ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0898 のりょってやりゅ!(前半)
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幻想郷の里。
そこから少し離れたお地蔵様の前で、二匹のゆっくりが死んでいた。
まだ赤ゆっくりのれいむとまりさだ。
まりさの方は、死んでから時間が経っている。
全身に空いた傷口は、蟻がせっせと餡子を運び出す入り口となっている。
だらしなく開いた口の中から、一匹の蠅が飛び立った。
ボロクズのような姿を見れば、ろくでもない死に方をしたのはすぐに分かる。
れいむの方は、今まさに死ぬところだった。
「おか…しゃん………おと…しゃ…ん…………」
最期に、父母を呼んだのだろうか。
れいむは、震えながら目を閉じ、ゆっくりであることをやめた。
饅頭となったゆっくりが、お地蔵様へのお供え物のように並んでいた。
二匹の魂がまだ肉体のそばにある間に、どこからともなくやってきたものがいる。
死神だ。三途の川の渡し守である、けしからん巨乳の持ち主のような肉感的な姿はしていない。
ぼろぼろの黒衣に骸骨、手には鎌という分かりやすい格好をしている。
「……残念!私の冒険はここで終わってしまった、とな」
死神は頭巾の下からのぞく髑髏を、肉体に重なっているまりさとれいむの魂に向けた。
「最近お前たちの魂ばかりで忙しくてかなわん。数だけ多く、価値はなく、平凡で希薄。羽虫の魂の方が余程よい。
まあいい。さっさと付いてこい。三途の川まで案内してやろう。閻魔の裁きがお前たちを待っているぞ」
死神の呼びかけに、二匹の魂は肉体から離れた。
どうやら、先に死んだまりさはそこに留まっていて、れいむが死ぬまで待っていたようだ。
二匹は恐ろしげな死神の姿を見ても、取り乱す様子はない。
それどころか、自分たちが死んだこともろくに嘆いていないようだ。
「くやちい…………」
「くやちいよぉ……」
まりさとれいむが、口を揃えてそう言った。
「ん?恨み言か」
「くやちい…くやちい……くやちいくやちいくやちいくやちいいいいい!!」
「よきゅも…よきゅも…よきゅもよきゅもよきゅもおおおおおおお!!」
二匹は、血走った目を死神に向けた。
赤ゆっくりののんびりした顔ではない。
それどころか、ゆっくりの「この世のすべてが自分を愛している」と疑わないとぼけた顔でもない。
それは、鬼の顔だった。
「おとおおおおしゃあああああんん!!よきゅもれいみゅをおおおおおおお!!!」
「おかあしゃんもおおおおおおおお!!まりしゃをよくもしゅてたなああああああ!!」
れいむは吠え、まりさは叫んだ。
それは、凄まじい恨みだった。
「よくもしゅてたな!よくもしゅてたな!れいみゅとまりしゃを、よくもおきざりにしてしゅてたな!!ゆるちゃない!!ゆるちゃないいいい!」
「くやちいいいいい!!まりしゃくるちかった!いちゃかった!しょれもぜんぶぜんぶ、おとーしゃんとおかーしゃんのせいなのじぇええええ!!」
その場で跳びはね、唾を吐きかけ、見るもの聞くものすべてに二匹は呪詛を吐く。
呪う。呪う。恨む。恨む。
赤ゆっくりが両親に抱く愛情など、そこにはない。
そこには、剥き出しの悪意と怨念しかなかった。
「のりょってやりゅ!のりょってやりゅ!のりょってのりょってのりょってのりょって、のりょいころしちぇやりゅうううう!!」
「くるちめ!くるちめ!くるちんでくるちんであやまりぇ!!まりしゃとれいみゅにあやまりぇ!!あやまりゅまでくるちめぇえええ!!」
尋常でない激怒に、死神は興味を覚えた。
「お前たち、親が憎いようだな。何があった?」
「……だりぇ?おとーしゃんとおかーしゃんのしりあいなにょ?」
「いいや、違う。お前たちは死んだ。わしはお前たちの魂を回収しに来た死神だ」
「しにがみしゃん?」
「そうだ。さあ、見せてみろ。お前たちの歩んできたゆん生を。場合によっては、お前たちの願いを叶えてやれるかもしれん」
死神はまりさとれいむの魂をじっと見る。
そうすることによって、二匹の死ぬまでのゆん生が見えてくるのだ。
これが、仕事一筋の死神の数少ない楽しみでもあった。
飢えることはあっても、仲のよい家族だった。
苦しいことはあっても、幸福な家族だった。
足りないものはあったけど、満ち足りた家族だった。
生まれて一番最初に見たのは、自分たちの誕生を心から祝福してくれるお父さんの顔。
生まれて一番最初に食べたのは、優しいお母さんが噛んでお粥のようにしてくれたおいしい蔦。
生まれて一番最初に言ったのは、「生んでくれてありがとう!」の気持ちを込めた「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」の言葉。
巣穴の中はあったかくて、心地よくて、すごくゆっくりできた。
お母さんのほっぺたにすーりすーりしていると、柔らかくて幸せな気持ちになれた。
葉っぱのお皿に盛られたご飯は、お母さんが柔らかくしたおかげでとてもおいしかった。
夢中になって食べて口の周りを汚しても、お父さんにぺろぺろなめてもらってくすぐったかった。
初めてお外に出た時、嬉しくてお日様にもお花さんにも虫さんにも「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ」と言って笑われた。
強くて立派なお父さんと、優しくて大きなお母さんに見守られて、お外で気の済むまで遊んだ。
時たま喧嘩をして叱られることもあったけど、ちゃんとごめんなさいと謝れば許してもらえた。
もみあげとお下げで抱きしめられ、いい匂いのするお父さんとお母さんにすりすりする時、世界で一番の幸せを感じていた。
愛されていた。
大事にされていた。
一緒にゆっくりできると思っていた。
一緒にゆっくりしたいと思っていた。
大好き。お父さん、お母さん。
世界で一番、大好きだよ。
ずっとずっと、ずーっとずーっと、一緒にゆっくりしようね。
そう、願っていたのに。
捨てられた。
見放された。
騙されて、置き去りにされた。
「ここでいいこにしてまっていてね。おとうさんとおかあさんはにんげんさんからあまあまをもらってくるからね」
「ゆっくちまっていりゅからにぇ!」
「はやくかえってきちぇにぇ!」
お父さんとお母さんは巣穴から出ていき、二度と戻ってこなかった。
孤独と空腹が、二匹を責め苛んだ。
どんなに二匹で励ましても、すりすりしても、満たされない。
恐い。寂しい。お父さんとお母さんに会いたい!
その一心で、人間さんがいると教えられた里に思い切って近づいた。
散々二匹で探し回り、両親の姿を見つけたのは偶然だった。
両親は、人間さんのお家のお庭にいた。
「おとーしゃーん!あいちゃかっちゃよ!まりしゃしゃびちかっちゃよおおおお!」
「おかーしゃん!れいみゅがきちゃよ!しゅーりしゅーりしちぇ!しゅーりしゅーり!」
垣根を懸命にくぐり抜けて、両親に飛びつこうとする二匹。
寂しかったよ、お父さん、お母さん。
待っててって言われたけど、我慢できないで来ちゃった。
だから、ごめんなさいって謝るよ。でも、今は一緒にすーりすーりしようね!
「なんなの!こんなゆっくり、れいむはしらないよ!ゆっくりでてってね!」
「まりさにおちびちゃんなんかいないよ!ゆっくりちがいだよ!」
二匹は、両親に体当たりされて地べたに叩き付けられた。
こちらを見る両親の目は、いつもの優しく愛情に満ちたものではない。
汚いうんうんを見る目、あるいは汚らわしいれいぱーを見る目だ。
……うそ。
……どうして?
「うしょ……だよにぇ……。おかーしゃん、れいみゅだよ……。おかーしゃんのだいしゅきなれいみゅだよ?」
「おとーしゃん……まりしゃ…わるいこなのじぇ?ごめんなしゃい……。あやまりゅから、しょんなこといわにゃいで……」
突然否定されたことに、二匹の頭は完全に混乱していた。
あり得ない。
こんなこと、あり得るはずがない。
地面にぶつかったほっぺたの痛みと、心の痛みを懸命にこらえて、二匹は涙をこらえて笑いかける。
(*1)
「しらないよ!れいむのおちびちゃんは「ようし」にだしてもういないんだよ。おまえたちはただののらだよ!いなくなってね!」
「のらゆっくりはゆっくりできないよ!はやくおにいさんのおうちからでてってね!ぷくーするよ!ぷくーっっっっ!!」
「れいむもするよ!いっしょにゆっくりできないのらをおにいさんのおうちからおいだそうね。ぷくーっっっっ!!」
「ぴぃぃぃ!ぷくーきょわいいいいいいい!!」
「ぷくーしにゃいでええええ!ぷくーはきょわいよおおおおおお!!」
なけなしの勇気を振り絞った結果は、あまりにも残忍なものだった。
初めて見る両親の本気のぷくーに、れいむとまりさは恐ろしーしーを漏らして逃げ出した。
人間からすれば何が恐いのかまったく分からないぷくーだが、臆病なゆっくりに対しては効果は抜群である。
見ての通り、親しかすがる相手のいない子どもでさえも、ぷくーされれば恐ろしさに逃げ出したくらいだ。
膨れ上がったれいむとまりさに恐れをなした二匹は、大あわてで垣根をすり抜けて外に飛び出す。
後ろでこんなやり取りがされているのを、二匹はかすかに聞いていた。
「おい、れいむにまりさ。どうしたんだよそんなに膨れて。ゴキブリでもいたか?」
「ゆ?ゆゆ?な、なんでもないよおにいさん。しらないのらのゆっくりがいただけだよ!」
「そうだよ!おうちせんげんしようとしたから、まりさたちがおいだしたんだよ!すごいでしょ!」
「あーすごいなー。ほら、さっさと中に入れ。餌の時間だぞ」
「ゆわーい!あまあまだよ!いっぱいたべるよ!ぜんぶれいむとまりさのだよ!」
「おにいさん、まりさをかってくれてありがとうね!いっぱいゆっくりしてあげるよ!」
「おちびちゃんをすぐつくってあげるから、いっぱいかんしゃしてね!」
二匹の頬を、知らないうちに涙が伝っていた。
分かったのだ。
両親が、もう二度と自分たちをゆっくりさせてくれないことが。
自分たちをのけ者にして、両親が人間さんに飼われたことが。
幼い体で跳ねて、跳ねて、跳ねた。
ぷくーと膨れた両親の顔が恐くて、振り返らないで逃げた。
あんよが疲れて動けなくなった場所が、二匹の逃亡のゴール地点だった。
そこは、知らない空き地。
お父さんとお母さんのいた家に、どう行けばいいのか分からない。
今まで住んでいたお家に、どうやって帰ればいいのか分からない。
そこは、同時に二匹のゆん生のゴール地点でもあった。
「ゆっぐち……ゆっぐぢぃぃ………ゆっぐぢいいいいい!!」
「ゆっぐぢぢだいよぉぉ…………ぢだいよぉぉぉぉぉ!!」
二匹は顔を擦り合わせて、わんわん泣いた。
今まで信じていたものすべてが、音を立てて崩れていった。
お父さんとお母さんは、れいむとまりさを捨てて人間さんと一緒に暮らすことを選んだんだ。
れいむとまりさは、いらない子どもになったんだ。
だから、捨てられたんだ。
騙されて、放り出されたんだ。
それから先は苦痛と絶望と怨恨しかなかった。
生きる気力とゆっくりを失った二匹は、死んだ目で里を放浪した。
本来は巣の中でぬくぬくとゆっくりすごし、親の世話によって育つ年齢の二匹だ。
危険がいっぱいの外で、ゆっくりらしくゆっくりと生きることなどできなくて当たり前だ。
それ以前に、れいむとまりさの姉妹はゆっくりする理由がなかった。
汚い路地裏にいると、鼠が出てきて二匹に襲いかかった。
往来に出ると、人間に蹴飛ばされて餡子を吐いた。
食べるものがなくて、道ばたに落ちている野菜クズを舌で舐め取って食べた。
寺子屋帰りの子どもたちに出くわしたのが、二匹の運の尽きだった。
子どもたちは二匹を木の棒で追い立て、鉛筆や竹串を突き刺した。
饅頭を針の山に変える拷問に、二匹は叫び声さえ上げずされるがままだった。
激痛を感じていても、誰に助けを求めていいのか分からなかった。
普通の赤ゆっくりなら、泣き叫んで親を呼んだことだろう。
その両親は、二匹の目の前で二匹を捨てたのだ。
帰る家のないまりさとれいむは、生きる希望さえない。
餡子の中ではただひたすら、両親への呪詛が育まれていた。
子どもたちは悲鳴を上げないゆっくりにすぐに飽き、お地蔵様の所に放置した。
放置された時点で、まりさは永遠にゆっくりしていた。
れいむは、まりさの死骸に蟻がたかり、蠅が卵を産み付けるのを見ながら、まりさの後を追って永遠にゆっくりした。
そして、二匹の魂は死神と出会った。
死神は笑った。
髑髏の顔で、「滑稽な出し物だ」と笑った。
実に滑稽。ゆっくりの悲劇など滑稽でしかない。
