月に願いを

 とある民家の中、妙齢の女性が悩ましげにため息をついていた。
「はぁ……参ったわね」
 月の頭脳と言われてはいても、何事も計画通りにいくとは限らない。
 そんな当然の事は彼女も分かってはいた。
 それでも今回の出来事にはため息をつかざるをえなかったのだろう。
 眉間に手をあて、ため息をついた彼女の様子は心底落胆しているように見えた。
 とはいえそれも無理の無い事だ。
 せっかく主、蓬莱山輝夜への手がかりが見つかったという所で別の殺し合いへの招待。
 何よりも求めていたものが目前で消えてしまえば、八意永琳でなくとも落胆するだろう。
 だが、これは永琳にとって何も悪いばかりの話ではなかった。
 主催が変わっている。その点において、余計な敵を作らなくて済むようになったのは有難い事と言えた。

 また、この時点の永琳が知る由も無い事だが、
輝夜の死を知らなくて済んだという事も幸運であったと言えるかもしれない。

「……まあ、過ぎた事は仕方ないわ。とりあえず、これからの事を考えなくてはね」
 眉間に当てた手をそのまま胸の前に持っていき、腕を組みながらそう言った永琳の口調は
決して未練がなかったとは言えないが、それでも先へ進む為に頭を切り替えてマルクと名乗った妖怪の発言を思い出す。
 言葉とは存外、色々な情報が詰まっているものだ。
 一言の中にも、台詞、口調、声調などから推測できる事もある。

『みんな気付いていたと思うけど、キミ達の生殺与奪の権はボクが握っているのサ』
『みんな一回殺し合いを経験しているし、細かいルール説明はしなくてもいいよね?』

 永琳達の殺し合いだけでは説明できないほどの大人数、見覚えの無い者達。
 そしてこれらの言葉から推測するに、この場に呼び出された参加者は皆永琳が巻き込まれていたもののように、
それぞれ別々の殺し合いに巻き込まれていたのだろうというのは容易に想像できた。
 勿論、永琳自信が居る事から、輝夜をはじめとした幻想郷の面々も集められている事は想像に難くない。

『それぞれ幾らか違うところがあるかもしれないけど、大体前回と同じなのサ』

 さらにこの言葉から考えて、全く同じルールではなく殺し合いごとに差異があったというのも予想できる。
 これは些細な事に見えて意外に厄介となるかもしれない。
 同じルールの殺し合いに巻き込まれていたと勘違いしていたら、情報の齟齬が発生していたに違いない。
 例えば禁止エリアに入っても暫く爆発しない殺し合いにいた参加者が、
それを知らない参加者達にその事を教えて、ここでは禁止エリアに入ったらすぐに爆発するルールだったら。
 例えば放送までに一人殺害しなきゃ即首輪爆破というルールの殺し合いから来た参加者がいたら。
 例えばもし永琳のいた殺し合いのように、【主催者が参加者の誰かの姿形を騙っていた】として、
 それを知らない参加者と騙られた参加者が遭遇してしまったら……。

 それによりしなくてもいい争いが起きないとも限らない。
 勿論永琳のようにこの事に気付く参加者もいるだろう。だが全ての参加者がそれに気付くだなんて事はありえない。

 となれば、やはりいち早く輝夜を探し出したいと考える。
 しかし、あのホールで見た尋常ではない参加者の数。
 会場もそれに見合うほどの広大さであるというのは言うまでも無いのだ。
 所詮一参加者に過ぎない輝夜を探し出すというのは至難の業だろう。
(魔理沙や守矢の神も探してくれるだろうとはいえ、それでも厳しいのは否めないのよね)
 焦燥と苛立ちからか組んだ腕に力が入り、白く柔らかい二の腕が僅かに形を変える。

 そうなると、やはり協力者が必要だと永琳は考えた。
(輝夜がここで殺し合いに乗っていなければいいのだけれど)
 輝夜は永琳の為に殺し合いに乗っていた。
 永琳が、輝夜を人質にされて誰かに殺し合いの運営を強要されていた、と勘違いしていたのだ。
 ならば別の殺し合いに巻き込まれた今、輝夜の方針が変わってさえいれば、仲間を作っているかもしれない。
 勿論これはただの願望に過ぎない。
 永琳が未だに黒幕の呪縛を受けていると考える可能性もあるし、
そうでなかったとしても永琳を優勝させようと考える可能性も零ではない。

(せめて望む相手の居場所がわかるような道具でもあれば)
 そう考える永琳自信も、そんな都合のいい道具がすぐに見つかるはずが無いとは思っていた。
 現に、既に調べ終えた支給品にはそんな物はなかった。
 それでもそんな考えをしてしまうのは、それだけ輝夜が大事だからだろう。
(兎に角、早く輝夜を見つけないと……)
 永琳はただそれだけを考えて、出発の準備を早々に終えて、玄関の扉をあけて外へ出る。

