ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2079 しんぐるまざー
最終更新:
ankoss
-
view
「ゆがあぁぁぁぁっ!!とうめいなかべさんはゆっくりしないでしねえぇぇぇぇっ!!」」
ガスッ!!ガスッ!!
「「さっさとなかにいれろおぉぉぉぉっ!!」」
ボスッ!ボスッ!
「「「かべしゃんはゆっくちしにゃいでちねぇぇぇぇっ!!」」」
ペチンッ。ペチンッ。
……そこは、ある街のある一軒家。
その家の縁側の窓ガラスに、口汚く喚き散らしながら、ゆっくり達が体当たりしていました。
成体サイズのれいむが一匹、そしてれいむ種の子ゆっくりが二匹と、赤れいむが三匹の計六匹。
れいむ種のオンパレードです。
このれいむ達は、親子なのでしょう。
人家に侵入して、お家宣言をしようとしています。
「れいむは『しんぐるまざー』なんだぞおぉぉぉぉっ!!れいむにいじわるするかべさんはさっさとしねえぇぇぇぇっ!!」
れいむは歯ぐきをむき出しにして、そう叫びました。
どうやら、れいむの番は何らかの理由で永遠にゆっくりしてしまい、それでれいむは『しんぐるまざー』になったのでしょう。
……しかし、それが自分達の行っている行動の免罪符になる訳がありません。
「なんでこわれないのおぉぉぉぉっ!?れいむは『しんぐるまざー』なんだから、やさしくしなきゃだめでしょおぉぉぉぉっ!?」
自分は『しんぐるまざー』なのだ。だからこの家でゆっくりするのは当然だ。なのに、この透明な壁は、れいむ達を中に入れようとしない。
……何てゲスだ!制裁してやる!
そう思いながら、れいむ達は何度も窓ガラスに体当たりしていました。
……そして、このれいむ達の肌は薄汚く、帽子や飾りは茶色い染みが付いていたり、破けていたりしており、一目で野良ゆっくりであると言う事が分かりました。
もし、この家に誰か人間がいれば、れいむ達はすぐに瞬殺されているでしょう。
しかしれいむ達にとって幸運な事に、この家の主である青年は、つい先程自分が勤めている会社へ出かけたばかり。
……ですが、当前の如く、玄関のドアはもちろん、窓の鍵もきちんと閉めてあるので、れいむ達は家の中へ入る事は出来ません。
それでもれいむ達は諦めません。
ここは自分達の家だ。自分達が入れないのはおかしい。こんなゲスな透明な壁は、自分達が制裁してやる!
そう思い、れいむ達は十分前から窓ガラスに体当たりをしていました。
れいむ達が喚き散らしている理由は二つありました。
一つは、窓ガラスが中々割れないのでイライラしている事。
そしてもう一つは……。
「ここはれいむのおうちだろうがあぁぁぁぁっ!!」
「「おうちをよこどりするゲスはしねえぇぇぇぇっ!!」」
「「「ゆっくちしにゃいでちねぇぇぇぇっ!!」」」
その家の中に、青年が世話をしている飼いゆっくりが家の中で留守番をしていたからです。
「い……、いや……」
その飼いゆっくり……、ゆっくりさなえは、透明なゲージの中で怯えていました。
何故、このさなえは透明なゲージの中に入れられているのか。
それは、さなえの今の状態が、普通の状態ではなかったからです。
さなえの腹部は、ポッコリと膨れていました。
……そう。さなえは自らのお腹の中に、小さな命を宿しているのです。
お兄さんはもしもの事があったら、という理由で、さなえとお腹の子供の安全の為にさなえをゲージの中に入れていたのです。
そして、そんな怯えているさなえを落ち着かせてくれるはずの番の姿は、どこにも見えませんでした。
……その相手は、もうこの世にはいませんでした。
つまり、さなえは、とある理由で『しんぐるまざー』になろうとしているのです。
「おちびちゃん……」
さなえは自分の膨れたお腹を見て、そう呟きました。
……そして、何故自分が『しんぐるまざー』になろうとしているのか。
さなえは、その過去を思い返していました。
これは、ある理由で『しんぐるまざー』となった、あるゆっくりの物語です。
「しんぐるまざー」
作者:ぺけぽん
今から二年前、さなえは青年の飼いゆっくりではなく、野良ゆっくりでした。
住んでいた場所は、とある路地裏の中の段ボールハウス。
当時のさなえはまだ赤ゆっくりで、さなえには、自分と同じさなえ種である母親がいました。
当然、野良ゆっくりの生活は楽なものではなく、むしろ、常に死と隣り合わせと言っていいでしょう。
ですが、さなえは一度も自分の境遇を辛いとは思いませんでした。
何故なら、自分の傍には、心優しい母親がいるのだから。
何時でも、どんな時でも、さなえは母さなえと喜びや悲しみを分け合って生きてきました。
……しかし。
「おきゃーしゃま……」
「はぁ……。はぁ……」
ある日の昼下がり。
段ボールハウスの中で、母さなえはグッタリとしており、息も荒れていました。
そんな母さなえを、さなえは心配そうに見つめていました。
母さなえは、赤ゆっくりであるさなえの食糧探しに奮闘していました。
ですが、いつも得られる食糧は少なく、その少ない食糧の七割をさなえに与えて、残りの三割を自分が食べていました。
当然、そんな事を続けていれば明らかに栄養失調になります。
ですが、母さなえは自分の大切な娘の為に、空腹を我慢して必死に食糧探しをしていました。
……しかし、もはや母さなえの体力は限界でした。
「ごめんなさい……。おちびちゃん……。おかあさんは、もう、だめです……」
そう言った母さなえの目は虚ろで、どこか遠くを見ているようでした。
「いやでしゅ……!そんにゃこと、いわないでくだしゃい……!」
「おちびちゃん……。……どう、か。……つよく、いき、てくださ、い……」
「……!?おきゃーしゃま!?」
「おか……さんの、ぶんま……で。……つよ……い……こに……なっ……て……。…………」
そう言い残し、母さなえはゆっくりと目を閉じました。
「おきゃーしゃまぁ……!!」
さなえは母さなえにすり寄りながら、ポロポロと涙を流し続けました。
……母さなえの目が再び開く事は、ありませんでした。
「……」
どれ位泣き続けたでしょうか。
さなえの目元は真っ赤になっていて、もはや流せる涙は全て枯れ果て、一滴もさなえの目から流れ落ちません。
「……」
それと同時に、さなえは母さなえの死を受け入れました。
これからは、自分だけで生きていかなければいけない。
……でも、どうやって?
はっきり言ってさなえはまだ赤ゆっくり。
赤ゆっくりがたった一匹で生きていけるほど、野良生活は甘くはありません。
他の野良ゆっくり。野良犬。野良猫。カラス。人間。
雨。風。気温。衛生環境。
それらの全てが敵と言っても過言ではありません。
親の庇護が無ければ、とても生きていけそうにはありません。
「……」
つまり、さなえのゆん生は、この時点で詰んだようなもの。
さなえは、赤ゆっくりでありながら、その現実を理解していました。
「……」
さなえは何かを悟ったような表情で、段ボールハウスから出ました。
「……おきゃーしゃま。……まっていてくだしゃいね」
母さなえの亡骸に、そう言いながら。
「……」
路地裏を抜けると、人通りの多い場所に出ました。
さなえの目の前では、様々な人間が忙しなく動いていました。
「……」
さなえはその人間達の中から、ある類の人間を探しました。
「チッ!あの糞上司、俺に責任押しつけやがって……!」
少し探した後、その類の人間を見つけました。
その人間の男は何か嫌な事があったらしく、ブツブツ文句を言いながら歩いていました。
「……っ!」
さなえは大急ぎで、その男の元へ跳ねて行きました。
「はぁ……。はぁ……」
「ん……?何だ、野良ゆっくりかよ。汚ぇなぁ……」
さなえはその男の足元に追い付きました。
そんなさなえを、男は汚い物でも見るような感じで、さなえを見ていました。
……そして、さなえはその男に、こう言いました。
「おい、そこのくしょじじい!さっさとさなえにあまあましゃんをもってこい!でしゅ!」
「あぁ!?今何て言ったこの糞饅頭!!もう一度言ってみろ!!」
「きこえなかったんでしゅか?あまあましゃんもってこいっていったんでしゅ!」
さなえは一体何を考えているのか、男に対して、殺して下さいと言わんばかりの暴言を吐きました。
「上等だこの糞饅頭が!!」
男はさなえを踏みつぶすべく、右足を振り上げました。
……ああ。これでいいんだ。
さなえは踏みつぶされそうになっている中で、そう考えていました。
……そう。さなえは人間に『わざと』殺される為に、あんな暴言を吐いたのです。
それも、機嫌が悪そうな人間をあえて選んで。
……これで、お母様の所へ行ける。
そう思い、さなえは目を閉じ……。
「ち、ちょっと待って下さい!」
「……ゆ?」
突然の第三者の声を聞き、再び目を開きました。
「あ?何だお前?」
さなえを踏みつぶそうとしていた男は、その声の持ち主にガンを飛ばしました。
「あの……。そのゆっくりを、どうするつもりですか……?」
男を制止したのは、二十代位の、痩せ気味の青年でした。
「決まってんだろ?この糞饅頭を潰すんだよ!」
「そのゆっくりが、あなたに何かしたんですか……?」
「うるせぇ!こいつはゲスなんだよ!だから潰す!文句あるかコラァ!?」
「……でしたら、僕にそのゆっくりを譲って貰えませんか?」
「……は?」
「……え?」
男もさなえも、一瞬青年が何を言っているのか分かりませんでした。
「お前、この糞饅頭を寄こせってのか?」
「はい。どうせ潰すんでしょう?だったら、僕に譲って下さい」
「……ケッ!好きにしろ!」
男は面白くないとばかりに地面に唾を吐き捨て、何処かへと行ってしまいました。
……その場には、青年とさなえだけが残りました。
「大丈夫だったかい?」
「えっ!?」
青年のその問い掛けに、さなえは戸惑ってしまいました。
「いやぁ、良かったよ。君が潰されずに済んで」
「……して」
「ん?」
「……どうして、さなえをたすけたんでしゅか……?」
「何でって、君はゲスじゃ無いだろ?僕はゆっくりを見る目はあるつもりなんだ」
「よけいなことをしないでくだしゃい!!」
さなえは青年に対して、大声で叫びました。
「おきゃーしゃまのところにいけるとおもってたのに!どうして!どうして!」
「……」
「さなえは……。さなえは、おきゃーしゃまに……。うっ……うぅ……!」
さなえは男をさらに罵倒しましたが、途中で嗚咽が止まらなくなり……。
「う……。うあぁぁぁぁっ……!!うわあぁぁぁぁんっ……!!」
とうとう涙腺が崩壊してしまいました。
二度と出る事は無いと思っていた自分の涙。
さなえは自分の目から伝う滴を止める事が出来ませんでした。
「……」
青年は泣き続けるさなえに手を伸ばし、そっと優しく手に乗せました。
「うっ……。うっく……」
十数分後。
泣き続けていたさなえは落ち着きを取り戻しました。
今、さなえは青年の手の上に乗せられている状態でした。
「落ち着いたかい?」
青年がさなえにそう尋ねました。
「……はい」
さなえは青年に、ただそう返答しました。
「一体、どうしてあんな事をしたんだい?」
「……」
「……迷惑じゃなかったら、僕に話してくれないかな……?」
「……はい」
さなえは、今までの出来事を青年に全て話しました。
自分には優しい母親がいた事。
その母親が永遠にゆっくりしてしまった事。
だから人間に殺されようとした事。
途中でさなえは何度か泣きそうになりましたが、それでも話を続けました。
「……そういうわけなんでしゅ……」
数分かけて、さなえの話は全て終わりました。
その間、青年はさなえの話を黙って聞いていました。
「……さなえ」
青年は先程よりも少し重く、真面目な口調でそう言いました。
「……なんでしゅか?」
「君が、お母さんの事がとても大好きだっていうのは分かったよ」
「……」
「……でもね、さなえ。……だからって、死んじゃ駄目だよ」
「……さなえは、おきゃーしゃまのところに……」
「それでお母さんが喜ぶか?自分の命を犠牲にしてまで君を育ててきたお母さんが、そんな事で喜ぶのか?」
青年は、さなえを諭すように、そう言いました。
「……にんげんしゃんに、なにが」
「分かるよ。僕もそうだったから」
「……え?」
一瞬、さなえは青年の言葉の意味を理解する事が出来ませんでした。
「……僕はね、小学校の頃、同級生に毎日虐められていたんだ」
「……にんげんしゃんが……?」
「うん。僕には優しいお母さんがいたんだ。でも、父親がいなかった」
「……!」
さなえは、自分と青年の境遇が似ている事に驚きました。
「毎日学校で言われたよ。『お前のお父さんは誰だ?』『どうせいないんだろ?』『お前は誰の子供だ?』……そんな事を毎日、言われたんだ」
「……ひどいでしゅ……」
「毎日が辛かった。死にたいと思ったよ。そんなくだらない事で虐められて。……もう、うんざりだったんだ」
「……」
「僕の味方はお母さんだけだった。お母さんは、僕の事を何度も慰めてくれた」
「……やさしいおきゃーしゃまなんでしゅね」
「……でもね。……僕が十歳の頃に、お母さんは死んだんだ」
「えっ!?」
「……病気だった。……お母さんは、体が弱かったんだ。仕事をして、女手一つで僕を育てて……。……相当苦しかったと思う」
「……」
「その後、僕は親戚の家に引き取られたんだ」
「……」
「何度も死にたいと思ったよ。何度も、お母さんに会いたい。お母さんの所に行きたいって思った」
「……」
「でもね。僕は今でもこうしてちゃんと生きている。……何でだか分かるかい?」
「……わかりましぇん」
「……病院で、お母さんが、死ぬ前に僕にこう言ったんだ」
「『強い子になって』ってね」
「……っ!」
同じだ。
「だから、僕はその日から、強く生きる事を誓ったんだ」
私と同じだ。
「辛い時や悲しい時には、お母さんの笑顔を思い出して、耐えてきたんだ」
この人間さんは。
