ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1045 研究所
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ankoss
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―研究所―
最初は、誰もゆっくりの存在を信じなかった。
初めてゆっくりを見たのは、小高い丘にハイキングをしに来ていた家族である。
父親はまだ小さな娘を抱え、顔面蒼白の母親と共に必死の形相で麓まで駆け降りてきた。麓の駐在所に飛び込み開
口一番。
「ゆ…ゆゆゆ…ゆっくりしていってね!!!…って…な、なななななな…生首が……変なのが…っ!!!!」
「ぴ…ぴぴ…ぴょんぴょんジャンプして…寄ってきて……………ふぅ……(ドサッ)」
母親が意識を失い倒れ込む。
平和な田舎町が騒然となった。駆けつける救急車。人の生首と聞いて、バラバラ殺人事件でも起きたのかと、昼夜
問わずうろつくようになった自警団。さらに事件の手掛かりを追おうとする警察官。
この小さな町で起きた怪事件は、新聞の一面をトップで飾り、多くのメディアで報道されることとなった。
生首の第一発見者である家族からは、「なんか動いてた」「話しかけてきた」という証言もあったのだが、警察側
は気が動転していたのだろう…という一言で片づけ、精神科にまで回す始末だった。
どれだけ情報を集めても、バラバラにされた残りの遺体を探そうとも、まるで雲を掴むような話で捜査は一向に進
展しなかった。
だが、ある日。
「ゆ…ゆっくりやめてね!!!はなしてね!!!おろしてね!!!」
一人の捜査官が、人語を喋り顔全体をくねらせて抵抗する生首の髪を掴んで山から下りてきた。
「な…なんだね…それは…」
「わかりません。しかし、例の家族の証言と照らし合わせてみても、あの一家が見たのはコイツで間違いないかと…」
その生首は、大粒の涙を流している。表情から察するに…一応、恐怖を感じているようだ。そこにいた捜査官の誰
もが、「お前のほうが怖ぇよ」と内心思っていたが口に出す者はいない。
「こいつ…何なんですかね…?」
捜査官の一人が木の枝でその生首の頬をつつく。
「や…やめてね!!!いたくてゆっくりできないよ!!!」
周りの人間がどよめきの声を上げた。
「痛い…?痛覚があるのか…こいつ…」
口を広げてみたり、頬を引っ張ってみたり、髪を一本抜いてみたり、無言で一発ビンタしてみたりと、捕えた生首
の反応を確かめる捜査官たち。
「い…いたいよぉぉぉぉぉ!!!どおしてこんなことするのぉぉぉぉ?!!」
泣き叫ぶ生首。その光景は、異様と言うか滑稽と言うか…不気味と言うか…。これが未知の生物(?)に遭遇した
ときの人類の正しい感情なのかもしれないが、とにかく気味が悪い。怖いとか気持ちが悪い…とかではない。純粋に
気味が悪い。
そのとき、
「やめてねっ!!!おろしてねっ!!!ゆっくりしてただけなのにぃぃぃぃっ!!!」
山からもう一人捜査官が下りてくる。目の前でぐすぐす泣いている生首を見ただけでも、不可解なことばかりだと
言うのに、それについて何ひとつ解決することができないまま、また種類の違う生首が現れた。
「もうやだ!!!おうちかえる!!!」
長い金髪のお下げを掴まれぶら下がっている生首が悲痛な声を上げると、さっきまで顔中をいじくられて泣いてい
たもう一匹の生首がその声のほうに顔を向けた。そして表情を輝かせて、
「ま…まりさっ!!!」
「れ…れいむぅぅぅぅぅぅ??!!!たすけてねっ!!!たすけてねっ!!!こわいよぉぉぉぉぉ!!!」
…れいむ。
…まりさ。
二体の生首は、確かにお互いのことをそう呼びあった。名前、なのだろうか。捜査官の一人が初めて生首を相手に
“会話”を試みた。
「お前は…“れいむ”って言うのか?」
これまで意地悪ばかりされてきた“れいむ”と呼ばれた生首は、声をかけてきた捜査官に向き直ると少しだけ怯え
ながら、
「ゆ…れいむは、れいむだよ…?」
返事をした。と、言うより会話が成立した。してしまった。別の捜査官が恐らくは“まりさ”という種族なのであ
ろう金髪の生首に同じ質問をすると、
「ゆゆっ!まりさは、まりさだよっ!!!ゆっくりしていってね!!!」
自己紹介をされると同時に、なぜかゆっくりすることを促されてしまった。…変な生首に。
捜査官がポケットに入れていた一口サイズのチョコを取り出すと、“れいむ”の方の生首の前に置いた。生首は、
チョコを凝視するとひと思いにパクリと口の中に入れて、咀嚼しながら、
「むーしゃ、むーしゃ…しあわせぇぇぇぇぇっ!!!」
目に涙を浮かべ、表情を輝かせる。チョコをあげた捜査官は、突然叫ばれて一歩引いていたが、どうやら人間と同
じものを食べることができるらしい。
「と…とにかく、こいつを連れていこう…」
捜査官の中では一番年上の男が提案した。しかし、
「………どこに、ですか………?」
「………………え?」
二体の生首が搬送されたのは、とある生物研究所だった。日進月歩のバイオテクノロジーの進化を支える、我が国
のどこかに存在する、地下研究所である。二体の生首が研究室で初のお披露目となったとき、研究者たちは初めて見
る生物(?)に興奮を隠しきることができない。
自分たちを取り囲む、十数人の研究員に包囲されて怯えながら身を寄せ合う二体の生首。二体とも、目に涙を溜め
ていた。
「これは…怯えているようですねぇ…?」
「人間と同じような表情をするんだな…涙目だし」
「ていうか、まんま人間の顔よね…?」
「生物…でいいのかしら?」
がたがた震えながら、研究所の職員たちの会話を聞いている二体。研究員は、報告のあったとおり、黒髪に赤いリ
ボンがついている方に“れいむ”。金髪に大きな黒い帽子をかぶっている方に“まりさ”という名前をつけた。
早速、顔中をいじくりまわして、いろんな薬剤を投与してこの不思議生物(?)について調べたくて仕方がなかっ
たが、れいむとまりさは一体ずつしか存在していないため、不用意な実験には着手できない。
それ以前に、この二体が生物なら、どういう生物なのかをまず把握する必要があった。
職員たちはれいむとまりさを殺風景な四角い部屋へと移動させた。この部屋には、二十台を超える隠しカメラと音
声を拾う装置が設置されている。
一日、この中に放り込んで、二体の生首を観察しようというのだ。
職員の一人がれいむとまりさの入ったケージの蓋を開けると、無言で部屋を後にし外側から鍵をかけた。蛍光灯が
点いているため、部屋の中は明るい。隠しカメラには早速不安がる二体の姿が映し出された。
「まりさぁ…ここ、どこなのぉ…?」
「まりさもしらないよ…ここはゆっくりできないよ…」
研究員たちは、二体の会話を聞くために耳に全神経を集中させていた。
「ゆ…さっきのにんげんさんはここからでていったよ!」
(人間…さん?生首たちは…自分たちと私たち…つまり、人間とは違う種族だということを理解しているのかしら?)
