ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2955 生きてるんだよ
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『生きてるんだよ』 38KB
自業自得 群れ 子ゆ 自然界 土饅頭
注意
※こめじるしさんをむしして、さっさとほんぶんさんをよんでね!! べつにいますぐじゃなくてもいいよ!!
※読者さんたちがタイトルから予想したであろう展開は、九割ぐらいの確率で無いよ。主に悪い意味で。
※前回に引き続き、ちぇんとようむの扱いがおかしい。
※一度ぐらいHENTAIを書いてみたいけど、書けないから変態願望にしといた。
※お前ら皆、ご先祖様を大切にしてゆっくり生きろ。俺は実家に帰っても、祖母ちゃんの仏壇に手すら合わせねー不孝モンだけど。
夢の中を漂う私は、初潮を迎えたばかりの少女だ。
線の細い佳人は、知識の海に沈み喘ぐ。
その命を薄く々く磨り減らしながら。
イタダキマス。
不意に足元から声が上がった。
この下に部、屋があっただろ、うか。
石畳に走、る亀裂から覗、く先には、小さく隆
黒、染み
……。
「むきゅ、もうあさなのね」
東の空から射す陽光に目を瞬かせながら、誰ともなしに呟く影があった。
すっかり人の少なくなってしまった寒村から幾らか離れた山中には、打ち捨てられた古い防空壕がある。
今現在、村人達の許可を得てそこに暮らすゆっくり――ぱちゅりーの朝は、自身がゆっくりであることを正しく認識するところから始まる。
朝一番に彼女を歓迎してくれるのは、隙間なく並んだ古い本の背表紙でなく、ボロボロに朽ちた畳と古惚けた和箪笥だ。
夢と現実の類似点は、薄暗いことと埃っぽいことぐらいではなかろうか。
その古い箪笥の傍平には、これまた古めかしい卓上鏡が転がっている。
無論、曇った鏡の中で佇むのは、儚げな少女などではない。厚ぼったく下膨れた頬を持つ人の生首だ。
夢に出て来る少女との共通点は、先をリボンで結った竜胆色の長い艶髪二房、及び同系色の瞳、それと三日月の装飾があしらわれた藤色のナイトキャップ。強いてもう一つ挙げるなら顔色の悪いところだろうか。
「むきゅ? いがいときょうつうてんは、おおいのね……」
新たな発見である。
一瞬、仄かな桜色に染まったぱちゅりーであったが、数刻後に襲ってきた激しい衝動により瞬く間に打ちひしがれてしまった。
通俗的には賢者モードと呼ばれる状態だ。
三つ以上の共通点をゆっくり特有の感性で以って沢山と捉えてしまったこともまた、自己嫌悪と自殺衝動に凄まじい拍車を掛けていた。
どうして自分は、ゆっくりとして生を受けたのだろうか。
口から糸を吹くことで、地を這う芋虫が優雅に空を舞う蝶へと変態するように、この悍ましい命を全て吐き出してしまえば、地を跳ねるゆっくりが物憂げに本の頁を捲る人間へと生まれ変わるという奇跡が起きるのか。
「……ゅりー!! ぱちゅりー!! むししないでほしいんだぜ!!」
ゆっくりにとって朝昼兼用の食事を摂りながら、そんな益体もないことを考えていたぱちゅりーの肌が不意に響いた声で振動した。
視線を投げると、そこにはぱちゅりーの見知った笑顔があった。
何時の間にか棲家の中に侵入していたそいつは、ぱちゅりーが率いる群の幹部であり、いつも彼女に粉を掛けているトンガリ帽子の漉し餡饅頭であった。
左側の髪で結った長い金髪のお下げを、今も自然な動作でぱちゅりーの後頭部に回している。
鬱陶しい奴だ。心中で吐き捨てたぱちゅりーは、右の髪束でお下げを打ち払った。
「ああ、ごめんなさい、まりさ。いつからいたの? ぜんぜんきがつかなかったわ。それと、わたしのことは、おさとよびなさい。みんなにしめしがつかないでしょう?」
馴れ々れしい態度を冷ややかに嗜めると共に、言外に「お前の様なガキに興味などない」と告げる。
「ゆっへっへ、ぱちゅりーっじゃなくて、おさはつめたいんだぜ!! でも、そういうところがまた、たまらないんだぜ!!」
尤も、それが先方に伝わることなど万に一つ無いのだろう。
完全にのぼせ上がっている色惚けの思考というのは、殆どレイパーと同質のものだ。事実を全て己の都合の良い様に歪めて解釈していると見て間違いない。
きっとこいつの頭には、蛙の腸(はらわた)が腐った様な色の餡子が詰まっていてるのだ。
その腐敗した餡子脳の中で、いったい自分はどのような痴態を演じているのだろうか。
自身の想像により、言い様のない吐き気を催したぱちゅりーの眉間に深い皺が刻まれた。
「ちょっと!! いつまでまたせるつもりなのよ!!」
「そうだよ!! かわいいれいむに、さっさとあまあまもってきてね!! このうちでは、おきゃくさまにあまあまのひとつもださないの!? れいぎしらずなの!?」
刺々しい金切り声が上がったのは、ぱちゅりーが想像の中で目の前の色惚けを三回ほど惨殺し終えたときであった。
ぱちゅりーのおうち兼、群の集会場でもある防空壕には、既に今日の会議に参加する面子が集結していたようである。
若干敵意の篭った視線を向けてくるカスタード饅頭と物狂いとしか思えない粒餡饅頭は、家主に断ることもなく黴臭い座布団の上に鎮座していた。
どうやら自己嫌悪に陥るあまり、周囲に気が回っていなかったようだ。
失態である。
「ちっ、ありすは、けーわいなんだぜ!!」
お前が言うのか? と思わず問い返したくなるような呟きを漏らした道化は、連なって敷かれた座布団の内の一枚に鎮座すると、お下げを用いて隣の座布団を叩いた。座れということらしい。
ぱちゅりーは、それを見ない振りすると三匹から距離を空けた位置に身を落ち着けた。
「てれてるんだぜ!!」と、へらへら笑うアホの言うことは聞かないでおいてやった。
今回、会議に参加するのは、群の発足当時から長を務めるぱちゅりーと今年の初めに幹部就任した三匹である。
本来なら、古参のチョコ饅頭とホワイトチョコ饅頭のダブルチョココンビも参加させるべきなのであるが、ぱちゅりーは彼女らを意図的にハブった。
片や決して自分の意見を出さずに是と否のみで会話を進める猫饅頭、片や突発的な下ネタで場の流れを停滞させるセルフ半殺し饅頭。
おまけに何故か奴らは、下劣なスラングの語彙のみが異常に豊富であり、場に紛れ込ませると決まって会議が必要以上に紛糾する。
そして収拾が付かなくなる頃に忽然と姿を消す。
間違いなく故意犯である。
そのため両名に限ってのみ、平常時の基本シフト通りに群内の哨戒を行わせていた。
基本的に駄目な奴らであるが、外部からの侵入に対する防衛に限れば、この上なく頼りになる連中であり、今のところ新参の穀潰し共よりも遥かに役に立っている。
それは幹部なの? 馬鹿なの? と問われれば思わず唸ってしまう扱いであるが、そもそもぱちゅりーにとって幹部という存在そのものが無用の産物なのである。
幹部による合議制。
これ自体がぱちゅりーの作り出した見せかけだけの制度であり、民衆へのパフォーマンスでしかない。
基本的に、ゆっくりは怠惰でスッとろい生き物なのだ。
従って、こいつらを統制するのに必要なのは、物事をスムーズに決定できる統治体制。雀の千声による民主主義なんぞでなく、優秀な指導者による鶴の一声。
即ち、独裁政治である。
ドスの率いる群が比較的まとまりを持っているのが良い例だろう。
尤も、統率が取れていることと群が存続できるか否かは限りなく別問題であり、滅びるときは、それこそPSPの○ボタンに近い感覚で唐突に滅びる。
その様子は、恰もLUNAシューターやCAVEシューターが一面道中の各種Way弾を読み違えて、うっかり全機抱え落ちするが如しである。
それが当初、長に就任したぱちゅりーが五分という長考の末に至った極めて真っ当な結論であった。
ところがである。不幸なことに凡百なゆっくりというのは、どこぞの権利団体の連中のように自由や平等とかいう不便で非合理的なものを殊更に尊重する傾向があった。そのくせ、権利に伴う責任を負う気概を全く持たない。そんな剛の者が過半数を占めている。
そこで、そういったどうしようもない木端カス共を封殺するためにぱちゅりーが考案したのが、この名目上の合議制であった。
その中身はというと、頭の悪いゆっくりでも分かるように酷くシンプルに出来ている。