「……本当に、感謝しているよ。お母さんがいたから、僕はこうして生きていられるんだから」
「……おなじでしゅ」
「ん?」
「……さなえも……、おなじでしゅ……」
『……つよ……い……こに……なっ……て……』
私と、同じ言葉を言われたのだ。
「……にんげんしゃん」
「何だい?」
「……さなえは、まちがっていました……」
さなえは、自分が行おうとしていた行為に対し、深く反省していました。
「……ありがとうございましゅ。……にんげんしゃん」
「……そっか。分かってくれて嬉しいよ」
「……それじゃあ、にんげんしゃん。……さなえを、おろしてもらえましゅか?」
「どうして?」
「……さなえは、これからひとりでがんばっていきていきましゅ。……たいへんだとは、おもいましゅが……」
「……なぁ、さなえ。僕の飼いゆっくりにならないか?」
「……そのきもちはうれしいでしゅ。……でも……」
「はっきり言って、とても今の君には野良生活を過ごせるとは思えない」
青年はさなえに、はっきりとそう言いました。
「……にんげんしゃんに、めいわくをかけるわけにはいかないでしゅ……」
「大丈夫だって。僕は何も困らないよ」
「……でも……」
「さなえ。君さえ良ければ……、僕を『ゆっくり』させてほしいんだよ」
『ゆっくり』させてほしい。
それは、ゆっくりにとって何よりも一番嬉しい言葉でした。
「……さなえでも……。……にんげんしゃんを、ゆっくりさせられるんでしゅか……?」
「うん。君と一緒にいると、とてもゆっくりできるよ」
青年は笑顔でそう言いました。
その笑顔を見たさなえは……。
「……わかりました。……さなえでよければ……。……ゆっくりしていってくだしゃいね!」
同じように、青年で笑顔でそう答えました。
……お母様。
……さなえは、この人間さんと一緒に生きます。
……人間さんは、さなえと一緒にいるとゆっくり出来ると言ってくれました。
……だから、さなえは、人間さんに恩返しします。
……どうか、見守って下さい。……お母様。
さなえは、空を見上げました。
見上げた空の向こうの先にいるであろう、母さなえの笑顔を想いながら。
……こうして、さなえは青年の飼いゆっくりとなりました。
さなえは母親の死を乗り越え、新しいゆん生を歩んでいました。
……それはつまり、新しい『不幸』が、さなえを待ち受けているという事でもありました。
今から二週間前の事……。
「それじゃあ、さなえ。行って来るね」
「はい。いってらっしゃい。おにいさん」
青年はいつも通り、自分が勤めている会社へ出勤し、それをさなえが見送りました。
青年が出かけた事を確認したさなえは、居間へと跳ねて行きました。
「ひまですねぇ……。テレビさんでもみますか」
さなえは近くに置いてあったテレビのリモコンを咥え、器用に電源のボタンを押しました。
『ハハッ!よいこのみんな、こんにちは!ネズミーランドのなずーりんだよ!』
『誰でも出来る、ゆっくりクッキング!今日は、赤ぱちゅりーと赤ありすを使ったカスタードプリンのレシピをご紹介します!』
『只今現場と中継が繋がっています。現場のきめぇ丸さーん!……あれ?電波の繋がりが悪いようですね……』
『愛でお兄さんのゆっくり講座!第三回目は、飼いゆっくりの正しい躾の仕方です!』
「う~ん……。きょうはあまりおもしろそうなばんぐみはなさそうですねぇ……」
さなえはテレビのチャンネルを何度か変えましたが、さなえの好きそうな番組は放送されていませんでした。
「こんなときは、おひるねするのがいちばんですね」
さなえは居間に置いてある、自分用のクッションの上に乗っかりました。
「すう……。すや……」
その日は天気がよく、程良い暖かさだった為、さなえはすぐに寝息を立て始めました。
「すう……。すう……」
ドッ!ガッ!
「……!……おぉ……!」
「すやすや……」
バンッ!バンッ!
「……ん……ほぉ……!!」
「すう……。くう……」
さなえは本当に気持ちよさそうに、すやすやと寝ていました。
ガシャアンッ!!
「んほおぉぉぉぉっ!!」
……何かが割れる音と、耳障りな、品性の欠片もない鳴き声の両方を聞くまでは。
「……!?な、なんなんですか!?あなたは!」
目が覚めたさなえは、目の前の光景を疑いました。
自分が寝ている間に、いつの間にか窓ガラスが割れており、目の前に薄汚い野良ゆっくりが家の中に侵入しているのですから。
そして何より、さなえにとって最悪な事は……。
「んほおぉぉぉぉっ!!なかなかのびゆっくりねえぇぇぇぇっ!!」
その侵入者であるゆっくりが、レイパーありすだった事です。
もし、れいむやまりさなどだったら、一対一の勝負ならば撃退できる可能性があったのですが、レイパーありすとなれば、そうもいきません。
このレイパーありすは、最近近くの飼いゆっくりばかりを狙った、レイパーの常習犯でした。
「とかいはなありすが、とかいはなあいをそそいであげるわあぁぁぁぁっ!!」
自称、都会派(笑)ありすは、さなえに飛びかかりました。
「いっ、いやあっ!?」
さなえは逃げる暇も無く、ありすに押さえつけられてしまいました。
……そして。
「んほおぉぉぉぉっ!!なかなかいいぐあいねえぇぇぇぇっ!!」
「いやあぁぁぁぁっ!!やめてえぇぇぇぇっ!!」
哀れ、さなえはありすの毒牙の餌食になってしまいました。
さなえは、自分の下腹部に、何かおぞましい物を挿入されているのを感じていました。
それが一体何なのか、さなえは頭の中では分かっていながらも、それを認めたくなかったのです。
「そろそろでるわあぁぁぁぁっ!!」
「いや……、いやぁ……。やめてぇ……」
それだけは止めてほしい。
さなえはレイパーありすに、そう懇願しました。……しかし。
「んほおぉぉぉぉっ!!すっきりぃぃぃぃっ!!」
……無情にも、レイパーありすの種子は、さなえの中に注がれました。
「あ、ああ……」
放心状態のさなえのお腹は、ポッコリと膨れていました。
呆然としながらも、さなえは理解していました。
たった今、自分のお腹の中に、このレイパーありすの子供が宿った事に。
「んほほぉっ!!にかいせんといくわよおぉぉぉぉっ!!」
そんなレイパーありすの大声が、放心状態のさなえの意識を現実へと引き戻しました。
……このままじゃ、殺される。
「んほおぉぉぉぉっ!!」
……そんなのは、嫌だ!
そう考えたさなえの取った行動は……。
ガブッ!!
「んぎゃあぁぁぁぁっ!?」
レイパーありすの脅威の象徴でもあり、弱点でもある……、ぺにぺにに噛み付く事でした。
「いぎゃあぁぁぁぁっ!?ありずのどがいはなべにべにがあぁぁぁぁっ!!」
「はぁ……。はぁ……」
ゆっくりのぺにぺになど、はっきり言って、市販のキャンディーよりも脆い物。
レイパーありすのぺにぺには、さなえに噛み千切られ、少し離れた所に転がっていました。
「いだいぃぃぃぃっ!!だれがだずげでえぇぇぇぇっ!!」
レイパーありすは、今までのゆん生の中で一度も味わった事の無い凄まじい痛みに襲われ、転げまわっていました。
さなえは、そのチャンスを見逃しませんでした。
ガブリッ!!
「ぐぎゃあぁぁぁぁっ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
さなえはレイパーありすの下腹部にもう一度、その傷をさらに抉るように噛み付きました。
「ぼうやべでえぇぇぇぇっ!!」
レイパーありすの命乞いは、今のさなえの頭の中にはこれっぽちも入っていませんでした。
ここで躊躇すれば、自分が殺される。
その一心で、さなえはトドメとばかりに、思い切りレイパーありすの傷口を広げました。
「あぎいぃぃぃぃっ!?」
その広がった傷口からは、レイパーありすの命のカスタードクリームがドクドクと漏れ出し始めました。
「ぼ、ぼっど……、ずっき、り……じだがっだ……」
そんなレイパーらしい遺言を残し、レイパーありすは永遠にゆっくりしました。
「う……、あっ……」
さなえは、自分がレイパーの子供を妊娠した事と、同族の中で禁忌とされている、ゆっくり殺しを実行した事の両方のショックで、気絶してしまいました。
数時間後……。
「ただいまー。さなえー、ケーキ買ってきた……、……!?さなえ!さなえ!どうした!?」
会社から帰宅し、さなえがいる居間へ向かった青年は、居間の惨状を目の当たりにしました。
そして、ピクリとも動かないさなえに走り寄り、さなえに何度も呼びかけました。
「う……。お、おにいさん……」
「しっかりしろ!一体何があったんだ!?」
「は……、はい……」
……さなえは、昼間の出来事を青年に全て説明しました。
「……そうだったのか。……さなえ。今すぐゆっくりニックに行こう」
「……」
「今ならまだ間に合う。早くお腹の子供を堕ろしてもらうんだよ」
「……」
「待ってて。今準備を……」
「……まってください、おにいさん」
「大丈夫だよ、きっとお医者さんは痛くしないで」
「……おなかのなかのあかちゃんは、……このままうみたいです」
「……え?……もう一度言ってくれないか、さなえ……」
「うみます。さなえは、……あかちゃんを、うみたいです」
「さなえ!一体何を言ってるんだ!?お前のお腹の中の子供はレイパーの子なんだぞ!?」
青年はさなえの言った言葉が信じられませんでした。
それもそうでしょう。
自分の飼いゆっくりが、レイプされたばかりか、そのレイパーの子を産むと言うのですから。
「はい。……それでも、うみます」
「駄目だ!僕はそんなのは許さない!レイパーの子供を産むなんて……!」
「……たしかに、おなかのなかのあかちゃんは、レイパーのこどもです……」
「だったら何で……!」
「あかちゃんはなにもわるくありません……。なにもわるくないんです」
「っ……」
「なにもわるくないのに……。ころすなんて、そんなことは……、できません……。……さなえには、できません……」
「……さなえ……。……分かった。……だったら、お前と同じさなえ種の子供だけ育てよう。お前も、それが一番いいんだろ?」
青年は、今のさなえにとって一番の選択と思われるだろう提案をしました。
「……おにいさん。……それじゃ、だめなんです……」
……ですが、その提案も却下されてしまいました。
「さなえ、一体何が駄目なんだ?お前と同じ種類の子供は育てていいって言ってるんだぞ?」
青年は何故さなえがそれでは駄目だと言ったのか、理解できませんでした。
……そして、青年は次の瞬間、その意味を嫌と言うほど理解する事になります。
「……うまれてきたのが、ありすでも、……わたしは、そのあかちゃんをそだてたいんです」
「……さなえ……?お前、何を言ってるんだ……?」
青年がそう言うのも無理はありません。
レイパーと同じ種類であるありすが産まれても、そのありすも育てると言うのですから。
「……おなじしゅるいとか、ちがうしゅるいとか……。……そういうもんだいでは、ないんです……」
「だって、お前……!」
「おなじ、たいせつなあかちゃんなんです。……しゅるいなんか、かんけいないんです……」
「……駄目だ!それだけは絶対に駄目だ!さなえ!それだけは絶対に許せない!」
「おねがいです……。おにいさん……」
「駄目だ!絶対に駄目だ!」
青年は、駄目だ駄目だの一点張りでした。
そんな選択は、絶対にさなえにとって不幸しか生まれない。
青年はそう信じていました。
もし、さなえ種ならまだしも、ありす種が産まれたら……。
もし、そのありすがレイパーの血を強く継いでいたら……。
もし、そのありすがある日突然レイパー化してしまったら……。
もし、そのありすが母親であるさなえに襲いかかったら……。
青年はその先の結末を想像する事が出来ませんでした。
「さなえ!そんな事をしたら絶対に後悔するぞ!?僕はお前に不幸になってほしくないんだよ!」
「ぜったいにこうかいなんかしません!」
青年のその言葉を、さなえは強くそう否定しました。
「さなえは!おかあさんなんです!このあかちゃんの……!……おかあさんなんです!」
「……」
さなえのその言葉に、青年は黙ってしまいました。
「……さなえは……!……さなえのおかあさまとおなじ……、おかあさんになったんです……!」
「……」
「それなのに……!さなえがあかちゃんをころして……、どうなるっていうんですか……!」
「……」
「さなえには……!このあかちゃんのゆんせいをうばうけんりなんかないんです!」
「……」
「おねがいです……!おにいさん……!あかちゃんを……!あかちゃんを、ころさないでください……!」
さなえは大粒の涙を流しながら、何度も何度も青年に頭を下げました。
「……分かったよ。……さなえ」
「!」
「僕の負けだよ。……お腹の中の子供がありすでも、……育ててもいいよ」
「あ、ありがとうございます……!ありがとうございます……!」
「……それじゃあさなえ。僕はこの居間を片づけるから、別の部屋に移すね」
「はい……。ありがとうございます、おにいさん……」
青年は普段よりも重くなったさなえを抱え、隣の部屋へ歩き出しました。
(……ごめんな、さなえ……。……やっぱり、僕は許せないよ)
……青年は、さなえに嘘を吐いていました。
さなえの頼みでも、どうしてもありす種の子供をそのまま育てさせる事は危険だと思っているからです。
青年はさなえ種だけ産ませて、後でありす種を処分しようと考えていました。
……それが、さなえの為。
さなえも、きっと分かってくれる。
「おちびちゃん、ゆっくりしていってくださいね……」
……自分のお腹の中の子供にそう話しかけるさなえを見て、青年は自分の胸が締め付けられるような思いをしていました。
……そして今に至ります。
「……だいじょうぶですからね……、おちびちゃん……」
さなえは震えながらも、お腹の中の子供にそう話しかけました。
(こわいです……!たすけてください、おにいさん……!)
