ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1603 グロテスクなれいむ(後)
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ご注意:後編となっておりますが、前編とはストーリー及び文体において繋がりがほとんどありません。
前編の生き残りに対する、その後が描かれているのみです。
前編における群れの物語はすでに完結し、後編におけるれいむ一家の物語はそれとはほぼ独立しています。
よって前編のあらすじと致しましては、ゆっくりれいむ五匹が人間に捕まったとの情報のみにて充分かと思われます。
劈頭から恐縮だが、ソヴィエト社会主義共和国連邦、という国があった。
諸所の理由により、新世紀を待たずしてご臨終あそばされてしまったものの、その国力は疑うべくもなかった。
とくに、科学技術においては、分野によっては西の超大国をも凌駕した。
この国を嫌った人々は、まことしやかに囁きあった。
「好き勝手に人体実験できるから、科学が発展するのも当然さ」
真実のほどは、分からない。単なるアネクドートとする説もある。
しかし、道徳が科学を阻害するというのは、真実である。
と、少なくとも、その男は確信していた。
男は、科学者を自認していた。
自認しているだけである。大学や研究所には属していない。本業は、大手電機メーカーの経理職だ。
ただ、趣味として科学を愉しんでいる。
もっとも、愉しみ方はいささかベクトルを違えていると言ってよかった。
なぜならば、かれの書架には『ネクロノミコン』『悪魔の飽食』『アリエナイ理科の教科書』など、怪しげな書籍が連なっているのだから。
もうすこし例示してみると、『ドグラ・マグラ』『隣の家の少女』『銀河ヒッチハイク・ガイド』などもある。
このような書物を漁っているうちに、男は思うようになった。
人体実験がやりたい、と。
獲得したい結果など、ない。
やりたいだけである。
手段と目標が入れ替わっていることなど、男は重々承知していた。確信犯だったから始末に負えない。
幸いにして、それは犯罪であるという節度が、男のなかにはあった。
やがて男は思い立った。
「とりあえず……。ゆっくりで遊んでみるか」
頑丈なゆっくりで色々遊んでみて、その反応を愉しみ、来たるべき「本番」への予行練習にしよう、と。
この男には、行動力があった。
閃いたとき、すでに夜の帳が降りていた。外出するような時間ではない。
が、まるで気にかけることなく、
まずは、ネットにて「ゆっくりの中ではれいむ種が最も丈夫。そのうえウザい。良心の呵責なんて感じません! おすすめ!」という情報を仕入れ、
日曜草野球で使用している、手に馴染んだバットを持ちだして外出し、
ホームセンターにおもむいて「ゆっくり飼育用ガラスケース 防音・防臭加工済み 素敵なゆぎゃくタイムをあなたに……」を購入し、
自転車を器用に操って野山に向かい、
みちみち、祝日と有給を組み合わせて分捕った九連休を、ゆっくり虐待のために使おうと、心を決めたのだった。
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男は山に向かうと、プリントアウトしたゆっくり生態情報にしたがって、群れを探した。
すぐに見つけた。立派なけやきの樹の下に、饅頭どもが集まっているのを発見した。
「なんだ……こりゃ?」
樹の足もとには、男の腰の高さほどもある、蟻塚のようなものがあった。
そのような建築はゆっくりの常識から外れていたから、男が知らなくても無理はなかった。
男はまず、人間を見るや襲いかかってきたゆっくりたちを蹴散らしにかかった。
「れいむがいないな」
そう呟きながら、バットを振り下ろし、またたくまに八匹のゆっくりを撃ち殺した。
一匹だけ、この惨状に気づかず、凝然と蟻塚の入口を見つめているゆっくり――ぱちゅりーがいた。
この種は体がいささか脆弱で、あまり遊び向きではないらしい。
男はなんら躊躇いもなく、ぱちゅりー種の脳天に、金属の棒を振り下ろした。
かれはバットの扱いには馴れていた。体もふだんから鍛えている。一発で、饅頭は物言わなくなった。
「ふん。ここには、れいむはいないのかな?」
と、呟いたとき、
「しゅっきりー!」
そんな声が聞こえてきた。目を落とすと、赤子とおぼしき小さなれいむが、草むらを這っている。
手を伸ばしても、抵抗する様子さえ見せなかった。これをガラスケースに落とした。
その場を立ち去ろうとした。しかし、どこからか声が、くぐもった怒鳴り声が聞こえてきた。
音源はすぐに知れた。塚の中だ。それが分かると、塚に、バットを振りかざし、殴りつけた。
直後、土の盛り上がりのなかから、ゆっくりれいむが飛び出してきた。
連続して、三匹も出てきた。すべてれいむ種だった。これだけいれば、充分だ。すべて回収した。
男は山を降りて、ガラスケースは後輪の上の荷台にしばりつけて、帰路についた。
帰宅途中、荷台上のれいむたちはひどくうるさかった。
ガラスケースを密閉状態にして、声を遮っておかなければ近所迷惑になっていただろう。
「ゆゆーん! れいむは速いよ!」
と、成体れいむは騒いでいた。その得意げな表情といったら、頭上に音符が出てきそうだった。
「れいみゅは かぜに にゃっているよ! まっは だよ! れいみゅ、まっは だよ!」
二番目に大きなれいむも、まるで翼を得たかのような光景に、得意になっていた。
「すーぱー! びゅんびゅん! たいむ!」
子供ゆっくりと思わしきれいむの顔つきなどは、ドッグファイトを仕掛けようかとほくそえむ戦闘機乗りのそれである。
「ごめんにぇ~、れいみゅ、はやきゅって、ごめんにぇ~」
まだ子供を脱しきれていない、ハンドボール大のれいむに到っては、その速さが自分のものと信じて疑わない。
「むーちゃむーちゃはぁぁァ!? むーちゃむーちゃは、どきょ~ッ!?」
赤ゆだけは、相変わらず食欲だけが全てであった。
男は自転車を漕ぎつづけているうちに、荷台に乗せているガラスケースを見るのが怖くなっていった。
声さえも聞こえない「密閉」の状態にしてあるから、音は漏れない。
しかし、なんだ。
なんなんだ!
この不快感――背中から、鞭打つようにビシビシと伝わってくる、この不快感。胃のムカツキ。これは、なんだ!
これは、見てはいけない。見てしまったら、見てしまったら、断言できる、路上で色々やってしまう!
そして男は、納得した。
嗚呼。
なるほど、これが「れいむ」か、と。
同時に、男は決心した。
気に入った。こいつら全員、泣いたり笑ったりできなくしてやる、と。
気持ちはすでに、マッドサイエンティストではなく、アメリカ海兵隊の新兵訓練教官のそれになっていた。
やがて、自転車は男の下宿に到着した。
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男の住まいは、駅から徒歩十五分ほどのところにある、ワンルームのアパートだ。風呂と便所は別である。
この部屋を、男はすこぶる気に入っていた。
家賃は手ごろだし、自転車を使えば駅に行くにも苦にならず、徒歩一分のところにコンビニがあるし、車の通りも比較的少ない。
が、それらを差し置いて、防音が素晴らしい。
昼間だったら、「太古の達人」をやっていてもさして迷惑にはならないのだ。
男は、我が城へと帰還した。
部屋に入り、蛍光灯をともし、ガラスケースを床に置き、その蓋を開けた。
ケースには高さがあって、成体といえども脱出はむずかしい。しかし、男は万全を期して、上部に網をも張った。
さて、饅頭ども。
その騒ぎっぷりといったら、もはやこいつらは神さまが人間の精神力を鍛えるために創ったのではないだろうかと思えるほどだった。
あるいは、平和を望む生物学者が、人間の忍耐力を鍛え上げる目的で開発したのではないかと疑えるほどだった。
男は、核ボタンの発射コードを知っている人間が、ゆっくりれいむに出会わないことを、切に願った。
視点を、ガラスケースに移す。
「くそじじぃッ! さっさと、あまあまもってきてね! はやくしてね! れいむをゆっくりさせてね!
もう待てないよ! 我慢の限界だよ! 制裁されたくなかったら、さっさともってきてね! ぜんぶでいいよ!
こっち見ないでね! 見ていないであまあまもってきてね! はやく、はやく、はやくッ!」
「おい! どりぇい! あまあま たべちゃい! きこえにゃいの? れいみゅは あまあま たべちゃいの!
なんで だまっちぇるの? ばか! ぷりちー れいみゅに ほれちぇいる ばあいじゃにゃいよ!
ゆるせにゃいよ! ぷきゅぅするよ! いっくよ~……ぷっきゅぅぅぅぅぅッ!」
「使用人! はやくしてね、はやくあまあまを献上してね! れいむの『ひっさつわざ』を受けたくなかったらね!
おなかすいたよ! しーしーもしたいよ! うんうんもしたいよ! すーぱーむーちゃむーちゃたいむだよ!
なにこっち見てるの? ゆゆん、わかったよ! あれだね! あれをみたいんだね! かわいくって……」
「ふとどきもの! くずにくー! ちねー! れいみゅに あまあまをたべさせにゃい くずは ちねー!
なんども ゆーよ。ちねー! あまあまさんも だせない むのーは ちねー! はやく! あまあま!
すぐに あまあま たべにゃいと れいみゅ ちんじゃうよ! はやく! はやくね! いそいでね! ちね!」
「むーちゃむーちゃァァァッッ! むーちゃむーちゃァァァッッ! むーちゃむーちゃしちゃいぃぃぃぃッッッ!!
むーちゃむー……ゆゆん!? ゆ……ゆ……ゆ……しゅっきりー!」
「ご~め~ん~ね~ッッ! ……決まったよ……ッッ!」
「くちゃいぃぃぃぃぃぃッッ! きちゃないぃぃぃぃぃ! なんでぇぇぇ! うんうんがありゅぅぅぅッッ!」
「ばきゃー! ばきゃれいみゅ! おい、はげ! さっさと うんうんさんを かたづけてね! ゆっくりできにゃいよ! ぷんぷん!」
「ぷッッッ……きゅぅぅぅぅぅぅ……げほっ、げほっ……れ……れいみゅの かりすまな おのどぎゃぁぁぁァァァッッ!」
机の上には、甘食が置かれていた。知る人ぞ知るUFO型の菓子パンである。
もうひとつ、羊羹をパンで挟んだ食いもの、シベリアが置かれていた。
ネーミングの由来が不明な、そのくせ戦前から存在している、由緒正しき菓子パンである。
この二つを、男は放り投げるといった感じで、いや実際にガラスケースに放り投げた。
ゆっくりれいむ五匹が、これに群がった。
目が血走っている。涎をぶちまけ、親兄弟で奪いあいながら甘味を食するその姿、まるで地獄の光景だ。
食っている隙に、男はガラスケースに蓋をした。シャワーを浴びて、就寝の準備をする。
部屋に戻ってくると、ガラスケースの中でれいむたちが何か叫んでいる。が、何も聞こえなかった。
板に顔面を押しつけている五匹のれいむ。その光景は、赤ちゃんが見たら泣くかもしれない。
ケースの蓋がしっかりと嵌めこまれていることを確認して、これを風呂場に隔離した。
ベッドの中で、男は身悶えした。
そう、たとえて言うならば、便器に座って、解放準備万端であり、ほどよく腹がうなっている状態とでも言おうか。
要するに、期待に心躍らせているのである。
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翌日。男は昨夜に訪れたホームセンターで、餌やら何やらを買い入れた。
その後、部屋に戻って、作業に勤しんだ。
男は器用だった。
またたく間に、あるものをこしらえてしまった。
それは、ゆっくり飼育用のケースを、二つ連結したようなものである。
だが、ケースの中ほどにはスリットが刻まれていて、ここに板を嵌めこむことで、ケースを左右に分断できる。
板を操作すれば、色々なことができるだろう。
さあ。
ゆっくり行動学の始りだ。
男は、試作品のスリットに、アクリル板をはめ込んだ。
作業を終えると、男は風呂場に向かった。
そこには、五匹のゆっくりれいむを監禁してある、飼育用ガラスケースが置かれている。
一晩中ほったらかしにしていたから、饅頭どもは蜂起しそうなほど騒いでいた。
男は、ゆっくりの移し替え作業をはじめた。
片側に五匹のゆっくりれいむを集中させるが、もう片方の空間へは空っぽであり、仕切りで遮られているため移動もできない。
「じじい! 許せないよ! あまあまもってこいって……れいむはお空を飛んでいるよ!」
「ぷんぷん! れいみゅおこっちぇりゅん……おしょりゃとんでりゅ~♪」
「奴隷のくせに、どーしてあまあまを……おそらとんでるっ!」
「れいみゅ、おこりゅとちゅよいん……おそらをとんでるみたい!」
「むーちゃむー……おしょりゃちょんでりゅ~♪ ゆゆ~ん♪ ゆっきゅり~♪」
貴様らの頭脳の中にはテンプレートが存在しているのかと、問い詰めたくなった。
ともかく、移動は完了した。
捕獲用に使ったケースは、部屋の一隅にのけておく。
さて、仕切りの入ったケースの片側に集中するゆっくりども、相変わらずあまあま寄越せの大合唱である。
男は机の上に置かれていた紙袋を引き寄せた。
「待たせた。あまあま、いっぱいあるぞ~」
紙袋の中から、チョコレート掛けドーナツを手に取る。
パブロフも仰天するような反応といえた。
高々とかかげられて不動の姿勢をとっていたもみあげが、一瞬のうちに、期待のために上下に揺れはじめた。
口もとからは滝のような涎。そのうえ、「うれしーしー」まで漏らす始末。
なんて度しがたい連中だろうか。
男は手にしたドーナツを、すっとケースの中に置いた。
ただし、仕切りで区切られている反対側に、である。
「あみゃあみゃしゃぁぁぁぁぁんッッ! まっちぇっちぇにぇェェェぇぇぇ……ゆべぇ!」
「あまあま~、あまあま~、ゆんっ! ……ゆゆ? ぶったよ? れいみゅ、ぶちゃれたよ!?」
れいむ一家は、甲高い声で突撃した。
だが、透明な仕切りにぶつかって、あえなく跳ね返されていた。
何が起こったのかまるで分かっておらず、れいむ一家はアクリル板への無謀な闘いに再挑戦した。
「ゆむぅ~~……ゆんっ! ゆんっ!」
三女れいむは、なんども壁に体当たりをくりかえし、その都度跳ね返されて、ころんころんと転がった。
「むぐぉォォォ……うごォォォ……あがァァぁぁァ……」
母れいむは凄まじい。仕切りに顔を押しつけて、唸り声を上げている。このうえなく不細工な面を晒していた。
五匹とも、あまあまが目のまえにありながら、これを食せないことに、身が引き裂かれそうなもどかしさを覚えていた。
やがて、その怒りは家主へと向けられた。
「じじい! たべられないよ! ゆっくりどうにかしてね! さぼってないでどうにかしてね!」
母れいむはもみあげを突き上げながら怒っている。長女れいむはアクリル板を押している。
跳ねまわって悔しさを表明しているのは次女れいむで、三女れいむは歯を食いしばりつつもしーしーを漏らしていた。
末っ子れいむは、
「むーちゃむーちゃあ! むーちゃむーちゃぁああっ!」
と、天井にむかってひたすら慟哭していた。
男はかすかに口もとをゆがめると、二本の指で仕切りの上部をつまんだ。
「そんなことはないだろ、ほらよ」
仕切りが、持ちあがった。下部にわずかな隙間ができる。
すると、どうだろう。
「むォォォォ……うぉぉぉお……ッッ! ……ゆん! やっぱり通れないよ! じじい! まじめにやってね」
じじいと呼ばれた男は、無言でケースを指差した。その先には、末っ子れいむの姿がある。
「ゆんやぁぁァァぁぁ……ゆんやァァぁぁァぁ……」
仕切りの高さは、ピンポン玉大の末っ子れいむならば、なんとか通れた。
頭の部分が引っかかっているが、着実に仕切りの向こう側に侵入しつつある。
「ゆんっやぁ……ゆんやぁ!」
ぽんっ、と音を立てそうな小気味良さだった。
末っ子れいむは侵入を完了した。
抜けた瞬間、溜まっていた力が解放されて前転運動してしまったが、すぐに体を起こした。
全身が照っているのは、うれしーしーまみれになっているためだろうか。
「あみゃあみゃ~~♪」
末っ子れいむがドーナツに突進した。
至福を全身であらわす赤ゆを見て、ほかの四匹も望みを得た。
「ゆゆ~~~!」
全身を真っ赤にして、歯を食いしばり、あるいは目を剥き、仕切りの下部にその身を押しこめようとしている。
しかし、隙間の高さは、成体はもちろんのこと、子ゆっくりでも、到底入りこめない程度でしかなかった。
それでも、れいむ一家はあまあま欲しさに奮戦している。
が、仕切りの向こう側から聞こえてきた声が、家族をうちのめした。
「むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ!」
みな、刮目した。
食っている。
末っ子れいむが、黒い光沢をはなつチョコレートソースをたっぷりと掛けられた、至高のあまあまを食している。
四匹はまるで親の仇でも見つけたかのような形相で、末っ子れいむの横顔を睨みつけていた。
すると、末っ子れいむの動きが止まった。
「ちあわちぇ~~♪」
その声は、家族に深い衝撃をもたらした。
「いもーちょがぁぁぁァァ! れいみゅのあまあまをとっちゃっだぁぁァァアッッ!」
長女れいむの慟哭がはじまった。
「あ、ああ……なんで……れいむの……あまあまさん……うそ……おちびちゃん、たべちゃだめだよ!
それはおかーさんのあまあまさんだよ! ……おい、じじい! もっとだよ! もっと……ゆっくりなんとかしてね!」
母れいむは鬼気迫る勢いで命じてきた。
ここで、男は知恵を吹きこみにかかった。
「おちびちゃんに、あまあまを運んでもらえば?」
「ゆん?」
同時に、一斉に、れいむ一家は妹に向きなおった。そして、娘あるいは妹に向けて吼え散らかしはじめた。
「おちびちゃぁぁァん! あまあまさん! おかーさんのところまでもっでぎでェェェッ!」
「あまあまー! あまあまをよごぜぇぇぇェェ! もっでごぃぃッッ!」
「げすぅぅぅッッ! げずぅゥゥぅッ! ぢねぇぇ! もっでごい! もっでごいッ!」
雄叫びに晒された末っ子の反応は、
「むーちゃ! むーちゃ!」
馬耳東風の一言につきた。
「あみゃあみゃしゃん! あみゃみゃしゃん! はやきゅ! はやきゅ! たべちゃい! たべちゃい!」
長女れいむはせっぱつまっていた。
もみあげを板に叩きつけるその姿は、さながら家族との面会を許された受刑者か。
末っ子れいむの幸福はとまらない。
「むーちゃ! むーちゃ! ……ち、ち……ちあわちぇぇェェェッッ♪」
恐らく、それがあてつけになっているとは、微塵も思っていないにちがいない。
「なにやっでんのぉぉぉォォォ! あまあまもっでごいっで、いっでんでじょぉぉォォォ!」
三女れいむは唾をまきちらしながら怒鳴り声を張っていた。
「ゆ!」
突然、末っ子の動きが止まった。
家族全員、それにあわせて全運動を停止せしめ、固唾を呑んでその行動を見守った。
「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ!」
大絶叫がケースからほとばしった。
「うんうんすりゅよ!」
赤ゆは仰向けになり、あにゃるを家族に見せつけた。
「はぁぁァァァ!? ンなことやってる場合じゃないでじょぉぉォォォ!」
もはや、母れいむの遠吠えなど、あまあまを護るためには鼻くそほどの役にも立っていなかった。
末っ子はきゅっと目を閉じて、全身を来たるべき快楽への期待にうち震わせた。
むりむりと、黒い何かが顔を出す。
「しゅーぴゃー! うんうん! ちゃいむ!」
珍しく、宣言の方が遅かった。
「ぢねぇぇェェェ! あまあまをぐわぜないげすは、ぢねぇぇェェッッ!」
「しゅっきりー!」
「あ……あぁ……れいむの……あまあまが……うんうんに……」
この時、家族は、とくに母れいむは戦慄していた。
末っ子れいむの悪魔的食欲を知っていたからだ。
その戦慄を証明するかのように。
末っ子れいむは、ドーナツに向きなおった。そして、死刑執行を宣告した。
「れいみゅの! みゅーちゃみゅーちゃ! ちゃいむ! まだまだちゅぢゅきゅよ~~♪」
「続くなァァァァァァッッ! つぅゥゥづぅぅぅゥぐぅぅゥぅなァァぁぁっっ!」
「むーちゃ……」
「いやぁぁァアぁァぁぁッッ! ぎぎだぐなぃぃぃィィィぃっっ!」
家族の耳をつんざくような絶叫もむなしく、さして時間を経ることなく、ドーナツは全てうんうんに変換された。
この末っ子はどうしようもねぇなあ。
と呆れつつ、男の実験は第二段階に突入しようとした。
そのまえに、割り箸でうんうんを排除した。成分としては餡子だが、手づかみは、尊厳にかかわってくる気がした。
また、ケースを初期化する。
仕切りを落として隙間を閉じて、末っ子れいむは、家族のもとにではなく、捕獲用に使ったケースに容れた。
殺気立つ家族の待つところへと戻すには、まだはやい。
男は紙袋のなかから、ホワイトチョコレートを取りだした。
それをゆっくりたちの頭上で躍らせ、あまあまであることを認識させる。
「あみゃあみゃしゃ~ん……」
瞳を輝かせ、舌を突きだしながら、あまあまを見上げるその姿。蜘蛛の糸とでもおもっているのだろうか。
そこから後の手順は、おおむね同じだった。
男は板チョコをこまかく砕き、仕切りの向こう側にばらまいた。
そして、仕切りを少し上げた。
「ゆがぁぁァァァぁぁッッ! あァァァまぁァぁあァァぁまァぁァぁぁっッ!」
先陣を切った三女れいむが、そのまま潜り抜けることに成功する。
が、ほかのれいむ三匹は、またしてもお預けを食らうのだった。
都合のよいことに、五匹は五匹とも成長段階がかなり違っている。隙間の調整は簡単だった。
さて、母れいむが三女れいむの背中にむかって声を張っている。
「おちびちゃん! はやぐ! はやぐあまあまもっでぎでぇぇぇェ! ばやぐじろぉぉぉぉォォ!
