ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2315 赤ゆのたのちいイス取りゲーム (前)
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赤ゆのたのちいイス取りゲーム (前) 37KB
虐待 愛情 不運 仲違い 家族崩壊 親子喧嘩 同族殺し 番い 野良ゆ 姉妹 赤ゆ ゲス 希少種 都会 透明な箱 現代 虐待人間 うんしー ぺにまむ 長い
※善良ゆ虐待あり
※タグは全編通してのもの
【1】
---------------------------
おにいさんはさいきんゆっくりしてないよー。
ちぇんとあそんでくれないんだねー。
ちぇんもらんしゃまもさびしがってるんだよー。
わからないんだよー。
さあなあ……。
らんもわからないなぁ。
おにいさんにも、ゆっくりいがいであそびたくなるときがあるのかもな。
ゆぅ。
でもかいゆっくりなら、にんげんさんのことを
だいいちにかんがえないといけない。
ばっじつきならなおさらだ。
そうだねー。
ゆっくりできないけど、しかたないねー。
-----------------------------
まりさは都会の冬がこんなに寒いものなのだと知らなかった。
ゆっくりの過剰繁殖によりごはんのなくなった故郷。
それを捨て、食べ物のあるという町に降りてきた。
ご飯の無い場所では子作りができないからだ。
「むきゅきゅん! けんじゃなぱちゅりーがみみよりなじょうっほうをおしえるわ!!」
ぽかぽかなおうち、おなかいっぱいのあまあま。
ぱちゅりーのいいかげんな知識を頼りにやってきたものの、
それは一握りの飼いゆに限って認められる話であった。
もりけんの甘い話を信じ、既におちびちゃんまで作ってしまっている。
あたたかいおうちもあまあまなごはんもなく、
現実はダンボールの中。ビニールシートもない。
現実は苦い苦い草さん、くっさい生ごみ。ごはんはげろまず。
現実は苦しみの連続。
野良なんてそんなものだ。
暮らし向きは以前より格段に悪くなった。
「しゃむいいぃぃ!!」
「おきゃあしゃあああん……」
「ゆぅー、よーしよーしゆっくりだよー……」
おちびちゃんたちは母とのすりすりで暖を取り何とか命をつないでいる。
秋の暮れ、そろそろ冬の足音が聞こえてくる季節だ。
もう何か行動を起こさないと、家族そろって永遠にゆっくりしてしまう。
その瀬戸際にあった。
森に帰るという選択肢も考えられる。
しかし、森ではもう家族九匹をやしなえる食料は取れない。
森に戻るならおちびちゃんを何匹か諦めるしかない。
もう既に日は暮れ、ゆっくり出来ない寒さがおうち中を覆っている。
風が一吹き入り込むたびに、おちびちゃんの元気が無くなってゆく。
そのゆっくりできていない顔を見るたび、れいむの母性が悲鳴をあげた。
「ゆっくちできにゃいよぉ……」
きゅっと目をつぶって、ぷるぷる震えている。幼い命。
「おちびちゃん、かわいそうだよぉ……」
つがいのれいむはキリリとした顔でまりさに言う。
「まりさ、にんげんさんのおうちにいれてもらおうよ!」
人間さんのおうちはあたたかく、あまあまも一杯らしい。
ゴミ捨て場で会った野良に聞いた話だ。
人間さんに飼いゆっくりにしてもらう。
都会にゆっくりを引きつけて留める数少ない希望。
「そうだね、それしかないね……」
まりさは眉を曲げつつも、おちびちゃんを見ればうなずくしかなかった。
人間さんは怖い。
恐ろしい人間さんをまりさも何人か見ていた。
山から降りて一週間。
潰されるゆっくりを何匹も見た。
捨ててあったものを拝借しただけで殺されたゆっくりを見た。
おうたを歌ってただけで殺されたゆっくりを見た。
ゆっくりゴミの水曜、沢山のゆっくりが収集車に詰め込まれてゆくのを見た。
だからまりさは、れいむの提案の危険性も一応分かっている。
しかし寒冷耐性の強い町ゆの餡統でもなければ、この寒さは我慢できない。
まりさとれいむが生き残れたとしても、おちびちゃんは無理だろう。
成体ゆっくりの中枢餡は皮と餡子の分厚い層に守られているが、
赤ゆのそれは非常に薄く、すぐ凍えきってしまうのだ。
危険と知りつつも、まりさは人間さんに賭けるしかない。
人間さんにうけいれてもらって初めて、家族全員がゆっくりできる。
思い立ったが吉日ということで、まりさはぼうしの中などにおちびちゃんを入れ、れいむも連れて出発した。
「おぼーちのなかはあったきゃいにぇ!!」
「ゆっくちできりゅにぇ!!」
おぼうしの中は体温が保存され比較的暖かい場所だ。
一度に入れられるのはせいぜい三匹なので、少し経つごとに赤ゆたちは交代しなければならなかったが、
れいむもまりさも、おちびちゃんがあったまってくれるのはうれしい。
おぼうしのツバでぷりぷりはしゃぐおちびちゃんたち。
このかわいさならと、思わせるものがあった。
おちびちゃんを連れてきたのは、おちびちゃんのかわいさで
人間さんがおうちに入れてくれるかもと考えたからだ。
ゆっくりにありがちな考え方であった。
実際のところ、汚い野良なんて愛で派ですら大半が相手にしない。
色々なSSやイラストであらわされてきた通り、
都会に住んでいても田舎に住んでいても、汚い野良のせいで苦労することは多い。
すりつかれて服を汚されたり、おうたで不快な気分になったり。
ゲスでなくとも理屈の通じない個体が多い。
野良ゆっくりの好感度は最悪だ。
躾の行き届いたバッジ付きは愛されうる。
しかし躾もされていない野良にかかわってわざわざストレスを貯めたい人はいない。
トントントン。
木の棒でノックする。こうすると人間さんが出てくるらしい。
しかし誰ひとりとしてまりさ一家の話を聞いてくれることはなかった。
少し開け、ゆっくりだと分かると閉じられてしまう。
「どぼぢてむしするのおおおおお!!!???」
「ゆっぐりさせてよおおおお!!!」
そんなやり取り(?)が何度も続いた。
何度も何度も。
憐れなものである。
そんな憐れなまりさたちを受け入れてくれたのは、
笑顔の似合う、いかにも優しそうなお兄さんただ一人であった。
「そうか、それは困っただろうね。お兄さんのおうちに入るといいよ」
「ゆ!? ほんとにいいの!?」
「あじがとうございます! あじがとうございまずうう!!!」
「「「 ゆわぁーい!!! にんげんしゃんのおうちだよ! 」」」
30件目の訪問。
数が数えられないゆっくりからすれば、
1000件は回ったんじゃないかと思えるほど長い時間動いていた。
家を出て寒さに晒され、おちびちゃんも弱りはじめており、
まりさも内心諦めかけていた頃の話だった。
「さあ、お入り」
歌のおにいさんも出来そうな、ゆっくりしたお兄さん。
「ゆ、ゆっくりおじゃまします」
「「「「ゆっくち!」」」」
始めての人間さんのおうち。
すこし緊張しながら足を踏み入れた。
まりさ扉をくぐると、そこは天国。
そう人間さんのおうちは、天上楽土な場所だった。
床は見たことも無いすべすべのなにかで出来ていて、歩くだけで気持ちが良い。
外の寒さが嘘のように暖かくて、春が来たように過ごしやすい。
夜なのに光が満ち溢れ、昼のように明るい。
まりさたちはあまりに汚かったのでまず濡れタオルで綺麗にしてもらった。
特にゴミ漁りを続けていたまりさ。
汚れているだけでなく、ちょっと臭いのだ。
「ゆゆーん♪ くしゅぐったいよ!」、
お兄さんのゆっくりを拭く手つきは、熟練した何かを感じさせる。
ゆっくり関係の職についているのだろうか。
赤ゆたちもまったく嫌がることがなく、すぐに綺麗にされた。
「「「「さっぱりー!!!」」」」
つやつやのコーティングオイルまで塗られる。
そのぷるぷる感、まるで室内飼いゆのよう。
れいむは玄関の大鏡に自分をうつし、なんだかうっとりしている。
一気に美ゆっくりになった自分に一目ぼれしたかのようだった。