今のさなえに出来る事は、青年が早く帰ってくる事を祈るだけでした。
「ゆがあぁぁぁぁっ!!しねえっ!しねえぇぇぇぇっ!!」
「「しねえぇぇぇぇっ!!」」
「「「ちねえぇぇぇぇっ!!」」」
ドスッ!ガッ!ドガッ!ドガッ!
外のれいむ達は何度も窓ガラスに体当たりをしています。
「ゆぐうぅぅぅぅっ!このままじゃらちがあかないよっ!」
れいむはこのままではただ闇雲に体力を消費するだけだと思ったのか、一旦窓ガラスから離れました。
そして、れいむは辺りを見回し……。
「ゆっ……!ゆふふっ!いいものをみつけたよ!」
れいむは何かを見つけたようで、その何かを口で咥えました。
……それは、人間の子供の拳大程の大きさの石でした。
「ゆふふっ!これならあのゲスなかべさんをせいっさいっできるよ!」
石を使えばあの透明な壁も壊せる!
れいむはニタニタ笑いながら、そう確信しました。
……そして。
「ゲスでとうめいなかべさんはしねえぇぇぇぇっ!」
そう大声で叫び、れいむは石を咥えながら窓ガラスに飛びかかり、石が窓ガラスに当たった瞬間……。
ボキッ!
「ゆびゃあぁぁぁぁっ!?いだいぃぃぃぃっ!!」
れいむは突然の激痛に転がり出しました。
……親いむの前歯は数本折れており、近くに落ちていました。
れいむは訳が分かりませんでした。
「れいむのきれいなはがあぁぁぁぁっ!?」
この石を使えば、透明な壁を壊す事が出来るのに、どうして自分が怪我をしているんだ!
……れいむは知りませんでしたが、二週間前に、この家はレイパーありすに侵入されています。
その際に青年は窓ガラスをゆっくり対策用のガラスに取り換えていました。
当然、この窓ガラスの強度は普通のガラスよりも格段に上がっています。
そんな窓ガラスに石を咥えてぶつかれば、ゆっくりの脆い歯など簡単に折れます。
つまり、れいむ達にこの窓ガラスを割る事など、最初から不可能だったのです。
「ゆぎぎいぃぃぃぃっ!!このくそかべがあぁぁぁぁっ!!れいむのうつくしいはをかえせえぇぇぇぇっ!!」
しかしその事実を知らないれいむ達は体当たりを続けました。
数分後……。
「ゆひぃ……。ゆひぃ……」
「「つかれたよぉ……」
「「「きゃらだがいたいよぉぉぉぉ……」」」
ゆっくりのスタミナなどたかが知れています。
れいむ達はあっと言う間にダウンしていました。
「ゆぎぃ……!おちびちゃんたち!すこしだけやすんだら、またかべさんにたいあたりするよ!」
れいむは自分の子供達にそう言いました。
……しかし、れいむ達が再び窓ガラスに体当たりする事はありませんでした。
……何故なら。
「……何をやってるんだ……?お前達……!」
「「「「「「ゆっ!?」」」」」」
自分達の背後に人間……、この家主の青年が立っていたのですから。
れいむ達がダウンしたのと同時に、青年が会社から帰宅し、家の前に立っていました。
……もし、れいむが石で窓ガラスを割る事に失敗していた時点で諦めて帰っていれば、れいむ達は青年に見つかる事はなかったでしょう。
「みてわからないの!?れいむたちはこのおうちにはいろうとしているんだよ!」
「「ばかなの!?しぬの!?」」
「「「びゃーか!びゃーか!」」」
れいむ達は野良ゆっくりにも関わらず、人間の恐ろしさを根本的に理解していませんでした。
本当に、何故それで今まで生きてこられたのかが不思議です。
れいむ達は最初から人間が帰って来た時の事など全然考えておらず、その為の時間配分など全く頭の中に入っていませんでした。
「……ここは僕とさなえの家だ。お前達の家じゃない。……今なら見逃すから、出ていけ」
青年はれいむ達にそう警告しました。
……ですが。
「なにいってるの!?ここはれいむたちのおうちだよ!!」
「「ゆっくりりかいしてね!!」」
「「「じじいはちねぇ!」」」
れいむ達は聞く耳持たずで、自分達が今危険な立場にある事など全く理解していませんでした。
「……分かった。……だったら、潰す」
口で説得する事を諦めた青年は、れいむ達をその場で潰すべく足を上げて……。
「!」
れいむ達を踏む事は出来ませんでした。
「うっ……!あ、ああっ……!いた……い……っ……!!」
何故なら、窓ガラスの向こうのゲージの中にいるさなえが苦しんでいる姿を見てしまったからです。
「さなえっ!」
青年はれいむ達を放置したまま、玄関へと走り、さなえのいる居間へと大急ぎで向かいました。
「さなえ!しっかりしろ!」
青年はさなえをゲージの中から出して、抱きかかえました。
「お、おにい、さん……」
「しっかりしろ!痛みは酷いか!?産まれそうか!?」
「はぁ……、はぁ……。……ふぅ……。……だいじょうぶです……。……だいぶ、おちつきました……」
「そうか……。大丈夫だったんだな……」
さなえのその言葉に、青年は安堵しました。
「ゆっふっふ!ようやくなかにはいれたよ!」
「「ゆわ~い!とってもひろいね!」」
「「「ゆっくちできりゅにぇ!」」」
「!?」
耳障りな声に驚いた青年が振り向くと、そこにはれいむ達がいました。
……青年はかなり慌てており、玄関のドアを開けっ放しにしていました。
れいむ達はそこから中に入ったのでしょう。
「……!!」
青年は一秒でも早くれいむ達を家の中から追い出そうとしましたが……。
(……落ち着け。……さなえを安全な場所に移してからだ……)
今はさなえの身の安全が第一。
青年はゲージの中に再び入れれば安全かと思いましたが、今のさなえに余り手荒な光景を見せるのは悪影響だと判断しました。
「……待ってろ、さなえ。今、隣の部屋へ連れて行くからな」
「すみません……、おにいさん……」
青年はさなえを抱えて隣の部屋へ走りました。
「ゆゆ~ん!くそにんげんがにげていくよ!」
「「れいむたちのこわさにおそれおののいたんだね!」」
「「「ゆっくち~!」」」
……背後から聞こえるれいむ達の声を聞き、歯ぎしりしながら。
「……多分、これで大丈夫だと思うけど……」
隣の部屋へさなえを移した青年は、さなえの体を柔らかいクッションで支えました。
そして、いつ子供が産まれてもいいようにさなえの産道口の少し前にもクッションを置きました。
こうする事で、産まれた子供がそのまま壁や床に激突する事を防ぐ事が出来ます。
「はぁ……。はぁ……」
「待ってろ、さなえ。あのゆっくり達を追い出してくるから」
青年はあのれいむ達を叩きだすべく居間へ戻ろうとしました。
「ま、まってください、おにいさん……」
「どうした、さなえ?どこか痛むのか?」
「……いえ……、……どうか、あのれいむさんに、……あまり、ひどいことをしないでください……」
「……どうして、そんな事を言うんだ?」
「……え?」
「あのれいむ達は、お前を危険な目に合わせようとしたんだぞ?なのに、何でそんな事を言うんだ?」
「……れいむさんは、……さなえとおなじ、『しんぐるまざー』だとおもうんです……」
「……」
「れいむさんは、きっと、ごはんさんがたりなくなって……、……おちびちゃんたちのために、しかたなくやったことだとおもうんです……」
「……」
「……おねがいです、おにいさん……」
「……分かった。約束は守るよ。あのれいむには危害を加えない。それでいいんだろ?」
「……ありがとうございます、おにいさん……。……さなえは、すこしつかれました……」
青年が自分の願いを聞き届けてくれた事で緊張の糸が切れたのか、さなえは寝息を立て始めました。
「……お休み、さなえ」
青年はさなえの頭をそっと撫でて、部屋を出ました。
青年は居間へ戻ると……。
「ゆゆ~ん!おちびちゃんたち!とってもゆっくりしてるよぉ~!」
「「ゆぴー……、ゆぴー……」」
「「「ゆわ~い♪」」」
やはりと言うべきか、そこにはまだれいむ達がいました。
「……お前達。……どうしても、この家から出ていくつもりはないのか?」
青年はれいむ達にそう言いました。
「ゆふふっ!くそじじいはいったいなにをいってるの?」
「「れいむのすーぱーすーやすやたいむをじゃまするじじいはせいさいしてやるよ!」」
「「「しぇーしゃい♪しぇーしゃい♪」」」
「……れいむ。さなえは、僕にお前には危害を加えないでくれって頼んだんだ。だから……」
「はあぁぁぁぁっ!?なにをいってるのおぉぉぉぉっ!!ここはれいむたちのおうちでしょおぉぉぉぉっ!?さなえはなにさまのつもりなのおぉぉぉぉっ!?」
「「ふざけたことをいわないでね!」」
「「「ちね!ちね!ちね!」」」
……もはや、青年とれいむ達の会話は破綻しまくりで、交渉とは呼べませんでした。
「……なぁ。僕はお前に危害を加えるつもりは……」
「うるさいよ!ごちゃごちゃいうと、あのクズさなえをぶちころすよ!?」
「……今、何て言った?」
青年は平静を装いながら、れいむにそう尋ねました。
「ばかなの!?しぬの!?なんでりかいできないの!?おとなしくいうことをきかないと、あのクズさなえをころすっていったんだよ!」
「あのクズさなえ、にんっしんっしていたね!おなかのクソチビもいっしょにころしちゃおうよ!」
「きっと、レイパーにでもれいぽぅされてできたこどもだよ!そうでもしなきゃ、こどもなんてできないよ!」
「ぶしゃいくだからにぇ!」
「おお、あわりぇあわりぇ!」
「クジュさなえなんて、しぇーしゃいしてやるよ!」
「……そうか」
青年はただ短く、そう答えて……。
ビチャッ。
「ゆぴゃ」
自分に一番近かった赤れいむを足で踏みつぶしました。
「「「「「ゆ……?」」」」」
自分の家族の一匹を目の前で潰されたれいむ達は、一体何が起きているのか分からず、餡子脳がフリーズしてしまい、固まってしまいました。
「「「「「ゆ……、ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
……れいむ達がようやく叫び声を上げたのは、それから数秒後の事でした。
「「れいむのいもうとがあぁぁぁぁっ!?」」
「「ゆんやあぁぁぁぁっ!?」」
子・赤れいむ達はパニックになり、喚き散らしました。
「黙れ」
グシャッ!