 その時、永琳に向かって見覚えのある丸い生物が衝突してきた。


 *  *  *


「ま、不味い事になったのサ……」
 殺し合いが始まると、マルクは苦々しく青ざめた顔つきでそう呟いた。
 元々青みがかったその愛嬌のある顔は、苦渋に満ちた表情のせいもあって酷く弱弱しい。
 それでもそれぞれに配られたデイパックを手際よく検分しているのは、じっとしていられない程に不安があるからか。

 この殺し合いという状況、死地を愉しむ者で無い限り不安を抱くのは当然だ。
 自分の死、他人の死、或いはそれ以外の何か。
 ここはそんな不安を生み出す要素で溢れている。
 如何に道化のような格好をしているとはいえ、命が惜しくないわけでは無いのだ。
 こんな時に、気楽に笑ってなどいられるはずがない。
 とはいえ、マルクは殺し合いという状況に不安を感じているわけではない。
 いや、当然それも不安ではあるのだろう。
 然し、それ以上にマルクへ不安を与える原因があった。

『ボクの名前はマルク。早速だけど、これからみんなには殺し合いをしてもらうのサ!』

 名前、外見、仕草、口調、声――
個を認識させる、ありとあらゆる要因が彼と瓜二つである存在。
 そんな者が、大人数からの注目を浴びる中、心底楽しそうに宣言した言葉。
 つまり、この悪趣味なる殺人遊戯の開催。
 この時点で、マルクは大きなハンディをつけられた。
 只でさえ誰が信用できるかもわからない状況。
 そんな中、主催と瓜二つというだけで、全ての参加者に敵意をもたれうるだろう。
 出会い頭に問答無用で襲われてしまってもおかしくは無い。

 それでも昔のマルクであれば、嬉々としてここはパラダイスだと自信満々に殺し合いへと興じていた事だろう。
 だが二度の致命的ともいえる敗北を経て、彼は気付かされた。
 策士を気取ってみてはいたが、その実彼はそんな器ではないという事を。
 自分の力を上回る相手など幾らでもいるという事を。
 確かに一度目の敗北の時は敵を甘く見ていた。
 確かに二度目の敗北の時は制限を正確に計りきれていなかった。
 だけど、そんな事が言い訳になどなるはずがない。
 真に策士であれば、そんな初歩的なミスを犯す事はないのだから。
 まさに道化だ。自身に自信があったからこそ、マルクは余計にそう感じさせられた。
 だが、失敗をしたのならそこから学べばいい。
 幸か不幸か、失ったはずの命がこうして戻ってきたのだから。

 マルクが命を落とす原因となった一員であるブラックシャドー。
 あの黒き影は『勉強ってのはこれからまだ可能性がある者がすることだろ』と敵であるマルクへと言った。
 そしてその言葉の通り、それから直ぐにマルクの可能性が断たれる事となった。
 だが、再び殺し合いに巻き込まれた事により学ぶ機会が訪れたとは、なんという皮肉であろうか。
 命が蘇った事は確かに喜ばしい事なのだが、状況が状況なだけに素直に喜べない。

 とはいえこんなチャンスは恐らく二度とやってこないだろう。
 だからこそ、これまで以上に慎重、冷静にいく必要があると彼は感じていた。
 前の殺し合いを省みても、慎重に事を為しているつもりでも、慎重さの欠片もなかった。
 ゆえにシリカにも嘘がばれて襲われたし、ブラックシャドーにも穴を指摘された。
 それらも冷静に考えれば直ぐに気付く範囲の事でしかなかった。
 慎重に、と言いながらどこかに焦りがあったのだろう。
 今度も同じような無様を晒してしまえば、同じ結末を辿ってしまう。
 それだけは避けたい、とマルクは心の底から思う。

「とはいえ、どうするべきなのサ」
 支給品を調べ終わり、幾分落ち着いてきたのか元の顔色に戻ったマルクは、
悪魔のような羽を腕を組むようにさせて考える。
 子供のように可愛らしく大きな瞳も、難しげに歪めだ顔の為に怖く感じる。
 辛酸を舐めさせられた経験からか、一切の遊びの無い声でうんうんと唸る。
 その様相は、道化というよりも寧ろ地獄の鬼といえただろう。

 考えるは、極力危険を冒さずに生き残る方法。
 積極的に殺しあう――論外だ。
 最後の一人まで隠れる――現実的ではない。
 打倒主催を目指すグループに紛れ込み、扇動をする――誰も信用しないだろう。
 むしろ打倒主催をする――一人でなど無理だ。
 その他、思いつく数あるスタンスを次々に考察していく。
 しかし自分の生存というビジョンが一向に見えない。