群の方針は、長と幹部との話し合いで決める。幹部には立候補すればなれる。これといった特権は与えられない。
以上である。
特権無しが効いているのか、これまでに幹部の数が十匹以上に増えたことはない。
それでも立候補してくる連中というのは、単なる見栄っ張りや制度をよく理解出来ていない馬鹿、或いは自身の能力を過信した勘違い饅頭が大半であった。
後は、そいつらの意見を自身の思い描く通りに誘導してやるだけでいい。それだけでぱちゅりーは、望んだ通りの独裁政治を行うことが出来るのだ。
古参組みは、そのカラクリを全て理解しているのかもしれない。生き残っているとい事実は、人間以外に限り、それだけで能力の証明になる。
どんなに言動が狂っていてもだ。
そう考えると実に食えない連中である。Not食料的に考えて。
「それじゃあ、さっそく、こんかいのぎだいさんである『おちびちゃんれんぞくしっそうじけん』について、はなしあうのぜ!!」
長であるぱちゅりーを差し置き、色惚けまりさが会議の指揮を取る形で議論(笑)が始まった。
このアホがぱちゅりーに先んじてリーダーシップを取ろうとするのは、何もぱちゅりーに対するアピールのみが目的ではないのだろう。
ゆっくり視点において、長ぱちゅりーの容姿は、平均的なぱちゅりーのそれよりもかなり高い水準にある。
しかし、それに反して群のゆっくり、特に若いゆっくりからの人気は圧倒的に少ない。
彼女の厳しさ、その中でも、とりわけ教育に関する厳格な態度が、オートカウンターボムの様に容姿のアドバンテージを打ち消してしまっているのだ。
それ故に、ぱちゅりーは、この若いまりさの反応に違和感を覚えていた。
まさか知性に惹かれたなどということは有り得まい。何度も繰り返すが、この色惚けはアホなのだ。
そうなるとまりさの目的は、自ずと絞られる。
結局このアホが欲しているのは、ぱちゅりー自身ではなく彼女の持つ指導者という立場なのだろう。
身の程を弁え自身の力の及ぶ内で尽力することを共生と呼び、それを弁えず高度な仕事をしたがるのをアホという。
だからまりさはアホなのだ。
「ええ、そうしましょう、まりさ!! どこかのいなかものののせいで、ずいぶんとじかんをむだにしたことだし……」
そう言って色惚けまりさに賛同するのは、ぱちゅりーに敵意の篭った視線を向けるヒステリックなありすであった。
カチューシャで纏められた金髪の中身は、さとりでなくとも簡単に読み取れるだろう。
一体あの色惚けの何が、こうまで彼女を狂わせるのだろうか。ぱちゅりーには、不思議で仕方なかった。
その眼孔に嵌った空色の目玉を刳り貫き、ゼリーの様な表面から薄く膜を剥いで自身の目に貼り付ければ、世界が変わって見えるのだろうか。
ぱちゅりーの目には、驢馬に跨った案山子にしか見えない色惚けまりさであるが、少なくとも白馬に跨った素敵な王子様ぐらいには見えるのだろう。
案外、幸せな世界なのかもしれない。
「そんなことよりも、さっさとかわいいれいむにあまあまさんをけんじょうしてね!! れいむは、しんぐるまざーなんだよ!! むれのみんなでいたわるべき、いだいなそんざいなんだよ!!」
先程から気の違った発言しかしない典型的なしんぐるまざー(笑)れいむ。
でいぶのテンプレートと言っても過言ではないこいつは、御丁寧に口から下のみがぶくぶくと肥大化した茄子型をしている。
下から上へと見上げるに連れて細っていくため、黒髪に結われた赤いリボンがまるで子供の玩具のように見えてしまう。
大凡のでいぶが大体そうであるように、この汚物も例に漏れず、結婚してにんっしんした頃からぶくぶくと肥え太り始めた口であった。
そのケツがでっぷりとだらしなく垂れ下がるのに比例するかのように、番のまりさが見る々る痩せ細っていく姿は、嘗てぱちゅりーが山で拾ったエロ漫画の一コマのようであったという。
その後、番のまりさが死んで涙を流す汚物であったが、無論、その涙は若くしてしんぐるまざー(笑)となった己に対する憐憫である。
見事な武者振りならぬ、でいぶっぷりであった。
吐き気を通り越して、いっそ爽やかな感動すら覚えたぱちゅりーは、彼女にキチガイナスビという二つ名を送ろうとしたほどである。朝鮮朝顔さんに申し訳ない、と思い直して取り止めはしたが。
因みに完全な余談であるが、搾り取られて痩せ細る男の出て来る漫画は、現在ぱちゅりーの背後に鎮座する箪笥の一番下の段に保管されている。夜な々な、こっそりと読むのがぱちゅりーの数少ない楽しみの一つである。
こうして、一癖も二癖もある幹部が集まって開催された会議であったが、開始から三十秒の時点で既に泥沼に嵌っていた。
基本的に自分の意見を譲らず、視野狭窄に陥るのがゆっくりである。
犯人は、人間だ、れみりゃだ、れいむにあまあま持ってきてねなどと、めいめいが根拠のない勝手なことを主張し続ける一方で、ある意味最も重要な議題である『失踪したおちびちゃんの行方』については、誰も触れようとしない。
彼女らにとって重要なのは、消えたおちびちゃんなどでなく、いるのかいないのかも判然としない犯人を華麗に推理して周囲から羨望の眼差しを浴びたいという醜悪な願望なのであった。
一方、穀潰し三匹が大して中身のない論争を繰り広げるのを傍目に眺めながら、ぱちゅりーは、今年も発生したおちびちゃん連続失踪事件の概要について思い返していた。
そう『今年も』である。
今年の面子と異なるものの、ぱちゅりーは、この不毛な会議を昨年も経験していた。
会議が開かれたのは、今年で二度目である。ただ、事件そのものは、もっと前から発生している。
遡ること三年前に端を発するこの事件は、毎年決まった季節になると、半ば風物詩のように発生し、ぱちゅりーの群を席巻するようになっていた。
実を言うと、既にぱちゅりーの生クリームには、この事件の全容が大まかに記憶されている。
ただ、彼女に断定できないのは、どういった作用で以ってゆっくりが消失してしまうのかという一点のみ。
一応、それらしい推論は立てたものの、それを語る気など彼女にはない。
仮令どんなにそれらしい推論であっても、論理的思考が破綻している連中に対して何の根拠もなしに論述するというのは、水掛論の波紋を徒に大きくしてしまうだけの行為でしかない。
そして、それを皆が信じたところで、群の益になることもない。
だからこそぱちゅりーは、確実に明言出来る部分――事件発生のメカニズムについてのみを群の皆に語り、事件を未然に防ぐため、ある程度の方策も実施した。
おちびちゃん連続失踪事件。
その奇妙な事件を語る上で、重要な意味あいを持つのが噂である。
『群から程なくした場所に位置する禁断の地。そこには人間の饅頭が隠されている』
日に々に暑さが増し、蝉の鳴き声が耳に障るようになると、毎年この様な噂が姿形を変えて何処からともなく流れだす。
一応、緘口令が敷かれて噂の抑制が試みられるもものの口に戸は立てられぬものであり、本格的に猛暑が続く頃になると、噂は疫病の様に群全体に蔓延してしまう。
出所も確証も定かでないこの噂を信じて姿を消すのは、決まって頭の悪い子ゆっくり共であり、その親達も後を追って姿を消してしまう。
最良で次善の防止策は、子ゆが禁断の地に向かわないように厳しく躾けてやること。それぐらいしかない。
尤も中には、いい大人の癖に、この馬鹿げた噂を信じて失踪する意地汚い連中もいたりするのだが。
さて、こうして失踪する者が現れる訳なのであるが、実は群を挙げての捜索自体は未だ嘗て行われたことが無い。
というのも、この禁断の地と呼ばれる場所、長に就任した直後にぱちゅりー自身が立ち入りを禁止した区域なのだ。
そこは、群から南東へ十分ほど跳ねれば辿り着ける開けた場所のことを指す。
夏でも涼しく、煩い蝉の音も聞こえない静謐な空気の漂う場所であるが、辺りには苔生した石の塊が転がっているだけで、他には目ぼしい物もない。
禁断の地などという仰々しい呼び名は、誰かが始めにそう呼んだものが、そのまま根付いてしまったものに過ぎない。
別段、危険な物が在る訳でもなく、立ち入って罰則が下る訳でもないのだが、禁断の地に赴いたという事実がある以上、被害者達は紛れもなく掟を破った罪ゆんである。
その事実が免罪符の様に立ちはだかり、群全体で捜索を行うという、ゆっくりできないことから皆を遠ざけていた。
