森林エリア、墓地の奥に建つ教会の一室で爬虫類似の青年、遠野はデイバッグの中身を確認していた。
出てきたのは拳銃。当然使ったことなどないが当たりの部類に入るだろう。
「待っててください先輩。僕が必ず助けますから…」
遠野は殺し合いに乗ることを決めていた。
なんで殺し合いなんかする必要があるんですか(正論)と思うかもしれないが、これには彼なりの理由がある。
この場に居る恋人の野獣先輩こと田所を守る、その為に遠野は他の参加者を皆殺しにする決意をしたのだ。
無論人殺しになる事に抵抗が無いわけではなかったが、自分が手を汚す事で野獣を守れるのならそれでも構わない。
45人だろうが114514人だろうが、見ず知らずの大勢よりも野獣一人の命の方が遠野にとっては大きかった。サイコホモ怖いなー、とづまりすとこ。
「ん?」
ホモ特有の鋭敏さで何やら外が騒がしいのに気付く。
窓からそっと顔を覗かせ様子を窺う。
可能ならば殺し、相手がこちらよりも強力な武器を持っていたら撤退する事も考えつつ、
右手で銃を強く握り締めた。
◇
マントをなびかせ、仮面の下では息を乱さず、
肌寒い夜の森をゼロは駆け抜ける。
目指すは中央の市街地エリア。
少なくない数の参加者が集まるであろうその場所で、目に付く者を全て殺す。
ついさっき名も知らぬ無力な少年を一人その手に掛けた。
残る標的は最愛の妹とその騎士、超高速で動く少女、そしてまだ見ぬ41人と呪われし愚弟。
突然足を止め前方を見据える。
目の前には墓地が、墓に囲まれ佇む参加者が一人。
男――いや、少年だろうか――は異様な外見をしていた。
衣服は一切身に着けておらず、中々に鍛えられた肉体を晒している。
顔も童顔といえば童顔かもしれないがよく見ると顎鬚が生えており、ただのオッサンのようだ。
ついでに股間の辺りも黒い。これもう分かんねぇな。
これだけならただの露出狂か何かと思われるが、それよりも目に付く箇所がこの少年が単なる変態ではない事を証明している。
全身は紫色に染まっており、背中からは蝙蝠のような翼が、頭部からは二本の角が突き出ている。
少年は近付いてくるゼロに気付いたのか、ゆっくりと顔を上げた。
「ぼくひで」
唐突に少年の口から出た四文字の言葉。
どうやら自己紹介のつもりらしい。(初対面の相手にもきちんと名乗る人間の鑑)
「早速だけど死んぢくり~(挑発)」
ひでが笑顔で言う。
歯茎を剥き出しにしたクッソ気持ち悪い笑みであった。
発せられたのは言葉だけではない。
ひでの全身から漂ってくる禍々しい気配、人ならざる者の殺気とでも言うのだろうか。
体中を虫が這っているかのようなおぞましさ、或いは眉間に銃口を突きつけられているかのような緊張感。
常人には到底耐えられないであろうプレッシャーが墓地一帯を包んでいる。
「フッ、ただの気狂いではないようだな」
「っ!?」
ひでの顔から笑みが消え、驚きと焦りが浮かぶ。
恐怖に固まると思っていた相手に平然と受け流されたのだ。仕方ないね(レ)
確かに“ただの人間”ならばひでが放つ負のオーラに屈しただろう。
しかし、今対峙しているのは人間を超越したエデンバイタルの魔王。
クソ汚いオスガキの殺気など何の障害にもならないってハッキリ分かんだね。
「…怒らせちゃったねぇ。ぼくのこと本気でねぇ!」
ほんの一瞬とはいえ醜態を見せたのが気に食わなかったのか、怒声を上げながらゼロに襲い掛かった。
雄叫びを上げ両手に握った巨大な錨を振り下ろす。
「オラアアアアアアアア!!」
直撃すればミンチであろう迫り来る錨を、ゼロは拳を放ち相殺。
互いに一撃だけでは終わらず続けて何度も得物をぶつけ合う。
横薙ぎに払われる錨、右拳をぶつける。
斜めに振り下ろされる錨、左の手刀で弾き返す。
振り上げられた錨、蹴り弾く。
我武者羅に振るわれ、四方八方から襲い掛かる錨。
右拳、左拳、右脚、左脚、マント。
全てを駆使し防ぎ、弾き、受け流す。
そんな攻防がどのくらい続いただろうか。
二人の衝突の余波で周囲の墓は原型を留めていない(罰当たり)。なんてことを…。
リーチでは勝り、常に先手を打ち攻撃の隙を与えさせない。
にも関わらずひでは未だに、ゼロを殺せずにいる。
「あ~もう!」
苛立ちながら錨を振るうが徐々にその速度は落ちてきている。
こ↑こ↓に来てひでの肉体に疲れが出てきたのだ。
このまま錨を振り回していればあっという間に体力が底をつく。
そうなれば今度はひでが一方的に攻撃を受ける番となる。
それはまずい。
ゼロが両腕で攻撃を防いだ瞬間、錨を押し付けるように放つ。
僅かだが相手が後退した隙に、背中の羽を広げ上空に舞い上がる。
「あ^~出る~」
気の抜けた声とは裏腹にひでの周囲には黒い煙のようなものが集まっている。
相手が何をするつもりかは分からないが、黙って眺めているつもりもない。
ゼロはひで目掛けマントを飛ばそうとする。
