ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0937 路地裏(後)
最終更新:
ankoss
-
view
※「ふたば系ゆっくりいじめ 808 路地裏(前)」の続きです。先に前作を読まれる事を推奨します。
路地裏での抗争は長ぱちゅりー達の圧勝で終わった。
「みょんがにげたんだねー わかるよー」
「むきゅ。 にげきるとはおもわなかったわ」
しかし、リーダーみょんを逃がしたようだ。
長ぱちゅりーは包囲網にわざと逃げ道を残してあった。
完全包囲すると死に物狂いで反撃してくるので、それよりも逃がして後ろから襲い掛かる方が効率がいいからだ。
実は反撃させて増えすぎた群の口減らしも考えたのだが、下手に刺激して自分が狙われるのを恐れたのもある。
実際、リーダーみょんは逃げながら4匹も叩き切ってる。噂通りの凄腕であった。
対する長ぱちゅりーは頭は良いが、身体能力は通常のゆっくりとかわらない。
まともに戦っていたら…と内心冷や汗物だった。
次はもっと慎重に計画を練ろう。群は生き延びる手段であって、一番大事なのは己の命だ。
長ぱちゅりーは路地裏に行き着いたときの『なにがなんでも生き延びる』という思いを忘れなかった。
「むきゅ! どうせみょんだけじゃなにもできないわ! あまあまはわたしたちのものよ!」
「「「「ゆー!あまあまー!」」」」
リーダーみょんが逃げたとはいえ、ゆっくりプレイスを失い、グループはほぼ壊滅状態だ。
もう縄張りを維持する力はないだろう。長ぱちゅりーはそう考え、勝利宣言をした。
――――――――――
次の日。
抗争の疲れを癒した長ぱちゅりー達は、ケーキショップへ向かった。
みょん達を偵察したときに、ケーキショップの裏にある倉庫から、あまあまを持ち出すのを確認していた。
倉庫の中にあまあまがあるのは間違いないが、どこにあるかまでは実際に入ってみないとわからなかった。
倉庫はちゃんと閉め切らなかったのか、シャッターの下に隙間があった。
長ぱちゅりー達は、シャッターの隙間から滑り込むように侵入した。
「いいにおいだねー わかるよー」
「むきゅ・・・。 あまあまのにおいがするわね・・・」
倉庫の奥にはケーキショップで使う、包装箱やラッピング素材などの消耗品がダンボール箱ごと置かれていた。
ちぇんがあまあまの匂いを追ってシャッター横の壁際にたどり着く。壁際にはゴミ袋がいくつか積んであった。
あまあまの匂いはそこからするようだ。
「・・・あまあまだよー! わかるよー!」
「むきゅ! でかしたわ! いそいでもちかえるのよ!」
ゴミ袋を開けると崩れたケーキや生地などが出てきた。大当たりである。
「「「「あとはまりさたちにまかせるのぜ!」」」」
まりさ達がいつものように、ケーキを運び出そうと口にくわえる。
そのとき、まりさ達の顔が驚きにかわる。
「「「「むーしゃむーしゃ! しあわせー!!」」」」
「むきゅ?! なんでむーしゃむーしゃしてるのおおおお?!」
口にくわえた瞬間、あまりのおいしさに思わずむーしゃむーしゃしてしまったようだ。
匂いに惹かれたせいか、ドサクサにまぎれてちぇん達まであまあまを食べている。
「ご、ごめんなのだぜ! おもわずむーしゃむーしゃしたのぜ!」
「きづいたらむーしゃむーしゃしてたよー わからないよー」
「むっきゅー! むーしゃむーしゃはかえってからよ! りかいしてね!」
「「「「ゆっくりりかいしたのぜ!」」」」
野良だとあまあまは中々手に入るものではない高級品のため、思わず食べてしまったのは仕方が無い。
むしろ毒見役になったと思えば手間が省けたか。そう思い直し、長ぱちゅりーもひと舐め味見をした。
美味い。確かにこれなら思わず食べてしまうのもわかる。
しかしこれは、この味は遠い昔にどこかで食べた覚えが…。
過去の記憶を思い出せそうで、考え込んでいた長ぱちゅりーにちぇんが話しかける。
「にんげんさんのこえがきこえるんだねー わかるよー」
ちぇんが指し示したのはゴミ袋が置いてあった横にあるドアだ。
どうやら倉庫からショップ本店へ通じるドアのようだ。
よく見ると隙間が開いていて、そこから話し声が聞こえる。
「…でザマスから、あたくしおフランス帰りのお料理テクニックで、オリジナルのスイーツを作ったのが…」
「…厳選された…の絞りたての…を使用してるザマス。 これにより濃厚で格調高い味わいを持つ…」
「…むきゅ。 あれはしゅざいさんかしら…?」
部屋の中では数名の記者に囲まれ、ひとりの女性が対応していた。
女性は背を向けていたので顔までは見えなかったが、嬉々として話しているのがわかる。
長ぱちゅりーの知識では、これは女性がなにかの取材を受けているんだろうと判断した。
しかしこれもまた、遠い昔にどこかで聞き覚えのある声のような…。
さきほどのあまあまの味と合わせて、過去の記憶が思い出せそうな長ぱちゅりー。
しかし今ひとつ思い出せない。思い出してはいけないと警告のような感覚が体中を駆け巡る。
「むきゅ! ながいしすぎたわ! そろそろかえるわよ!」
ハッとする長ぱちゅりー。今はそれどころではない、あまあまを取りに来たのだ。
よく覚えていない過去の記憶より、目先のあまあまを優先しよう。
そう思い直して振り返る。そこには、すやすやと眠る群の姿が映った。
「むっきゃあああああ! なんですーやすーやしてるのおおおおお?!」
長ぱちゅりーは考え事をしていて気付かなかったが、彼女らはあまあまを運ぼうとして何度も食べてしまったようだ。
あまあまを存分に食い散らかし、満足した顔で眠るまりさ達やちぇん達。
慌てふためいた長ぱちゅりーは、何とか起こそうと必死に体当たりをする。
「むきゅうううう! どうしておきないのおおおお?!」
「ラムネの粉末入りの生ゴミを食べたからザマス。 小一時間は起きないザマス」
「むぎゅうううう?!」
慌てて振り向いたそこには、パーマ頭にキツネ目をした中年の女性が立っていた。
高級そうなスーツに身を包み、ケバケバしい宝石を身に着けた、裕福そうな女性だ。
さきほど取材に応じていた女性である。いつの間にか取材を終え倉庫に来ていようた。
「ようこそぱちゅりー。 いえ、お帰りなさいぱちゅりー。 よく帰ってきてくれたザマスね」
「む、むきゅ…?」
「あたくしのこと覚えているザマスか? あれから半年も経つザマスから忘れたザマスか?」
「むきゅ… お、おばさま? おばさまなの!?」
「覚えていてくれて嬉しいザマス」
おばさまの一言で、長ぱちゅりーの過去の記憶がフラッシュバックした。
――――――――――
赤ぱちゅりーは店内の小さな飼育ケースで育った。
生まれてすぐに両親から引き離されたので悲しかったが、優しいおばさまがいるから寂しくはなかった。
「ぱちゅりー。 今日は歴史のご本を用意したザマス。 しっかり勉強するザマス」
「むきゅ! おばちゃまありがちょう! ゆっくちおべんきょうしゅるわ!」
「お腹が空いたらそこのボタンを押すザマス。 ちゃんとご飯を食べるのも大事ザマス」
「むきゅ! むーちゃむーちゃしゅるわ! ちあわちぇー!」
ケースで囲まれているとはいえ、ヒマになればおばさまがご本を持ってきてくれるし、
お腹が空けばボタンを押せばあまあまが出てくる。赤ぱちゅりーは何不自由なく暮らすことができた。
「むきゅ! ぱちゅはじかんさんもわきゃるようになっちゃわ! 14:55にぇ! あと5ふんでおやつにぇ!」
「よくできたザマス! お祝いに腕時計をプレゼントするザマス」
「むきゃー! ぱちゅのほちかっちゃとけいだわ! おばちゃまありがちょー!」
「これぐらいなんでもないザマス。 次もしっかりとがんばるザマス」
欲しいものがあればなんでもプレゼントしてくれた。
赤ぱちゅりーはそんな優しいおばさまが大好きだった。それこそ語尾を真似るぐらい尊敬していた。
「ゆっくちちていっちぇザマちゅ!」
「ぱちゅりー? あたくしの真似をしてるザマスか?」
「むきゅ! ぱちゅはおばちゃまがだいちゅきザマちゅ! おちょなになったらおばちゃまみたくなるザマちゅ!」
「おほほほ! 嬉しい事を言ってくれるザマスね。 でもその発音だと淑女にはなれないザマスよ」
「むきゅううう! どうちゅればいいにょー!? ザマちゅ!」
「確か…演劇の発音練習のビデオがあったザマスね。 それで練習するザマス」
ウィィィン…『あめんぼあかいなあいうえお…』
「むきゅ!…あーあー…あめんぼあきゃいにゃあいうえみょ…むきゃ! ザマちゅ!」
そうしてスクスクと育ち、赤ゆ言葉がすっかり抜けたころ事件は起こった。
「むきゅ! おばさま! あまあまのでがわるいザマス!」
「あら? そろそろ寿命ザマスかねえ」