「子を愛しながら子を捨てる親も滑稽ならば、親から生まれながら親を恨む子もまた滑稽なり」
だが、それがいい。死神は二匹を招く。
「お前たちは怨霊になって、自分を捨てた両親に復讐したいか」
「しちゃい!しちゃいよ!れいみゅはおんりょうしゃんになって、おかーしゃんをこりょしてやりゅ!」
「まりしゃもおんりょうしゃんになりちゃい!なって、おとーしゃんをおもいっきりくりゅしめちぇやりちゃいのじぇ!!」
「されど、一度怨霊になれば後戻りはきかぬぞ。親を殺す大罪を犯せば、お前たちは地獄に落ちることになるのだが?」
「きゃまうもにょか!!にゃんでもしゅるよ。にゃんでもしゅりゅから、おかーしゃんをゆっくちしゃしぇにゃい!」
「じごくがにゃんだじぇ!まりしゃはおとーしゃんをこりょすためにゃらなんでもしゅりゅよ!!」
「カハハハハ。ならば、わしがお前の願いを叶えてやろう。喜ぶががいい」
かくして、二匹の魂は閻魔の裁判所に出頭することを拒否し、人間界をさ迷う怨霊と化した。
自分たちを捨てた憎き両親を、恐怖と絶望のどん底に叩き落とすために。
人間に飼われるという体験は、ゆっくりにとって最高に依存性の高い麻薬だ。
か弱く、甘党で、ゆっくりすることを好むゆっくりは、一度人間に飼われるとうま味に病みつきになる。
その人間に、ゆっくりをミンチにするまでいたぶることが三度の飯より好きな連中がいることも知らずに。
赤れいむと赤まりさの両親はかつて飼いゆっくりだったが、言いつけを破ってすっきりしたのが理由で捨てられている。
捨てられた雑木林で、二匹は力を合わせて巣を作り、赤ゆっくりを胎生にんっしんで産んだ。
両親は、産まれてきた赤ゆっくりを心から愛していた。
赤まりさと赤れいむが感じていた親からの愛情は、本物だった。
もしこのまま人間に出会わなかったら、きっと波乱があっても幸せな家庭のままだっただろう。
だが、親のれいむとまりさは再び人間に会ってしまった。
見知らぬ人間は怯える二匹に、夢にまで見たあまあまをくれたのだ。
一度は味わい、捨てられたことによって二度と食べられないと思っていたあまあま。
「うめっ!めっちゃうめっ!おいちぃっ!ごれずごくおいぢい!おいぢいい!うめぇ!おいぢいよお!」
二匹は涙を流して感謝し、先を争ってあまあまを貪った。
子どもたちのために取っておこうなどとは、考えの隅にさえなかった。
何度か同様の出会いを繰り返し、やがてお兄さんは言った。
「お前たちに子どもはいるか?」
「いるよ!とってもかわいいおちびちゃんがいるよ!」
「れいむとまりさがいるんだよ。ゆっくりしててすごくかわいいよおおお!」
「ああ、じゃあお前たちは駄目だな」
「ゆゆ?」
「どういうことなの?」
あまあまの入っていた袋をしまいながら、お兄さんはにやりと笑った。
「俺さあ、ゆっくりの番を飼おうと思っているんだよ。純真で、ゲス要素が全然なくて、とってもゆっくりしている奴をな」
「まりさたちゆっくりしてるよ!げすなんかじゃないよ!だからまりさをかってね!」
「れいむたちをかうとすごくゆっくりできるよ!おにいさん、れいむたちできまりだね!」
「だから、お前たちじゃ駄目なんだよ。お前たち、子どもがいるだろ。だから駄目」
「どうじでええ!?おぢびぢゃんはずごぐゆっぐりできるよおお!」
「おちびちゃんをみればきっとおにいさんもきにいるよ!おとくだよ!」
「お得でもゆっくりしてても駄目なものは駄目。俺は、子連れの野良は飼わないの。代わりに、家で飼ってからいっぱい産ませるんだよ」
「いっぱい……おちびちゃんがいっぱい…………」
「いっぱいおちびちゃんがいれば………まりさもいっぱいゆっくりできるよぉ…………」
その言葉に、れいむとまりさは目をとろんとさせてだらしない顔をしている。
おおかた、たくさんの子どもたちに囲まれて幸せな自分を想像しているんだろう。
「じゃあな。また来るからさ。お前たちの知り合いに、子どものいない家族がいたら連れてきてくれよ」
お兄さんが雑木林から里に帰っていっても、二匹はしばらくその場から動かなかった。
「れいむ……。おにいさんにかわれて、いっぱいいっぱいゆっくりしたいよね…………」
「まりさもそうおもうよね。まいにちあまあまがたべられるし、いっぱいおちびちゃんがつくれるよ………」
二匹の頭は、飼いゆっくりという麻薬の禁断症状にあっさりと支配されていた。
あれだけ愛し、大事にしていた子どもなど、飼いゆっくりになる夢に比べれば路傍のうんうんでしかない。
れいむとまりさにとって、二匹のおちびちゃんは不要な邪魔者にまで下落していた。
数日後、再び姿を現したお兄さんに、二匹は胸を張って言った。
「おにいさん!まりさたちのおちびちゃんはようしにだすことになったよ!」
「こどもがしんじゃってさびしがってるありすとぱちゅりーが、おちびちゃんをひきとりたいっていってきたんだよ!」
「きまりだね!まりさをかってね!」
「おちびちゃんいないからだいじょうぶだよね!れいむをかってゆっくりしようね!」
巣の中に両親を信じて待つ我が子を残し、二匹は意気揚々とお兄さんの家に向かった。
れいむとまりさは、飼いゆっくりになることを撰んだのだ。
厳しく辛い野生の生活よりも、安楽に飼育される生活に帰りたかったのだ。
お兄さんにゲスに思われたくなくて、まりさとれいむは捨てるのではなく養子に出したと嘘をついた。
二匹は野生のゆっくりたちの新参者であり、子どもたちを養子に出せる付き合いもない。
愛する子どもたちを、れいむとまりさはあまあまとゆっくりほしさに捨てたのだ。
それほどまでに、飼いゆっくりという麻薬を求める思いは強かった。
そして現在。
あまあまをくれるだけで後はほぼほったらかしの人間の元で、二匹はゆっくりできる幸せを満喫していた。
すっきり制限もなく、二匹の側には赤れいむと赤まりさが三匹ずついる。
何不自由ない生活に、目に入れても痛くないおちびちゃんたちに囲まれた幸福な毎日。
一度捨てられた恐怖を知るため、二匹は増長することなく六匹の赤ゆっくりたちをちゃんと躾けている。
それでも時たま、自分たちの幸せのために見捨てた最初の子どもたちのことを思い出す。
さすがに、もう生きてはいないだろうということくらいは見当が付く。
(れいむのさいしょのおちびちゃん。てんごくでゆっくりしていってね。きっとそこでしあわせにしてるよね。よかったね)
(おそらでまりさたちをみまもっててね。おちびちゃんたちのぶんまで、このこたちはしあわせにするからね。まりさがんばるよ)
きっと、おちびちゃんたちは自分のことを許してくれるだろう。今頃天国で幸せになっているだろう。
まりさとれいむは、実に身勝手かつ偽善的な空想をして、沸き上がる罪悪感を追い払っていた。
自分たちで捨てておいて、幸せになってねとはよく言えたものである。
だが、二匹はそんなあまりにも愚かで下らない妄想を、半ば本気で信じていたのだ。
あの日まで。
れいむとまりさの家族は、お兄さんと雑木林まで散歩に出かけていた。
両親にとっては懐かしい場所でも、赤ゆっくりたちにとっては始めて来る場所である。
「ゆわーい!まりしゃはたんけんしゅるのじぇ!」
「れいみゅはたからもにょをしゃがしゅよ!」
「ちょうしょしゃん!ゆっくちまりしゃにちゅかまっちぇにぇ!」
「はなしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!ありしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」
あちこちに散らばって仲良く遊ぶ様子を見て、れいむとまりさはとてもゆっくりしていた。
「おちびちゃんたちみんなゆっくりしているね。しあわせーだね、まりさ」
「まりさもしあわせだよ。おちびちゃんたち、こんなにゆっくりしているんだもん」
捨てた二匹の子どものことなど、とっくの昔に記憶から消えている。
あの子たちは天国で幸せにゆっくりしている。勝手にそう思い込み、記憶から消去したのだ。
「おとーしゃん、おかーしゃん、ゆっくちぷれいしゅをみちゅけたよ」
「いっしょにきてにぇ。みんにゃにはひみちゅだよ」
赤まりさと赤れいむがやって来て両親に教えた。
「ゆっくりプレイスをみつけたの?すごいねおちびちゃん」
「ゆっへん。しょうだよ。いちばんさいしょにおかーしゃんとおとーしゃんをしょうたいしてあげりゅよ」
「はやくきちぇ。いもうちょたちはおにーしゃんがいりゅからあんしんなのじぇ」
「わかったよ。あんないしてね、おちびちゃん」
ゆっくりプレイスを見せてくれると言う赤ゆっくりが愛おしく、親のれいむとまりさは二匹に付いていった。
お兄さんと遊んでいる赤ゆっくりたちに見つからないように、こっそりと。
「ここなのじぇ。しゅごいでしょ」
「れいみゅ、とってもここがきにいっちゃよ。ここをれいみゅのゆっくちぷれいしゅにしゅりゅよ!」
「まりしゃもしょうだよ。まりしゃもここをゆっくちぷれいしゅにしゅりゅのじぇ!」
「お……おちびちゃん…………」
「ここは…………」
子どもたちに案内されて、両親がたどり着いた場所。
そこは、よりによってかつてれいむとまりさが住んでいた巣穴だった。
そして同時に、そこは二匹が最初に産んだ子どもたちを捨てた場所でもあった。
「ゆっくち!ゆっくち!」
「ゆっくち~♪ゆっゆ~♪」
巣穴の中で跳んだり歌ったりしている赤ゆっくりをよそに、二匹は顔を見合わせ震える。
忌まわしい記憶が、蘇ってきた。
ここに、二匹は大事な子どもたちを置き去りにした。
今の幸福と引き替えに、おちびちゃんを捨てたのだ。
殺したのだ。見殺しにしたのだ。
れいむとまりさは、親のくせに子どもを殺したのだ。
否応なしに、暗い罪悪感が餡子の奥底から這い上がってくる。
「どうしちゃの?おとーしゃんとおかーしゃん、じぇんじぇんゆっくちしちぇにゃいよ」
「まりしゃのゆっくちぷれいしゅ、いやだったにょ?」
「そ…そんなことないよ。とってもいいおうち…じゃなくてゆっくりプレイスだね」
「おうち?しょうだね、ここはきっとだれかがしゅんでたおうちだったんだにぇ」
「だったら、しゅごーくゆっくちしたちあわしぇーなゆっくちがしゅんでいたんだにぇ」
思わず「おうち」と言ってしまったのがいけなかった。
赤ゆっくりの言葉が、二匹の過去の記憶を抉り出す。
「ゆ、ゆゆゆ……と、ところでおちびちゃん。ここ、だれかいなかった?」
「だれか?だれもいなかっちゃよ」
「そ、そうなんだ。ならよかったよ………。なにも、なかったよね。おりぼんとか、おぼうしとか」
「なんにもにゃいよ。おりぼんもおぼうちも、にゃーんにもなくてだーれもいなかっちゃよ」
「そ、そそそそうなんだ……そ、そうだよね……そうにきまってるよね……」
それでも安心できず、二匹はあからさまに不振な態度で周囲を見回す。
誰か隠れていないか。何か落ちていないか。
もしかして、捨てた子どもたちがどこかから自分の姿を伺っていないだろうか。
もしかして、捨てた子どもたちの死体が残っていないだろうか。
不安で二匹は甘い冷や汗をかき始める。
「さ、さあ、おちびちゃん。もうもどろうね。ここはいやなところだからはやくでようね」
「いやじゃよ。しぇっかくれいみゅのみちゅけたゆっくちぷれいしゅだよ。もっちょいちゃい」
「だめだよ。もうかえらないといもうともおにいさんもしんぱいするからね。ね?かえろう?」
「やじゃ。こんにゃいいとこりょだもん。れいみゅここにいちゃい」
「わがままいわないの!でるったらでるんだよ!さっさとかえるよ!かえるよおおお!」
ついに、れいむは我慢の限界に達し、大声で赤ゆっくりを怒鳴りつけた。
「ゆわああああん!おかーしゃんがおこっちゃよおおお!おとーしゃああん!」
「れいむのいうとおりだよ!ここはいやなところだよ。ゆっくりプレイスなんかじゃないよ!かえるよ!」
まりさもれいむと同様、こんな過去のトラウマを引きずり上げる場所から早く帰りたかった。
ここにいると、嫌なことがどんどん思い出されてきて、耐えられない。
「にゃんでええ?にゃんでなのじぇえええ?」
「なんでもだよ。とにかくここからでるよ!はやく!はやく!はやくはやくはやくうううう!!」
待ちきれなくなってぴょんぴょん跳ね出すれいむとまりさを、二匹はじっと見た。
「………しょうだよね。ここで、おとーしゃんとおかーしゃんはれいみゅとまりしゃをしゅてんだもんにぇ」
空気が、凍り付いた。
れいむとまりさの動きが、止まった。
「………ゆ???」
「………ゆ???」
何を言っているのか、分からなかった。
なぜ?なぜそんなことを言うの?