「ゆびゃあ」
そんなれいむ達の叫び声を癪に思った青年は、子れいむの内の一匹を鷲掴みにして壁に叩きつけました。
子れいむは餡子の染みとなり、元の原型を留めていませんでした。
「なにをしているのおぉぉぉぉっ!?れいむたちには、ひどいことをしないんじゃないのおぉぉぉぉっ!?」
……話が違う!このクソジジイは、自分達に危害を加えない筈だ。
自分の子供を僅か数秒で二匹も殺されたれいむはそう叫びました。
グチャアッ!
「ぴぃ」
「ぴゃっ」
青年は何も答えず、その場から逃げようとした子れいむを掴み、赤れいむに投げつけました。
投げられた子れいむは赤れいむにクリーンヒットし、赤れいむは餡子の染みとなりました。
子れいむは床にぶつかった衝撃で、自分の体の三分の二が潰れ、餡子の塊となりました。
「あ、あぁぁぁぁ……」
新たに子供を二匹殺されてしまったれいむは、ようやく理解しました。
自分達は、この家に入るべきではなかったと。
逃げなければ。何としても、この家から……、この人間から逃げなければ。
れいむは何とか無事に逃げる手段を考えました。
「ゆえぇぇぇぇんっ!?たしゅけておきゃーしゃあぁぁぁぁんっ!」
れいむの子供の最後の生き残りである赤れいむが、れいむに助けを求めて跳ね寄りました。
……その赤れいむを見て、れいむは閃き……、……実行に移しました。
「うるさいよっ!」
ドンッ!
「ゆぴいぃぃぃぃっ!?」
れいむは自分に跳ね寄って来た赤れいむを、青年の方へ突き飛ばしました。
「ゆふふふっ!れいむはにげのびるよ!くそちびはおとりになってね!」
……そう。れいむは、自分の子供を囮にして逃げるつもりなのです。
「ふじゃけるなあぁぁぁぁっ!こにょくしょびゃびゃあぁぁぁぁっ!!」
あっさりと見捨てられた赤れいむはれいむにそう喚き散らしました。
「うるさいよ!やっぱり、くそまりさのこどもは、クソチビだったってことだね!れいむにそんなことをいうクソチビは、ゆっくりしんでね!」
……実はこのれいむは、自分で子供達を産んだ訳ではないのです。
れいむには番である、夫のまりさがいました。
ある日、れいむはまりさに、子供が欲しいと言ってすっきりー!しようとしました。
しかし、まりさは食いぶちが増えて、今の生活が苦しくなるから駄目だと言いました。
……そんなまりさの言い分をれいむは無視し、無理矢理すっきりー!しました。
……結果、れいむではなく、まりさが胎生型にんっしんっをしてしまいました。
……それだけならまだよかったのですが、れいむはまりさにその状態で食糧探しに行くようまりさに命じたのです。
普段からまりさが食糧を集める役割だったのですが、そんな状態での食糧探しは困難を極めます。
まりさはれいむが食糧探しに行くよう懇願しましたが、れいむはまりさを無理矢理食糧探しへ行かせました。
……まりさは何とか最低限食える分だけの食糧を集め、出産の日が近づくまで我慢しました。
……そして、一週間程経ち、まりさは二匹の赤れいむを出産しました。
これで、この苦しみも終わると、まりさは思っていましたが……。
何と、れいむは出産が終わったばかりのまりさに襲いかかり、再びすっきりー!してしまったのです。
しかも、今度は植物型にんっしんっ。
食糧探しと出産の痛みで疲労がピークに達していたまりさは、それから数日後に赤ゆっくり達を産み落とした直後、永遠にゆっくりしてしまいました。
しかも、れいむは自分と同じれいむ種の赤ゆっくりだけを残して、まりさ種を全て潰してしまったのです。
こんな役立たずのまりさと同じ子供などいらない。
自分の可愛い子供達と一緒に、まりさの亡骸を食べていたれいむはそう思いました。
……それが、れいむが『しんぐるまざー』になった理由です。
もはや自分勝手を通り越して、ゲスの塊とも言えるこのれいむは、自分の子供が殺されそうだと言うのに、ニタニタ笑っていました。
役立たずなまりさの子供でも、こういう時は役に立つ。
れいむはその場から逃げようと後ろを振り返り……。
「逃がすかよ」
ガシッ!
「ゆひっ!?」
一歩も跳ねる事なく、青年に左腕で押さえつけられてしまいました。
……青年の後ろには、体の半分が潰れ、ビクビクと痙攣している赤れいむが横たわっていました。
「はなせえぇぇぇぇっ!!れいむは『しんぐるまざー』なんだぞおぉぉぉぉっ!?やさしくしなきゃだめなんだあぁぁぁぁっ!!」
「……さなえは、お前には手を出すなって言ったんだよ」
「だったらなんでこんなことをしたんだあぁぁぁぁっ!?」
「まだ分からないのか?さなえは、お前『には』手を出すなって言ったんだよ」
「ゆっ……!?」
「お前のクソチビ共には手を出すな、なんて一言も言ってないんだよ」
「だったらなんでれいむをおさえつけてるんだあぁぁぁぁっ!?」
「……さなえはな、自分と同じ『しんぐるまざー』だから、お前に危害を加えるなとも言ったんだ」
「それじゃあどうして」
「……なぁ。……お前のクソチビ共は、今どうなっている?」
「……ゆ?」
……一体何を言っているんだこいつは。
お前が全員殺してしまったんだろうが。
れいむはそう言おうとしましたが……。
「そうだよ。僕が全員殺した」
「わかってるなら」
「つまり、お前はもう『しんぐるまざー』じゃない。……ただのでいぶだ」
「……はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?なにをいってるのおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「お前、『しんぐるまざー』の意味分かってるか?お前にはもうクソチビ共はいないだろうが。……だから、お前はもう母親なんかじゃないんだよ」
「……じゃ、じゃあ……」
「殺すよ?当然じゃん。でいぶなんだし」
青年は笑顔で、れいむにそう言いました。
青年は、さなえとの約束を忠実に守っていました。
……守ったうえで、今、このれいむを殺そうとしていました。
「……い……、いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?しにだぐだいぃぃぃぃっ!でいぶ、じにだぐだいよおぉぉぉぉ!?」
れいむは目や口や尿道から、色々な体液を流して暴れましたが、青年の腕から逃げ出す事は出来ませんでした。
「じゃあな。くそでいぶ」
青年は短くれいむにそう告げると、右腕を勢いよくれいむに振り降ろしました。
嫌だ。死にたくない。こんな所で死にたくない。
もっと美味しい食べ物を沢山食べるんだ。
もっと可愛い子供を作るんだ。
もっと快適なお家に住むんだ。
……もっと、ゆっくりするんだ。
助けて。誰かれいむを助けて。れいむは『しんぐるまざー』なんだよ。可哀想なんだよ。
まりさ。おちびちゃん。誰でもいいから、助けて。れいむを助けて。
……れいむはそう願いました。
……しかし、その願いがかなう事は、永遠にありません。
……何故なら、れいむは誰も心の底から愛していなかったから。
自分以外の誰かを、都合のいい道具としか見ていなかったから。
自分が『しんぐるまざー』である事に自惚れていたかったから。
……そんな身勝手なれいむを助ける者など、誰もいません。
……そして。
「だれがだずげでえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
……その事をれいむが理解する事も、永遠にないでしょう。
……それから数日後。
「ゆっくち!ゆっくち!」
「ふふ……」
青年の家の庭で、二匹のゆっくりが遊んでいました。
一匹目はさなえ。
そして二匹目は……。
「おきゃーしゃん!いっしょにあしょびましょう!」
……そう。さなえがお腹を痛めて産んだ子供でした。
れいむ達の一件があった次の日の夜に、さなえはお腹の中の子供を無事に出産したのです。
「はやきゅ!はやきゅ!このボールしゃんであしょびましょ!」
「ふふ……。はいはい、いまいきますからね」
二匹は青年が二匹の為に買った、小さなゴムボールを転がし合い、楽しそうに遊んでいました。
「……」
この家の家主である青年は縁側に座り、そんな二匹を穏やかな表情で見つめてました。
「おちびちゃん、いきますよ。それっ!」
さなえは自分の愛娘に、軽くゴムボールをコロコロと転がしました。
……そのゴムボールは愛娘の方へゆっくりと転がり……。
「ゆゆっ!こんどは『ありしゅ』のばんよ!」
さなえの愛娘……、ゆっくりありすはゴムボールを受け止め、元気よくそう言いました。
……さなえがありすを産んだ日の深夜。
青年は物音を立てないように、静かに廊下を歩いていました。
……青年は、さなえとありすが一緒に寝ている部屋へ向かっていました。
理由はもはや言わなくても分かるでしょう。
今の時刻は深夜の三時で、もう二匹とも寝ているだろうと青年は思っていました。
……そして、部屋の前に立ち、ゆっくりと、静かにドアを開け……。
「……ちょっといいですか?……おちびちゃん」
「ゆ?にゃに?おきゃーしゃん?」
……数センチ程ドアを開けた所で、青年の腕は止まりました。
「……まだ起きていたのか……」
……青年は再びドアを閉め、二匹が寝静まった頃にまた戻ろうとしましたが……。
「……おかあさんは、ほんとうにしあわせですよ」
「どうしちぇ?」
「きまってるじゃないですか。だって、あなたが、うまれてくれたんですもの」
「……っ」
さなえのその言葉を聞いた時、青年はその場から動く事が出来ませんでした。
「ありしゅが、うみゃれたきゃら……?」
「ええ。おかあさんは、あなたがうまれてくれて、ほんとうにうれしいんですよ」
「ゆぅ……。おきゃーしゃん……」
「なんですか?おちびちゃん?」
「……ありしゅのこと、……しゅき?」
「……すきではないですね」
「……え?」
「とってもだいすき、ですよ。おちびちゃん」
「……うん!ありしゅも、おきゃーしゃんのことが、だいしゅきだよ!」
「ふふ……」
二匹は互いの愛を確かめ合うように、すりすりと寄り添いました。
……ドアの向こうの青年は、その光景を確かめる事は出来ませんでしたが……。
青年は、そんな事をする必要は、ありませんでした。
「……お母さん……」
遠い遠い昔の記憶。
……その記憶の中の、優しかった母親の笑顔。
……そして。
(お母さんは、本当に幸せよ)
(どうして?お母さん?)
(決まってるじゃない。だって、あなたが、産まれてくれたんだから)
母が、自分に言ってくれた、その言葉を青年は思い返していました。
「……ごめんな。……本当に、ごめん。……ごめんよ……」
青年は、小さな声で、何度も何度も、そう言いました。
……その言葉が誰に向けられたものなのか、それは青年にしか分かりませんでした。
……そして今に至ります。
「二人とも!遊ぶのはそれ位にして、クッキーでも食べよう!」
「ゆわーい!クッキーしゃん!クッキーしゃん!」
「ほらほら、おちびちゃん。あんまりいそぐと、ころんじゃいますよ」
あるゆっくりは、『しんぐるまざー』になる決意をしました。
その選択が、本当に正しかったのかどうか、それは、そのゆっくりにも、誰にも分かりません。
ですが、これだけははっきりと言えるでしょう。
そのゆっくりは、この世で一番大切な、かけがえのないものを手に入れたという事を。
ガスッ!!ガスッ!!