その後お兄さんのおうちの居間に通され、ゆっくりを許された。
テレビ一個、タンスなどの家具もちらほら配置されている。
ちぇんぐるみや陰陽玉のようなゆっくりグッズもまたちらほら。
一人暮らしにしては少し広いことを除けば、一般的なゆっくり好きの部屋に見える。
まりさはこのお兄さんがゆっくりを好きなのだと思った。
「ゆっくりしていってね!」
「「「「「 ゆっくりしていくよ!! 」」」」」
お兄さんの持ってきたあまあまは、口の中に桃源郷が広がる旨さだ。
咥えているだけでよだれが出てくる。飲み込めば幸せ。
「はふっ! はふっ! めっちゃうっみぇ!!」
「ちちちあわちぇええええ!!!」
「むちゃむちゃ!!」
「がーちゅがーちゅ!!!」
「ゆゆーん♪ おちびちゃんたちしあわせそうだよぉ~!」
赤れいみゅ3と赤まりしゃ4のおちびちゃん。
すべすべのフローリングの上、皿からこぼしながら必死こいて食べる。
人間からみれば少し汚いが、ゆっくりにとってはゆっくりできる光景である。
寒さで満足に狩りができなかったまりさのせいで、このところ満腹にもなれなかった。
それがあまあまをくちいっぱいに頬張って、溢れさせながら喜んでいるのである。
「ゆふふ、ゆっくりたべていいんだよ!」
れいむもまりさも心の底から笑顔に慣れた。
これでこそ。
こうやっておちびちゃんの笑顔を見れてこそ、町に来たかいがあったというもの。
飼いゆっくりになれたわけではないが、冬が越せればなんとでもなる。
怖かったけど人間さんを訪ねて良かった。
ぱちゅりーの話は本当だったんだ。
まりさの心の底から、みるみるゆっくりが溢れてきた。
それはれいむも同じことだろう。
そして赤ゆたちの餌皿もそろそろ空になるかといった頃合いである。
幸せな家族の団欒に、席をはずしていたお兄さんが戻ってきた。
とっとっ。まりさの頬に人間さんの足音が響く。
まりさはとてもゆっくりできるお兄さんの方に笑顔を向ける。
どうも何か話があるようだ。
「おにいさんとの約束、まりさは覚えてるかな?」
「ゆゆっ! もちろんだよ!」
「「「「 ばきゃにしないでにぇ!! 」」」」
まりさはこのおうちの玄関先である約束をさせられていた。
ゆっくりが大好きなお兄さんと遊んでくれという約束だ。
「それならいいんだ。最近はゆっくりの家族とふれあることが少なくてね」
「おちびちゃんたちもたのしみにしてるよ!」
約束という言葉を聞いた時、掃除洗濯奴隷労働、ゆっくりできない想像が頭を巡った。
まさかれいむの体が目当てのHENTAI!
そんな妄想までしていた。(その瞬間、まりさのぺにぺには天を突いていた)
しかし聞いてみればなんだ、ただ「お兄さんと遊べばいい」というだけだそうだ。
ゆっくりできないことはなにもない。
むしろまりさからお願いしたいとすら思える約束だった。
「「「「おにーしゃん、ゆっくちー♪」」」」
赤ゆたちはあまあまのお礼のつもりなのか、お兄さんの足にすーりすーりする。
にこにこころころ転がって、とてもゆっくり出来ている。
「おにーさん!!」
まりさは口を開ける。
「どうしておにいさんはこんなによくしてくれるの?」
まりさの会った人間さんに、ゆっくりできる人は一人もいなかった。
それなのにこのお兄さんだけ。
「ゆっくりが好きだからだよ」
「ゆゆー♪ ゆっくりできるおにいさんだね!!」
お兄さんは笑顔で答えてくれた。
れいむもまりさも、頬がゆるむ。
人間さんにもこういう人がいるんだ。
町も捨てたものじゃない。
「それじゃあ食後の運動ってことで、そろそろプレイルームに行こうか」
「ゆゆ! ゆっくりりかいしたよ!」
まりさの眉はきりりと上がる。
まりさは約束をちゃんと守るゆっくりだよ。
そう主張しているかのような顔だった。
まりさ一家は居間を出て、すべすべの廊下を通り、プレイルームに通される。
すべすべフローリングの廊下では、おちびちゃんたちがころころはしゃぐので、
連れていくのもなかなか大変だったようだ。
プレイルームは、白を基調とするさわやかな色合いの部屋。
真ん中には丸いテーブル。
カラフルな箱やカセットコンロ、鍋などが床に置いてある。
壁にはゆっくりできるゆっくりの絵。
にっこりと笑っているゆっくりの絵が書き込まれているのだ。
「ゆっくちひりょいよ!」
「じめんさんがふーわふーわだよ!」
床には青いじゅうたんがすーっと敷かれている。
敷かれた絨毯の感触に、赤ゆたちは大喜びのようだ。
プレイルームとは、お兄さんがゆっくりと色々遊ぶ場所らしい。
ゆっくりできるお部屋の雰囲気を気に入った赤ゆたちの中には、
家具のすきまなどを目指したんっけんを始めるものもあった。
大きいゆっくりの絵に、ごあいさつをするものもあった。
「まってねおちびちゃんたち!」
おちびちゃんたちについて、れいむもぴょんぴょんしてゆく。
あわただしいやつらである。
お兄さんのそばに残るのは、すでにまりさだけだった。
「ところでおにいさん。おにいさんにかいゆっくりはいないの?」
まりさは当然浮かんできた疑問を口にする。
なんでお兄さんはゆっくりが好きなのに、この家にはゆっくりが見当たらないのだろう。
ゆっくりのおもちゃや、ゆっくりプレイスまであるのに。
もしかしたら別の部屋にいるのかもしれない。
「ゆっくりごあいさつしたいよ!」
「ああ、この間までは二匹居たんだけど、死んじゃってね」
「ゆゆゆ、そうなの……」
まりさの表情は曇る。
「そんな顔しなくていいよ、怒ったりなんてしてないからさ」
お兄さんは特に気分を害した風ではなく、まりさはほっとした。
「ゆっくち、ゆっくち!!」
「しょろーりしょろーり!!」
まりさから離れて、二匹の赤ゆの様子を見てみよう。
まりちゃとれいみゅ、モノモノのすきまを進む。
ごちゃごちゃとある中にて、どれもこれも赤ゆの目に珍しい。
だからその目はきらきらと輝く。
好奇心がチクチク刺激される。
特にキラキラしたものなど、ゆっくりの子供の大好物だ。
「こりぇ、れいみゅのたからもにょにすりゅよ!!」
ビーダマを咥えるれいみゅ。
「こっちは、まいちゃのだよ!!」
サイコロを咥えるまりちゃ。
こんな人工物、森の中には絶対にない。
とてもゆっくりできる「とくべちゅ」
おにいさんのおうちに来てから、新しい体験がいっぱいだった。
しかし。
「こら!」
そこに割り込む親れいむ。
「ここはおにーさんのおうちなんだから、かってにたからものにしたらだめだよ!」
このれいむ、一応人間との付き合い方を餡子に継いでいるようだ。
祖先にバッジ持ちがいたのだろうか。
しかしゆっくりできないその言葉に、れいみゅとまりちゃは猛抗議。
「やじゃやじゃあ!! れーみゅがみちゅけたんだよ!!」
「まりちゃがしゃいしょにひりょったんだよ!!」
「ゆゆぅ、おちびちゃんたち……」
その騒ぎに、まりさとお兄さんも近づいてくる。
「ゆ~? れいむ、どうしたの?」
「おちびちゃんがおうちのものをほしいって……」
とはいえそれは、安いビーダマと安いサイコロである。
ゆっくりの目にどう映るのかはともかく、お兄さんにとっては取るに足らないものだ。
「いいよ。欲しいならあげようか」
「ゆゆっ!? いいの!?」
「ほらおちびちゃんたち、おにいさんにおれいをいって!」
「「ゆっくちありがちょー!!」」
お兄さんは笑う。
ゆっくりと人間の価値観は違う。
ちぇんもそうだった。
高かったおもちゃよりも、一掴み100円のビーダマを大事にしてたっけ。
「それより、そろそろおちびちゃんたちを集めてくれるかな」
しかし他のおちびちゃんたちはかくれんぼを始めてしまったらしい。
まりさとれいむは駆けだし、二匹でおちびちゃんに呼びかけを始めた。
「ゆゆっ、おちびちゃんでてきてねっ!!」
しかしおちびちゃんは一人も出ない。
「ゆぅ、こまったよ」
部屋はそれほど広くも無いのだが、ゆっくりはゆっくりな生き物である。