ぴょんぴょんと飛び跳ねて扉の前に移動するまりさ。それを見て、れいむもずーりずーりと地面を這ってまりさの
横へと移動した。
(跳ねる…?這う…?どうやって…?生首の底の部分にはそういう機能があるのか…?面白い…実に面白い)
れいむとまりさが頬を扉に押し付けて開けようとするが、びくともしない。鍵がかかっている上に、ドアノブを動
かさなければ構造上開くことはないので、無意味な行動であったが二体の生首は必死だ。やがて、顔を真っ赤にした
状態で扉を押すのを諦めた二体は、
「どおして…とおれないのぉ…?」
「かべさんっ!ゆっくりいじわるしないでねっ!れいむたち、おそとにでたいよっ!!!」
壁。意地悪。外。それら全ては、人間が生み出した言葉のはずだが、あの二体の生首も当たり前のようにその言葉
を使っている。研究員一同、首をかしげた。
「ゆぅぅぅ…ここのじめんさんはかたくてあんよがゆっくりできないよ…」
「くささんもはえてないから、ごはんさんもむーしゃむーしゃできないよ…」
「「…ゆっくり…したいよぉ………」」
あんよ。人間の赤ちゃんが初めて物を支えに立ちあがり、足を使って移動しようとするときに母親が「あんよが上
手、あんよが上手…」と言うが、その“あんよ”と同じ語彙でいいのだろうか。先ほどの生首のセリフを要訳すると、
“ここの地面は固いから足がゆっくりできない”
一応の意味は伝わる。“ゆっくりできない”というのもニュアンスとしては分からないでもない。固い床の上は歩
きにくい…いや、跳ねにくい、這いにくいのだろう…。あの二体の生首の中では。
そして、やはり先ほどの会話で生首が草を食べることが発覚した。ということは草食なのだろうか。しかし、捜査
官の渡したチョコも食べたと言う。今後は、いろんな食べ物を与えてみる必要がありそうだ。
二体の生首は、部屋の中で落ち着くことができないのか、“あんよ”とやらを這わせて動きまわっていた。他に出
口がないか探しているのだろうか。確かに何もない部屋ではあるが、気温も湿度も快適な数字に設定をしてあるので、
じっとして過ごす分には問題ないはずだ。
「…ゆぅ…れいむ…なんだか、おなかがへってきたよ…」
「まりさもだよ…でも、どうしよう…。ここにはなにもたべるものがないよ…」
研究者としてはもう少しこのまま観察を続けたかったが、仕方ない。飢え死になどされてしまっては、これから研
究ができなくなる。
「しかしお腹がすいた、と来たか…。あいつらの顔の中には…胃とか腸とかあるのかねぇ…?」
その一言に、研究者たちの誰もが“解剖したい。今すぐしたい”と思っていたが、それはできない。まだこちらか
ら手を出す実験や研究をする段階ではないのだ。
研究員の一人が餌皿を持ってモニタールームを出て行く。
しばらくして、監視カメラには研究員が部屋の中に入ってくる様子が映し出された。
「ゆっ!ゆー!!おねえさん!!ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
まりさとれいむが女性研究員の元へとぴょんぴょん飛び跳ねて駆け寄ってくる。女性研究員は、二体の生首の表情
や様子を観察するのに忙しくてまともに相手をしない。表情はとても嬉しそうにしている。何か話しかけてくるのを
待っているのだろうか。何か期待を込めた目で女性研究員を見上げている。
(…話をするのが、好きなのかしらね…?どうでもいいけど…)
無言で持って来た餌皿を生首の元に置く。
「ゆ?」 「ゆゆ?」
二体の生首が小首をかしげる。女性研究員が持ってきたのは、ドッグフードだ。生首たちが雑食性であれば、問題
なく食べるはず。
「おねえさん!これ、れいむたちがたべてもいーの?」
れいむの問いかけに女性研究員が頷く。れいむとまりさは餌皿の中に顔を突っ込み、よほど空腹だったのか勢いよ
くがっつき始めた。時折、顔を上げては大きな声で
「むーしゃ…むーしゃ…っ、し…しあわせぇぇぇぇぇぇ!!!」
叫ぶ。そのたびに口の中で噛んでいる途中のドッグフードが撒き散らされる。女性研究員がため息をつく。研究所
で多くの動物が食事を摂る様子を見てきたが、この生首たちの食べ散らかし方は他の追随を許さない。餌を食べてい
るのか、餌を撒き散らしているのかわからないくらいだ。
やがて。
「ゆふぅ…!おなかいっぱいになったよ!!ゆっくりごちそーさま!!!」
「ありがとう、おねえさん!!!すごくゆっくりしたごはんさんだったよ!!!」
「…そう。良かったわね」
生首からのお礼をあしらい、餌皿を片付け部屋を出て行こうとする。そのとき、
「おなかいっぱいになったら、うんうんしたくなってきたよ!!!」
その言葉に女性研究員は思わず足を止めた。モニタールームの研究員も、今の一言に目を見開いている。
(*1) ))
一同は気づいていた。生首の離す言葉は、日本語と同じ。しかし、語り口が幼稚なのだ。言葉を覚えたばかりの四
歳から五歳くらいのセリフ回しに近い。ここまでの展開と“うんうん”という言葉から導き出される答えは一つ。こ
れから、生首たちの排泄行為が始まる…っ!!
部屋を出ようとした女性研究員も思わず振り返る。そこには二体の生首が並んで仰向けに寝転んでいる姿があった。
そして、なぜか頬を染めて恥ずかしそうに、それなのに妙に誇らしげに、
「「うんうんするよっ!!!」」
宣言して、顔に力をかける。すると、どうだろう。じっくり観察をしているわけではなかったので、気付かなかっ
ただけかも知れないが、生首の口から底にかけての間に小さな穴がある。そこから勢いよく何かが排出された。
(これが…うんうん…っ?!)