「「さっさとなかにいれろおぉぉぉぉっ!!」」
ボスッ!ボスッ!
「「「かべしゃんはゆっくちしにゃいでちねぇぇぇぇっ!!」」」
ペチンッ。ペチンッ。
……そこは、ある街のある一軒家。
その家の縁側の窓ガラスに、口汚く喚き散らしながら、ゆっくり達が体当たりしていました。
成体サイズのれいむが一匹、そしてれいむ種の子ゆっくりが二匹と、赤れいむが三匹の計六匹。
れいむ種のオンパレードです。
このれいむ達は、親子なのでしょう。
人家に侵入して、お家宣言をしようとしています。
「れいむは『しんぐるまざー』なんだぞおぉぉぉぉっ!!れいむにいじわるするかべさんはさっさとしねえぇぇぇぇっ!!」
れいむは歯ぐきをむき出しにして、そう叫びました。
どうやら、れいむの番は何らかの理由で永遠にゆっくりしてしまい、それでれいむは『しんぐるまざー』になったのでしょう。
……しかし、それが自分達の行っている行動の免罪符になる訳がありません。
「なんでこわれないのおぉぉぉぉっ!?れいむは『しんぐるまざー』なんだから、やさしくしなきゃだめでしょおぉぉぉぉっ!?」
自分は『しんぐるまざー』なのだ。だからこの家でゆっくりするのは当然だ。なのに、この透明な壁は、れいむ達を中に入れようとしない。
……何てゲスだ!制裁してやる!
そう思いながら、れいむ達は何度も窓ガラスに体当たりしていました。
……そして、このれいむ達の肌は薄汚く、帽子や飾りは茶色い染みが付いていたり、破けていたりしており、一目で野良ゆっくりであると言う事が分かりました。
もし、この家に誰か人間がいれば、れいむ達はすぐに瞬殺されているでしょう。
しかしれいむ達にとって幸運な事に、この家の主である青年は、つい先程自分が勤めている会社へ出かけたばかり。
……ですが、当前の如く、玄関のドアはもちろん、窓の鍵もきちんと閉めてあるので、れいむ達は家の中へ入る事は出来ません。
それでもれいむ達は諦めません。
ここは自分達の家だ。自分達が入れないのはおかしい。こんなゲスな透明な壁は、自分達が制裁してやる!
そう思い、れいむ達は十分前から窓ガラスに体当たりをしていました。
れいむ達が喚き散らしている理由は二つありました。
一つは、窓ガラスが中々割れないのでイライラしている事。
そしてもう一つは……。
「ここはれいむのおうちだろうがあぁぁぁぁっ!!」
「「おうちをよこどりするゲスはしねえぇぇぇぇっ!!」」
「「「ゆっくちしにゃいでちねぇぇぇぇっ!!」」」
その家の中に、青年が世話をしている飼いゆっくりが家の中で留守番をしていたからです。
「い……、いや……」
その飼いゆっくり……、ゆっくりさなえは、透明なゲージの中で怯えていました。
何故、このさなえは透明なゲージの中に入れられているのか。
それは、さなえの今の状態が、普通の状態ではなかったからです。
さなえの腹部は、ポッコリと膨れていました。
……そう。さなえは自らのお腹の中に、小さな命を宿しているのです。
お兄さんはもしもの事があったら、という理由で、さなえとお腹の子供の安全の為にさなえをゲージの中に入れていたのです。
そして、そんな怯えているさなえを落ち着かせてくれるはずの番の姿は、どこにも見えませんでした。
……その相手は、もうこの世にはいませんでした。
つまり、さなえは、とある理由で『しんぐるまざー』になろうとしているのです。
「おちびちゃん……」
さなえは自分の膨れたお腹を見て、そう呟きました。
……そして、何故自分が『しんぐるまざー』になろうとしているのか。
さなえは、その過去を思い返していました。
これは、ある理由で『しんぐるまざー』となった、あるゆっくりの物語です。
「しんぐるまざー」
作者:ぺけぽん
今から二年前、さなえは青年の飼いゆっくりではなく、野良ゆっくりでした。
住んでいた場所は、とある路地裏の中の段ボールハウス。
当時のさなえはまだ赤ゆっくりで、さなえには、自分と同じさなえ種である母親がいました。
当然、野良ゆっくりの生活は楽なものではなく、むしろ、常に死と隣り合わせと言っていいでしょう。
ですが、さなえは一度も自分の境遇を辛いとは思いませんでした。
何故なら、自分の傍には、心優しい母親がいるのだから。
何時でも、どんな時でも、さなえは母さなえと喜びや悲しみを分け合って生きてきました。
……しかし。
「おきゃーしゃま……」
「はぁ……。はぁ……」
ある日の昼下がり。
段ボールハウスの中で、母さなえはグッタリとしており、息も荒れていました。
そんな母さなえを、さなえは心配そうに見つめていました。
母さなえは、赤ゆっくりであるさなえの食糧探しに奮闘していました。
ですが、いつも得られる食糧は少なく、その少ない食糧の七割をさなえに与えて、残りの三割を自分が食べていました。
当然、そんな事を続けていれば明らかに栄養失調になります。
ですが、母さなえは自分の大切な娘の為に、空腹を我慢して必死に食糧探しをしていました。
……しかし、もはや母さなえの体力は限界でした。
「ごめんなさい……。おちびちゃん……。おかあさんは、もう、だめです……」
そう言った母さなえの目は虚ろで、どこか遠くを見ているようでした。
「いやでしゅ……!そんにゃこと、いわないでくだしゃい……!」
「おちびちゃん……。……どう、か。……つよく、いき、てくださ、い……」
「……!?おきゃーしゃま!?」
「おか……さんの、ぶんま……で。……つよ……い……こに……なっ……て……。…………」
そう言い残し、母さなえはゆっくりと目を閉じました。
「おきゃーしゃまぁ……!!」
さなえは母さなえにすり寄りながら、ポロポロと涙を流し続けました。
……母さなえの目が再び開く事は、ありませんでした。
「……」
どれ位泣き続けたでしょうか。
さなえの目元は真っ赤になっていて、もはや流せる涙は全て枯れ果て、一滴もさなえの目から流れ落ちません。
「……」
それと同時に、さなえは母さなえの死を受け入れました。
これからは、自分だけで生きていかなければいけない。
……でも、どうやって?
はっきり言ってさなえはまだ赤ゆっくり。
赤ゆっくりがたった一匹で生きていけるほど、野良生活は甘くはありません。
他の野良ゆっくり。野良犬。野良猫。カラス。人間。
雨。風。気温。衛生環境。
それらの全てが敵と言っても過言ではありません。
親の庇護が無ければ、とても生きていけそうにはありません。
「……」
つまり、さなえのゆん生は、この時点で詰んだようなもの。
さなえは、赤ゆっくりでありながら、その現実を理解していました。
「……」
さなえは何かを悟ったような表情で、段ボールハウスから出ました。
「……おきゃーしゃま。……まっていてくだしゃいね」
母さなえの亡骸に、そう言いながら。
「……」
路地裏を抜けると、人通りの多い場所に出ました。
さなえの目の前では、様々な人間が忙しなく動いていました。
「……」
さなえはその人間達の中から、ある類の人間を探しました。
「チッ!あの糞上司、俺に責任押しつけやがって……!」
少し探した後、その類の人間を見つけました。
その人間の男は何か嫌な事があったらしく、ブツブツ文句を言いながら歩いていました。
「……っ!」
さなえは大急ぎで、その男の元へ跳ねて行きました。
「はぁ……。はぁ……」
「ん……?何だ、野良ゆっくりかよ。汚ぇなぁ……」
さなえはその男の足元に追い付きました。
そんなさなえを、男は汚い物でも見るような感じで、さなえを見ていました。
……そして、さなえはその男に、こう言いました。
「おい、そこのくしょじじい!さっさとさなえにあまあましゃんをもってこい!でしゅ!」
「あぁ!?今何て言ったこの糞饅頭!!もう一度言ってみろ!!」
「きこえなかったんでしゅか?あまあましゃんもってこいっていったんでしゅ!」
さなえは一体何を考えているのか、男に対して、殺して下さいと言わんばかりの暴言を吐きました。
「上等だこの糞饅頭が!!」
男はさなえを踏みつぶすべく、右足を振り上げました。
……ああ。これでいいんだ。
さなえは踏みつぶされそうになっている中で、そう考えていました。
……そう。さなえは人間に『わざと』殺される為に、あんな暴言を吐いたのです。
それも、機嫌が悪そうな人間をあえて選んで。
……これで、お母様の所へ行ける。
そう思い、さなえは目を閉じ……。
「ち、ちょっと待って下さい!」
「……ゆ?」
突然の第三者の声を聞き、再び目を開きました。
「あ?何だお前?」
さなえを踏みつぶそうとしていた男は、その声の持ち主にガンを飛ばしました。
「あの……。そのゆっくりを、どうするつもりですか……?」
男を制止したのは、二十代位の、痩せ気味の青年でした。
「決まってんだろ?この糞饅頭を潰すんだよ!」
「そのゆっくりが、あなたに何かしたんですか……?」
「うるせぇ!こいつはゲスなんだよ!だから潰す!文句あるかコラァ!?」
「……でしたら、僕にそのゆっくりを譲って貰えませんか?」
「……は?」
「……え?」
男もさなえも、一瞬青年が何を言っているのか分かりませんでした。
「お前、この糞饅頭を寄こせってのか?」
「はい。どうせ潰すんでしょう?だったら、僕に譲って下さい」
「……ケッ!好きにしろ!」
男は面白くないとばかりに地面に唾を吐き捨て、何処かへと行ってしまいました。
……その場には、青年とさなえだけが残りました。
「大丈夫だったかい?」
「えっ!?」
青年のその問い掛けに、さなえは戸惑ってしまいました。
「いやぁ、良かったよ。君が潰されずに済んで」
「……して」
「ん?」
「……どうして、さなえをたすけたんでしゅか……?」
「何でって、君はゲスじゃ無いだろ?僕はゆっくりを見る目はあるつもりなんだ」
「よけいなことをしないでくだしゃい!!」
さなえは青年に対して、大声で叫びました。
「おきゃーしゃまのところにいけるとおもってたのに!どうして!どうして!」
「……」
「さなえは……。さなえは、おきゃーしゃまに……。うっ……うぅ……!」
さなえは男をさらに罵倒しましたが、途中で嗚咽が止まらなくなり……。
「う……。うあぁぁぁぁっ……!!うわあぁぁぁぁんっ……!!」
とうとう涙腺が崩壊してしまいました。
二度と出る事は無いと思っていた自分の涙。
さなえは自分の目から伝う滴を止める事が出来ませんでした。
「……」
青年は泣き続けるさなえに手を伸ばし、そっと優しく手に乗せました。
「うっ……。うっく……」
十数分後。
泣き続けていたさなえは落ち着きを取り戻しました。
今、さなえは青年の手の上に乗せられている状態でした。
「落ち着いたかい?」
青年がさなえにそう尋ねました。
「……はい」
さなえは青年に、ただそう返答しました。
「一体、どうしてあんな事をしたんだい?」
「……」
「……迷惑じゃなかったら、僕に話してくれないかな……?」
「……はい」
さなえは、今までの出来事を青年に全て話しました。
自分には優しい母親がいた事。
その母親が永遠にゆっくりしてしまった事。
だから人間に殺されようとした事。
途中でさなえは何度か泣きそうになりましたが、それでも話を続けました。
「……そういうわけなんでしゅ……」
数分かけて、さなえの話は全て終わりました。
その間、青年はさなえの話を黙って聞いていました。
「……さなえ」
青年は先程よりも少し重く、真面目な口調でそう言いました。
「……なんでしゅか?」
「君が、お母さんの事がとても大好きだっていうのは分かったよ」
「……」
「……でもね、さなえ。……だからって、死んじゃ駄目だよ」
「……さなえは、おきゃーしゃまのところに……」
「それでお母さんが喜ぶか?自分の命を犠牲にしてまで君を育ててきたお母さんが、そんな事で喜ぶのか?」
青年は、さなえを諭すように、そう言いました。
「……にんげんしゃんに、なにが」
「分かるよ。僕もそうだったから」
「……え?」
一瞬、さなえは青年の言葉の意味を理解する事が出来ませんでした。
「……僕はね、小学校の頃、同級生に毎日虐められていたんだ」
「……にんげんしゃんが……?」
「うん。僕には優しいお母さんがいたんだ。でも、父親がいなかった」
「……!」
さなえは、自分と青年の境遇が似ている事に驚きました。
「毎日学校で言われたよ。『お前のお父さんは誰だ?』『どうせいないんだろ?』『お前は誰の子供だ?』……そんな事を毎日、言われたんだ」
「……ひどいでしゅ……」
「毎日が辛かった。死にたいと思ったよ。そんなくだらない事で虐められて。……もう、うんざりだったんだ」
「……」
「僕の味方はお母さんだけだった。お母さんは、僕の事を何度も慰めてくれた」
「……やさしいおきゃーしゃまなんでしゅね」
「……でもね。……僕が十歳の頃に、お母さんは死んだんだ」
「えっ!?」
「……病気だった。……お母さんは、体が弱かったんだ。仕事をして、女手一つで僕を育てて……。……相当苦しかったと思う」
「……」
「その後、僕は親戚の家に引き取られたんだ」
「……」
「何度も死にたいと思ったよ。何度も、お母さんに会いたい。お母さんの所に行きたいって思った」
「……」
「でもね。僕は今でもこうしてちゃんと生きている。……何でだか分かるかい?」
「……わかりましぇん」
「……病院で、お母さんが、死ぬ前に僕にこう言ったんだ」
「『強い子になって』ってね」
「……っ!」
同じだ。
「だから、僕はその日から、強く生きる事を誓ったんだ」
私と同じだ。
「辛い時や悲しい時には、お母さんの笑顔を思い出して、耐えてきたんだ」
この人間さんは。
「……本当に、感謝しているよ。お母さんがいたから、僕はこうして生きていられるんだから」
「……おなじでしゅ」
「ん?」