どうして?どうしてそれをおちびちゃんたちが知ってるの?
「な…なにをいってるの?おちびちゃん?」
「ま、まままりさはなにをいってるのかわからないよ?」
「へ、へへへへんなじょうだんはやめてよね。おかーさん、お、お、お、おこるよ?」
「さ、さあ、は、は、はやく、おにいさんのところにかえろうね?」
寒気が、餡子の芯から這い上がってくる。
二匹は目の前で起こっていることを理解しつつあった。
だが、そんなことはあってはならなかった。
ここで、死んだ子どもたちと再会するなんてことは。
赤まりさと赤れいむは、狼狽する両親を前にして、二匹で不気味に「ゆふふ」と笑った。
「おとーしゃんはまりしゃをしゅてたよ」
「おかーしゃんはれいみゅをしゅてたよ」
「あんなにかわいがっちぇたこどもを、おとーしゃんはみしゅてたんだよ」
「あんなにしゅーりしゅーりしたこどもを、おかーしゃんはみしゅてたんだよ」
「にんげんしゃんにかってもりゃいたくて、しゅてたんだよ」
「あみゃあみゃたべちゃくて、しゅてたんだよ」
「ここに、まりしゃとれいみゅをおきざりにしちゃんだよ」
「おもいだしちゃでしょ?じぶんでしちゃことでしょ?」
「ねえ、おもいだしちゃ?」
「ねえ、おもいだしちゃ?」
口元は笑っている。
しかし赤まりさと赤れいむの目は、底知れぬ憎しみと恨みをたたえて両親をにらんでいた。
断じて、今まで無邪気に遊んでいた子どもの目ではない。
あれは……鬼の目だ。
無惨にのたれ死んだ恨みから、怨霊になって子どもに取り憑いた鬼の目だ。
「ゆ゙、あ゙、あ゙あ゙あ゙…………」
「あ゙あ゙、ゆ゙あ゙あ゙………」
でも、そんなはずはない。
今ここにいるのは、お兄さんに飼われてから産んだおちびちゃんたちだ。
絶対に、あの時捨てた子どもたちであるはずがない。
「そ、そんなことあるはずないよ。おちびちゃんたちはあのときのおちびちゃんじゃないよ」
「そうだよ。あのときのおちびちゃんはてんごくでゆっくりしているんだよ。おちびちゃんはそんなこといわないよ」
「おちびちゃんたちはおとーさんとおかーさんがしあわせになれたから、ひどいことをしたのをゆるしてくれたはずだよ」
れいむとまりさは、勝手に自分たちで作り上げた都合のいい空想にすがる。
おちびちゃんたちは、天国で幸せにゆっくりしている。自分たちのことはとっくに許している。
お父さんとお母さんが幸せになれるなら、自分たちは犠牲になることを納得した。
そう信じて、疑わなかった。
「よくいえりゅね。まりしゃたちがしゅてられてからどうなっちゃか、しってりゅの?」
「おしえてあげりゅよ。れいみゅたち、じゅっとおとーしゃんとおかーしゃんがかえっちぇくるのをまっちぇたよ」
「おなかがしゅいて、くるちくてたまりゃなかっちゃよ。れいみゅとしゅーりしゅーりして、がんばっちぇがんばっちぇがんばっちゃよ」
「しゅごくこわかったけど、おとーしゃんたちにあいちゃくておしょとにでちゃよ」
「にんげんしゃんのしゅむところまででちゃよ。そしちぇ、おかーしゃんたちをにあっちゃよ」
「しょしたら、いったよにぇ?」
「れいみゅとまりしゃを、『ようし』にだしたって、うしょついたよにぇ?」
「こわいこわいぷくーしちぇ、れいみゅとまりしゃをおいはらっちゃよにぇ?」
「「どぼじでえええ!?どぼじでぞんなごどじっでるのおおおおおおおおおおおお??」」
誰にも知られてはいけない、二匹のついた嘘。
お兄さんに飼われたい一心で、捨てた子どもたちを「養子に出した」と偽った過去が。
最愛のおちびちゃんたちの口から、聞かされた。
最悪の嘘がばれてしまったのだ。
「くしゅくしゅ。うしょちゅき。れいみゅがうしょついたとき、おかーしゃんおこっちゃよね」
「くしゅくしゅ。にゃのに、にゃんでおとーしゃんがうしょつくの?」
「かなしかったよ、れいみゅは」
「くやちかったよ、まりしゃは」
「おうちもおやもないれいみゅとまりしゃは、おそとでねずみしゃんにかじられちゃよ」
「にんげんしゃんにけとばしゃれて、おくちからあんこしゃんはいちゃったよ」
「ごはんしゃんなんかどこにもにゃくて、おちてるごみしゃんをたべちゃよ」
「にんげんしゃんにちゅかまって、いっぱいいたいいたいこちょしゃれたよ」
「くるちかったよ。おかおもおめめもおくちもぷすぷすさされちぇ、ものしゅごくいちゃかったよ」
「しょして、しょのまままりしゃとれいみゅはえいえんにゆっくちしちゃったよ」
「おかーしゃんのせいで」
「おとーしゃんのせいで」
「れいみゅとまりしゃは、しんじゃったんだよ」
「だかりゃ、まりしゃとれいみゅはしんでかりゃおんりょうしゃんになったんだよ」
「おかーしゃんとおとーしゃんに、ふくしゅうしゅるためににぇ」
親れいむと親まりさは、認めてしまった。
天国でゆっくりし、自分たちのしたことを許してくれていると思っていた子どもが、今ここにいるということを。
捨てられた後味わった地獄によって、両親を許すどころか殺したいほど憎み、恨んでいるということを。
自分たちは、もう言い逃れが絶対にできないということを。
「こどもをしゅてたおとーしゃん、じぶんのせいでしんじゃったこどもにいうことありゅ?」
「こどもをしゅてたおかーしゃん、じぶんのせいでしんじゃったこどもにいうことありゅ?」
赤ゆっくりの声は穏やかだが、殺意と悪意しか込められていない。
二匹に過去の罪が襲いかかり、押し潰し、蹂躙する。
逃れる方法は、一つしかなかった。
「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
「い゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
揃って二匹は絶叫した。
恐ろしかった。恐かった。
このまま餡子が凍り付き、二度とゆっくりできないかとさえ思った。
「ごべんなざああああいい!!ごべんねえええ!ごべんねおぢびじゃあああああんん!!!」
「ごべっ!ごべんなざい!ごべんなざいいいいいいいい!!おぢびじゃんごべんなざいいいいい!!」
れいむとまりさは、子どもたちの前で猛烈な勢いで土下座を始めた。
ばんばんと地面に額を叩き付け、涎をスプリンクラーのように撒き散らして叫ぶ。
そうしなければ、到底耐えられなかった。
死んだ子どもたちから吹き付ける怨念は、二匹に発狂するほどの恐怖を与えていた。
「ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざいっ!ごべんなざいっ!」
「ごべんね!ごべんねええ!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんねええ!ごべんねえええ!!」
額が割れ、餡子がにじみ出しても二匹はアグレッシブ土下座をやめない。
舌を噛み、傷口からとろけるように甘い餡子が流れ出しても二匹は謝るのをやめない。
謝るのが終わった時か、土下座が止まった時。
二匹は、怨霊となった子どもたちの声を聞かなくてはならない。
子どもたちの恐ろしい顔を見なくてはならない。
それが何よりも恐ろしく、二匹は逃避のための謝罪を繰り返す。
「ばりざがわるがっだでず!わるがっだでず!あやばりまず!ごべんなざい!ゆるじでぐだざい!ゆるじでぐだざああああい!!」
「でいぶもわるがっだでず!おぢびじゃんをずでだわるいゆっぐりでず!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざいおぢびぢゃあああん!!」
そんな全力疾走が、非力なゆっくりの体で続くはずがない。
数分後、二匹はぜいぜいと息を切らして地べたに横倒しになっていた。
寿命さえ削る土下座と謝罪は、二匹の体を限界まで痛めつけていた。
髪の毛は砂糖水の汗でびっしょり濡れ、もちもちの肌はすっきりを終えたかのようにべとべとだ。
「ひっ……びっ…………ご…ごべ……な……ざい……」
「で……でい……ぶを……ゆる……じで…ぐ…ざ……い……」
なおも、怨霊の声を聞きたくない一心で謝ろうとするれいむとまりさの声が遮られた。
「おとーしゃん」
「おかーしゃん」
二匹の顔がゆっくりと上げられた。
「ここ……どきょ?」
「まりしゃたち、なんでここにいるのじぇ?」
「お…おち……び……ちゃん……」
「おとーしゃん、どうしちゃの?にゃんで、しょんなにちゅかれてりゅの?」
「も…もとに……もどった……んだね…………」
怨霊たちは去ったようだ。
今の子どもたちの顔は、見知ったおちびちゃんのそれに戻っている。
ほっとしてれいむとまりさは、顔を見合わせほほ笑む。
(よかったね、おちびちゃんたち、れいむたちをゆるしてくれたよ)
(まりさたちがきちんとあやまったからだね。よかったね、れいむ)
「……にゃんていうとおもっちゃの?」
「ばきゃなおとーしゃんとおかーしゃん」
「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
ほっとしたのもつかの間、たちまち子どもたちの顔は、狂った怨念と憤怒で歪んだゆっくりの顔に変わる。
「どうじでええええええ!?まりざちゃんどあやまっだよおおおおおお!!」
「もうゆるじでよおおお!!おぢびぢゃんれいぶをゆるじでよおおおお!!」
恐怖から顔をぐちゃぐちゃにした両親に、死んだ子どもは告げた。
「おとーしゃんとおかーしゃん、よーくきいちぇね」
「まりしゃとれいみゅは、これからじゅっとおとーしゃんとおかーしゃんのそばにいりゅからにぇ」
「おとーしゃんとおかーしゃんを、いっぱいいっぱいのりょってやるからにぇ」
「いっぱいくるちんでにぇ」
「いっぱいこわがっちぇね」
「くるみちぬいてしにゅまでゆるしゃないよ」
「じごくにおちりゅまでやめにゃいのじぇ」
「だかりゃ、もうおとーしゃんとおかーしゃんはにどとゆっくちできにゃいよ」
「りかいできりゅ?しょれが、すてられたまりしゃとれいみゅのふくしゅうなんだからにぇ」
「ゆふふふふ…………」
「ゆふふふふ…………」
かつて家族揃って楽しく過ごした巣穴に、復讐の喜びに浮かれる怨霊の恐ろしい笑い声が響く。
「ゆっぐりできないいいいいいいい!!」
「ごわいよおおおおおおおおおおお!!」
れいむとまりさはもみあげとお下げでお互いに抱きつきながら、子どもたちが元に戻るまで泣きながら震えていた。
これから始まる、ゆっくりできないゆん生を予感したからだ。
それから、怨霊たちの言った通り、れいむとまりさは二度とゆっくりできなかった。
表面上、二匹は普段と変わらない生活を送っている。
しかし、内心ではいつ怨霊となった子どもたちが現れるか、いつお兄さんについた嘘がばれるか心配で一度もゆっくりしていない。
毎日もらえるあまあまを、舌は甘いものと判断していない。
一緒にいて慕ってくれるおちびちゃんを、頭は子どもだと理解していない。
食事は皿に盛られたものをなるべく早くかき込み、食べ終わればゆっくり専用のお家の奥に二匹で逃げ込む。
子どもたちがすーりすーりしたりぺーろぺーろしても、ちょっとした動きにびくびくしっぱなしだ。
毎日が恐くて恐くてたまらず、それを誰にも打ち明けられず、二匹は恐怖に震えながら日々を過ごした。
「おかーしゃん、どうしちゃの?ぐあいがわりゅいの?ぽんぽんいちゃいの?」
「おとーしゃんにゃんでれいみゅたちをみにゃいの?れいみゅ、わるいことしちゃ?れいみゅのこときりゃい?」
両親の身を案じてくれる子どもたちも、れいむとまりさにとっては悪夢からの使者だった。
かわいい顔でこちらをじっと見つめるその顔が、いつがらりと変わって怨霊の顔になるか。
想像しただけで、二匹はしーしー穴から失禁するほどだ。
かといって、邪険にすることもできない。
もし子どもたちを排除して引きこもるような所をお兄さんに見られたら、絶対に疑われる。
怨霊となった子どもたちが、自分たちは養子に出されたのではなく捨てられたことをお兄さんにばらしでもしたら。
れいむとまりさは飼い主を騙したドゲス饅頭として、拷問の末に処分されるに違いない。
お兄さんは、ゆっくりが嘘をつくことを異常なまでに嫌っている。
先客として飼われていたありすは、それが元で死んでいた。
こっそり野良ゆっくりとすっきりしていたのを、赤ゆっくりを産むまで嘘をついて隠していたのだ。