モニタールームの一同も、驚愕の表情を浮かべる。カメラをズームさせて“うんうん”を画面一杯で捉えた。
「馬鹿な…どう見ても…餡子じゃないか…」
目の前で生首の排泄行為を見終えて、いぶかしげな表情を浮かべる女性研究員をよそに二体の生首は、
「ゆっ!!!くさくてゆっくりできないよっ!!!れいむ、とおくにいこうねっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよっ!!!」
コミュニケーションを取って、その“うんうん”とやらから遠ざかろうとするが、すぐに壁にぶつかる。
「ゆゆっ!!かべさん、ゆっくりじゃましないでねっ!!」
「ま…まりさぁっ!!くさいよぉ!!!うんうん、くさぁい!!!」
(臭い…?どこが…匂いなんて全然…)
女性研究員には、二体の生首が感じているであろう悪臭が理解できなかった。それなのに、れいむとまりさは泣き
ながら自分たちの排泄したうんうんの匂いで苦しんでいる。
「くさいよぉぉぉぉ!!!もうやだ!!!おうちかえるぅぅぅぅぅ!!!」
お家…というのは、この生首たちの巣のことに違いないが、今のセリフを聞くに巣の中で排泄行為は行わないのだ
ろう。
部屋にもう一人の研究員が入ってくる。手には小さなスコップとトレイが握られている。この“うんうん”をサン
プルとして持ち帰るつもりなのだろう。
研究員がうんうんをトレイに載せているのを見た、れいむとまりさはぴたりと泣き止んで、
「ゆゆっ!!!うんうんかたづけてくれるのっ!?」
「ゆっくりありがとうっ!!!」
嬉しそうに飛び跳ねて寄ってくる。二人の研究員は、そんな二体の生首の言葉を無視して部屋を出て行き、再び鍵
をかけた。静まり返った部屋に取り残されたれいむとまりさは、少し表情を暗くして寂しそうに呟いた。
「…なんだか、ゆっくりできないね…」
「ゆゆぅ………」
ゆっくり。結局、一週間ほど例の部屋に閉じ込めて観察していた二体の生首のことを研究員たちはそう呼んだ。と、
言うよりは、れいむとまりさが自分たちのことをそう言ったのだ。「れいむたちはゆっくりだから、ゆっくりしたい
だけなんだよ!」と。
…つまり、“人間の、荒沢です”と、“犬のアレックスです”と“ゆっくりの、れいむだよ”は同じ意味なのだ。
“ゆっくり”という種族の中で、“れいむ”、もしくは“まりさ”という名前がついているらしい。
分かったのはそれだけではない。研究員たちは、二匹のゆっくりにいろんなことを聞いた。ゆっくりづてに聞いた
だけなので、信憑性は決して高くはないが、
・ゆっくりは群れを作って生活している。群れの中にはゆっくりがたくさんいる
・ゆっくりは家族単位で行動する
・“れいむ”や“まりさ”の他にも“ありす”、“ぱちゅりー”、“ちぇん”など他にも種類がたくさんいる
・同じ顔のゆっくりもたくさんいる
・みんな山の奥で静かにゆっくり暮らしている
というような情報を得ることができた。
それから更に一週間かけて研究所の職員たちは山の奥に出かけ、数多くのゆっくりを捕獲した。同じ顔が十を超え
る数で一様に泣いている姿は常識的に考えても異様な光景である。その中には“れいむ”と“まりさ”と同じ顔をし
たゆっくりもいたし、名前ははっきりとはわからないが同じような生首も数種類捕まえた。五種類という数も、研究
所の二匹が言っていた数と合致する。
家族単位で捕獲したゆっくりには、大体バスケットボールほどのサイズの親と思われるゆっくりをそのまま縮小し
たような子ゆっくりもついてきていた。テニスボールほどの子ゆっくりはうるさくて仕方がない。親と思われるゆっ
くりも泣き叫ぶが、子ゆっくりの泣き叫び方は異常とも言える。
防音設備の行き届いた研究室でなければ、どう考えても大勢の子供が監禁されて連日連夜凄惨な虐待が行われてい
ると、勘違いされても仕方のないレベルだった。
それはともかく。
ようやく頭数は揃った。これでやっとこの“ゆっくり”という生き物について詳しく調べることができる。研究所
の中には“ゆっくり研究室”が設けられ、実験のために捕獲されたゆっくりは漏れなくペットショップのようなショ
ーウィンドウの中に一匹ずつ投げ込まれた。
最初に観察をしていた“れいむ”と“まりさ”には多少の情が移ってしまったのか、同じ顔だというのにモルモッ
トとして扱うことはなかった。なので、新しく連れて来られたれいむ種とまりさ種が、一匹ずつ実験室へと連れてい
かれた。
ケージの中で二匹が震えている。時折、ケージの中を覗き込んでは不気味な笑みを浮かべる研究員のことが怖くて
仕方がない。本能が警告をしていた。「これからゆっくりできなくさせられそうだ」と。
逆に研究員たちのテンションは最高潮だった。毎日、毎日、この生物をどういう方法で調べて報告書にまとめよう
かとそればかり考えていた。今日、この日をもって、ゆっくりの研究がスタートする。
一人の研究員がケージの中かられいむを取り出すと、作業台の上に載せた。
「ゆ?ゆゆっ?…ゆっくりしていってね…?」
きょろきょろと辺りを見回しながら、声を震わせて研究員に呼びかける。
「ああ…ゆっくりして行くとも…」
そう言って、れいむを仰向けに寝かせると、
「ヒャアアアッハアアアアアアァァァァ!!!!!研究だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ゆ…ゆゆゆゆゆゆゆゆゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ???!!!!」
職員の一人がれいむの頭を抑えつけ、もう一人が鋭利な刃物であらかじめ顔に引かれた十字線の交点から顎、あん
よのラインに切り込みを入れる。刃が皮に食い込み、スーーッ…と切り開いて行く過程で、れいむは目を見開き、濁
流の如く涙を流した。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
次いで絶叫を上げる。口も真ん中から寸断されており、大きく口を開きすぎると切り口から更に裂けて行く。
「い゛…い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!」
切り開いた皮の中に研究員が指を突っ込み、れいむの顔の皮を押し広げる。
「じ…じみ゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!や゛べでえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!」
傍らには、“解剖”されるときのれいむの反応を逐一メモする役割を担う助手がいた。だらだらと涎を垂らし、歯
食いしばるれいむをよそに、研究員の動きは止まらない。
「ゆ゛…ぎぃ゛ぃ゛…っ!!!い゛…だ…ぃ゛…よ゛ぉ゛………っ!!!!!」
押し広げた皮の内部に、刃部の長い刃物を再び挿し込む。れいむが、作業台の上で、二度三度と跳ねあがる。それ
を抑えつける研究員。どちらも必死の形相だ。れいむの揉み上げが、作業台を叩く。苦しみから逃れようと、下半身
を振り回して研究員の手を逃れようとするが、この抵抗は意味を成さない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…っ!!!!!!!!!」
顔の皮と中身を切り裂きながら、研究員の持つ刃物がれいむの顔の下半分を寸断していく。刃物がれいむの顔を通
り切った段階で、切り裂いた口の下あたりから水がちょろちょろと漏れ始めた。観察の段階で確認していた、しーし
ーだ。人間で言えば失禁をしているのだろう。
「お゛でがい…じばず…れいぶ…いだい゛の゛…やべで…やべでぇ……!」
ぶるぶる震えて、顔を真っ青にして、涙ながらに懇願するれいむ。
だが、研究員の実験は終わらない。研究員たちは、ゆっくりの断面が見たかったのだ。見るためには、切り開くし
かない。ただ、もしかしたら皮の下には見落としてはいけない大事な情報が詰まっている可能性があるかも知れない。
それを懸念して、まずはゆっくりの顔の四分の一をカットすることにしたのだ。十字線の交点から、れいむの左頬