ぎゃわいいれいむにぃぃィィィ! あまあまを! よォォォごぉォぉぜぇぇェッ!」
三女れいむが、仕切りにへばりつく家族に振りむいた。
「ゆっふ~」
勝ち誇った表情を見せつける。
男は、何が起こるのかほどんど予想がついてしまった。
「もってきてほしい?」
言わずもがなのことを質問する。
「もっでごいぃぃぃぃィィィッ! ばやぐ! ぐわぜろォォォぉぉッ!」
次女れいむの甲高い怒号も、威力において母れいむに負けていない。
しかし、三女れいむは毅然とした態度を崩さず、
「ゆん! それぎゃ れいみゅに ものをたのむ たいどにゃの? ぷんぷん!」
と、ぷくーの姿勢をとって怒りを表明した。
「……ゆ! お……おかーさんに、なんて言い方なんだね!」
「れいみゅ! いもーちょにゃのに にゃまえきだよ!」
「ゆっくりあやまっちぇね!」
家族たちの火を噴くような非難も、三女れいむにはいささかの打撃もあたえられなかった。
「あ、そう!」
三女は背を向けて、これみよがしに声を張る。
「れいむの! すーぱー! むーちゃむーちゃたいむ!」
それは、死神の宣告にも等しかった。
「ゆぅぅぅぅぅゥゥゥッッ! ごべんなざい! あやばりまず! あまあまを! あまあまをもっでぎでぐだざい!」
真っ先にひれ伏したのは母れいむだった。
もはや尊厳も何もあったものではない。いや、ゆっくりにそれを求めるのは高望みに過ぎるのか。
どうやら無いものねだりだったらしい。ほとんど連続して、姉たちも一斉に、三女れいむにひれ伏して、あまあまを懇願したからだ。
三女れいむは、ぽつりと、言った。
「……ほしい?」
「ぼじぃぃぃぃッッ! ほじぃぃぃぃッッ! ぼじぃぃぃぃッッ! ほじぃぃぃぃッッ!」
四匹が合唱を送りだす。
「……せいいが たりにゃいよ! ぷんぷん! ……えいっ!」
三女れいむは、仕切りの下部に向けて、放屁した。
「ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ!」
家族らは、打楽器のように三跪九叩頭を繰りかえしてやまない。
なんたる敗北主義か。
その屈辱的行為を嘲笑うかのように、
「ふんっ!」
三女れいむが、背中を向けた。
「れいむの! すーぱー! むーちゃむーちゃたいむ! はっじまり~♪」
と、愉快な声が轟いた。ホワイトチョコレートにぽよんぽよんと跳ねてゆく。
「むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ!」
三女れいむの「むーちゃむーちゃたいむ」が展開された。
見事な悪意だ。と、観察者は感じた。
しばらく至福を味わったのち、三女れいむは顔を上げて、家族のもとへと走り戻ってきた。
何をするのかと思っていたら、
「……ち……ち……、ちあわちぇ~~♪」
と言って、また戻っていった。太陽みたいな笑顔だった。
次女れいむは、唖然とした。
「ぶごぉぉォォォぉォォッ!」
すぐに、吼えた。
「あまあま寄越せっつってんでじょぉぉぉがぁぁぁ!」
「むーちゃ! むーちゃ!」
「げすがぁぁァアァッ!」
三女れいむがまたも顔を上げた。
やはり走り戻ってきた。
そして、
「れいみゅ、あまあまさん! たべしゅぎちゃった! れいみゅはうんうんしゅりゅよ!」
三女れいむのあにゃるから、にゅるにゅると、餡子がこぼれおちてゆく。
「……しゅっきりー!」
息を吹きかけられそうな眼前で挑発されて、次女れいむはいよいよ狂おしい。
「ぬごぉぉォォォ! ひげぇェェェ! ぬぉぉぉォォォッッ!」
このとき、家族は、とくに三女れいむは気づいていなかった。
男の手が、仕切りに向かっていることに。
すっと、仕切りが持ちあげられた。
「ゆぎゃァぁぁァァぁぁァッッ!」
次女れいむが、仕切りの突破に成功する。
そして、彼女の眼前には、三女れいむが仰向けに寝転がっていたのだった。
「ゆんべ!」
進路上に寝転がっていた三女れいむは、あえなく足蹴にされた。
「むぎゅっ!」
コロコロと転がってゆき、壁にぶつかってようやく停止した。
一方、次女れいむはホワイトチョコレートへと脇目もふらず驀進した。
大口を開けて、むしゃぶりつく。
「むぅぅぅぅぅちゃぁぁァァぁぁぁァッ! むぅぅぅぅぅぅちゃァァァァァァぁッッ!」
それは食っている擬音として正しいのかと、男は思う。
しかし、見れば次女れいむは確かに食っている。耳がおかしくなりそうだった。
吹っ飛ばされた三女れいむは、姉があまあまを食いはじめた様子を見、うち震えるほどの激怒をおぼえた。
「おねーちゃん! それはれいみゅのあまあまだよ! とらにゃいでね! ぷんぷん!」
姉は聞く耳さえ持っていない。
「むぅぅぅぅぅちゃぁぁァァぁぁぁァッ! むぅぅぅぅぅぅちゃァァァァァァぁッッ!」
一心不乱にホワイトチョコレートを食っている。
「やめてね! もうやめちぇね! あまあまさん、いちゃがってるよ! ぷきゅー!」
「むぅぅぅぅぅちゃぁァァ……」
次女れいむが凍りつく。
三女れいむは、話が通じたと推察し、諫言を重ねようと口を開いた。
ところが、それを次女れいむの野獣のような雄叫びが遮った。
「つぅぅぃぃぃぃぃあぁぁぁぁァァァうわぁァァァぁすぇェェぇぇぇッッッ!」
幸せ。と、言っている。
三女れいむは、キレた。
「ゆんっ!」
なんの予備動作もなく、次女れいむに飛びかかった。
「ゆぶべ!」
あえなく吹き飛ばされた。さすがに、食っている場合ではないと思ったか、妹と対峙した。
「なにずんのぉぉぉ! れいむの! ずーばーむーぢゃむーぢゃぢゃいむをじゃまずんなぁぁぁぁ!」
「うりゅしゃいよ! しょれは、れいむのあまあまさんだよ! ゆっきゅりりきゃいしちぇね!」
「うるざいよ! れいむのだよ! いもーちょは黙っててねェッ! いっそ死んでねぇ!」
「ちがうもん! れいむのだもん! おねーちゃんこそ、さっさとちんでね、くたばっちぇね!」
「ちぬのは……お前だぁァァ!」
妹に飛びかかる次女!
応戦する三女!
たちまち展開される姉と妹の仁義なき戦い!
その隙にあまあまを取り除いてみる人間!
「ちね、ちね」
「ちね、ちね」
姉妹はぽよんぽよんと体当たりを応酬しつづけている。
男はあまあまをせっせと取り除くと、
「あ、あまあまが無いぞぉ!」
公の場では絶対に発しないような、露骨に演技がかった声を出した。
「ゆッ!?」
「ゆゆんッ!?」
姉妹は本能的に休戦条約を締結し、あたりをうかがった。
なるほど、ない。どこにもない。散らばっていたホワイトチョコレートはみごとにない。
「なんでぇぇぇぇェェ! どぼじでぇぇェェぇぇ! あまあまがぁぁァァァッッ! いじわりゅじないでぇぇぇぇぇ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁ! あまあまざん! にげっぢゃっだぁぁぁぁァァァ! れいみゅぐやじぃぃぃぃぃぃぃ!」
狂ったように泣き出した。
男は、思った。まずい。スイッチが入ってしまいそうだ。
====================================================================
色々と試してみることにした。
男はふと、蛍光灯から垂れ下がっている紐を見た。絶対に見せられないことだが、この男は蛍光灯のスイッチ紐を延長させている。
それはともかく。
この蛍光灯の紐をねじり、手を離してみると、当然だが、紐はぐるぐる回る。
これを試してみようとおもった。
男が用意したのは、差し渡し三十センチほどの棒と、糸、クリップだ。
手順一。棒の端に紐をくくりつける。その紐の先にはクリップが結われている。不格好の釣り竿のようだ。
手順二。釣り竿を机に固定する。机から棒が突き出たような形になり、自然、クリップが垂れる。
手順三。このクリップに横回転を与える。当然、紐がねじれる。ねじれを保ったまま、左手でクリップを掴んで固定。
手順四。ゆっくりを準備。
お相手は三女れいむだった。
右手をケースへと伸ばし、三女れいむを摘まんでみる。
「おしょりゃとんでりゅみちゃい~~♪」
何だろう。励ましてくれているのだろうか。
三女れいむのお飾りを、クリップで挟む。
「ゆんっ!」
無意味に唇を引き締める三女れいむ。
誘っているのだろうか。上等だ。受けて立とう。
「ゆゆんっ!」
真正面の中空を見つめる、三女れいむ。
こうして、三女れいむは捻じられた糸に吊るされた。
男はパッと、三女れいむを固定している指を離した。
蓄えられた力が、解放される。
吊るされたゆっくりは――壮絶な横回転をはじめた。
「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」
男は落胆した。
「くりゅくりゅ~♪」
とか言ってくれるのかと思ったら、これである。
まあ、目にもとまらぬ速さで回転しまくっているから、無理もない。
「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」
三女れいむの奇声はとどまるところをしらない。
やがて回転は止まった――かと思ったら、逆回転となった。
「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」
「わっ、きたねぇ!」
男は思わず声を上げた。
しーしーを撒き散らしはじめたのだ。さながらスプリンクラーだ。
回転が緩やかになってきたところで確かめてみたら、口から餡子が漏らしていた。
オレンジジュースをかけたらあっさり蘇生した。何たる適当さか。
ゆっくりの認識能力にも挑戦してみることにした。
男はネットにて、とある動画を落としていた。
ゆっくりれいむを撮影したものである。
小奇麗な肌。手入れの行き届いた髪、そしてお飾りに光る、ゆっくりの最高位の証明、金バッジ。
最高峰のゆっくりがカメラ目線にて、
「れいむでしこっていいのよ!」
と、艶めかしい目つきを送ってきたり、
「ゆっくりりかいしてね!」
と、愉快そうにもみあげをピコピコさせたり、
「ばかなの? しぬの?」
と、露骨に嘲ってきたり、
とにかく、そういった類の言葉を、延々と吐きつづけているという、作者の精神状態が危惧される動画である。
その動画が上がったときのコメントの荒れ具合といったら、戦争でも起こすつもりかと思われるほどだった。
しかし時が経つにつれて、
「オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!」
「まずい……もう二十回以上ループしてる……」
「なんだろう。神々しさを感じてる俺がいるんだけど……」
といったコメントがアップされるようになった。悟りを啓いてしまった人々がいるらしい。
ちなみにそのコメントに対しては、
「撤退せよ! いますぐにだ!」
「思い出せ! お前の両親の顔を思いだすんだ!」
「……こいつが、全員麻薬中毒者か?」
等々、温かいコメントが寄せられた。
そして先日、動画の注意書きに、
「十八歳未満の方、心臓の弱い方は、ご覧にならないでください」
と、記されるようになった。
これを、母れいむに対してガラス越しに見せつけてやることにした。無論、ループ状態である。
成体れいむは、ボケ老人のようになっていた。
「れいむのことみないでね、えっちぃ!」
動画のれいむが、もみあげを回転させながら嬉しそうに叱り飛ばす。
「うるざいよぉぉぉォォォッッ! あんだごぞ みでんじゃないよぉぉぉッッ!」
母れいむはあんよに青筋を浮かべながら怒鳴り返す。
「なにいらついてるの? ばかなの? しぬの?」
まるで見えているかのような切り返し。動画作者は悪意と断じられる。
「いらづいでないぃぃぃぃッッ! わがっだようにいうなぁぁぁァァァ!」
母れいむの眼前で、くるっと一回転。
「かわいくってごめんね!」
ちゃりーん。
と、間の抜けた効果音が響いた。
「れいぶのほうががわいいぃぃぃぃッッ! ぶざいぐづらやめろぉぉぉォォ!」
言うまでもなく、とんでもない不細工面を晒し上げているのは、母れいむの方である。
「ごらんのありさまだよ!」
「ちがうだろぉぉぉォォォッッ!」
男はマウスを操って、動画を切り替えてみた。
といっても、似たようなものである。
さきほどと同じゆっくりれいむが、至福の表情であまあまを食べ続けるという、単純ながらも破壊力に富んだ、ピリリと辛い逸品である。
効果は抜群だった。
「むーちゃ! むーちゃ!」
固形物を食っているのに、うどんをすすっているかのような音がする。
「ぐわぜろぉぉぉッッ!」
母れいむはもみあげでガラス板を叩きはじめた。
「むーちゃ! むーちゃ!」
「でいぶのあまあまだぞぉぉぉぉぉッッ!」
男はゆっくりの思考方法がまるで分からない。
「むーちゃ! むーちゃ!」
「でいぶ……でいぶ……ぁ……あぁ……」
急に、母れいむが大人しくなってきた。潤んだ目つきで動画を睨みつけている。
「むーちゃ! むーちゃ!」
そのまま、後ろに倒れて仰向けになった。
「ぁ……ぁ……れいみゅ……れいみゅ……ぴぎゃぁぁァァ! おぎゃぁぁァじゃぁぁぁァんッ!」
どうやら何もかも諦めてしまったらしく、母れいむのすることと言えば、恥も外聞も無く泣きわめくことだけだった。
「むーちゃ! むーちゃ!」
「おなきゃちゅいちゃぁぁぁ! れいみゅ おにゃきゃちゅいちゃぁぁぁァァァッッ!」
男は、放置を決めた。
細かい装置も作ってみた。
土台となるのは玩具のような小型ランニングマシンだ。
ゆっくりの運動不足を解消するためにつくられたものである。
これをすっぽりと納まる箱に容れて、いわば床全体を動く歩道にしてしまう。
だが、両端は残しておく。
そして、隙間の片岸にはアポロチョコを置く。
その対岸には、末っ子れいむを配置した。
矢印をランニングマシンの流れる方向だとすれば、次のように図示できるだろう。
「(末っ子れいむ)←←←←←←←←←←←←←←(アポロチョコ)」
これで、準備完了だ。
末っ子れいむは得意の嗅覚を活かし、さっそくベルトコンベアの対岸にあるあまあまを発見する。
「あみゃあみゃ~♪」
勢いよく、ランニングマシンに飛び乗った。
左右と後ろを壁で仕切られているから、ほかに道はない。
また、あったとしても末っ子れいむの知能では、選びようもない。
さて、ベルト上に乗りかかると、重量を感知してランニングマシンが作動する。
「ゆゆん?」
妙な感覚を覚え、少々疑問に思ったようだ。
が、結局は進みはじめる。
「あみゃあみゃ~♪ まっちぇ~♪ にげにゃいで~♪」
末っ子からしてみれば、まるであまあまが逃げているように見えるのだろう。
さて、逆流速度は相当に遅くしてある。
そのため、かたつむりのように遅々とした動きではあったが、着実にあまあまとの距離をつめていった。
「あみゃあみゃ~、あみゃあみゃ~」
ところが、この装置には仕掛けが施されてあった。
対岸の手前、それこそもう一息であまあまに到着できるというところに、赤外センサーが備えつけられていたのだ。
そこに到ったとき、センサーが反応して、スピーカーが稼働した。
『ゆっくりしていってね!』
末っ子まりさは、本能に動かされるままに声を張るしかない。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~~♪」
あんよが止まった。
すーっと、末っ子れいむがあまあまから遠ざかってゆく。
「ゆん?」
気がつけば、岸まで押し戻されているのだった。
「ゆゆん?」
末っ子れいむから見てみれば、よく分からないうちにあまあまが遠ざかってしまったのと同じだった。
さすがに疑念を覚えたらしい。
「あみゃあみゃしゃん……あみゃあみゃしゃ~~ん♪」
だが、結局は知能を駆使しての打開策創出よりも、欲望の赴くままに突撃するのを選ぶのだった。
動作感知ではなく、音声感知器を利用した装置もつくってみた。
目をつけたのは、次女れいむだ。この一家のなかでは、知能が高いように思われたからだ。
男は、末っ子れいむが純粋無垢に機械の一部と化していることに、満足と不満を覚えていた。
予想が的中するのは嬉しいものだが、やはりゆっくりどもは泣き喚いてこそ価値がある。
まず、直方体の木材を用意した。
この上部に、電動式の糸巻機をつける。原理的には、エレベーターを昇降させる滑車とおなじものだ。
その機械からは、糸が垂れ下がっていた。
糸は次女れいむのお飾りにくくりつけられている。
最後に、土台となっている木材の上部から、あまあまを吊るした。
チョコパイである。
「あまあま! あまあま!」
次女れいむの皮膚には、三女れいむとの死闘で獲得した傷が刻まれていた。
「いいか。れいむ。あまあまをくれてやるぞ」
と、男は言った。
「当たり前だよ! れいむのだもん!」
頬をふくらまして威嚇するれいむ。
「……いいか。黙っていれば、お前はあまあまのところにまで行けるぞ」
「お話すると?」
男は少々、ゆっくりを見直した。そんなのおかしいよ! とか言われると思ったのだ。まあ、おかしな実験をやっているのには違いない。
「紐がおりはじめて、スタート地点に戻っちゃうぞ!」
と、愉快げに宣言した。
「わかったよ! れいむ、しゃべらないよ!」
自信満々に、次女れいむは答えた。
「よし。始めるぞ」
元気よく男が言って、電動機のスイッチを入れた。ついでに、音声探知機のスイッチも入れた。
滑車が動きだして、次女れいむがするすると天へと登ってゆく。
口を切り結び、眉を逆ハの字にして、将軍さながらの威厳を保ったまま、吊るされてゆく。
だが、ある高さに来たとき、
「おそらとんでる~~♪」
ぴっこぴこともみあげを動かして、次女れいむは叫んだ。
すると、その音声をセンサーが拾って、滑車に信号を送り、逆回転を命じた。
「ゆゆ!」
次女れいむは、何が起こったのか分かったようだ。
「だ、だめだよ! さがらないでね! れいむを上にあげてね! あまあまをたべさせてね! いじわるしないでね!」
叫びは虚しく、次女れいむは床に落ちた。滑車の逆回転は一定時間の経過により終了することになっている。
それが終わると、また順回転を再開した。
次女れいむは随分と悲壮な目つきをしていた。
それでも、ある高さを得たとき、
「……お、おそらとんでるー!」