しかもその後、お兄さんに隠れて自分だけで育てていたのがいけなかった。
お兄さんは、ありすと赤ゆっくりたちを小さな島しかない水槽に閉じ込め、上から水を注ぐという公開処刑をした。
「どげえ!ぞごどげえ!あでぃずはゆっぐりずるんだ!おばえはじゃまだああああ!!じねええ!ありずのだめにじねええ!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!どげる!どげるうううう!だずげでおにいざああん!ありずがじにぞうなのになぜだずげないのおおお!!」
「ゆぎゃっぎゃぎゃっ!じぬう!ありずもおぢびじゃんもみんなゆっぐりじぬんだあ!ゆぎゃぎゅぎゃぎゅぎぇ!」
ありすは自分の産んだ赤ゆっくりを島から蹴落としてまでして生き延びようとしたが、最終的に発狂しながらふやけて死んだ。
あんな最期は、絶対に迎えたくない。
何度も二匹はお兄さんに殺される夢を見て、その度に絶叫と共に跳ね起きた。
次第にれいむとまりさの精神は、磨り減っていった。
その日の朝も、悪夢でれいむとまりさは飛び起きた。
「この嘘つきゆっくりども!俺を騙したんだな。ヒャッハッハー!嘘をつくゆっくりは虐待だあ!」
お兄さんは夢の中で、二匹に恐ろしい虐待をしていた。
「ぶぎゃあああ!やべでえ!ぎらないで!ぎらないでえ!あんごがでぢゃう!でぢゃううううう!」
れいむの見た夢では、お兄さんはれいむを柱に縛り付け、ノコギリで全身をめった切りにしていた。
「あづいいいいいいい!!あづい!あづいよおお!おにいざんもうおろじでええええええええ!!」
まりさの見た夢では、お兄さんはまりさをフライパンの上に載せ、死ぬまで火であぶり続けた。
「まりざあああああ!れいぶごわいゆめをみだよおおおおおお!」
「まりざもだよおおおおお!まりざごわがっだよおおおおおお!」
あの日以来、二匹は内容こそ違えど悪夢ばかり見ている。
夢の中なのに、驚くほどリアルな激痛がれいむとまりさを痛めつけていた。
既に、何回夢の中で死んだのだろうか。
「ゆっ…ゆぐっ……ひっく…れいむ、もうやだよぉ……ごんなの、だえられないよぉ………」
「まりざだぢが、おちびぢゃんをすてなければ…ごんなこどにならなかっだのに……」
「どうじでぇ……。れいむ、ちゃんとごめんなざいっであやまったよ?どうじておちびちゃんれいぶをゆるじでぐれないのぉ……?」
「ゆあぁ…ゆっぐりできないよぉ………まりさ、いっぱいゆっぐりじだいのにできないよぉ………おちびちゃんもうゆるしてよぉ……」
れいむとまりさはえぐえぐとみっともなく泣きながら、お互いの体をお下げともみあげで抱きしめる。
同じ恐怖と疲労が、二匹を結び付けていた。
二匹はまだ反省していない。
ごめんなさいと謝ってはいたが、単に恐かったからだ。
むしろ、もう自分たちは「ごめんなさい」と謝ったからおちびちゃんたちに許されるはずだと思っていた。
その予想に反して延々と苦しめられる毎日は、二匹にとって理不尽でしかなかった。
「ゆっくり、あさごはんにしようね……」
「そうだね……。あまあまたべて、ゆっくりしようね」
ふらふらと、おぼつかない足取りでれいむとまりさはお家から出た。
「ゆんやああああああああ!にゃにしちぇりゅのおおおおお!?」
「おねーしゃああああああん!やめるのじぇえええええ!!」
「うんうんしにゃいでええええええ!」
「ちーちーもしちゃだみぇにゃのじぇえええええええええ!」
いきなり、お兄さんの部屋の方から子どもたちの悲鳴が聞こえてきた。
二匹は顔を見合わせ、ガタガタ震えながら一散に突進する。
ふすまの隙間から体をくぐらせてれいむとまりさが見た光景は、想像を絶するものだった。
「ゆっ!ゆっ!かびんしゃん、ゆっくちたおれちぇにぇ。やっちゃー!たおれちゃよ!」
「ざぶとんしゃんにうんうんしゅるよ!ぷーりぷーりぷーりぷーり♪しゅっきりー!」
「おはなしゃんぜんぶたべりゅよ!もーぐもーぐ、めっちゃまじゅー!えろえろえろ……」
「こっちでちーちーしゅるのじぇ!ちーちーぴゅーぴゅー♪しゅっきりー♪」
一番上のれいむとまりさが、何を血迷ったのかお兄さんの部屋を荒らしている。
「おでぃびぢゃんなにじでるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「おにいざんのおべやよごじぢゃだべええええええええええええええええええ!!!」
れいむは花瓶を倒し、観葉植物を食べて辺りにゲロを吐き、本を引っ張り出してはページを破いている。
まりさは座布団の上に特大のうんうんをひり出し、障子や畳にしーしーを引っかけている。
野良ゆっくりが身の程知らずにもする、お家宣言の前の家を荒らす行為。
それが今まさに、しっかりと躾けたはずの子どもたちによって行われていたのだ。
姉の突然の暴走に、妹たちは部屋の隅で固まって震えていた。
これをお兄さんが見たらどうなるのかくらい、ゆっくりでも分かる。
「だめええええええ!!おちびぢゃんやめでえええええ!」
「ずぐにがだづげでよおおお!ぎれいにじないとおにいざんがおごるよおおお!」
れいむとまりさは、縦横無尽に暴れ回る子どもたちを止めようと突進した。
「おとーしゃんまりしゃとおいかけっこしちぇくれりゅのじぇ?ゆわーい!」
「れいみゅはここにいりゅよ!おかーしゃんちゅかまえてにぇ!」
それを遊んでくれると勘違いしたのか、子どもたちは笑いながら跳ね回る。
器用なことに、二匹とも跳ねながら放尿&脱糞というハイレベルなことまでしている。
二匹が跳ねた後には、しーしーのべったりした染みか、うんうんの塊がぽろぽろ落ちているという惨状が残る。
「とばっでええええええ!!おちびぢゃんもうどばっでよおおおお!」
「おいがげっごじゃないよおおおおお!やべでよおおおお!」
やがて、くたくたに疲れた両親がその場にへたり込んだところで、追いかけっこは終わった。
お兄さんの部屋は、二匹の撒き散らしたうんうんとしーしーでめちゃくちゃに汚れていた。
「ど……どう…じで……おちびぢゃん……ごんなごど……じだの……?」
「おべやをよごじだら………おにいざんおこるって…おがーざんおじえたよ……ね……?」
ぐったりとしているれいむとまりさの目の前で、子どもたちは寄り添ってにこにこしている。
親の気持ちも分からないで。どうやってお兄さんに説明しよう。
れいむとまりさは、これからどうしようかと心配で頭がオーバーヒートしかけていた。
「だからにゃんなの?おにいしゃんがおこりゅ?よかっちゃにぇ」
「まりしゃたち、にんげんしゃんにかわれたことにゃいからわからなかっちゃよ」
さっきまでの楽しそうな声とは180度違う、冷え切った殺意が叩き付けられた。
親の目の前で、子どもたちの愛らしい顔は怨霊の憎々しい顔に変わっていた。
「うばがああああああああ!!」
「でだあああああああああ!!」
くたくたに疲れ切っていたにもかかわらず、両親はその場で跳ね起きてひしと抱き合う。
死んだ子どもたちが、再び子どもの体を乗っ取って姿を現したのだ。
「どうじでえええ!?どうじでごんなごどずるのおおおおおお!?」
「ごんなごどじだらおどーざんとおがーざんゆっぐりできないよおおおお!!」
怨霊ゆっくりの目に、憎悪と同時に哀れみさえ浮かんだ。
「ばきゃなにょ?ゆっくちさしぇないためにやっちぇりゅんだよ?」
「おにーしゃんおへやがきたなくなっちぇしゅごくおこりゅとおもうよ?」
「どうすりゅの?」
「なんていうにょ?」
「れいみゅたちのことしょうじきにいうにょ?」
「こどもをようしにだしちゃのはうしょでしゅ。すてたんでしゅっていうにょ?」
「うしょちゅきありしゅがどうなっちゃか、れいみゅたちしっちぇりゅよ?」
「そんにゃことしにゃくても、おへやをよごちたのはこのまりしゃだよ」
「れいみゅだよ」
「おにーしゃんおしおきしゅりゅね」
「ころちちゃうだろうにぇ」
「かわいしょうなれいみゅ。くしゅくしゅくしゅ」
「かわいしょうなまりしゃ。くしゅくしゅくしゅ」
八方塞がりなのが、分かってしまった。
怨霊となった子どもたちが、子どもの体を乗っ取って悪さをしたと言って、お兄さんが信じるだろうか。
仮に信じても、そうしたら自分たちが嘘つきであることもばれてしまう。
かといって、だんまりを決め込んでも事態は好転しない。
部屋を汚した二匹の子どもたちは、お兄さんによって恐ろしい目に遭わされることだろう。
「どうずればいいのおおおおおおおお!!」
「まりざにいじわるじないでよおおおお!!」
れいむとまりさは、単純に考えることを放棄して叫ぶだけだった。
何をすればいいのか分からず、分かりたくもなくてただ絶叫するだけ。
二匹は軽蔑しきった顔で親を罵る。
「こにょくじゅ!よくもしょんなこといえるにぇ!」
「くしょおや!まりしゃをすてたくしぇになにいっちぇりゅの!」
「れいみゅたち、もっちょもっちょもっちょもーちょひどいめにあったんだからにぇ!」
「くるちい?こわい?かなちい?よかっちゃにぇ!もっちょくるちんでいいのじぇ!」
「ちね!こどもをすてたゆっくちしてないおやはちねえ!」
「おやのくせにこどもをころちたおやはじぶんもちね!ちね!ちね!」
「ちね!ちね!ちね!ちね!ちね!」
「ちねえ!ちねえ!ちねええええ!」
「やべでえええええ!れいぶにひどいごどいわないでよおおおおおおお!!」
「おちびぢゃんもうやべでええええ!まりざじんじゃうよおおおおおお!!」
まりさの言っていることは大げさではない。
怨霊のみが発せられる、ゆっくりオーラとは対極的などす黒いオーラ。
そして、一度死んだからこそ言える、負の思いに満ちた「ちね」と言う言葉。
それは毒となって二匹の餡子を抉り、苦しめる。
さしずめ、ピンセットで餡子を少しずつ引きちぎっていくようなものか。
「ちーね!ちーね!ちーね!ちーね!ちーね!ちーね!」
「ちねちねちね!ちねちねちね!ちねちねちねええ!」
「あがあああああ!ごべんなざいいいいいい!」
「ごべんねええええ!おぢびぢゃんごべんねえええ!」
そして再び始まるスタイリッシュ土下座。
れいむとまりさによる、怨霊の脅迫から逃れたい一心で行う謝罪が始まった。
「ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざいいいいいい!」
「ごべんなざい!ごべんなざいいい!ごべんなざい!ごべんなざあああい!」
「にゃにが「ごめんなしゃい」なのじぇ!しょれでしゅむとおもっちぇりゅの?」
「じぇんじぇんせいいのにゃいごめんなしゃいだにぇ!ゆるしゃないからにぇ!」
「ゆるじでえええ!もうゆるじでよおおおお!はんぜいじだよ!いっばいはんぜいじだがらあああ!」
「おぢびぢゃんをずででごべんなざいいい!ほんどに、ほんどにほんどにほんどにごべんなざいいいい!」
「ちね!ちね!ちね!」
「ちーね!ちーね!ちーね!」
「ごべっ!ごべんっ!ごべんねっ!ごべんねえええ!ごべんねえええ!れいぶがわるがっだよおおおお!」
「ごべんねえええ!まりざがわるいおどーざんだったよおおお!だがらもうじねっでいわないでええええええ!」
畳に頭をごしごし擦りつけて、二匹は土下座を繰り返す。
そうしなければ、到底許されないと分かっているからだ。
後ろのふすまが開いた。
「ゆっ!じじいがきたのじぇ!おいくしょじじい!まりしゃのゆっくちぷれいしゅからでていくのじぇ!」
「くしょどりぇい!しゃっしゃとあみゃあみゃもっちぇこい!なにぼーっとちゅったってりゅの?ばきゃなの?しにゅの?」
「……おいゆっくりども。これは、一体、どういう、ことなんだ?」
れいむとまりさは、土下座をやめて顔を上げた。
子どもたちは、二匹を見ないで後ろを見ている。
「……お………おにい……ざ……ん」
「あ……ゆあ……こ、これは…………」
この家の持ち主であり、一家の飼い主でもあるお兄さんが、額に青筋を立てた状態でこちらをにらんでいた。
そこから少し離れたお地蔵様の前で、二匹のゆっくりが死んでいた。
まだ赤ゆっくりのれいむとまりさだ。
まりさの方は、死んでから時間が経っている。
全身に空いた傷口は、蟻がせっせと餡子を運び出す入り口となっている。
だらしなく開いた口の中から、一匹の蠅が飛び立った。