「むきゅー!? もうあまあまたべられないザマス?」
「そんなことはないザマス。 時期が来たということザマス」
「むきゅ?」
「今日はもう遅いザマスから、お楽しみは明日にするザマス。お留守番を頼んだザマス」
「むきゅー。 ゆっくりりかいしたザマス!」
おばさまはよく分らないことを言いながら、自宅へ帰っていった。
ぱちゅりーもおばさまのおうちへ行きたいなと、ちょっとだけ不満に思った。
「むきゅ! ぱちゅがなおせばいいザマス!」
ぱちゅりーは閃いた。おばさまはよく分らないことを言っていたが、あまあまは明日までダメらしい。
そこで今日中にぱちゅりーがあまあまを直してしまおう。
きっとおばさまは喜ぶだろう。そうなればおばさまのおうちに連れて行って貰えるかも。
あまあまがどう作られているか、知らなかったが見ればわかるだろう。ぱちゅりーは賢者なんだし。
頭は良かったが、まだまだ子供だったぱちゅりーは、ゆっくりらしい動機で行動に移した。
「むきゅー。 おそとにでないとだめザマスね」
あまあまはケース裏にある機械から、チューブで出てくるのはわかっていた。
まず、ケースの外へ出て機械を見てみようと思い、ケースの鍵を外すことにした。
ケースの鍵は、留め金を降ろして引っ掛けるだけの簡単なタイプだ。
ぱちゅりーは少し考えたあと、ゲージ内にあった本の1ページを口で破いた。
破いた紙をくわえたままゲージ戸の隙間に慎重に差し込む。
そして、そのまま上にずらしていくと留め金に引っかかったので、慎重に跳ね上げる。
カシャン 「むきゅ! せいこうザマス!」
軽い音とともに鍵が外れ、ゲージの外に出ることに成功するぱちゅりー。
そのままゲージ沿いの機械のある裏に回る。店内には防犯装置があるので気をつけて移動していた。
前に一度泥棒が入ったときに、すぐに沢山の人間が捕まえにきたのを見て防犯装置の意味を理解していたのだ。
なんとか防犯センサーに引っかからず、機械の前までたどり着いたぱちゅりー。
機械はステンレスのボックス状になっており、前面が横にスライドする戸のようだ。
鍵はかかっていなかったが、まだ子ゆっくり体型のぱちゅりーにはこちらの戸のほうが開けるのが難しかった。
必死にもち肌を貼り付けて、少しだけ開けることに成功する。
開いた隙間に体をねじ込み、ぷくー!の要領でスライド戸をこじ開ける。
ガラガラ「むきゅー! やっとあいたザマス! けんじゃたるぱちゅにかかればかんた―――」
ぱちゅりーは見てしまった。そこに何があるのかを―――
ぱちゅりーは知ってしまった。自分がなにを食べていたのかを―――
ぱちゅりーは理解してしまった。おばさまがどういう意味で言っていたのかを―――
「むぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ボックスの中には体をバンドで止められ、痩せ細った2体の成体ぱちゅりーがいた。
あにゃるからチューブが伸びていた。ポンプに繋がっているようで、ここからあまあまが吸い出されていたんだろう。
また、口には別のチューブが伸びていた。こちらは緑色の軟化した固形物が流し込まれているようだ。
「むぎゃぎゃぎゃ! お、おとーさん?! おかーさん?! うげっ! げー! 」
そこにいたのは両親だった。ぱちゅりーの両親は珍しく両方ともぱちゅりーだった。
ぱちゅりーは猛烈に湧き上がる吐き気を必死に押さえ込んだ。
いま吐いたらゆっくりできなくなる。なぜ?どうして両親がここに!こんな機械の中に!
ぱちゅりーは吐き気を抑えながらもう一度見直した。
生まれて一晩しか一緒に過ごせなかったけど間違いない。ぱちぇりーの両親だ。
ぱちぇりーは両親と一晩過ごしたあと、朝起きたらすでにゲージに移されていた。
その日からあまあまは出てきたのだから、すでに機械の中には両親がいたことになる。
その時いたのはおばさまだけだ。はじめて人間に挨拶したのでよく覚えている。
あれ?ということは、これを作ったのは――― あの言葉の意味は―――
「…む…むぎゅ…」
「むきゅ! お、おかーさん?! おかーさんだいじょうぶ?!」
父ぱちゅりーはすでに事切れていたようだが、母ぱちゅりーが意識を取り戻した。
ぱちゅりーには分らなかったが、流し込まれていた緑色の固形物は、ラムネの粉末入り流動食である。
点滴のように一定速度で流し込むことで、栄養を与えつつも常に眠っているように仕向けていたのだ。
いま目が覚めたのは、すでに流動食ですら消化できなくなったためである。つまり死ぬ寸前であった。
「…お…おちび…ちゃん…? ぱちぇの…かわい…おちび…ちゃん」
「おかーさん! ぱちぇよ! しっかりしてえええええ!」
「…よくきいて…ね…ぱちぇは…もうだめ…よ…おち…び…ちゃんだけ…でも…いきのびて…」
「むきゃああああ! だめよおおおお! そんなこといわないでえええええ!」
「…おかあ…さんの…ぶんまで…いきのび…てね……ゆっく…………」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ゆ゛っぐぢ! ゆ゛っぐぢじでい゛っでね!! ゆ゛っぐぢじでい゛っでね!!!!」
そうして母ぱちゅりーも息絶えた。今際の際の言葉は『生き延びて』だった。
あまりのことに呆然としていたぱちゅりー。頭の中で整理がつかないでいた。
なぜおばさまがこんなことをしたのかは分らない。だが、おばさまか帰る間際に『お楽しみは明日』と言った。
両親の姿を見たあとのその言葉は、なんだかとてもゆっくりできない気がした。
ぱちゅりーは逃げることにした。母ぱちゅりーの最後の言葉は『生き延びて』だ。
ここにいては生き延びれない。そんな気がしてならない。早くここから離れたかった。
外に出ても生き延びれるかは分らない。しかし、ここに残るよりは遥かにゆっくりできそうに思えた。
ぱちゅりーはゲージ前に戻ってきた。このゲージは部屋の中央にあるステンレス製のテーブルに置かれている。
まず、腕時計で時間を確認したあと、テーブルの上にあるものを片っ端から体当たりして、床に落としていった。
次に、テーブルに置いてあったガスコンロのメモリを最大にし、ガスの元栓も口で回して開けた。
すぐさまテーブルから床に落ちた包装紙の山にジャンプした。包装紙をクッションがわりにして床に着地する。
さらに一緒に落ちていたプラスチックのボウルを引きずり、出入り口の横でボウルをかぶって隠れる。
ここまで暴れれば防犯センサーに引っかかっただろう。
前に泥棒が入ったときは10分ほどで沢山の人間がやってきた。
人間が入ってくれば、まず荒らされたテーブルとガスの匂いに気を向けるだろう。
その混乱に乗じて脱出するつもりだ。ぱちゅりーはボウルに隠れながら腕時計で時間を測っていた。
ガタガタ…ガチャン
「○○警備です! 誰かいますか!」
「うわっガス臭いぞ! 窓を開けろ!」
「荒らされてるぞ! 気をつけろ! 誰かいるかもしれん!」
入ってきた人間の足元を通り、入れ違いになるように外に飛び出すぱちゅりー。
人間達は店内に気を取られてるようで、ぱちゅりーには気が付かなかった。
ぱちゅりーは一度も後ろを振り返らずに必死に走った。
限界まで走った末に見知らぬ裏路地で倒れた。もう体が動かない。
(…ぱちゅは…ぱちゅがボタンをおさなければ、あまあまがでることはなかったわ…)
(…あまあまは、おとーさんとおかーさんの、なかみさんだったんだわ…)
(…ぱちゅが、おとーさんとおかーさんを、ゆっくりできなくしたんだわ…)
「うげぇ! えれえれえれ…」
ここにきて限界を超えたぱちゅりーが中身を吐き出した。
己の中にある両親の中身をすべて吐き出さんとする勢いである。
しかし、母ぱちゅりーの『生き延びて』という言葉がぱちぇりーを押しとどめた。
結果、半死半生ではあるがぱちゅりーは生き延びた。
だが、ゆっくりという生物はゆっくりできなくなると、その記憶を中身と共に吐き出すことがある。
ぱちゅりーも例に漏れず、ゆっくりできずに中身を吐き出したために部分的な記憶障害になってしまった。
―――目が覚めたぱちゅりーは、お店であった出来事を思い出せなくなっていた。『生き延びて』という言葉を残して。
――――――――――
「むきゃ…あ…ああ…」
長ぱちゅりーはすべてを思い出した。
とても大好きだったおばさまだ。そしてとてもゆっくりできないおばさまだ。
まるで蛇に睨まれた蛙のようにピタリと動きを止める長ぱちゅりー。
「あなたが来ることは、昨日ここに来たゆっくりから―――みょんといったかしら? 伺っているザマス」
「むきょ?!」
長ぱちゅりーの知っているみょんと言えば、逃げ延びたリーダーみょんしかいない。
