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魅惑の歌姫

「絶望した! キャラクターに全くそぐわないシリアスな展開に絶望した!」
海岸沿いにどこまでも伸びるコンクリートロード――今日も今日とて糸色望は悲観に暮れつつ、先の知れないその道を、ただただ惰性的に辿ってゆく。
しかし、流石の彼もふざけている場合ではないと悟ったのか、遠い眼をして我が生徒たちの安否を気遣い始める。
風浦さんは……死にはしないでしょうね。
常月さんは……逆に殺しそうですね。
木津さんは……考えたくもないですね。
日搭さんは……普通に死んでそうで怖いですね。
小森さんは……外に出たらどうなるんでしょう、彼女?
「……とにかく、いつもとは状況が違います。木津さんや常月さんをほうっておいたら何をしでかすかわかったものじゃありません!」
彼女たちが殺し合いに乗ったとあれば「生徒同士殺し合い、担任指導力不足か」とかなんとか朝日新聞の見出しに取り上げられて社会的に抹殺されるに決まってます!
思い立ったが吉日。
歩調を速め、遥か遠くに垣間見える煌びやかな街並みを目指し彼は北進する。
背中にはデイパック、右手には警棒のような武器を護身用に構えながら。
しばらく道なりに進んでゆくと、雲雀の囀りが耳に心地好い丘陵地に差し掛かった。
コンクリートロードはその姿を変え、原始的な砂利道を望は踏みしめている。周りは野花で生い茂る広大な草原。海岸は既に遥か後方に霞んで見える。
――~~~♪
「……おや?」と望は小首を傾げる。こんな殺伐とした状況下に不釣り合いな美しい女の歌声が、どこからともなく微風に乗って聴こえてきたのだ。
「どこのスイーツ(笑)ですか、こんな時に……」
不気味がる望だが、生来の野次馬根性はやはり捨てきれず、辺りをキョロキョロと窺っている。
「あれ、ですかね?」
望から見て左方――砂利道を外れた草原の先に、一際目立つ人影があった。
風に揺らめく金色の髪。
雪と見紛う純白のドレス。
しかし何より輝いて見えたのは、その妖艶さを孕んだ美貌である。
基本、望は女性に現を抜かすことはない。周囲の人間が女性ばかりで耐性が出来たということも要因の一つであろうが、ネガティヴシンキングを常とする以上、どのような美しさをも皮肉に捉えてしまうのだ。
しかし、そんな彼をも尚唸らせる何かが、彼女からは漂っていた。
「綺麗な歌声ですねえ……」
それは女性であることを抜きにした、幻想的な意味での美。
山紫水明に映える、あるがままの想いを紡いだ言葉――それは周りの自然と調和し、絶妙な波長を奏でる。脳というより心に直接響く歌声。
いつの間にか望は道筋を外れ、彼女の下へふらふらと近付いていた。だらしなく惚けた顔に生気はなく、おまけにどこか危なげな千鳥足である。
「――あら、誰かしら?」
そして唐突にそれは止む。
しばしその歌に聴き入り、夢見心地な気分に浸っていた望はハッと我に帰り、自分が意識を失っていたことを恥じて弁明する。
「あ、ああ、すいません……あまり綺麗な歌声だったもので、つい聴き惚れてしまいまして……」
「クス……御上手なのね。でもそう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとう」
上品な仕草で微笑む彼女。望は更に気恥ずかしくなって頭を無意味に掻くと、ふと疑問に思ったことを話の種に切り出した。
「あの、どうしてこんな所で歌を? 下手をしたら危険な人に見つかって殺されていたかも知れませんよ?」
例えば木津さんとか常月さんとかに。
しかし彼女は口元に手を添え、また優雅に微笑むと、余裕を含んだ口調で返答する。
「ふふ、それもそうね。けど、外に出るのは久々でね。……こんなに綺麗な場所で心置きなく歌えると思うと、居てもたってもいられなくなっちゃって」
「はぁ……なるほど」
「変でしょう、私?」
「い、いえ、そんなことは……あるかも知れませんね」
「クス……正直なのね、貴方?」
「心にも無いことを口にして失敗した例を沢山知っていますからね」
女将『暖簾に胡座をかいてました』
首相『精々頑張ってください』
竜王『世界の半分をくれてやろう』
教師『怒らないから正直に手を上げろ』
加護『ずっと吸ってたわけじゃない』
一条『誰でもウェルカム!』
etcetcetc!
「ふふ……ところで貴方、御名前は?」
「糸色望……教師です。そちらは?」
「アヤ・エイジアよ。一応歌手なんだけど、知ってるかしら?」
望は「はて?」と思い出そうとするが、世間に聡い彼にしては珍しく、まったく記憶にない名前であった。
