45◇結果報告(書)
――第n回 文字能力開発試験 結果報告書――
執筆:実験番号030 奇々怪々
1.はじめに
本実験はヒトによる文字の解釈能力を開発する目的で、
2010/10/10に行われた実験の結果報告書である。
前回より導入した専用実験場の生成による初期効率およ
び全体効率、時間効率の上昇は今回の実験においても問
題なく確認できた。また、前回実験の優勝者の協力により、
後期においても効率よく実験を進行させることができ、実
験環境下では初の「文字化け」も確認することができた。
以下に詳細資料を示す。
2.実験詳細
文字を与えた十六名の参加者および二名の協力者を極
限状態に置くことにより、文字の解釈能力を深めさせる実験
を行った。実験は実験番号165「無我夢中」の解釈能力を
用いて生成した娯楽施設により執り行い、監督と進行は奇
々怪々が担った。
第一放送への到達時間は4時間52分と43秒で、前回
の7時間弱を大きく上回るペースとなった。これは、心機一
転の解釈能力となった心理の反転効果に因るものが大き
いと思われる。第二放送はさらに早く、7時間41分00秒で
の放送となった。中央階段付近の混戦や駐車場A地区で
の拡声器の使用により戦闘行為が途切れなかったことが大
きな要因であると考えられる。
その後実験協力者の傍若無人の進言によって4時間の休
憩を挟み、残った参加者と傍若無人の総力戦という形を取る
ことによって、スムーズに最終局面へと実験を進めることに成
功した。最終的に、実験番号017紆余曲折が最後に残った
一人となることで、13時間37分51秒に渡る実験は終了した。
時間に着目すると、これまでの最速記録である22時間(第
b回実験)を大きく上回る結果となった。
解釈能力の開発という点を見ると、交戦回数が十分に取れ
ていたことや、最終総力戦に向けた鍛錬時間がとられたことも
合わせ、実験番号080切磋琢磨(五級→特級相当、文字化
け)や148勇気凛々(四級→準一級相当、継続)の解釈深度
は期待を大きく上回るものになった。深度は下がるものの017
紆余曲折(四級→二級相当、継続)なども進行と共に解釈が
深まった例として挙げられる。また085先手必勝(四級→四級
相当)については、解釈の再定義時に利点と弱点が同時に付
随した特殊な例であった。
074心機一転、063洒々落々、115破顔一笑はさらに特殊
で、こちらの予想した解釈の中でも極めてイレギュラーに近い
解釈が為され、実験の成果として興味深いものになった。
最後まで解釈をほぼ拡大せず長く生き延びた014一刀両断
や四字熟語に馴染むことを放棄した149優柔不断などの例も
データとしては参考になるものが取れた。初期解釈で最も深い
解釈をしたのは、今回は040鏡花水月(一級相当)であった。
3.結果
3.1 階級
解釈能力には、特級から六級までの九段階の評価を独自に
行っている。解釈の自由度が高く、解釈が深いものほど階級の
高い能力とみなし、実験の進行と共に解釈が発展した場合は
再評価している。
3.2 適合率
被験者と被験者に与えた文字との適合率も装置にて観測し
ている。適合率が高いほど解釈を深めやすく、またヒトから文字
へと化けやすい=ヒト離れしやすい傾向にある。
3.3 参加者及び協力者の最終的な資料
3.3.1 実験参加者
参加者の選定は、本研究の到達目標である、理想の可能性
線へ至るための障害となる因子および、因子に近しいヒトの中
からランダムに行った。その際、参加者同士では近親者はいな
いことをひとつの条件として定めている。
000 焼肉定食
階級:データ無し 最終適合率:0%
見せしめとして使用されたため解釈データ無し。見せしめの
窮地に解釈能力が開花するパターンがない訳ではないが、これ
までのデータに照らし合わせれば、一般的に四字熟語として認
識されていない四文字の熟語からの解釈能力は浅いものにな
る場合が多い。もし発現していたとしても、六級相当の解釈能
力であったと思われる。なお、発生した死体は別所で再利用す
る予定。
002 青息吐息
階級:四級→三級相当 最終適合率:57%
吐息が氷になる、文字から感じ取れるイメージを具現化した
タイプの素直な解釈。交戦により、吐息の影響範囲について解
釈が拡大され、範囲が「吐息の音が届いた範囲」まで拡大され
た。細かい所では、唇が腫れてしまったときに能力を発動できな
くなるという現象が見られた。冷たい息が吐ける状態であること
が、発動の意識的なトリガーになっていたのだろうか?