幸せそうに叫び上げた。
「ゆゆん! ゆゆゆん!」
否応なしに地獄へと叩きつけられた。
いよいよ、次女れいむの決意は痛々しさを増してゆく。
三度目の昇天が始った。
「……お、お、おそらを……」
必死にくちびるを噛みしめているその様は、痛みに満ちたものだったが、どうしようもなく醜かった。
「おそらとんでるッッ!」
本能には抗いがたかった。
四度目のチャレンジに際して、
「ゆぅ……ゆぅぅぅぅッッ!」
と、叫んで唇をひきしめた。
次女れいむが昇ってゆく。
そして、その距離に到達する。
「……お……お……お……」
彼女は、よく我慢していた。
「お……ぉ……おそっ、おそっ、おしょっ、おそっ」
だんだんと早口になっていった。
これでは不味いと思ったか、目をかっと見開き、滝のような汗を流し、全身全霊を声の封じ込めにあてた。
「……」
次女れいむのあんよが震えだしている。
ぷしっと音を立てて、しーしーも漏れた。
「……も、もう――れいむ、もう我慢できない! れいむ! おそらとんでるぅぅぅぅぅッッッ!」
我慢していたのは声だけではないらしく、しーしー、うんうん、もみあげ、後ろ髪、表情、全てを注ぎこんで浮遊感を叫び散らすのだった。
スタート地点に戻されたとき、次女れいむは悔しさに涙した。
「ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ! ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ! ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ!」
彼女の叫びを意に介さぬ機械が、次女れいむを無情にも空へと引き上げてゆく。
資本主義とは、まこと空恐ろしいものだ。
あきらかに需要が疑わしい商品が、日々産まれては消えてゆく。
「お徳用・ゆっくりのまむまむ 一パック十二個入り」
それが、机の上に鎮座している商品の名前だった。同じものが、三つも積み重なっている。
これは、比喩でもなんでもない。
培養したゆっくりから、まむまむの部分だけを、切り取ったものであるらしい。
餡子には特殊な加工がされていて、もちぬしの記憶は証拠されている。
だから、移植をしても拒絶反応はない。
さて。
オペが始まろうとしていた。
患者は、長女れいむである。まな板の上で嗚咽をもらしていた。
「ひぐっ……、うぐっ……、えぐ、えぐっ……」
と、くちびるを噛みしめながら泣いている。まったく、努力したかのように不細工だ。
「あまあま……」
その一言は耳にしたとき、男はすべての躊躇をかなぐりすてた。
男は左手で長女れいむを固定し、ピンセットを長女れいむの眼下に押し込んだ。
「ゆべばばばばばばばばばばばばばッッッ!」
壊れたような叫び声だ。
長女れいむの眼球が抉りとられる。おなじ措置を片目にもほどこし、できた穴に餡子を詰めて、小麦粉を塗りこめた。
「いぎっ……、あぎっ……ゆぎぃ……」
男はピンセットをカッターに持ちかえた。その切っ先を、さくりと口のまわりに差しこんだ。
「ぶごぉぉ……おごぅ……」
そのまま口だけを切り落として、オレンジジュースをひたしたシャーレに一時保存する。顔面の大穴は、目とおなじように塞いだ。
のっぺらぼうのゆっくりれいむが出来上がった。痙攣している。
男はカッターを、脳天に差しこんだ。
「……ッッ!?」
頭頂部を円形に開き、そこに口を移植した。
こんな妖怪いたなぁ、と男は思った。
「ぁ……あぁ……ひぐっ、あぐっ……。うぁ……」
脳天に生える口から涎が流れ落ち、長女れいむの黒髪を汚していた。
「さて、と」
まだオペレーションは終わっていない。
男は、長女れいむの側面に、小さいが奥行きのある穴を開けた。そこに徳用まむまむを埋めこんでゆく。
合計三十六個の切り売りまむまむが、均等に埋めこまれた。
こうして、長女れいむの体面には、本来のもちものとあわせて、三十七個のまむまむが発生した。
「最後に……」
ゆっくりショップで購入した「ゆっくり精液(動物型受胎用)」をシャーレにあけた。
スポイトでこれを吸い取り、まむまむに突っ込んだ。
「どべぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼッッッ!」
長女れいむは溺れたような悲鳴を発した。スポイトから、まむまむに精液が流れこんでゆく。
「あとは……あまあまかぁ」
「あみゃあみゃ!」
鋭い反応をしめしてくれた。
「ああ。あまあまだ」
と、言いながら男が手に取ったのは、白い錠剤だった。
砂糖の数百倍の甘さを誇る人工甘味料、アスパルテームの塊である。
「……!」
これを、ありったけ長女れいむの脳天の口に流しいれた。濃厚オレンジジュースも、漏斗を突っ込んで無理やり呑ませた。
このふたつが、促成妊娠を可能にした。
長女れいむの体内で、みるみる赤ゆが生成されてゆく。
机の上で出産されても困るので、ケースに移し替えた。
五分も経たずに、出産のときが来た。蠅も驚くスピードだ。
「うご……うぐ……あ……ああ……」
長女れいむが苦悶の吐息を漏らした。
そして、れいむの体面から、三十七匹のゆっくりの笑顔が、ムリッと、せりあがってきた。
「きも……」
男は後悔した。
この手術は、こんなことをしたら多分キモいだろうなあ、などと思いながらやったことだ。
実際キモかった。
それだけだった。
つぎつぎと、まむまむから赤ゆが飛び出してくる。
『ゆっきゅりしちぇいっちぇねー』
などと挨拶をしてくるが、数十匹の赤ゆを養えるような精神的及び経済的余裕など、男にはなかった。
鍋で煮詰めて、殺してしまった。
長女れいむでの遊びは続行された。
とりあえず、キモかったのでまむまむは全て埋めた。
小麦粉を溶いた水を垂らしこめば、すぐに干拓されてしまう。ドライヤーも使えば時間はさらに節約できる。
頭上にくっついている口も、何かとわめきたてるので埋め立ててしまった。
十円ハゲの、のっぺらぼうが出来上がる。小刻みに振動しているのが、なんとも気味が悪い。
男は、ピンを手にした。
「……」
それを、長女れいむの肌に刺し入れてみた。
「……ッ!」
竹ぼうきのようなもみあげの先端が、ぶわっと、花開いた。
おもしろい。
ピンを引き抜くと、花びらは閉じた。
「えいっ」
「……ッッ!」
もうすこし深く差しこんでみた。また花開く。
「えいっ、えいっ」
刺しては抜き、抜いては刺し、長女れいむのもみあげは、律儀に開閉を繰りかえした。
「あれ。元気なくなったな」
蜂の巣にしたころには、もみあげが下がっていた。震えも心なしか小さくなっていた。
「口が無いからなぁ……あまあまをぶっかけてやるか……」
と、男が言った瞬間、のっぺらぼうのもみあげが、わさわさと躍動した。この動きだけでも有無を言わせず苛立たせてくれる。見事である。
なお、ゆっくりには肌にも味覚があるらしい。
男が用意したのは、巨大注射だった。
象にでも打ち込む気かと問いたくなるような凶悪さだ。
これに、たっぷりとアイスココアを含ませてゆく。
「れいみゅ! あまあまだぞ~♪」
わざとらしく宣言すると、もみあげを振り回してさっさとやれと急かしてきた。何ら疑問を感じていないのだろう。
「えぇぃッ♪」
ぶっすりと。
針の根もとまで。
刺した。
「……ッッ!」
長女れいむは、のけぞった。横から見れば逆U字型になったほどだった。
男はのり巻をつくりだした。
ただ、のりにあたるのは饅頭皮であり、酢飯と具にあたるのは餡子だった。
丁寧な手つきでのり巻きをこしらえると、つぎに、次女れいむの額に穴を明けた。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
末っ子れいむは、依然としてベルトコンベアを逆走しては押し戻されている。
男は、末っ子れいむに手を伸ばした。
「ゆゆん! おしょりゃをとんでりゅみちゃい~~♪」
これを、手術台に置く。
左手で末っ子れいむを抑えこんだ。
「ゆゆ~♪ くしゅぐっちゃい~~」
右手にはカッターが握られている。
刃物は、末っ子れいむのあんよを、なんの苦もなく斬り落とすのだった。
「……ゆゆんッッ!?」
さすがの末っ子れいむの笑い顔も、凍りついた。
「……ゅ……ゅ……ゆぅッ!」
やがて、
「ゆぴゃぁぁぁァァァっ!? ゆびぃぃィィやぁぁァァッ! ゆぎゃぁァァぁぁァァッ! いぢゃぃぃぃィィィぃぃッッ!」
泣きわめく。
男は、斬りおとされたあんよに、作っておいたのり巻きの端を連結した。ジュースと小麦粉が溶接剤となる。
さらに、のり巻きの逆端は、長女れいむの額の穴と接合させた。
長女れいむは、もみあげをぴんと張ったり、振りかざしたり、自分の側面部を叩きまくっていたり、なかなかやかましい。
額から伸びる白い触手は、だらりと垂れ下がったままだ。
末っ子れいむは泣いている。
「失敗かな?」
と、思ったとき、唐突に末っ子れいむが泣きやんだ。
「ゆゆ!? ゆゆ~♪ ゆぐ~♪」
キャッキャと笑いだして、いたくにゃくにゃったよ! などと叫んでいる。
すると、白い触手が持ちあがり、宙を泳ぎはじめた。
「おしょりゃとんでりゅ~♪ おしょりゃ~、おしょりゃ~」
波に揺られるかのように、不規則な遊泳を開始した。
「うきゅ?」
末っ子れいむの瞳に、疑問符が浮かんだ。なにやら困惑の表情を浮かべる。その一方で、長女れいむは小さく震えはじめている。
「ゆゆ~!」
末っ子れいむは歯を食いしばりはじめた。何かに抵抗するかのように。
「うぎょきぇー! うぎょきぇー!」
末っ子も長女も、力を入れているように見えた。
おそらくは、触手の主導権をめぐって争っているのだろう。
男はおもむろに、ピンを長女の腹に刺してみた。もみあげの先端が花開く。しかし、末っ子れいむは特に痛がっているように見えなかった。
次に、触手の腹に差してみた。
「ぴきぃ!」
末っ子れいむが唸った。どうやら、共同使用しているのは触手の部分だけらしかった。
男はチョコレートの欠片を用意して、それを長女れいむの足もとに置いた。
「ゆゆ~♪」
象が鼻を伸ばすように、末っ子れいむがこれに向かった。途中、また主導権争いが起こりそうだったので、ピンを刺して長女を諌めた。
「むーちゃ! むーちゃ!」
あいかわらず、よい食いっぷりだった。しばし食わせつづけていると、末っ子れいむの目が輝いた。
「たべしゅぎちゃっきゃら れいみゅ うんうんしゅりゅよ!」
長女れいむはぐったりとしている。
が、末っ子れいむが踏ん張りだすと、長女れいむはそれと同調するかのように、もみあげを暴れさせはじめた。
「しゅっきりー!」
と、末っ子れいむが叫んだ瞬間、もみあげは水平にぴんと伸ばされた。
「ゆん?」
突然、触手が天井に振りかざされた。末っ子れいむはまだ笑っていた。
「ゆごっ!」
男もいささか驚いた。振りかざされた触手が、地面に叩きつけられたのだ。当然、その先端から生えている末っ子れいむも打撃を受ける。
何度も、何度も。末っ子れいむは空に持ちあげられては、地面――まないたの上に叩きつけられた。
「あ、いかん」
その動きの荒々しさについ見惚れてしまったが、このままだと末っ子れいむは殺される。
男は机の引き出しから鋏を手に取ると、
「えいやっ♪」
触手をちょん切った。
その瞬間、長女れいむのもみあげを結んでいた巻紙が、吹っ飛んだ。
孔雀のように髪を広げ、しばらく震えを繰りかえした後、ばたりと倒れた。
「……ッ……っ……! ……ッ! ……! …っ……ッ!」
痙攣を繰りかえしているところを見ると、息はある。
触手のかたわれ、末っ子れいむは怪鳥のような声を発していた。
「ぴきぃぃぃぃぃぃィィィィィィィッッッ! ゆぎぃぃぃィィィィぃぃぃッッ! むぎゅぅぅぅぅべぇぇぇぇェェッ!」
触手を振り回されたら厄介だとも思っていたが、そんなことはなかった。泣いているだけである。
男は新たな作業に取り掛かった。
まず、予備のアクリルケースを持ちだした。
この底面に薄く餡子を敷きつめる。さらにオレンジジュースを沁みこませた。
その上に、ゆっくり専門店にて購入した饅頭皮を置く。
饅頭皮の中央には、円形に穴を開けた。
ここに末っ子れいむの、触手の断面を接合した。
すると、目論みどおり、チューブワームのように、地面からゆっくりれいむが生えているような様になった。
「ゆゆ~♪ れいみゅ、ちゃきゃい! おしょりゃとんでりゅみちゃい! ゆっくりの~、ゆ~♪ ゆ~の、ゆっくり~♪」
どうやら満足してくれたようだ。
「……?」
男は、ケースの下部に敷きつめている饅頭皮に目をやった。その饅頭皮が、波打っている。
下部の饅頭皮に、ピンを刺してみた。
「びゅぉぉぉォォォォぎゅぃぃぃぃぃィィッッ!」
結論は明らかだった。どうやら、ケースの下部の饅頭皮も含めて、末っ子れいむの所有物になってしまったらしい。
それにしても何たる悲鳴か。
男は、熱したオレンジジュースを、ケースに注ぎこんだ。
「いひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」
熱湯だから痛いに決まっている。しかも、皮膚の面積が拡大しているので、痛覚が何百倍にもふえている。
しかしながら、オレンジジュースだ。皮膚が甘味を直接摂取して、火傷をまたたくまに快復させてしまうだろう。
男はケースに蓋をした。
さらに、ケースごと毛布でぐるぐる巻きにした。断熱材のつもりである。
お次は、母れいむだ。
依然としてモニター画面に向かって吼え散らかしているところを、お飾りを取っ手にして持ちあげた。
「ゆゆ~ん♪ これじゃあまるでお空を飛んでいるよ~~♪」
怒りから一転して、ニコニコしだすから気味が悪い。
おまけに、持ちあげるたびに微妙に定型句を変えているのも、無駄に知恵を使っているようで腹が立つ。
「ゆゆ……ゆ!?」
右もみあげで母れいむを持った。
「ゆ! 離してね!
れいむのパーフェクトでキュートでクールなもみあげに触れないでね……ゆが!」
言われたとおり、離した。
当然の帰結として、床に叩きつけられた。
もういちど、もみあげを握って宙に引き上げる。
「かわいいれいむがお空を飛ぼうとしているかもしれないとは言えないとは言えないよ!」
いささか混乱しはじめているのかもしれない。
「二重否定なんか使いやがって……許せん!」
「ゆゆ! やめてね! いだいのはやめでね!」
風呂場に移動し、これを浴槽にぶんなげた。
「ゆぶべぇぇッ!?」
打ちどころが悪かったのか、強く放りすぎたのか、潰れたような悲鳴を発した。
「じじぃ! れいむを優しくあつかってね! れいむは『しんぐるまざ~』なんだからね!」
「シングルマザーって響きが妙に甘ったるいな。むかついたぜ」
男が準備したものは、これまたゆっくりショップでの購入品だ。
商品面は、「うー風船」。ちなみに商品札には、「うー☆ふーせん」と、書かれてあった。
「ゆん?」
それを浴槽の中に投げいれた。
その品は、ゆっくりを捕食するゆっくり、れみりゃそっくりの風船である。
大きさとしては、ピンポン玉サイズでしかない。
一方、成体れいむはバスケットボールほどの背丈がある。体積にしてみたら数十倍の違いがある。
が、成体れいむは歯を噛みならし、凝然とれみりゃを見つめ、その震えっぷりは同情さえ惹起されそうになる。
「れ、れみ……れ……あ、あれ……? 小さい……?」
十分以上も恐怖して、ようやく気付いたらしい。
すると、さすがの成体れいむも笑い声を上げるのだった。
「お、おちびちゃんなんだね! 怖くないね! ぜんっぜんっ、怖くないね!」
その背中は、浴槽の壁に密着していた。
「怖くないね! 怖くないもんね! れみりゃ! あやまってもおそいよ!」
母れいむの哄笑まじりの声は、
「うー」
という、れみりゃの鳴声によって阻止された。
風船が声を出している。種を明かせば、なんのことはない、風船の中に入っている、小型スピーカーの音である。
そしてその音は、男が遠隔操作しているのだった。
「うー。あまあまだどー」
母れいむは、
「イヒッ」
と、震えあがり、しーしーがあにゃるから噴射された。
「ごべんなざいぃぃぃぃぃィィィィぃぃっっっ! ……い、い……ち、違うよ! いまの無しだよ!」
れみりゃ故の恐怖と、赤ゆ故の安堵が拮抗しているらしい。
「ゆ? くさいよ? なんだかくさいよ? ゆゆ? だれかな? しーしー漏らしたのはだれなの!」
答えても無駄なので、作業を進めることにした。
風船からはチューブが伸びている。その管を伝ってゆくと、男が手に持っている電動式空気ポンプに辿りつく。
膨らまなくて、なにが風船か。
男が、ポンプのスイッチを押した。
風船が急速に膨らみはじめた。
「ゆゆ?」
みるみる大きくなってゆくれみりゃに、母れいむは驚愕にうち震えた。
「うー、うー、あまあまだどー」
電動音が風呂場を充たしているが、そんなもの、ゆっくりれいむにとっては何の手がかりにもなりはしない。
「こ、こっちごないでね! ごっぢごないでね! ごっぢごないでぇぇぇェェェ!」
「うー、うー、あまあまだどー」
大きくなっているから、接近しているように錯覚しているらしかった。
「おっぎぐならないでぇェェ! ぎょわいよぉぉォォォッッ! ゆっぐりざぜでぇぇぇッッ!」
「うー、うー? うー」
ますます、れみりゃは巨大になってゆく。まもなく、母れいむの体積を越えた。
「おぎゃァァァぁぁあぁァじゃぁァァァぁぁんっっ! だじゅげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!」
母れいむは、またも幼児退行を起こした。
れみりゃの巨大化はとどまるところをしらない。まず、バスタブの側面に風船が触れた。
そのころには、母れいむの数倍の巨大さになっている。
「うう~♪」
母れいむは、むやみやたらに「おそろしーしー」を振りまくばかりで、逃げようともしなければ、動こうともしていない。
ただただ泣き散らして、命乞いを繰りかえすばかりである。
「う~、あまあまだど~、たべるんだど~」
「ひっ……!」
母れいむは、息を止めた。無言のまま口を開閉させる。
「れ、れ、れ……」
(泣きだすかな? 抵抗するかな?)