二匹で探しても少しかかるだろう。
そんな二匹のそばに、お兄さんもやってくる。
「ゆっくりを探すときはこうするんだよ」
れいむもまりさも、顔をあげてお兄さんを見る。
「ゆっくりしていってね!」
「「「「 ゆっきゅりちていっちぇにぇ!!! 」」」」
おちびちゃんの声だ。
【2】
---------------------------
お兄さんはゆっくりが大好きだ。
幼稚園の頃にゆっくりを飼い始めた。
最初のゆっくりはれいむ。
中学生になったときにれいむが死に、なぐさめにぱちゅりーを飼った。
ぱちゅりーは短命のケースが多いが、このぱちゅりーは特別長生きし大学を出るまでの友達となった。
ゆっくりスクールの先生になってからはちぇんを。
仕事が忙しくなってくると、遊び相手兼つがいとしてらんも飼いはじめた。
「おにーさんはとってもゆっくりしてるんだよー!!」
ゆっくりスクールではなかよしコース担当。
お兄さんの務めていたスクールにはびしばしコースとなかよしコースがあった。
びしばしコースは強面の教師が金やプラチナを取らせるスパルタコース。
ゆっくりの悲鳴が絶えず、キャンパスは山奥に建てられている。
なかよしコースは優しそうなお兄さんお姉さんがゆっくりを遊ばせながら、
その中で社会性を身につけさせ性格良くさせる。銀バッジ程度のゆっくりを目指すコース。
お兄さんはそのゆっくりに好かれそうな優しい風貌からなかよしコースに配属された。
「はーい、それじゃあイス取りゲームで遊ぼうか!」
「「「 ゆわーい!!! 」」」
問題児もほとんどなく、お兄さんの生活は充実していた。
---------------------------
れいむとまりさがおちびちゃんを集めた後、お兄さんはお遊びの準備にとりかかった。
赤ゆが七匹、丸いテーブルの上に乗っている。
ちなみに親まりさと親れいむは透明な箱の中だ。
「おにいさん、このかべさんはなんなの?」
「まりさはとうめいなかべさんにかこまれてゆっくりできないよ……」
れいむはなんともないようだが、活発な種であるまりさには狭苦しいのかもしれない。
「まあまあ、特等席だと思ってゆっくりしてよ」
「ゆぅ……」
「はーい、それじゃあイス取りゲームで遊ぼうか!」
「「「 ゆわーい!!! 」」」
イス取りゲームとはイスに座っている者が勝つという極めて簡単なゲーム。
音楽がなっている間は(複数個の)イスの回りをぐるぐる回り、笛の音と同時に座る。
イスに座るためなら他のゆっくりに体当たりなどをしてもかまわない。
ただし笛が鳴る前に座ったり、音楽が鳴っているのに立ち止まったりしてはいけない。
ズルをした子は失格である。
「「「 ゆっくちりかいしちゃよ!! 」」」
辛い事や都合の悪い事はすぐ忘れるゆっくりであるが、
お遊びようなゆっくりできることについては妙に記憶力がいいのである。
だからこそ金バッジを取らせるのも難しいのだが。
テーブルの上に、赤ゆでも座れる円柱のイス。
切り株をモチーフにしたそれを六つ、円を描くように置く。
準備は万端だ。
「ちなみに勝った子にはあまあまをあげるからね!」
「「「ゆゆ!? ゆっくち!?」」」
おにいさんはあまあまフードの入った袋を見せる。
「さっきのより美味しいやつだ」
「「「「 ごきゅり…… 」」」」
「「ごくり……」」
赤ゆたちはおろか、親までも喉を鳴らした。
香りを嗅ぐだけで良い意味で永遠にゆっくりしそうな……。
素晴らしい匂いがしたのだ。
ともあれイス取りゲームは始まった。
とてもおいしそうなあまあまを目指し、赤ゆたちは火花を散らし始める。
♪オクラホマミキサー(イス取りゲームで定番のアレ)
七匹の赤ゆっくり。
れいみゅ3とまりしゃ4はみな自分の勝利を確信し、すでに涎を垂らしている。
イスの数から言えばここで一匹失格になるのだろうが……。
「はいはい、イスさんたちの周りをくるくるしてね!」
お兄さんが音楽に合わせ、リズムよくゆっくりと手を叩く。
「「「ゆっくち♪ ゆっくち♪」」」
赤ゆたちも楽しそうだ。
にこにこな笑顔でゆっくちゆっくち回っている。
お兄さんが手拍子をするごとに、赤ゆたちが一歩進む。
そんなゆったりとしたリズムを、一家全員楽しんでいた。
「ゆゆぅ~!! おちびちゃんたちゆっくりしてるよぉ~!!」
「ゆふふ、おにいさんがいいひとでゆっくりできるね!」
親ゆたちもおちびちゃんの久々の笑顔に、一緒にニコニコ。
一拍ごとに左右にゆっくり揺れている。
パン! パン! パン! パン!
ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪
パン! パン! パン! パン!
ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪
しかしこれはお遊戯ではない。イスとりゲームだ。
すぐに音楽は止まり、ピィイ!っというホイッスルの甲高い音が鳴り響く。
「ゆゆっ!?」
楽しい音楽が鳴りやんで、赤ゆたちは一瞬止まる。
しかしすぐに本来のルールを思い出しイスをとりはじめた。
「「「ゆっくちしないですわりゅよ!」」」
「おちびちゃんたち、みんながんばってー!!」
「ゆっくりだよー!!」
まりさが一匹ちょこんと座ったのを始めとして、他の赤ゆたちもどんどん飛び乗ってゆく。
「きょきょをまりちゃのゆっくちぷれいしゅにしゅるよ!!」
席を取れた喜びでおうち宣言をするまりちゃもいる。
あまあまに一歩近づいたまりちゃは満面の笑みだ。
「ゆっくちのりゅよ!」
「ぴょんぴょんすりゅよ!」
「これはれいみゅのいすしゃんだよ!」
「まりしゃいすしゃんにすわれたよ、おきゃーしゃん!!」
「ゆわーい、ゆっくちできりゅよ♪」
イスに座れただけで、赤ゆたちは喜んでしまう。
うふふな六匹。
無邪気なものである。
しかしゆっくりの間でも素早さの差というものがある。
一番末っ子のれいみゅは、どのイスにも座れなかったらしい。
末っ子というものは、体力的に不利なのである。
れいみゅの瞳には、ゆっくりが乗ったイスしか映っていない。
「ゆ、ゆうぅ~!??」
そうなってはいよいよ困り顔だ。
負けたゆっくりはあまあまを貰えない。
きょろきょろしつつ、イスの回りをくるくる探す。
しかしもうイスは一つもないのである。
いくら何度も見ても、全部のイスにどっしりと赤ゆがある。
そのうちだんだん涙ぐみはじめ、
「ゆっぐ……! れいみゅのあみゃあみゃぁ……!」
何度も確認した挙げ句、ついには泣きだしてしまった。
楽観的なゆっくりは自分が負けるなんて考えもしない。
それなのにれいみゅは負けてしまった。しかも一回戦で。
席は一応奪ったりしてもよいのにそれをしないのは、
ルールをちゃんと聞いてなかったのか、それともそういう性格なのか。
「お、おちびちゃんなかないでね!!」
「ゆっくりして! ゆっくりしてねぇ!」
透明な箱の親ゆたちもこれには慌ててしまう。
楽しかったイス取りゲームが一転、悲しい雰囲気を帯びてしまったからだ。
「あらら、大変だ」
しかしそんな末っ子れいみゅのそばにやってきたのが
逆に一番年上の、長女まりちゃである。
まりちゃは自分のイスを離れ、泣いている末っ子れいみゅを慰めに来たようだ。
「ゆっくちしていっちぇにぇ、れいみゅ! まりちゃのいすしゃんあげりゅからね!」
「ゆっぐ……、……ゆ?」
親まりさも親れいむもお兄さんも皆意外そうな顔で長女まりちゃを見る。
「いいの? イスをあげるとまりしゃちゃんは負けってことになるよ?」
「いいよ! まりしゃ、おねーちゃんだもん!!」
まりさの親切がよっぽど嬉しかったのか、れいみゅもにっこり顔に戻っていた。
まだほっぺたに涙の後があるが。
「おねーちゃん、ゆっくちありがちょう……」
親まりさと親れいむなどは、もう滝のように涙を流している。
あんなに小さかったまりしゃが、こんな立派なおねーちゃんに……!!