ボロクズのような姿を見れば、ろくでもない死に方をしたのはすぐに分かる。
れいむの方は、今まさに死ぬところだった。
「おか…しゃん………おと…しゃ…ん…………」
最期に、父母を呼んだのだろうか。
れいむは、震えながら目を閉じ、ゆっくりであることをやめた。
饅頭となったゆっくりが、お地蔵様へのお供え物のように並んでいた。
二匹の魂がまだ肉体のそばにある間に、どこからともなくやってきたものがいる。
死神だ。三途の川の渡し守である、けしからん巨乳の持ち主のような肉感的な姿はしていない。
ぼろぼろの黒衣に骸骨、手には鎌という分かりやすい格好をしている。
「……残念!私の冒険はここで終わってしまった、とな」
死神は頭巾の下からのぞく髑髏を、肉体に重なっているまりさとれいむの魂に向けた。
「最近お前たちの魂ばかりで忙しくてかなわん。数だけ多く、価値はなく、平凡で希薄。羽虫の魂の方が余程よい。
まあいい。さっさと付いてこい。三途の川まで案内してやろう。閻魔の裁きがお前たちを待っているぞ」
死神の呼びかけに、二匹の魂は肉体から離れた。
どうやら、先に死んだまりさはそこに留まっていて、れいむが死ぬまで待っていたようだ。
二匹は恐ろしげな死神の姿を見ても、取り乱す様子はない。
それどころか、自分たちが死んだこともろくに嘆いていないようだ。
「くやちい…………」
「くやちいよぉ……」
まりさとれいむが、口を揃えてそう言った。
「ん?恨み言か」
「くやちい…くやちい……くやちいくやちいくやちいくやちいいいいい!!」
「よきゅも…よきゅも…よきゅもよきゅもよきゅもおおおおおおお!!」
二匹は、血走った目を死神に向けた。
赤ゆっくりののんびりした顔ではない。
それどころか、ゆっくりの「この世のすべてが自分を愛している」と疑わないとぼけた顔でもない。
それは、鬼の顔だった。
「おとおおおおしゃあああああんん!!よきゅもれいみゅをおおおおおおお!!!」
「おかあしゃんもおおおおおおおお!!まりしゃをよくもしゅてたなああああああ!!」
れいむは吠え、まりさは叫んだ。
それは、凄まじい恨みだった。
「よくもしゅてたな!よくもしゅてたな!れいみゅとまりしゃを、よくもおきざりにしてしゅてたな!!ゆるちゃない!!ゆるちゃないいいい!」
「くやちいいいいい!!まりしゃくるちかった!いちゃかった!しょれもぜんぶぜんぶ、おとーしゃんとおかーしゃんのせいなのじぇええええ!!」
その場で跳びはね、唾を吐きかけ、見るもの聞くものすべてに二匹は呪詛を吐く。
呪う。呪う。恨む。恨む。
赤ゆっくりが両親に抱く愛情など、そこにはない。
そこには、剥き出しの悪意と怨念しかなかった。
「のりょってやりゅ!のりょってやりゅ!のりょってのりょってのりょってのりょって、のりょいころしちぇやりゅうううう!!」
「くるちめ!くるちめ!くるちんでくるちんであやまりぇ!!まりしゃとれいみゅにあやまりぇ!!あやまりゅまでくるちめぇえええ!!」
尋常でない激怒に、死神は興味を覚えた。
「お前たち、親が憎いようだな。何があった?」
「……だりぇ?おとーしゃんとおかーしゃんのしりあいなにょ?」
「いいや、違う。お前たちは死んだ。わしはお前たちの魂を回収しに来た死神だ」
「しにがみしゃん?」
「そうだ。さあ、見せてみろ。お前たちの歩んできたゆん生を。場合によっては、お前たちの願いを叶えてやれるかもしれん」
死神はまりさとれいむの魂をじっと見る。
そうすることによって、二匹の死ぬまでのゆん生が見えてくるのだ。
これが、仕事一筋の死神の数少ない楽しみでもあった。
飢えることはあっても、仲のよい家族だった。
苦しいことはあっても、幸福な家族だった。
足りないものはあったけど、満ち足りた家族だった。
生まれて一番最初に見たのは、自分たちの誕生を心から祝福してくれるお父さんの顔。
生まれて一番最初に食べたのは、優しいお母さんが噛んでお粥のようにしてくれたおいしい蔦。
生まれて一番最初に言ったのは、「生んでくれてありがとう!」の気持ちを込めた「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」の言葉。
巣穴の中はあったかくて、心地よくて、すごくゆっくりできた。
お母さんのほっぺたにすーりすーりしていると、柔らかくて幸せな気持ちになれた。
葉っぱのお皿に盛られたご飯は、お母さんが柔らかくしたおかげでとてもおいしかった。
夢中になって食べて口の周りを汚しても、お父さんにぺろぺろなめてもらってくすぐったかった。
初めてお外に出た時、嬉しくてお日様にもお花さんにも虫さんにも「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ」と言って笑われた。
強くて立派なお父さんと、優しくて大きなお母さんに見守られて、お外で気の済むまで遊んだ。
時たま喧嘩をして叱られることもあったけど、ちゃんとごめんなさいと謝れば許してもらえた。
もみあげとお下げで抱きしめられ、いい匂いのするお父さんとお母さんにすりすりする時、世界で一番の幸せを感じていた。
愛されていた。
大事にされていた。
一緒にゆっくりできると思っていた。
一緒にゆっくりしたいと思っていた。
大好き。お父さん、お母さん。
世界で一番、大好きだよ。
ずっとずっと、ずーっとずーっと、一緒にゆっくりしようね。
そう、願っていたのに。
捨てられた。
見放された。
騙されて、置き去りにされた。
「ここでいいこにしてまっていてね。おとうさんとおかあさんはにんげんさんからあまあまをもらってくるからね」
「ゆっくちまっていりゅからにぇ!」
「はやくかえってきちぇにぇ!」
お父さんとお母さんは巣穴から出ていき、二度と戻ってこなかった。
孤独と空腹が、二匹を責め苛んだ。
どんなに二匹で励ましても、すりすりしても、満たされない。
恐い。寂しい。お父さんとお母さんに会いたい!
その一心で、人間さんがいると教えられた里に思い切って近づいた。
散々二匹で探し回り、両親の姿を見つけたのは偶然だった。
両親は、人間さんのお家のお庭にいた。
「おとーしゃーん!あいちゃかっちゃよ!まりしゃしゃびちかっちゃよおおおお!」
「おかーしゃん!れいみゅがきちゃよ!しゅーりしゅーりしちぇ!しゅーりしゅーり!」
垣根を懸命にくぐり抜けて、両親に飛びつこうとする二匹。
寂しかったよ、お父さん、お母さん。
待っててって言われたけど、我慢できないで来ちゃった。
だから、ごめんなさいって謝るよ。でも、今は一緒にすーりすーりしようね!
「なんなの!こんなゆっくり、れいむはしらないよ!ゆっくりでてってね!」
「まりさにおちびちゃんなんかいないよ!ゆっくりちがいだよ!」
二匹は、両親に体当たりされて地べたに叩き付けられた。
こちらを見る両親の目は、いつもの優しく愛情に満ちたものではない。
汚いうんうんを見る目、あるいは汚らわしいれいぱーを見る目だ。
……うそ。
……どうして?
「うしょ……だよにぇ……。おかーしゃん、れいみゅだよ……。おかーしゃんのだいしゅきなれいみゅだよ?」
「おとーしゃん……まりしゃ…わるいこなのじぇ?ごめんなしゃい……。あやまりゅから、しょんなこといわにゃいで……」
突然否定されたことに、二匹の頭は完全に混乱していた。
あり得ない。
こんなこと、あり得るはずがない。
地面にぶつかったほっぺたの痛みと、心の痛みを懸命にこらえて、二匹は涙をこらえて笑いかける。
(*1)
「しらないよ!れいむのおちびちゃんは「ようし」にだしてもういないんだよ。おまえたちはただののらだよ!いなくなってね!」
「のらゆっくりはゆっくりできないよ!はやくおにいさんのおうちからでてってね!ぷくーするよ!ぷくーっっっっ!!」
「れいむもするよ!いっしょにゆっくりできないのらをおにいさんのおうちからおいだそうね。ぷくーっっっっ!!」
「ぴぃぃぃ!ぷくーきょわいいいいいいい!!」
「ぷくーしにゃいでええええ!ぷくーはきょわいよおおおおおお!!」
なけなしの勇気を振り絞った結果は、あまりにも残忍なものだった。
初めて見る両親の本気のぷくーに、れいむとまりさは恐ろしーしーを漏らして逃げ出した。
人間からすれば何が恐いのかまったく分からないぷくーだが、臆病なゆっくりに対しては効果は抜群である。
見ての通り、親しかすがる相手のいない子どもでさえも、ぷくーされれば恐ろしさに逃げ出したくらいだ。
膨れ上がったれいむとまりさに恐れをなした二匹は、大あわてで垣根をすり抜けて外に飛び出す。
後ろでこんなやり取りがされているのを、二匹はかすかに聞いていた。
「おい、れいむにまりさ。どうしたんだよそんなに膨れて。ゴキブリでもいたか?」
「ゆ?ゆゆ?な、なんでもないよおにいさん。しらないのらのゆっくりがいただけだよ!」
「そうだよ!おうちせんげんしようとしたから、まりさたちがおいだしたんだよ!すごいでしょ!」
「あーすごいなー。ほら、さっさと中に入れ。餌の時間だぞ」
「ゆわーい!あまあまだよ!いっぱいたべるよ!ぜんぶれいむとまりさのだよ!」
「おにいさん、まりさをかってくれてありがとうね!いっぱいゆっくりしてあげるよ!」
「おちびちゃんをすぐつくってあげるから、いっぱいかんしゃしてね!」
二匹の頬を、知らないうちに涙が伝っていた。
分かったのだ。
両親が、もう二度と自分たちをゆっくりさせてくれないことが。
自分たちをのけ者にして、両親が人間さんに飼われたことが。
幼い体で跳ねて、跳ねて、跳ねた。
ぷくーと膨れた両親の顔が恐くて、振り返らないで逃げた。
あんよが疲れて動けなくなった場所が、二匹の逃亡のゴール地点だった。
そこは、知らない空き地。
お父さんとお母さんのいた家に、どう行けばいいのか分からない。
今まで住んでいたお家に、どうやって帰ればいいのか分からない。
そこは、同時に二匹のゆん生のゴール地点でもあった。
「ゆっぐち……ゆっぐぢぃぃ………ゆっぐぢいいいいい!!」
「ゆっぐぢぢだいよぉぉ…………ぢだいよぉぉぉぉぉ!!」
二匹は顔を擦り合わせて、わんわん泣いた。
今まで信じていたものすべてが、音を立てて崩れていった。
お父さんとお母さんは、れいむとまりさを捨てて人間さんと一緒に暮らすことを選んだんだ。
れいむとまりさは、いらない子どもになったんだ。
だから、捨てられたんだ。
騙されて、放り出されたんだ。
それから先は苦痛と絶望と怨恨しかなかった。
生きる気力とゆっくりを失った二匹は、死んだ目で里を放浪した。
本来は巣の中でぬくぬくとゆっくりすごし、親の世話によって育つ年齢の二匹だ。
危険がいっぱいの外で、ゆっくりらしくゆっくりと生きることなどできなくて当たり前だ。
それ以前に、れいむとまりさの姉妹はゆっくりする理由がなかった。
汚い路地裏にいると、鼠が出てきて二匹に襲いかかった。
往来に出ると、人間に蹴飛ばされて餡子を吐いた。
食べるものがなくて、道ばたに落ちている野菜クズを舌で舐め取って食べた。
寺子屋帰りの子どもたちに出くわしたのが、二匹の運の尽きだった。
子どもたちは二匹を木の棒で追い立て、鉛筆や竹串を突き刺した。
饅頭を針の山に変える拷問に、二匹は叫び声さえ上げずされるがままだった。
激痛を感じていても、誰に助けを求めていいのか分からなかった。
普通の赤ゆっくりなら、泣き叫んで親を呼んだことだろう。
その両親は、二匹の目の前で二匹を捨てたのだ。
帰る家のないまりさとれいむは、生きる希望さえない。
餡子の中ではただひたすら、両親への呪詛が育まれていた。
子どもたちは悲鳴を上げないゆっくりにすぐに飽き、お地蔵様の所に放置した。
放置された時点で、まりさは永遠にゆっくりしていた。
れいむは、まりさの死骸に蟻がたかり、蠅が卵を産み付けるのを見ながら、まりさの後を追って永遠にゆっくりした。
そして、二匹の魂は死神と出会った。
死神は笑った。
髑髏の顔で、「滑稽な出し物だ」と笑った。
実に滑稽。ゆっくりの悲劇など滑稽でしかない。
「子を愛しながら子を捨てる親も滑稽ならば、親から生まれながら親を恨む子もまた滑稽なり」
だが、それがいい。死神は二匹を招く。
「お前たちは怨霊になって、自分を捨てた両親に復讐したいか」
「しちゃい!しちゃいよ!れいみゅはおんりょうしゃんになって、おかーしゃんをこりょしてやりゅ!」