「……さなえも……、おなじでしゅ……」
『……つよ……い……こに……なっ……て……』
私と、同じ言葉を言われたのだ。
「……にんげんしゃん」
「何だい?」
「……さなえは、まちがっていました……」
さなえは、自分が行おうとしていた行為に対し、深く反省していました。
「……ありがとうございましゅ。……にんげんしゃん」
「……そっか。分かってくれて嬉しいよ」
「……それじゃあ、にんげんしゃん。……さなえを、おろしてもらえましゅか?」
「どうして?」
「……さなえは、これからひとりでがんばっていきていきましゅ。……たいへんだとは、おもいましゅが……」
「……なぁ、さなえ。僕の飼いゆっくりにならないか?」
「……そのきもちはうれしいでしゅ。……でも……」
「はっきり言って、とても今の君には野良生活を過ごせるとは思えない」
青年はさなえに、はっきりとそう言いました。
「……にんげんしゃんに、めいわくをかけるわけにはいかないでしゅ……」
「大丈夫だって。僕は何も困らないよ」
「……でも……」
「さなえ。君さえ良ければ……、僕を『ゆっくり』させてほしいんだよ」
『ゆっくり』させてほしい。
それは、ゆっくりにとって何よりも一番嬉しい言葉でした。
「……さなえでも……。……にんげんしゃんを、ゆっくりさせられるんでしゅか……?」
「うん。君と一緒にいると、とてもゆっくりできるよ」
青年は笑顔でそう言いました。
その笑顔を見たさなえは……。
「……わかりました。……さなえでよければ……。……ゆっくりしていってくだしゃいね!」
同じように、青年で笑顔でそう答えました。
……お母様。
……さなえは、この人間さんと一緒に生きます。
……人間さんは、さなえと一緒にいるとゆっくり出来ると言ってくれました。
……だから、さなえは、人間さんに恩返しします。
……どうか、見守って下さい。……お母様。
さなえは、空を見上げました。
見上げた空の向こうの先にいるであろう、母さなえの笑顔を想いながら。
……こうして、さなえは青年の飼いゆっくりとなりました。
さなえは母親の死を乗り越え、新しいゆん生を歩んでいました。
……それはつまり、新しい『不幸』が、さなえを待ち受けているという事でもありました。
今から二週間前の事……。
「それじゃあ、さなえ。行って来るね」
「はい。いってらっしゃい。おにいさん」
青年はいつも通り、自分が勤めている会社へ出勤し、それをさなえが見送りました。
青年が出かけた事を確認したさなえは、居間へと跳ねて行きました。
「ひまですねぇ……。テレビさんでもみますか」
さなえは近くに置いてあったテレビのリモコンを咥え、器用に電源のボタンを押しました。
『ハハッ!よいこのみんな、こんにちは!ネズミーランドのなずーりんだよ!』
『誰でも出来る、ゆっくりクッキング!今日は、赤ぱちゅりーと赤ありすを使ったカスタードプリンのレシピをご紹介します!』
『只今現場と中継が繋がっています。現場のきめぇ丸さーん!……あれ?電波の繋がりが悪いようですね……』
『愛でお兄さんのゆっくり講座!第三回目は、飼いゆっくりの正しい躾の仕方です!』
「う~ん……。きょうはあまりおもしろそうなばんぐみはなさそうですねぇ……」
さなえはテレビのチャンネルを何度か変えましたが、さなえの好きそうな番組は放送されていませんでした。
「こんなときは、おひるねするのがいちばんですね」
さなえは居間に置いてある、自分用のクッションの上に乗っかりました。
「すう……。すや……」
その日は天気がよく、程良い暖かさだった為、さなえはすぐに寝息を立て始めました。
「すう……。すう……」
ドッ!ガッ!
「……!……おぉ……!」
「すやすや……」
バンッ!バンッ!
「……ん……ほぉ……!!」
「すう……。くう……」
さなえは本当に気持ちよさそうに、すやすやと寝ていました。
ガシャアンッ!!
「んほおぉぉぉぉっ!!」
……何かが割れる音と、耳障りな、品性の欠片もない鳴き声の両方を聞くまでは。
「……!?な、なんなんですか!?あなたは!」
目が覚めたさなえは、目の前の光景を疑いました。
自分が寝ている間に、いつの間にか窓ガラスが割れており、目の前に薄汚い野良ゆっくりが家の中に侵入しているのですから。
そして何より、さなえにとって最悪な事は……。
「んほおぉぉぉぉっ!!なかなかのびゆっくりねえぇぇぇぇっ!!」
その侵入者であるゆっくりが、レイパーありすだった事です。
もし、れいむやまりさなどだったら、一対一の勝負ならば撃退できる可能性があったのですが、レイパーありすとなれば、そうもいきません。
このレイパーありすは、最近近くの飼いゆっくりばかりを狙った、レイパーの常習犯でした。
「とかいはなありすが、とかいはなあいをそそいであげるわあぁぁぁぁっ!!」
自称、都会派(笑)ありすは、さなえに飛びかかりました。
「いっ、いやあっ!?」
さなえは逃げる暇も無く、ありすに押さえつけられてしまいました。
……そして。
「んほおぉぉぉぉっ!!なかなかいいぐあいねえぇぇぇぇっ!!」
「いやあぁぁぁぁっ!!やめてえぇぇぇぇっ!!」
哀れ、さなえはありすの毒牙の餌食になってしまいました。
さなえは、自分の下腹部に、何かおぞましい物を挿入されているのを感じていました。
それが一体何なのか、さなえは頭の中では分かっていながらも、それを認めたくなかったのです。
「そろそろでるわあぁぁぁぁっ!!」
「いや……、いやぁ……。やめてぇ……」
それだけは止めてほしい。
さなえはレイパーありすに、そう懇願しました。……しかし。
「んほおぉぉぉぉっ!!すっきりぃぃぃぃっ!!」
……無情にも、レイパーありすの種子は、さなえの中に注がれました。
「あ、ああ……」
放心状態のさなえのお腹は、ポッコリと膨れていました。
呆然としながらも、さなえは理解していました。
たった今、自分のお腹の中に、このレイパーありすの子供が宿った事に。
「んほほぉっ!!にかいせんといくわよおぉぉぉぉっ!!」
そんなレイパーありすの大声が、放心状態のさなえの意識を現実へと引き戻しました。
……このままじゃ、殺される。
「んほおぉぉぉぉっ!!」
……そんなのは、嫌だ!
そう考えたさなえの取った行動は……。
ガブッ!!
「んぎゃあぁぁぁぁっ!?」
レイパーありすの脅威の象徴でもあり、弱点でもある……、ぺにぺにに噛み付く事でした。
「いぎゃあぁぁぁぁっ!?ありずのどがいはなべにべにがあぁぁぁぁっ!!」
「はぁ……。はぁ……」
ゆっくりのぺにぺになど、はっきり言って、市販のキャンディーよりも脆い物。
レイパーありすのぺにぺには、さなえに噛み千切られ、少し離れた所に転がっていました。
「いだいぃぃぃぃっ!!だれがだずげでえぇぇぇぇっ!!」
レイパーありすは、今までのゆん生の中で一度も味わった事の無い凄まじい痛みに襲われ、転げまわっていました。
さなえは、そのチャンスを見逃しませんでした。
ガブリッ!!
「ぐぎゃあぁぁぁぁっ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
さなえはレイパーありすの下腹部にもう一度、その傷をさらに抉るように噛み付きました。
「ぼうやべでえぇぇぇぇっ!!」
レイパーありすの命乞いは、今のさなえの頭の中にはこれっぽちも入っていませんでした。
ここで躊躇すれば、自分が殺される。
その一心で、さなえはトドメとばかりに、思い切りレイパーありすの傷口を広げました。
「あぎいぃぃぃぃっ!?」
その広がった傷口からは、レイパーありすの命のカスタードクリームがドクドクと漏れ出し始めました。
「ぼ、ぼっど……、ずっき、り……じだがっだ……」
そんなレイパーらしい遺言を残し、レイパーありすは永遠にゆっくりしました。
「う……、あっ……」
さなえは、自分がレイパーの子供を妊娠した事と、同族の中で禁忌とされている、ゆっくり殺しを実行した事の両方のショックで、気絶してしまいました。
数時間後……。
「ただいまー。さなえー、ケーキ買ってきた……、……!?さなえ!さなえ!どうした!?」
会社から帰宅し、さなえがいる居間へ向かった青年は、居間の惨状を目の当たりにしました。
そして、ピクリとも動かないさなえに走り寄り、さなえに何度も呼びかけました。
「う……。お、おにいさん……」
「しっかりしろ!一体何があったんだ!?」
「は……、はい……」
……さなえは、昼間の出来事を青年に全て説明しました。
「……そうだったのか。……さなえ。今すぐゆっくりニックに行こう」
「……」
「今ならまだ間に合う。早くお腹の子供を堕ろしてもらうんだよ」
「……」
「待ってて。今準備を……」
「……まってください、おにいさん」
「大丈夫だよ、きっとお医者さんは痛くしないで」
「……おなかのなかのあかちゃんは、……このままうみたいです」
「……え?……もう一度言ってくれないか、さなえ……」
「うみます。さなえは、……あかちゃんを、うみたいです」
「さなえ!一体何を言ってるんだ!?お前のお腹の中の子供はレイパーの子なんだぞ!?」
青年はさなえの言った言葉が信じられませんでした。
それもそうでしょう。
自分の飼いゆっくりが、レイプされたばかりか、そのレイパーの子を産むと言うのですから。
「はい。……それでも、うみます」
「駄目だ!僕はそんなのは許さない!レイパーの子供を産むなんて……!」
「……たしかに、おなかのなかのあかちゃんは、レイパーのこどもです……」
「だったら何で……!」
「あかちゃんはなにもわるくありません……。なにもわるくないんです」
「っ……」
「なにもわるくないのに……。ころすなんて、そんなことは……、できません……。……さなえには、できません……」
「……さなえ……。……分かった。……だったら、お前と同じさなえ種の子供だけ育てよう。お前も、それが一番いいんだろ?」
青年は、今のさなえにとって一番の選択と思われるだろう提案をしました。
「……おにいさん。……それじゃ、だめなんです……」
……ですが、その提案も却下されてしまいました。
「さなえ、一体何が駄目なんだ?お前と同じ種類の子供は育てていいって言ってるんだぞ?」
青年は何故さなえがそれでは駄目だと言ったのか、理解できませんでした。
……そして、青年は次の瞬間、その意味を嫌と言うほど理解する事になります。
「……うまれてきたのが、ありすでも、……わたしは、そのあかちゃんをそだてたいんです」
「……さなえ……?お前、何を言ってるんだ……?」
青年がそう言うのも無理はありません。
レイパーと同じ種類であるありすが産まれても、そのありすも育てると言うのですから。
「……おなじしゅるいとか、ちがうしゅるいとか……。……そういうもんだいでは、ないんです……」
「だって、お前……!」
「おなじ、たいせつなあかちゃんなんです。……しゅるいなんか、かんけいないんです……」
「……駄目だ!それだけは絶対に駄目だ!さなえ!それだけは絶対に許せない!」
「おねがいです……。おにいさん……」
「駄目だ!絶対に駄目だ!」
青年は、駄目だ駄目だの一点張りでした。
そんな選択は、絶対にさなえにとって不幸しか生まれない。
青年はそう信じていました。
もし、さなえ種ならまだしも、ありす種が産まれたら……。
もし、そのありすがレイパーの血を強く継いでいたら……。
もし、そのありすがある日突然レイパー化してしまったら……。
もし、そのありすが母親であるさなえに襲いかかったら……。
青年はその先の結末を想像する事が出来ませんでした。
「さなえ!そんな事をしたら絶対に後悔するぞ!?僕はお前に不幸になってほしくないんだよ!」
「ぜったいにこうかいなんかしません!」
青年のその言葉を、さなえは強くそう否定しました。
「さなえは!おかあさんなんです!このあかちゃんの……!……おかあさんなんです!」
「……」
さなえのその言葉に、青年は黙ってしまいました。
「……さなえは……!……さなえのおかあさまとおなじ……、おかあさんになったんです……!」
「……」
「それなのに……!さなえがあかちゃんをころして……、どうなるっていうんですか……!」
「……」
「さなえには……!このあかちゃんのゆんせいをうばうけんりなんかないんです!」
「……」
「おねがいです……!おにいさん……!あかちゃんを……!あかちゃんを、ころさないでください……!」
さなえは大粒の涙を流しながら、何度も何度も青年に頭を下げました。
「……分かったよ。……さなえ」
「!」
「僕の負けだよ。……お腹の中の子供がありすでも、……育ててもいいよ」
「あ、ありがとうございます……!ありがとうございます……!」
「……それじゃあさなえ。僕はこの居間を片づけるから、別の部屋に移すね」
「はい……。ありがとうございます、おにいさん……」
青年は普段よりも重くなったさなえを抱え、隣の部屋へ歩き出しました。
(……ごめんな、さなえ……。……やっぱり、僕は許せないよ)
……青年は、さなえに嘘を吐いていました。
さなえの頼みでも、どうしてもありす種の子供をそのまま育てさせる事は危険だと思っているからです。
青年はさなえ種だけ産ませて、後でありす種を処分しようと考えていました。
……それが、さなえの為。
さなえも、きっと分かってくれる。
「おちびちゃん、ゆっくりしていってくださいね……」
……自分のお腹の中の子供にそう話しかけるさなえを見て、青年は自分の胸が締め付けられるような思いをしていました。
……そして今に至ります。
「……だいじょうぶですからね……、おちびちゃん……」
さなえは震えながらも、お腹の中の子供にそう話しかけました。
(こわいです……!たすけてください、おにいさん……!)