そういう親の喜びをかみしめているんだろう。
お兄さんもにっこり笑う。
「それじゃあれいみゅちゃんは勝ち抜け、まりしゃちゃんは残念だけど負けということだね」
「そうだにぇ……。でもれいみゅがゆっくちできて、よかっちゃよ!」
にっこにこ。
このまりちゃは、純粋なゆっくりなのだろう。
お兄さんの口がさらに笑う。
「それじゃあ罰ゲームも、かわりに君にやってもらおうね」
「ばちゅ、げーみゅ?」
なんだかゆっくりできなさそうな「罰ゲーム」という響き。
鬼意山は手を振り上げる。
そこにはいつのまにか、小さな金槌が握られていた。
プレイルームの箱に保存されていたもの。
振り下ろす。
ぐしゃり。
躊躇いもなくつぶした。
首をかしげる長女まりしゃは、餡子を飛び散らせて永遠にゆっくりした。
「お姉ちゃんぶって譲ったりしなければ、死なずに済んだのに。永遠にゆっくりしていってね」
まりさ一家の物語は、ここから急降下を始める。
赤ゆたちはなにがなんだか分からないといった様子だ。
金槌でつぶすとこういう反応が得られる。
面白い。
火炙りやあまぎりのような濃い虐待とはまた違った感動がある。
金槌が持ち上がると、餡子溜まりの中から砕けた歯や飛び出た目玉が見え始める。
赤ゆたちはそれでも分かっていない。
「お、おにーしゃん。てじなしゃんはやめちぇにぇ……?」
長女まりしゃが消えたのは、手品かなにかだと思っているらしい。
お兄さんは長女まりちゃの死骸をつまむと、ごみでも放るかのように赤ゆたちの側へ投げた。
すると死臭あふれる死体が、目を背けられないほど近くに現れることになり、
「ゆぎゃああああ!!!!」
「おねーぢゃんぎゃあああ!!!!」
「どぼちでちんでりゅのおおおお!!!」
赤ゆの群れは一瞬にして恐怖に陥れられた。
赤ゆがどんなに間抜けでも、こうしてやって分からないはずがない。
それでもなお現実を受け入れず、ぺーろぺーろで直そうとする者もいるが、
「ゆげえええ!! くちゃいいいい!!!」
ゆっくりにはキツイ死臭をもろに吸い込んでしまい、餡子を吐き出すことになった。
死臭。
ゆっくりはよく死によく増える生き物だ。
しかしおうちから殆ど出ない赤ゆたちである。
今ここで初めて嗅いだらしい。
「でいぶのおぢびちゃんがあああああああ!!!!」
「どぼぢでごんなごどするのおおおお!!!!」
あまりの出来事に両親も騒ぎ始める。
特に親れいむの方など、歯茎をむき出しにして威嚇をはじめている。
「じじいいいいいい!!!! ころじでやるううううう!!!!」
れいむのおにいさん評価は、一気にじじいにまで転落した。
まりさも震える口で怒りを吐き出し始める。
「ゆっぐりじだおちびちゃんだったのにぃいいい!!! どぼぢで!!! どぼぢでええええ!!!!!」
「あれ? 負けた子は生きて帰れないってお兄さん言ったでしょ?」
「ぞんなごどいっでないいいいいい!!!」
まりさの反論にも耳をかさないお兄さん。視線を赤ゆたちに戻す。
両親は他の子供を潰されまいと透明な箱に体当たりを繰り返すが、まったく効果がない。
加工所の透明な箱は像が踏んでも壊れないのだ。
「おぢびちゃんたちにげてええええ!!!」
れいむはどうしようもなくなり、おちびちゃんに逃走を促す。
それを聞いたおちびちゃんたち、はっとして逃げ始める。
泣きわめいている場合じゃないのだ。
このお兄さんは、ゆっくりできない鬼意山だ!
逃げないと殺されるかもしれない。
両親の叫び声がそれを気付かせた。
「ゆっくちにげりゅよ!!」
「そりょーり、そりょーり……どぼぢてかべさんがあるのおおお!!!」
丸テーブルの周りには透明なプラスチック板の壁が存在していた。
このテーブルは赤ゆと遊ぶためにカスタマイズされた、赤ゆ専用虐待プレイス。
このプラスチックの壁は、視認性と逃走防止の両立をはかるために開発された仕組みだ。
高さ10cm強のそれは赤ゆたちにとってヒマラヤのように高い。
子ゆならまだしも、脚力(?)の備わっていない赤ゆが飛び越えるのは不可能。
そのことは当然、計算されたうえで設計されている。
プラスチック壁のそばにかたまり、ぷるぷる蠢いている赤ゆたち。
鬼意山がコホンと咳払いをすると、こんにゃくゼリーのようにぷよぷよ震え始めた。
迫りくる死の恐怖。
生後まもない、死に直面した初めての経験。
既におそろちーちーを漏らしているゆっくりもいる。
「さて、おちびちゃんたちには最後までイス取りを続けてもらうよ」
親ゆたちが箱を叩く音だけが響く。
「かべざんがなければごんなやづうううう!!!!」
れいむが金切り声をあげるが、それも空しい。
どん、どん、どん。
鬼意山は無視して続ける。
「つまり殺し合いをしてもらう。突き落としたり、席を譲らなかったりしたら妹やお姉ちゃんが死ぬことになる。直接は殺さなくても、間接的に殺すことになるわけだね」
ほのぼのとしたお遊びの場で、命のイスを取り合わせるわけだ。
イスに座って助かるならと、餡が繋がっているゆっくり同士が
それはそれは激しい戦いを繰り広げることになる。
時には餡が流れることもあるだろう。
「負けたゆっくり、ルール違反をしたゆっくり、ゲームに参加しようとしないゆっくり。そんなゆっくりは、地獄の様な苦しみを味あわせて、極限までゆっくりできなくさせた上で殺してあげるから、そうならないように頑張ってね」
赤ゆたちはきゅっとあにゃるが冷える感じを得る。
「さあ、最後まで残れるのは誰かな?」
しかし最後の一匹が選ばれたとして、そんなおちびちゃんがまともな生活をおくれるのだろうか。
お兄さんの遊びが終わった時。それは家族が崩壊する時。
ぷきゅうううう!!!
「そ、そんにゃことできにゃいよ!!」
一匹の赤れいみゅがお兄さんの話を遮った。
なんて命知らずのれいみゅなのだろう。
勇気ある、とも言えるか?