好奇心旺盛なおちびちゃんなら仕方ないじゃないか。そういう偽善的な意見が出ることもあったが、ぱちゅりーは、その手の理屈が大嫌いだった。
もし好奇心で訪れた先が人間の畑や住居であった場合、おちびちゃんだからという理由では決して許されない。目玉を抉られ、舌を焼かれ、尻から頭へと串を通され晒し者。
その程度で済めば、存在しない諸手を上げて喜ぶべきだろう。最悪、愚か者の責は、群全体に及ぶ可能性すらあるのだ。
当然、子供には、そんなことが分からない。だからこそ、ルールを守ることの大切さを大人が責任を持って教えなくてはならない。
そういう厳格な想いがぱちゅりーにはあった。
しかし、ぱちゅりーの心情を裏切る様に、愚か者共は毎年後を絶たない。
ぱちゅりーからすると、当初、そちらの方が不思議でならなかった。
馬鹿が死に尽くしたことで事件も終わる。非道な理屈であるが、ぱちゅりーの考えでは、そうなるはずであった。先例がある以上、二年目が起こり得るはずなどないと。
それが既に、今年で四年目になる。
「まるで、みつばちさんのようね」
ぽつりと呟いた一言は、誰に宛てたものでもない。
ぱちゅりーは、時折山を訪れる人間と会話をすることがあった。
大きすぎるリスクを背負い込むことになるのだが、それを差し引いても人間の話は非常に興味深く、傾聴するに値するものであった。
流石に群を率いるようになってからは、自重するようになったが、それでも知人と会話することは、今も続けている。
その中でも特に面白い話をしてくれるのが、この山の持ち主を名乗る青年である。
彼の話す内容は、時に学術知識であったり、時に遥か遠方の英雄譚であったりと、まるで一貫性が無い。その上、彼独自の考察に満ち溢れた眉唾な知識も多い。
だからこそ面白く感じるのだろう。
考え生きることを半ば己のゆん生の意義と化しているぱちゅりーにとって、考えることこそが「ゆっくり」なのである。
その彼から聴いた話の中で、特にぱちゅりーの興味を引いたのが蜜蜂の群に関する話であった。
何でも、蜜蜂というのは、ある一定の比率で働き者と怠け者に別れるのだそうだ。
それは個体差に関係なく集団を形成すれば起こる作用であり、仮に働き者同士、怠け者同士だけを意図的に集めたとしても、何時の間にか元の比率へと戻ってしまう。
そして、そういった「集団に属することで起こり得る個々の変化」は、蜜蜂以外の集団でもメカニズムを違えて起こり得るものでもあると同時に、集団に何かしらの益徳をもたらすのだという。
つまり、毎年、一定の割合でルールを守らないゆっくりが生じるのは、極めて自然なことなのである。
では、それが群にもたらす利益とは何なのだろうか。
「ゆっがぁぁぁぁぁぁ!! ぶざげるな、ごのいぎおぐれのぐぞれいぱぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゆっぎぃぃぃぃぃぃ!! あんたこそだまりなさいよ!! いなかもののくそでいぶ!!」
「ふ、ふたりとも、おちつくんだぜ!!」
どうやら、ぱちゅりーが黙考している間に、議論は随分と白熱していたようだ。
議題は既に「れいむのリボンとありすのカチューシャではどちらが汚いか?」という心底どうでもいいものに姿を変えていた。
最初の威勢は何処へいったのか、まりさは徒々おろおろするだけである。
そのヘタれた色惚けを間に挟んで二匹は睨み合う。今にも相手に噛み付きそうな雰囲気だ。
このまま放置すれば、ぱちゅりーのおうちは、居住不可能な死地と化すだろう。主に、とばっちりで死ぬことが予想される色惚けの死臭によって。
体の弱いぱちゅりーにとって、野宿など命に関わる。
一先ず適当に煽てて、湿地帯に生息している雑魚のように静かにさせなければ。
そう思い、喧しい二匹に話しかけようとしたときである。ぱちゅりーは、ここにいるはずのないモノを見たような気がした。
「にゃっへー、そとは、あっちーんだよー!! まるで、らんしゃまのまむまむのなかなんだよー!!」
茶色の髪から黒毛の猫耳を生やしたゆっくりがぼやく。
その言葉通り外は猛烈な暑さのようだ。そいつは、普段被っている緑色の帽子を背部から生えた二本の尻尾で掴み、団扇代わりにして涼んでいた。
「へい、しすたー!! そういう、ふぁんきーなせくしゃるじょーくは、ようむのせんばいとっきょなんだみょん!!」
それに対して、おかっぱの白髪を黒いカチューシャでまとめたゆっくりがツッコミを入れる。
その目に何処となく生気が宿っていないように感じるのは、暑くて死にかけているからでなく、彼女が既に半分ほど死んでいるからなのかもしれない。
じゃあ特許料払うよー!! ハハハーッ!! と笑い合いながら防空壕の入り口から堂々と入って来たちぇんとようむは、揉めている一同の横を素通りし、更にぱちゅりーの目の前を通過すると、奥の桶に汲んであった水を勝手に飲みはじめた。
無論、ぱちゅりーが自身の弱い体に鞭打って汲んできた水である。
「ちょっと、どうしてこのいなかものたちがここにいるのよ!!」
「れいむに、あまあまをもってきたんだね!! いますぐださないと、せいっさいするよ!!」
思いがけない状況に静止してしまったぱちゅりーを置いて、饅頭二匹が吼えた。
どうもこの連中は、ちぇんとようむが会議に参加出来ないことを、自分達よりも地位が低いからだと考えている節がある。
そうやって普段見下している輩に、こうも清々しく無視されたのが相当腹に据えかねたのだろう。
怒りで膨れる体と同様に膨れ上がった憎悪の矛先は、招かれざる闖入者の方へ向いていた。
一方で謂れのない怒りを差し向けられている二匹はというと、至って自分歩調だ。
口の周りの水を舐め取ると、頬をクッと吊り上げて笑っている。からかい甲斐のある玩具を見つけたと言わんばかりの笑顔である。
「そんなにはっするしてどうしたみょん、ふぁんきーしっとども!? おかおさんがまるで、でいぶのしりのあなみたいだみょん!!」
「んー? そういわれると、たしかにおまえら、でいぶのしりのあなみたいなんだよー!! あなしまいなんだねー、わかるよー!!」
散々な言い様であった。
れいむの尻の穴を比喩表現に用いて、尻の穴の保持者であるれいむ本体すら貶しているにも拘わらず、尻の穴自体は全く貶していない。
そのくせ喩えに用いられたことで、れいむの尻穴に対する印象が恐ろしく悪いものになっている。
まあ、実際、でいぶと呼ばれるほどのデカイ図体をしていれば、出す物も多く、相撲取りと同様に自分で尻が拭けないため不潔には違いないのだが。
「どぼじでそんなこというのーーー!! あじずのとかいはなおかおは、でいぶのあにゃるみたいにきたなくないわよーーー!!」
「どぼじでそんなこというのぉぉぉ!! でいぶのせかいをみりょうするうっすらぴんくいろのあにゃるさんがきたないわけないでしょぉぉぉぉぉ!!」
れいむの気持ち悪い尻穴描写が皆の気持ちを一つにした。
あとついでに、憎悪の矛先が再びかち合った。
どうやら、れいむとありすは、ちぇんとようむの策略に嵌ってしまったようだ。
相手の集団の中から無作為に選んだ対象の身体的特徴を用いて罵倒することで、それが否定された瞬間に仲間割れが起きる。
頭の悪いゆっくりは目先の物にしか集中できない、という特徴を気持ち悪いくらい効果的に利用した煽り方と言えよう。
「えーっと、それよりふたりとも、なにかあったのかしら?」
また罵り合いが始まっては堪らないとばかりに、凍結から立ち直ったぱちゅりーが気だるげに割り込んだ。
会話の流れを断ち切ることが主な目的であったが、ちぇんとようむが来たことから、何事が起きたのか気になったのもまた事実であった。
「んー? べつにたいしたことじゃないんだよー!! だから、さきにかいぎさんをおわらせるといいんだよー!! それまで、ここでまってるんだよー!!」
瞳の中に星を煌かせたちぇんの回答であるが、どう考えても邪魔する気満々である。
水を飲み終わった後に被り直した帽子の横からは、ヒクヒクとしきりに動く猫耳が窺える。その一方で尻尾がピクリとも動いていない。
猫の習性がちぇんにも当て嵌まることを前提に鑑みると、これは非常にwktkしている時の仕草である。
「そうなのぜ? それじゃ……」
「いいえ、さきにおしえてちょうだい!! わざわざここまできたのだから、むれになにかあったのでしょう!?」