にかけて、再び刃物が入れられる。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ…!!!!!」
もはや、大声を上げる元気がないのだろうか。苦しそうにうめき声を上げるれいむ。完全にカットされたれいむの
顔の左下の部分を専用のケースに入れて保存する。後々、何かの役に立つかも知れないからだ。
持って行かれる自分の顔の一部を見たれいむは、悲痛な表情で、
「ゆ゛あ゛あ゛…れ゛い゛む゛の゛…がわいいおがお゛があぁぁぁ…っ!!!かえじでねっ!!!がえじでぇ…!!」
「見ろ…こいつの顔の中…餡子がびっしり詰まってやがる…!!!」
「信じられないな…一体、これでどうやって生きてるんだ…?」
れいむの訴えはまるで聞き入れられず、切り開かれたれいむの断面を見てメモを取ったり、写真を撮ったりしてい
る。中身の餡子をスプーンですくい、小ビンの中に入れて行くたびにれいむが叫び声を上げた。餡子はこの後、分析
器にかけてみる予定だ。見た目が餡子というだけで実際は全く別の物かも知れない。そうでなければ、このゆっくり
の構造の説明が何一つできないのだが。
「も゛…も゛ぅ…やべでぐだざい…れいむ゛…な゛んに゛も…わるい゛ごど…じでない゛のに゛…」
体の四分の一を失ったにも関わらず、まだ言葉を発する力があるらしい。皮の下にあるものが餡子のようなものだ
けだということが分かったら話が早い。
研究員は、一気にれいむの目と目の間を切り裂いて、れいむは完全に顔半分を失ってしまった。そのとき、目を飛
び出さんばかりに見開き、びくびくと痙攣を起こしながら、
「も…も゛っど…ゆ……ぐり…じだ……が…………た……………」
それだけ言い残して、恐ろしい形相のまま動かなくなった。
「死んだか」
「死んだな」
ぴくりとも動かないれいむの顔の右半分を崩さないようにケースの中に入れる。ゆっくりの断面図の標本代わりだ。
あんよの先から頭の先まで、びっしりと餡子のようなものが詰まっている。
口の断面を見てみると、餡子の塊から舌が伸びており、喉は存在していないように見える。食べたものは、どうな
っているのだろうか。
一方、ケージの中で既にしーしーを大量に漏らし、歯をカチカチ鳴らしながら震えているのはまりさ種である。上
で何が起こっているのかはわからないが、れいむのこの世のものとは思えないような悲鳴を聞かされ、恐ろしくて仕
方がない。
れいむの最期の言葉も聞いてしまった。れいむは殺されたのだろう。まりさが想像もつかないような方法で。惨た
らしく。
まりさの入ったケージが持ち上げられる。
「う…うわああああああああああ!!!!!」
次は自分の番だ、とまりさが悲鳴を上げる。ケージのできるだけ奥へ奥へと逃げて、顔を壁に押し付ける。ケージ
作業台の上に載せられると、扉が開かれた。そこから研究員の腕が伸びてくる。
「ゆんやあああああああああああああああああ!!!!!」
まりさの叫び声など気にもならないのか、研究員の手がまりさの髪を掴むと、一気に外に引きずり出された。眩し
くて目を覆う。
「…ゆげ…っ!うぇ…っ!!!!」
恐怖と緊張で、中身が逆流してくるのか、口から少量の餡子を吐きだしている。涙と冷や汗としーしーを作業台の
上で垂れ流し、あんよがすくんでいるのか、一歩たりとも動くことができないままにガタガタ震えている。
「ゆ…ゆひぃぃぃっ?!」
次にまりさの視界に入ったのは、顔の半分を切り裂かれたれいむの変わり果てた姿だった。ケースの中に入ってい
るとは言え、同族の凄惨な姿を目の当たりにしたまりさは、気が狂いそうになるのを必死で抑えながら、作業台の上
で命乞いを始めた。
「おでがいじばずぅぅぅ!!!だずげでくだざい゛ぃ゛!!!」
研究員たちは、次の実験の準備を無言で進めている。それが、まりさにも理解できたのか、
「ま…ま゛でぃざだちは…やまの゛お゛くでしずがにぐらじでいた゛いだけなんでずぅぅぅぅ!!!!!!」
「人間っていうのは臆病な生き物でな…」
邪魔になるからか、研究員の一人がまりさの頭の帽子を取る。すると、まりさは更に混乱した様子で、
「お…おぼうじ…っ!!!まり゛ざのだいじなおぼうじざん…っ!!!」
「人間以外のことは全部調べ上げておかないと不安なんだよ…」
「おぼうじざん!!!がえじでっ!!!がえじでええええぇぇぇぇぇ!!!」
作業台の上をぴょんぴょん飛び跳ねるまりさをもう一人の研究員が抑えつけた。強く抑えすぎたのか、まりさは苦
しそうに中身の餡子を吐きだした。
「人間は弱いからね…相手の体の構造…習性…それらすべてを把握しておかないと…いざ、というときこの世界では
生き残れないかも知れない」
「おぼうじさん…………がえ……じで…」
「他者を徹底的に調べ上げて、多くの道具を作り上げて…そこまでして、ようやく生態系の頂点に立つんだ。本能で
は自分たちが弱いことを理解している人間だからこそ…君たちみたいな未知の存在は、放置できない」
言い終えると、研究員はまりさの目の付近の皮を力いっぱい押し広げた。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛っ!!!い…いだい゛よ゛!!!やべで…やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!」
今にも飛びだしそうな目玉の縁に沿って大き目のピンセットを深々と挿し込む。
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
時折、目玉を傷つけてしまうのか、目玉につけられた傷から涙のような液体がぴゅるぴゅると噴き出す。そして、
そのままピンセットで掬いあげるようにまりさの目玉を抉りだした。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!まり゛ざの…おべべがあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
抉りだしたまりさの目玉には、視神経のようなものが一本垂れさがっている。研究員たちは、この視神経もどき
が一体どういう構造でもって餡子しかないはずの中身を介して、目の役割を果たしているのか理解することができ
なかった。
両方の目玉を失うと、何も見ることができなくなってしまうのだろうかという疑問から、もう一方の目玉も抉り
出された。すると、
「どぼじでぇ゛ぇ゛ぇ゛っ?!どぼじでなん゛にも゛み゛え゛な゛い゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛??!!!」
かつて目玉のあった場所からは、それでも涙がとめどなく溢れている。抑えつけていた研究員が手を離しても、
何も見えないのが怖くてその場を動けないのか、ぴくりとも動かない。そこで、まりさの頬に先ほどれいむを切り
裂いた刃物を突き刺してみた。
一瞬、「ッ?!」と言うような表情に変化したかと思うと、ジャンプ一番飛び上がって、
「ゆ゛ぎゃあああああ゛あ゛っ??!!!」
痛みと混乱が同時に襲っているのか、あんよをずりずり這わせてどこへ行くアテもなく逃げようとする。まりさ
の顔の中心に再び刃物を突き立てる。
「い゛だい…っ!!!ごっぢこ゛な゛い゛でぇぇぇぇ!!!!」
まりさが作業台の上で回れ右して反対方向に逃げ始める。また、正面に回りまりさの顔面に刃物を挿し込む。
「どぼじでぇ゛ぇ゛ぇ゛??!!!ゆっぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
どうやら、本当に何も見えていないらしい。それでも、痛みから逃げるために必死にあんよを動かしている。こ
こまで来て、ようやく研究員たちも気づき始めた。
ゆっくりが、我々の想像を遥かに凌駕するほど、脆弱で無知な存在であるということに。
考えても見てほしい。このゆっくりという生き物。外敵から身を守る術を何一つ持たない。外敵を切り裂く爪も
牙も…外敵から逃げるための俊敏な動きをする足も、それを感知する力も。
自然の中で生きて行く上で…いや、それ以前に生物として絶望的なフォルムでこの世に存在していること自体が、
滑稽であると言える。