「れーみゅたちは、かじょくなんだよ!? そんなおあしょび、たのちくないよ!!」
ぷきゅううとわずかにふくれあがり、必死で睨みつける。
「れーみゅたちおうちにかえりゅよ! おきゃーしゃんとおとーしゃんはげしゅなじじいをゆっくちころちてにぇ!!」
よりぷっくりふくらみ、その姿はフグのよう。
ほっぺたがタコ焼きのようにふくれる様が、フグそっくりなのだ。
あまりに面白い顔をするものだからと、お兄さんはくすくすと笑いをこぼしている。
こんなささやかな反抗も、お兄さんが何度だって体験したことだ。
仕事でもプライベートでも。
鬼意山は立ち上がって親まりさに近づくと、その脳天に金槌をくらわせた。
「お、おにいさんなにを……ゆげぇっ!!!」
柔らかい餡子と皮に阻まれ、くぐもった音が響く。
赤ゆのための金槌なので親まりさもさすがに死んではいない。
「い、いだいいいい!!! おもにあだまがいだいいいいい!!!!! ゆげっ、ゆげえええぇ!!!」
しかしその衝撃は凄まじく、いざという時には頼りになる親まりさがみじめにも餡子を吐いてしまった。
「ば、ばりざあああああ!!!」
「「「ゆえええん!!! おとーしゃあああんん!!!」」」
鬼意山は赤ゆたちに向きなおる。
「お兄さんはお前らの『おとーさん』よりずっと強いんだよ。我儘を言ってゲームが続けられなくなったら、全員殺すからね。余計なことをしなければ残った子がお父さんお母さんと一緒に帰れる。理解できるかな?」
赤ゆたちはいよいよ怖くなり、おそろしーしーを超えておそろうんうんまで漏らし始めている。
こうやって親を叩いて見せれば赤ゆはもう逆らう気力が無くなる。
赤ゆというものは、親を相当に信頼するのが普通だ。
特に狩りを担う父親役を圧倒的に強くて優秀であると思い込んでいる。
だがこうすることで唯一のたよりが、まったくたよりにならないと分かってしまう。
そうするともう、おとなしくするしかない。
「「「「ゆ、ゆっくちりかいしましちゃ……」」」」
虐待 愛情 不運 仲違い 家族崩壊 親子喧嘩 同族殺し 番い 野良ゆ 姉妹 赤ゆ ゲス 希少種 都会 透明な箱 現代 虐待人間 うんしー ぺにまむ 長い
※善良ゆ虐待あり
※タグは全編通してのもの
【1】
---------------------------
おにいさんはさいきんゆっくりしてないよー。
ちぇんとあそんでくれないんだねー。
ちぇんもらんしゃまもさびしがってるんだよー。
わからないんだよー。
さあなあ……。
らんもわからないなぁ。
おにいさんにも、ゆっくりいがいであそびたくなるときがあるのかもな。
ゆぅ。
でもかいゆっくりなら、にんげんさんのことを
だいいちにかんがえないといけない。
ばっじつきならなおさらだ。
そうだねー。
ゆっくりできないけど、しかたないねー。
-----------------------------
まりさは都会の冬がこんなに寒いものなのだと知らなかった。
ゆっくりの過剰繁殖によりごはんのなくなった故郷。
それを捨て、食べ物のあるという町に降りてきた。
ご飯の無い場所では子作りができないからだ。
「むきゅきゅん! けんじゃなぱちゅりーがみみよりなじょうっほうをおしえるわ!!」
ぽかぽかなおうち、おなかいっぱいのあまあま。
ぱちゅりーのいいかげんな知識を頼りにやってきたものの、
それは一握りの飼いゆに限って認められる話であった。
もりけんの甘い話を信じ、既におちびちゃんまで作ってしまっている。
あたたかいおうちもあまあまなごはんもなく、
現実はダンボールの中。ビニールシートもない。
現実は苦い苦い草さん、くっさい生ごみ。ごはんはげろまず。
現実は苦しみの連続。
野良なんてそんなものだ。
暮らし向きは以前より格段に悪くなった。
「しゃむいいぃぃ!!」
「おきゃあしゃあああん……」
「ゆぅー、よーしよーしゆっくりだよー……」
おちびちゃんたちは母とのすりすりで暖を取り何とか命をつないでいる。
秋の暮れ、そろそろ冬の足音が聞こえてくる季節だ。
もう何か行動を起こさないと、家族そろって永遠にゆっくりしてしまう。
その瀬戸際にあった。
森に帰るという選択肢も考えられる。
しかし、森ではもう家族九匹をやしなえる食料は取れない。
森に戻るならおちびちゃんを何匹か諦めるしかない。
もう既に日は暮れ、ゆっくり出来ない寒さがおうち中を覆っている。
風が一吹き入り込むたびに、おちびちゃんの元気が無くなってゆく。
そのゆっくりできていない顔を見るたび、れいむの母性が悲鳴をあげた。
「ゆっくちできにゃいよぉ……」
きゅっと目をつぶって、ぷるぷる震えている。幼い命。
「おちびちゃん、かわいそうだよぉ……」
つがいのれいむはキリリとした顔でまりさに言う。
「まりさ、にんげんさんのおうちにいれてもらおうよ!」
人間さんのおうちはあたたかく、あまあまも一杯らしい。
ゴミ捨て場で会った野良に聞いた話だ。
人間さんに飼いゆっくりにしてもらう。
都会にゆっくりを引きつけて留める数少ない希望。
「そうだね、それしかないね……」
まりさは眉を曲げつつも、おちびちゃんを見ればうなずくしかなかった。
人間さんは怖い。
恐ろしい人間さんをまりさも何人か見ていた。
山から降りて一週間。
潰されるゆっくりを何匹も見た。
捨ててあったものを拝借しただけで殺されたゆっくりを見た。
おうたを歌ってただけで殺されたゆっくりを見た。
ゆっくりゴミの水曜、沢山のゆっくりが収集車に詰め込まれてゆくのを見た。
だからまりさは、れいむの提案の危険性も一応分かっている。
しかし寒冷耐性の強い町ゆの餡統でもなければ、この寒さは我慢できない。
まりさとれいむが生き残れたとしても、おちびちゃんは無理だろう。
成体ゆっくりの中枢餡は皮と餡子の分厚い層に守られているが、
赤ゆのそれは非常に薄く、すぐ凍えきってしまうのだ。
危険と知りつつも、まりさは人間さんに賭けるしかない。
人間さんにうけいれてもらって初めて、家族全員がゆっくりできる。
思い立ったが吉日ということで、まりさはぼうしの中などにおちびちゃんを入れ、れいむも連れて出発した。
「おぼーちのなかはあったきゃいにぇ!!」
「ゆっくちできりゅにぇ!!」
おぼうしの中は体温が保存され比較的暖かい場所だ。
一度に入れられるのはせいぜい三匹なので、少し経つごとに赤ゆたちは交代しなければならなかったが、
れいむもまりさも、おちびちゃんがあったまってくれるのはうれしい。
おぼうしのツバでぷりぷりはしゃぐおちびちゃんたち。
このかわいさならと、思わせるものがあった。
おちびちゃんを連れてきたのは、おちびちゃんのかわいさで
人間さんがおうちに入れてくれるかもと考えたからだ。
ゆっくりにありがちな考え方であった。
実際のところ、汚い野良なんて愛で派ですら大半が相手にしない。
色々なSSやイラストであらわされてきた通り、
都会に住んでいても田舎に住んでいても、汚い野良のせいで苦労することは多い。
すりつかれて服を汚されたり、おうたで不快な気分になったり。
ゲスでなくとも理屈の通じない個体が多い。
野良ゆっくりの好感度は最悪だ。
躾の行き届いたバッジ付きは愛されうる。
しかし躾もされていない野良にかかわってわざわざストレスを貯めたい人はいない。
トントントン。
木の棒でノックする。こうすると人間さんが出てくるらしい。
しかし誰ひとりとしてまりさ一家の話を聞いてくれることはなかった。
少し開け、ゆっくりだと分かると閉じられてしまう。
「どぼぢてむしするのおおおおお!!!???」
「ゆっぐりさせてよおおおお!!!」
そんなやり取り(?)が何度も続いた。
何度も何度も。
憐れなものである。
そんな憐れなまりさたちを受け入れてくれたのは、
笑顔の似合う、いかにも優しそうなお兄さんただ一人であった。
「そうか、それは困っただろうね。お兄さんのおうちに入るといいよ」
「ゆ!? ほんとにいいの!?」
「あじがとうございます! あじがとうございまずうう!!!」
「「「 ゆわぁーい!!! にんげんしゃんのおうちだよ! 」」」
30件目の訪問。
数が数えられないゆっくりからすれば、
1000件は回ったんじゃないかと思えるほど長い時間動いていた。
家を出て寒さに晒され、おちびちゃんも弱りはじめており、
まりさも内心諦めかけていた頃の話だった。
「さあ、お入り」
歌のおにいさんも出来そうな、ゆっくりしたお兄さん。
「ゆ、ゆっくりおじゃまします」
「「「「ゆっくち!」」」」
始めての人間さんのおうち。
すこし緊張しながら足を踏み入れた。
まりさ扉をくぐると、そこは天国。
そう人間さんのおうちは、天上楽土な場所だった。
床は見たことも無いすべすべのなにかで出来ていて、歩くだけで気持ちが良い。
外の寒さが嘘のように暖かくて、春が来たように過ごしやすい。
夜なのに光が満ち溢れ、昼のように明るい。
まりさたちはあまりに汚かったのでまず濡れタオルで綺麗にしてもらった。
特にゴミ漁りを続けていたまりさ。
汚れているだけでなく、ちょっと臭いのだ。
「ゆゆーん♪ くしゅぐったいよ!」、
お兄さんのゆっくりを拭く手つきは、熟練した何かを感じさせる。
ゆっくり関係の職についているのだろうか。
赤ゆたちもまったく嫌がることがなく、すぐに綺麗にされた。
「「「「さっぱりー!!!」」」」
つやつやのコーティングオイルまで塗られる。
そのぷるぷる感、まるで室内飼いゆのよう。
れいむは玄関の大鏡に自分をうつし、なんだかうっとりしている。
一気に美ゆっくりになった自分に一目ぼれしたかのようだった。
その後お兄さんのおうちの居間に通され、ゆっくりを許された。
テレビ一個、タンスなどの家具もちらほら配置されている。
ちぇんぐるみや陰陽玉のようなゆっくりグッズもまたちらほら。
一人暮らしにしては少し広いことを除けば、一般的なゆっくり好きの部屋に見える。
まりさはこのお兄さんがゆっくりを好きなのだと思った。
「ゆっくりしていってね!」
「「「「「 ゆっくりしていくよ!! 」」」」」
お兄さんの持ってきたあまあまは、口の中に桃源郷が広がる旨さだ。
咥えているだけでよだれが出てくる。飲み込めば幸せ。
「はふっ! はふっ! めっちゃうっみぇ!!」
「ちちちあわちぇええええ!!!」
「むちゃむちゃ!!」
「がーちゅがーちゅ!!!」
「ゆゆーん♪ おちびちゃんたちしあわせそうだよぉ~!」
赤れいみゅ3と赤まりしゃ4のおちびちゃん。
すべすべのフローリングの上、皿からこぼしながら必死こいて食べる。
人間からみれば少し汚いが、ゆっくりにとってはゆっくりできる光景である。
寒さで満足に狩りができなかったまりさのせいで、このところ満腹にもなれなかった。
それがあまあまをくちいっぱいに頬張って、溢れさせながら喜んでいるのである。
「ゆふふ、ゆっくりたべていいんだよ!」
れいむもまりさも心の底から笑顔に慣れた。
これでこそ。
こうやっておちびちゃんの笑顔を見れてこそ、町に来たかいがあったというもの。
飼いゆっくりになれたわけではないが、冬が越せればなんとでもなる。
怖かったけど人間さんを訪ねて良かった。
ぱちゅりーの話は本当だったんだ。
まりさの心の底から、みるみるゆっくりが溢れてきた。
それはれいむも同じことだろう。
そして赤ゆたちの餌皿もそろそろ空になるかといった頃合いである。
幸せな家族の団欒に、席をはずしていたお兄さんが戻ってきた。
とっとっ。まりさの頬に人間さんの足音が響く。
まりさはとてもゆっくりできるお兄さんの方に笑顔を向ける。
どうも何か話があるようだ。
「おにいさんとの約束、まりさは覚えてるかな?」
「ゆゆっ! もちろんだよ!」
「「「「 ばきゃにしないでにぇ!! 」」」」
まりさはこのおうちの玄関先である約束をさせられていた。
ゆっくりが大好きなお兄さんと遊んでくれという約束だ。
「それならいいんだ。最近はゆっくりの家族とふれあることが少なくてね」
「おちびちゃんたちもたのしみにしてるよ!」
約束という言葉を聞いた時、掃除洗濯奴隷労働、ゆっくりできない想像が頭を巡った。
まさかれいむの体が目当てのHENTAI!