一見すると謙虚なちぇんの申し出を、何時の間にか修羅場から脱出していたまりさが何気なく受理しようとした瞬間、何時になくアクティブなぱちゅりーが遮った。
もし、ダブルチョコを交えて会議が続行されれば、混乱の収束が極めて難しくなることなど目に見えていた。
「そー? わかったよー」と言って引き下がったちぇんの横から、ようむが一跳ね進み出てきた。
先程から交互に話しているのは、外を走り回って疲れたからなのだろうか。
疲れているなら無意味に他ゆんを煽りまくるのを止めれば良いのに、とぱちゅりーが厭きれていると、ようむがとんでもないことを口走りはじめた。
「それじゃあ、たいしたことじゃないけど、いちおうほうこくするみょん!! さっきまで、けいびにかこつけて、ゆゆさまのなまめかしいぷっしーをおっかけまわしてたときだみょん!! そこであすほーるみたいなかおしてるれいむの、ふぁっきんどーたーが きんだんのちのほうにはってくのをみたんだみょん!!」
無駄に外来語が多く聞き取り辛い内容であったが、皆にはしっかり伝わった。
前半は前半で問題だらけであったが、それ以上に後半が大問題であった。主にれいむにとって。
「どぼいうごどなのぉぉぉぉぉー!! それめちゃめちゃだいじなことでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「にゃ~ん? てめーのあすほーるからうまれた まてりあるえっくすのひとつやふたつ、きえてなくなったほうがみんなのためなんだねー!! わかれよー!!」
「おっ、さすがそーるしすたー、いいこといったみょん!! あとで、ゆゆさまのうしろのしょじょあなをふぁっくしてもいいみょん!!」
一応追記しておくが、ようむの言う「ゆゆさま」とは、別段ようむの嫁でも何でもない。
時折、ぱちゅりーの群に襲来し、その度にようむのセクハラ被害に遭い、毎回泣きながら逃げ去っていく捕食種のことである。
それを追い回していたということは、ある意味、防衛の仕事をしていたとも言える。
れいむのおちびちゃんについては、全力でスルーした可能性が極めて高いが。
「どぼじでぇぇぇぇぇぇー!! どぼじで、でいぶばかりがごんなめにぃぃぃぃぃぃぃ!!」
目から涙と言わず、全身から希薄砂糖水を噴出して泣き喚くれいむであるが、その他の幹部の反応は淡白なものであった。
「ふーん、お可哀想に、プギャー」程度の感慨しか湧かなかったぱちゅりーは、騒音を発する汚物を、自機の通常ショットで容赦なくミンチにされる毛玉でも見ている様な目で眺めていた。
ありすも凡そぱちゅりーと同じ様な表情であり、消去法的に考えて最も慈愛に溢れているのが、再びオロオロしているだけのまりさという奇怪な構図を作り出している。
ちぇんとようむに至っては「そんなことしたら、ちぇんがあたまからくわれて、ほんもののふぁんきーしっとになっちまうんだよー!!」「まさに、そびえたつくそだみょん!!」と未だにコントを続けている始末だ。
一応、この場にいる全員が、れいむのおちびちゃんとは面識があった。
今年の春に行われた新旧幹部の顔合わせに、れいむが自信満々で連れてきた二匹の子れいむである。
れいむは殊更に「可愛い」を連呼していたが、ぱちゅりーの竜胆色の双眸には、動物の血を吸ってパンパンに膨らんだ蛭の様な生き物が映っていた。
そして軟体動物共は、糞礼儀知らずな糞餓鬼でもあった。
その憎たらしさといったら、比較的自制心の強いぱちゅりーですら、全力ビンタを放つ寸前まで追い込まれたほどである。
初対面の一同に対して「きゃわいいれいみゅしゃまの、うんうんしゃんをちゃべてみょいいよ!!」などを始めとした数々の暴言を吐き続けたが、遅れてやって来たチョコ組の凄絶な言葉の暴力に敵うことはなかった。子供にも容赦はしないらしい。
マシンガンの様な「SHIT(糞)!!」コールを背に受けて、親れいむ引率のもと去って行く汚饅頭共は、さながら箕作鮫(みつくりざめ)の様に醜悪な表情をしていた。
その後、汚物共は、群の掟で義務教育制度を定めているにも関わらず『がっこう』に来なかったので、教師役を兼任しているぱちゅりーは、死んだものとばかり思って記憶から隔離していたのだが、どうやらしぶとく生き残っていたようだ。
「あんないなかものなおちびちゃんでも、いなくなればかなしいのかしら?」
ぼそりとありすが呟いたが、それは間違いだろう。
「でいぶ」という種は、未だゆっくり同士からは「れいむ」と呼称されているものの、人間の分類上では遺伝子からしてれいむとは別種の生き物である。
そして、頭しかないゆっくりにとって遺伝子が違う、引いては体組織の組成が違うということは、精神構造にすら巨大な違いを生むことになる。
でいぶにとって重要なのは、自身が「ひげきのひろいん(笑)」であり「しんぐるまざー(笑)」であることだ。
これは既にステイタス的な物と一線を隔した、生存本能に由来した衝動と言ってもいい。
「他ゆんからの同情を買えれば、生き延びることが出来る。ついでに子孫も増やせる」
人間に告示した情緒を持つが故に、道徳観念を理解出来ない故に、れいむの大多数が無能であるが故に生じた奇特な進化であった。
今れいむが泣き喚いているのも、生存本能の一部であるしんぐるまざー(笑)の領分が危機に晒されているためである。そこに子共の安否を気遣う親心などは、一切挟まれていない。
ゆっくりや人間の感性からしてゲスとしか映らない態度であるが、れいむ自身に悪気はないのである。
尤も、悪気がないだけで、その性質が現在進行形で皆に迷惑をかけていることに変わりなかった。
先程から嘆き悲嘆にくれているれいむであるが、自分から何かをする気配はない。
これは待っているのだ。誰かが優しくしてくれるのを。
鬱陶しい事この上ない状況なのだが、寧ろぱちゅりーには、不毛な会議をさっさと終わらせるチャンスであった。
状況に大きな進展があったのは、それから数分後のことである。
一同は、件の失踪現場にあんよを運ぶこととなった。
ぱちゅりーが行ったのは、特に難しいことでもなく、れいむに対して「みんなでおちびちゃんをさがしにいきましょう」と提案しただけである。
「どうしてかわいいれいむが、そんなめんどうなことしなくちゃいけないの!? れいむのかわいいおちびちゃんのためなんだよ!! おまえらが、みをけずってふんこつさいしんしてくればいいでしょぉぉぉぉぉ!!」
常のれいむであれば、そう答えたのだろう。
しかし、可愛いおちびちゃん(笑)がいなくなったことで思考停止していたれいむは、中枢餡からの信号が途絶えた入力待ちの空白状態であった。
こういうときは、人間もゆっくりも大して変わらない反応をする。
従ってしまうのだ。自身に向けられた好意的な言葉、甘言に。
最善でも最良でもないが、とりあえず自分の害にならないから従う。
ギャンブルや詐欺で痛い目に遭う典型的なパターンである。
そして、この提案は、幹部一同を失踪現場に連れてくるためにも一役買っていた。
ぱちゅりー自身は、禁断の地に群の一員を連れてくることを嫌っていたのだが、実際に現場に赴いて調査をしない限り、皆納得しないだろうとも思っていた。
昨年と同じように。
しかし、その現地調査について触れる幹部はいなかった。
皆尻込みしていたのだ。恐らく、会議の流れで調査を提案しても無意味だったに違いない。
そこで、ぱちゅりーは、皆の心を空白にするためのタイミングを見計らっていた。
訪れた好機自体は、意図しない闖入者のために無為に終わったのだが、結果として彼女らは、より都合の良い状況を作り出してくれた。
れいむが思考放棄状態に陥っていたとき、まりさとありすの思考力も、それぞれ異なる理由で確実に低下していたのだ。
結果として昼前におうちを出て、太陽が頂点を過ぎた頃に禁断の地に到着した。
ジージーみんみんと気が滅入る音の奔流に揉まれ、容赦なく照りつける夏の日差しの中を汗だくになって進んだ先に、その場所はあった。
れいむ種のけっかいさんを強固にしたような物で囲われていたが、一箇所だけ結界の張られていない部分が存在している。
そこが入り口なのだろう。
「ここでは、しずかにね」
不意にぱちゅりーの発した言葉に皆一様に首を傾げたが、れいむが喧しく急かすため、心に留める程度にして境界を跨いだ。
ボロボロに腐敗した薄い木製の板が立て掛けられている場所を境にして、世界が切り替わるかのように音と熱が遮断される。
