料理は、焼き魚
C-1、2階。
「和食の店」と書かれた看板がある、和食メインの店。
日本の古き良き食卓を再現しますの宣伝文句のもと、メニュー表にはそれらしき食事が並ぶ。
中でもとくに目を引くのが、Aランチ・
焼魚定食だった。
メニュー表のいちばん目立つところに載っているくせに質素で、かつ目新しさは全くなし。
焼き魚。塩味のもの。
味噌汁。わかめと豆腐。
つけもの。白菜の簡単なもの。
そして銀シャリのどんぶり。ふりかけは無し。
もちろんこの質素さ通りの安さだが、誰がこんなのわざわざ食いに来るのだろうか?
一刀両断は店に入ってメニューを見た瞬間そう思ったものだが、
意外にも、傍若無人がリクエストしたのはその焼魚定食だった。
“――――ex28.5♯得意料理は、焼き魚”
味噌汁の仕込みは終わり、炊飯器も残り10分で炊けるとサインを出した。
漬け物は最初から出来上がったものを冷蔵庫から出して盛り付けるだけなので、残りは焼き魚だけだ。
一刀両断は鉄網に油を軽く塗り、
グリルに少々の水を入れたあと、魚の切り身を網にくっつかないように上手く載せる。
この載せ方がコツといえばコツ、あとは火加減の調整と、どれくらい焼くかの調整がすべてだ。
料理は得意だった。
とくに焼き魚は完璧に出来る自信がある。
「おい。味付けは」
「薄めで頼む」
「りょーかい」
見知らぬ人に合わせた味付け方のバランスすら、一刀両断にとっては朝飯前だ。
自分にとっては慣れ親しい家庭的なキッチンに酷似しているこの厨房もやりやすい。
そう、慣れと親しみ。
それがすべてだ。疑問に思っていたことももう解けた。
料理を始めたときにはすでに一刀両断は、この「和食の店」のコンセプトを完全に理解していた。
質素かつ安い、しかし家庭的な食事は、それを作ってくれる人が居ない人のためにある。
昭和時代のキッチンのような形になっている厨房は、客席から見えるようになっており、
そこで料理を作っている人が居ることを客に見せることもパフォーマンスの一つになっている。
人がいる。自分のために料理を作ってくれている。
あたたかみ、やさしさ、その気持ちこそを、ここは売っている。
「和食の店」は、「和」を「食」べる店でもある、ということだ。
「にしても、契約結んで最初の仕事がこれとはな……」
一刀両断は厨房からテーブルの方を見る。
傍若無人がテーブルに座って、焼魚定食が出来上がるのをじっと待っている。
正規の参加者ではなく――主催側、なのだという。
娯楽施設のことは細かく理解している、と言っていた。
それでいてわざわざこんな店に入るなんて、あいつはよほど寂しい奴なのだろうな。
一刀両断はため息をついた。
「料理作ってやんなら、別の奴が良かったぜ」
でもそのため息は白くはならない。
娯楽施設内の空気は基本的にちょうどよい温度に保たれている。
代わりに、横にあった味噌汁の鍋から白い蒸気煙が勢いよく出始めた。
火を弱めてもよい合図だ。一刀両断はガスコンロを操作した。
◇◆◆◆
この少し前。
紆余曲折達から離れて娯楽施設を駆けていた一刀両断は、
中央階段下で勇気凛々をいたぶる傍若無人の姿を視界にとらえた。
なんてでけえやつだ。が第一印象だった。
大男、という形容がぴったりのその存在感や威圧感は、離れた場所からも感じ取れた。
一刀両断は思案した。どうするか。
このとき、彼女がするべきことはすでに二つあった。
ひとつは日本刀を探すこと。
そうでなくとも、今後のことを考えると武器は必要だ。
もう一つは、破顔一笑の殺害。
紆余曲折の切り札を機能させるために、
一刀両断は破顔一笑を
第二放送までの死者に加えようと考えていた。
これらの目的を鑑みれば、ここで一刀両断が中央階段の戦いに関わるのは、
目的達成パーセンテージを下げる危険な行為である、と言える。
傍若無人にちょっかいを出し、相討ちしやすくなるよう操作できれば悪くはないのだが……と。
「……!?」
より広く周りを検分した一刀両断は、新たな思考材料を見つけた。
階段の影に隠れて何か迷っているもうひとりの参加者が、優柔不断。
彼が持っている、日本刀。
そして中央階段から少し離れた場所にある4つの死体。
軽妙洒脱に一望千里、首がつぶされて誰だか分からない物、そして――破顔一笑の首無し死体。