今のさなえに出来る事は、青年が早く帰ってくる事を祈るだけでした。
「ゆがあぁぁぁぁっ!!しねえっ!しねえぇぇぇぇっ!!」
「「しねえぇぇぇぇっ!!」」
「「「ちねえぇぇぇぇっ!!」」」
ドスッ!ガッ!ドガッ!ドガッ!
外のれいむ達は何度も窓ガラスに体当たりをしています。
「ゆぐうぅぅぅぅっ!このままじゃらちがあかないよっ!」
れいむはこのままではただ闇雲に体力を消費するだけだと思ったのか、一旦窓ガラスから離れました。
そして、れいむは辺りを見回し……。
「ゆっ……!ゆふふっ!いいものをみつけたよ!」
れいむは何かを見つけたようで、その何かを口で咥えました。
……それは、人間の子供の拳大程の大きさの石でした。
「ゆふふっ!これならあのゲスなかべさんをせいっさいっできるよ!」
石を使えばあの透明な壁も壊せる!
れいむはニタニタ笑いながら、そう確信しました。
……そして。
「ゲスでとうめいなかべさんはしねえぇぇぇぇっ!」
そう大声で叫び、れいむは石を咥えながら窓ガラスに飛びかかり、石が窓ガラスに当たった瞬間……。
ボキッ!
「ゆびゃあぁぁぁぁっ!?いだいぃぃぃぃっ!!」
れいむは突然の激痛に転がり出しました。
……親いむの前歯は数本折れており、近くに落ちていました。
れいむは訳が分かりませんでした。
「れいむのきれいなはがあぁぁぁぁっ!?」
この石を使えば、透明な壁を壊す事が出来るのに、どうして自分が怪我をしているんだ!
……れいむは知りませんでしたが、二週間前に、この家はレイパーありすに侵入されています。
その際に青年は窓ガラスをゆっくり対策用のガラスに取り換えていました。
当然、この窓ガラスの強度は普通のガラスよりも格段に上がっています。
そんな窓ガラスに石を咥えてぶつかれば、ゆっくりの脆い歯など簡単に折れます。
つまり、れいむ達にこの窓ガラスを割る事など、最初から不可能だったのです。
「ゆぎぎいぃぃぃぃっ!!このくそかべがあぁぁぁぁっ!!れいむのうつくしいはをかえせえぇぇぇぇっ!!」
しかしその事実を知らないれいむ達は体当たりを続けました。
数分後……。
「ゆひぃ……。ゆひぃ……」
「「つかれたよぉ……」
「「「きゃらだがいたいよぉぉぉぉ……」」」
ゆっくりのスタミナなどたかが知れています。
れいむ達はあっと言う間にダウンしていました。
「ゆぎぃ……!おちびちゃんたち!すこしだけやすんだら、またかべさんにたいあたりするよ!」
れいむは自分の子供達にそう言いました。
……しかし、れいむ達が再び窓ガラスに体当たりする事はありませんでした。
……何故なら。
「……何をやってるんだ……?お前達……!」
「「「「「「ゆっ!?」」」」」」
自分達の背後に人間……、この家主の青年が立っていたのですから。
れいむ達がダウンしたのと同時に、青年が会社から帰宅し、家の前に立っていました。
……もし、れいむが石で窓ガラスを割る事に失敗していた時点で諦めて帰っていれば、れいむ達は青年に見つかる事はなかったでしょう。
「みてわからないの!?れいむたちはこのおうちにはいろうとしているんだよ!」
「「ばかなの!?しぬの!?」」
「「「びゃーか!びゃーか!」」」
れいむ達は野良ゆっくりにも関わらず、人間の恐ろしさを根本的に理解していませんでした。
本当に、何故それで今まで生きてこられたのかが不思議です。
れいむ達は最初から人間が帰って来た時の事など全然考えておらず、その為の時間配分など全く頭の中に入っていませんでした。
「……ここは僕とさなえの家だ。お前達の家じゃない。……今なら見逃すから、出ていけ」
青年はれいむ達にそう警告しました。
……ですが。
「なにいってるの!?ここはれいむたちのおうちだよ!!」
「「ゆっくりりかいしてね!!」」
「「「じじいはちねぇ!」」」
れいむ達は聞く耳持たずで、自分達が今危険な立場にある事など全く理解していませんでした。
「……分かった。……だったら、潰す」
口で説得する事を諦めた青年は、れいむ達をその場で潰すべく足を上げて……。
「!」
れいむ達を踏む事は出来ませんでした。
「うっ……!あ、ああっ……!いた……い……っ……!!」
何故なら、窓ガラスの向こうのゲージの中にいるさなえが苦しんでいる姿を見てしまったからです。
「さなえっ!」
青年はれいむ達を放置したまま、玄関へと走り、さなえのいる居間へと大急ぎで向かいました。
「さなえ!しっかりしろ!」
青年はさなえをゲージの中から出して、抱きかかえました。
「お、おにい、さん……」
「しっかりしろ!痛みは酷いか!?産まれそうか!?」
「はぁ……、はぁ……。……ふぅ……。……だいじょうぶです……。……だいぶ、おちつきました……」
「そうか……。大丈夫だったんだな……」
さなえのその言葉に、青年は安堵しました。
「ゆっふっふ!ようやくなかにはいれたよ!」
「「ゆわ~い!とってもひろいね!」」
「「「ゆっくちできりゅにぇ!」」」
「!?」
耳障りな声に驚いた青年が振り向くと、そこにはれいむ達がいました。
……青年はかなり慌てており、玄関のドアを開けっ放しにしていました。
れいむ達はそこから中に入ったのでしょう。
「……!!」
青年は一秒でも早くれいむ達を家の中から追い出そうとしましたが……。
(……落ち着け。……さなえを安全な場所に移してからだ……)
今はさなえの身の安全が第一。
青年はゲージの中に再び入れれば安全かと思いましたが、今のさなえに余り手荒な光景を見せるのは悪影響だと判断しました。
「……待ってろ、さなえ。今、隣の部屋へ連れて行くからな」
「すみません……、おにいさん……」
青年はさなえを抱えて隣の部屋へ走りました。
「ゆゆ~ん!くそにんげんがにげていくよ!」
「「れいむたちのこわさにおそれおののいたんだね!」」
「「「ゆっくち~!」」」
……背後から聞こえるれいむ達の声を聞き、歯ぎしりしながら。
「……多分、これで大丈夫だと思うけど……」
隣の部屋へさなえを移した青年は、さなえの体を柔らかいクッションで支えました。
そして、いつ子供が産まれてもいいようにさなえの産道口の少し前にもクッションを置きました。
こうする事で、産まれた子供がそのまま壁や床に激突する事を防ぐ事が出来ます。
「はぁ……。はぁ……」
「待ってろ、さなえ。あのゆっくり達を追い出してくるから」
青年はあのれいむ達を叩きだすべく居間へ戻ろうとしました。
「ま、まってください、おにいさん……」
「どうした、さなえ?どこか痛むのか?」
「……いえ……、……どうか、あのれいむさんに、……あまり、ひどいことをしないでください……」
「……どうして、そんな事を言うんだ?」
「……え?」
「あのれいむ達は、お前を危険な目に合わせようとしたんだぞ?なのに、何でそんな事を言うんだ?」
「……れいむさんは、……さなえとおなじ、『しんぐるまざー』だとおもうんです……」
「……」
「れいむさんは、きっと、ごはんさんがたりなくなって……、……おちびちゃんたちのために、しかたなくやったことだとおもうんです……」
「……」
「……おねがいです、おにいさん……」
「……分かった。約束は守るよ。あのれいむには危害を加えない。それでいいんだろ?」
「……ありがとうございます、おにいさん……。……さなえは、すこしつかれました……」
青年が自分の願いを聞き届けてくれた事で緊張の糸が切れたのか、さなえは寝息を立て始めました。
「……お休み、さなえ」
青年はさなえの頭をそっと撫でて、部屋を出ました。
青年は居間へ戻ると……。
「ゆゆ~ん!おちびちゃんたち!とってもゆっくりしてるよぉ~!」
「「ゆぴー……、ゆぴー……」」
「「「ゆわ~い♪」」」
やはりと言うべきか、そこにはまだれいむ達がいました。
「……お前達。……どうしても、この家から出ていくつもりはないのか?」
青年はれいむ達にそう言いました。
「ゆふふっ!くそじじいはいったいなにをいってるの?」
「「れいむのすーぱーすーやすやたいむをじゃまするじじいはせいさいしてやるよ!」」
「「「しぇーしゃい♪しぇーしゃい♪」」」
「……れいむ。さなえは、僕にお前には危害を加えないでくれって頼んだんだ。だから……」
「はあぁぁぁぁっ!?なにをいってるのおぉぉぉぉっ!!ここはれいむたちのおうちでしょおぉぉぉぉっ!?さなえはなにさまのつもりなのおぉぉぉぉっ!?」
「「ふざけたことをいわないでね!」」
「「「ちね!ちね!ちね!」」」
……もはや、青年とれいむ達の会話は破綻しまくりで、交渉とは呼べませんでした。
「……なぁ。僕はお前に危害を加えるつもりは……」
「うるさいよ!ごちゃごちゃいうと、あのクズさなえをぶちころすよ!?」
「……今、何て言った?」
青年は平静を装いながら、れいむにそう尋ねました。
「ばかなの!?しぬの!?なんでりかいできないの!?おとなしくいうことをきかないと、あのクズさなえをころすっていったんだよ!」
「あのクズさなえ、にんっしんっしていたね!おなかのクソチビもいっしょにころしちゃおうよ!」
「きっと、レイパーにでもれいぽぅされてできたこどもだよ!そうでもしなきゃ、こどもなんてできないよ!」
「ぶしゃいくだからにぇ!」
「おお、あわりぇあわりぇ!」
「クジュさなえなんて、しぇーしゃいしてやるよ!」
「……そうか」
青年はただ短く、そう答えて……。
ビチャッ。
「ゆぴゃ」
自分に一番近かった赤れいむを足で踏みつぶしました。
「「「「「ゆ……?」」」」」
自分の家族の一匹を目の前で潰されたれいむ達は、一体何が起きているのか分からず、餡子脳がフリーズしてしまい、固まってしまいました。
「「「「「ゆ……、ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
……れいむ達がようやく叫び声を上げたのは、それから数秒後の事でした。
「「れいむのいもうとがあぁぁぁぁっ!?」」
「「ゆんやあぁぁぁぁっ!?」」
子・赤れいむ達はパニックになり、喚き散らしました。
「黙れ」
グシャッ!