意外なことに、そのことを一番初めに察知したのは、ぱちゅりーでなかった。
「ゆひー、ゆひー、つかれたよ!! なんでみんな、ぐずぐずしてるの!? さっさとおちびちゃんをさがしてね!! はやくしないと、ひがくれるよ!!」
移動に時間が掛ったのは、体力のないぱちゅりーが足をひっぱたのも一要因であるが、それ以上に遅れの原因を作ったのは、運動不足のれいむである。
煩いからという理由でちぇんとようむは置いて来られたのだが、もし着いて来ていれば非難轟々であったに違いない。
都合の良い事を言うれいむに皆げんなりとしていたが、疲労困憊で突っ込む気にもなれなかった。
地面からの放射熱が最大になる時間とは、つまり一日の内で最も気温の上がる時間帯である。
熱で生クリームが軟化してしまい、軽い熱射病の様相を呈したぱちゅりーは、木陰に身を潜めて木に背中を預けた。
その位置からは、ここら一体が見渡せるようだ。
我先にと禁断の地の奥へ進み、早々に息を切らしたれいむの姿もよく見える。
「ゆゆ!! ここは、とってもすずしいよ!! そうだよ、ここでおうちせんげんすれば、きんだんのちも、にんげんのおまんじゅうもれいむのものだよ!!」
分かりきっていたことではあるが、れいむの中でおちびちゃんとは、既に二の次の存在と化していた。
そのくせ、噂の「人間の饅頭」については、意地汚く憶えていたようだ。彼女が今までここに来なかったのは、恐怖と体重のためだったのだろう。
そんなれいむを気にかける存在は、この場にいなかった。
まりさは、ぱちゅりーを介抱しようとして冷たくあしらわれ、ありすは、その様子を歯噛みしながら見つめていた。
そのために、皆その瞬間を見逃してしまった。
「きょうから、ここをれいむのゆっくりぷれい――」
ぱちゅりーを除いて。
蝉の音すら響かない薄ら寒い大気に、不気味な静寂が混じる。
突如として途切れたおうち宣言に不穏な空気を感じ、まりさとありすが振り返った先に、れいむの姿は無かった。
否、よく見ると「姿」だけは、残っている。
れいむがいたであろう位置には、不自然な黒い染みがボツリと存在感を醸し出していた。
静寂な空気の中に、聞こえない筈の虫の音が響いた。
「れ、れいむ……? なんなの、あ、ああ、そうなのね、みんなをおどろかすつもりなんでしょう!! そういう、いなかものなまねは……」
「ありす、うるさいから、しずかにしてちょうだい」
突如として生じた不可思議に動揺するありすは、れいむのいなくなった事態を自身の納得出来る理由で解釈しようとしていた。
それを途中で遮ったぱちゅりーの声音には、熱中症による若干の揺れが窺えるものの、恐怖も動揺も混じってはいなかった。
それがありすを意味もなく苛々させる。
懇意な間柄ではなかったが、それでも仲間の一人であったれいむが消え失せたのだ。
普段からぱちゅりーを敵視していたありすの目に、その冷然とした態度は、自分を馬鹿にでもしているかの様に映っていた。
「うるさいですって!? あなたなにをいって……」
「どまんじゅう」
再びありすの声を遮ったのは、ゆっくりにとって屈辱的な言葉だった。
土饅頭、言葉の指す本来の意味を知るゆっくりは殆ど存在しないが、親からの記憶継承により子ゆっくりへ受け継がれる記憶において、それは人間がゆっくりを罵る際に使用する言葉であった。
人間曰く、ゆっくりとは饅頭である。
餡子やクリームを小麦粉が主成分となる皮で包んだ存在、饅頭。それも土の上を跳ねる汚い饅頭。
即ち土饅頭。
馬鹿らしいことだ、とありすは考えていた。
ご飯をむーしゃむーしゃして、とかいはなこーでぃねーとで飾ったお家に暮らし、いつか素敵なまりさと結ばれるべき自分は、命を持った存在である。命を持たない饅頭である筈がないと。
それを同族であるぱちゅりーは、否定するというのか。
体内のカスタードが怒りで熱を帯び、流動性の高い攻撃用のクリームがありすを満たしていく。
あんよに力を籠め、何時に無く腹立たしい引篭もり女を亡き者にせんと、ありすが構えた。
その一方で、それを無視するように、ぱちゅりーは話を続ける。
まりさに単純な驚愕を、ありすに激しい怒り、そして微かに薄暗い歓喜を覚えさせる内容を。
「にんげんの、おはかのことよ。じめんにうめたにんげんのなきがらのうえに、まあるくつちをのせるの。それが、おまんじゅうにみえるから、つちのまんじゅう、つまり、どまんじゅうとよぶのよ」
「このあたりにも、むかしあったらしいわね」とも、ぱちゅりーは言った。
ぱちゅりーの言葉をより正確に補足するなら、その墳墓形式は土葬の一形態であるとでも言えば良いのだろうか。
地面に埋もれた死体や棺桶が腐敗し、体積が減るに連れて饅頭部分は消えて行き、最後は平らになってしまう。
その上に石を置いて墓石とするのが一般的な様式である。
単に死体が腐っていくこの過程であるが、見方を変えることで、また違った解釈が出来る。
「どまんじゅうがたいらになっていくのは、じめんが、ひとでできたおまんじゅうをたべてるみたいにおもえない?」
影の落ちたぱちゅりーの表情を窺うことは出来ない。
この時、ありすの目には、目の前の紫もやしが酷く悍ましい物に映っていた。
噂に出てきた人間のお饅頭、これは疑うべくもなく土饅頭のことなのだろう。
それに気付けたのは、ありすが聡かったからではない。
常にぱちゅりーに対して悪感情を抱いていたが故に、話の内容を全て否定的に捉えたのだ。
それが偶々、真実に突き当たっていた。
「まちなさいよ……。じゃあ、なんで、それをみんなにおしえなかったの!?」
最早、訊くまでもないことだろう。
だが、ありすには、訊かずにいられなかった。
それは、同じ群の仲間を信じたかったからでも、義憤に駆られたからでもない。
「だって、それをしったら、さすがにばかなゆっくりでも、ここまで、しににくることがなくなるじゃない」
この邪魔者を消し去る為の、正当な理由を欲したからに他ならない。
ありすの顔は、唇だけを大きく吊り上げた歪な笑顔で固まっていた。
「ああ、それと、きをつけなさい」と、未だ何事か話続けるぱちゅりーの言葉は、既にありすへ届かない。
一度へこませた体に、最大限の反動をつけて跳躍する。
数跳ね分の距離を行く間、一跳ね一跳ね丁寧に殺意を籠める様に疾駆して、最後の一歩を踏み出す。
「ゆふ、ゆふ、ゆふほほほほほほっ!! し、ししししぃしになさい!! こんの、いぃなかも――」
「ゆっくりって『にんげんみたいなおまんじゅう』でしょう?」
自身の身に何が起こったのか、ありすには理解出来なかった。
それは、本当に一瞬の出来事であった。
ただ、事の成り行きを呆然と見ていたまりさには、そこに発生した奇怪を、この世のモノから隔離された異形を知覚出来てしまった。
まりさの語彙で以って表現するなら、赤茶色の蔦とでも言えばいいのだろうか。
おちびちゃんが実る蔦の持つ、安心感とでも言うべきものが一切欠如した気持ちの悪い形状をしていた。
葉が一切生えていない蔦は、ヌラヌラとした光沢を放つ油状の液体で湿っており、穴の開いた灰色の半球に表面の所々が覆われていた。
その半球は、まりさのおうちから程近くにある桜の木に付着している物と酷似している。
今は亡きまりさの母は、それを蛾の卵だと教えてくれた。
その生理的な嫌悪感を誘う物体は、ぱちゅりーに飛び掛ろうとしていたありすの足元から確かに生えてきた。
瞬きを一回していれば見逃してしまっただろう。
鈍重なゆっくりの動体視力では本来捉えきれない筈の光陰は、まりさの心身を底から揺さ振り、その記憶の中へと鮮明に焼きついた。
地面の中にありすを引きずり込む光景と共に。
一方、ぱちゅりーは、まりさが蔦であると認識したソレを、また別の物として捉えていた。
舌である、と。
赤褐色の錆付いた金属質な粘膜に覆われた舌。
表面を覆う口内炎の様な出来物からは、膿の様な汚泥が湧き出し、醜悪な印象に拍車を掛けていた。
ソレは、地面に走った一本の『口』から飛び出すと、一瞬でありすに絡み付き、ぺろりと一口で平らげてしまった。
蝉の声は、やはり聞こえない。
だが、無い耳を澄ませば、それは確かに聞こえてくる。地面に接したあんよの底を震わせて。
地に穿たれた隙間から這い出すように、底の見えない暗闇から細く々く響くように。
ユンヤー!! ナンナノココハー!!