だが、既にひでは『新たな一手』の準備を終えていた。
「出ちゃっ…………たぁ!!」
ひでの全身から溢れ出るかの如く、ドス黒い液体のようなものが地上へと降り注ぐ。
咄嗟に液体の直撃をゼロは避ける。
さっきまで立っていた場所を見ると、地面も墓も煙を出しながら無残に溶けている。
かつて神聖な学び舎を悪臭漂う小便で汚した時のように、今度は自らに宿る邪悪な力を液体へと変え、
排出したのである。きたない(確信)
「あ゛~」
液体が次から次へと降り注ぐ。
ゼロは回避に専念し、ひたすら動き続ける。
時折マントを飛ばしてみるが、よく狙いをつけたものでは無い為簡単に躱されてしまう。
何度目かの排出を避けようとするゼロだが、そこで周囲が液体塗れになり逃げ場が無い事に気付く。
「うー☆うー☆」
勝利を確信したのかひでは尻を振って挑発した。汚ねぇケツだなぁ(TNOK)
最早相手に逃げ場は無く、マトモな飛び道具も無い。
圧倒的有利な自分の立場にほくそ笑みながら、液体を発射しようとした。
その時、発射される寸前ひでの尻に激痛が走った。
「あぎぃ!?」
唐突な痛みに悶え、攻撃を中止してしまう。
ひでが尻の激痛の原因に気付くよりも早く、右の羽と背中を同様の痛みが襲った。
痛い痛い痛い熱い熱い痛い熱い。
何だ何だ何が起こった何をされた。
訳が分からないまま地面に落下し、自らの排泄物に身を沈めながらピクピクと痙攣し動かなくなった。
ひでの無様な姿を見届けるゼロの手には長大な銃身を持つリボルバーが握られている。
ゼロがした事は至って単純。
ひでが尻を振っている最中デイバッグから支給品の銃を取り出し引き金を引いた。それだけである。
敵が飛び道具を一切持っていないと勝手に思い込み、慢心したオスガキには似合いの末路なんだよなぁ。
「うぅ……あ…あァァァァァァァ……!」
「ほう?」
しかしひではまだ生きていた。
元来の頑強さからか、満身創痍となりながらも立ち上がり再び液体を出すべく力を溜める。
ゼロが銃を撃つが弾丸はひでに到達せず、周囲のドス黒いオーラに阻まれてしまう。
「出るゥゥゥゥゥゥ!!」
カッと目を見開いたひでの全身から、今度は真横に液体が発射された。
死と苦痛を。
自分を痛めつけたこの男に死と苦しみを!
邪悪な願いの込められた液体は、あっという間にゼロを飲み込んだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハーッ…」
荒い呼吸を繰り返しながらひでは地面に腰を下ろす。
液体が体に付着するが、元々ひで自身の怨念により生み出されたもの、自分にとって害は無い。
それより今は傷つき疲弊した肉体の治療が先決だ。
何とか敵は殺したが、この状態で他の参加者と遭遇したら呆気なく殺される。
まずはここから離れようと、痛む体に鞭打ち立ち上がろうとし、
「今のは少しばかり肝が冷えたぞ」
その声にひでの心臓が止まりかけた。
冷や汗を掻きながら顔を上げる。
視線の先には居たのは巨人。
体の所々を溶かされ、それでも主人を守るべく仁王立ちする魔王の愛機。
ナイトメアフレーム、ガウェイン。
ゼロは咄嗟にガウェインを召喚し、身を守る盾として活用した。
そのお陰で今も傷一つ無い。
代償としてガウェインは各部に損傷を負い、見るも無残なひでに完全敗北したガウェインくん.UCと化している。
主武装のハドロン砲も右肩は溶かされているがもう片方は健在。
一つでも十分過ぎる程の兵器だ。
「やだ!ねえ小生やだ!」
砲口がひでへ狙いを付ける。
ひでは必死に逃げようとするが、傷だらけの体は思うように動いてはくれない。
弾丸で撃ち抜かれた羽もマトモに機能せず、飛ぶ事もできない。
「お兄さんやめちくり~(懇願)」
「ひで、と言ったか。少々手間取ったが、さよならだ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛もうやd――――――」
墓地一帯が光に包まれ、圧倒的な熱にひでは包まれた。
◇
「うわああああああああああああ!!」
悲鳴を上げ遠野は森を走っていた。
殺し合い開始当初の使命感に溢れた時とは打って変わり、今の遠野には恐怖心しかない。
墓地で戦っていた仮面の魔人と全身紫の悪魔。
現実では有り得ない化け物同士の戦闘を見て、殺し合いに乗る決意はあっさり折れてしまったのだ。
何だお前根性なしだな(棒)
「うぁっ」
木の枝に躓き転倒する。
うつ伏せに倒れたまま動かない。
気持ちを落ち着けるために当初の使命感を思い出そうとする。
「僕、は…先輩のために…殺す……殺さないと……」
――そうだ、あんな連中まで参加してるなら余計に先輩が危ないじゃないか。
――何時までも怯えてる訳にはいかない。
――拳銃なんかよりもっと強い武器か、強くてお人好しそうな人をぶつけるか。
――方法はなんでもいい。
――先輩を助けられるなら何でもっ!?