「これじゃどうしようもないのサ、ボクは二度と死にたくなんてないのサ……」
 初めて味わわされた命が消えていく未知の感覚を思い出し、身体が震える。
 それはブラックシャドーに感じたのと同じ、確かな恐怖の感情。
 馴れないその感情は、だからこそ深くマルクの心を縛り付ける。
「……誰でもいいから仲間が欲しいのサ。一人じゃ心細いのサ」
 でも、信用されない事には話にならないのサ」
 孤独を感じているマルクは、いつのまにか利用できる者ではなく仲間を求めている事に気付いていない。
 優勝して願いを叶える事よりも生存を優先している事にも気付かない。

「そうだ、確かさっき調べた支給品に……」
 組んだ羽を元に戻したマルクは、器用に羽をデイパックへと突っ込むと入っていた杖を徐に取り出す。
 魔法の杖だろうかと思って読んだ説明書には、こう書いてあった。

『「たずね人ステッキ」
 人や物を探しているとき、このステッキを地面に突き立てて手を放すと、目当ての人や物の方向に倒れる。
 しかし、その的中率は70パーセント。
 三時間につき一回のみ使用することができ、一度使用した相手には使えない。
 ちなみに死体にも有効。』

 最初に読んだ時は探したい人物などいないとがっかりし、不用品と結論づけたが、
冷静に考えればそれでも使い道はある。
「これでボクを信じてくれそうな人を探すって言うのはどうだろう?」
 確実性がないとはいえ、70%という数字は決して無視できない程には大きい数字だ。
 見える道が全て真っ暗闇だというのならば、命を賭けるに足りうる十分な確率。
「さあステッキよ、一番近くにいるボクを信じてくれそうな参加者を教えて欲しいのサ!」

 それから数分後――ステッキの倒れた方向へコソコソと飛んでいたマルクは、
進行方向の家屋から参加者と思わしき女性――八意永琳が出てこようとするのを発見した。
「でもいきなり目の前に現れたら不審がられるのサ。
 できるだけ向こうから発見できるように、それとブラックシャドーの言葉も思い出して……」

『本当に不幸を経験した人はもっと必死に話すんだよ』 

 それが、ブラックシャドーがマルクの嘘を見抜いた最大の原因。
 こんな状況で冷静に、この支給品で信じてくれそうな人を探しました――
などといっても、余計に不信感を煽るだけだろう。
 誰に狙われるかも分からなくて必死で逃げ回っていた。
 そこで永琳に遭遇してしまう。それからはマルク自信の話術と演技力次第だ。
 マルクは計画を立てると、誰にも見つからないように道路へと降り立ち、一心不乱に永琳へと走り、衝突する。

「あなたは、マルク……!?」
「ひぃっ……! ボクはあいつとは違うのサ! 本当なのサ!
 お願いだから信じて欲しいのサ!」


 *  *  *


 かつて月と太陽を喧嘩させた張本人であるマルク。
 そんな彼が、『月』の頭脳を味方につける事ができるのだろうか――。


【一日目/深夜/東京都@テラカオスバトルロワイアル】
【マルク@任天堂キャラバトルロワイアル】
[時期]:65話『誓い』でマルスに殺された後
[状態]:普通
[所持]:たずね人ステッキ@アニメキャラ・バトルロワイアル(深夜に使用)
[方針]基本方針:死にたくない。
1:永琳と交渉。

【八意永琳@東方projectバトルロワイアル】
[時期]:104話『Never give up』で諏訪子と別れた後
[状態]:普通
[所持]:不明@不明
[方針]基本方針:輝夜を助ける。
1:マルクと交渉。


【たずね人ステッキ@アニメキャラ・バトルロワイアル】
マルク@任天堂キャラバトルロワイアルに支給される。
人や物を探しているとき、このステッキを地面に突き立てて手を放すと、目当ての人や物の方向に倒れる。
しかし、その的中率は70パーセント。
三時間につき一回のみ使用することができ、一度使用した相手には使えない。ちなみに死体にも有効。



★パロロワ一口メモ★
【主催者が参加者の誰かの姿形を騙っていた】

東方projectバトルロワイアルの特徴の一つで、主催者のZUNは永琳の姿形で殺し合いを開催した。
なお、その際永琳本人は眠らされたまま隔離されていたので、ルールを知らせてもらえなかった。
その為参加者の多くが永琳を敵視した。



000:そんな事よりパロロワしようぜ! 投下順 002:とある書き手の旗即折
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GAME START マルク@任天堂 次話

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最終更新:2010年03月23日 07:22
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