「ゆ゛っぐりじだい…ゆっぐり゛…じだいよ゛ぉぉ…」
めそめそと泣き続けるまりさをビンタしたり、ハンマーで殴ったりして弄ぶ。
「一つだけはっきりわかったことがある。こいつらは…生物のヒエラルキーの中で限りなく底辺に近い存在である
ということ」
「い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛!!!!やべでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」
耐久力テストと称して、まりさは死ぬまで研究員たちに殴り続けられた。
ゆっくりの体の構造を解き明かすのには、凄まじい時間と労力、多くのゆっくりたちの犠牲が必要になるだろう
が、最大の関心事については解決したと言っても過言ではない。
人語を解し、相互にコミュニケーションを図ることのできるこの未知の生物・ゆっくりが、人類にとって危険な
存在になり得るか。
研究員たちはそれを調べていたのだ。
一番大事な疑問は解決したが、ゆっくりの生態や体内の構造に関しては未だに謎が多い。研究員たちは、連日連
夜、ゆっくりを切り開いたり、穴をほがしたり、皮を剥いだり、痛めつけたりして“実験”を繰り返している。
わかったことと言えば、ゆっくりは基本的に饅頭やシュークリームをモチーフにした体の構造をしており、食べ
ようと思えば食べられることぐらいだった。
ゆっくりたちの悲鳴や叫び声…すすり泣く声は、ゆっくりの存在が一般的になってきた最近でも、研究所の奥の
奥で、途絶えることなく続いている。
おしまい
最初は、誰もゆっくりの存在を信じなかった。
初めてゆっくりを見たのは、小高い丘にハイキングをしに来ていた家族である。
父親はまだ小さな娘を抱え、顔面蒼白の母親と共に必死の形相で麓まで駆け降りてきた。麓の駐在所に飛び込み開
口一番。
「ゆ…ゆゆゆ…ゆっくりしていってね!!!…って…な、なななななな…生首が……変なのが…っ!!!!」
「ぴ…ぴぴ…ぴょんぴょんジャンプして…寄ってきて……………ふぅ……(ドサッ)」
母親が意識を失い倒れ込む。
平和な田舎町が騒然となった。駆けつける救急車。人の生首と聞いて、バラバラ殺人事件でも起きたのかと、昼夜
問わずうろつくようになった自警団。さらに事件の手掛かりを追おうとする警察官。
この小さな町で起きた怪事件は、新聞の一面をトップで飾り、多くのメディアで報道されることとなった。
生首の第一発見者である家族からは、「なんか動いてた」「話しかけてきた」という証言もあったのだが、警察側
は気が動転していたのだろう…という一言で片づけ、精神科にまで回す始末だった。
どれだけ情報を集めても、バラバラにされた残りの遺体を探そうとも、まるで雲を掴むような話で捜査は一向に進
展しなかった。
だが、ある日。
「ゆ…ゆっくりやめてね!!!はなしてね!!!おろしてね!!!」
一人の捜査官が、人語を喋り顔全体をくねらせて抵抗する生首の髪を掴んで山から下りてきた。
「な…なんだね…それは…」
「わかりません。しかし、例の家族の証言と照らし合わせてみても、あの一家が見たのはコイツで間違いないかと…」
その生首は、大粒の涙を流している。表情から察するに…一応、恐怖を感じているようだ。そこにいた捜査官の誰
もが、「お前のほうが怖ぇよ」と内心思っていたが口に出す者はいない。
「こいつ…何なんですかね…?」
捜査官の一人が木の枝でその生首の頬をつつく。
「や…やめてね!!!いたくてゆっくりできないよ!!!」
周りの人間がどよめきの声を上げた。
「痛い…?痛覚があるのか…こいつ…」
口を広げてみたり、頬を引っ張ってみたり、髪を一本抜いてみたり、無言で一発ビンタしてみたりと、捕えた生首
の反応を確かめる捜査官たち。
「い…いたいよぉぉぉぉぉ!!!どおしてこんなことするのぉぉぉぉ?!!」
泣き叫ぶ生首。その光景は、異様と言うか滑稽と言うか…不気味と言うか…。これが未知の生物(?)に遭遇した
ときの人類の正しい感情なのかもしれないが、とにかく気味が悪い。怖いとか気持ちが悪い…とかではない。純粋に
気味が悪い。
そのとき、
「やめてねっ!!!おろしてねっ!!!ゆっくりしてただけなのにぃぃぃぃっ!!!」
山からもう一人捜査官が下りてくる。目の前でぐすぐす泣いている生首を見ただけでも、不可解なことばかりだと
言うのに、それについて何ひとつ解決することができないまま、また種類の違う生首が現れた。
「もうやだ!!!おうちかえる!!!」
長い金髪のお下げを掴まれぶら下がっている生首が悲痛な声を上げると、さっきまで顔中をいじくられて泣いてい
たもう一匹の生首がその声のほうに顔を向けた。そして表情を輝かせて、
「ま…まりさっ!!!」
「れ…れいむぅぅぅぅぅぅ??!!!たすけてねっ!!!たすけてねっ!!!こわいよぉぉぉぉぉ!!!」
…れいむ。
…まりさ。
二体の生首は、確かにお互いのことをそう呼びあった。名前、なのだろうか。捜査官の一人が初めて生首を相手に
“会話”を試みた。
「お前は…“れいむ”って言うのか?」
これまで意地悪ばかりされてきた“れいむ”と呼ばれた生首は、声をかけてきた捜査官に向き直ると少しだけ怯え
ながら、
「ゆ…れいむは、れいむだよ…?」
返事をした。と、言うより会話が成立した。してしまった。別の捜査官が恐らくは“まりさ”という種族なのであ
ろう金髪の生首に同じ質問をすると、
「ゆゆっ!まりさは、まりさだよっ!!!ゆっくりしていってね!!!」
自己紹介をされると同時に、なぜかゆっくりすることを促されてしまった。…変な生首に。
捜査官がポケットに入れていた一口サイズのチョコを取り出すと、“れいむ”の方の生首の前に置いた。生首は、
チョコを凝視するとひと思いにパクリと口の中に入れて、咀嚼しながら、
「むーしゃ、むーしゃ…しあわせぇぇぇぇぇっ!!!」
目に涙を浮かべ、表情を輝かせる。チョコをあげた捜査官は、突然叫ばれて一歩引いていたが、どうやら人間と同
じものを食べることができるらしい。
「と…とにかく、こいつを連れていこう…」
捜査官の中では一番年上の男が提案した。しかし、
「………どこに、ですか………?」
「………………え?」
二体の生首が搬送されたのは、とある生物研究所だった。日進月歩のバイオテクノロジーの進化を支える、我が国
のどこかに存在する、地下研究所である。二体の生首が研究室で初のお披露目となったとき、研究者たちは初めて見
る生物(?)に興奮を隠しきることができない。
自分たちを取り囲む、十数人の研究員に包囲されて怯えながら身を寄せ合う二体の生首。二体とも、目に涙を溜め
ていた。
「これは…怯えているようですねぇ…?」
「人間と同じような表情をするんだな…涙目だし」
「ていうか、まんま人間の顔よね…?」
「生物…でいいのかしら?」
がたがた震えながら、研究所の職員たちの会話を聞いている二体。研究員は、報告のあったとおり、黒髪に赤いリ
ボンがついている方に“れいむ”。金髪に大きな黒い帽子をかぶっている方に“まりさ”という名前をつけた。
早速、顔中をいじくりまわして、いろんな薬剤を投与してこの不思議生物(?)について調べたくて仕方がなかっ
たが、れいむとまりさは一体ずつしか存在していないため、不用意な実験には着手できない。
それ以前に、この二体が生物なら、どういう生物なのかをまず把握する必要があった。
職員たちはれいむとまりさを殺風景な四角い部屋へと移動させた。この部屋には、二十台を超える隠しカメラと音
声を拾う装置が設置されている。
一日、この中に放り込んで、二体の生首を観察しようというのだ。
職員の一人がれいむとまりさの入ったケージの蓋を開けると、無言で部屋を後にし外側から鍵をかけた。蛍光灯が
点いているため、部屋の中は明るい。隠しカメラには早速不安がる二体の姿が映し出された。
「まりさぁ…ここ、どこなのぉ…?」
「まりさもしらないよ…ここはゆっくりできないよ…」
研究員たちは、二体の会話を聞くために耳に全神経を集中させていた。
「ゆ…さっきのにんげんさんはここからでていったよ!」
(人間…さん?生首たちは…自分たちと私たち…つまり、人間とは違う種族だということを理解しているのかしら?)