それが昨日ここに来たということは、抗争に敗れてすぐにここへ向かったということになる。
ゆっくりプレイスが無くなったから、仕方なく狩場にあまあまを食べに来たのか?それとも―――
「いつもは団体で来るザマスのに、昨日は1匹で来たザマス。 なにがあったのか捕まえて問いただしたザマス。
そうしたら、そのゆっくりは面白いことを言ったザマス。 『腕時計をしたぱちゅりーにやられた』と」
「むぎゅう…」
「ここのあまあまを狙ってたらしいザマスね? そのゆっくりはここで待ち伏せをするつもりだったザマスよ」
リーダーみょんは、抗争の仕返しに不意打ちを仕掛けるつもりだったようだ。
確かに倉庫内は初めてで不慣れな場所だ。こんなところであれほどの凄腕に不意打ちをされたら危なかっただろう。
「腕時計をしたぱちゅりーなんてあなたしかいないザマス。 まさか生きてたとは思わなかったザマスよ」
「むきゃああああああああ!」
おばさまが話しかけながら一歩踏み出した。
プレッシャーに耐え切れず逃げ出す長ぱちゅりー。
「むぎゅう! どぼじてでぐちさんがなくなってるのおおおお?!」
先ほどまで開いてたはずのシャッターがいつのまにか閉じていた。
「そこはワザと開けてあったんザマス。 遠隔操作で閉じることができるんザマス」
「むぎゅうううう! どぼじてぞんなごとするのおおおお!」
「あらあら、昔は口調まで真似するほど懐いてたザマスのに、すっかり野良ゆっくりになったザマスね」
長ぱちゅりーはゴミ袋があった場所へ追い込まれた。
ゴミ袋を背にするぱちゅりー。その時、何かが背中を軽く刺した。
慌てて振り向くと、ゴミ袋から金属のようなものが飛び出していた。
「むきゃ! ぶきだわ! これでかつる!」
長ぱちゅりー急いでゴミ袋を開けた。
そこからは焦げたバターの香りを発する黒いなにかと、鈍い光を放つどこかで見たようなペーパーナイフが出てきた。
黒いなにかはピクピクと震えているようにも見える。
「…むきゅ?」
「気をつけるザマス。 それはまだ生きてるザマスよ」
「…これは…もしかして………………………みょん?」
「あなたのことを教えてくれたお礼にムニエルしてあげたザマス! いい声で泣いてたザマスよ!」
「!!!!!!!!!!!!!!!」
長ぱちゅりーは声にならない悲鳴をあげた。黒いなにかは捕まったみょんの成れの果てであった。
みょんは小麦粉をまぶされバターで全身が黒くなるまでじっくりと焼かれたのだ。
震えるそれは耳を澄ますと「…チチチチーンポ…ユ゙ユ゙ユ゙ユ゙…」とつぶやきが聞こえる。
「むぎゅう!! …お、おばさまって! も、もしかして…」
「そうザマス! わたくしは虐待叔母様ザマス! おほほほほほほほほほ!」
「むぎゃああああ!! やっぱりいいいい!!!!」
おばさま。いや虐待叔母様は長ぱちゅりーを片手で掴むと、キツネ目をさらに吊り上げて高らかに笑った。
長ぱちゅりーは恐怖で凍りついた。あの凄腕のみょんがこの有様である。自分が勝てるわけがない。
頼りの群のみんなはラムネで眠らされている。捕まった長ぱちゅりーに打つ手はなかった。
「おほほほほほほほほほ! あなたはどうしてほしいザマスか? 溶けてなくなるまでソテーしてあげるザマスか?」
壮絶な笑みを浮かべる虐待叔母様。
切羽詰った長ぱちゅりーは最後の賭けにでた。
「むきゅ! むかしのおばさまにもどってほしいザマス! また、ぱちゅりーをゆっくりさせてほしいザマス!」
口調の真似で、虐待叔母様の同情を誘おうとしたのだ。
昔はやさしかったのは確かだ。あの頃を思い出して貰えば見逃してくれる可能性もある。
「あら? あなた、まだ気付いていなかったザマス?」
「む、むきゅ?」
「…そうザマスね。せっかくだから全部説明してあげるザマス」
「あなたはフォアグラという料理は知っているザマスか?」
「むきゅ。 たしかガチョウさんのなかみさんね」
「そのとおりザマス。 ぱちゅりーは相変わらず頭が良くてなによりザマス」
「ガチョウは牧草などの粗食でも大きく育つザマス。 この辺はゆっくりと似てるザマスね?
フォアグラはガチョウを強制的に太らせるザマス。 そうして育った脂肪ばかりの肝臓が美味しいフォアグラになるザマス。
あたくしはそれをゆっくりで実践したのザマス」
虐待叔母様は昔からその料理の腕を生かした虐待をしていた。
ある時、ゆっくりスイーツに凝っていた時期があった。美味しいゆっくりスイーツを作りたかったのだ。
ゆっくりは苦しむと甘くなる。これは常識だ。常識通りに作るなら虐待してから料理するべきだ。
しかし、虐待をしていない、とてもゆっくりしたゆっくりでも甘いときがある。それがヒントになった。
社長婦人である虐待叔母様は、お金の掛かる金バッチゆっくりも虐待していた。
そのとき、金バッチぱちゅりーだけは他と違った甘さがあったのだ。
虐待で作られた甘さではない、濃厚で格調高い甘さだった。
色々と実験した結果。同じぱちゅりー種でも、知識が豊富で記憶力の良いぱちゅりーが甘いと分った。
一説ではゆっくりの記憶力には、糖分が関係しているとも言われている。
生クリームであるぱちゅりーは、どのゆっくりよりも甘い。それ故、ぱちゅりー種は賢いのだろうとも言える。
「それからはぱちゅりー種のみを飼育したザマス。 賢いぱちゅりーを作るためザマス」
「むぎゅ!?」
虐待叔母様は、出来の良い金バッチぱちゅりー同士を掛け合わして、最も賢いぱちゅりーを作り出そうとしていた。
食事で生クリームが甘くなるように、ハーブ等を特殊調合して作ったオリジナルの飼料を作り出した。
知識を増やすために教育ビデオや教育本を揃えた。ストレスにやられないように、ゆっくりできる最高の環境を用意した。
ぱちゅりー種は本を読むとゆっくりできるので、ほとんど運動を必要とせずともゆっくりできた。
また、特殊調合の飼料は短期間でぱちゅりーを成長させた。運動不足と豊富な栄養はぱちゅりーをデブぱちゅりーに育てた。
欠点は、豊富な食料と、無駄に良くなった頭のせいで、図に乗ってゲス化しやすいことだった。
そこは大人の淑女である虐待叔母様だ。野良ゆっくりを捕まえては憂さ晴らしをした。
「こうして出来たのが高級食材『ゆっくりデブぱちゅりー』ザマス。
虐待したぱちゅりーと比べると、濃厚で格調高いスイーツに料理できるザマス。
あたくしの店では、デブはちゅりーで作ったスイーツのみを販売してるザマス」
「…そ、それじゃあ、ぱちゅは、でぶぱちゅりーだったの?」
「それは違うザマス」
「むきゅ?」
虐待叔母様は、デブぱちゅりーでは満足できず、その上を目指した。
しかし、掛け合わせや特殊調合飼料では、もはや限界だった。
そこで虐待叔母様は、育て方そのものを変えた。
ゆっくりの赤ちゃんは生まれたばかりでも喋ることができる。
これは親の餡子を受け継いだ時に、知識までも継承するからである。
つまり、親の餡子を受け継いで生まれるのならば、親の餡子を食べても知識を受け継ぐのではないか?
その実験結果が長ぱちゅりーであった。
まず、デブぱちゅりー同士を掛け合わせて子供を生ませる。
子供が生まれてしあわせー!の状態で親を眠らせて中身を搾り出す機械につなげる。
これは苦しむとゆっくりできない記憶になって、知識として引き継がない可能性がでるからだ。
また、眠らせたままじわじわ搾り出すことによって、常に新鮮な中身を食べさせれるようにした。
死んでしばらくたったあとの餡子は、知識継承されない実験結果が出ているからだ。
同じくおたべなさい!した餡子は死んだ餡子なので栄養にしかならず、知識継承はされないようだ。
「口から食べる以上はある程度は消化して知識にはならないザマス。
でも同じぱちゅりー種の生クリーム、しかも実の親の生クリームザマス。
ほとんど消化しないで中身に変わって知識となるのザマス」
「む、むきゅきゅ!?」
「つまりあなたはデブぱちゅりー2匹分の知能と甘さを引き継いだ、超高級食材なんザマス。
超高級食材をやさしく扱うのは当然のことザマスよ」
長ぱちゅりーは絶句した。自分の出生がそこまで特殊だったとは。
しかし確かに納得がいく。子ゆっくり程度で野良として生きていけたのも親の知識があったからだろう。
「あなたは超高級食材の試作品だったんザマス。食材のぱちゅりーは別棟で育成してるのザマス。
試作品のあなただけは店内で育ててたのザマスが、まさか逃げ出すとは思わなかったザマス」
「…む、きゅ…じゃあ…ぱちゅもたべられるの?」
「あなたは逃げ出して半年も野良として過ごしたザマスよ? もう食材としては使えないザマス」
その言葉に安堵した長ぱちゅりー。食われることはなさそうだ。
「…でもあたくしが作り出した食材で、お料理されてないのはあなただけザマス!