奇しくも彼女が別行動を取った理由の全てがこの場所に集約しているのに、気づいたのだ。
「な、なんっつーおあつらえ向きな……」
こうなれば、一刀両断の選択肢は一つに絞られる。
「こんなん、後は待ってるだけでいいじゃねーか」
――傍若無人は勇気凛々をいたぶっている。このまま待てば少女は死ぬだろう。
優柔不断はおそらく彼女を助けようとしているのだろうが、
日本刀一本で傍若無人に勝てるとは思えない。返り討ちでこちらも殺されるだろう。
結果、この場には二人の死体と傍若無人が残る。
その結果が出る瞬間の隙をついて一刀両断が日本刀を奪い、
傍若無人になんらかの挑発やら、傷を与えてから逃げれば、仕込みは完了する。
もし優柔不断が勇気凛々が殺されるまで迷い続けて動かないようならば、
それはそれでいい。一刀両断にはレストラン街で調達しておいた長包丁がある。
優柔不断をこれで殺すのみだ。
どう転ぼうと、紆余曲折と一刀両断にとっては上手い状況に好転するだろう。
「いや、むしろ優柔不断をさっさと殺して日本刀を手に入れるってのもありか……?
さすがに傍若無人には感づかれるだろーけど、
すぐ立ち去ればまだ生きてる勇気凛々に対処せざるを得ねーし……」
彼女が思案している間にも、中央階段下では勇気凛々と傍若無人の不毛なシークエンスが続いていた。
見つけてからの時間範囲だけでも、もう三回。
少女が大男に馬鹿な突撃を仕掛け、大男がそれをいなして、弾き飛ばす流れが続いていた。
度重なる傍若無人からのカウンター攻撃をもろに食らい続けて、勇気凛々はボロボロだ。
力尽きた彼女が傍若無人に殺されるのも時間の問題だろうと思えた。このままならば。
「……にしても。……なんかおかしくねーか?」
しかし、そのシークエンスを眺めていた彼女は、微かな違和感を覚えた。
勇気凛々には違和感は覚えない。
何故あんなに自暴自棄になってるのかは少し気にかかるが、それだけだ。
問題なのは傍若無人の方だ。
勇気凛々を蹴り飛ばしたり、殴り飛ばしたりしながら、
大男はひどくイライラしているように見える。
普通は嬉しそうな顔をしたり、見下すような顔をするのではないか?
おそらく首の切り口からみて破顔一笑をも殺した大男が、
ボロボロの勇気凛々を殺すことが出来ないわけがないのだが……?
『いい加減に負けを認めろ、娘。これ以上抗うな。
静かにせねば、まともに”送って”やることができないだろう』
いや、待て……。
「まさか、あいつ……?」
勇気凛々に対して投げかけられた傍若無人の言葉に、
一刀両断は考えかけていた行動の全てを、考え直さざるを得なくなった。
「……なんだか分からねーが、あたしと“同じ”ってことか――?」
◆◇◆◆
一刀両断は作戦を変えた。
優柔不断の背中を蹴り飛ばし、勇気凛々を助けさせることにした。
「いただき、っと」
次いで自分も用意しておいた手すりのがれきを降らせて援護し、
さらに隙を突いて傍若無人の手から日本刀を奪い取った。
慣れ親しんだ、というほどではないが、懐かしさを感じる感触がした。
「あんたがタクマが言ってた傍若無人だな。悪いが、この日本刀は返してもらったぜ。大切なものなんだ。
出来ればこのままとんずらしたいところだが……許してくれたりする?」
「……冗談は冥土で言え」
「メイドでなら言えるぜ。かしこまりました、お客様」
床へ舞い降りた一刀両断は傍若無人に対峙する。
戦場への参加にこんな方法をとった時点で、これは避けられない交戦だ。
ただ、ガチでやりあう気はない。
一刀両断はうまくいなして逃げようとした。しかし、
「会計は命だ、一刀両断」
「……あたしが払うのかよ」
わずか数分後、喉に斧が当てられる。
その背後、日本刀は壁に刺さっている。
《蟷螂の斧》の能力で、日本刀が弾かれたのだ。
一刀両断は両手を挙げて降伏のポーズをとった。そして、深く息を吐いた。
そうそう上手くはいかないものだ。だが、まだ策はある。
作戦を変えた理由、
変えざるを得なかった理由を、この大男にぶつけるという策が。
「なあ、傍若無人」
「何だ」
「中々どうして、無機質な殺戮マシーンだと思っていたけどよ。
お前、けっこう人間らしい感情も持ってんだな?