ぴょんぴょんと飛び跳ねて扉の前に移動するまりさ。それを見て、れいむもずーりずーりと地面を這ってまりさの
横へと移動した。
(跳ねる…?這う…?どうやって…?生首の底の部分にはそういう機能があるのか…?面白い…実に面白い)
れいむとまりさが頬を扉に押し付けて開けようとするが、びくともしない。鍵がかかっている上に、ドアノブを動
かさなければ構造上開くことはないので、無意味な行動であったが二体の生首は必死だ。やがて、顔を真っ赤にした
状態で扉を押すのを諦めた二体は、
「どおして…とおれないのぉ…?」
「かべさんっ!ゆっくりいじわるしないでねっ!れいむたち、おそとにでたいよっ!!!」
壁。意地悪。外。それら全ては、人間が生み出した言葉のはずだが、あの二体の生首も当たり前のようにその言葉
を使っている。研究員一同、首をかしげた。
「ゆぅぅぅ…ここのじめんさんはかたくてあんよがゆっくりできないよ…」
「くささんもはえてないから、ごはんさんもむーしゃむーしゃできないよ…」
「「…ゆっくり…したいよぉ………」」
あんよ。人間の赤ちゃんが初めて物を支えに立ちあがり、足を使って移動しようとするときに母親が「あんよが上
手、あんよが上手…」と言うが、その“あんよ”と同じ語彙でいいのだろうか。先ほどの生首のセリフを要訳すると、
“ここの地面は固いから足がゆっくりできない”
一応の意味は伝わる。“ゆっくりできない”というのもニュアンスとしては分からないでもない。固い床の上は歩
きにくい…いや、跳ねにくい、這いにくいのだろう…。あの二体の生首の中では。
そして、やはり先ほどの会話で生首が草を食べることが発覚した。ということは草食なのだろうか。しかし、捜査
官の渡したチョコも食べたと言う。今後は、いろんな食べ物を与えてみる必要がありそうだ。
二体の生首は、部屋の中で落ち着くことができないのか、“あんよ”とやらを這わせて動きまわっていた。他に出
口がないか探しているのだろうか。確かに何もない部屋ではあるが、気温も湿度も快適な数字に設定をしてあるので、
じっとして過ごす分には問題ないはずだ。
「…ゆぅ…れいむ…なんだか、おなかがへってきたよ…」
「まりさもだよ…でも、どうしよう…。ここにはなにもたべるものがないよ…」
研究者としてはもう少しこのまま観察を続けたかったが、仕方ない。飢え死になどされてしまっては、これから研
究ができなくなる。
「しかしお腹がすいた、と来たか…。あいつらの顔の中には…胃とか腸とかあるのかねぇ…?」
その一言に、研究者たちの誰もが“解剖したい。今すぐしたい”と思っていたが、それはできない。まだこちらか
ら手を出す実験や研究をする段階ではないのだ。
研究員の一人が餌皿を持ってモニタールームを出て行く。
しばらくして、監視カメラには研究員が部屋の中に入ってくる様子が映し出された。
「ゆっ!ゆー!!おねえさん!!ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
まりさとれいむが女性研究員の元へとぴょんぴょん飛び跳ねて駆け寄ってくる。女性研究員は、二体の生首の表情
や様子を観察するのに忙しくてまともに相手をしない。表情はとても嬉しそうにしている。何か話しかけてくるのを
待っているのだろうか。何か期待を込めた目で女性研究員を見上げている。
(…話をするのが、好きなのかしらね…?どうでもいいけど…)
無言で持って来た餌皿を生首の元に置く。
「ゆ?」 「ゆゆ?」
二体の生首が小首をかしげる。女性研究員が持ってきたのは、ドッグフードだ。生首たちが雑食性であれば、問題
なく食べるはず。
「おねえさん!これ、れいむたちがたべてもいーの?」
れいむの問いかけに女性研究員が頷く。れいむとまりさは餌皿の中に顔を突っ込み、よほど空腹だったのか勢いよ
くがっつき始めた。時折、顔を上げては大きな声で
「むーしゃ…むーしゃ…っ、し…しあわせぇぇぇぇぇぇ!!!」
叫ぶ。そのたびに口の中で噛んでいる途中のドッグフードが撒き散らされる。女性研究員がため息をつく。研究所
で多くの動物が食事を摂る様子を見てきたが、この生首たちの食べ散らかし方は他の追随を許さない。餌を食べてい
るのか、餌を撒き散らしているのかわからないくらいだ。
やがて。
「ゆふぅ…!おなかいっぱいになったよ!!ゆっくりごちそーさま!!!」
「ありがとう、おねえさん!!!すごくゆっくりしたごはんさんだったよ!!!」
「…そう。良かったわね」
生首からのお礼をあしらい、餌皿を片付け部屋を出て行こうとする。そのとき、
「おなかいっぱいになったら、うんうんしたくなってきたよ!!!」
その言葉に女性研究員は思わず足を止めた。モニタールームの研究員も、今の一言に目を見開いている。
(*1) ))
一同は気づいていた。生首の離す言葉は、日本語と同じ。しかし、語り口が幼稚なのだ。言葉を覚えたばかりの四
歳から五歳くらいのセリフ回しに近い。ここまでの展開と“うんうん”という言葉から導き出される答えは一つ。こ
れから、生首たちの排泄行為が始まる…っ!!
部屋を出ようとした女性研究員も思わず振り返る。そこには二体の生首が並んで仰向けに寝転んでいる姿があった。
そして、なぜか頬を染めて恥ずかしそうに、それなのに妙に誇らしげに、
「「うんうんするよっ!!!」」
宣言して、顔に力をかける。すると、どうだろう。じっくり観察をしているわけではなかったので、気付かなかっ
ただけかも知れないが、生首の口から底にかけての間に小さな穴がある。そこから勢いよく何かが排出された。
(これが…うんうん…っ?!)