トケルー!! カラダガ、トケルー!!
ヤメテー!! マリサハ、タベモノジャナイー!! ムーシャムーシャジナイデー!!
ユピー!! ユックリサセテー!!
ユンヤー!! レイミュノキャワイイオキャオギャー!!
ムッキュー!! タチュケテママー!!
ユッガー!! グザイー!!
ドボジデー!! ドボジデー!!
ブザゲルナー!! マジザザマニゴンナゴ……ギッギッユッギー!!
パピプペポパピプペポパピプペポー!!
ありすだった染みを前に、どれほどの時間が経過した後だろうか。
暫しの間漂っていた沈黙を破ったのは、ぱちゅりーであった。
「しょうじき、いがいだったわ。あなたが、いちばんさいしょに、わたしをころそうとするんじゃないかとおもっていたのに……」
そう言われて、ビクリと震えたまりさの表情は、ぱちゅりーの想像と著しく乖離していた。
ぱちゅりーを亡き者にしようという野心も、目の当たりにした異形に対する恐怖も窺えなかった。
まりさは、泣いていた。
「だっで……、だっで、ばぢゅりーは、ばぢゅりーは、びんなのために、いづも……、いづも」
濃い蜂蜜色の双眸から、ぼろぼろと飽和砂糖水の涙を溢すまりさは、まるで子供のようであった。
いや、実際に子共なのだ。
これで何度目かになるが、まりさはアホである。
だが、愚かではなかった。
ぱちゅりーの学校に通うまりさは、いつもぱちゅりーを見ていた。
厳しくも優しく見守ってくれる姿を、弱い体でありながら誰からの援助も受けずに生きる姿を、そして誰よりも群のことを考え行動する姿を。
多くのゆっくりに誤解を受けながらも、皆に厳しく、そして何よりも自身に対して厳格に生きる姿は、誰のゆん生よりも貴く正しい。まりさは、そう感じた。
幹部になろうと決意した発端も、恩師であるぱちゅりーを支えたいという純粋な想いに過ぎない。
ただ、まりさは、自分が出来の悪い生徒であることを自覚していた。
そこで、実際に幹部として働くゆっくりを模倣することにしたのだ。
もし、ぱちゅりーが実のある幹部制を実施していれば、この試みは幾らかの障害を経た末に成功したのだろう。
しかし、残念なことにぱちゅりーの幹部制は、先に記した様な張りぼて的な代物であった。
そして、不幸なことにまりさが参考にしたのは、彼女と同様にアホであり、それに加えて愚かでもあった。
今、ぱちゅりーの目の前には、母親に見捨てられた子犬の様に泣きじゃくるまりさがいる。
愚か者の鍍金が剥がれたまりさを暫くの間マジマジと観察していたぱちゅりーは、フッと溜息を吐くと、身を預けていた木から離れ踵を返した。
十分に休息をとった歩みに、熱射病の残滓はない。
――ああ、失望された。
まりさは、悲嘆に暮れた。
しかし、絶望はなかった。
ぱちゅりーが自分を置き去りにして蔦の餌食にする心算ならば、それが群の為になることなのだろう。
そう思えば、誇らしくもあった。
「うっとうしくなくのをやめたら、なるべくしずかに、ついてきなさい。あれは、じめんのしたいがいは、みえないものらしいわ」
それから程なくして、生物の気配が消えた。
打ち捨てられた古い墓所は、これから先も気味の悪い静寂を保ち続ける。
墓場に広がる染みは、決して途絶えることはないだろう。
基本的に、ゆっくりは怠惰でスッとろく、そして、何よりも頭が悪いからだ。
時を経て土饅頭が平地になってしまうように、楽しかったことも、辛かったことも忘れてしまう。
故に「集団」は、繰り返すことで記憶を繋げる。
その巨大な力の前に個々の意思が挟まれる余地などない。
何故なら、ゆっくりは生きているからだ。
この世に満ち溢れる大凡の物がそうであるように、生きる事に力が宿る。
醜い芋虫が美しい蝶へ変態する様に、長大な川の流れが巨岩を削り取る様に、紙面の中で文字が躍り世界を形作る様に。
饅頭ですら少女の夢を見る。
なら、星が饅頭を食らうことに、何の不都合があるというのだろうか。
地球さんだって生きてるんだよ。
終わり
以下、あとがきという名の愚痴
さて、今回の話ですが、最後まで読んで下さった読者様方には、きっとバレてしまっているでしょう。正直モチベーション続かんかった。サーセン。
病院で某漫画を読んで「そうかお星様も生きていたのか!!」ってなって、10kb程度の小ネタにしようと思っていたら……。
いつにも増して厨二病がひでーやー。ハハ、ワロス。
あ、それと、今回の話の主題を根底から覆すようで恐縮なのですが、僕自身、ゆっくりから「いきてるんだよ!!」とか言われたら全力で否定しますよ。つうか、ゆっくり以外の生き物から言われても否定するよ。こんな感じで。
この世の中に、自分以外の生き物が生きてる、なんて戯言を本気で信じてる奴なんざいるわけねーよ!!
いえ、勿論理屈では「生きてるんだよ!!」で正しいと思います。ただ、周りの生物も生きていると感覚で理解したら、もう僕は、ご飯も食べられないし、他人とおしゃべりもできない、こうやってSSさんを勝手に生えてこさせることも出来ないです。
長々と、あとがき書いてさーせんwww
では、また機会があれば、お会いしましょう。さようなら。
一見すると三つ有るように見える不思議な過去作
anko2899 友達がいた‐前編
anko2900 友達がいた‐後編
anko2916 それは酷く臭う
自業自得 群れ 子ゆ 自然界 土饅頭
注意
※こめじるしさんをむしして、さっさとほんぶんさんをよんでね!! べつにいますぐじゃなくてもいいよ!!