その受け答えといい……あたしを“すぐ殺さない”ことと言い」
「……」
傍若無人の眉間にしわが寄った。図星なのだろう。
そう、一刀両断には逃げられずとも、すぐには殺されない確信のようなものがあった。
――勇気凛々たちを助けた形になる一刀両断を、傍若無人はすぐには殺さないと。
「あの小せえのもずいぶんといたぶってたなあ、さっきまで。
本当にじわじわと殺すつもりだったんだろうなあ。助けられて行っちまって、悔しいな?
なあんて……実際にゃ、ほっとしてるんじゃねーか、お前?」
「……!」
「なあ、傍若無人。お前――何か知られちゃいけねえことがあるんじゃねえか?」
一刀両断は、斬り込んだ。
「お前の行動、ちょいとおかしいぜ。普通の参加者の動きじゃねえ。
あたしがタクマから聞いた話だけなら、大した疑問にゃならなかったが。
さっきまでのここでの戦闘――それにお前の“言動”。明らかにおかしいよな。
お前は勇気凛々のことだけ“特別扱い”している。あたしが紆余を特別扱いするように、だ」
「……待て」
「それだけじゃない。あたしの推測が正しいんなら、お前は。
勇気凛々当人には、自分がしている特別扱いを……知られたくないみたいだな?
じゃなきゃ、殴りながらあんな“鬼みたいな表情”しないもんなあ」
「待て。それ以上の発言をするな」
傍若無人の顔に焦りの色が浮かんだ。
脈アリだ。一刀両断はダメ押しの論理を展開していく。
「あたしの推測を軸に考えてみれば、お前の行動にはすべて説明がつく。
つまり、一見してただの無差別マーダーにも見えるお前は、ただのハリボテであって。
何らかの事情で隠している本性……本当の目的は――――――」
「――黙れ、一刀両断」
突然だった。
狼狽えながらの勢いに任せた突き。
「っと」
一刀両断は冷静にしゃがんで、斧の攻撃から身をかわした。
風になびいたポニーテールだけが斧の刃に触れて、綺麗に切り裂かれて風に舞う。
急に頭が軽くなり、はらり、はらり。
「わっ……あちゃー、あたし自慢のポニテが……」
「……」
「まあいいや。でだ、えっと。こうきたってことはだ。
つまりお前は……“目的を誰かに言われた瞬間に、ペナルティがある”、そうだな?」
「……そうだ」
「じゃあたったいまあたしは、お前の心臓を掴んだことになるなァ、傍若無人」
ざっくばらんになった髪を左手で確かめながら、
勝利を確信した一刀両断は、右手で見せつけるように、宙を掴んだ。
「お前は、あたしたちの計画に――駒として組み込まれても、文句は言えないわけだ」
「そうだな」
掴まれた傍若無人は、何かを諦めたようなぶっきらぼうな返答をすると、
中央階段下広間の隅に向かって歩きながら、こう続けた。
それは、
張子の車と同じくらい見せかけの外見を作ってきた、
人をモノとして扱わう演技を徹底して、中身を隠してきた男の……内情の吐露だった。
「もはや隠す意味も無い。己は、正規の参加者とは別のルールで動いている。
己は奇々怪々に――あの娘に、実験ではなく、ゲームを申し込まれたのだ。
本人に知られることなく、助けられるか、助けられないか。人の意志など無視した、ふざけたゲームをな」
憂いを含んだ表情で歩き、
とある地点で立ち止まった傍若無人は、
しゃがみこんで、床に落ちていたモノを拾う。
「……お前という四字熟語に敬意を表し、言おう。……一刀両断。感謝する。
お前がああしていなかったら、己は――大切な存在を、自らの手で殺していた」
傍若無人の大きな手の中で、照明の光を反射しながら小さく輝くそれは、
不毛なシークエンスの果てに勇気凛々の髪から外れた、彼女の鈴なりの髪留めの一つだ。
大男はそれを、悲しそうな目で見つめ……、