そんな妄想までしていた。(その瞬間、まりさのぺにぺには天を突いていた)
しかし聞いてみればなんだ、ただ「お兄さんと遊べばいい」というだけだそうだ。
ゆっくりできないことはなにもない。
むしろまりさからお願いしたいとすら思える約束だった。
「「「「おにーしゃん、ゆっくちー♪」」」」
赤ゆたちはあまあまのお礼のつもりなのか、お兄さんの足にすーりすーりする。
にこにこころころ転がって、とてもゆっくり出来ている。
「おにーさん!!」
まりさは口を開ける。
「どうしておにいさんはこんなによくしてくれるの?」
まりさの会った人間さんに、ゆっくりできる人は一人もいなかった。
それなのにこのお兄さんだけ。
「ゆっくりが好きだからだよ」
「ゆゆー♪ ゆっくりできるおにいさんだね!!」
お兄さんは笑顔で答えてくれた。
れいむもまりさも、頬がゆるむ。
人間さんにもこういう人がいるんだ。
町も捨てたものじゃない。
「それじゃあ食後の運動ってことで、そろそろプレイルームに行こうか」
「ゆゆ! ゆっくりりかいしたよ!」
まりさの眉はきりりと上がる。
まりさは約束をちゃんと守るゆっくりだよ。
そう主張しているかのような顔だった。
まりさ一家は居間を出て、すべすべの廊下を通り、プレイルームに通される。
すべすべフローリングの廊下では、おちびちゃんたちがころころはしゃぐので、
連れていくのもなかなか大変だったようだ。
プレイルームは、白を基調とするさわやかな色合いの部屋。
真ん中には丸いテーブル。
カラフルな箱やカセットコンロ、鍋などが床に置いてある。
壁にはゆっくりできるゆっくりの絵。
にっこりと笑っているゆっくりの絵が書き込まれているのだ。
「ゆっくちひりょいよ!」
「じめんさんがふーわふーわだよ!」
床には青いじゅうたんがすーっと敷かれている。
敷かれた絨毯の感触に、赤ゆたちは大喜びのようだ。
プレイルームとは、お兄さんがゆっくりと色々遊ぶ場所らしい。
ゆっくりできるお部屋の雰囲気を気に入った赤ゆたちの中には、
家具のすきまなどを目指したんっけんを始めるものもあった。
大きいゆっくりの絵に、ごあいさつをするものもあった。
「まってねおちびちゃんたち!」
おちびちゃんたちについて、れいむもぴょんぴょんしてゆく。
あわただしいやつらである。
お兄さんのそばに残るのは、すでにまりさだけだった。
「ところでおにいさん。おにいさんにかいゆっくりはいないの?」
まりさは当然浮かんできた疑問を口にする。
なんでお兄さんはゆっくりが好きなのに、この家にはゆっくりが見当たらないのだろう。
ゆっくりのおもちゃや、ゆっくりプレイスまであるのに。
もしかしたら別の部屋にいるのかもしれない。
「ゆっくりごあいさつしたいよ!」
「ああ、この間までは二匹居たんだけど、死んじゃってね」
「ゆゆゆ、そうなの……」
まりさの表情は曇る。
「そんな顔しなくていいよ、怒ったりなんてしてないからさ」
お兄さんは特に気分を害した風ではなく、まりさはほっとした。
「ゆっくち、ゆっくち!!」
「しょろーりしょろーり!!」
まりさから離れて、二匹の赤ゆの様子を見てみよう。
まりちゃとれいみゅ、モノモノのすきまを進む。
ごちゃごちゃとある中にて、どれもこれも赤ゆの目に珍しい。
だからその目はきらきらと輝く。
好奇心がチクチク刺激される。
特にキラキラしたものなど、ゆっくりの子供の大好物だ。
「こりぇ、れいみゅのたからもにょにすりゅよ!!」
ビーダマを咥えるれいみゅ。
「こっちは、まいちゃのだよ!!」
サイコロを咥えるまりちゃ。
こんな人工物、森の中には絶対にない。
とてもゆっくりできる「とくべちゅ」
おにいさんのおうちに来てから、新しい体験がいっぱいだった。
しかし。
「こら!」
そこに割り込む親れいむ。
「ここはおにーさんのおうちなんだから、かってにたからものにしたらだめだよ!」
このれいむ、一応人間との付き合い方を餡子に継いでいるようだ。
祖先にバッジ持ちがいたのだろうか。
しかしゆっくりできないその言葉に、れいみゅとまりちゃは猛抗議。
「やじゃやじゃあ!! れーみゅがみちゅけたんだよ!!」
「まりちゃがしゃいしょにひりょったんだよ!!」
「ゆゆぅ、おちびちゃんたち……」
その騒ぎに、まりさとお兄さんも近づいてくる。
「ゆ~? れいむ、どうしたの?」
「おちびちゃんがおうちのものをほしいって……」
とはいえそれは、安いビーダマと安いサイコロである。
ゆっくりの目にどう映るのかはともかく、お兄さんにとっては取るに足らないものだ。
「いいよ。欲しいならあげようか」
「ゆゆっ!? いいの!?」
「ほらおちびちゃんたち、おにいさんにおれいをいって!」
「「ゆっくちありがちょー!!」」
お兄さんは笑う。
ゆっくりと人間の価値観は違う。
ちぇんもそうだった。
高かったおもちゃよりも、一掴み100円のビーダマを大事にしてたっけ。
「それより、そろそろおちびちゃんたちを集めてくれるかな」
しかし他のおちびちゃんたちはかくれんぼを始めてしまったらしい。
まりさとれいむは駆けだし、二匹でおちびちゃんに呼びかけを始めた。
「ゆゆっ、おちびちゃんでてきてねっ!!」
しかしおちびちゃんは一人も出ない。
「ゆぅ、こまったよ」
部屋はそれほど広くも無いのだが、ゆっくりはゆっくりな生き物である。
二匹で探しても少しかかるだろう。
そんな二匹のそばに、お兄さんもやってくる。
「ゆっくりを探すときはこうするんだよ」
れいむもまりさも、顔をあげてお兄さんを見る。
「ゆっくりしていってね!」
「「「「 ゆっきゅりちていっちぇにぇ!!! 」」」」
おちびちゃんの声だ。
【2】
---------------------------
お兄さんはゆっくりが大好きだ。
幼稚園の頃にゆっくりを飼い始めた。
最初のゆっくりはれいむ。
中学生になったときにれいむが死に、なぐさめにぱちゅりーを飼った。
ぱちゅりーは短命のケースが多いが、このぱちゅりーは特別長生きし大学を出るまでの友達となった。
ゆっくりスクールの先生になってからはちぇんを。
仕事が忙しくなってくると、遊び相手兼つがいとしてらんも飼いはじめた。
「おにーさんはとってもゆっくりしてるんだよー!!」
ゆっくりスクールではなかよしコース担当。
お兄さんの務めていたスクールにはびしばしコースとなかよしコースがあった。
びしばしコースは強面の教師が金やプラチナを取らせるスパルタコース。
ゆっくりの悲鳴が絶えず、キャンパスは山奥に建てられている。
なかよしコースは優しそうなお兄さんお姉さんがゆっくりを遊ばせながら、