「まりしゃもおんりょうしゃんになりちゃい!なって、おとーしゃんをおもいっきりくりゅしめちぇやりちゃいのじぇ!!」
「されど、一度怨霊になれば後戻りはきかぬぞ。親を殺す大罪を犯せば、お前たちは地獄に落ちることになるのだが?」
「きゃまうもにょか!!にゃんでもしゅるよ。にゃんでもしゅりゅから、おかーしゃんをゆっくちしゃしぇにゃい!」
「じごくがにゃんだじぇ!まりしゃはおとーしゃんをこりょすためにゃらなんでもしゅりゅよ!!」
「カハハハハ。ならば、わしがお前の願いを叶えてやろう。喜ぶががいい」
かくして、二匹の魂は閻魔の裁判所に出頭することを拒否し、人間界をさ迷う怨霊と化した。
自分たちを捨てた憎き両親を、恐怖と絶望のどん底に叩き落とすために。
人間に飼われるという体験は、ゆっくりにとって最高に依存性の高い麻薬だ。
か弱く、甘党で、ゆっくりすることを好むゆっくりは、一度人間に飼われるとうま味に病みつきになる。
その人間に、ゆっくりをミンチにするまでいたぶることが三度の飯より好きな連中がいることも知らずに。
赤れいむと赤まりさの両親はかつて飼いゆっくりだったが、言いつけを破ってすっきりしたのが理由で捨てられている。
捨てられた雑木林で、二匹は力を合わせて巣を作り、赤ゆっくりを胎生にんっしんで産んだ。
両親は、産まれてきた赤ゆっくりを心から愛していた。
赤まりさと赤れいむが感じていた親からの愛情は、本物だった。
もしこのまま人間に出会わなかったら、きっと波乱があっても幸せな家庭のままだっただろう。
だが、親のれいむとまりさは再び人間に会ってしまった。
見知らぬ人間は怯える二匹に、夢にまで見たあまあまをくれたのだ。
一度は味わい、捨てられたことによって二度と食べられないと思っていたあまあま。
「うめっ!めっちゃうめっ!おいちぃっ!ごれずごくおいぢい!おいぢいい!うめぇ!おいぢいよお!」
二匹は涙を流して感謝し、先を争ってあまあまを貪った。
子どもたちのために取っておこうなどとは、考えの隅にさえなかった。
何度か同様の出会いを繰り返し、やがてお兄さんは言った。
「お前たちに子どもはいるか?」
「いるよ!とってもかわいいおちびちゃんがいるよ!」
「れいむとまりさがいるんだよ。ゆっくりしててすごくかわいいよおおお!」
「ああ、じゃあお前たちは駄目だな」
「ゆゆ?」
「どういうことなの?」
あまあまの入っていた袋をしまいながら、お兄さんはにやりと笑った。
「俺さあ、ゆっくりの番を飼おうと思っているんだよ。純真で、ゲス要素が全然なくて、とってもゆっくりしている奴をな」
「まりさたちゆっくりしてるよ!げすなんかじゃないよ!だからまりさをかってね!」
「れいむたちをかうとすごくゆっくりできるよ!おにいさん、れいむたちできまりだね!」
「だから、お前たちじゃ駄目なんだよ。お前たち、子どもがいるだろ。だから駄目」
「どうじでええ!?おぢびぢゃんはずごぐゆっぐりできるよおお!」
「おちびちゃんをみればきっとおにいさんもきにいるよ!おとくだよ!」
「お得でもゆっくりしてても駄目なものは駄目。俺は、子連れの野良は飼わないの。代わりに、家で飼ってからいっぱい産ませるんだよ」
「いっぱい……おちびちゃんがいっぱい…………」
「いっぱいおちびちゃんがいれば………まりさもいっぱいゆっくりできるよぉ…………」
その言葉に、れいむとまりさは目をとろんとさせてだらしない顔をしている。
おおかた、たくさんの子どもたちに囲まれて幸せな自分を想像しているんだろう。
「じゃあな。また来るからさ。お前たちの知り合いに、子どものいない家族がいたら連れてきてくれよ」
お兄さんが雑木林から里に帰っていっても、二匹はしばらくその場から動かなかった。
「れいむ……。おにいさんにかわれて、いっぱいいっぱいゆっくりしたいよね…………」
「まりさもそうおもうよね。まいにちあまあまがたべられるし、いっぱいおちびちゃんがつくれるよ………」
二匹の頭は、飼いゆっくりという麻薬の禁断症状にあっさりと支配されていた。
あれだけ愛し、大事にしていた子どもなど、飼いゆっくりになる夢に比べれば路傍のうんうんでしかない。
れいむとまりさにとって、二匹のおちびちゃんは不要な邪魔者にまで下落していた。
数日後、再び姿を現したお兄さんに、二匹は胸を張って言った。
「おにいさん!まりさたちのおちびちゃんはようしにだすことになったよ!」
「こどもがしんじゃってさびしがってるありすとぱちゅりーが、おちびちゃんをひきとりたいっていってきたんだよ!」
「きまりだね!まりさをかってね!」
「おちびちゃんいないからだいじょうぶだよね!れいむをかってゆっくりしようね!」
巣の中に両親を信じて待つ我が子を残し、二匹は意気揚々とお兄さんの家に向かった。
れいむとまりさは、飼いゆっくりになることを撰んだのだ。
厳しく辛い野生の生活よりも、安楽に飼育される生活に帰りたかったのだ。
お兄さんにゲスに思われたくなくて、まりさとれいむは捨てるのではなく養子に出したと嘘をついた。
二匹は野生のゆっくりたちの新参者であり、子どもたちを養子に出せる付き合いもない。
愛する子どもたちを、れいむとまりさはあまあまとゆっくりほしさに捨てたのだ。
それほどまでに、飼いゆっくりという麻薬を求める思いは強かった。
そして現在。
あまあまをくれるだけで後はほぼほったらかしの人間の元で、二匹はゆっくりできる幸せを満喫していた。
すっきり制限もなく、二匹の側には赤れいむと赤まりさが三匹ずついる。
何不自由ない生活に、目に入れても痛くないおちびちゃんたちに囲まれた幸福な毎日。
一度捨てられた恐怖を知るため、二匹は増長することなく六匹の赤ゆっくりたちをちゃんと躾けている。
それでも時たま、自分たちの幸せのために見捨てた最初の子どもたちのことを思い出す。
さすがに、もう生きてはいないだろうということくらいは見当が付く。
(れいむのさいしょのおちびちゃん。てんごくでゆっくりしていってね。きっとそこでしあわせにしてるよね。よかったね)
(おそらでまりさたちをみまもっててね。おちびちゃんたちのぶんまで、このこたちはしあわせにするからね。まりさがんばるよ)
きっと、おちびちゃんたちは自分のことを許してくれるだろう。今頃天国で幸せになっているだろう。
まりさとれいむは、実に身勝手かつ偽善的な空想をして、沸き上がる罪悪感を追い払っていた。
自分たちで捨てておいて、幸せになってねとはよく言えたものである。
だが、二匹はそんなあまりにも愚かで下らない妄想を、半ば本気で信じていたのだ。
あの日まで。
れいむとまりさの家族は、お兄さんと雑木林まで散歩に出かけていた。
両親にとっては懐かしい場所でも、赤ゆっくりたちにとっては始めて来る場所である。
「ゆわーい!まりしゃはたんけんしゅるのじぇ!」
「れいみゅはたからもにょをしゃがしゅよ!」
「ちょうしょしゃん!ゆっくちまりしゃにちゅかまっちぇにぇ!」
「はなしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!ありしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」
あちこちに散らばって仲良く遊ぶ様子を見て、れいむとまりさはとてもゆっくりしていた。
「おちびちゃんたちみんなゆっくりしているね。しあわせーだね、まりさ」
「まりさもしあわせだよ。おちびちゃんたち、こんなにゆっくりしているんだもん」
捨てた二匹の子どものことなど、とっくの昔に記憶から消えている。
あの子たちは天国で幸せにゆっくりしている。勝手にそう思い込み、記憶から消去したのだ。
「おとーしゃん、おかーしゃん、ゆっくちぷれいしゅをみちゅけたよ」
「いっしょにきてにぇ。みんにゃにはひみちゅだよ」
赤まりさと赤れいむがやって来て両親に教えた。
「ゆっくりプレイスをみつけたの?すごいねおちびちゃん」
「ゆっへん。しょうだよ。いちばんさいしょにおかーしゃんとおとーしゃんをしょうたいしてあげりゅよ」
「はやくきちぇ。いもうちょたちはおにーしゃんがいりゅからあんしんなのじぇ」
「わかったよ。あんないしてね、おちびちゃん」
ゆっくりプレイスを見せてくれると言う赤ゆっくりが愛おしく、親のれいむとまりさは二匹に付いていった。
お兄さんと遊んでいる赤ゆっくりたちに見つからないように、こっそりと。
「ここなのじぇ。しゅごいでしょ」
「れいみゅ、とってもここがきにいっちゃよ。ここをれいみゅのゆっくちぷれいしゅにしゅりゅよ!」
「まりしゃもしょうだよ。まりしゃもここをゆっくちぷれいしゅにしゅりゅのじぇ!」
「お……おちびちゃん…………」
「ここは…………」
子どもたちに案内されて、両親がたどり着いた場所。
そこは、よりによってかつてれいむとまりさが住んでいた巣穴だった。
そして同時に、そこは二匹が最初に産んだ子どもたちを捨てた場所でもあった。
「ゆっくち!ゆっくち!」
「ゆっくち~♪ゆっゆ~♪」
巣穴の中で跳んだり歌ったりしている赤ゆっくりをよそに、二匹は顔を見合わせ震える。
忌まわしい記憶が、蘇ってきた。
ここに、二匹は大事な子どもたちを置き去りにした。
今の幸福と引き替えに、おちびちゃんを捨てたのだ。
殺したのだ。見殺しにしたのだ。
れいむとまりさは、親のくせに子どもを殺したのだ。
否応なしに、暗い罪悪感が餡子の奥底から這い上がってくる。
「どうしちゃの?おとーしゃんとおかーしゃん、じぇんじぇんゆっくちしちぇにゃいよ」
「まりしゃのゆっくちぷれいしゅ、いやだったにょ?」
「そ…そんなことないよ。とってもいいおうち…じゃなくてゆっくりプレイスだね」
「おうち?しょうだね、ここはきっとだれかがしゅんでたおうちだったんだにぇ」
「だったら、しゅごーくゆっくちしたちあわしぇーなゆっくちがしゅんでいたんだにぇ」
思わず「おうち」と言ってしまったのがいけなかった。
赤ゆっくりの言葉が、二匹の過去の記憶を抉り出す。
「ゆ、ゆゆゆ……と、ところでおちびちゃん。ここ、だれかいなかった?」
「だれか?だれもいなかっちゃよ」
「そ、そうなんだ。ならよかったよ………。なにも、なかったよね。おりぼんとか、おぼうしとか」
「なんにもにゃいよ。おりぼんもおぼうちも、にゃーんにもなくてだーれもいなかっちゃよ」
「そ、そそそそうなんだ……そ、そうだよね……そうにきまってるよね……」
それでも安心できず、二匹はあからさまに不振な態度で周囲を見回す。
誰か隠れていないか。何か落ちていないか。
もしかして、捨てた子どもたちがどこかから自分の姿を伺っていないだろうか。
もしかして、捨てた子どもたちの死体が残っていないだろうか。
不安で二匹は甘い冷や汗をかき始める。
「さ、さあ、おちびちゃん。もうもどろうね。ここはいやなところだからはやくでようね」
「いやじゃよ。しぇっかくれいみゅのみちゅけたゆっくちぷれいしゅだよ。もっちょいちゃい」
「だめだよ。もうかえらないといもうともおにいさんもしんぱいするからね。ね?かえろう?」
「やじゃ。こんにゃいいとこりょだもん。れいみゅここにいちゃい」
「わがままいわないの!でるったらでるんだよ!さっさとかえるよ!かえるよおおお!」
ついに、れいむは我慢の限界に達し、大声で赤ゆっくりを怒鳴りつけた。
「ゆわああああん!おかーしゃんがおこっちゃよおおお!おとーしゃああん!」
「れいむのいうとおりだよ!ここはいやなところだよ。ゆっくりプレイスなんかじゃないよ!かえるよ!」
まりさもれいむと同様、こんな過去のトラウマを引きずり上げる場所から早く帰りたかった。
ここにいると、嫌なことがどんどん思い出されてきて、耐えられない。
「にゃんでええ?にゃんでなのじぇえええ?」
「なんでもだよ。とにかくここからでるよ!はやく!はやく!はやくはやくはやくうううう!!」
待ちきれなくなってぴょんぴょん跳ね出すれいむとまりさを、二匹はじっと見た。
「………しょうだよね。ここで、おとーしゃんとおかーしゃんはれいみゅとまりしゃをしゅてんだもんにぇ」
空気が、凍り付いた。
れいむとまりさの動きが、止まった。
「………ゆ???」
「………ゆ???」
何を言っているのか、分からなかった。
なぜ?なぜそんなことを言うの?