意を決したように、一刀両断のほうに振り返る。
「一刀両断。お前が生き残らせたいのは、一人か」
「ん? ……ああ。そうだが」
「ならば己は。たった一つの条件の下にお前の駒と成ることができる。
――己が知っていて、お前に教えることができる、すべての情報を伝えることも。
お前たちの作戦に組み込まれることも、いといはすまい。
しかしひとつだけ。己からの要求を、聞くことだけはして欲しい」
傍若無人は懇願した。
「この実験で生き残ることができる、“二人”。その片割れに成る権利を、
あの娘に、あげてほしい。……己の望みは。己には……もう、それだけなのだ」
大きい身体を窮屈そうに折り曲げてお辞儀をする傍若無人の姿を見ながら、
一刀両断はほんの一瞬、告げられた情報に動揺した。
しかしすぐに取り戻す。「ふうん」と鼻で笑えるような、刃のような冷たさを。
「そうか。それなら別に、あたしも問題ないぜ。よろしくな、傍若無人」
生き残ることを諦めた二人が、
満足する死へと向かうための同盟が、こうして結成された。
「んじゃ、詳しい話を聞こうじゃねーか……ランチでも食いながら、な」
「いいだろう。だが己は料理は苦手だ」
「どのレベルで?」
「ハンバーガーを作ろうとしたことがある。爆発した」
「ちょっと意味わかんないぞそれ!?」
――なお、料理担当は一刀両断になった。
◆◆◇◆
「最終戦を開く」
出来上がった焼魚定食を持っていったところ、猫舌なのでもう少し待つと言われた。
お前にそんな属性いらねえよとツッコみたくなった一刀両断だったが、
それならそれで、このあとどうすんだと促してみたところ、傍若無人は自らの考えを述べた。
「最終戦だ?」
「そうだ。最初から、人数が減ったところでそうしようと考えていた」
娯楽施設に主催側のために隠してある放送施設を使い、傍若無人は放送を行う。
様々な嘘で自分を戦闘狂に見せかけ、
傍若無人に勝てば脱出できるという嘘で参加者を釣り上げ、
そこまでに生き残っているすべての参加者を団結させ、傍若無人と戦わせる。
傍若無人vsその他の構図を作り出す。
「こうすれば、あの娘が他の参加者に殺される可能性は絶無になる。
あとは、あの娘以外を己が殺害することで全てを終わらせる……はずだった」
「……なるほどな。それであいつを、“偶然生き残っただけ”ってことにすれば、
疑われることも無く残り二人まで持っていけるってわけか」
厨房から持ってきた緑茶を飲みながら、
一刀両断は傍若無人の話す「最終戦」構想を脳内で整理した。
非常に危険だが、悪くない作戦ではある。
成功させることができたなら、今後の展開を完全にコントロール出来るだろう。
タクマのことを思えば一人では難しかっただろうが、今回この作戦を行うのは、ひとりではない。
「僥倖なことに、この作戦の成功率は上がっている。己が一人ではなくなったからだ」
「だな。あたしが居るし、紆余も話を通せば協力するだろ。ってことは」
一刀両断は焼魚をほおばってもぐもぐし、嚥下する作業を挟んで、
「1対5に見せかけた3対3ってわけだ。これで騙しきれなかったら、逆にダメだぜ」
「では……これで行く、ということで良いか」
「ああ」
「……感謝する」
「ありがとうはいらねーよ」
白米をかきこんで、味噌汁で流した。
「お前はお前のために、あたしはあたしのためにやるだけだ。
利害の一致以外の何の感情も差し挟まないほうがいいだろ、互いにさ。
特にあたしは、お前を殺す役目を負うんだろ。そんな奴に対して、感謝なんてすんなって。
……殺しにくくなるだろーが」
「……」
「おい。なに見てんだよ」
「頬に白米が付いている」
「げ」
「嘘だ。己には見えん」
「あっそうか。ってお前、変なとこで冗談キメんじゃねーよ……あ」