野良は野良らしいお料理になってもらうザマスよ! おほほほほほほほほほ!」
「むぎゃああああああああああああああああああああ!」
そう言って虐待叔母様は、長ぱちゅりーの帽子を取り上げ、ゴミ袋に投げ捨てた。
「むきゃー! ぱちぇのすてきなおぼうしがー!」
必死に帽子を取り替えそうと目で追う長ぱちゅりー。
虐待叔母様は、その手にはめたケバケバしい色をした指輪で、長ぱちゅりーの左目を殴りつけた。
「むぎゃああああああああああ! ぱちゅのおめめがあああああああああ!」
「物欲しそうな目でみるからザマス! おほほほほほほほほほほほほ!」
指輪の形に陥没する左目。あまりの痛みにしーしーを漏らす長ぱちゅりー。
陥没した左目は、形は残っているがもう光を映すことはないだろう。
虐待叔母様は、続いて右目も殴りつけた。
「ぎゃあああああああああああ! まっくら! ぜんぶまっくらに! むぎゃああああ!」
「しーしーなんて漏らすから思わず殴ったザマス! おほほほほほほほほほほほほ!」
長ぱちゅりーの両目が陥没して失明したところで、おもむろに髪の毛をむしり始める。
虐待叔母様の手が踊るように動く。とても楽しそうだ。
「ぎ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ぱちゅの! ぱちゅのかみのけが! ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
「饅頭に髪の毛なんて生意気ザマス! おほほほほほほほほほほほほ!」
そこでふと虐待叔母様の手が止まる。そういえば取材の方を待たせたままだった。
今は途中休憩で出てきただけだったのだ。
「用事を思い出したので手早く済ませるザマス!」
「む゛ぎゅぎゅ…も゛う゛ゆ゛っぐりざぜで…」
りっぱな剥げ饅頭になった長ぱちゅりーを片手に持ち、新たに取り出したるはピーラーだ。
長ぱちゅりーを片手で器用に回すと、ピーラーをあてがう。
シュリシュリシュリ…
「が!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! い゛、い゛だい゛! だま゛の゛お゛ばだがい゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛!」
「薄皮を剥いてるだけザマス! 暴れなければ破れないから安心するザマス!」
あっという間に薄皮剥げ饅頭の出来上がりだ。虐待叔母様は長ぱちゅりーを地面にそっと置く。
長ぱちゅりーは痛みでしーしーどころか、うんうんまで漏らして痙攣している。
「むぎゅ…ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…むぎゅ…」
「もうしばらくすればラムネが切れて他のゆっくりが起きるザマス。 助けて貰えばいいザマス」
「むぎゅ…にがし…て…くれ…るの…?」
「あたくしはこれ以上何もしないザマス。 さっき言ったように野良は野良らしいお料理になってもらっただけザマス」
「…むぎゅ?…」
「…その姿を見て、他のゆっくりが助けてくれれば、ということザマス」
「…!?」
「ぱちゅりーは頭が良いはずザマス。 お口だけは無傷で残したからそれでなんとかするザマス」
そう言って、虐待叔母様はシャッターを少しだけ開けると、ショップ本店へ戻っていった。
もう長ぱちゅりーには興味が無くなったようだ。他の野良にも手は出さない。
虐待叔母様はリーダーちぇん達が漁りに来たときも同じことをした。ラムネで眠らせたあと1匹だけ虐待するのだ。
残りの野良は無傷で逃がす。そうしないとすぐに楽しみが無くなってしまうからだ。
この倉庫は虐待叔母様の虐待倉庫だった。
「…むぎゅ…ゆ゛っゆ゛っ…だれか…たすけて…」
いくら口だけ無傷とはいえ、目を潰されて、全身を剥かれた体ではまともに喋ることができない。
お飾りも無くなってしまった。このままではゆっくりできないことになるだろう。
「…ゆーん。 よくねたんだぜ! すっきりしたんだぜ!」
「…いつのまにかねてたんだよー わからないよー」
「…むぎゅ…たすけ…て…ゆ゛っ」
「ゆゆっ! こんなところにもあまあまがおちてるんだぜ!」
「ほんとなんだねー おいしそうだよー」
「…むぎゅ…ちがう…ぱちぇは…」
「ねおきのむーしゃむーしゃをするんだぜ!」
「ちぇんもたべるんだよー わかるよー」
「…むぎゅ!…むぎゅぎゅ…ゆ゛っゆ゛っ」
「オーナー。 そろそろインタビューの続きをお願いします」
「分ったザマス。 いま行くザマス」
「先ほどの続きですが、それほど知能が高いのでしたら、飼いゆっくりとして販売するのは駄目なんでしょうか?」
「普通の成体ゆっくりの知能は幼稚園児並、ぱちゅりー種は小学校低学年並と言われてるザマス。
この超高級食材ゆっくりぱちゅりーは中学生並の知能を有すると知能検査の結果がでてるザマス。
しかし、子ゆっくりのころまではかわいいザマスが、成体になるまでに100%ゲス化するザマス。
たぶん知能だけでななく、ゲスさも濃厚に受け継いでいて、大人になると発現するのだと………」
長ぱちゅりーのか細い悲鳴は、インタビューの声に隠れて誰にも届かなかった。
―――後日談。長ぱちゅりーを失った群のその後。
長ぱちゅりーが行方不明になった翌日。護衛隊長だったちぇんが、代行として役職についた。
「きょうもたいりょうなんだねー! わかるよー!」
長ぱちゅりーの捜索は難航していた。まるで消えたかのように見つからないのだ。
仕方なく代行ちぇんが群を率いて縄張りから食料を調達していた。
長ぱちゅりーの食料集めを見よう見まねで真似てるだけではあるが、思ったより大量の食料が取れた。
これでしばらくは安泰であろう。
さっそくみんなで食事をした。群ではなるべく一緒に食べる決まりだった。
「「「「「「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」」」」」」
やっぱりあのレストランの生ゴミはゆっくりできると、代行ちぇんは思った。
これなら毎日取りに行ってもいいんじゃないかと思えた。
長ぱちゅりーは、なぜたまにしか行かなかったのだろう?
「ゆゆ! れいむのすーぱーうんうんたいむがはじまるよ!」
「まりさもだぜ! うんうんするんだぜ!」
「ここはむーしゃむーしゃするところなんだよー! うんうんはおといれでねー!」
突然その場でうんうんをしようとするゆっくり達が現れた。驚いて注意する代行ちぇん。
全くこんな所でうんうんをしようとするなんて―――あれ?ちぇんもうんうんしたくなってきて―――
「うんうんでたよ! すっきりー! …あれ? れいむまだうんうんしてるよ?」
「まりさもだぜ! うんうんがとまらないんだぜ!」
「うががが! うんうんがとまらないよおおお! だれかとめてええええ!?」
「うんうんがとまらないなんて、とかいはじゃないわ! …だれかありすのうんうんをとめてええええ!?」
そこら中で群のみんながうんうんを始めたようだ。しかも止まらなくなってる。
必死でうんうんを我慢する代行ちぇん。このままうんうんをしたらゆっくりできなくなる予感がしている。
「ゆ゛っゆ゛っ…うんうんがちょまらにゃいわ…」
「もっちょ…ゆっくちうんうんしちゃかっちゃ…」
「ぎゃあああああ! れいむのすてきなおちびちゃんがああああああ!」
「ありすのとかいはな、おちびちゃんがああああああああああ!」
体の小さい子ゆっくりが、うんうんのしすぎで永遠にゆっくりしてしまったようだ。
どうやらさっき食べたご飯が原因のようだ。腐っていたのか?それにしてはうんうんが止まらないのはおかしい。
とりあえず代行ちぇんは、これ以上ご飯を食べないよう命令した。
「れいむのあかちゃんんんん! げんきになってねええええ! ぺーろぺーろ!」
子ゆっくりにご飯を上げてたせいで、自分が食べるのが遅れたのだろう。
元気な親れいむが、干からびた我が子をぺろぺろしている。
「ゆゆ!? れいむもうんうんしたくなってきたよ! すっきりー! …なんでうんうんとまらないのおおお?!」
我が子のうんうんを舐め取っていたれいむが、急にうんうんを始めた。
それを見ていた代行ちぇんは戦慄した。このうんうん病は舐めたゆっくりにもうつるようだ。
まずい。このままでは全滅する。せめて元気なゆっくりだけでも避難するように指示しなければ。
そう思いつつも体に力が入らない。なぜだ?