何が起きたのだろうか。
突然背中に鋭い痛みを感じた。
立ち上がろうとしたら更に痛みが襲った。
誰かに刺された?
「いや、だ……せん、ぱ………」
消え行く意識の中、鬼気迫る顔でナイフを振り下ろす金髪の少女が見えた。
【遠野@真夏の夜の淫夢 死亡】
◇
那須原アナスタシアがこの会場で最初に目撃した男は、何かから逃げているようだった。
悲鳴を上げみっともなく転んだ男にどう対処するか考えながら慎重に近付いた。
大丈夫かしら、と声を掛けようとし、耳に入ったのは男の「殺す」という呟き。
男は殺し合いに乗っている。
逃げるか?いや近付きすぎた。
仮に逃げれたとしても、男は別の誰かを襲うだろう。それは誰だ?
あの壊滅的ブラコン女か、可愛い純情銀髪娘か、それとも“彼”か――。
気付けば支給品のナイフを振り下ろしていた。
「服…着替えないと」
聖リリアナ学園の制服は返り血で汚れている。
自分のデイバッグに衣服の類は入っていない。
男のバッグにあればいいが、そうでなければ街までいかなくてはならないだろう。
フラフラとした足取りでアナスタシアはその場を去ろうとする。
「何をしているのかしら……こんな…」
この男を殺した意味はあるのだろうか。
姫小路兄妹と銀兵衛が襲われる可能性は一つ減っただろう。
その代わり自分は人殺しとなった。
もう二度と、あの寮での日常には戻れない罪を犯して。
「着替え……探さないと…」
目を背ける。
取り返しのつかない事をしてしまった後悔と、秋人たちとは一緒に居れないという悲しみから。
少女はただ必死に逃げ続けていた。
【那須原アナスタシア@お兄ちゃんだけど、愛さえあれば関係ないよねっ】
[状態]:精神疲労(大)
[装備]:不良少年のナイフ@チャージマン研!
[道具]:共通支給品×2、TNOKの拳銃(6/6)@真夏の夜の淫夢、予備弾×30、不明支給品0~5
[思考]
基本思考:私はどうしたら……
0:服……
[備考]
◇
「余計な真似をしてくれる…」
墓地を離れたゼロはそう独りごちる。
ひでとの戦闘中に感じた肉体への違和感。
腕がいつもより重く、マントが遅い。
全身が妙な倦怠感に包まれている。
ハドロン砲の威力も落ちていた。
間違いなくロロが何らかの細工をしたのだろう。
この分ではギアスと瞬間移動にも何らかの制限が掛けられている可能性が高い。
首輪か何らかの装置か。
いずれにせよこの枷は邪魔でしかない。
ロロを殺す前にどうにかしておきたいものだ。
疲労もある為幾分かペースを落とし、されど足は止めず。
寄り道をしたがここからは真っ直ぐ中央へ向かう。
魔王の脅威は確実に近付きつつあった。
【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(極大)、ガウェイン(損傷大、右ハドロン砲使用不可能)3時間召喚不可
[装備]:なし
[道具]:共通支給品一式×2、手斧@現実、エレファントキラー(0/5)@バイオハザードシリーズ、500S&Wマグナム弾×20、不明支給品0~4、真尋の首輪
[思考]
基本:魔王の使命を果たす
1:全参加者及び主催者を殺す
2:中央の都市エリアへ向かう
3:首輪を外したい
[備考]
※参戦時期は本編終了後
◇
ひでしね
何度罵倒されただろうか。
ひでしね
その度に何度苦しんだだろうか。
ひでしね
もうやめて、助けて。そう願っても地獄は終わらない。
ひでしね
積年の怨みが爆発し、悪魔の如き力を得ても変わらなかった。
ひでしね
殺し合いに巻き込まれた時は、正直チャンスだと思った。
ひでしね
優勝すればこの苦しみから解放されるのではないかと思ったからだ。
ひでしね
しかし現実は非情だった。自分以上の怪物に蹂躙され死ぬ。
ひでしね
もういいや。どうせならこのまま死んで楽に…
ひでしね
……いやだいやだ死にたくないやっぱり死ぬのはいやだくるしくてもいきていたいねぇだれかたすけてよねえだれかだれでもいいからねえねえねえねえねえねえ
ひでしね
ひでしんだ
【ひで@真夏の夜の淫夢 死亡】
※墓地一帯がハドロン砲により吹き飛びました。
※ひでのデイバッグとブロブの錨@バイオハザードシリーズは消滅しました。
001:そして黒に染まる |
ゼロ |
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GAME START |
ひで |
GAME OVER |
GAME START |
遠野 |
GAME OVER |
GAME START |
那須原アナスタシア |
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最終更新:2016年08月08日 02:39