※読者さんたちがタイトルから予想したであろう展開は、九割ぐらいの確率で無いよ。主に悪い意味で。
※前回に引き続き、ちぇんとようむの扱いがおかしい。
※一度ぐらいHENTAIを書いてみたいけど、書けないから変態願望にしといた。
※お前ら皆、ご先祖様を大切にしてゆっくり生きろ。俺は実家に帰っても、祖母ちゃんの仏壇に手すら合わせねー不孝モンだけど。
夢の中を漂う私は、初潮を迎えたばかりの少女だ。
線の細い佳人は、知識の海に沈み喘ぐ。
その命を薄く々く磨り減らしながら。
イタダキマス。
不意に足元から声が上がった。
この下に部、屋があっただろ、うか。
石畳に走、る亀裂から覗、く先には、小さく隆
黒、染み
……。
「むきゅ、もうあさなのね」
東の空から射す陽光に目を瞬かせながら、誰ともなしに呟く影があった。
すっかり人の少なくなってしまった寒村から幾らか離れた山中には、打ち捨てられた古い防空壕がある。
今現在、村人達の許可を得てそこに暮らすゆっくり――ぱちゅりーの朝は、自身がゆっくりであることを正しく認識するところから始まる。
朝一番に彼女を歓迎してくれるのは、隙間なく並んだ古い本の背表紙でなく、ボロボロに朽ちた畳と古惚けた和箪笥だ。
夢と現実の類似点は、薄暗いことと埃っぽいことぐらいではなかろうか。
その古い箪笥の傍平には、これまた古めかしい卓上鏡が転がっている。
無論、曇った鏡の中で佇むのは、儚げな少女などではない。厚ぼったく下膨れた頬を持つ人の生首だ。
夢に出て来る少女との共通点は、先をリボンで結った竜胆色の長い艶髪二房、及び同系色の瞳、それと三日月の装飾があしらわれた藤色のナイトキャップ。強いてもう一つ挙げるなら顔色の悪いところだろうか。
「むきゅ? いがいときょうつうてんは、おおいのね……」
新たな発見である。
一瞬、仄かな桜色に染まったぱちゅりーであったが、数刻後に襲ってきた激しい衝動により瞬く間に打ちひしがれてしまった。
通俗的には賢者モードと呼ばれる状態だ。
三つ以上の共通点をゆっくり特有の感性で以って沢山と捉えてしまったこともまた、自己嫌悪と自殺衝動に凄まじい拍車を掛けていた。
どうして自分は、ゆっくりとして生を受けたのだろうか。
口から糸を吹くことで、地を這う芋虫が優雅に空を舞う蝶へと変態するように、この悍ましい命を全て吐き出してしまえば、地を跳ねるゆっくりが物憂げに本の頁を捲る人間へと生まれ変わるという奇跡が起きるのか。
「……ゅりー!! ぱちゅりー!! むししないでほしいんだぜ!!」
ゆっくりにとって朝昼兼用の食事を摂りながら、そんな益体もないことを考えていたぱちゅりーの肌が不意に響いた声で振動した。
視線を投げると、そこにはぱちゅりーの見知った笑顔があった。
何時の間にか棲家の中に侵入していたそいつは、ぱちゅりーが率いる群の幹部であり、いつも彼女に粉を掛けているトンガリ帽子の漉し餡饅頭であった。
左側の髪で結った長い金髪のお下げを、今も自然な動作でぱちゅりーの後頭部に回している。
鬱陶しい奴だ。心中で吐き捨てたぱちゅりーは、右の髪束でお下げを打ち払った。
「ああ、ごめんなさい、まりさ。いつからいたの? ぜんぜんきがつかなかったわ。それと、わたしのことは、おさとよびなさい。みんなにしめしがつかないでしょう?」
馴れ々れしい態度を冷ややかに嗜めると共に、言外に「お前の様なガキに興味などない」と告げる。
「ゆっへっへ、ぱちゅりーっじゃなくて、おさはつめたいんだぜ!! でも、そういうところがまた、たまらないんだぜ!!」
尤も、それが先方に伝わることなど万に一つ無いのだろう。
完全にのぼせ上がっている色惚けの思考というのは、殆どレイパーと同質のものだ。事実を全て己の都合の良い様に歪めて解釈していると見て間違いない。
きっとこいつの頭には、蛙の腸(はらわた)が腐った様な色の餡子が詰まっていてるのだ。
その腐敗した餡子脳の中で、いったい自分はどのような痴態を演じているのだろうか。
自身の想像により、言い様のない吐き気を催したぱちゅりーの眉間に深い皺が刻まれた。
「ちょっと!! いつまでまたせるつもりなのよ!!」
「そうだよ!! かわいいれいむに、さっさとあまあまもってきてね!! このうちでは、おきゃくさまにあまあまのひとつもださないの!? れいぎしらずなの!?」
刺々しい金切り声が上がったのは、ぱちゅりーが想像の中で目の前の色惚けを三回ほど惨殺し終えたときであった。
ぱちゅりーのおうち兼、群の集会場でもある防空壕には、既に今日の会議に参加する面子が集結していたようである。
若干敵意の篭った視線を向けてくるカスタード饅頭と物狂いとしか思えない粒餡饅頭は、家主に断ることもなく黴臭い座布団の上に鎮座していた。
どうやら自己嫌悪に陥るあまり、周囲に気が回っていなかったようだ。
失態である。
「ちっ、ありすは、けーわいなんだぜ!!」
お前が言うのか? と思わず問い返したくなるような呟きを漏らした道化は、連なって敷かれた座布団の内の一枚に鎮座すると、お下げを用いて隣の座布団を叩いた。座れということらしい。
ぱちゅりーは、それを見ない振りすると三匹から距離を空けた位置に身を落ち着けた。
「てれてるんだぜ!!」と、へらへら笑うアホの言うことは聞かないでおいてやった。
今回、会議に参加するのは、群の発足当時から長を務めるぱちゅりーと今年の初めに幹部就任した三匹である。
本来なら、古参のチョコ饅頭とホワイトチョコ饅頭のダブルチョココンビも参加させるべきなのであるが、ぱちゅりーは彼女らを意図的にハブった。
片や決して自分の意見を出さずに是と否のみで会話を進める猫饅頭、片や突発的な下ネタで場の流れを停滞させるセルフ半殺し饅頭。
おまけに何故か奴らは、下劣なスラングの語彙のみが異常に豊富であり、場に紛れ込ませると決まって会議が必要以上に紛糾する。
そして収拾が付かなくなる頃に忽然と姿を消す。
間違いなく故意犯である。
そのため両名に限ってのみ、平常時の基本シフト通りに群内の哨戒を行わせていた。
基本的に駄目な奴らであるが、外部からの侵入に対する防衛に限れば、この上なく頼りになる連中であり、今のところ新参の穀潰し共よりも遥かに役に立っている。
それは幹部なの? 馬鹿なの? と問われれば思わず唸ってしまう扱いであるが、そもそもぱちゅりーにとって幹部という存在そのものが無用の産物なのである。
幹部による合議制。
これ自体がぱちゅりーの作り出した見せかけだけの制度であり、民衆へのパフォーマンスでしかない。
基本的に、ゆっくりは怠惰でスッとろい生き物なのだ。
従って、こいつらを統制するのに必要なのは、物事をスムーズに決定できる統治体制。雀の千声による民主主義なんぞでなく、優秀な指導者による鶴の一声。
即ち、独裁政治である。
ドスの率いる群が比較的まとまりを持っているのが良い例だろう。
尤も、統率が取れていることと群が存続できるか否かは限りなく別問題であり、滅びるときは、それこそPSPの○ボタンに近い感覚で唐突に滅びる。
その様子は、恰もLUNAシューターやCAVEシューターが一面道中の各種Way弾を読み違えて、うっかり全機抱え落ちするが如しである。
それが当初、長に就任したぱちゅりーが五分という長考の末に至った極めて真っ当な結論であった。
ところがである。不幸なことに凡百なゆっくりというのは、どこぞの権利団体の連中のように自由や平等とかいう不便で非合理的なものを殊更に尊重する傾向があった。そのくせ、権利に伴う責任を負う気概を全く持たない。そんな剛の者が過半数を占めている。
そこで、そういったどうしようもない木端カス共を封殺するためにぱちゅりーが考案したのが、この名目上の合議制であった。
その中身はというと、頭の悪いゆっくりでも分かるように酷くシンプルに出来ている。
群の方針は、長と幹部との話し合いで決める。幹部には立候補すればなれる。これといった特権は与えられない。
以上である。
特権無しが効いているのか、これまでに幹部の数が十匹以上に増えたことはない。
それでも立候補してくる連中というのは、単なる見栄っ張りや制度をよく理解出来ていない馬鹿、或いは自身の能力を過信した勘違い饅頭が大半であった。
後は、そいつらの意見を自身の思い描く通りに誘導してやるだけでいい。それだけでぱちゅりーは、望んだ通りの独裁政治を行うことが出来るのだ。
古参組みは、そのカラクリを全て理解しているのかもしれない。生き残っているとい事実は、人間以外に限り、それだけで能力の証明になる。
どんなに言動が狂っていてもだ。
そう考えると実に食えない連中である。Not食料的に考えて。
「それじゃあ、さっそく、こんかいのぎだいさんである『おちびちゃんれんぞくしっそうじけん』について、はなしあうのぜ!!」
長であるぱちゅりーを差し置き、色惚けまりさが会議の指揮を取る形で議論(笑)が始まった。
このアホがぱちゅりーに先んじてリーダーシップを取ろうとするのは、何もぱちゅりーに対するアピールのみが目的ではないのだろう。
ゆっくり視点において、長ぱちゅりーの容姿は、平均的なぱちゅりーのそれよりもかなり高い水準にある。