009 一望千里
階級:三級相当 最終適合率:48%
文字通りに解釈して文字通りに強力なパターンの解釈能力。
ただ、範囲は千里先ではなく、自分がフィールド内と認識して
いる範囲までに留まった。逆に言えば、フィールド=地球と認
識できれば、地球のどこにでも目が届くということにも成りえる
可能性を残している。
014 一刀両断
階級:五級相当 最終適合率:92%
物理的特性などを全て無視して刀で切り裂く、比較的文字通
りの解釈。刃物を持っているときにしか発動しないという縛り付け
も常識の範囲内であり、解釈階級は低い。ただ、文字とヒトの適
合率では参加者の中でも初期から高いレベルにあり、その影響
か、身体能力への補正が見られた。
017 紆余曲折
階級:四級→二級相当 最終適合率:75%
攻撃を4秒間迂回させるが、最終的には当初の位置へ攻撃
は行われる、という少々複雑な解釈。文字そのものより文字の
意味に解釈が左右されたパターン。4秒という縛り付けは出自
不明だが、時間あるいは回数制限のある解釈だった場合4か7
の付く数字になる例が多いため、そう特別な解釈の結果という
わけではないのかもしれない。攻撃の定義について数回、解釈
が拡大された。
040 鏡花水月
階級:一級相当 最終適合率:81%
幻覚を見せるのが主という非常に意味に寄った解釈だが、
本人の文字になろうという意思と文字への深い理解が強力な
解釈能力の発現を実現したようで、範囲も展開力も申し分ない
ものになっていた。スタンス次第ではもっと強度のある幻覚を
見せるものになっていたかもしれない。
044 軽妙洒脱
階級:二級相当 最終適合率:39%
当人の本質との不一致か、適合率は低かったものの、痛みを
軽くする能力と酒に強くなる能力の二種類の解釈能力を行使
できた点は注目すべきである。二種類目の能力は文字とも意
味とも厳密には全く合っていないものだが、後述の洒々落々に
対抗するために後から足された解釈となるため、そちらの項で
説明する。
063 洒々落々
階級:準一級相当 最終適合率:17%
アルコールを操る能力と落下を操る能力の二種を独自解
釈により行使した。文字の「洒」は「酒」とは似て非なる意味を
持つ言葉なのだが、観察の結果、文字をあえて誤解釈したよ
うだ。一応酒好きなことを分かっていて与えてみたこちらの思
惑の範疇ではあったが、比較的意外な結果が導きだされた
例の一つとなった。
074 心機一転
階級:準二級相当 最終適合率:42%
胸に手を当てなければならない縛りがあるものの、相手の心
の動きを反転させてしまう能力という、かなりひねくれた解釈
能力となった。この能力によって実験に大きな影響を与えたが、
解釈が拡大されるなどの進展はなかった。
080 切磋琢磨
階級:五級→特級相当 最終適合率:100%(文字化け)
初期こそ強く解釈されていなかったが、その結果として得
た文字通りの能力は戦うほど強くなる=階級と適合率を増
すという、実験が進むごとに解釈が深まるタイプの能力だっ
た。これが功を奏し、最終的に実験初の文字化けを果たす
ことに成功した。また身体系の能力であったこともあるのか、
参加者の中で、身体能力の上昇も最も著しいものとなった。
085 先手必勝
階級:四級→四級相当 最終適合率:48%
初期解釈は、先手の攻撃で勝利を確定させるものだった。
この解釈には、先手を取られると負けるという欠陥も付属し
ていた。その後、さらにゲームカウントの概念を導入した再解
釈がなされたため、最終的には良い結果となった。弱点も新
たに付加され、強制力があまり無くなってしまったため階級
は変わらず四級相当。
096 猪突猛進
階級:五級相当 最終適合率:60%
比較的高めの適合率。座右の銘に挙げられるような四字
熟語とは性格さえ一致していれば適合率が高くなる傾向に
ある。能力は身体をイノシシに変化させる肉体変化型の安
直な解釈。牙のみや片手のみなど、部位のみの変化も出来
るようで融通の利く能力だが、完全に猪と化してしまうと元に
戻れなくなるという縛り付けがある。
104 東奔西走
階級:六級相当 最終適合率:3%
恣意的に当人の望まぬ文字を与え、マイナス解釈の発現
を誘導したパターン。狙い通り移動制限の解釈をさせること
が出来た。本来の四字熟語の意味とも真逆になるような解
釈はあまり前例がなく、貴重なデータである。
115 破顔一笑
階級:三級相当 最終適合率:26%
東奔西走と同様、被験者にはそぐわない文字を与えたパ