男は固唾を呑んで、母れいむの行く末を見守った。
結論は、どちらでもなかった。
れいむは絶叫した。
「れいみゅたいむ! すたーとぉォォォォッッッ!」
「な、なんだぁ?」
鋭い声を放ったかと思ったら、じつに愉しそうに歌いだした。
「れいみゅのれ~、ゆっくりのれ~、まったりのれ~、れいみゅのま~、おちびちゃんのゆ~、ゆっくりのま~」
音程も歌詞もずれまくっている。
体を揺り動かしながら、さかんに歌い上げている。
かと思ったら、
「おもいだちた! ゆっくりしちぇいっちぇね!」
と、叫んだ。
「そうだ! れいみゅは かわいいの! あいどるなの!」
まるで前後の繋がりがない。
「あいどるは うんちしないの!」
混乱しているようだ。
その証拠に「うんうん」ではなく「うんち」になっている。
「でも れいみゅは しゅるの! だきゃら うんうん しゅりゅの! いまは でにゃいの! でもしゅっきり!」
あんよを振りかざし、ぺちぺちとバスタブに叩きつけ、
「きょきょきょきょきょきょきょきょきょきょ」
笑いだした。
「てけり・り!」
と、叫んだのはおそらく偶然かとおもわれた。
「あ! おちびちゃん!」
虚空に向かって叫んだ。
しかしその表情は真に迫っており、声だけ聞いたら本当にいると思うだろう。
「おかーしゃんと しゅっきりしようね!」
満面の笑みで、語りかけた。
「すーぴゃー! きんっしんっそうっかんっ! ちゃいむ!」
幼児言葉で宣告する。
そして、母れいむは虚空にむかって、猛然と腰をふりまくるのだった。
「いっくよ~…すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」
母れいむの腹のあたりから、突起のようなものがせり上がってくる。
「すごいよ! おちびちゃんの まむまむは しこうの いっぴんだよ!」
それは、精神が肉体を支配した瞬間だった。
「……すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」
間違いない。
「すごいよ! おちびちゃんの しめつけは まんりきの ようだよ!」
ぺにぺにだった。
「……すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」
雷撃を受けたように、母れいむが目を見開く。
「しゅっきり~♪」
その目。
その涎。
その涙。
その震え。
その顔つき。
恍惚としている。
そして、母れいむのぺにぺにの先端から、びゅっと、なにやら透明な液体がほとばしった。
「うー」
風船が唸った。
母れいむの天に昇るような表情が、一瞬にして地獄に叩きつけられたかのような絶望の色に染まった。
「れみりゃだぁぁァァァぁぁァァぁァッッ! ぺにぺにをぐらえぇぇぇぇェェェッッ!」
母れいむが、風船に己のぺにぺにを突き出した。
「あっ……」
咄嗟に、男は耳をふさいだ。
風船に、ぺにぺにが刺さった。
炸裂音。
男は、おそるおそる目をあけた。
「……ゅ……ゅ……ゅ……ゅ……」
バスタブの中で、母れいむは気絶していた。口と眼下から餡子を吐いている。うんうんも垂れ流している。
ぺにぺには見事に切断されていた。
男はしばし思案した。
風呂場から出た。次に戻ってきたときには、両手には二本の瓶と餌袋が持たれていた。
瓶については、かたや、繁殖用高濃度栄養剤。かたや、植物型にんっしん用精液。
まるごと母れいむにぶちまけた。魔法のように、母れいむの頭上から茎が伸び、ゆっくりの実が成った。
袋をやぶり、乾燥餌をばらまいた。
風呂場を出た。
迫力が足りない。
と、それを見上げて、男は思った。
机の上で、何かが回っている。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
それは、卓状扇風機を改造してこしらえたものだった。
網は外され、羽も外され、回転体が剥き出しになっている。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
そのモーターには、紐付き三女れいむがくくりつけられている。
風力「強」で稼働している。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
三女れいむは、回転していた。
以前には、紐で吊るして、ゆっくりれいむそのものに横回転を与えた。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
しかし今度は、モーターを中心とした円運動を展開している。
男はスイッチを切った。
電動音が止み、
「ゆべぇ……」
三女れいむはぶらんと垂れ下がった。
「ゅげぇ……」
餡子も吐いた。
「れいむぅ、起きてよ~♪」
などと言いながら、男は三女れいむのあにゃるにピンを刺す。
「ゆぎゅいぃぃぃッ!」
跳ねるように起きてくれた。
「じ……じじぃ……だずげで……おねぎゃぃ……」
「うるさいっ♪」
有無をいわせず、今度はあんよを貫通させた。
「ぴぃぃぃィィィィィィッッ! いぢゃぃぃぃぃぃッッ! ぬいぢぇぇぇぇッッ! ぴぃぃぃぃぃッッッ!」
「うるせぇっての」
ピンの頭を、指ではじいた。振動が餡子に広がる。内部から発生する痛みはまた格別だったらしい。
「ゆげぇ……」
また気絶してしまった。どうも、三女れいむは意識が弱いらしい。すぐ失神してしまう。面白くない。
ふたたびピンの頭を揺らした。
「ぴぎぎぎぎっっっっ!」
蘇生した。
なるほど、痛みを与えつづければ意識も持続するのか。
机の上でへばっていた長女れいむをケースにぶちこみ、死なないようにオレンジジュースをぶちまける。
男はあたらしい作業にとりかかった。
作ったものは、餡子と皮でできたジオラマのようなものだった。
まず、皮をはりあわせて箱をつくった。
ゆっくりショップでは、棒状、板状など、さまざまなサイズや形の材料が売られており、
痒いところに手が届く品揃えを実現しているのだった。
さて、饅頭箱の外側は、アクリル板をはりあわせて補強した。
内部は自然が再現されていた。
ところどころに刺さっている棒は、樹木をイメージしてある。
箱の中央にはいびつな円錐形の盛り上がりがあって、これは山の見立てだ。
その山の頂上から、チューブが伸びている。
このチューブは山の深いところから伸びており、ただ植わっているのではない。多少山が崩れたぐらいでは倒れない。
見れば、チューブのなかには餡子が詰まっていた。
男は三女れいむを手に取る。
「おしょら……あまあま……」
ゾンビのようなせりふを吐いていた。
男は、チューブの口を三女れいむの後頭部に刺した。
「ふぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」
舌を突き出して痛みを訴えてくる。
さらに、ライターであんよを炙った。言うまでもなく、動けなくするためだった。
「あぢゅぃっぃぃっぃぃぃっぃぃぃぃっっっ!」
しーしーが床にこぼれおちた。
「いぢゃぃよぉ……なんで……いぢゃぃ……れいみゅ……かわいいれいみゅ……かわいそう……ゆべぇぇぇぇッッ!」
「うっせーよ。炙られたくなかったら黙りな」
「ひぐっ……う……」
三女れいむは、強気に男を睨みつけた。男はまるで頓着せず、机の上に設けた高台に、三女れいむを置いた。
そこからだと、ジオラマの中が一望できる。
「おい」
男が、三女れいむにピンの切っ先を見せつけた。
「……れいみゅに……いちゃいこと……しゅりゅの……? なんで……しっとしてるの……?」
男はわずかに目を細めた。
そして、ジオラマの地面に、針を刺した。
「ぴぎゃぁぁあぁぁあぁぁあああぁぁっっ!」
三女れいむは豚のような悲鳴をあげた。ジオラマと三女れいむとは、チューブの餡子を通じて一体化しており、感覚も共有している。
男は、ほんの少し前まで関東地方においてのみ売られていた甘ったるい缶コーヒーをジオラマにぶちまけ、その場をあとにした。
浴槽には、カオスが溢れていた。
れいむ、れいむ、れいむ、れいむ、れいむ。
れいむだらけだ。
一本分の精液はいかんなくその効力を発揮しており、高濃度栄養剤の効果も相まって、
母れいむは、百をも越えるような膨大な赤ゆを産み落としていたのだった。
秩序など、生まれる方が不思議であろう。
「ゆ~は、ゆっきゅりの~、ゆ~♪」
「おちびちゃんたち! うるさいよ! 静かにしてね! わめかないでね!
無理やり生ませられた子なんだから、自重してね! お母さんは『しんぐるまざー』なんだから優しく扱ってね!」
「れいっぽぅッ! みょーいちど! れいっぽぅ!」
「ひだり~、れいみゅ~、みぎ~、れいみゅ~」
「ちゅーちゅーしゅりゅよ! ちゅー! ちゅー! ……にぎゃいぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁぁ! おきゃーしゃんが れいみゅの あまあまをだべぢゃっだぁぁぁッ!」
「うるさいよ! 茎さんはおちびちゃんたちのものじゃないよ! 勝手なこといわないでね!」
「おきゃーしゃんの みょのでも にゃいよ!」
「しゅっきりー!」
「ゆゆ~♪ あまあまがありゅよ~~♪」
「おしょりゃとんでりゅ~♪ ……ゆんっ! れいみゅ、もーいっきゃい! もーいっきゃい!」
「れいみゅは ぷきゅぅぅ! れいみゅの ぷきゅぅぅぅ!」
「きゃわいくってごみぇんにぇ!」
「いぢゃぃぃぃぃぃぃっっ! れいみゅ たべぢゃだみぇぇぇぇぇ!」
「しゅっきり~♪」
「れいみゅの おきゃじゃり……」
「しゅーりしゅーり……ゆゆ!? にゃんだきゃ へんにゃ きもちに にゃってきちゃよ!」
「むーちゃ! むーちゃ! むー……しゅーやしゅーやしゅるよ!」
「すこすこすこすこ…………すこすこすこすこ………すこすこ……すこすこ……すこ……すこ――――――――――ゆんッッ!?」
「しゅーぴゃー! うんうん! ちゃいみゅ! みんにゃー! れいみゅのしゅーぴゃーうんうんちゃいむだよ~~」
「あしょんで~、おきゃーしゃ~ん! にぇーにぇー、あちょんでー」
「もっちょ……ゆっきゅり……しちゃきゃっちゃ…………」
「れいみゅの ぺにぺにが ぐんぐにる!」
「……ゅ……ゅぅ……」
「おねぇぇぇぇじゃぁぁぁぁんっ! どきょにいりゅのぉぉぉぉぉ! いじわりゅしにゃいでねぇぇぇぇッッ!」
「かたしてね! うんうんが臭いよ! さっさとうんうんかたしてね! 全然ゆっくりできないよ!」
「おしょをとんで、ゆべ! ……ふきゃぁぁぁぁぁっっ! ぴぎぃみゃぁぁぁァァぁぁ!」
「しゅっきりー!」
「……くちゃいぃぃぃぃぃッッ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃっっっ! れいみゅの おぐぢに うんうんぎゃぁぁぁぁ!」
「おちびちゃんたち! さっさとあまあまを持ってきてね! ぜんぶでいいよ!」
「れいみゅの ますちゃー すぴゃーく! …………しゅっきりー!」
「れいみゅの おきゃじゃりに うんうん きゃけちゃだみぇぇぇぇぇっっ!」
「まちぇー、まちぇー」
「ゆわーん」
「ぐりゃいぃぃぃぃぃぃっっ! いぢゃいぃぃぃぃぃぃっっ!」
「れいみゅの まむまむが あらぶっちぇりゅよ!」
「しゅっきりー!」
「はふっ、あむっ、はふっ、うへっ……ぱにぇ~~♪ きょれ、ぱにぇ~♪」
「ゆゆ? ゆっきゅりできにゃい ゆっきゅりがいりゅよ? ゆっきゅり できにゃい! しぇいっしゃい しゅりゅよ!」
「ゆ~は~、ゆっきゅりにょ~、ゆ~」
「下手なおうたは止めてね! 餡子が腐るよ!」
「ゆぎ!? こりぇ……こりぇ……こりぇ うんうんだぁぁぁァァァぁぁぁぁ! うんうんちゃべちゃったぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
「ゆっくりしていってね!」
混乱を鎮めたのは、男の一喝だった。
正直なところ、これほどのざわめきに対して有効かどうか疑わしかった。
だが、男の声に赤ゆたちは一斉に静まり返り、男を見上げると、
「ゆっきゅりしちぇいっちぇねぇ!」
と、寸分違わぬタイミングで答えたのだった。
(カクテルパーティー効果みたいなもんかな……?)
などと思いながら、男は手にしていたケースのなかに、手当たりしだいに赤ゆを入れはじめた。
二十匹ほど回収し、立ち去ろうとしたとき、母れいむが声を張った。
「くそじじい! あまあまもってこい!」
赤ゆの群れが、それに続く。
「うるせえ!」
大喝してやると、鎮まった。
男は母れいむに一瞥をくれて、立ち去った。
男が去ったあとの風呂場では、赤ゆたちが発狂したかのように泣きはじめた。
男は三女れいむのところへと戻った。
ジオラマと接続された赤ゆっくりである。
積みあげられた辞書の上にたたずんでいる。あんよを焦がされており、動くことさえままならない。
「よし、お前ら」
と、男はケースの中のゆっくりに声をかけた。
赤ゆどもは、総じて震えていた。
「あまあまを食わせてやるぞ」
単純なものである。
「ゆぴ!」
と反応し、液晶に電流を流したように、赤ゆれいむ二十匹のもみあげが、ぴんと跳ねあがった。
「れいみゅにも、れいみゅにも、あまあまぁ!」
三女れいむも反応していたが、こちらは無視された。
「さあ、召し上がれっ」
男がケースにいたゆっくりたちを、ジオラマの中に放った。
「おしょりゃちょんでりゅ~♪」
「ゆゆ~ とりさんみちゃい~♪」
ぺちぺちぺちと、ジオラマにゆっくりどもが放たれた。
「あみゃあみゃどきょ~?」
さっそくあたりを見渡しはじめる赤ゆだったが、それらしきものは見えない。見えるのは、白っぽい、ぶよぶよしたものだけだ。
「はっはっは。その地面があまあまだよ」
「ゆゆん!」
鋭く反応したのは、高台の三女れいむである。
すでに三女れいむの感覚はジオラマにまで連結してしまっている。
「ゆゆぅ!」
今度は、ジオラマの二十匹が驚く番だった。地面が波打ったのだ。
これは、三女れいむの意志によるものだ。抵抗しているつもりなのだろうが、せいぜいジオラマを微かに揺らすのが限界だ。
「おっと。それ以上は何もないぞ。危険はない。安心しろ」
男は断言し、赤ゆを安堵させた。
「とにかく、食ってみろ」
「おちびちゃんたち! れいみゅをたべにゃいでね!」
三女れいむが声を張る。
「ほら。食ってみろ」
男が勧めてくる。
ゆっくりたちは逡巡した。
が、やがて二十匹の中の一匹が、おずおずと、地面から生えている棒を食んだ。
「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」
三女れいむが目をむいた。
「むーちゃ! むーちゃ!」
先陣を切った赤ゆは、ひきちぎった饅頭皮を咀嚼し、呑み下した。
みな一様にその反応を待つ。
その赤ゆは、ほかの赤ゆたちにとっては天使の囁きのような、そして三女れいむにとっては地獄行きの宣告のような一言を発したのだった。
「ちあわちぇ~~~~~♪」
赤ゆどもの顔が、一斉にほころんだ。
「ゆわーい!」
「むーちゃむーちゃちゃいむぢゃ~~~」
「やべでぇぇぇぇぇェェェェぇぇぇぇっっっっ!」
三女れいむの絶叫も、あまあまの誘惑の前には、なんら役にもたたないのだった。
二十匹の赤ゆは、三女れいむの絶叫をBGMにしながら、至福のむーちゃむーちゃたいむを味わいはじめた。
それは、三女れいむにとっては、二十匹の赤ゆたちに、際限なく体をむしばまれるのと、まったく同じだった。
「みゅーちゃ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁッッッ!」
「みゅーちゃ! みゅーちゃ!」
「ひゅごぉぉぉぉぉォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉッッッ!」
「みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ!」
「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」
「みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ!」
「……! ……ッ! ………ッ………ッッッ!!! ……ッ! ……! …ッッッ………ッッ…!! ………ッッッ…! ……ッッ……!!」
死ぬことは許されなかった。
ゆっくりの生命力は、餡子の総量に等しい。
そして地面の下部には、成体れいむのそれを遥かに超える量の餡子が蓄えられていた。
その様子を観察しているうちに。
男は、ひらめいた。
====================================================================
前衛芸術品。
と、言えないこともない。
本体とよぶべきものは、高さ二メートルを越える円筒だ。
表面はゆっくりの皮で覆われており、内部には濃厚な餡子がたっぷりと詰まっている。
この円筒の側面に、二百匹を越えるゆっくりれいむが埋めこまれている。
見上げ、見下ろし、睨みつけ。
舌を出し、もみあげを動かし、目をぎょろつかせ。
涙をこぼし、涎をたらし、汗を流し。
泣き喚き、助けを乞い、不明瞭な言語を述べたて。
ひとつとして、おなじ行動を取っているゆっくりはいなかった。
側面の一角には、ひときわ大きなゆっくりれいむが嵌めこまれている。
唯一の成体れいむだ。
その眼窩、口の中、頬、額にもゆっくりれいむが発生している。
土台もまた、饅頭の皮と、餡子によって支えられており、円筒と連結している。
この饅頭円筒はガラスケースの中に納められており、その台座はL字金具で固定されていた。
見れば、円筒は小刻みに振動し、あるいはゆらめき、うごめき、まるで生きているかのようだ。
いや、実際に生きている。
この円筒は、二百匹を越えるゆっくりれいむの共有物だ。
すべてのゆっくりが、すべてのゆっくりに対して、肉体の所有権をめぐって相争っている。
しかし、ケースの中の全てのゆっくりが、円筒に埋まっているわけではなかった。
「ちあわちぇ~~♪」
「むーちゃ! むーちゃ!」
「れいみゅはうんうんしゅりゅよ!」
「すーぱー! しーしー! たいむ!」
「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ!」
「すーぱー! むーちゃむーちゃ! たいむ!」
「むーちゃ! むーちゃ!」
円筒のふもとでは、赤ゆたちが躍動していた。
赤ゆは、台座の饅頭皮を漁っている。漁ってはうんうんを漏らし、しーしーを放ち、睡眠を得、また食欲を満たしていた。
食うたびに、円筒に連結されているゆっくりたちに激痛が走った。
どこかで、だれかが食っている。
だから、痛みがない時間帯など、ただの一瞬もなかった。
ただし、円筒の下部と麓はアクリル板にて覆われていて、これに手を出すことはできなかった。
このアクリル板は、赤ゆの侵食によって円筒が倒壊するのをみごとに防いでいた。
観察を続ければ、すべてのゆっくりが躍動しているのではないと分かる。
何匹かのゆっくりは、虫の息であった。赤ゆはそれに近づかない。放置されていた。
永遠にゆっくりしてしまったゆっくりもいる。
こうしたゆっくりの足もとに、亀裂が走った。それは、口だった。食欲を充たす器官だった。
口は死んだゆっくりを食らい、台座の下でマグマのようにうごめいている餡子にとりこみ、消化する。
この口は、円筒そのものの本能のようなものだ。
死に行くものがいる一方で、生まれるものがいる。
円筒の一角にて、円筒に埋まっているゆっくりが、ぽろりと落ちた。
「ゆべっ」
大地に打ちつけられるも、柔らかい饅頭皮に助けられ、さしたる衝撃はなかった。
この赤ゆっくりは、
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
と、幸福に打ち震えるのだった。
空いた穴からは、むりむりと、新たなゆっくりの顔がせりあがってきた。
この円筒のほとんどの穴は、特殊なまむまむだった。
遅行性まむまむである。
普通のまむまむは、ゆっくりの顔がせり上がったら、ほどなく飛び出てくる。
しかしこの円筒のまむまむは、ふんだんに時間を消費して、産み落とす。
そのため、ゆっくりたちは生まれるまでの間、間断なき激痛を味わいつづけなければいけない。
だからこそ、産み落とされた赤子らは、幸福に感激する。
もう、痛みに悩まされることはないから。
そして、報復を決意する。
痛んだぶんだけ、痛めようと。
だから、一心不乱に食うのだった。
円筒の内部には、無数のぺにぺにも埋まっている。
これらも特殊なぺにぺにで、独立性ぺにぺにだった。
本体から切り離されてもその機能を喪わず、餡子のなかで精液噴射を繰りかえし、子種を供給しつづけている。
子種は餡子を得てゆっくりになる。
ゆっくりは遅行性まむまむに送り込まれて激痛に苛む。
やがて産まれて喰いつづける生涯を歩む。
そして死んでは餡子に還る。
この餡子は、生態系の維持につかわれる。
ガラスケースの中では、生態系が循環していた。
唯一。
永遠に産まれない、円筒の呪縛から放たれることがゆるされていないゆっくりが、五匹いた。
これらが産まれない理由はただひとつ、そのれいむは遅行性まむまむに埋まっているのではなく、直接円筒と接続しているからだ。
このれいむたちだけは例外的に、このガラスケースそのものが壊されるその日まで、激痛に耐え続けなくてはいけない。
男は満足していた。
自分は一個の宇宙を誕生させてしまったのだと思っていた。
今日もガラスケースのゆっくり地獄を観察する。
このケースは完全防音だ。声が外に漏れることはない。
男は時々、探してみる。
母親はすぐに分かるが、長女は、次女は、三女は、末っ子は、はたしてどこに埋まっていたものか、忘れてしまうのだ。
やがて見つけて、
「ああ、いたいた……。今日も元気そうだ」
彼女たちの口は一様に、ある一言を発していた。
「殺して……かな?」
読唇術は苦手である。ゆっくりならば尚更だ。
殺すわけにはいかない。奇跡の循環がいつまで続くのか、見届けなければならないのだから。
(終わり)
投稿作品:
anko1599 グロテスクなれいむ(後)
anko1577 トランクス現象
anko1568 突然変異種まりさ
anko1567 お口を開けると
anko1565 れいむの義務
前編の生き残りに対する、その後が描かれているのみです。
前編における群れの物語はすでに完結し、後編におけるれいむ一家の物語はそれとはほぼ独立しています。
よって前編のあらすじと致しましては、ゆっくりれいむ五匹が人間に捕まったとの情報のみにて充分かと思われます。
劈頭から恐縮だが、ソヴィエト社会主義共和国連邦、という国があった。
諸所の理由により、新世紀を待たずしてご臨終あそばされてしまったものの、その国力は疑うべくもなかった。
とくに、科学技術においては、分野によっては西の超大国をも凌駕した。
この国を嫌った人々は、まことしやかに囁きあった。
「好き勝手に人体実験できるから、科学が発展するのも当然さ」
真実のほどは、分からない。単なるアネクドートとする説もある。
しかし、道徳が科学を阻害するというのは、真実である。
と、少なくとも、その男は確信していた。
男は、科学者を自認していた。
自認しているだけである。大学や研究所には属していない。本業は、大手電機メーカーの経理職だ。
ただ、趣味として科学を愉しんでいる。
もっとも、愉しみ方はいささかベクトルを違えていると言ってよかった。
なぜならば、かれの書架には『ネクロノミコン』『悪魔の飽食』『アリエナイ理科の教科書』など、怪しげな書籍が連なっているのだから。
もうすこし例示してみると、『ドグラ・マグラ』『隣の家の少女』『銀河ヒッチハイク・ガイド』などもある。
このような書物を漁っているうちに、男は思うようになった。
人体実験がやりたい、と。
獲得したい結果など、ない。
やりたいだけである。
手段と目標が入れ替わっていることなど、男は重々承知していた。確信犯だったから始末に負えない。
幸いにして、それは犯罪であるという節度が、男のなかにはあった。
やがて男は思い立った。
「とりあえず……。ゆっくりで遊んでみるか」
頑丈なゆっくりで色々遊んでみて、その反応を愉しみ、来たるべき「本番」への予行練習にしよう、と。
この男には、行動力があった。
閃いたとき、すでに夜の帳が降りていた。外出するような時間ではない。
が、まるで気にかけることなく、
まずは、ネットにて「ゆっくりの中ではれいむ種が最も丈夫。そのうえウザい。良心の呵責なんて感じません! おすすめ!」という情報を仕入れ、
日曜草野球で使用している、手に馴染んだバットを持ちだして外出し、
ホームセンターにおもむいて「ゆっくり飼育用ガラスケース 防音・防臭加工済み 素敵なゆぎゃくタイムをあなたに……」を購入し、
自転車を器用に操って野山に向かい、
みちみち、祝日と有給を組み合わせて分捕った九連休を、ゆっくり虐待のために使おうと、心を決めたのだった。
====================================================================
男は山に向かうと、プリントアウトしたゆっくり生態情報にしたがって、群れを探した。
すぐに見つけた。立派なけやきの樹の下に、饅頭どもが集まっているのを発見した。
「なんだ……こりゃ?」
樹の足もとには、男の腰の高さほどもある、蟻塚のようなものがあった。
そのような建築はゆっくりの常識から外れていたから、男が知らなくても無理はなかった。
男はまず、人間を見るや襲いかかってきたゆっくりたちを蹴散らしにかかった。
「れいむがいないな」
そう呟きながら、バットを振り下ろし、またたくまに八匹のゆっくりを撃ち殺した。
一匹だけ、この惨状に気づかず、凝然と蟻塚の入口を見つめているゆっくり――ぱちゅりーがいた。
この種は体がいささか脆弱で、あまり遊び向きではないらしい。
男はなんら躊躇いもなく、ぱちゅりー種の脳天に、金属の棒を振り下ろした。
かれはバットの扱いには馴れていた。体もふだんから鍛えている。一発で、饅頭は物言わなくなった。
「ふん。ここには、れいむはいないのかな?」
と、呟いたとき、
「しゅっきりー!」
そんな声が聞こえてきた。目を落とすと、赤子とおぼしき小さなれいむが、草むらを這っている。
手を伸ばしても、抵抗する様子さえ見せなかった。これをガラスケースに落とした。
その場を立ち去ろうとした。しかし、どこからか声が、くぐもった怒鳴り声が聞こえてきた。
音源はすぐに知れた。塚の中だ。それが分かると、塚に、バットを振りかざし、殴りつけた。
直後、土の盛り上がりのなかから、ゆっくりれいむが飛び出してきた。
連続して、三匹も出てきた。すべてれいむ種だった。これだけいれば、充分だ。すべて回収した。
男は山を降りて、ガラスケースは後輪の上の荷台にしばりつけて、帰路についた。
帰宅途中、荷台上のれいむたちはひどくうるさかった。
ガラスケースを密閉状態にして、声を遮っておかなければ近所迷惑になっていただろう。
「ゆゆーん! れいむは速いよ!」
と、成体れいむは騒いでいた。その得意げな表情といったら、頭上に音符が出てきそうだった。
「れいみゅは かぜに にゃっているよ! まっは だよ! れいみゅ、まっは だよ!」
二番目に大きなれいむも、まるで翼を得たかのような光景に、得意になっていた。
「すーぱー! びゅんびゅん! たいむ!」
子供ゆっくりと思わしきれいむの顔つきなどは、ドッグファイトを仕掛けようかとほくそえむ戦闘機乗りのそれである。
「ごめんにぇ~、れいみゅ、はやきゅって、ごめんにぇ~」
まだ子供を脱しきれていない、ハンドボール大のれいむに到っては、その速さが自分のものと信じて疑わない。
「むーちゃむーちゃはぁぁァ!? むーちゃむーちゃは、どきょ~ッ!?」
赤ゆだけは、相変わらず食欲だけが全てであった。
男は自転車を漕ぎつづけているうちに、荷台に乗せているガラスケースを見るのが怖くなっていった。
声さえも聞こえない「密閉」の状態にしてあるから、音は漏れない。
しかし、なんだ。
なんなんだ!