「残念ながら……存じ上げませんね」
申し訳なさそうに声を潜めながら返すと、アヤ・エイジアは「いいのよ」と気前よく笑って言った。
「私を知らない人なのに褒めてくれるなんて、これほど嬉しいことはないわ」
「はぁ……」
よくわからない人だな、と、望は生返事を返し、適当に相槌を打つ。
――それからしばしの沈黙が訪れる。
望は何か話題をと気まずげな面持ちでいたが、一方のアヤは、まるでこの静寂を余韻として楽しんでいるかのように、朗らかな笑顔をその美顔に貼り付けていた。
「……ねえ、糸色さん」
サァと吹き荒む冷たい風が、アヤの長髪を弄んだ頃、不意に彼女が口を開く。
「はい、何でしょう?」
「ボディーガードを頼まれてくれる?」
「……はい? な、何ですって?」
素っ頓狂な声を上げて望は聞き返すが、当のアヤはあくまでも悠然と微笑み続けている。返答はない――それは即ちそのままの意味だということを静かに物語っている。
「貴女おかしいですよ、見ず知らずの人間に護衛なんて!?」
「あら、いけないの?」
「そういう問題じゃありません! 私がもし貴女を殺そうとしてたらどうするんですか!?」
「ふふ、私を殺すならとっくにそうしてるでしょ? それに、殺そうとしてる人間はそんなこと言わないわ」
「どういう屁理屈ですか!」
頭が痛くなる望だったが、しかしこれはこれでチャンスだと前向きな思考も片や巡らしていた。
(一人ぽっちで行動していれば、それほど殺し合いに乗ってる人間に狙われ易くなるということです。
なら、たとえ変人でも近くに置いておけば大なり小なり保険にはなるでしょう。いざとなれば盾代わりにでも……て、いやいや、流石にそれはいけませんね)
「……まあいいでしょう。ただしボディーガードじゃありません! あくまで付き添うだけですからね!」
望は打算的な理由を経て、アヤを街へ行くまでの共連れとして同行させることを許可する。
アヤは「そう、よろしくね」と軽く会釈をし、側に置いてあるデイパックを手に持ち、何故か望に突き出した。
「……何でしょう、これは?」
「あら、か弱いレディに荷物を持たせるつもり?」
「……わかりました、ええわかりましたとも! 絶望した! フェミニズムを擁護するあまり女尊男卑化する社会の在り方に絶望した!」
「クスクス……」
――罪を償うため、いや、それ以上に私を救ってくれた弥子ちゃんへ敬意を払い、無駄な殺しはしない。
これが私――アヤ・エイジアの下した判断。
無論、自衛のための殺しはやむを得ない。しかし積極的に相手を傷付けるような真似は決してしないだろう。
――正直、殺し合いに乗ったって構わない。
胸の谷間に忍ばせた空の注射器を、この男の首根っこに突き刺したって、私が罪悪感に苛まれることはないのだから。
だけど、どうせなら私の最大の武器を正の方向で活用したい。
私の歌は芯のない相手なら簡単に脳を揺さぶることが出来る。糸色望が私の前に無防備な様子で近寄って来たのも、私が意図的にそう仕向けたから。
この歌で殺し合いに乗る危険な参加者を無力化すれば、力無い私でも殺し合いを生き延びることが出来るはず。
あわよくば対アノン思想を掲げる参加者たちと合流し、彼を打ち倒す。それが最終的な目標。
どこまで出来るかはわからない。
途中で騙し討ちにあって野垂れ死ぬかも。
それはそれでいいかもしれない。どうせ人殺しの命など安いもの。私の好きにさせてもらうわ。
「どうしたんですか、一人でにやまりして……」
「……ふふ、ちょっとね。それより糸色さん」
「はい?」
「頑張りましょうね」
「はぁ……(絶望した! 会話の通じないメルヘンさんに絶望した!)」
「クスクス……」

【南の丘陵地/1日目/07:02】

【糸色望@さよなら絶望先生】
[状態]:健康
[装備]:神通棍
[道具]:THE WINDY
[思考]
第一行動方針:街へ向かう
第二行動方針:アヤを一応守る
基本行動方針:生徒の暴走を食い止める

【アヤ・エイジア@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]:健康
[装備]:BJの注射器
[道具]:香水
[思考]
第一行動方針:街へ向かう
第二行動方針:敵を無力化
基本行動方針:アノンの打倒

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最終更新:2008年09月24日 15:18
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