モニタールームの一同も、驚愕の表情を浮かべる。カメラをズームさせて“うんうん”を画面一杯で捉えた。
「馬鹿な…どう見ても…餡子じゃないか…」
目の前で生首の排泄行為を見終えて、いぶかしげな表情を浮かべる女性研究員をよそに二体の生首は、
「ゆっ!!!くさくてゆっくりできないよっ!!!れいむ、とおくにいこうねっ!!!」
「ゆっくりりかいしたよっ!!!」
コミュニケーションを取って、その“うんうん”とやらから遠ざかろうとするが、すぐに壁にぶつかる。
「ゆゆっ!!かべさん、ゆっくりじゃましないでねっ!!」
「ま…まりさぁっ!!くさいよぉ!!!うんうん、くさぁい!!!」
(臭い…?どこが…匂いなんて全然…)
女性研究員には、二体の生首が感じているであろう悪臭が理解できなかった。それなのに、れいむとまりさは泣き
ながら自分たちの排泄したうんうんの匂いで苦しんでいる。
「くさいよぉぉぉぉ!!!もうやだ!!!おうちかえるぅぅぅぅぅ!!!」
お家…というのは、この生首たちの巣のことに違いないが、今のセリフを聞くに巣の中で排泄行為は行わないのだ
ろう。
部屋にもう一人の研究員が入ってくる。手には小さなスコップとトレイが握られている。この“うんうん”をサン
プルとして持ち帰るつもりなのだろう。
研究員がうんうんをトレイに載せているのを見た、れいむとまりさはぴたりと泣き止んで、
「ゆゆっ!!!うんうんかたづけてくれるのっ!?」
「ゆっくりありがとうっ!!!」
嬉しそうに飛び跳ねて寄ってくる。二人の研究員は、そんな二体の生首の言葉を無視して部屋を出て行き、再び鍵
をかけた。静まり返った部屋に取り残されたれいむとまりさは、少し表情を暗くして寂しそうに呟いた。
「…なんだか、ゆっくりできないね…」
「ゆゆぅ………」
ゆっくり。結局、一週間ほど例の部屋に閉じ込めて観察していた二体の生首のことを研究員たちはそう呼んだ。と、
言うよりは、れいむとまりさが自分たちのことをそう言ったのだ。「れいむたちはゆっくりだから、ゆっくりしたい
だけなんだよ!」と。
…つまり、“人間の、荒沢です”と、“犬のアレックスです”と“ゆっくりの、れいむだよ”は同じ意味なのだ。
“ゆっくり”という種族の中で、“れいむ”、もしくは“まりさ”という名前がついているらしい。
分かったのはそれだけではない。研究員たちは、二匹のゆっくりにいろんなことを聞いた。ゆっくりづてに聞いた
だけなので、信憑性は決して高くはないが、
・ゆっくりは群れを作って生活している。群れの中にはゆっくりがたくさんいる
・ゆっくりは家族単位で行動する
・“れいむ”や“まりさ”の他にも“ありす”、“ぱちゅりー”、“ちぇん”など他にも種類がたくさんいる
・同じ顔のゆっくりもたくさんいる
・みんな山の奥で静かにゆっくり暮らしている
というような情報を得ることができた。
それから更に一週間かけて研究所の職員たちは山の奥に出かけ、数多くのゆっくりを捕獲した。同じ顔が十を超え
る数で一様に泣いている姿は常識的に考えても異様な光景である。その中には“れいむ”と“まりさ”と同じ顔をし
たゆっくりもいたし、名前ははっきりとはわからないが同じような生首も数種類捕まえた。五種類という数も、研究
所の二匹が言っていた数と合致する。
家族単位で捕獲したゆっくりには、大体バスケットボールほどのサイズの親と思われるゆっくりをそのまま縮小し
たような子ゆっくりもついてきていた。テニスボールほどの子ゆっくりはうるさくて仕方がない。親と思われるゆっ
くりも泣き叫ぶが、子ゆっくりの泣き叫び方は異常とも言える。
防音設備の行き届いた研究室でなければ、どう考えても大勢の子供が監禁されて連日連夜凄惨な虐待が行われてい
ると、勘違いされても仕方のないレベルだった。
それはともかく。
ようやく頭数は揃った。これでやっとこの“ゆっくり”という生き物について詳しく調べることができる。研究所
の中には“ゆっくり研究室”が設けられ、実験のために捕獲されたゆっくりは漏れなくペットショップのようなショ
ーウィンドウの中に一匹ずつ投げ込まれた。
最初に観察をしていた“れいむ”と“まりさ”には多少の情が移ってしまったのか、同じ顔だというのにモルモッ
トとして扱うことはなかった。なので、新しく連れて来られたれいむ種とまりさ種が、一匹ずつ実験室へと連れてい
かれた。
ケージの中で二匹が震えている。時折、ケージの中を覗き込んでは不気味な笑みを浮かべる研究員のことが怖くて
仕方がない。本能が警告をしていた。「これからゆっくりできなくさせられそうだ」と。
逆に研究員たちのテンションは最高潮だった。毎日、毎日、この生物をどういう方法で調べて報告書にまとめよう
かとそればかり考えていた。今日、この日をもって、ゆっくりの研究がスタートする。
一人の研究員がケージの中かられいむを取り出すと、作業台の上に載せた。
「ゆ?ゆゆっ?…ゆっくりしていってね…?」
きょろきょろと辺りを見回しながら、声を震わせて研究員に呼びかける。
「ああ…ゆっくりして行くとも…」
そう言って、れいむを仰向けに寝かせると、
「ヒャアアアッハアアアアアアァァァァ!!!!!研究だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ゆ…ゆゆゆゆゆゆゆゆゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ???!!!!」
職員の一人がれいむの頭を抑えつけ、もう一人が鋭利な刃物であらかじめ顔に引かれた十字線の交点から顎、あん
よのラインに切り込みを入れる。刃が皮に食い込み、スーーッ…と切り開いて行く過程で、れいむは目を見開き、濁
流の如く涙を流した。
「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
次いで絶叫を上げる。口も真ん中から寸断されており、大きく口を開きすぎると切り口から更に裂けて行く。
「い゛…い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!」
切り開いた皮の中に研究員が指を突っ込み、れいむの顔の皮を押し広げる。
「じ…じみ゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!や゛べでえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!」
傍らには、“解剖”されるときのれいむの反応を逐一メモする役割を担う助手がいた。だらだらと涎を垂らし、歯
食いしばるれいむをよそに、研究員の動きは止まらない。
「ゆ゛…ぎぃ゛ぃ゛…っ!!!い゛…だ…ぃ゛…よ゛ぉ゛………っ!!!!!」
押し広げた皮の内部に、刃部の長い刃物を再び挿し込む。れいむが、作業台の上で、二度三度と跳ねあがる。それ
を抑えつける研究員。どちらも必死の形相だ。れいむの揉み上げが、作業台を叩く。苦しみから逃れようと、下半身
を振り回して研究員の手を逃れようとするが、この抵抗は意味を成さない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…っ!!!!!!!!!」
顔の皮と中身を切り裂きながら、研究員の持つ刃物がれいむの顔の下半分を寸断していく。刃物がれいむの顔を通
り切った段階で、切り裂いた口の下あたりから水がちょろちょろと漏れ始めた。観察の段階で確認していた、しーし
ーだ。人間で言えば失禁をしているのだろう。
「お゛でがい…じばず…れいぶ…いだい゛の゛…やべで…やべでぇ……!」
ぶるぶる震えて、顔を真っ青にして、涙ながらに懇願するれいむ。
だが、研究員の実験は終わらない。研究員たちは、ゆっくりの断面が見たかったのだ。見るためには、切り開くし
かない。ただ、もしかしたら皮の下には見落としてはいけない大事な情報が詰まっている可能性があるかも知れない。
それを懸念して、まずはゆっくりの顔の四分の一をカットすることにしたのだ。十字線の交点から、れいむの左頬
にかけて、再び刃物が入れられる。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ…!!!!!」
もはや、大声を上げる元気がないのだろうか。苦しそうにうめき声を上げるれいむ。完全にカットされたれいむの
顔の左下の部分を専用のケースに入れて保存する。後々、何かの役に立つかも知れないからだ。
持って行かれる自分の顔の一部を見たれいむは、悲痛な表情で、
「ゆ゛あ゛あ゛…れ゛い゛む゛の゛…がわいいおがお゛があぁぁぁ…っ!!!かえじでねっ!!!がえじでぇ…!!」
「見ろ…こいつの顔の中…餡子がびっしり詰まってやがる…!!!」
「信じられないな…一体、これでどうやって生きてるんだ…?」
れいむの訴えはまるで聞き入れられず、切り開かれたれいむの断面を見てメモを取ったり、写真を撮ったりしてい