この不快感――背中から、鞭打つようにビシビシと伝わってくる、この不快感。胃のムカツキ。これは、なんだ!
これは、見てはいけない。見てしまったら、見てしまったら、断言できる、路上で色々やってしまう!
そして男は、納得した。
嗚呼。
なるほど、これが「れいむ」か、と。
同時に、男は決心した。
気に入った。こいつら全員、泣いたり笑ったりできなくしてやる、と。
気持ちはすでに、マッドサイエンティストではなく、アメリカ海兵隊の新兵訓練教官のそれになっていた。
やがて、自転車は男の下宿に到着した。
====================================================================
男の住まいは、駅から徒歩十五分ほどのところにある、ワンルームのアパートだ。風呂と便所は別である。
この部屋を、男はすこぶる気に入っていた。
家賃は手ごろだし、自転車を使えば駅に行くにも苦にならず、徒歩一分のところにコンビニがあるし、車の通りも比較的少ない。
が、それらを差し置いて、防音が素晴らしい。
昼間だったら、「太古の達人」をやっていてもさして迷惑にはならないのだ。
男は、我が城へと帰還した。
部屋に入り、蛍光灯をともし、ガラスケースを床に置き、その蓋を開けた。
ケースには高さがあって、成体といえども脱出はむずかしい。しかし、男は万全を期して、上部に網をも張った。
さて、饅頭ども。
その騒ぎっぷりといったら、もはやこいつらは神さまが人間の精神力を鍛えるために創ったのではないだろうかと思えるほどだった。
あるいは、平和を望む生物学者が、人間の忍耐力を鍛え上げる目的で開発したのではないかと疑えるほどだった。
男は、核ボタンの発射コードを知っている人間が、ゆっくりれいむに出会わないことを、切に願った。
視点を、ガラスケースに移す。
「くそじじぃッ! さっさと、あまあまもってきてね! はやくしてね! れいむをゆっくりさせてね!
もう待てないよ! 我慢の限界だよ! 制裁されたくなかったら、さっさともってきてね! ぜんぶでいいよ!
こっち見ないでね! 見ていないであまあまもってきてね! はやく、はやく、はやくッ!」
「おい! どりぇい! あまあま たべちゃい! きこえにゃいの? れいみゅは あまあま たべちゃいの!
なんで だまっちぇるの? ばか! ぷりちー れいみゅに ほれちぇいる ばあいじゃにゃいよ!
ゆるせにゃいよ! ぷきゅぅするよ! いっくよ~……ぷっきゅぅぅぅぅぅッ!」
「使用人! はやくしてね、はやくあまあまを献上してね! れいむの『ひっさつわざ』を受けたくなかったらね!
おなかすいたよ! しーしーもしたいよ! うんうんもしたいよ! すーぱーむーちゃむーちゃたいむだよ!
なにこっち見てるの? ゆゆん、わかったよ! あれだね! あれをみたいんだね! かわいくって……」
「ふとどきもの! くずにくー! ちねー! れいみゅに あまあまをたべさせにゃい くずは ちねー!
なんども ゆーよ。ちねー! あまあまさんも だせない むのーは ちねー! はやく! あまあま!
すぐに あまあま たべにゃいと れいみゅ ちんじゃうよ! はやく! はやくね! いそいでね! ちね!」
「むーちゃむーちゃァァァッッ! むーちゃむーちゃァァァッッ! むーちゃむーちゃしちゃいぃぃぃぃッッッ!!
むーちゃむー……ゆゆん!? ゆ……ゆ……ゆ……しゅっきりー!」
「ご~め~ん~ね~ッッ! ……決まったよ……ッッ!」
「くちゃいぃぃぃぃぃぃッッ! きちゃないぃぃぃぃぃ! なんでぇぇぇ! うんうんがありゅぅぅぅッッ!」
「ばきゃー! ばきゃれいみゅ! おい、はげ! さっさと うんうんさんを かたづけてね! ゆっくりできにゃいよ! ぷんぷん!」
「ぷッッッ……きゅぅぅぅぅぅぅ……げほっ、げほっ……れ……れいみゅの かりすまな おのどぎゃぁぁぁァァァッッ!」
机の上には、甘食が置かれていた。知る人ぞ知るUFO型の菓子パンである。
もうひとつ、羊羹をパンで挟んだ食いもの、シベリアが置かれていた。
ネーミングの由来が不明な、そのくせ戦前から存在している、由緒正しき菓子パンである。
この二つを、男は放り投げるといった感じで、いや実際にガラスケースに放り投げた。
ゆっくりれいむ五匹が、これに群がった。
目が血走っている。涎をぶちまけ、親兄弟で奪いあいながら甘味を食するその姿、まるで地獄の光景だ。
食っている隙に、男はガラスケースに蓋をした。シャワーを浴びて、就寝の準備をする。
部屋に戻ってくると、ガラスケースの中でれいむたちが何か叫んでいる。が、何も聞こえなかった。
板に顔面を押しつけている五匹のれいむ。その光景は、赤ちゃんが見たら泣くかもしれない。
ケースの蓋がしっかりと嵌めこまれていることを確認して、これを風呂場に隔離した。
ベッドの中で、男は身悶えした。
そう、たとえて言うならば、便器に座って、解放準備万端であり、ほどよく腹がうなっている状態とでも言おうか。
要するに、期待に心躍らせているのである。
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翌日。男は昨夜に訪れたホームセンターで、餌やら何やらを買い入れた。
その後、部屋に戻って、作業に勤しんだ。
男は器用だった。
またたく間に、あるものをこしらえてしまった。
それは、ゆっくり飼育用のケースを、二つ連結したようなものである。
だが、ケースの中ほどにはスリットが刻まれていて、ここに板を嵌めこむことで、ケースを左右に分断できる。
板を操作すれば、色々なことができるだろう。
さあ。
ゆっくり行動学の始りだ。
男は、試作品のスリットに、アクリル板をはめ込んだ。
作業を終えると、男は風呂場に向かった。
そこには、五匹のゆっくりれいむを監禁してある、飼育用ガラスケースが置かれている。
一晩中ほったらかしにしていたから、饅頭どもは蜂起しそうなほど騒いでいた。
男は、ゆっくりの移し替え作業をはじめた。
片側に五匹のゆっくりれいむを集中させるが、もう片方の空間へは空っぽであり、仕切りで遮られているため移動もできない。
「じじい! 許せないよ! あまあまもってこいって……れいむはお空を飛んでいるよ!」
「ぷんぷん! れいみゅおこっちぇりゅん……おしょりゃとんでりゅ~♪」
「奴隷のくせに、どーしてあまあまを……おそらとんでるっ!」
「れいみゅ、おこりゅとちゅよいん……おそらをとんでるみたい!」
「むーちゃむー……おしょりゃちょんでりゅ~♪ ゆゆ~ん♪ ゆっきゅり~♪」
貴様らの頭脳の中にはテンプレートが存在しているのかと、問い詰めたくなった。
ともかく、移動は完了した。
捕獲用に使ったケースは、部屋の一隅にのけておく。
さて、仕切りの入ったケースの片側に集中するゆっくりども、相変わらずあまあま寄越せの大合唱である。
男は机の上に置かれていた紙袋を引き寄せた。
「待たせた。あまあま、いっぱいあるぞ~」
紙袋の中から、チョコレート掛けドーナツを手に取る。
パブロフも仰天するような反応といえた。
高々とかかげられて不動の姿勢をとっていたもみあげが、一瞬のうちに、期待のために上下に揺れはじめた。
口もとからは滝のような涎。そのうえ、「うれしーしー」まで漏らす始末。
なんて度しがたい連中だろうか。
男は手にしたドーナツを、すっとケースの中に置いた。
ただし、仕切りで区切られている反対側に、である。
「あみゃあみゃしゃぁぁぁぁぁんッッ! まっちぇっちぇにぇェェェぇぇぇ……ゆべぇ!」
「あまあま~、あまあま~、ゆんっ! ……ゆゆ? ぶったよ? れいみゅ、ぶちゃれたよ!?」
れいむ一家は、甲高い声で突撃した。
だが、透明な仕切りにぶつかって、あえなく跳ね返されていた。
何が起こったのかまるで分かっておらず、れいむ一家はアクリル板への無謀な闘いに再挑戦した。
「ゆむぅ~~……ゆんっ! ゆんっ!」
三女れいむは、なんども壁に体当たりをくりかえし、その都度跳ね返されて、ころんころんと転がった。
「むぐぉォォォ……うごォォォ……あがァァぁぁァ……」
母れいむは凄まじい。仕切りに顔を押しつけて、唸り声を上げている。このうえなく不細工な面を晒していた。
五匹とも、あまあまが目のまえにありながら、これを食せないことに、身が引き裂かれそうなもどかしさを覚えていた。
やがて、その怒りは家主へと向けられた。
「じじい! たべられないよ! ゆっくりどうにかしてね! さぼってないでどうにかしてね!」
母れいむはもみあげを突き上げながら怒っている。長女れいむはアクリル板を押している。
跳ねまわって悔しさを表明しているのは次女れいむで、三女れいむは歯を食いしばりつつもしーしーを漏らしていた。
末っ子れいむは、
「むーちゃむーちゃあ! むーちゃむーちゃぁああっ!」
と、天井にむかってひたすら慟哭していた。
男はかすかに口もとをゆがめると、二本の指で仕切りの上部をつまんだ。
「そんなことはないだろ、ほらよ」
仕切りが、持ちあがった。下部にわずかな隙間ができる。
すると、どうだろう。
「むォォォォ……うぉぉぉお……ッッ! ……ゆん! やっぱり通れないよ! じじい! まじめにやってね」
じじいと呼ばれた男は、無言でケースを指差した。その先には、末っ子れいむの姿がある。
「ゆんやぁぁァァぁぁ……ゆんやァァぁぁァぁ……」
仕切りの高さは、ピンポン玉大の末っ子れいむならば、なんとか通れた。
頭の部分が引っかかっているが、着実に仕切りの向こう側に侵入しつつある。
「ゆんっやぁ……ゆんやぁ!」
ぽんっ、と音を立てそうな小気味良さだった。
末っ子れいむは侵入を完了した。
抜けた瞬間、溜まっていた力が解放されて前転運動してしまったが、すぐに体を起こした。
全身が照っているのは、うれしーしーまみれになっているためだろうか。
「あみゃあみゃ~~♪」
末っ子れいむがドーナツに突進した。
至福を全身であらわす赤ゆを見て、ほかの四匹も望みを得た。
「ゆゆ~~~!」
全身を真っ赤にして、歯を食いしばり、あるいは目を剥き、仕切りの下部にその身を押しこめようとしている。
しかし、隙間の高さは、成体はもちろんのこと、子ゆっくりでも、到底入りこめない程度でしかなかった。
それでも、れいむ一家はあまあま欲しさに奮戦している。
が、仕切りの向こう側から聞こえてきた声が、家族をうちのめした。
「むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ!」
みな、刮目した。
食っている。
末っ子れいむが、黒い光沢をはなつチョコレートソースをたっぷりと掛けられた、至高のあまあまを食している。
四匹はまるで親の仇でも見つけたかのような形相で、末っ子れいむの横顔を睨みつけていた。
すると、末っ子れいむの動きが止まった。
「ちあわちぇ~~♪」
その声は、家族に深い衝撃をもたらした。
「いもーちょがぁぁぁァァ! れいみゅのあまあまをとっちゃっだぁぁァァアッッ!」
長女れいむの慟哭がはじまった。
「あ、ああ……なんで……れいむの……あまあまさん……うそ……おちびちゃん、たべちゃだめだよ!
それはおかーさんのあまあまさんだよ! ……おい、じじい! もっとだよ! もっと……ゆっくりなんとかしてね!」
母れいむは鬼気迫る勢いで命じてきた。
ここで、男は知恵を吹きこみにかかった。
「おちびちゃんに、あまあまを運んでもらえば?」
「ゆん?」
同時に、一斉に、れいむ一家は妹に向きなおった。そして、娘あるいは妹に向けて吼え散らかしはじめた。
「おちびちゃぁぁァん! あまあまさん! おかーさんのところまでもっでぎでェェェッ!」
「あまあまー! あまあまをよごぜぇぇぇェェ! もっでごぃぃッッ!」
「げすぅぅぅッッ! げずぅゥゥぅッ! ぢねぇぇ! もっでごい! もっでごいッ!」
雄叫びに晒された末っ子の反応は、
「むーちゃ! むーちゃ!」
馬耳東風の一言につきた。
「あみゃあみゃしゃん! あみゃみゃしゃん! はやきゅ! はやきゅ! たべちゃい! たべちゃい!」
長女れいむはせっぱつまっていた。
もみあげを板に叩きつけるその姿は、さながら家族との面会を許された受刑者か。
末っ子れいむの幸福はとまらない。
「むーちゃ! むーちゃ! ……ち、ち……ちあわちぇぇェェェッッ♪」
恐らく、それがあてつけになっているとは、微塵も思っていないにちがいない。
「なにやっでんのぉぉぉォォォ! あまあまもっでごいっで、いっでんでじょぉぉォォォ!」
三女れいむは唾をまきちらしながら怒鳴り声を張っていた。
「ゆ!」
突然、末っ子の動きが止まった。
家族全員、それにあわせて全運動を停止せしめ、固唾を呑んでその行動を見守った。
「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ!」
大絶叫がケースからほとばしった。
「うんうんすりゅよ!」
赤ゆは仰向けになり、あにゃるを家族に見せつけた。
「はぁぁァァァ!? ンなことやってる場合じゃないでじょぉぉォォォ!」
もはや、母れいむの遠吠えなど、あまあまを護るためには鼻くそほどの役にも立っていなかった。
末っ子はきゅっと目を閉じて、全身を来たるべき快楽への期待にうち震わせた。
むりむりと、黒い何かが顔を出す。
「しゅーぴゃー! うんうん! ちゃいむ!」
珍しく、宣言の方が遅かった。
「ぢねぇぇェェェ! あまあまをぐわぜないげすは、ぢねぇぇェェッッ!」
「しゅっきりー!」
「あ……あぁ……れいむの……あまあまが……うんうんに……」
この時、家族は、とくに母れいむは戦慄していた。
末っ子れいむの悪魔的食欲を知っていたからだ。
その戦慄を証明するかのように。
末っ子れいむは、ドーナツに向きなおった。そして、死刑執行を宣告した。
「れいみゅの! みゅーちゃみゅーちゃ! ちゃいむ! まだまだちゅぢゅきゅよ~~♪」
「続くなァァァァァァッッ! つぅゥゥづぅぅぅゥぐぅぅゥぅなァァぁぁっっ!」
「むーちゃ……」
「いやぁぁァアぁァぁぁッッ! ぎぎだぐなぃぃぃィィィぃっっ!」
家族の耳をつんざくような絶叫もむなしく、さして時間を経ることなく、ドーナツは全てうんうんに変換された。
この末っ子はどうしようもねぇなあ。
と呆れつつ、男の実験は第二段階に突入しようとした。
そのまえに、割り箸でうんうんを排除した。成分としては餡子だが、手づかみは、尊厳にかかわってくる気がした。
また、ケースを初期化する。
仕切りを落として隙間を閉じて、末っ子れいむは、家族のもとにではなく、捕獲用に使ったケースに容れた。
殺気立つ家族の待つところへと戻すには、まだはやい。
男は紙袋のなかから、ホワイトチョコレートを取りだした。
それをゆっくりたちの頭上で躍らせ、あまあまであることを認識させる。
「あみゃあみゃしゃ~ん……」
瞳を輝かせ、舌を突きだしながら、あまあまを見上げるその姿。蜘蛛の糸とでもおもっているのだろうか。
そこから後の手順は、おおむね同じだった。
男は板チョコをこまかく砕き、仕切りの向こう側にばらまいた。
そして、仕切りを少し上げた。
「ゆがぁぁァァァぁぁッッ! あァァァまぁァぁあァァぁまァぁァぁぁっッ!」
先陣を切った三女れいむが、そのまま潜り抜けることに成功する。
が、ほかのれいむ三匹は、またしてもお預けを食らうのだった。
都合のよいことに、五匹は五匹とも成長段階がかなり違っている。隙間の調整は簡単だった。
さて、母れいむが三女れいむの背中にむかって声を張っている。
「おちびちゃん! はやぐ! はやぐあまあまもっでぎでぇぇぇェ! ばやぐじろぉぉぉぉォォ!