一刀両断は、このとき確かに見た。
たったひとりで抱え込んでいたものを分け合うことができ、余裕を持ったのか。
どこまで行っても崩れないだろう仏頂面をしていた傍若無人が、
楽しそうに笑ったのを、見た。
◆◆◆◇
――それから二人は細かい段取りを詰めていった。
最終戦を開くタイミング、行う
最期通牒の内容、
また、一刀両断が流すニセ情報の厳選……その他にもいろいろなことを。
方針としては、一刀両断にあえて疑いの目を向けさせる方法を取る。
最終戦を開いた目的や、こちら側が取っている作戦を、
“一刀両断と結託した全滅作戦である”と推理させることで、
その裏に隠した真の目的を絶対に悟られないようにする。
その上で紆余曲折にだけは、真の目的を“ずたずた”で端的に伝える。
一刀両断が圧倒的に疑わしくなることで、逆に彼は疑われない。
そのまま対主催側の推理を誘導してもらう。
対主催の最高戦力――想定では切磋琢磨――には傍若無人が当たる。
最期通牒にて脱出口の存在をちらつかせ、
傍若無人は生け捕りにしないといけないルールを設定することで、
倒したあとに“捕まえる作業”をしなければいけないようにするのだ。
全力で迎え撃ち、傍若無人は倒される。
そして捕まえられている隙をついて、一刀両断に殺害してもらうという手筈である。
「しかしタクマはあいつ、戦いの中で成長するからな……それに最終戦の作戦を取ると、
先に仲間と戦って今より何段階も《強く》なってくるわけだろ? お前、持つのか?」
「分からん。だがやるしかない」
「いや、やるしかないじゃなくてだな……」
切磋琢磨戦についてはとくによく話し合った。
機械系に強い傍若無人は修理したレーダーを作って奇襲を防ぎつつ直線で迎え撃つことを提案、
一刀両断は《蟷螂の斧》であらかじめ床を抜いて落とし穴を作っておくことなどを提案した。
詰めの話し合いはかなりの密度で行われた。
そうこうしている内に、一刀両断は焼魚定食を食べ終える。
食器をしっかりと厨房に戻し、日本刀を再び携えた。
「じゃあ――行くぜ。紆余のことだ、面倒なことに巻き込まれてるかもしれねえ。
“盾”としての仕事をしっかりしなくちゃな」
「残りの情報は、ルール用紙の裏に書いておく。上手く事が運んだら使え」
「運ばせるさ。そうじゃなきゃあたしが生きてる意味が無い」
「頼もしい言葉だ」
「あと! 冷めないうちにちゃんとそれ食えよ! ぜってー美味いからな」
「ああ、食べる。……ときに、一刀両断」
「何だ?」
今にも店から出ようとしている一刀両断に、ここで傍若無人が語りかけてきた。
「お前は……」
傍若無人にはひとつだけ、気にかかっていることがあったのだ。
一刀両断はどうして、自分と「同じ」ように。
他人のために命を捨てるほどの覚悟を……いったいどうして得ているのか。
「……いや、なんでもない。行け」
「? ああ」
だが、それを質問している時間も惜しいと判断し、やめた。
ダッシュで駆けていく一刀両断を見送ったあと、傍若無人は改めて、焼魚定食に向き直った。
色。形、盛り付け。
見るだけで美味しいと分かる素晴らしい出来だ。
きっちりとしている。そうしなければ我慢できないという心が、透けて見えるほどに。
――そう、見れば分かる。
一刀両断はただ、自分に課したものを守ろうとしているだけなのだ。
自分の意志すら時に押し殺して、彼女は何かを守ろうとしている。
「その守るべきものと、いま守りたい気持ちが、一致していれば良いのだがな」
傍若無人は呟くと、手を合わせた。
「では……頂こう」
これも一つの感謝だったな、と、少しばかり思いながら。
最終更新:2015年03月15日 02:56