あれ、いつのまにか自分もうんうんをしている。
そうか、もう手遅れなんだな…。
うんうんを漏らしながら代行ちぇんの意識は途絶えた。
―――この日、この街一番の勢力を誇った一つの群がうんうんのしすぎで滅びた。
作:248あき
過去作
・ふたば系ゆっくりいじめ 633 バス停
・ふたば系ゆっくりいじめ 765 かまくら
・ふたば系ゆっくりいじめ 808 路地裏(前)
路地裏での抗争は長ぱちゅりー達の圧勝で終わった。
「みょんがにげたんだねー わかるよー」
「むきゅ。 にげきるとはおもわなかったわ」
しかし、リーダーみょんを逃がしたようだ。
長ぱちゅりーは包囲網にわざと逃げ道を残してあった。
完全包囲すると死に物狂いで反撃してくるので、それよりも逃がして後ろから襲い掛かる方が効率がいいからだ。
実は反撃させて増えすぎた群の口減らしも考えたのだが、下手に刺激して自分が狙われるのを恐れたのもある。
実際、リーダーみょんは逃げながら4匹も叩き切ってる。噂通りの凄腕であった。
対する長ぱちゅりーは頭は良いが、身体能力は通常のゆっくりとかわらない。
まともに戦っていたら…と内心冷や汗物だった。
次はもっと慎重に計画を練ろう。群は生き延びる手段であって、一番大事なのは己の命だ。
長ぱちゅりーは路地裏に行き着いたときの『なにがなんでも生き延びる』という思いを忘れなかった。
「むきゅ! どうせみょんだけじゃなにもできないわ! あまあまはわたしたちのものよ!」
「「「「ゆー!あまあまー!」」」」
リーダーみょんが逃げたとはいえ、ゆっくりプレイスを失い、グループはほぼ壊滅状態だ。
もう縄張りを維持する力はないだろう。長ぱちゅりーはそう考え、勝利宣言をした。
――――――――――
次の日。
抗争の疲れを癒した長ぱちゅりー達は、ケーキショップへ向かった。
みょん達を偵察したときに、ケーキショップの裏にある倉庫から、あまあまを持ち出すのを確認していた。
倉庫の中にあまあまがあるのは間違いないが、どこにあるかまでは実際に入ってみないとわからなかった。
倉庫はちゃんと閉め切らなかったのか、シャッターの下に隙間があった。
長ぱちゅりー達は、シャッターの隙間から滑り込むように侵入した。
「いいにおいだねー わかるよー」
「むきゅ・・・。 あまあまのにおいがするわね・・・」
倉庫の奥にはケーキショップで使う、包装箱やラッピング素材などの消耗品がダンボール箱ごと置かれていた。
ちぇんがあまあまの匂いを追ってシャッター横の壁際にたどり着く。壁際にはゴミ袋がいくつか積んであった。
あまあまの匂いはそこからするようだ。
「・・・あまあまだよー! わかるよー!」
「むきゅ! でかしたわ! いそいでもちかえるのよ!」
ゴミ袋を開けると崩れたケーキや生地などが出てきた。大当たりである。
「「「「あとはまりさたちにまかせるのぜ!」」」」
まりさ達がいつものように、ケーキを運び出そうと口にくわえる。
そのとき、まりさ達の顔が驚きにかわる。
「「「「むーしゃむーしゃ! しあわせー!!」」」」
「むきゅ?! なんでむーしゃむーしゃしてるのおおおお?!」
口にくわえた瞬間、あまりのおいしさに思わずむーしゃむーしゃしてしまったようだ。
匂いに惹かれたせいか、ドサクサにまぎれてちぇん達まであまあまを食べている。
「ご、ごめんなのだぜ! おもわずむーしゃむーしゃしたのぜ!」
「きづいたらむーしゃむーしゃしてたよー わからないよー」
「むっきゅー! むーしゃむーしゃはかえってからよ! りかいしてね!」
「「「「ゆっくりりかいしたのぜ!」」」」
野良だとあまあまは中々手に入るものではない高級品のため、思わず食べてしまったのは仕方が無い。
むしろ毒見役になったと思えば手間が省けたか。そう思い直し、長ぱちゅりーもひと舐め味見をした。
美味い。確かにこれなら思わず食べてしまうのもわかる。
しかしこれは、この味は遠い昔にどこかで食べた覚えが…。
過去の記憶を思い出せそうで、考え込んでいた長ぱちゅりーにちぇんが話しかける。
「にんげんさんのこえがきこえるんだねー わかるよー」
ちぇんが指し示したのはゴミ袋が置いてあった横にあるドアだ。
どうやら倉庫からショップ本店へ通じるドアのようだ。
よく見ると隙間が開いていて、そこから話し声が聞こえる。
「…でザマスから、あたくしおフランス帰りのお料理テクニックで、オリジナルのスイーツを作ったのが…」
「…厳選された…の絞りたての…を使用してるザマス。 これにより濃厚で格調高い味わいを持つ…」
「…むきゅ。 あれはしゅざいさんかしら…?」
部屋の中では数名の記者に囲まれ、ひとりの女性が対応していた。
女性は背を向けていたので顔までは見えなかったが、嬉々として話しているのがわかる。
長ぱちゅりーの知識では、これは女性がなにかの取材を受けているんだろうと判断した。
しかしこれもまた、遠い昔にどこかで聞き覚えのある声のような…。
さきほどのあまあまの味と合わせて、過去の記憶が思い出せそうな長ぱちゅりー。
しかし今ひとつ思い出せない。思い出してはいけないと警告のような感覚が体中を駆け巡る。
「むきゅ! ながいしすぎたわ! そろそろかえるわよ!」
ハッとする長ぱちゅりー。今はそれどころではない、あまあまを取りに来たのだ。
よく覚えていない過去の記憶より、目先のあまあまを優先しよう。
そう思い直して振り返る。そこには、すやすやと眠る群の姿が映った。
「むっきゃあああああ! なんですーやすーやしてるのおおおおお?!」
長ぱちゅりーは考え事をしていて気付かなかったが、彼女らはあまあまを運ぼうとして何度も食べてしまったようだ。
あまあまを存分に食い散らかし、満足した顔で眠るまりさ達やちぇん達。
慌てふためいた長ぱちゅりーは、何とか起こそうと必死に体当たりをする。
「むきゅうううう! どうしておきないのおおおお?!」
「ラムネの粉末入りの生ゴミを食べたからザマス。 小一時間は起きないザマス」
「むぎゅうううう?!」
慌てて振り向いたそこには、パーマ頭にキツネ目をした中年の女性が立っていた。
高級そうなスーツに身を包み、ケバケバしい宝石を身に着けた、裕福そうな女性だ。
さきほど取材に応じていた女性である。いつの間にか取材を終え倉庫に来ていようた。
「ようこそぱちゅりー。 いえ、お帰りなさいぱちゅりー。 よく帰ってきてくれたザマスね」
「む、むきゅ…?」
「あたくしのこと覚えているザマスか? あれから半年も経つザマスから忘れたザマスか?」
「むきゅ… お、おばさま? おばさまなの!?」
「覚えていてくれて嬉しいザマス」
おばさまの一言で、長ぱちゅりーの過去の記憶がフラッシュバックした。
――――――――――
赤ぱちゅりーは店内の小さな飼育ケースで育った。
生まれてすぐに両親から引き離されたので悲しかったが、優しいおばさまがいるから寂しくはなかった。
「ぱちゅりー。 今日は歴史のご本を用意したザマス。 しっかり勉強するザマス」
「むきゅ! おばちゃまありがちょう! ゆっくちおべんきょうしゅるわ!」
「お腹が空いたらそこのボタンを押すザマス。 ちゃんとご飯を食べるのも大事ザマス」
「むきゅ! むーちゃむーちゃしゅるわ! ちあわちぇー!」
ケースで囲まれているとはいえ、ヒマになればおばさまがご本を持ってきてくれるし、
お腹が空けばボタンを押せばあまあまが出てくる。赤ぱちゅりーは何不自由なく暮らすことができた。
「むきゅ! ぱちゅはじかんさんもわきゃるようになっちゃわ! 14:55にぇ! あと5ふんでおやつにぇ!」
「よくできたザマス! お祝いに腕時計をプレゼントするザマス」
「むきゃー! ぱちゅのほちかっちゃとけいだわ! おばちゃまありがちょー!」
「これぐらいなんでもないザマス。 次もしっかりとがんばるザマス」
欲しいものがあればなんでもプレゼントしてくれた。
赤ぱちゅりーはそんな優しいおばさまが大好きだった。それこそ語尾を真似るぐらい尊敬していた。
「ゆっくちちていっちぇザマちゅ!」
「ぱちゅりー? あたくしの真似をしてるザマスか?」
「むきゅ! ぱちゅはおばちゃまがだいちゅきザマちゅ! おちょなになったらおばちゃまみたくなるザマちゅ!」
「おほほほ! 嬉しい事を言ってくれるザマスね。 でもその発音だと淑女にはなれないザマスよ」
「むきゅううう! どうちゅればいいにょー!? ザマちゅ!」
「確か…演劇の発音練習のビデオがあったザマスね。 それで練習するザマス」
ウィィィン…『あめんぼあかいなあいうえお…』
「むきゅ!…あーあー…あめんぼあきゃいにゃあいうえみょ…むきゃ! ザマちゅ!」
そうしてスクスクと育ち、赤ゆ言葉がすっかり抜けたころ事件は起こった。
「むきゅ! おばさま! あまあまのでがわるいザマス!」