ぎゃわいいれいむにぃぃィィィ! あまあまを! よォォォごぉォぉぜぇぇェッ!」
三女れいむが、仕切りにへばりつく家族に振りむいた。
「ゆっふ~」
勝ち誇った表情を見せつける。
男は、何が起こるのかほどんど予想がついてしまった。
「もってきてほしい?」
言わずもがなのことを質問する。
「もっでごいぃぃぃぃィィィッ! ばやぐ! ぐわぜろォォォぉぉッ!」
次女れいむの甲高い怒号も、威力において母れいむに負けていない。
しかし、三女れいむは毅然とした態度を崩さず、
「ゆん! それぎゃ れいみゅに ものをたのむ たいどにゃの? ぷんぷん!」
と、ぷくーの姿勢をとって怒りを表明した。
「……ゆ! お……おかーさんに、なんて言い方なんだね!」
「れいみゅ! いもーちょにゃのに にゃまえきだよ!」
「ゆっくりあやまっちぇね!」
家族たちの火を噴くような非難も、三女れいむにはいささかの打撃もあたえられなかった。
「あ、そう!」
三女は背を向けて、これみよがしに声を張る。
「れいむの! すーぱー! むーちゃむーちゃたいむ!」
それは、死神の宣告にも等しかった。
「ゆぅぅぅぅぅゥゥゥッッ! ごべんなざい! あやばりまず! あまあまを! あまあまをもっでぎでぐだざい!」
真っ先にひれ伏したのは母れいむだった。
もはや尊厳も何もあったものではない。いや、ゆっくりにそれを求めるのは高望みに過ぎるのか。
どうやら無いものねだりだったらしい。ほとんど連続して、姉たちも一斉に、三女れいむにひれ伏して、あまあまを懇願したからだ。
三女れいむは、ぽつりと、言った。
「……ほしい?」
「ぼじぃぃぃぃッッ! ほじぃぃぃぃッッ! ぼじぃぃぃぃッッ! ほじぃぃぃぃッッ!」
四匹が合唱を送りだす。
「……せいいが たりにゃいよ! ぷんぷん! ……えいっ!」
三女れいむは、仕切りの下部に向けて、放屁した。
「ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ!」
家族らは、打楽器のように三跪九叩頭を繰りかえしてやまない。
なんたる敗北主義か。
その屈辱的行為を嘲笑うかのように、
「ふんっ!」
三女れいむが、背中を向けた。
「れいむの! すーぱー! むーちゃむーちゃたいむ! はっじまり~♪」
と、愉快な声が轟いた。ホワイトチョコレートにぽよんぽよんと跳ねてゆく。
「むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ!」
三女れいむの「むーちゃむーちゃたいむ」が展開された。
見事な悪意だ。と、観察者は感じた。
しばらく至福を味わったのち、三女れいむは顔を上げて、家族のもとへと走り戻ってきた。
何をするのかと思っていたら、
「……ち……ち……、ちあわちぇ~~♪」
と言って、また戻っていった。太陽みたいな笑顔だった。
次女れいむは、唖然とした。
「ぶごぉぉォォォぉォォッ!」
すぐに、吼えた。
「あまあま寄越せっつってんでじょぉぉぉがぁぁぁ!」
「むーちゃ! むーちゃ!」
「げすがぁぁァアァッ!」
三女れいむがまたも顔を上げた。
やはり走り戻ってきた。
そして、
「れいみゅ、あまあまさん! たべしゅぎちゃった! れいみゅはうんうんしゅりゅよ!」
三女れいむのあにゃるから、にゅるにゅると、餡子がこぼれおちてゆく。
「……しゅっきりー!」
息を吹きかけられそうな眼前で挑発されて、次女れいむはいよいよ狂おしい。
「ぬごぉぉォォォ! ひげぇェェェ! ぬぉぉぉォォォッッ!」
このとき、家族は、とくに三女れいむは気づいていなかった。
男の手が、仕切りに向かっていることに。
すっと、仕切りが持ちあげられた。
「ゆぎゃァぁぁァァぁぁァッッ!」
次女れいむが、仕切りの突破に成功する。
そして、彼女の眼前には、三女れいむが仰向けに寝転がっていたのだった。
「ゆんべ!」
進路上に寝転がっていた三女れいむは、あえなく足蹴にされた。
「むぎゅっ!」
コロコロと転がってゆき、壁にぶつかってようやく停止した。
一方、次女れいむはホワイトチョコレートへと脇目もふらず驀進した。
大口を開けて、むしゃぶりつく。
「むぅぅぅぅぅちゃぁぁァァぁぁぁァッ! むぅぅぅぅぅぅちゃァァァァァァぁッッ!」
それは食っている擬音として正しいのかと、男は思う。
しかし、見れば次女れいむは確かに食っている。耳がおかしくなりそうだった。
吹っ飛ばされた三女れいむは、姉があまあまを食いはじめた様子を見、うち震えるほどの激怒をおぼえた。
「おねーちゃん! それはれいみゅのあまあまだよ! とらにゃいでね! ぷんぷん!」
姉は聞く耳さえ持っていない。
「むぅぅぅぅぅちゃぁぁァァぁぁぁァッ! むぅぅぅぅぅぅちゃァァァァァァぁッッ!」
一心不乱にホワイトチョコレートを食っている。
「やめてね! もうやめちぇね! あまあまさん、いちゃがってるよ! ぷきゅー!」
「むぅぅぅぅぅちゃぁァァ……」
次女れいむが凍りつく。
三女れいむは、話が通じたと推察し、諫言を重ねようと口を開いた。
ところが、それを次女れいむの野獣のような雄叫びが遮った。
「つぅぅぃぃぃぃぃあぁぁぁぁァァァうわぁァァァぁすぇェェぇぇぇッッッ!」
幸せ。と、言っている。
三女れいむは、キレた。
「ゆんっ!」
なんの予備動作もなく、次女れいむに飛びかかった。
「ゆぶべ!」
あえなく吹き飛ばされた。さすがに、食っている場合ではないと思ったか、妹と対峙した。
「なにずんのぉぉぉ! れいむの! ずーばーむーぢゃむーぢゃぢゃいむをじゃまずんなぁぁぁぁ!」
「うりゅしゃいよ! しょれは、れいむのあまあまさんだよ! ゆっきゅりりきゃいしちぇね!」
「うるざいよ! れいむのだよ! いもーちょは黙っててねェッ! いっそ死んでねぇ!」
「ちがうもん! れいむのだもん! おねーちゃんこそ、さっさとちんでね、くたばっちぇね!」
「ちぬのは……お前だぁァァ!」
妹に飛びかかる次女!
応戦する三女!
たちまち展開される姉と妹の仁義なき戦い!
その隙にあまあまを取り除いてみる人間!
「ちね、ちね」
「ちね、ちね」
姉妹はぽよんぽよんと体当たりを応酬しつづけている。
男はあまあまをせっせと取り除くと、
「あ、あまあまが無いぞぉ!」
公の場では絶対に発しないような、露骨に演技がかった声を出した。
「ゆッ!?」
「ゆゆんッ!?」
姉妹は本能的に休戦条約を締結し、あたりをうかがった。
なるほど、ない。どこにもない。散らばっていたホワイトチョコレートはみごとにない。
「なんでぇぇぇぇェェ! どぼじでぇぇェェぇぇ! あまあまがぁぁァァァッッ! いじわりゅじないでぇぇぇぇぇ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁ! あまあまざん! にげっぢゃっだぁぁぁぁァァァ! れいみゅぐやじぃぃぃぃぃぃぃ!」
狂ったように泣き出した。
男は、思った。まずい。スイッチが入ってしまいそうだ。
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色々と試してみることにした。
男はふと、蛍光灯から垂れ下がっている紐を見た。絶対に見せられないことだが、この男は蛍光灯のスイッチ紐を延長させている。
それはともかく。
この蛍光灯の紐をねじり、手を離してみると、当然だが、紐はぐるぐる回る。
これを試してみようとおもった。
男が用意したのは、差し渡し三十センチほどの棒と、糸、クリップだ。
手順一。棒の端に紐をくくりつける。その紐の先にはクリップが結われている。不格好の釣り竿のようだ。
手順二。釣り竿を机に固定する。机から棒が突き出たような形になり、自然、クリップが垂れる。
手順三。このクリップに横回転を与える。当然、紐がねじれる。ねじれを保ったまま、左手でクリップを掴んで固定。
手順四。ゆっくりを準備。
お相手は三女れいむだった。
右手をケースへと伸ばし、三女れいむを摘まんでみる。
「おしょりゃとんでりゅみちゃい~~♪」
何だろう。励ましてくれているのだろうか。
三女れいむのお飾りを、クリップで挟む。
「ゆんっ!」
無意味に唇を引き締める三女れいむ。
誘っているのだろうか。上等だ。受けて立とう。
「ゆゆんっ!」
真正面の中空を見つめる、三女れいむ。
こうして、三女れいむは捻じられた糸に吊るされた。
男はパッと、三女れいむを固定している指を離した。
蓄えられた力が、解放される。
吊るされたゆっくりは――壮絶な横回転をはじめた。
「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」
男は落胆した。
「くりゅくりゅ~♪」
とか言ってくれるのかと思ったら、これである。
まあ、目にもとまらぬ速さで回転しまくっているから、無理もない。
「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」
三女れいむの奇声はとどまるところをしらない。
やがて回転は止まった――かと思ったら、逆回転となった。
「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」
「わっ、きたねぇ!」
男は思わず声を上げた。
しーしーを撒き散らしはじめたのだ。さながらスプリンクラーだ。
回転が緩やかになってきたところで確かめてみたら、口から餡子が漏らしていた。
オレンジジュースをかけたらあっさり蘇生した。何たる適当さか。
ゆっくりの認識能力にも挑戦してみることにした。
男はネットにて、とある動画を落としていた。
ゆっくりれいむを撮影したものである。
小奇麗な肌。手入れの行き届いた髪、そしてお飾りに光る、ゆっくりの最高位の証明、金バッジ。
最高峰のゆっくりがカメラ目線にて、
「れいむでしこっていいのよ!」
と、艶めかしい目つきを送ってきたり、
「ゆっくりりかいしてね!」
と、愉快そうにもみあげをピコピコさせたり、
「ばかなの? しぬの?」
と、露骨に嘲ってきたり、
とにかく、そういった類の言葉を、延々と吐きつづけているという、作者の精神状態が危惧される動画である。
その動画が上がったときのコメントの荒れ具合といったら、戦争でも起こすつもりかと思われるほどだった。
しかし時が経つにつれて、
「オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!」
「まずい……もう二十回以上ループしてる……」
「なんだろう。神々しさを感じてる俺がいるんだけど……」
といったコメントがアップされるようになった。悟りを啓いてしまった人々がいるらしい。
ちなみにそのコメントに対しては、
「撤退せよ! いますぐにだ!」
「思い出せ! お前の両親の顔を思いだすんだ!」
「……こいつが、全員麻薬中毒者か?」
等々、温かいコメントが寄せられた。
そして先日、動画の注意書きに、
「十八歳未満の方、心臓の弱い方は、ご覧にならないでください」
と、記されるようになった。
これを、母れいむに対してガラス越しに見せつけてやることにした。無論、ループ状態である。
成体れいむは、ボケ老人のようになっていた。
「れいむのことみないでね、えっちぃ!」
動画のれいむが、もみあげを回転させながら嬉しそうに叱り飛ばす。
「うるざいよぉぉぉォォォッッ! あんだごぞ みでんじゃないよぉぉぉッッ!」
母れいむはあんよに青筋を浮かべながら怒鳴り返す。
「なにいらついてるの? ばかなの? しぬの?」
まるで見えているかのような切り返し。動画作者は悪意と断じられる。
「いらづいでないぃぃぃぃッッ! わがっだようにいうなぁぁぁァァァ!」
母れいむの眼前で、くるっと一回転。
「かわいくってごめんね!」
ちゃりーん。
と、間の抜けた効果音が響いた。
「れいぶのほうががわいいぃぃぃぃッッ! ぶざいぐづらやめろぉぉぉォォ!」
言うまでもなく、とんでもない不細工面を晒し上げているのは、母れいむの方である。
「ごらんのありさまだよ!」
「ちがうだろぉぉぉォォォッッ!」
男はマウスを操って、動画を切り替えてみた。
といっても、似たようなものである。
さきほどと同じゆっくりれいむが、至福の表情であまあまを食べ続けるという、単純ながらも破壊力に富んだ、ピリリと辛い逸品である。
効果は抜群だった。
「むーちゃ! むーちゃ!」
固形物を食っているのに、うどんをすすっているかのような音がする。
「ぐわぜろぉぉぉッッ!」
母れいむはもみあげでガラス板を叩きはじめた。
「むーちゃ! むーちゃ!」
「でいぶのあまあまだぞぉぉぉぉぉッッ!」
男はゆっくりの思考方法がまるで分からない。
「むーちゃ! むーちゃ!」
「でいぶ……でいぶ……ぁ……あぁ……」
急に、母れいむが大人しくなってきた。潤んだ目つきで動画を睨みつけている。
「むーちゃ! むーちゃ!」
そのまま、後ろに倒れて仰向けになった。
「ぁ……ぁ……れいみゅ……れいみゅ……ぴぎゃぁぁァァ! おぎゃぁぁァじゃぁぁぁァんッ!」
どうやら何もかも諦めてしまったらしく、母れいむのすることと言えば、恥も外聞も無く泣きわめくことだけだった。
「むーちゃ! むーちゃ!」
「おなきゃちゅいちゃぁぁぁ! れいみゅ おにゃきゃちゅいちゃぁぁぁァァァッッ!」
男は、放置を決めた。
細かい装置も作ってみた。
土台となるのは玩具のような小型ランニングマシンだ。
ゆっくりの運動不足を解消するためにつくられたものである。
これをすっぽりと納まる箱に容れて、いわば床全体を動く歩道にしてしまう。
だが、両端は残しておく。
そして、隙間の片岸にはアポロチョコを置く。
その対岸には、末っ子れいむを配置した。
矢印をランニングマシンの流れる方向だとすれば、次のように図示できるだろう。
「(末っ子れいむ)←←←←←←←←←←←←←←(アポロチョコ)」
これで、準備完了だ。
末っ子れいむは得意の嗅覚を活かし、さっそくベルトコンベアの対岸にあるあまあまを発見する。
「あみゃあみゃ~♪」
勢いよく、ランニングマシンに飛び乗った。
左右と後ろを壁で仕切られているから、ほかに道はない。
また、あったとしても末っ子れいむの知能では、選びようもない。
さて、ベルト上に乗りかかると、重量を感知してランニングマシンが作動する。
「ゆゆん?」
妙な感覚を覚え、少々疑問に思ったようだ。
が、結局は進みはじめる。
「あみゃあみゃ~♪ まっちぇ~♪ にげにゃいで~♪」
末っ子からしてみれば、まるであまあまが逃げているように見えるのだろう。
さて、逆流速度は相当に遅くしてある。
そのため、かたつむりのように遅々とした動きではあったが、着実にあまあまとの距離をつめていった。
「あみゃあみゃ~、あみゃあみゃ~」
ところが、この装置には仕掛けが施されてあった。
対岸の手前、それこそもう一息であまあまに到着できるというところに、赤外センサーが備えつけられていたのだ。
そこに到ったとき、センサーが反応して、スピーカーが稼働した。
『ゆっくりしていってね!』
末っ子まりさは、本能に動かされるままに声を張るしかない。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~~♪」
あんよが止まった。
すーっと、末っ子れいむがあまあまから遠ざかってゆく。
「ゆん?」
気がつけば、岸まで押し戻されているのだった。
「ゆゆん?」
末っ子れいむから見てみれば、よく分からないうちにあまあまが遠ざかってしまったのと同じだった。
さすがに疑念を覚えたらしい。
「あみゃあみゃしゃん……あみゃあみゃしゃ~~ん♪」
だが、結局は知能を駆使しての打開策創出よりも、欲望の赴くままに突撃するのを選ぶのだった。
動作感知ではなく、音声感知器を利用した装置もつくってみた。
目をつけたのは、次女れいむだ。この一家のなかでは、知能が高いように思われたからだ。
男は、末っ子れいむが純粋無垢に機械の一部と化していることに、満足と不満を覚えていた。
予想が的中するのは嬉しいものだが、やはりゆっくりどもは泣き喚いてこそ価値がある。
まず、直方体の木材を用意した。
この上部に、電動式の糸巻機をつける。原理的には、エレベーターを昇降させる滑車とおなじものだ。
その機械からは、糸が垂れ下がっていた。
糸は次女れいむのお飾りにくくりつけられている。
最後に、土台となっている木材の上部から、あまあまを吊るした。
チョコパイである。
「あまあま! あまあま!」
次女れいむの皮膚には、三女れいむとの死闘で獲得した傷が刻まれていた。
「いいか。れいむ。あまあまをくれてやるぞ」
と、男は言った。
「当たり前だよ! れいむのだもん!」
頬をふくらまして威嚇するれいむ。
「……いいか。黙っていれば、お前はあまあまのところにまで行けるぞ」
「お話すると?」
男は少々、ゆっくりを見直した。そんなのおかしいよ! とか言われると思ったのだ。まあ、おかしな実験をやっているのには違いない。
「紐がおりはじめて、スタート地点に戻っちゃうぞ!」
と、愉快げに宣言した。
「わかったよ! れいむ、しゃべらないよ!」
自信満々に、次女れいむは答えた。
「よし。始めるぞ」
元気よく男が言って、電動機のスイッチを入れた。ついでに、音声探知機のスイッチも入れた。
滑車が動きだして、次女れいむがするすると天へと登ってゆく。
口を切り結び、眉を逆ハの字にして、将軍さながらの威厳を保ったまま、吊るされてゆく。
だが、ある高さに来たとき、
「おそらとんでる~~♪」
ぴっこぴこともみあげを動かして、次女れいむは叫んだ。
すると、その音声をセンサーが拾って、滑車に信号を送り、逆回転を命じた。
「ゆゆ!」
次女れいむは、何が起こったのか分かったようだ。
「だ、だめだよ! さがらないでね! れいむを上にあげてね! あまあまをたべさせてね! いじわるしないでね!」
叫びは虚しく、次女れいむは床に落ちた。滑車の逆回転は一定時間の経過により終了することになっている。
それが終わると、また順回転を再開した。
次女れいむは随分と悲壮な目つきをしていた。
それでも、ある高さを得たとき、
「……お、おそらとんでるー!」