ターンだが、こちらは四字熟語を一文字単位で別解釈し、新
たな意味を作り出すという結果になった。被験者は職業上の
関係で、無我夢中でも特定の他人のためという思いを消し切
れなかった(一刀両断もこれに該当)。真の笑顔に憧れなが
ら、自らに笑顔は許されないという矛盾する心情が残ってい
たことが複雑な解釈の発現に一役買った可能性を鑑みると、
心情の全排除も一長一短かもしれない。
148 勇気凛々
階級:四級→準一級相当 最終適合率:79%
解釈の深化という点では、進化する解釈だった切磋琢磨を
除外すれば、本実験で最も解釈を深めたのは勇気凛々であ
る。深化のきっかけとなる出来事に恵まれたのもあるが、元々
の解釈を発展させる形で二つ目の意味を見出すのはあまり
例のない現象(一つ目の解釈で使用されていない文字を別
解釈して二つ目の意味を得るパターン。軽妙洒脱など)で、
使い勝手も良く準一級相当の評価となった。
149 優柔不断
階級:五級相当 最終適合率:16%
本来なら適合率が一二を争うほど高くなる目論見だったが、
被験者が四字熟語との同化をも優柔不断したために解釈も
適合率も全く深化しなかった。途中で心機一転の影響を受け
なければ解釈能力が発現しないまま生き延びる可能性すら
あった。
3.3.2 実験協力者
今回は実験の進行を補助する目的で、前回の優勝者であ
る実験番号092泰然自若に別の四字熟語を与えたうえで、
前回の延長戦として実験の舞台に送った。
134 傍若無人
階級:六級相当 最終適合率:67%
協力者については、こちらの用意した解釈の押し付けを行
い、その上で実験に協力してもらう形を取った。前回優勝の
ハンデとしての強烈なマイナス解釈能力だったが、四字熟語
との同化に積極的に取り組んだ結果適合率は高く、身体能力
への補正が見られた。
あらかじめ解釈が用意された文字を被験者に与えた場合、
一般的に適合率も解釈の深化も行われない。しかし、本人に
文字になるつもりがあれば適合率は深めることが出来る。
165 無我夢中
階級:特級相当 (文字化け済み)
舞台装置としての協力。再現される舞台は本人の体験した
記憶に大きく左右されるため、女子が入れない男子トイレや
車の内部構造に欠陥や差異がでること、時間を示すものが
否定されてほぼ存在しないことなどを見抜く参加者が今回は
現れていた。また一部には別口で恣意的な改造を施し、内
部から放送および別所の夢空間との連絡が取れるようにして
いる。
3.4 物質に付加した文字
今回の実験では支給品にもいくつか文字を付加した。
020 鎧袖一触
紆余曲折に支給した盾に付加。触れた攻撃を弾く効果が
付与されていたが、一刀両断の解釈との解釈合戦に敗北し、
ただの鉄の盾となった。
123 百発百中
先手必勝に支給した銃に付加。誰が使用しても狙った場所
に弾が飛んでいく効果が付与されている。
166 蟷螂之斧
傍若無人に支給した斧に付加。ルール能力の影響をおよ
そ四割ほど無効化する。こちらは解釈合戦を行わず解釈を否
定する意味合いが強いため、一刀両断の刀を弾くことが出来
た。
4.実験の影響
実験終了の現時点で、理想の可能性線へ進む確率は0.7%
上昇した。また、天飼千世教授の見た千の未来のうち、22の
未来が消滅し、8つの新たな未来が現れた。未来可能性線の
総計は382束となった。
理想可能性線については、今回の優勝者あるいは脱出者が
因果の収束を許諾することで確率はさらに上方修正され、16%
ほどになる予定。
5.まとめ
5.1 文字の増減
前回の実験終了から今回の
実験開始までで、他力本願、
空穴来風の二つの文字化け済み文字が消去された。また、
試作中の指輪がいくつか紛失する事件もあった(これについ
ては、教授によれば問題はないそうだ)。
さらに、実験に泰然自若を協力者として使用するに当たり、
泰然自若も消去したため、今後の使用不可文字は三つ。
新たにデータから起こせる文字は十五で、併せて十二の
文字がこちら側に増えることとなった。
5.2 収集データ
至上でも類をみない短いスパンに濃い内容の実験となった。
詳細なデ-タを今後まとめていき、次回の大規模実験に生か
す。
5.3 謝辞
実験の遂行に当たり、天飼教授の他、他力本願、空穴来風、
流言飛語などの協力を得ている。この項を持って謝辞を述べる。
用語解説
【
報告書】
上司や関係者との情報共有、状況報告に使われるもの。
社会に出てから本当に大事になるものでもある。
最終更新:2015年03月15日 01:23