「あら? そろそろ寿命ザマスかねえ」
「むきゅー!? もうあまあまたべられないザマス?」
「そんなことはないザマス。 時期が来たということザマス」
「むきゅ?」
「今日はもう遅いザマスから、お楽しみは明日にするザマス。お留守番を頼んだザマス」
「むきゅー。 ゆっくりりかいしたザマス!」
おばさまはよく分らないことを言いながら、自宅へ帰っていった。
ぱちゅりーもおばさまのおうちへ行きたいなと、ちょっとだけ不満に思った。
「むきゅ! ぱちゅがなおせばいいザマス!」
ぱちゅりーは閃いた。おばさまはよく分らないことを言っていたが、あまあまは明日までダメらしい。
そこで今日中にぱちゅりーがあまあまを直してしまおう。
きっとおばさまは喜ぶだろう。そうなればおばさまのおうちに連れて行って貰えるかも。
あまあまがどう作られているか、知らなかったが見ればわかるだろう。ぱちゅりーは賢者なんだし。
頭は良かったが、まだまだ子供だったぱちゅりーは、ゆっくりらしい動機で行動に移した。
「むきゅー。 おそとにでないとだめザマスね」
あまあまはケース裏にある機械から、チューブで出てくるのはわかっていた。
まず、ケースの外へ出て機械を見てみようと思い、ケースの鍵を外すことにした。
ケースの鍵は、留め金を降ろして引っ掛けるだけの簡単なタイプだ。
ぱちゅりーは少し考えたあと、ゲージ内にあった本の1ページを口で破いた。
破いた紙をくわえたままゲージ戸の隙間に慎重に差し込む。
そして、そのまま上にずらしていくと留め金に引っかかったので、慎重に跳ね上げる。
カシャン 「むきゅ! せいこうザマス!」
軽い音とともに鍵が外れ、ゲージの外に出ることに成功するぱちゅりー。
そのままゲージ沿いの機械のある裏に回る。店内には防犯装置があるので気をつけて移動していた。
前に一度泥棒が入ったときに、すぐに沢山の人間が捕まえにきたのを見て防犯装置の意味を理解していたのだ。
なんとか防犯センサーに引っかからず、機械の前までたどり着いたぱちゅりー。
機械はステンレスのボックス状になっており、前面が横にスライドする戸のようだ。
鍵はかかっていなかったが、まだ子ゆっくり体型のぱちゅりーにはこちらの戸のほうが開けるのが難しかった。
必死にもち肌を貼り付けて、少しだけ開けることに成功する。
開いた隙間に体をねじ込み、ぷくー!の要領でスライド戸をこじ開ける。
ガラガラ「むきゅー! やっとあいたザマス! けんじゃたるぱちゅにかかればかんた―――」
ぱちゅりーは見てしまった。そこに何があるのかを―――
ぱちゅりーは知ってしまった。自分がなにを食べていたのかを―――
ぱちゅりーは理解してしまった。おばさまがどういう意味で言っていたのかを―――
「むぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ボックスの中には体をバンドで止められ、痩せ細った2体の成体ぱちゅりーがいた。
あにゃるからチューブが伸びていた。ポンプに繋がっているようで、ここからあまあまが吸い出されていたんだろう。
また、口には別のチューブが伸びていた。こちらは緑色の軟化した固形物が流し込まれているようだ。
「むぎゃぎゃぎゃ! お、おとーさん?! おかーさん?! うげっ! げー! 」
そこにいたのは両親だった。ぱちゅりーの両親は珍しく両方ともぱちゅりーだった。
ぱちゅりーは猛烈に湧き上がる吐き気を必死に押さえ込んだ。
いま吐いたらゆっくりできなくなる。なぜ?どうして両親がここに!こんな機械の中に!
ぱちゅりーは吐き気を抑えながらもう一度見直した。
生まれて一晩しか一緒に過ごせなかったけど間違いない。ぱちぇりーの両親だ。
ぱちぇりーは両親と一晩過ごしたあと、朝起きたらすでにゲージに移されていた。
その日からあまあまは出てきたのだから、すでに機械の中には両親がいたことになる。
その時いたのはおばさまだけだ。はじめて人間に挨拶したのでよく覚えている。
あれ?ということは、これを作ったのは――― あの言葉の意味は―――
「…む…むぎゅ…」
「むきゅ! お、おかーさん?! おかーさんだいじょうぶ?!」
父ぱちゅりーはすでに事切れていたようだが、母ぱちゅりーが意識を取り戻した。
ぱちゅりーには分らなかったが、流し込まれていた緑色の固形物は、ラムネの粉末入り流動食である。
点滴のように一定速度で流し込むことで、栄養を与えつつも常に眠っているように仕向けていたのだ。
いま目が覚めたのは、すでに流動食ですら消化できなくなったためである。つまり死ぬ寸前であった。
「…お…おちび…ちゃん…? ぱちぇの…かわい…おちび…ちゃん」
「おかーさん! ぱちぇよ! しっかりしてえええええ!」
「…よくきいて…ね…ぱちぇは…もうだめ…よ…おち…び…ちゃんだけ…でも…いきのびて…」
「むきゃああああ! だめよおおおお! そんなこといわないでえええええ!」
「…おかあ…さんの…ぶんまで…いきのび…てね……ゆっく…………」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ゆ゛っぐぢ! ゆ゛っぐぢじでい゛っでね!! ゆ゛っぐぢじでい゛っでね!!!!」
そうして母ぱちゅりーも息絶えた。今際の際の言葉は『生き延びて』だった。
あまりのことに呆然としていたぱちゅりー。頭の中で整理がつかないでいた。
なぜおばさまがこんなことをしたのかは分らない。だが、おばさまか帰る間際に『お楽しみは明日』と言った。
両親の姿を見たあとのその言葉は、なんだかとてもゆっくりできない気がした。
ぱちゅりーは逃げることにした。母ぱちゅりーの最後の言葉は『生き延びて』だ。
ここにいては生き延びれない。そんな気がしてならない。早くここから離れたかった。
外に出ても生き延びれるかは分らない。しかし、ここに残るよりは遥かにゆっくりできそうに思えた。
ぱちゅりーはゲージ前に戻ってきた。このゲージは部屋の中央にあるステンレス製のテーブルに置かれている。
まず、腕時計で時間を確認したあと、テーブルの上にあるものを片っ端から体当たりして、床に落としていった。
次に、テーブルに置いてあったガスコンロのメモリを最大にし、ガスの元栓も口で回して開けた。
すぐさまテーブルから床に落ちた包装紙の山にジャンプした。包装紙をクッションがわりにして床に着地する。
さらに一緒に落ちていたプラスチックのボウルを引きずり、出入り口の横でボウルをかぶって隠れる。
ここまで暴れれば防犯センサーに引っかかっただろう。
前に泥棒が入ったときは10分ほどで沢山の人間がやってきた。
人間が入ってくれば、まず荒らされたテーブルとガスの匂いに気を向けるだろう。
その混乱に乗じて脱出するつもりだ。ぱちゅりーはボウルに隠れながら腕時計で時間を測っていた。
ガタガタ…ガチャン
「○○警備です! 誰かいますか!」
「うわっガス臭いぞ! 窓を開けろ!」
「荒らされてるぞ! 気をつけろ! 誰かいるかもしれん!」
入ってきた人間の足元を通り、入れ違いになるように外に飛び出すぱちゅりー。
人間達は店内に気を取られてるようで、ぱちゅりーには気が付かなかった。
ぱちゅりーは一度も後ろを振り返らずに必死に走った。
限界まで走った末に見知らぬ裏路地で倒れた。もう体が動かない。
(…ぱちゅは…ぱちゅがボタンをおさなければ、あまあまがでることはなかったわ…)
(…あまあまは、おとーさんとおかーさんの、なかみさんだったんだわ…)
(…ぱちゅが、おとーさんとおかーさんを、ゆっくりできなくしたんだわ…)
「うげぇ! えれえれえれ…」
ここにきて限界を超えたぱちゅりーが中身を吐き出した。
己の中にある両親の中身をすべて吐き出さんとする勢いである。
しかし、母ぱちゅりーの『生き延びて』という言葉がぱちぇりーを押しとどめた。
結果、半死半生ではあるがぱちゅりーは生き延びた。
だが、ゆっくりという生物はゆっくりできなくなると、その記憶を中身と共に吐き出すことがある。
ぱちゅりーも例に漏れず、ゆっくりできずに中身を吐き出したために部分的な記憶障害になってしまった。
―――目が覚めたぱちゅりーは、お店であった出来事を思い出せなくなっていた。『生き延びて』という言葉を残して。
――――――――――
「むきゃ…あ…ああ…」
長ぱちゅりーはすべてを思い出した。
とても大好きだったおばさまだ。そしてとてもゆっくりできないおばさまだ。
まるで蛇に睨まれた蛙のようにピタリと動きを止める長ぱちゅりー。
「あなたが来ることは、昨日ここに来たゆっくりから―――みょんといったかしら? 伺っているザマス」
「むきょ?!」
長ぱちゅりーの知っているみょんと言えば、逃げ延びたリーダーみょんしかいない。