幸せそうに叫び上げた。
「ゆゆん! ゆゆゆん!」
否応なしに地獄へと叩きつけられた。
いよいよ、次女れいむの決意は痛々しさを増してゆく。
三度目の昇天が始った。
「……お、お、おそらを……」
必死にくちびるを噛みしめているその様は、痛みに満ちたものだったが、どうしようもなく醜かった。
「おそらとんでるッッ!」
本能には抗いがたかった。
四度目のチャレンジに際して、
「ゆぅ……ゆぅぅぅぅッッ!」
と、叫んで唇をひきしめた。
次女れいむが昇ってゆく。
そして、その距離に到達する。
「……お……お……お……」
彼女は、よく我慢していた。
「お……ぉ……おそっ、おそっ、おしょっ、おそっ」
だんだんと早口になっていった。
これでは不味いと思ったか、目をかっと見開き、滝のような汗を流し、全身全霊を声の封じ込めにあてた。
「……」
次女れいむのあんよが震えだしている。
ぷしっと音を立てて、しーしーも漏れた。
「……も、もう――れいむ、もう我慢できない! れいむ! おそらとんでるぅぅぅぅぅッッッ!」
我慢していたのは声だけではないらしく、しーしー、うんうん、もみあげ、後ろ髪、表情、全てを注ぎこんで浮遊感を叫び散らすのだった。
スタート地点に戻されたとき、次女れいむは悔しさに涙した。
「ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ! ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ! ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ!」
彼女の叫びを意に介さぬ機械が、次女れいむを無情にも空へと引き上げてゆく。
資本主義とは、まこと空恐ろしいものだ。
あきらかに需要が疑わしい商品が、日々産まれては消えてゆく。
「お徳用・ゆっくりのまむまむ 一パック十二個入り」
それが、机の上に鎮座している商品の名前だった。同じものが、三つも積み重なっている。
これは、比喩でもなんでもない。
培養したゆっくりから、まむまむの部分だけを、切り取ったものであるらしい。
餡子には特殊な加工がされていて、もちぬしの記憶は証拠されている。
だから、移植をしても拒絶反応はない。
さて。
オペが始まろうとしていた。
患者は、長女れいむである。まな板の上で嗚咽をもらしていた。
「ひぐっ……、うぐっ……、えぐ、えぐっ……」
と、くちびるを噛みしめながら泣いている。まったく、努力したかのように不細工だ。
「あまあま……」
その一言は耳にしたとき、男はすべての躊躇をかなぐりすてた。
男は左手で長女れいむを固定し、ピンセットを長女れいむの眼下に押し込んだ。
「ゆべばばばばばばばばばばばばばッッッ!」
壊れたような叫び声だ。
長女れいむの眼球が抉りとられる。おなじ措置を片目にもほどこし、できた穴に餡子を詰めて、小麦粉を塗りこめた。
「いぎっ……、あぎっ……ゆぎぃ……」
男はピンセットをカッターに持ちかえた。その切っ先を、さくりと口のまわりに差しこんだ。
「ぶごぉぉ……おごぅ……」
そのまま口だけを切り落として、オレンジジュースをひたしたシャーレに一時保存する。顔面の大穴は、目とおなじように塞いだ。
のっぺらぼうのゆっくりれいむが出来上がった。痙攣している。
男はカッターを、脳天に差しこんだ。
「……ッッ!?」
頭頂部を円形に開き、そこに口を移植した。
こんな妖怪いたなぁ、と男は思った。
「ぁ……あぁ……ひぐっ、あぐっ……。うぁ……」
脳天に生える口から涎が流れ落ち、長女れいむの黒髪を汚していた。
「さて、と」
まだオペレーションは終わっていない。
男は、長女れいむの側面に、小さいが奥行きのある穴を開けた。そこに徳用まむまむを埋めこんでゆく。
合計三十六個の切り売りまむまむが、均等に埋めこまれた。
こうして、長女れいむの体面には、本来のもちものとあわせて、三十七個のまむまむが発生した。
「最後に……」
ゆっくりショップで購入した「ゆっくり精液(動物型受胎用)」をシャーレにあけた。
スポイトでこれを吸い取り、まむまむに突っ込んだ。
「どべぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼッッッ!」
長女れいむは溺れたような悲鳴を発した。スポイトから、まむまむに精液が流れこんでゆく。
「あとは……あまあまかぁ」
「あみゃあみゃ!」
鋭い反応をしめしてくれた。
「ああ。あまあまだ」
と、言いながら男が手に取ったのは、白い錠剤だった。
砂糖の数百倍の甘さを誇る人工甘味料、アスパルテームの塊である。
「……!」
これを、ありったけ長女れいむの脳天の口に流しいれた。濃厚オレンジジュースも、漏斗を突っ込んで無理やり呑ませた。
このふたつが、促成妊娠を可能にした。
長女れいむの体内で、みるみる赤ゆが生成されてゆく。
机の上で出産されても困るので、ケースに移し替えた。
五分も経たずに、出産のときが来た。蠅も驚くスピードだ。
「うご……うぐ……あ……ああ……」
長女れいむが苦悶の吐息を漏らした。
そして、れいむの体面から、三十七匹のゆっくりの笑顔が、ムリッと、せりあがってきた。
「きも……」
男は後悔した。
この手術は、こんなことをしたら多分キモいだろうなあ、などと思いながらやったことだ。
実際キモかった。
それだけだった。
つぎつぎと、まむまむから赤ゆが飛び出してくる。
『ゆっきゅりしちぇいっちぇねー』
などと挨拶をしてくるが、数十匹の赤ゆを養えるような精神的及び経済的余裕など、男にはなかった。
鍋で煮詰めて、殺してしまった。
長女れいむでの遊びは続行された。
とりあえず、キモかったのでまむまむは全て埋めた。
小麦粉を溶いた水を垂らしこめば、すぐに干拓されてしまう。ドライヤーも使えば時間はさらに節約できる。
頭上にくっついている口も、何かとわめきたてるので埋め立ててしまった。
十円ハゲの、のっぺらぼうが出来上がる。小刻みに振動しているのが、なんとも気味が悪い。
男は、ピンを手にした。
「……」
それを、長女れいむの肌に刺し入れてみた。
「……ッ!」
竹ぼうきのようなもみあげの先端が、ぶわっと、花開いた。
おもしろい。
ピンを引き抜くと、花びらは閉じた。
「えいっ」
「……ッッ!」
もうすこし深く差しこんでみた。また花開く。
「えいっ、えいっ」
刺しては抜き、抜いては刺し、長女れいむのもみあげは、律儀に開閉を繰りかえした。
「あれ。元気なくなったな」
蜂の巣にしたころには、もみあげが下がっていた。震えも心なしか小さくなっていた。
「口が無いからなぁ……あまあまをぶっかけてやるか……」
と、男が言った瞬間、のっぺらぼうのもみあげが、わさわさと躍動した。この動きだけでも有無を言わせず苛立たせてくれる。見事である。
なお、ゆっくりには肌にも味覚があるらしい。
男が用意したのは、巨大注射だった。
象にでも打ち込む気かと問いたくなるような凶悪さだ。
これに、たっぷりとアイスココアを含ませてゆく。
「れいみゅ! あまあまだぞ~♪」
わざとらしく宣言すると、もみあげを振り回してさっさとやれと急かしてきた。何ら疑問を感じていないのだろう。
「えぇぃッ♪」
ぶっすりと。
針の根もとまで。
刺した。
「……ッッ!」
長女れいむは、のけぞった。横から見れば逆U字型になったほどだった。
男はのり巻をつくりだした。
ただ、のりにあたるのは饅頭皮であり、酢飯と具にあたるのは餡子だった。
丁寧な手つきでのり巻きをこしらえると、つぎに、次女れいむの額に穴を明けた。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
末っ子れいむは、依然としてベルトコンベアを逆走しては押し戻されている。
男は、末っ子れいむに手を伸ばした。
「ゆゆん! おしょりゃをとんでりゅみちゃい~~♪」
これを、手術台に置く。
左手で末っ子れいむを抑えこんだ。
「ゆゆ~♪ くしゅぐっちゃい~~」
右手にはカッターが握られている。
刃物は、末っ子れいむのあんよを、なんの苦もなく斬り落とすのだった。
「……ゆゆんッッ!?」
さすがの末っ子れいむの笑い顔も、凍りついた。
「……ゅ……ゅ……ゆぅッ!」
やがて、
「ゆぴゃぁぁぁァァァっ!? ゆびぃぃィィやぁぁァァッ! ゆぎゃぁァァぁぁァァッ! いぢゃぃぃぃィィィぃぃッッ!」
泣きわめく。
男は、斬りおとされたあんよに、作っておいたのり巻きの端を連結した。ジュースと小麦粉が溶接剤となる。
さらに、のり巻きの逆端は、長女れいむの額の穴と接合させた。
長女れいむは、もみあげをぴんと張ったり、振りかざしたり、自分の側面部を叩きまくっていたり、なかなかやかましい。
額から伸びる白い触手は、だらりと垂れ下がったままだ。
末っ子れいむは泣いている。
「失敗かな?」
と、思ったとき、唐突に末っ子れいむが泣きやんだ。
「ゆゆ!? ゆゆ~♪ ゆぐ~♪」
キャッキャと笑いだして、いたくにゃくにゃったよ! などと叫んでいる。
すると、白い触手が持ちあがり、宙を泳ぎはじめた。
「おしょりゃとんでりゅ~♪ おしょりゃ~、おしょりゃ~」
波に揺られるかのように、不規則な遊泳を開始した。
「うきゅ?」
末っ子れいむの瞳に、疑問符が浮かんだ。なにやら困惑の表情を浮かべる。その一方で、長女れいむは小さく震えはじめている。
「ゆゆ~!」
末っ子れいむは歯を食いしばりはじめた。何かに抵抗するかのように。
「うぎょきぇー! うぎょきぇー!」
末っ子も長女も、力を入れているように見えた。
おそらくは、触手の主導権をめぐって争っているのだろう。
男はおもむろに、ピンを長女の腹に刺してみた。もみあげの先端が花開く。しかし、末っ子れいむは特に痛がっているように見えなかった。
次に、触手の腹に差してみた。
「ぴきぃ!」
末っ子れいむが唸った。どうやら、共同使用しているのは触手の部分だけらしかった。
男はチョコレートの欠片を用意して、それを長女れいむの足もとに置いた。
「ゆゆ~♪」
象が鼻を伸ばすように、末っ子れいむがこれに向かった。途中、また主導権争いが起こりそうだったので、ピンを刺して長女を諌めた。
「むーちゃ! むーちゃ!」
あいかわらず、よい食いっぷりだった。しばし食わせつづけていると、末っ子れいむの目が輝いた。
「たべしゅぎちゃっきゃら れいみゅ うんうんしゅりゅよ!」
長女れいむはぐったりとしている。
が、末っ子れいむが踏ん張りだすと、長女れいむはそれと同調するかのように、もみあげを暴れさせはじめた。
「しゅっきりー!」
と、末っ子れいむが叫んだ瞬間、もみあげは水平にぴんと伸ばされた。
「ゆん?」
突然、触手が天井に振りかざされた。末っ子れいむはまだ笑っていた。
「ゆごっ!」
男もいささか驚いた。振りかざされた触手が、地面に叩きつけられたのだ。当然、その先端から生えている末っ子れいむも打撃を受ける。
何度も、何度も。末っ子れいむは空に持ちあげられては、地面――まないたの上に叩きつけられた。
「あ、いかん」
その動きの荒々しさについ見惚れてしまったが、このままだと末っ子れいむは殺される。
男は机の引き出しから鋏を手に取ると、
「えいやっ♪」
触手をちょん切った。
その瞬間、長女れいむのもみあげを結んでいた巻紙が、吹っ飛んだ。
孔雀のように髪を広げ、しばらく震えを繰りかえした後、ばたりと倒れた。
「……ッ……っ……! ……ッ! ……! …っ……ッ!」
痙攣を繰りかえしているところを見ると、息はある。
触手のかたわれ、末っ子れいむは怪鳥のような声を発していた。
「ぴきぃぃぃぃぃぃィィィィィィィッッッ! ゆぎぃぃぃィィィィぃぃぃッッ! むぎゅぅぅぅぅべぇぇぇぇェェッ!」
触手を振り回されたら厄介だとも思っていたが、そんなことはなかった。泣いているだけである。
男は新たな作業に取り掛かった。
まず、予備のアクリルケースを持ちだした。
この底面に薄く餡子を敷きつめる。さらにオレンジジュースを沁みこませた。
その上に、ゆっくり専門店にて購入した饅頭皮を置く。
饅頭皮の中央には、円形に穴を開けた。
ここに末っ子れいむの、触手の断面を接合した。
すると、目論みどおり、チューブワームのように、地面からゆっくりれいむが生えているような様になった。
「ゆゆ~♪ れいみゅ、ちゃきゃい! おしょりゃとんでりゅみちゃい! ゆっくりの~、ゆ~♪ ゆ~の、ゆっくり~♪」
どうやら満足してくれたようだ。
「……?」
男は、ケースの下部に敷きつめている饅頭皮に目をやった。その饅頭皮が、波打っている。
下部の饅頭皮に、ピンを刺してみた。
「びゅぉぉぉォォォォぎゅぃぃぃぃぃィィッッ!」
結論は明らかだった。どうやら、ケースの下部の饅頭皮も含めて、末っ子れいむの所有物になってしまったらしい。
それにしても何たる悲鳴か。
男は、熱したオレンジジュースを、ケースに注ぎこんだ。
「いひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」
熱湯だから痛いに決まっている。しかも、皮膚の面積が拡大しているので、痛覚が何百倍にもふえている。
しかしながら、オレンジジュースだ。皮膚が甘味を直接摂取して、火傷をまたたくまに快復させてしまうだろう。
男はケースに蓋をした。
さらに、ケースごと毛布でぐるぐる巻きにした。断熱材のつもりである。
お次は、母れいむだ。
依然としてモニター画面に向かって吼え散らかしているところを、お飾りを取っ手にして持ちあげた。
「ゆゆ~ん♪ これじゃあまるでお空を飛んでいるよ~~♪」
怒りから一転して、ニコニコしだすから気味が悪い。
おまけに、持ちあげるたびに微妙に定型句を変えているのも、無駄に知恵を使っているようで腹が立つ。
「ゆゆ……ゆ!?」
右もみあげで母れいむを持った。
「ゆ! 離してね!
れいむのパーフェクトでキュートでクールなもみあげに触れないでね……ゆが!」
言われたとおり、離した。
当然の帰結として、床に叩きつけられた。
もういちど、もみあげを握って宙に引き上げる。
「かわいいれいむがお空を飛ぼうとしているかもしれないとは言えないとは言えないよ!」
いささか混乱しはじめているのかもしれない。
「二重否定なんか使いやがって……許せん!」
「ゆゆ! やめてね! いだいのはやめでね!」
風呂場に移動し、これを浴槽にぶんなげた。
「ゆぶべぇぇッ!?」
打ちどころが悪かったのか、強く放りすぎたのか、潰れたような悲鳴を発した。
「じじぃ! れいむを優しくあつかってね! れいむは『しんぐるまざ~』なんだからね!」
「シングルマザーって響きが妙に甘ったるいな。むかついたぜ」
男が準備したものは、これまたゆっくりショップでの購入品だ。
商品面は、「うー風船」。ちなみに商品札には、「うー☆ふーせん」と、書かれてあった。
「ゆん?」
それを浴槽の中に投げいれた。
その品は、ゆっくりを捕食するゆっくり、れみりゃそっくりの風船である。
大きさとしては、ピンポン玉サイズでしかない。
一方、成体れいむはバスケットボールほどの背丈がある。体積にしてみたら数十倍の違いがある。
が、成体れいむは歯を噛みならし、凝然とれみりゃを見つめ、その震えっぷりは同情さえ惹起されそうになる。
「れ、れみ……れ……あ、あれ……? 小さい……?」
十分以上も恐怖して、ようやく気付いたらしい。
すると、さすがの成体れいむも笑い声を上げるのだった。
「お、おちびちゃんなんだね! 怖くないね! ぜんっぜんっ、怖くないね!」
その背中は、浴槽の壁に密着していた。
「怖くないね! 怖くないもんね! れみりゃ! あやまってもおそいよ!」
母れいむの哄笑まじりの声は、
「うー」
という、れみりゃの鳴声によって阻止された。
風船が声を出している。種を明かせば、なんのことはない、風船の中に入っている、小型スピーカーの音である。
そしてその音は、男が遠隔操作しているのだった。
「うー。あまあまだどー」
母れいむは、
「イヒッ」
と、震えあがり、しーしーがあにゃるから噴射された。
「ごべんなざいぃぃぃぃぃィィィィぃぃっっっ! ……い、い……ち、違うよ! いまの無しだよ!」
れみりゃ故の恐怖と、赤ゆ故の安堵が拮抗しているらしい。
「ゆ? くさいよ? なんだかくさいよ? ゆゆ? だれかな? しーしー漏らしたのはだれなの!」
答えても無駄なので、作業を進めることにした。
風船からはチューブが伸びている。その管を伝ってゆくと、男が手に持っている電動式空気ポンプに辿りつく。
膨らまなくて、なにが風船か。
男が、ポンプのスイッチを押した。
風船が急速に膨らみはじめた。
「ゆゆ?」
みるみる大きくなってゆくれみりゃに、母れいむは驚愕にうち震えた。
「うー、うー、あまあまだどー」
電動音が風呂場を充たしているが、そんなもの、ゆっくりれいむにとっては何の手がかりにもなりはしない。
「こ、こっちごないでね! ごっぢごないでね! ごっぢごないでぇぇぇェェェ!」
「うー、うー、あまあまだどー」
大きくなっているから、接近しているように錯覚しているらしかった。
「おっぎぐならないでぇェェ! ぎょわいよぉぉォォォッッ! ゆっぐりざぜでぇぇぇッッ!」
「うー、うー? うー」
ますます、れみりゃは巨大になってゆく。まもなく、母れいむの体積を越えた。
「おぎゃァァァぁぁあぁァじゃぁァァァぁぁんっっ! だじゅげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!」
母れいむは、またも幼児退行を起こした。
れみりゃの巨大化はとどまるところをしらない。まず、バスタブの側面に風船が触れた。
そのころには、母れいむの数倍の巨大さになっている。
「うう~♪」
母れいむは、むやみやたらに「おそろしーしー」を振りまくばかりで、逃げようともしなければ、動こうともしていない。
ただただ泣き散らして、命乞いを繰りかえすばかりである。
「う~、あまあまだど~、たべるんだど~」
「ひっ……!」
母れいむは、息を止めた。無言のまま口を開閉させる。
「れ、れ、れ……」
(泣きだすかな? 抵抗するかな?)