その中で社会性を身につけさせ性格良くさせる。銀バッジ程度のゆっくりを目指すコース。
お兄さんはそのゆっくりに好かれそうな優しい風貌からなかよしコースに配属された。
「はーい、それじゃあイス取りゲームで遊ぼうか!」
「「「 ゆわーい!!! 」」」
問題児もほとんどなく、お兄さんの生活は充実していた。
---------------------------
れいむとまりさがおちびちゃんを集めた後、お兄さんはお遊びの準備にとりかかった。
赤ゆが七匹、丸いテーブルの上に乗っている。
ちなみに親まりさと親れいむは透明な箱の中だ。
「おにいさん、このかべさんはなんなの?」
「まりさはとうめいなかべさんにかこまれてゆっくりできないよ……」
れいむはなんともないようだが、活発な種であるまりさには狭苦しいのかもしれない。
「まあまあ、特等席だと思ってゆっくりしてよ」
「ゆぅ……」
「はーい、それじゃあイス取りゲームで遊ぼうか!」
「「「 ゆわーい!!! 」」」
イス取りゲームとはイスに座っている者が勝つという極めて簡単なゲーム。
音楽がなっている間は(複数個の)イスの回りをぐるぐる回り、笛の音と同時に座る。
イスに座るためなら他のゆっくりに体当たりなどをしてもかまわない。
ただし笛が鳴る前に座ったり、音楽が鳴っているのに立ち止まったりしてはいけない。
ズルをした子は失格である。
「「「 ゆっくちりかいしちゃよ!! 」」」
辛い事や都合の悪い事はすぐ忘れるゆっくりであるが、
お遊びようなゆっくりできることについては妙に記憶力がいいのである。
だからこそ金バッジを取らせるのも難しいのだが。
テーブルの上に、赤ゆでも座れる円柱のイス。
切り株をモチーフにしたそれを六つ、円を描くように置く。
準備は万端だ。
「ちなみに勝った子にはあまあまをあげるからね!」
「「「ゆゆ!? ゆっくち!?」」」
おにいさんはあまあまフードの入った袋を見せる。
「さっきのより美味しいやつだ」
「「「「 ごきゅり…… 」」」」
「「ごくり……」」
赤ゆたちはおろか、親までも喉を鳴らした。
香りを嗅ぐだけで良い意味で永遠にゆっくりしそうな……。
素晴らしい匂いがしたのだ。
ともあれイス取りゲームは始まった。
とてもおいしそうなあまあまを目指し、赤ゆたちは火花を散らし始める。
♪オクラホマミキサー(イス取りゲームで定番のアレ)
七匹の赤ゆっくり。
れいみゅ3とまりしゃ4はみな自分の勝利を確信し、すでに涎を垂らしている。
イスの数から言えばここで一匹失格になるのだろうが……。
「はいはい、イスさんたちの周りをくるくるしてね!」
お兄さんが音楽に合わせ、リズムよくゆっくりと手を叩く。
「「「ゆっくち♪ ゆっくち♪」」」
赤ゆたちも楽しそうだ。
にこにこな笑顔でゆっくちゆっくち回っている。
お兄さんが手拍子をするごとに、赤ゆたちが一歩進む。
そんなゆったりとしたリズムを、一家全員楽しんでいた。
「ゆゆぅ~!! おちびちゃんたちゆっくりしてるよぉ~!!」
「ゆふふ、おにいさんがいいひとでゆっくりできるね!」
親ゆたちもおちびちゃんの久々の笑顔に、一緒にニコニコ。
一拍ごとに左右にゆっくり揺れている。
パン! パン! パン! パン!
ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪
パン! パン! パン! パン!
ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪
しかしこれはお遊戯ではない。イスとりゲームだ。
すぐに音楽は止まり、ピィイ!っというホイッスルの甲高い音が鳴り響く。
「ゆゆっ!?」
楽しい音楽が鳴りやんで、赤ゆたちは一瞬止まる。
しかしすぐに本来のルールを思い出しイスをとりはじめた。
「「「ゆっくちしないですわりゅよ!」」」
「おちびちゃんたち、みんながんばってー!!」
「ゆっくりだよー!!」
まりさが一匹ちょこんと座ったのを始めとして、他の赤ゆたちもどんどん飛び乗ってゆく。
「きょきょをまりちゃのゆっくちぷれいしゅにしゅるよ!!」
席を取れた喜びでおうち宣言をするまりちゃもいる。
あまあまに一歩近づいたまりちゃは満面の笑みだ。
「ゆっくちのりゅよ!」
「ぴょんぴょんすりゅよ!」
「これはれいみゅのいすしゃんだよ!」
「まりしゃいすしゃんにすわれたよ、おきゃーしゃん!!」
「ゆわーい、ゆっくちできりゅよ♪」
イスに座れただけで、赤ゆたちは喜んでしまう。
うふふな六匹。
無邪気なものである。
しかしゆっくりの間でも素早さの差というものがある。
一番末っ子のれいみゅは、どのイスにも座れなかったらしい。
末っ子というものは、体力的に不利なのである。
れいみゅの瞳には、ゆっくりが乗ったイスしか映っていない。
「ゆ、ゆうぅ~!??」
そうなってはいよいよ困り顔だ。
負けたゆっくりはあまあまを貰えない。
きょろきょろしつつ、イスの回りをくるくる探す。
しかしもうイスは一つもないのである。
いくら何度も見ても、全部のイスにどっしりと赤ゆがある。
そのうちだんだん涙ぐみはじめ、
「ゆっぐ……! れいみゅのあみゃあみゃぁ……!」
何度も確認した挙げ句、ついには泣きだしてしまった。
楽観的なゆっくりは自分が負けるなんて考えもしない。
それなのにれいみゅは負けてしまった。しかも一回戦で。
席は一応奪ったりしてもよいのにそれをしないのは、
ルールをちゃんと聞いてなかったのか、それともそういう性格なのか。
「お、おちびちゃんなかないでね!!」
「ゆっくりして! ゆっくりしてねぇ!」
透明な箱の親ゆたちもこれには慌ててしまう。
楽しかったイス取りゲームが一転、悲しい雰囲気を帯びてしまったからだ。
「あらら、大変だ」
しかしそんな末っ子れいみゅのそばにやってきたのが
逆に一番年上の、長女まりちゃである。
まりちゃは自分のイスを離れ、泣いている末っ子れいみゅを慰めに来たようだ。
「ゆっくちしていっちぇにぇ、れいみゅ! まりちゃのいすしゃんあげりゅからね!」
「ゆっぐ……、……ゆ?」
親まりさも親れいむもお兄さんも皆意外そうな顔で長女まりちゃを見る。
「いいの? イスをあげるとまりしゃちゃんは負けってことになるよ?」
「いいよ! まりしゃ、おねーちゃんだもん!!」
まりさの親切がよっぽど嬉しかったのか、れいみゅもにっこり顔に戻っていた。
まだほっぺたに涙の後があるが。
「おねーちゃん、ゆっくちありがちょう……」
親まりさと親れいむなどは、もう滝のように涙を流している。
あんなに小さかったまりしゃが、こんな立派なおねーちゃんに……!!