それが昨日ここに来たということは、抗争に敗れてすぐにここへ向かったということになる。
ゆっくりプレイスが無くなったから、仕方なく狩場にあまあまを食べに来たのか?それとも―――
「いつもは団体で来るザマスのに、昨日は1匹で来たザマス。 なにがあったのか捕まえて問いただしたザマス。
そうしたら、そのゆっくりは面白いことを言ったザマス。 『腕時計をしたぱちゅりーにやられた』と」
「むぎゅう…」
「ここのあまあまを狙ってたらしいザマスね? そのゆっくりはここで待ち伏せをするつもりだったザマスよ」
リーダーみょんは、抗争の仕返しに不意打ちを仕掛けるつもりだったようだ。
確かに倉庫内は初めてで不慣れな場所だ。こんなところであれほどの凄腕に不意打ちをされたら危なかっただろう。
「腕時計をしたぱちゅりーなんてあなたしかいないザマス。 まさか生きてたとは思わなかったザマスよ」
「むきゃああああああああ!」
おばさまが話しかけながら一歩踏み出した。
プレッシャーに耐え切れず逃げ出す長ぱちゅりー。
「むぎゅう! どぼじてでぐちさんがなくなってるのおおおお?!」
先ほどまで開いてたはずのシャッターがいつのまにか閉じていた。
「そこはワザと開けてあったんザマス。 遠隔操作で閉じることができるんザマス」
「むぎゅうううう! どぼじてぞんなごとするのおおおお!」
「あらあら、昔は口調まで真似するほど懐いてたザマスのに、すっかり野良ゆっくりになったザマスね」
長ぱちゅりーはゴミ袋があった場所へ追い込まれた。
ゴミ袋を背にするぱちゅりー。その時、何かが背中を軽く刺した。
慌てて振り向くと、ゴミ袋から金属のようなものが飛び出していた。
「むきゃ! ぶきだわ! これでかつる!」
長ぱちゅりー急いでゴミ袋を開けた。
そこからは焦げたバターの香りを発する黒いなにかと、鈍い光を放つどこかで見たようなペーパーナイフが出てきた。
黒いなにかはピクピクと震えているようにも見える。
「…むきゅ?」
「気をつけるザマス。 それはまだ生きてるザマスよ」
「…これは…もしかして………………………みょん?」
「あなたのことを教えてくれたお礼にムニエルしてあげたザマス! いい声で泣いてたザマスよ!」
「!!!!!!!!!!!!!!!」
長ぱちゅりーは声にならない悲鳴をあげた。黒いなにかは捕まったみょんの成れの果てであった。
みょんは小麦粉をまぶされバターで全身が黒くなるまでじっくりと焼かれたのだ。
震えるそれは耳を澄ますと「…チチチチーンポ…ユ゙ユ゙ユ゙ユ゙…」とつぶやきが聞こえる。
「むぎゅう!! …お、おばさまって! も、もしかして…」
「そうザマス! わたくしは虐待叔母様ザマス! おほほほほほほほほほ!」
「むぎゃああああ!! やっぱりいいいい!!!!」
おばさま。いや虐待叔母様は長ぱちゅりーを片手で掴むと、キツネ目をさらに吊り上げて高らかに笑った。
長ぱちゅりーは恐怖で凍りついた。あの凄腕のみょんがこの有様である。自分が勝てるわけがない。
頼りの群のみんなはラムネで眠らされている。捕まった長ぱちゅりーに打つ手はなかった。
「おほほほほほほほほほ! あなたはどうしてほしいザマスか? 溶けてなくなるまでソテーしてあげるザマスか?」
壮絶な笑みを浮かべる虐待叔母様。
切羽詰った長ぱちゅりーは最後の賭けにでた。
「むきゅ! むかしのおばさまにもどってほしいザマス! また、ぱちゅりーをゆっくりさせてほしいザマス!」
口調の真似で、虐待叔母様の同情を誘おうとしたのだ。
昔はやさしかったのは確かだ。あの頃を思い出して貰えば見逃してくれる可能性もある。
「あら? あなた、まだ気付いていなかったザマス?」
「む、むきゅ?」
「…そうザマスね。せっかくだから全部説明してあげるザマス」
「あなたはフォアグラという料理は知っているザマスか?」
「むきゅ。 たしかガチョウさんのなかみさんね」
「そのとおりザマス。 ぱちゅりーは相変わらず頭が良くてなによりザマス」
「ガチョウは牧草などの粗食でも大きく育つザマス。 この辺はゆっくりと似てるザマスね?
フォアグラはガチョウを強制的に太らせるザマス。 そうして育った脂肪ばかりの肝臓が美味しいフォアグラになるザマス。
あたくしはそれをゆっくりで実践したのザマス」
虐待叔母様は昔からその料理の腕を生かした虐待をしていた。
ある時、ゆっくりスイーツに凝っていた時期があった。美味しいゆっくりスイーツを作りたかったのだ。
ゆっくりは苦しむと甘くなる。これは常識だ。常識通りに作るなら虐待してから料理するべきだ。
しかし、虐待をしていない、とてもゆっくりしたゆっくりでも甘いときがある。それがヒントになった。
社長婦人である虐待叔母様は、お金の掛かる金バッチゆっくりも虐待していた。
そのとき、金バッチぱちゅりーだけは他と違った甘さがあったのだ。
虐待で作られた甘さではない、濃厚で格調高い甘さだった。
色々と実験した結果。同じぱちゅりー種でも、知識が豊富で記憶力の良いぱちゅりーが甘いと分った。
一説ではゆっくりの記憶力には、糖分が関係しているとも言われている。
生クリームであるぱちゅりーは、どのゆっくりよりも甘い。それ故、ぱちゅりー種は賢いのだろうとも言える。
「それからはぱちゅりー種のみを飼育したザマス。 賢いぱちゅりーを作るためザマス」
「むぎゅ!?」
虐待叔母様は、出来の良い金バッチぱちゅりー同士を掛け合わして、最も賢いぱちゅりーを作り出そうとしていた。
食事で生クリームが甘くなるように、ハーブ等を特殊調合して作ったオリジナルの飼料を作り出した。
知識を増やすために教育ビデオや教育本を揃えた。ストレスにやられないように、ゆっくりできる最高の環境を用意した。
ぱちゅりー種は本を読むとゆっくりできるので、ほとんど運動を必要とせずともゆっくりできた。
また、特殊調合の飼料は短期間でぱちゅりーを成長させた。運動不足と豊富な栄養はぱちゅりーをデブぱちゅりーに育てた。
欠点は、豊富な食料と、無駄に良くなった頭のせいで、図に乗ってゲス化しやすいことだった。
そこは大人の淑女である虐待叔母様だ。野良ゆっくりを捕まえては憂さ晴らしをした。
「こうして出来たのが高級食材『ゆっくりデブぱちゅりー』ザマス。
虐待したぱちゅりーと比べると、濃厚で格調高いスイーツに料理できるザマス。
あたくしの店では、デブはちゅりーで作ったスイーツのみを販売してるザマス」
「…そ、それじゃあ、ぱちゅは、でぶぱちゅりーだったの?」
「それは違うザマス」
「むきゅ?」
虐待叔母様は、デブぱちゅりーでは満足できず、その上を目指した。
しかし、掛け合わせや特殊調合飼料では、もはや限界だった。
そこで虐待叔母様は、育て方そのものを変えた。
ゆっくりの赤ちゃんは生まれたばかりでも喋ることができる。
これは親の餡子を受け継いだ時に、知識までも継承するからである。
つまり、親の餡子を受け継いで生まれるのならば、親の餡子を食べても知識を受け継ぐのではないか?
その実験結果が長ぱちゅりーであった。
まず、デブぱちゅりー同士を掛け合わせて子供を生ませる。
子供が生まれてしあわせー!の状態で親を眠らせて中身を搾り出す機械につなげる。
これは苦しむとゆっくりできない記憶になって、知識として引き継がない可能性がでるからだ。
また、眠らせたままじわじわ搾り出すことによって、常に新鮮な中身を食べさせれるようにした。
死んでしばらくたったあとの餡子は、知識継承されない実験結果が出ているからだ。
同じくおたべなさい!した餡子は死んだ餡子なので栄養にしかならず、知識継承はされないようだ。
「口から食べる以上はある程度は消化して知識にはならないザマス。
でも同じぱちゅりー種の生クリーム、しかも実の親の生クリームザマス。
ほとんど消化しないで中身に変わって知識となるのザマス」
「む、むきゅきゅ!?」
「つまりあなたはデブぱちゅりー2匹分の知能と甘さを引き継いだ、超高級食材なんザマス。
超高級食材をやさしく扱うのは当然のことザマスよ」
長ぱちゅりーは絶句した。自分の出生がそこまで特殊だったとは。
しかし確かに納得がいく。子ゆっくり程度で野良として生きていけたのも親の知識があったからだろう。
「あなたは超高級食材の試作品だったんザマス。食材のぱちゅりーは別棟で育成してるのザマス。
試作品のあなただけは店内で育ててたのザマスが、まさか逃げ出すとは思わなかったザマス」
「…む、きゅ…じゃあ…ぱちゅもたべられるの?」
「あなたは逃げ出して半年も野良として過ごしたザマスよ? もう食材としては使えないザマス」
その言葉に安堵した長ぱちゅりー。食われることはなさそうだ。
「…でもあたくしが作り出した食材で、お料理されてないのはあなただけザマス!