男は固唾を呑んで、母れいむの行く末を見守った。
結論は、どちらでもなかった。
れいむは絶叫した。
「れいみゅたいむ! すたーとぉォォォォッッッ!」
「な、なんだぁ?」
鋭い声を放ったかと思ったら、じつに愉しそうに歌いだした。
「れいみゅのれ~、ゆっくりのれ~、まったりのれ~、れいみゅのま~、おちびちゃんのゆ~、ゆっくりのま~」
音程も歌詞もずれまくっている。
体を揺り動かしながら、さかんに歌い上げている。
かと思ったら、
「おもいだちた! ゆっくりしちぇいっちぇね!」
と、叫んだ。
「そうだ! れいみゅは かわいいの! あいどるなの!」
まるで前後の繋がりがない。
「あいどるは うんちしないの!」
混乱しているようだ。
その証拠に「うんうん」ではなく「うんち」になっている。
「でも れいみゅは しゅるの! だきゃら うんうん しゅりゅの! いまは でにゃいの! でもしゅっきり!」
あんよを振りかざし、ぺちぺちとバスタブに叩きつけ、
「きょきょきょきょきょきょきょきょきょきょ」
笑いだした。
「てけり・り!」
と、叫んだのはおそらく偶然かとおもわれた。
「あ! おちびちゃん!」
虚空に向かって叫んだ。
しかしその表情は真に迫っており、声だけ聞いたら本当にいると思うだろう。
「おかーしゃんと しゅっきりしようね!」
満面の笑みで、語りかけた。
「すーぴゃー! きんっしんっそうっかんっ! ちゃいむ!」
幼児言葉で宣告する。
そして、母れいむは虚空にむかって、猛然と腰をふりまくるのだった。
「いっくよ~…すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」
母れいむの腹のあたりから、突起のようなものがせり上がってくる。
「すごいよ! おちびちゃんの まむまむは しこうの いっぴんだよ!」
それは、精神が肉体を支配した瞬間だった。
「……すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」
間違いない。
「すごいよ! おちびちゃんの しめつけは まんりきの ようだよ!」
ぺにぺにだった。
「……すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」
雷撃を受けたように、母れいむが目を見開く。
「しゅっきり~♪」
その目。
その涎。
その涙。
その震え。
その顔つき。
恍惚としている。
そして、母れいむのぺにぺにの先端から、びゅっと、なにやら透明な液体がほとばしった。
「うー」
風船が唸った。
母れいむの天に昇るような表情が、一瞬にして地獄に叩きつけられたかのような絶望の色に染まった。
「れみりゃだぁぁァァァぁぁァァぁァッッ! ぺにぺにをぐらえぇぇぇぇェェェッッ!」
母れいむが、風船に己のぺにぺにを突き出した。
「あっ……」
咄嗟に、男は耳をふさいだ。
風船に、ぺにぺにが刺さった。
炸裂音。
男は、おそるおそる目をあけた。
「……ゅ……ゅ……ゅ……ゅ……」
バスタブの中で、母れいむは気絶していた。口と眼下から餡子を吐いている。うんうんも垂れ流している。
ぺにぺには見事に切断されていた。
男はしばし思案した。
風呂場から出た。次に戻ってきたときには、両手には二本の瓶と餌袋が持たれていた。
瓶については、かたや、繁殖用高濃度栄養剤。かたや、植物型にんっしん用精液。
まるごと母れいむにぶちまけた。魔法のように、母れいむの頭上から茎が伸び、ゆっくりの実が成った。
袋をやぶり、乾燥餌をばらまいた。
風呂場を出た。
迫力が足りない。
と、それを見上げて、男は思った。
机の上で、何かが回っている。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
それは、卓状扇風機を改造してこしらえたものだった。
網は外され、羽も外され、回転体が剥き出しになっている。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
そのモーターには、紐付き三女れいむがくくりつけられている。
風力「強」で稼働している。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
三女れいむは、回転していた。
以前には、紐で吊るして、ゆっくりれいむそのものに横回転を与えた。
「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」
しかし今度は、モーターを中心とした円運動を展開している。
男はスイッチを切った。
電動音が止み、
「ゆべぇ……」
三女れいむはぶらんと垂れ下がった。
「ゅげぇ……」
餡子も吐いた。
「れいむぅ、起きてよ~♪」
などと言いながら、男は三女れいむのあにゃるにピンを刺す。
「ゆぎゅいぃぃぃッ!」
跳ねるように起きてくれた。
「じ……じじぃ……だずげで……おねぎゃぃ……」
「うるさいっ♪」
有無をいわせず、今度はあんよを貫通させた。
「ぴぃぃぃィィィィィィッッ! いぢゃぃぃぃぃぃッッ! ぬいぢぇぇぇぇッッ! ぴぃぃぃぃぃッッッ!」
「うるせぇっての」
ピンの頭を、指ではじいた。振動が餡子に広がる。内部から発生する痛みはまた格別だったらしい。
「ゆげぇ……」
また気絶してしまった。どうも、三女れいむは意識が弱いらしい。すぐ失神してしまう。面白くない。
ふたたびピンの頭を揺らした。
「ぴぎぎぎぎっっっっ!」
蘇生した。
なるほど、痛みを与えつづければ意識も持続するのか。
机の上でへばっていた長女れいむをケースにぶちこみ、死なないようにオレンジジュースをぶちまける。
男はあたらしい作業にとりかかった。
作ったものは、餡子と皮でできたジオラマのようなものだった。
まず、皮をはりあわせて箱をつくった。
ゆっくりショップでは、棒状、板状など、さまざまなサイズや形の材料が売られており、
痒いところに手が届く品揃えを実現しているのだった。
さて、饅頭箱の外側は、アクリル板をはりあわせて補強した。
内部は自然が再現されていた。
ところどころに刺さっている棒は、樹木をイメージしてある。
箱の中央にはいびつな円錐形の盛り上がりがあって、これは山の見立てだ。
その山の頂上から、チューブが伸びている。
このチューブは山の深いところから伸びており、ただ植わっているのではない。多少山が崩れたぐらいでは倒れない。
見れば、チューブのなかには餡子が詰まっていた。
男は三女れいむを手に取る。
「おしょら……あまあま……」
ゾンビのようなせりふを吐いていた。
男は、チューブの口を三女れいむの後頭部に刺した。
「ふぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」
舌を突き出して痛みを訴えてくる。
さらに、ライターであんよを炙った。言うまでもなく、動けなくするためだった。
「あぢゅぃっぃぃっぃぃぃっぃぃぃぃっっっ!」
しーしーが床にこぼれおちた。
「いぢゃぃよぉ……なんで……いぢゃぃ……れいみゅ……かわいいれいみゅ……かわいそう……ゆべぇぇぇぇッッ!」
「うっせーよ。炙られたくなかったら黙りな」
「ひぐっ……う……」
三女れいむは、強気に男を睨みつけた。男はまるで頓着せず、机の上に設けた高台に、三女れいむを置いた。
そこからだと、ジオラマの中が一望できる。
「おい」
男が、三女れいむにピンの切っ先を見せつけた。
「……れいみゅに……いちゃいこと……しゅりゅの……? なんで……しっとしてるの……?」
男はわずかに目を細めた。
そして、ジオラマの地面に、針を刺した。
「ぴぎゃぁぁあぁぁあぁぁあああぁぁっっ!」
三女れいむは豚のような悲鳴をあげた。ジオラマと三女れいむとは、チューブの餡子を通じて一体化しており、感覚も共有している。
男は、ほんの少し前まで関東地方においてのみ売られていた甘ったるい缶コーヒーをジオラマにぶちまけ、その場をあとにした。
浴槽には、カオスが溢れていた。
れいむ、れいむ、れいむ、れいむ、れいむ。
れいむだらけだ。
一本分の精液はいかんなくその効力を発揮しており、高濃度栄養剤の効果も相まって、
母れいむは、百をも越えるような膨大な赤ゆを産み落としていたのだった。
秩序など、生まれる方が不思議であろう。
「ゆ~は、ゆっきゅりの~、ゆ~♪」
「おちびちゃんたち! うるさいよ! 静かにしてね! わめかないでね!
無理やり生ませられた子なんだから、自重してね! お母さんは『しんぐるまざー』なんだから優しく扱ってね!」
「れいっぽぅッ! みょーいちど! れいっぽぅ!」
「ひだり~、れいみゅ~、みぎ~、れいみゅ~」
「ちゅーちゅーしゅりゅよ! ちゅー! ちゅー! ……にぎゃいぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁぁ! おきゃーしゃんが れいみゅの あまあまをだべぢゃっだぁぁぁッ!」
「うるさいよ! 茎さんはおちびちゃんたちのものじゃないよ! 勝手なこといわないでね!」
「おきゃーしゃんの みょのでも にゃいよ!」
「しゅっきりー!」
「ゆゆ~♪ あまあまがありゅよ~~♪」
「おしょりゃとんでりゅ~♪ ……ゆんっ! れいみゅ、もーいっきゃい! もーいっきゃい!」
「れいみゅは ぷきゅぅぅ! れいみゅの ぷきゅぅぅぅ!」
「きゃわいくってごみぇんにぇ!」
「いぢゃぃぃぃぃぃぃっっ! れいみゅ たべぢゃだみぇぇぇぇぇ!」
「しゅっきり~♪」
「れいみゅの おきゃじゃり……」
「しゅーりしゅーり……ゆゆ!? にゃんだきゃ へんにゃ きもちに にゃってきちゃよ!」
「むーちゃ! むーちゃ! むー……しゅーやしゅーやしゅるよ!」
「すこすこすこすこ…………すこすこすこすこ………すこすこ……すこすこ……すこ……すこ――――――――――ゆんッッ!?」
「しゅーぴゃー! うんうん! ちゃいみゅ! みんにゃー! れいみゅのしゅーぴゃーうんうんちゃいむだよ~~」
「あしょんで~、おきゃーしゃ~ん! にぇーにぇー、あちょんでー」
「もっちょ……ゆっきゅり……しちゃきゃっちゃ…………」
「れいみゅの ぺにぺにが ぐんぐにる!」
「……ゅ……ゅぅ……」
「おねぇぇぇぇじゃぁぁぁぁんっ! どきょにいりゅのぉぉぉぉぉ! いじわりゅしにゃいでねぇぇぇぇッッ!」
「かたしてね! うんうんが臭いよ! さっさとうんうんかたしてね! 全然ゆっくりできないよ!」
「おしょをとんで、ゆべ! ……ふきゃぁぁぁぁぁっっ! ぴぎぃみゃぁぁぁァァぁぁ!」
「しゅっきりー!」
「……くちゃいぃぃぃぃぃッッ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃっっっ! れいみゅの おぐぢに うんうんぎゃぁぁぁぁ!」
「おちびちゃんたち! さっさとあまあまを持ってきてね! ぜんぶでいいよ!」
「れいみゅの ますちゃー すぴゃーく! …………しゅっきりー!」
「れいみゅの おきゃじゃりに うんうん きゃけちゃだみぇぇぇぇぇっっ!」
「まちぇー、まちぇー」
「ゆわーん」
「ぐりゃいぃぃぃぃぃぃっっ! いぢゃいぃぃぃぃぃぃっっ!」
「れいみゅの まむまむが あらぶっちぇりゅよ!」
「しゅっきりー!」
「はふっ、あむっ、はふっ、うへっ……ぱにぇ~~♪ きょれ、ぱにぇ~♪」
「ゆゆ? ゆっきゅりできにゃい ゆっきゅりがいりゅよ? ゆっきゅり できにゃい! しぇいっしゃい しゅりゅよ!」
「ゆ~は~、ゆっきゅりにょ~、ゆ~」
「下手なおうたは止めてね! 餡子が腐るよ!」
「ゆぎ!? こりぇ……こりぇ……こりぇ うんうんだぁぁぁァァァぁぁぁぁ! うんうんちゃべちゃったぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
「ゆっくりしていってね!」
混乱を鎮めたのは、男の一喝だった。
正直なところ、これほどのざわめきに対して有効かどうか疑わしかった。
だが、男の声に赤ゆたちは一斉に静まり返り、男を見上げると、
「ゆっきゅりしちぇいっちぇねぇ!」
と、寸分違わぬタイミングで答えたのだった。
(カクテルパーティー効果みたいなもんかな……?)
などと思いながら、男は手にしていたケースのなかに、手当たりしだいに赤ゆを入れはじめた。
二十匹ほど回収し、立ち去ろうとしたとき、母れいむが声を張った。
「くそじじい! あまあまもってこい!」
赤ゆの群れが、それに続く。
「うるせえ!」
大喝してやると、鎮まった。
男は母れいむに一瞥をくれて、立ち去った。
男が去ったあとの風呂場では、赤ゆたちが発狂したかのように泣きはじめた。
男は三女れいむのところへと戻った。
ジオラマと接続された赤ゆっくりである。
積みあげられた辞書の上にたたずんでいる。あんよを焦がされており、動くことさえままならない。
「よし、お前ら」
と、男はケースの中のゆっくりに声をかけた。
赤ゆどもは、総じて震えていた。
「あまあまを食わせてやるぞ」
単純なものである。
「ゆぴ!」
と反応し、液晶に電流を流したように、赤ゆれいむ二十匹のもみあげが、ぴんと跳ねあがった。
「れいみゅにも、れいみゅにも、あまあまぁ!」
三女れいむも反応していたが、こちらは無視された。
「さあ、召し上がれっ」
男がケースにいたゆっくりたちを、ジオラマの中に放った。
「おしょりゃちょんでりゅ~♪」
「ゆゆ~ とりさんみちゃい~♪」
ぺちぺちぺちと、ジオラマにゆっくりどもが放たれた。
「あみゃあみゃどきょ~?」
さっそくあたりを見渡しはじめる赤ゆだったが、それらしきものは見えない。見えるのは、白っぽい、ぶよぶよしたものだけだ。
「はっはっは。その地面があまあまだよ」
「ゆゆん!」
鋭く反応したのは、高台の三女れいむである。
すでに三女れいむの感覚はジオラマにまで連結してしまっている。
「ゆゆぅ!」
今度は、ジオラマの二十匹が驚く番だった。地面が波打ったのだ。
これは、三女れいむの意志によるものだ。抵抗しているつもりなのだろうが、せいぜいジオラマを微かに揺らすのが限界だ。
「おっと。それ以上は何もないぞ。危険はない。安心しろ」
男は断言し、赤ゆを安堵させた。
「とにかく、食ってみろ」
「おちびちゃんたち! れいみゅをたべにゃいでね!」
三女れいむが声を張る。
「ほら。食ってみろ」
男が勧めてくる。
ゆっくりたちは逡巡した。
が、やがて二十匹の中の一匹が、おずおずと、地面から生えている棒を食んだ。
「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」
三女れいむが目をむいた。
「むーちゃ! むーちゃ!」
先陣を切った赤ゆは、ひきちぎった饅頭皮を咀嚼し、呑み下した。
みな一様にその反応を待つ。
その赤ゆは、ほかの赤ゆたちにとっては天使の囁きのような、そして三女れいむにとっては地獄行きの宣告のような一言を発したのだった。
「ちあわちぇ~~~~~♪」
赤ゆどもの顔が、一斉にほころんだ。
「ゆわーい!」
「むーちゃむーちゃちゃいむぢゃ~~~」
「やべでぇぇぇぇぇェェェェぇぇぇぇっっっっ!」
三女れいむの絶叫も、あまあまの誘惑の前には、なんら役にもたたないのだった。
二十匹の赤ゆは、三女れいむの絶叫をBGMにしながら、至福のむーちゃむーちゃたいむを味わいはじめた。
それは、三女れいむにとっては、二十匹の赤ゆたちに、際限なく体をむしばまれるのと、まったく同じだった。
「みゅーちゃ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁッッッ!」
「みゅーちゃ! みゅーちゃ!」
「ひゅごぉぉぉぉぉォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉッッッ!」
「みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ!」
「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」
「みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ!」
「……! ……ッ! ………ッ………ッッッ!!! ……ッ! ……! …ッッッ………ッッ…!! ………ッッッ…! ……ッッ……!!」
死ぬことは許されなかった。
ゆっくりの生命力は、餡子の総量に等しい。
そして地面の下部には、成体れいむのそれを遥かに超える量の餡子が蓄えられていた。
その様子を観察しているうちに。
男は、ひらめいた。
====================================================================
前衛芸術品。
と、言えないこともない。
本体とよぶべきものは、高さ二メートルを越える円筒だ。
表面はゆっくりの皮で覆われており、内部には濃厚な餡子がたっぷりと詰まっている。
この円筒の側面に、二百匹を越えるゆっくりれいむが埋めこまれている。
見上げ、見下ろし、睨みつけ。
舌を出し、もみあげを動かし、目をぎょろつかせ。
涙をこぼし、涎をたらし、汗を流し。
泣き喚き、助けを乞い、不明瞭な言語を述べたて。
ひとつとして、おなじ行動を取っているゆっくりはいなかった。
側面の一角には、ひときわ大きなゆっくりれいむが嵌めこまれている。
唯一の成体れいむだ。
その眼窩、口の中、頬、額にもゆっくりれいむが発生している。
土台もまた、饅頭の皮と、餡子によって支えられており、円筒と連結している。
この饅頭円筒はガラスケースの中に納められており、その台座はL字金具で固定されていた。
見れば、円筒は小刻みに振動し、あるいはゆらめき、うごめき、まるで生きているかのようだ。
いや、実際に生きている。
この円筒は、二百匹を越えるゆっくりれいむの共有物だ。
すべてのゆっくりが、すべてのゆっくりに対して、肉体の所有権をめぐって相争っている。
しかし、ケースの中の全てのゆっくりが、円筒に埋まっているわけではなかった。
「ちあわちぇ~~♪」
「むーちゃ! むーちゃ!」
「れいみゅはうんうんしゅりゅよ!」
「すーぱー! しーしー! たいむ!」
「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ!」
「すーぱー! むーちゃむーちゃ! たいむ!」
「むーちゃ! むーちゃ!」
円筒のふもとでは、赤ゆたちが躍動していた。
赤ゆは、台座の饅頭皮を漁っている。漁ってはうんうんを漏らし、しーしーを放ち、睡眠を得、また食欲を満たしていた。
食うたびに、円筒に連結されているゆっくりたちに激痛が走った。
どこかで、だれかが食っている。
だから、痛みがない時間帯など、ただの一瞬もなかった。
ただし、円筒の下部と麓はアクリル板にて覆われていて、これに手を出すことはできなかった。
このアクリル板は、赤ゆの侵食によって円筒が倒壊するのをみごとに防いでいた。
観察を続ければ、すべてのゆっくりが躍動しているのではないと分かる。
何匹かのゆっくりは、虫の息であった。赤ゆはそれに近づかない。放置されていた。
永遠にゆっくりしてしまったゆっくりもいる。
こうしたゆっくりの足もとに、亀裂が走った。それは、口だった。食欲を充たす器官だった。
口は死んだゆっくりを食らい、台座の下でマグマのようにうごめいている餡子にとりこみ、消化する。
この口は、円筒そのものの本能のようなものだ。
死に行くものがいる一方で、生まれるものがいる。
円筒の一角にて、円筒に埋まっているゆっくりが、ぽろりと落ちた。
「ゆべっ」
大地に打ちつけられるも、柔らかい饅頭皮に助けられ、さしたる衝撃はなかった。
この赤ゆっくりは、
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
と、幸福に打ち震えるのだった。
空いた穴からは、むりむりと、新たなゆっくりの顔がせりあがってきた。
この円筒のほとんどの穴は、特殊なまむまむだった。
遅行性まむまむである。
普通のまむまむは、ゆっくりの顔がせり上がったら、ほどなく飛び出てくる。
しかしこの円筒のまむまむは、ふんだんに時間を消費して、産み落とす。
そのため、ゆっくりたちは生まれるまでの間、間断なき激痛を味わいつづけなければいけない。
だからこそ、産み落とされた赤子らは、幸福に感激する。
もう、痛みに悩まされることはないから。
そして、報復を決意する。
痛んだぶんだけ、痛めようと。
だから、一心不乱に食うのだった。
円筒の内部には、無数のぺにぺにも埋まっている。
これらも特殊なぺにぺにで、独立性ぺにぺにだった。
本体から切り離されてもその機能を喪わず、餡子のなかで精液噴射を繰りかえし、子種を供給しつづけている。
子種は餡子を得てゆっくりになる。
ゆっくりは遅行性まむまむに送り込まれて激痛に苛む。
やがて産まれて喰いつづける生涯を歩む。
そして死んでは餡子に還る。
この餡子は、生態系の維持につかわれる。
ガラスケースの中では、生態系が循環していた。
唯一。
永遠に産まれない、円筒の呪縛から放たれることがゆるされていないゆっくりが、五匹いた。
これらが産まれない理由はただひとつ、そのれいむは遅行性まむまむに埋まっているのではなく、直接円筒と接続しているからだ。
このれいむたちだけは例外的に、このガラスケースそのものが壊されるその日まで、激痛に耐え続けなくてはいけない。
男は満足していた。
自分は一個の宇宙を誕生させてしまったのだと思っていた。
今日もガラスケースのゆっくり地獄を観察する。
このケースは完全防音だ。声が外に漏れることはない。
男は時々、探してみる。
母親はすぐに分かるが、長女は、次女は、三女は、末っ子は、はたしてどこに埋まっていたものか、忘れてしまうのだ。
やがて見つけて、
「ああ、いたいた……。今日も元気そうだ」
彼女たちの口は一様に、ある一言を発していた。
「殺して……かな?」
読唇術は苦手である。ゆっくりならば尚更だ。
殺すわけにはいかない。奇跡の循環がいつまで続くのか、見届けなければならないのだから。
(終わり)
投稿作品:
anko1599 グロテスクなれいむ(後)
anko1577 トランクス現象
anko1568 突然変異種まりさ
anko1567 お口を開けると
anko1565 れいむの義務