る。中身の餡子をスプーンですくい、小ビンの中に入れて行くたびにれいむが叫び声を上げた。餡子はこの後、分析
器にかけてみる予定だ。見た目が餡子というだけで実際は全く別の物かも知れない。そうでなければ、このゆっくり
の構造の説明が何一つできないのだが。
「も゛…も゛ぅ…やべでぐだざい…れいむ゛…な゛んに゛も…わるい゛ごど…じでない゛のに゛…」
体の四分の一を失ったにも関わらず、まだ言葉を発する力があるらしい。皮の下にあるものが餡子のようなものだ
けだということが分かったら話が早い。
研究員は、一気にれいむの目と目の間を切り裂いて、れいむは完全に顔半分を失ってしまった。そのとき、目を飛
び出さんばかりに見開き、びくびくと痙攣を起こしながら、
「も…も゛っど…ゆ……ぐり…じだ……が…………た……………」
それだけ言い残して、恐ろしい形相のまま動かなくなった。
「死んだか」
「死んだな」
ぴくりとも動かないれいむの顔の右半分を崩さないようにケースの中に入れる。ゆっくりの断面図の標本代わりだ。
あんよの先から頭の先まで、びっしりと餡子のようなものが詰まっている。
口の断面を見てみると、餡子の塊から舌が伸びており、喉は存在していないように見える。食べたものは、どうな
っているのだろうか。
一方、ケージの中で既にしーしーを大量に漏らし、歯をカチカチ鳴らしながら震えているのはまりさ種である。上
で何が起こっているのかはわからないが、れいむのこの世のものとは思えないような悲鳴を聞かされ、恐ろしくて仕
方がない。
れいむの最期の言葉も聞いてしまった。れいむは殺されたのだろう。まりさが想像もつかないような方法で。惨た
らしく。
まりさの入ったケージが持ち上げられる。
「う…うわああああああああああ!!!!!」
次は自分の番だ、とまりさが悲鳴を上げる。ケージのできるだけ奥へ奥へと逃げて、顔を壁に押し付ける。ケージ
作業台の上に載せられると、扉が開かれた。そこから研究員の腕が伸びてくる。
「ゆんやあああああああああああああああああ!!!!!」
まりさの叫び声など気にもならないのか、研究員の手がまりさの髪を掴むと、一気に外に引きずり出された。眩し
くて目を覆う。
「…ゆげ…っ!うぇ…っ!!!!」
恐怖と緊張で、中身が逆流してくるのか、口から少量の餡子を吐きだしている。涙と冷や汗としーしーを作業台の
上で垂れ流し、あんよがすくんでいるのか、一歩たりとも動くことができないままにガタガタ震えている。
「ゆ…ゆひぃぃぃっ?!」
次にまりさの視界に入ったのは、顔の半分を切り裂かれたれいむの変わり果てた姿だった。ケースの中に入ってい
るとは言え、同族の凄惨な姿を目の当たりにしたまりさは、気が狂いそうになるのを必死で抑えながら、作業台の上
で命乞いを始めた。
「おでがいじばずぅぅぅ!!!だずげでくだざい゛ぃ゛!!!」
研究員たちは、次の実験の準備を無言で進めている。それが、まりさにも理解できたのか、
「ま…ま゛でぃざだちは…やまの゛お゛くでしずがにぐらじでいた゛いだけなんでずぅぅぅぅ!!!!!!」
「人間っていうのは臆病な生き物でな…」
邪魔になるからか、研究員の一人がまりさの頭の帽子を取る。すると、まりさは更に混乱した様子で、
「お…おぼうじ…っ!!!まり゛ざのだいじなおぼうじざん…っ!!!」
「人間以外のことは全部調べ上げておかないと不安なんだよ…」
「おぼうじざん!!!がえじでっ!!!がえじでええええぇぇぇぇぇ!!!」
作業台の上をぴょんぴょん飛び跳ねるまりさをもう一人の研究員が抑えつけた。強く抑えすぎたのか、まりさは苦
しそうに中身の餡子を吐きだした。
「人間は弱いからね…相手の体の構造…習性…それらすべてを把握しておかないと…いざ、というときこの世界では
生き残れないかも知れない」
「おぼうじさん…………がえ……じで…」
「他者を徹底的に調べ上げて、多くの道具を作り上げて…そこまでして、ようやく生態系の頂点に立つんだ。本能で
は自分たちが弱いことを理解している人間だからこそ…君たちみたいな未知の存在は、放置できない」
言い終えると、研究員はまりさの目の付近の皮を力いっぱい押し広げた。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛っ!!!い…いだい゛よ゛!!!やべで…やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!」
今にも飛びだしそうな目玉の縁に沿って大き目のピンセットを深々と挿し込む。
「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
時折、目玉を傷つけてしまうのか、目玉につけられた傷から涙のような液体がぴゅるぴゅると噴き出す。そして、
そのままピンセットで掬いあげるようにまりさの目玉を抉りだした。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!まり゛ざの…おべべがあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
抉りだしたまりさの目玉には、視神経のようなものが一本垂れさがっている。研究員たちは、この視神経もどき
が一体どういう構造でもって餡子しかないはずの中身を介して、目の役割を果たしているのか理解することができ
なかった。
両方の目玉を失うと、何も見ることができなくなってしまうのだろうかという疑問から、もう一方の目玉も抉り
出された。すると、
「どぼじでぇ゛ぇ゛ぇ゛っ?!どぼじでなん゛にも゛み゛え゛な゛い゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛??!!!」
かつて目玉のあった場所からは、それでも涙がとめどなく溢れている。抑えつけていた研究員が手を離しても、
何も見えないのが怖くてその場を動けないのか、ぴくりとも動かない。そこで、まりさの頬に先ほどれいむを切り
裂いた刃物を突き刺してみた。
一瞬、「ッ?!」と言うような表情に変化したかと思うと、ジャンプ一番飛び上がって、
「ゆ゛ぎゃあああああ゛あ゛っ??!!!」
痛みと混乱が同時に襲っているのか、あんよをずりずり這わせてどこへ行くアテもなく逃げようとする。まりさ
の顔の中心に再び刃物を突き立てる。
「い゛だい…っ!!!ごっぢこ゛な゛い゛でぇぇぇぇ!!!!」
まりさが作業台の上で回れ右して反対方向に逃げ始める。また、正面に回りまりさの顔面に刃物を挿し込む。
「どぼじでぇ゛ぇ゛ぇ゛??!!!ゆっぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
どうやら、本当に何も見えていないらしい。それでも、痛みから逃げるために必死にあんよを動かしている。こ
こまで来て、ようやく研究員たちも気づき始めた。
ゆっくりが、我々の想像を遥かに凌駕するほど、脆弱で無知な存在であるということに。
考えても見てほしい。このゆっくりという生き物。外敵から身を守る術を何一つ持たない。外敵を切り裂く爪も
牙も…外敵から逃げるための俊敏な動きをする足も、それを感知する力も。
自然の中で生きて行く上で…いや、それ以前に生物として絶望的なフォルムでこの世に存在していること自体が、
滑稽であると言える。
「ゆ゛っぐりじだい…ゆっぐり゛…じだいよ゛ぉぉ…」
めそめそと泣き続けるまりさをビンタしたり、ハンマーで殴ったりして弄ぶ。
「一つだけはっきりわかったことがある。こいつらは…生物のヒエラルキーの中で限りなく底辺に近い存在である
ということ」
「い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛!!!!やべでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」
耐久力テストと称して、まりさは死ぬまで研究員たちに殴り続けられた。
ゆっくりの体の構造を解き明かすのには、凄まじい時間と労力、多くのゆっくりたちの犠牲が必要になるだろう
が、最大の関心事については解決したと言っても過言ではない。
人語を解し、相互にコミュニケーションを図ることのできるこの未知の生物・ゆっくりが、人類にとって危険な
存在になり得るか。
研究員たちはそれを調べていたのだ。
一番大事な疑問は解決したが、ゆっくりの生態や体内の構造に関しては未だに謎が多い。研究員たちは、連日連
夜、ゆっくりを切り開いたり、穴をほがしたり、皮を剥いだり、痛めつけたりして“実験”を繰り返している。
わかったことと言えば、ゆっくりは基本的に饅頭やシュークリームをモチーフにした体の構造をしており、食べ
ようと思えば食べられることぐらいだった。
ゆっくりたちの悲鳴や叫び声…すすり泣く声は、ゆっくりの存在が一般的になってきた最近でも、研究所の奥の
奥で、途絶えることなく続いている。
おしまい