野良は野良らしいお料理になってもらうザマスよ! おほほほほほほほほほ!」
「むぎゃああああああああああああああああああああ!」
そう言って虐待叔母様は、長ぱちゅりーの帽子を取り上げ、ゴミ袋に投げ捨てた。
「むきゃー! ぱちぇのすてきなおぼうしがー!」
必死に帽子を取り替えそうと目で追う長ぱちゅりー。
虐待叔母様は、その手にはめたケバケバしい色をした指輪で、長ぱちゅりーの左目を殴りつけた。
「むぎゃああああああああああ! ぱちゅのおめめがあああああああああ!」
「物欲しそうな目でみるからザマス! おほほほほほほほほほほほほ!」
指輪の形に陥没する左目。あまりの痛みにしーしーを漏らす長ぱちゅりー。
陥没した左目は、形は残っているがもう光を映すことはないだろう。
虐待叔母様は、続いて右目も殴りつけた。
「ぎゃあああああああああああ! まっくら! ぜんぶまっくらに! むぎゃああああ!」
「しーしーなんて漏らすから思わず殴ったザマス! おほほほほほほほほほほほほ!」
長ぱちゅりーの両目が陥没して失明したところで、おもむろに髪の毛をむしり始める。
虐待叔母様の手が踊るように動く。とても楽しそうだ。
「ぎ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ぱちゅの! ぱちゅのかみのけが! ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
「饅頭に髪の毛なんて生意気ザマス! おほほほほほほほほほほほほ!」
そこでふと虐待叔母様の手が止まる。そういえば取材の方を待たせたままだった。
今は途中休憩で出てきただけだったのだ。
「用事を思い出したので手早く済ませるザマス!」
「む゛ぎゅぎゅ…も゛う゛ゆ゛っぐりざぜで…」
りっぱな剥げ饅頭になった長ぱちゅりーを片手に持ち、新たに取り出したるはピーラーだ。
長ぱちゅりーを片手で器用に回すと、ピーラーをあてがう。
シュリシュリシュリ…
「が!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! い゛、い゛だい゛! だま゛の゛お゛ばだがい゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛!」
「薄皮を剥いてるだけザマス! 暴れなければ破れないから安心するザマス!」
あっという間に薄皮剥げ饅頭の出来上がりだ。虐待叔母様は長ぱちゅりーを地面にそっと置く。
長ぱちゅりーは痛みでしーしーどころか、うんうんまで漏らして痙攣している。
「むぎゅ…ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…むぎゅ…」
「もうしばらくすればラムネが切れて他のゆっくりが起きるザマス。 助けて貰えばいいザマス」
「むぎゅ…にがし…て…くれ…るの…?」
「あたくしはこれ以上何もしないザマス。 さっき言ったように野良は野良らしいお料理になってもらっただけザマス」
「…むぎゅ?…」
「…その姿を見て、他のゆっくりが助けてくれれば、ということザマス」
「…!?」
「ぱちゅりーは頭が良いはずザマス。 お口だけは無傷で残したからそれでなんとかするザマス」
そう言って、虐待叔母様はシャッターを少しだけ開けると、ショップ本店へ戻っていった。
もう長ぱちゅりーには興味が無くなったようだ。他の野良にも手は出さない。
虐待叔母様はリーダーちぇん達が漁りに来たときも同じことをした。ラムネで眠らせたあと1匹だけ虐待するのだ。
残りの野良は無傷で逃がす。そうしないとすぐに楽しみが無くなってしまうからだ。
この倉庫は虐待叔母様の虐待倉庫だった。
「…むぎゅ…ゆ゛っゆ゛っ…だれか…たすけて…」
いくら口だけ無傷とはいえ、目を潰されて、全身を剥かれた体ではまともに喋ることができない。
お飾りも無くなってしまった。このままではゆっくりできないことになるだろう。
「…ゆーん。 よくねたんだぜ! すっきりしたんだぜ!」
「…いつのまにかねてたんだよー わからないよー」
「…むぎゅ…たすけ…て…ゆ゛っ」
「ゆゆっ! こんなところにもあまあまがおちてるんだぜ!」
「ほんとなんだねー おいしそうだよー」
「…むぎゅ…ちがう…ぱちぇは…」
「ねおきのむーしゃむーしゃをするんだぜ!」
「ちぇんもたべるんだよー わかるよー」
「…むぎゅ!…むぎゅぎゅ…ゆ゛っゆ゛っ」
「オーナー。 そろそろインタビューの続きをお願いします」
「分ったザマス。 いま行くザマス」
「先ほどの続きですが、それほど知能が高いのでしたら、飼いゆっくりとして販売するのは駄目なんでしょうか?」
「普通の成体ゆっくりの知能は幼稚園児並、ぱちゅりー種は小学校低学年並と言われてるザマス。
この超高級食材ゆっくりぱちゅりーは中学生並の知能を有すると知能検査の結果がでてるザマス。
しかし、子ゆっくりのころまではかわいいザマスが、成体になるまでに100%ゲス化するザマス。
たぶん知能だけでななく、ゲスさも濃厚に受け継いでいて、大人になると発現するのだと………」
長ぱちゅりーのか細い悲鳴は、インタビューの声に隠れて誰にも届かなかった。
―――後日談。長ぱちゅりーを失った群のその後。
長ぱちゅりーが行方不明になった翌日。護衛隊長だったちぇんが、代行として役職についた。
「きょうもたいりょうなんだねー! わかるよー!」
長ぱちゅりーの捜索は難航していた。まるで消えたかのように見つからないのだ。
仕方なく代行ちぇんが群を率いて縄張りから食料を調達していた。
長ぱちゅりーの食料集めを見よう見まねで真似てるだけではあるが、思ったより大量の食料が取れた。
これでしばらくは安泰であろう。
さっそくみんなで食事をした。群ではなるべく一緒に食べる決まりだった。
「「「「「「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」」」」」」
やっぱりあのレストランの生ゴミはゆっくりできると、代行ちぇんは思った。
これなら毎日取りに行ってもいいんじゃないかと思えた。
長ぱちゅりーは、なぜたまにしか行かなかったのだろう?
「ゆゆ! れいむのすーぱーうんうんたいむがはじまるよ!」
「まりさもだぜ! うんうんするんだぜ!」
「ここはむーしゃむーしゃするところなんだよー! うんうんはおといれでねー!」
突然その場でうんうんをしようとするゆっくり達が現れた。驚いて注意する代行ちぇん。
全くこんな所でうんうんをしようとするなんて―――あれ?ちぇんもうんうんしたくなってきて―――
「うんうんでたよ! すっきりー! …あれ? れいむまだうんうんしてるよ?」
「まりさもだぜ! うんうんがとまらないんだぜ!」
「うががが! うんうんがとまらないよおおお! だれかとめてええええ!?」
「うんうんがとまらないなんて、とかいはじゃないわ! …だれかありすのうんうんをとめてええええ!?」
そこら中で群のみんながうんうんを始めたようだ。しかも止まらなくなってる。
必死でうんうんを我慢する代行ちぇん。このままうんうんをしたらゆっくりできなくなる予感がしている。
「ゆ゛っゆ゛っ…うんうんがちょまらにゃいわ…」
「もっちょ…ゆっくちうんうんしちゃかっちゃ…」
「ぎゃあああああ! れいむのすてきなおちびちゃんがああああああ!」
「ありすのとかいはな、おちびちゃんがああああああああああ!」
体の小さい子ゆっくりが、うんうんのしすぎで永遠にゆっくりしてしまったようだ。
どうやらさっき食べたご飯が原因のようだ。腐っていたのか?それにしてはうんうんが止まらないのはおかしい。
とりあえず代行ちぇんは、これ以上ご飯を食べないよう命令した。
「れいむのあかちゃんんんん! げんきになってねええええ! ぺーろぺーろ!」
子ゆっくりにご飯を上げてたせいで、自分が食べるのが遅れたのだろう。
元気な親れいむが、干からびた我が子をぺろぺろしている。
「ゆゆ!? れいむもうんうんしたくなってきたよ! すっきりー! …なんでうんうんとまらないのおおお?!」
我が子のうんうんを舐め取っていたれいむが、急にうんうんを始めた。
それを見ていた代行ちぇんは戦慄した。このうんうん病は舐めたゆっくりにもうつるようだ。
まずい。このままでは全滅する。せめて元気なゆっくりだけでも避難するように指示しなければ。
そう思いつつも体に力が入らない。なぜだ?
あれ、いつのまにか自分もうんうんをしている。
そうか、もう手遅れなんだな…。
うんうんを漏らしながら代行ちぇんの意識は途絶えた。
―――この日、この街一番の勢力を誇った一つの群がうんうんのしすぎで滅びた。
作:248あき
過去作
・ふたば系ゆっくりいじめ 633 バス停
・ふたば系ゆっくりいじめ 765 かまくら
・ふたば系ゆっくりいじめ 808 路地裏(前)