どうして?どうしてそれをおちびちゃんたちが知ってるの?
「な…なにをいってるの?おちびちゃん?」
「ま、まままりさはなにをいってるのかわからないよ?」
「へ、へへへへんなじょうだんはやめてよね。おかーさん、お、お、お、おこるよ?」
「さ、さあ、は、は、はやく、おにいさんのところにかえろうね?」
寒気が、餡子の芯から這い上がってくる。
二匹は目の前で起こっていることを理解しつつあった。
だが、そんなことはあってはならなかった。
ここで、死んだ子どもたちと再会するなんてことは。
赤まりさと赤れいむは、狼狽する両親を前にして、二匹で不気味に「ゆふふ」と笑った。
「おとーしゃんはまりしゃをしゅてたよ」
「おかーしゃんはれいみゅをしゅてたよ」
「あんなにかわいがっちぇたこどもを、おとーしゃんはみしゅてたんだよ」
「あんなにしゅーりしゅーりしたこどもを、おかーしゃんはみしゅてたんだよ」
「にんげんしゃんにかってもりゃいたくて、しゅてたんだよ」
「あみゃあみゃたべちゃくて、しゅてたんだよ」
「ここに、まりしゃとれいみゅをおきざりにしちゃんだよ」
「おもいだしちゃでしょ?じぶんでしちゃことでしょ?」
「ねえ、おもいだしちゃ?」
「ねえ、おもいだしちゃ?」
口元は笑っている。
しかし赤まりさと赤れいむの目は、底知れぬ憎しみと恨みをたたえて両親をにらんでいた。
断じて、今まで無邪気に遊んでいた子どもの目ではない。
あれは……鬼の目だ。
無惨にのたれ死んだ恨みから、怨霊になって子どもに取り憑いた鬼の目だ。
「ゆ゙、あ゙、あ゙あ゙あ゙…………」
「あ゙あ゙、ゆ゙あ゙あ゙………」
でも、そんなはずはない。
今ここにいるのは、お兄さんに飼われてから産んだおちびちゃんたちだ。
絶対に、あの時捨てた子どもたちであるはずがない。
「そ、そんなことあるはずないよ。おちびちゃんたちはあのときのおちびちゃんじゃないよ」
「そうだよ。あのときのおちびちゃんはてんごくでゆっくりしているんだよ。おちびちゃんはそんなこといわないよ」
「おちびちゃんたちはおとーさんとおかーさんがしあわせになれたから、ひどいことをしたのをゆるしてくれたはずだよ」
れいむとまりさは、勝手に自分たちで作り上げた都合のいい空想にすがる。
おちびちゃんたちは、天国で幸せにゆっくりしている。自分たちのことはとっくに許している。
お父さんとお母さんが幸せになれるなら、自分たちは犠牲になることを納得した。
そう信じて、疑わなかった。
「よくいえりゅね。まりしゃたちがしゅてられてからどうなっちゃか、しってりゅの?」
「おしえてあげりゅよ。れいみゅたち、じゅっとおとーしゃんとおかーしゃんがかえっちぇくるのをまっちぇたよ」
「おなかがしゅいて、くるちくてたまりゃなかっちゃよ。れいみゅとしゅーりしゅーりして、がんばっちぇがんばっちぇがんばっちゃよ」
「しゅごくこわかったけど、おとーしゃんたちにあいちゃくておしょとにでちゃよ」
「にんげんしゃんのしゅむところまででちゃよ。そしちぇ、おかーしゃんたちをにあっちゃよ」
「しょしたら、いったよにぇ?」
「れいみゅとまりしゃを、『ようし』にだしたって、うしょついたよにぇ?」
「こわいこわいぷくーしちぇ、れいみゅとまりしゃをおいはらっちゃよにぇ?」
「「どぼじでえええ!?どぼじでぞんなごどじっでるのおおおおおおおおおおおお??」」
誰にも知られてはいけない、二匹のついた嘘。
お兄さんに飼われたい一心で、捨てた子どもたちを「養子に出した」と偽った過去が。
最愛のおちびちゃんたちの口から、聞かされた。
最悪の嘘がばれてしまったのだ。
「くしゅくしゅ。うしょちゅき。れいみゅがうしょついたとき、おかーしゃんおこっちゃよね」
「くしゅくしゅ。にゃのに、にゃんでおとーしゃんがうしょつくの?」
「かなしかったよ、れいみゅは」
「くやちかったよ、まりしゃは」
「おうちもおやもないれいみゅとまりしゃは、おそとでねずみしゃんにかじられちゃよ」
「にんげんしゃんにけとばしゃれて、おくちからあんこしゃんはいちゃったよ」
「ごはんしゃんなんかどこにもにゃくて、おちてるごみしゃんをたべちゃよ」
「にんげんしゃんにちゅかまって、いっぱいいたいいたいこちょしゃれたよ」
「くるちかったよ。おかおもおめめもおくちもぷすぷすさされちぇ、ものしゅごくいちゃかったよ」
「しょして、しょのまままりしゃとれいみゅはえいえんにゆっくちしちゃったよ」
「おかーしゃんのせいで」
「おとーしゃんのせいで」
「れいみゅとまりしゃは、しんじゃったんだよ」
「だかりゃ、まりしゃとれいみゅはしんでかりゃおんりょうしゃんになったんだよ」
「おかーしゃんとおとーしゃんに、ふくしゅうしゅるためににぇ」
親れいむと親まりさは、認めてしまった。
天国でゆっくりし、自分たちのしたことを許してくれていると思っていた子どもが、今ここにいるということを。
捨てられた後味わった地獄によって、両親を許すどころか殺したいほど憎み、恨んでいるということを。
自分たちは、もう言い逃れが絶対にできないということを。
「こどもをしゅてたおとーしゃん、じぶんのせいでしんじゃったこどもにいうことありゅ?」
「こどもをしゅてたおかーしゃん、じぶんのせいでしんじゃったこどもにいうことありゅ?」
赤ゆっくりの声は穏やかだが、殺意と悪意しか込められていない。
二匹に過去の罪が襲いかかり、押し潰し、蹂躙する。
逃れる方法は、一つしかなかった。
「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
「い゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
揃って二匹は絶叫した。
恐ろしかった。恐かった。
このまま餡子が凍り付き、二度とゆっくりできないかとさえ思った。
「ごべんなざああああいい!!ごべんねえええ!ごべんねおぢびじゃあああああんん!!!」
「ごべっ!ごべんなざい!ごべんなざいいいいいいいい!!おぢびじゃんごべんなざいいいいい!!」
れいむとまりさは、子どもたちの前で猛烈な勢いで土下座を始めた。
ばんばんと地面に額を叩き付け、涎をスプリンクラーのように撒き散らして叫ぶ。
そうしなければ、到底耐えられなかった。
死んだ子どもたちから吹き付ける怨念は、二匹に発狂するほどの恐怖を与えていた。
「ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざいっ!ごべんなざいっ!」
「ごべんね!ごべんねええ!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんね!ごべんねええ!ごべんねえええ!!」
額が割れ、餡子がにじみ出しても二匹はアグレッシブ土下座をやめない。
舌を噛み、傷口からとろけるように甘い餡子が流れ出しても二匹は謝るのをやめない。
謝るのが終わった時か、土下座が止まった時。
二匹は、怨霊となった子どもたちの声を聞かなくてはならない。
子どもたちの恐ろしい顔を見なくてはならない。
それが何よりも恐ろしく、二匹は逃避のための謝罪を繰り返す。
「ばりざがわるがっだでず!わるがっだでず!あやばりまず!ごべんなざい!ゆるじでぐだざい!ゆるじでぐだざああああい!!」
「でいぶもわるがっだでず!おぢびじゃんをずでだわるいゆっぐりでず!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざいおぢびぢゃあああん!!」
そんな全力疾走が、非力なゆっくりの体で続くはずがない。
数分後、二匹はぜいぜいと息を切らして地べたに横倒しになっていた。
寿命さえ削る土下座と謝罪は、二匹の体を限界まで痛めつけていた。
髪の毛は砂糖水の汗でびっしょり濡れ、もちもちの肌はすっきりを終えたかのようにべとべとだ。
「ひっ……びっ…………ご…ごべ……な……ざい……」
「で……でい……ぶを……ゆる……じで…ぐ…ざ……い……」
なおも、怨霊の声を聞きたくない一心で謝ろうとするれいむとまりさの声が遮られた。
「おとーしゃん」
「おかーしゃん」
二匹の顔がゆっくりと上げられた。
「ここ……どきょ?」
「まりしゃたち、なんでここにいるのじぇ?」
「お…おち……び……ちゃん……」
「おとーしゃん、どうしちゃの?にゃんで、しょんなにちゅかれてりゅの?」
「も…もとに……もどった……んだね…………」
怨霊たちは去ったようだ。
今の子どもたちの顔は、見知ったおちびちゃんのそれに戻っている。
ほっとしてれいむとまりさは、顔を見合わせほほ笑む。
(よかったね、おちびちゃんたち、れいむたちをゆるしてくれたよ)
(まりさたちがきちんとあやまったからだね。よかったね、れいむ)
「……にゃんていうとおもっちゃの?」
「ばきゃなおとーしゃんとおかーしゃん」
「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
ほっとしたのもつかの間、たちまち子どもたちの顔は、狂った怨念と憤怒で歪んだゆっくりの顔に変わる。
「どうじでええええええ!?まりざちゃんどあやまっだよおおおおおお!!」
「もうゆるじでよおおお!!おぢびぢゃんれいぶをゆるじでよおおおお!!」
恐怖から顔をぐちゃぐちゃにした両親に、死んだ子どもは告げた。
「おとーしゃんとおかーしゃん、よーくきいちぇね」
「まりしゃとれいみゅは、これからじゅっとおとーしゃんとおかーしゃんのそばにいりゅからにぇ」
「おとーしゃんとおかーしゃんを、いっぱいいっぱいのりょってやるからにぇ」
「いっぱいくるちんでにぇ」
「いっぱいこわがっちぇね」
「くるみちぬいてしにゅまでゆるしゃないよ」
「じごくにおちりゅまでやめにゃいのじぇ」
「だかりゃ、もうおとーしゃんとおかーしゃんはにどとゆっくちできにゃいよ」
「りかいできりゅ?しょれが、すてられたまりしゃとれいみゅのふくしゅうなんだからにぇ」
「ゆふふふふ…………」
「ゆふふふふ…………」
かつて家族揃って楽しく過ごした巣穴に、復讐の喜びに浮かれる怨霊の恐ろしい笑い声が響く。
「ゆっぐりできないいいいいいいい!!」
「ごわいよおおおおおおおおおおお!!」
れいむとまりさはもみあげとお下げでお互いに抱きつきながら、子どもたちが元に戻るまで泣きながら震えていた。
これから始まる、ゆっくりできないゆん生を予感したからだ。
それから、怨霊たちの言った通り、れいむとまりさは二度とゆっくりできなかった。
表面上、二匹は普段と変わらない生活を送っている。
しかし、内心ではいつ怨霊となった子どもたちが現れるか、いつお兄さんについた嘘がばれるか心配で一度もゆっくりしていない。
毎日もらえるあまあまを、舌は甘いものと判断していない。
一緒にいて慕ってくれるおちびちゃんを、頭は子どもだと理解していない。
食事は皿に盛られたものをなるべく早くかき込み、食べ終わればゆっくり専用のお家の奥に二匹で逃げ込む。
子どもたちがすーりすーりしたりぺーろぺーろしても、ちょっとした動きにびくびくしっぱなしだ。
毎日が恐くて恐くてたまらず、それを誰にも打ち明けられず、二匹は恐怖に震えながら日々を過ごした。
「おかーしゃん、どうしちゃの?ぐあいがわりゅいの?ぽんぽんいちゃいの?」
「おとーしゃんにゃんでれいみゅたちをみにゃいの?れいみゅ、わるいことしちゃ?れいみゅのこときりゃい?」
両親の身を案じてくれる子どもたちも、れいむとまりさにとっては悪夢からの使者だった。
かわいい顔でこちらをじっと見つめるその顔が、いつがらりと変わって怨霊の顔になるか。
想像しただけで、二匹はしーしー穴から失禁するほどだ。
かといって、邪険にすることもできない。
もし子どもたちを排除して引きこもるような所をお兄さんに見られたら、絶対に疑われる。
怨霊となった子どもたちが、自分たちは養子に出されたのではなく捨てられたことをお兄さんにばらしでもしたら。
れいむとまりさは飼い主を騙したドゲス饅頭として、拷問の末に処分されるに違いない。
お兄さんは、ゆっくりが嘘をつくことを異常なまでに嫌っている。