「ゆびゃあ」
そんなれいむ達の叫び声を癪に思った青年は、子れいむの内の一匹を鷲掴みにして壁に叩きつけました。
子れいむは餡子の染みとなり、元の原型を留めていませんでした。
「なにをしているのおぉぉぉぉっ!?れいむたちには、ひどいことをしないんじゃないのおぉぉぉぉっ!?」
……話が違う!このクソジジイは、自分達に危害を加えない筈だ。
自分の子供を僅か数秒で二匹も殺されたれいむはそう叫びました。
グチャアッ!
「ぴぃ」
「ぴゃっ」
青年は何も答えず、その場から逃げようとした子れいむを掴み、赤れいむに投げつけました。
投げられた子れいむは赤れいむにクリーンヒットし、赤れいむは餡子の染みとなりました。
子れいむは床にぶつかった衝撃で、自分の体の三分の二が潰れ、餡子の塊となりました。
「あ、あぁぁぁぁ……」
新たに子供を二匹殺されてしまったれいむは、ようやく理解しました。
自分達は、この家に入るべきではなかったと。
逃げなければ。何としても、この家から……、この人間から逃げなければ。
れいむは何とか無事に逃げる手段を考えました。
「ゆえぇぇぇぇんっ!?たしゅけておきゃーしゃあぁぁぁぁんっ!」
れいむの子供の最後の生き残りである赤れいむが、れいむに助けを求めて跳ね寄りました。
……その赤れいむを見て、れいむは閃き……、……実行に移しました。
「うるさいよっ!」
ドンッ!
「ゆぴいぃぃぃぃっ!?」
れいむは自分に跳ね寄って来た赤れいむを、青年の方へ突き飛ばしました。
「ゆふふふっ!れいむはにげのびるよ!くそちびはおとりになってね!」
……そう。れいむは、自分の子供を囮にして逃げるつもりなのです。
「ふじゃけるなあぁぁぁぁっ!こにょくしょびゃびゃあぁぁぁぁっ!!」
あっさりと見捨てられた赤れいむはれいむにそう喚き散らしました。
「うるさいよ!やっぱり、くそまりさのこどもは、クソチビだったってことだね!れいむにそんなことをいうクソチビは、ゆっくりしんでね!」
……実はこのれいむは、自分で子供達を産んだ訳ではないのです。
れいむには番である、夫のまりさがいました。
ある日、れいむはまりさに、子供が欲しいと言ってすっきりー!しようとしました。
しかし、まりさは食いぶちが増えて、今の生活が苦しくなるから駄目だと言いました。
……そんなまりさの言い分をれいむは無視し、無理矢理すっきりー!しました。
……結果、れいむではなく、まりさが胎生型にんっしんっをしてしまいました。
……それだけならまだよかったのですが、れいむはまりさにその状態で食糧探しに行くようまりさに命じたのです。
普段からまりさが食糧を集める役割だったのですが、そんな状態での食糧探しは困難を極めます。
まりさはれいむが食糧探しに行くよう懇願しましたが、れいむはまりさを無理矢理食糧探しへ行かせました。
……まりさは何とか最低限食える分だけの食糧を集め、出産の日が近づくまで我慢しました。
……そして、一週間程経ち、まりさは二匹の赤れいむを出産しました。
これで、この苦しみも終わると、まりさは思っていましたが……。
何と、れいむは出産が終わったばかりのまりさに襲いかかり、再びすっきりー!してしまったのです。
しかも、今度は植物型にんっしんっ。
食糧探しと出産の痛みで疲労がピークに達していたまりさは、それから数日後に赤ゆっくり達を産み落とした直後、永遠にゆっくりしてしまいました。
しかも、れいむは自分と同じれいむ種の赤ゆっくりだけを残して、まりさ種を全て潰してしまったのです。
こんな役立たずのまりさと同じ子供などいらない。
自分の可愛い子供達と一緒に、まりさの亡骸を食べていたれいむはそう思いました。
……それが、れいむが『しんぐるまざー』になった理由です。
もはや自分勝手を通り越して、ゲスの塊とも言えるこのれいむは、自分の子供が殺されそうだと言うのに、ニタニタ笑っていました。
役立たずなまりさの子供でも、こういう時は役に立つ。
れいむはその場から逃げようと後ろを振り返り……。
「逃がすかよ」
ガシッ!
「ゆひっ!?」
一歩も跳ねる事なく、青年に左腕で押さえつけられてしまいました。
……青年の後ろには、体の半分が潰れ、ビクビクと痙攣している赤れいむが横たわっていました。
「はなせえぇぇぇぇっ!!れいむは『しんぐるまざー』なんだぞおぉぉぉぉっ!?やさしくしなきゃだめなんだあぁぁぁぁっ!!」
「……さなえは、お前には手を出すなって言ったんだよ」
「だったらなんでこんなことをしたんだあぁぁぁぁっ!?」
「まだ分からないのか?さなえは、お前『には』手を出すなって言ったんだよ」
「ゆっ……!?」
「お前のクソチビ共には手を出すな、なんて一言も言ってないんだよ」
「だったらなんでれいむをおさえつけてるんだあぁぁぁぁっ!?」
「……さなえはな、自分と同じ『しんぐるまざー』だから、お前に危害を加えるなとも言ったんだ」
「それじゃあどうして」
「……なぁ。……お前のクソチビ共は、今どうなっている?」
「……ゆ?」
……一体何を言っているんだこいつは。
お前が全員殺してしまったんだろうが。
れいむはそう言おうとしましたが……。
「そうだよ。僕が全員殺した」
「わかってるなら」
「つまり、お前はもう『しんぐるまざー』じゃない。……ただのでいぶだ」
「……はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?なにをいってるのおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「お前、『しんぐるまざー』の意味分かってるか?お前にはもうクソチビ共はいないだろうが。……だから、お前はもう母親なんかじゃないんだよ」
「……じゃ、じゃあ……」
「殺すよ?当然じゃん。でいぶなんだし」
青年は笑顔で、れいむにそう言いました。
青年は、さなえとの約束を忠実に守っていました。
……守ったうえで、今、このれいむを殺そうとしていました。
「……い……、いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?しにだぐだいぃぃぃぃっ!でいぶ、じにだぐだいよおぉぉぉぉ!?」
れいむは目や口や尿道から、色々な体液を流して暴れましたが、青年の腕から逃げ出す事は出来ませんでした。
「じゃあな。くそでいぶ」
青年は短くれいむにそう告げると、右腕を勢いよくれいむに振り降ろしました。
嫌だ。死にたくない。こんな所で死にたくない。
もっと美味しい食べ物を沢山食べるんだ。
もっと可愛い子供を作るんだ。
もっと快適なお家に住むんだ。
……もっと、ゆっくりするんだ。
助けて。誰かれいむを助けて。れいむは『しんぐるまざー』なんだよ。可哀想なんだよ。
まりさ。おちびちゃん。誰でもいいから、助けて。れいむを助けて。
……れいむはそう願いました。
……しかし、その願いがかなう事は、永遠にありません。
……何故なら、れいむは誰も心の底から愛していなかったから。
自分以外の誰かを、都合のいい道具としか見ていなかったから。
自分が『しんぐるまざー』である事に自惚れていたかったから。
……そんな身勝手なれいむを助ける者など、誰もいません。
……そして。
「だれがだずげでえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
……その事をれいむが理解する事も、永遠にないでしょう。
……それから数日後。
「ゆっくち!ゆっくち!」
「ふふ……」
青年の家の庭で、二匹のゆっくりが遊んでいました。
一匹目はさなえ。
そして二匹目は……。
「おきゃーしゃん!いっしょにあしょびましょう!」
……そう。さなえがお腹を痛めて産んだ子供でした。
れいむ達の一件があった次の日の夜に、さなえはお腹の中の子供を無事に出産したのです。
「はやきゅ!はやきゅ!このボールしゃんであしょびましょ!」
「ふふ……。はいはい、いまいきますからね」
二匹は青年が二匹の為に買った、小さなゴムボールを転がし合い、楽しそうに遊んでいました。
「……」
この家の家主である青年は縁側に座り、そんな二匹を穏やかな表情で見つめてました。
「おちびちゃん、いきますよ。それっ!」
さなえは自分の愛娘に、軽くゴムボールをコロコロと転がしました。
……そのゴムボールは愛娘の方へゆっくりと転がり……。
「ゆゆっ!こんどは『ありしゅ』のばんよ!」
さなえの愛娘……、ゆっくりありすはゴムボールを受け止め、元気よくそう言いました。
……さなえがありすを産んだ日の深夜。
青年は物音を立てないように、静かに廊下を歩いていました。
……青年は、さなえとありすが一緒に寝ている部屋へ向かっていました。
理由はもはや言わなくても分かるでしょう。
今の時刻は深夜の三時で、もう二匹とも寝ているだろうと青年は思っていました。
……そして、部屋の前に立ち、ゆっくりと、静かにドアを開け……。
「……ちょっといいですか?……おちびちゃん」
「ゆ?にゃに?おきゃーしゃん?」
……数センチ程ドアを開けた所で、青年の腕は止まりました。
「……まだ起きていたのか……」
……青年は再びドアを閉め、二匹が寝静まった頃にまた戻ろうとしましたが……。
「……おかあさんは、ほんとうにしあわせですよ」
「どうしちぇ?」
「きまってるじゃないですか。だって、あなたが、うまれてくれたんですもの」
「……っ」
さなえのその言葉を聞いた時、青年はその場から動く事が出来ませんでした。
「ありしゅが、うみゃれたきゃら……?」
「ええ。おかあさんは、あなたがうまれてくれて、ほんとうにうれしいんですよ」
「ゆぅ……。おきゃーしゃん……」
「なんですか?おちびちゃん?」
「……ありしゅのこと、……しゅき?」
「……すきではないですね」
「……え?」
「とってもだいすき、ですよ。おちびちゃん」
「……うん!ありしゅも、おきゃーしゃんのことが、だいしゅきだよ!」
「ふふ……」
二匹は互いの愛を確かめ合うように、すりすりと寄り添いました。
……ドアの向こうの青年は、その光景を確かめる事は出来ませんでしたが……。
青年は、そんな事をする必要は、ありませんでした。
「……お母さん……」
遠い遠い昔の記憶。
……その記憶の中の、優しかった母親の笑顔。
……そして。
(お母さんは、本当に幸せよ)
(どうして?お母さん?)
(決まってるじゃない。だって、あなたが、産まれてくれたんだから)
母が、自分に言ってくれた、その言葉を青年は思い返していました。
「……ごめんな。……本当に、ごめん。……ごめんよ……」
青年は、小さな声で、何度も何度も、そう言いました。
……その言葉が誰に向けられたものなのか、それは青年にしか分かりませんでした。
……そして今に至ります。
「二人とも!遊ぶのはそれ位にして、クッキーでも食べよう!」
「ゆわーい!クッキーしゃん!クッキーしゃん!」
「ほらほら、おちびちゃん。あんまりいそぐと、ころんじゃいますよ」
あるゆっくりは、『しんぐるまざー』になる決意をしました。
その選択が、本当に正しかったのかどうか、それは、そのゆっくりにも、誰にも分かりません。
ですが、これだけははっきりと言えるでしょう。
そのゆっくりは、この世で一番大切な、かけがえのないものを手に入れたという事を。