そういう親の喜びをかみしめているんだろう。
お兄さんもにっこり笑う。
「それじゃあれいみゅちゃんは勝ち抜け、まりしゃちゃんは残念だけど負けということだね」
「そうだにぇ……。でもれいみゅがゆっくちできて、よかっちゃよ!」
にっこにこ。
このまりちゃは、純粋なゆっくりなのだろう。
お兄さんの口がさらに笑う。
「それじゃあ罰ゲームも、かわりに君にやってもらおうね」
「ばちゅ、げーみゅ?」
なんだかゆっくりできなさそうな「罰ゲーム」という響き。
鬼意山は手を振り上げる。
そこにはいつのまにか、小さな金槌が握られていた。
プレイルームの箱に保存されていたもの。
振り下ろす。
ぐしゃり。
躊躇いもなくつぶした。
首をかしげる長女まりしゃは、餡子を飛び散らせて永遠にゆっくりした。
「お姉ちゃんぶって譲ったりしなければ、死なずに済んだのに。永遠にゆっくりしていってね」
まりさ一家の物語は、ここから急降下を始める。
赤ゆたちはなにがなんだか分からないといった様子だ。
金槌でつぶすとこういう反応が得られる。
面白い。
火炙りやあまぎりのような濃い虐待とはまた違った感動がある。
金槌が持ち上がると、餡子溜まりの中から砕けた歯や飛び出た目玉が見え始める。
赤ゆたちはそれでも分かっていない。
「お、おにーしゃん。てじなしゃんはやめちぇにぇ……?」
長女まりしゃが消えたのは、手品かなにかだと思っているらしい。
お兄さんは長女まりちゃの死骸をつまむと、ごみでも放るかのように赤ゆたちの側へ投げた。
すると死臭あふれる死体が、目を背けられないほど近くに現れることになり、
「ゆぎゃああああ!!!!」
「おねーぢゃんぎゃあああ!!!!」
「どぼちでちんでりゅのおおおお!!!」
赤ゆの群れは一瞬にして恐怖に陥れられた。
赤ゆがどんなに間抜けでも、こうしてやって分からないはずがない。
それでもなお現実を受け入れず、ぺーろぺーろで直そうとする者もいるが、
「ゆげえええ!! くちゃいいいい!!!」
ゆっくりにはキツイ死臭をもろに吸い込んでしまい、餡子を吐き出すことになった。
死臭。
ゆっくりはよく死によく増える生き物だ。
しかしおうちから殆ど出ない赤ゆたちである。
今ここで初めて嗅いだらしい。
「でいぶのおぢびちゃんがあああああああ!!!!」
「どぼぢでごんなごどするのおおおお!!!!」
あまりの出来事に両親も騒ぎ始める。
特に親れいむの方など、歯茎をむき出しにして威嚇をはじめている。
「じじいいいいいい!!!! ころじでやるううううう!!!!」
れいむのおにいさん評価は、一気にじじいにまで転落した。
まりさも震える口で怒りを吐き出し始める。
「ゆっぐりじだおちびちゃんだったのにぃいいい!!! どぼぢで!!! どぼぢでええええ!!!!!」
「あれ? 負けた子は生きて帰れないってお兄さん言ったでしょ?」
「ぞんなごどいっでないいいいいい!!!」
まりさの反論にも耳をかさないお兄さん。視線を赤ゆたちに戻す。
両親は他の子供を潰されまいと透明な箱に体当たりを繰り返すが、まったく効果がない。
加工所の透明な箱は像が踏んでも壊れないのだ。
「おぢびちゃんたちにげてええええ!!!」
れいむはどうしようもなくなり、おちびちゃんに逃走を促す。
それを聞いたおちびちゃんたち、はっとして逃げ始める。
泣きわめいている場合じゃないのだ。
このお兄さんは、ゆっくりできない鬼意山だ!
逃げないと殺されるかもしれない。
両親の叫び声がそれを気付かせた。
「ゆっくちにげりゅよ!!」
「そりょーり、そりょーり……どぼぢてかべさんがあるのおおお!!!」
丸テーブルの周りには透明なプラスチック板の壁が存在していた。
このテーブルは赤ゆと遊ぶためにカスタマイズされた、赤ゆ専用虐待プレイス。
このプラスチックの壁は、視認性と逃走防止の両立をはかるために開発された仕組みだ。
高さ10cm強のそれは赤ゆたちにとってヒマラヤのように高い。
子ゆならまだしも、脚力(?)の備わっていない赤ゆが飛び越えるのは不可能。
そのことは当然、計算されたうえで設計されている。
プラスチック壁のそばにかたまり、ぷるぷる蠢いている赤ゆたち。
鬼意山がコホンと咳払いをすると、こんにゃくゼリーのようにぷよぷよ震え始めた。
迫りくる死の恐怖。
生後まもない、死に直面した初めての経験。
既におそろちーちーを漏らしているゆっくりもいる。
「さて、おちびちゃんたちには最後までイス取りを続けてもらうよ」
親ゆたちが箱を叩く音だけが響く。
「かべざんがなければごんなやづうううう!!!!」
れいむが金切り声をあげるが、それも空しい。
どん、どん、どん。
鬼意山は無視して続ける。
「つまり殺し合いをしてもらう。突き落としたり、席を譲らなかったりしたら妹やお姉ちゃんが死ぬことになる。直接は殺さなくても、間接的に殺すことになるわけだね」
ほのぼのとしたお遊びの場で、命のイスを取り合わせるわけだ。
イスに座って助かるならと、餡が繋がっているゆっくり同士が
それはそれは激しい戦いを繰り広げることになる。
時には餡が流れることもあるだろう。
「負けたゆっくり、ルール違反をしたゆっくり、ゲームに参加しようとしないゆっくり。そんなゆっくりは、地獄の様な苦しみを味あわせて、極限までゆっくりできなくさせた上で殺してあげるから、そうならないように頑張ってね」
赤ゆたちはきゅっとあにゃるが冷える感じを得る。
「さあ、最後まで残れるのは誰かな?」
しかし最後の一匹が選ばれたとして、そんなおちびちゃんがまともな生活をおくれるのだろうか。
お兄さんの遊びが終わった時。それは家族が崩壊する時。
ぷきゅうううう!!!
「そ、そんにゃことできにゃいよ!!」
一匹の赤れいみゅがお兄さんの話を遮った。
なんて命知らずのれいみゅなのだろう。
勇気ある、とも言えるか?
「れーみゅたちは、かじょくなんだよ!? そんなおあしょび、たのちくないよ!!」
ぷきゅううとわずかにふくれあがり、必死で睨みつける。
「れーみゅたちおうちにかえりゅよ! おきゃーしゃんとおとーしゃんはげしゅなじじいをゆっくちころちてにぇ!!」
よりぷっくりふくらみ、その姿はフグのよう。
ほっぺたがタコ焼きのようにふくれる様が、フグそっくりなのだ。
あまりに面白い顔をするものだからと、お兄さんはくすくすと笑いをこぼしている。
こんなささやかな反抗も、お兄さんが何度だって体験したことだ。
仕事でもプライベートでも。
鬼意山は立ち上がって親まりさに近づくと、その脳天に金槌をくらわせた。
「お、おにいさんなにを……ゆげぇっ!!!」
柔らかい餡子と皮に阻まれ、くぐもった音が響く。
赤ゆのための金槌なので親まりさもさすがに死んではいない。
「い、いだいいいい!!! おもにあだまがいだいいいいい!!!!! ゆげっ、ゆげえええぇ!!!」
しかしその衝撃は凄まじく、いざという時には頼りになる親まりさがみじめにも餡子を吐いてしまった。
「ば、ばりざあああああ!!!」
「「「ゆえええん!!! おとーしゃあああんん!!!」」」
鬼意山は赤ゆたちに向きなおる。
「お兄さんはお前らの『おとーさん』よりずっと強いんだよ。我儘を言ってゲームが続けられなくなったら、全員殺すからね。余計なことをしなければ残った子がお父さんお母さんと一緒に帰れる。理解できるかな?」
赤ゆたちはいよいよ怖くなり、おそろしーしーを超えておそろうんうんまで漏らし始めている。
こうやって親を叩いて見せれば赤ゆはもう逆らう気力が無くなる。
赤ゆというものは、親を相当に信頼するのが普通だ。
特に狩りを担う父親役を圧倒的に強くて優秀であると思い込んでいる。
だがこうすることで唯一のたよりが、まったくたよりにならないと分かってしまう。
そうするともう、おとなしくするしかない。
「「「「ゆ、ゆっくちりかいしましちゃ……」」」」