先客として飼われていたありすは、それが元で死んでいた。
こっそり野良ゆっくりとすっきりしていたのを、赤ゆっくりを産むまで嘘をついて隠していたのだ。
しかもその後、お兄さんに隠れて自分だけで育てていたのがいけなかった。
お兄さんは、ありすと赤ゆっくりたちを小さな島しかない水槽に閉じ込め、上から水を注ぐという公開処刑をした。
「どげえ!ぞごどげえ!あでぃずはゆっぐりずるんだ!おばえはじゃまだああああ!!じねええ!ありずのだめにじねええ!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!どげる!どげるうううう!だずげでおにいざああん!ありずがじにぞうなのになぜだずげないのおおお!!」
「ゆぎゃっぎゃぎゃっ!じぬう!ありずもおぢびじゃんもみんなゆっぐりじぬんだあ!ゆぎゃぎゅぎゃぎゅぎぇ!」
ありすは自分の産んだ赤ゆっくりを島から蹴落としてまでして生き延びようとしたが、最終的に発狂しながらふやけて死んだ。
あんな最期は、絶対に迎えたくない。
何度も二匹はお兄さんに殺される夢を見て、その度に絶叫と共に跳ね起きた。
次第にれいむとまりさの精神は、磨り減っていった。
その日の朝も、悪夢でれいむとまりさは飛び起きた。
「この嘘つきゆっくりども!俺を騙したんだな。ヒャッハッハー!嘘をつくゆっくりは虐待だあ!」
お兄さんは夢の中で、二匹に恐ろしい虐待をしていた。
「ぶぎゃあああ!やべでえ!ぎらないで!ぎらないでえ!あんごがでぢゃう!でぢゃううううう!」
れいむの見た夢では、お兄さんはれいむを柱に縛り付け、ノコギリで全身をめった切りにしていた。
「あづいいいいいいい!!あづい!あづいよおお!おにいざんもうおろじでええええええええ!!」
まりさの見た夢では、お兄さんはまりさをフライパンの上に載せ、死ぬまで火であぶり続けた。
「まりざあああああ!れいぶごわいゆめをみだよおおおおおお!」
「まりざもだよおおおおお!まりざごわがっだよおおおおおお!」
あの日以来、二匹は内容こそ違えど悪夢ばかり見ている。
夢の中なのに、驚くほどリアルな激痛がれいむとまりさを痛めつけていた。
既に、何回夢の中で死んだのだろうか。
「ゆっ…ゆぐっ……ひっく…れいむ、もうやだよぉ……ごんなの、だえられないよぉ………」
「まりざだぢが、おちびぢゃんをすてなければ…ごんなこどにならなかっだのに……」
「どうじでぇ……。れいむ、ちゃんとごめんなざいっであやまったよ?どうじておちびちゃんれいぶをゆるじでぐれないのぉ……?」
「ゆあぁ…ゆっぐりできないよぉ………まりさ、いっぱいゆっぐりじだいのにできないよぉ………おちびちゃんもうゆるしてよぉ……」
れいむとまりさはえぐえぐとみっともなく泣きながら、お互いの体をお下げともみあげで抱きしめる。
同じ恐怖と疲労が、二匹を結び付けていた。
二匹はまだ反省していない。
ごめんなさいと謝ってはいたが、単に恐かったからだ。
むしろ、もう自分たちは「ごめんなさい」と謝ったからおちびちゃんたちに許されるはずだと思っていた。
その予想に反して延々と苦しめられる毎日は、二匹にとって理不尽でしかなかった。
「ゆっくり、あさごはんにしようね……」
「そうだね……。あまあまたべて、ゆっくりしようね」
ふらふらと、おぼつかない足取りでれいむとまりさはお家から出た。
「ゆんやああああああああ!にゃにしちぇりゅのおおおおお!?」
「おねーしゃああああああん!やめるのじぇえええええ!!」
「うんうんしにゃいでええええええ!」
「ちーちーもしちゃだみぇにゃのじぇえええええええええ!」
いきなり、お兄さんの部屋の方から子どもたちの悲鳴が聞こえてきた。
二匹は顔を見合わせ、ガタガタ震えながら一散に突進する。
ふすまの隙間から体をくぐらせてれいむとまりさが見た光景は、想像を絶するものだった。
「ゆっ!ゆっ!かびんしゃん、ゆっくちたおれちぇにぇ。やっちゃー!たおれちゃよ!」
「ざぶとんしゃんにうんうんしゅるよ!ぷーりぷーりぷーりぷーり♪しゅっきりー!」
「おはなしゃんぜんぶたべりゅよ!もーぐもーぐ、めっちゃまじゅー!えろえろえろ……」
「こっちでちーちーしゅるのじぇ!ちーちーぴゅーぴゅー♪しゅっきりー♪」
一番上のれいむとまりさが、何を血迷ったのかお兄さんの部屋を荒らしている。
「おでぃびぢゃんなにじでるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「おにいざんのおべやよごじぢゃだべええええええええええええええええええ!!!」
れいむは花瓶を倒し、観葉植物を食べて辺りにゲロを吐き、本を引っ張り出してはページを破いている。
まりさは座布団の上に特大のうんうんをひり出し、障子や畳にしーしーを引っかけている。
野良ゆっくりが身の程知らずにもする、お家宣言の前の家を荒らす行為。
それが今まさに、しっかりと躾けたはずの子どもたちによって行われていたのだ。
姉の突然の暴走に、妹たちは部屋の隅で固まって震えていた。
これをお兄さんが見たらどうなるのかくらい、ゆっくりでも分かる。
「だめええええええ!!おちびぢゃんやめでえええええ!」
「ずぐにがだづげでよおおお!ぎれいにじないとおにいざんがおごるよおおお!」
れいむとまりさは、縦横無尽に暴れ回る子どもたちを止めようと突進した。
「おとーしゃんまりしゃとおいかけっこしちぇくれりゅのじぇ?ゆわーい!」
「れいみゅはここにいりゅよ!おかーしゃんちゅかまえてにぇ!」
それを遊んでくれると勘違いしたのか、子どもたちは笑いながら跳ね回る。
器用なことに、二匹とも跳ねながら放尿&脱糞というハイレベルなことまでしている。
二匹が跳ねた後には、しーしーのべったりした染みか、うんうんの塊がぽろぽろ落ちているという惨状が残る。
「とばっでええええええ!!おちびぢゃんもうどばっでよおおおお!」
「おいがげっごじゃないよおおおおお!やべでよおおおお!」
やがて、くたくたに疲れた両親がその場にへたり込んだところで、追いかけっこは終わった。
お兄さんの部屋は、二匹の撒き散らしたうんうんとしーしーでめちゃくちゃに汚れていた。
「ど……どう…じで……おちびぢゃん……ごんなごど……じだの……?」
「おべやをよごじだら………おにいざんおこるって…おがーざんおじえたよ……ね……?」
ぐったりとしているれいむとまりさの目の前で、子どもたちは寄り添ってにこにこしている。
親の気持ちも分からないで。どうやってお兄さんに説明しよう。
れいむとまりさは、これからどうしようかと心配で頭がオーバーヒートしかけていた。
「だからにゃんなの?おにいしゃんがおこりゅ?よかっちゃにぇ」
「まりしゃたち、にんげんしゃんにかわれたことにゃいからわからなかっちゃよ」
さっきまでの楽しそうな声とは180度違う、冷え切った殺意が叩き付けられた。
親の目の前で、子どもたちの愛らしい顔は怨霊の憎々しい顔に変わっていた。
「うばがああああああああ!!」
「でだあああああああああ!!」
くたくたに疲れ切っていたにもかかわらず、両親はその場で跳ね起きてひしと抱き合う。
死んだ子どもたちが、再び子どもの体を乗っ取って姿を現したのだ。
「どうじでえええ!?どうじでごんなごどずるのおおおおおお!?」
「ごんなごどじだらおどーざんとおがーざんゆっぐりできないよおおおお!!」
怨霊ゆっくりの目に、憎悪と同時に哀れみさえ浮かんだ。
「ばきゃなにょ?ゆっくちさしぇないためにやっちぇりゅんだよ?」
「おにーしゃんおへやがきたなくなっちぇしゅごくおこりゅとおもうよ?」
「どうすりゅの?」
「なんていうにょ?」
「れいみゅたちのことしょうじきにいうにょ?」
「こどもをようしにだしちゃのはうしょでしゅ。すてたんでしゅっていうにょ?」
「うしょちゅきありしゅがどうなっちゃか、れいみゅたちしっちぇりゅよ?」
「そんにゃことしにゃくても、おへやをよごちたのはこのまりしゃだよ」
「れいみゅだよ」
「おにーしゃんおしおきしゅりゅね」
「ころちちゃうだろうにぇ」
「かわいしょうなれいみゅ。くしゅくしゅくしゅ」
「かわいしょうなまりしゃ。くしゅくしゅくしゅ」
八方塞がりなのが、分かってしまった。
怨霊となった子どもたちが、子どもの体を乗っ取って悪さをしたと言って、お兄さんが信じるだろうか。
仮に信じても、そうしたら自分たちが嘘つきであることもばれてしまう。
かといって、だんまりを決め込んでも事態は好転しない。
部屋を汚した二匹の子どもたちは、お兄さんによって恐ろしい目に遭わされることだろう。
「どうずればいいのおおおおおおおお!!」
「まりざにいじわるじないでよおおおお!!」
れいむとまりさは、単純に考えることを放棄して叫ぶだけだった。
何をすればいいのか分からず、分かりたくもなくてただ絶叫するだけ。
二匹は軽蔑しきった顔で親を罵る。
「こにょくじゅ!よくもしょんなこといえるにぇ!」
「くしょおや!まりしゃをすてたくしぇになにいっちぇりゅの!」
「れいみゅたち、もっちょもっちょもっちょもーちょひどいめにあったんだからにぇ!」
「くるちい?こわい?かなちい?よかっちゃにぇ!もっちょくるちんでいいのじぇ!」
「ちね!こどもをすてたゆっくちしてないおやはちねえ!」
「おやのくせにこどもをころちたおやはじぶんもちね!ちね!ちね!」
「ちね!ちね!ちね!ちね!ちね!」
「ちねえ!ちねえ!ちねええええ!」
「やべでえええええ!れいぶにひどいごどいわないでよおおおおおおお!!」
「おちびぢゃんもうやべでええええ!まりざじんじゃうよおおおおおお!!」
まりさの言っていることは大げさではない。
怨霊のみが発せられる、ゆっくりオーラとは対極的などす黒いオーラ。
そして、一度死んだからこそ言える、負の思いに満ちた「ちね」と言う言葉。
それは毒となって二匹の餡子を抉り、苦しめる。
さしずめ、ピンセットで餡子を少しずつ引きちぎっていくようなものか。
「ちーね!ちーね!ちーね!ちーね!ちーね!ちーね!」
「ちねちねちね!ちねちねちね!ちねちねちねええ!」
「あがあああああ!ごべんなざいいいいいい!」
「ごべんねええええ!おぢびぢゃんごべんねえええ!」
そして再び始まるスタイリッシュ土下座。
れいむとまりさによる、怨霊の脅迫から逃れたい一心で行う謝罪が始まった。
「ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざい!ごべんなざいいいいいい!」
「ごべんなざい!ごべんなざいいい!ごべんなざい!ごべんなざあああい!」
「にゃにが「ごめんなしゃい」なのじぇ!しょれでしゅむとおもっちぇりゅの?」
「じぇんじぇんせいいのにゃいごめんなしゃいだにぇ!ゆるしゃないからにぇ!」
「ゆるじでえええ!もうゆるじでよおおおお!はんぜいじだよ!いっばいはんぜいじだがらあああ!」
「おぢびぢゃんをずででごべんなざいいい!ほんどに、ほんどにほんどにほんどにごべんなざいいいい!」
「ちね!ちね!ちね!」
「ちーね!ちーね!ちーね!」
「ごべっ!ごべんっ!ごべんねっ!ごべんねえええ!ごべんねえええ!れいぶがわるがっだよおおおお!」
「ごべんねえええ!まりざがわるいおどーざんだったよおおお!だがらもうじねっでいわないでええええええ!」
畳に頭をごしごし擦りつけて、二匹は土下座を繰り返す。
そうしなければ、到底許されないと分かっているからだ。
後ろのふすまが開いた。
「ゆっ!じじいがきたのじぇ!おいくしょじじい!まりしゃのゆっくちぷれいしゅからでていくのじぇ!」
「くしょどりぇい!しゃっしゃとあみゃあみゃもっちぇこい!なにぼーっとちゅったってりゅの?ばきゃなの?しにゅの?」
「……おいゆっくりども。これは、一体、どういう、ことなんだ?」
れいむとまりさは、土下座をやめて顔を上げた。
子どもたちは、二匹を見ないで後ろを見ている。
「……お………おにい……ざ……ん」
「あ……ゆあ……こ、これは…………」
この家の持ち主であり、一家の飼い主でもあるお兄さんが、額に青筋を立てた状態でこちらをにらんでいた。