しかし、それに反して群のゆっくり、特に若いゆっくりからの人気は圧倒的に少ない。
彼女の厳しさ、その中でも、とりわけ教育に関する厳格な態度が、オートカウンターボムの様に容姿のアドバンテージを打ち消してしまっているのだ。
それ故に、ぱちゅりーは、この若いまりさの反応に違和感を覚えていた。
まさか知性に惹かれたなどということは有り得まい。何度も繰り返すが、この色惚けはアホなのだ。
そうなるとまりさの目的は、自ずと絞られる。
結局このアホが欲しているのは、ぱちゅりー自身ではなく彼女の持つ指導者という立場なのだろう。
身の程を弁え自身の力の及ぶ内で尽力することを共生と呼び、それを弁えず高度な仕事をしたがるのをアホという。
だからまりさはアホなのだ。
「ええ、そうしましょう、まりさ!! どこかのいなかものののせいで、ずいぶんとじかんをむだにしたことだし……」
そう言って色惚けまりさに賛同するのは、ぱちゅりーに敵意の篭った視線を向けるヒステリックなありすであった。
カチューシャで纏められた金髪の中身は、さとりでなくとも簡単に読み取れるだろう。
一体あの色惚けの何が、こうまで彼女を狂わせるのだろうか。ぱちゅりーには、不思議で仕方なかった。
その眼孔に嵌った空色の目玉を刳り貫き、ゼリーの様な表面から薄く膜を剥いで自身の目に貼り付ければ、世界が変わって見えるのだろうか。
ぱちゅりーの目には、驢馬に跨った案山子にしか見えない色惚けまりさであるが、少なくとも白馬に跨った素敵な王子様ぐらいには見えるのだろう。
案外、幸せな世界なのかもしれない。
「そんなことよりも、さっさとかわいいれいむにあまあまさんをけんじょうしてね!! れいむは、しんぐるまざーなんだよ!! むれのみんなでいたわるべき、いだいなそんざいなんだよ!!」
先程から気の違った発言しかしない典型的なしんぐるまざー(笑)れいむ。
でいぶのテンプレートと言っても過言ではないこいつは、御丁寧に口から下のみがぶくぶくと肥大化した茄子型をしている。
下から上へと見上げるに連れて細っていくため、黒髪に結われた赤いリボンがまるで子供の玩具のように見えてしまう。
大凡のでいぶが大体そうであるように、この汚物も例に漏れず、結婚してにんっしんした頃からぶくぶくと肥え太り始めた口であった。
そのケツがでっぷりとだらしなく垂れ下がるのに比例するかのように、番のまりさが見る々る痩せ細っていく姿は、嘗てぱちゅりーが山で拾ったエロ漫画の一コマのようであったという。
その後、番のまりさが死んで涙を流す汚物であったが、無論、その涙は若くしてしんぐるまざー(笑)となった己に対する憐憫である。
見事な武者振りならぬ、でいぶっぷりであった。
吐き気を通り越して、いっそ爽やかな感動すら覚えたぱちゅりーは、彼女にキチガイナスビという二つ名を送ろうとしたほどである。朝鮮朝顔さんに申し訳ない、と思い直して取り止めはしたが。
因みに完全な余談であるが、搾り取られて痩せ細る男の出て来る漫画は、現在ぱちゅりーの背後に鎮座する箪笥の一番下の段に保管されている。夜な々な、こっそりと読むのがぱちゅりーの数少ない楽しみの一つである。
こうして、一癖も二癖もある幹部が集まって開催された会議であったが、開始から三十秒の時点で既に泥沼に嵌っていた。
基本的に自分の意見を譲らず、視野狭窄に陥るのがゆっくりである。
犯人は、人間だ、れみりゃだ、れいむにあまあま持ってきてねなどと、めいめいが根拠のない勝手なことを主張し続ける一方で、ある意味最も重要な議題である『失踪したおちびちゃんの行方』については、誰も触れようとしない。
彼女らにとって重要なのは、消えたおちびちゃんなどでなく、いるのかいないのかも判然としない犯人を華麗に推理して周囲から羨望の眼差しを浴びたいという醜悪な願望なのであった。
一方、穀潰し三匹が大して中身のない論争を繰り広げるのを傍目に眺めながら、ぱちゅりーは、今年も発生したおちびちゃん連続失踪事件の概要について思い返していた。
そう『今年も』である。
今年の面子と異なるものの、ぱちゅりーは、この不毛な会議を昨年も経験していた。
会議が開かれたのは、今年で二度目である。ただ、事件そのものは、もっと前から発生している。
遡ること三年前に端を発するこの事件は、毎年決まった季節になると、半ば風物詩のように発生し、ぱちゅりーの群を席巻するようになっていた。
実を言うと、既にぱちゅりーの生クリームには、この事件の全容が大まかに記憶されている。
ただ、彼女に断定できないのは、どういった作用で以ってゆっくりが消失してしまうのかという一点のみ。
一応、それらしい推論は立てたものの、それを語る気など彼女にはない。
仮令どんなにそれらしい推論であっても、論理的思考が破綻している連中に対して何の根拠もなしに論述するというのは、水掛論の波紋を徒に大きくしてしまうだけの行為でしかない。
そして、それを皆が信じたところで、群の益になることもない。
だからこそぱちゅりーは、確実に明言出来る部分――事件発生のメカニズムについてのみを群の皆に語り、事件を未然に防ぐため、ある程度の方策も実施した。
おちびちゃん連続失踪事件。
その奇妙な事件を語る上で、重要な意味あいを持つのが噂である。
『群から程なくした場所に位置する禁断の地。そこには人間の饅頭が隠されている』
日に々に暑さが増し、蝉の鳴き声が耳に障るようになると、毎年この様な噂が姿形を変えて何処からともなく流れだす。
一応、緘口令が敷かれて噂の抑制が試みられるもものの口に戸は立てられぬものであり、本格的に猛暑が続く頃になると、噂は疫病の様に群全体に蔓延してしまう。
出所も確証も定かでないこの噂を信じて姿を消すのは、決まって頭の悪い子ゆっくり共であり、その親達も後を追って姿を消してしまう。
最良で次善の防止策は、子ゆが禁断の地に向かわないように厳しく躾けてやること。それぐらいしかない。
尤も中には、いい大人の癖に、この馬鹿げた噂を信じて失踪する意地汚い連中もいたりするのだが。
さて、こうして失踪する者が現れる訳なのであるが、実は群を挙げての捜索自体は未だ嘗て行われたことが無い。
というのも、この禁断の地と呼ばれる場所、長に就任した直後にぱちゅりー自身が立ち入りを禁止した区域なのだ。
そこは、群から南東へ十分ほど跳ねれば辿り着ける開けた場所のことを指す。
夏でも涼しく、煩い蝉の音も聞こえない静謐な空気の漂う場所であるが、辺りには苔生した石の塊が転がっているだけで、他には目ぼしい物もない。
禁断の地などという仰々しい呼び名は、誰かが始めにそう呼んだものが、そのまま根付いてしまったものに過ぎない。
別段、危険な物が在る訳でもなく、立ち入って罰則が下る訳でもないのだが、禁断の地に赴いたという事実がある以上、被害者達は紛れもなく掟を破った罪ゆんである。
その事実が免罪符の様に立ちはだかり、群全体で捜索を行うという、ゆっくりできないことから皆を遠ざけていた。
好奇心旺盛なおちびちゃんなら仕方ないじゃないか。そういう偽善的な意見が出ることもあったが、ぱちゅりーは、その手の理屈が大嫌いだった。
もし好奇心で訪れた先が人間の畑や住居であった場合、おちびちゃんだからという理由では決して許されない。目玉を抉られ、舌を焼かれ、尻から頭へと串を通され晒し者。
その程度で済めば、存在しない諸手を上げて喜ぶべきだろう。最悪、愚か者の責は、群全体に及ぶ可能性すらあるのだ。
当然、子供には、そんなことが分からない。だからこそ、ルールを守ることの大切さを大人が責任を持って教えなくてはならない。
そういう厳格な想いがぱちゅりーにはあった。
しかし、ぱちゅりーの心情を裏切る様に、愚か者共は毎年後を絶たない。
ぱちゅりーからすると、当初、そちらの方が不思議でならなかった。
馬鹿が死に尽くしたことで事件も終わる。非道な理屈であるが、ぱちゅりーの考えでは、そうなるはずであった。先例がある以上、二年目が起こり得るはずなどないと。
それが既に、今年で四年目になる。
「まるで、みつばちさんのようね」
ぽつりと呟いた一言は、誰に宛てたものでもない。
ぱちゅりーは、時折山を訪れる人間と会話をすることがあった。
大きすぎるリスクを背負い込むことになるのだが、それを差し引いても人間の話は非常に興味深く、傾聴するに値するものであった。
流石に群を率いるようになってからは、自重するようになったが、それでも知人と会話することは、今も続けている。
その中でも特に面白い話をしてくれるのが、この山の持ち主を名乗る青年である。
彼の話す内容は、時に学術知識であったり、時に遥か遠方の英雄譚であったりと、まるで一貫性が無い。その上、彼独自の考察に満ち溢れた眉唾な知識も多い。
だからこそ面白く感じるのだろう。
考え生きることを半ば己のゆん生の意義と化しているぱちゅりーにとって、考えることこそが「ゆっくり」なのである。
その彼から聴いた話の中で、特にぱちゅりーの興味を引いたのが蜜蜂の群に関する話であった。
何でも、蜜蜂というのは、ある一定の比率で働き者と怠け者に別れるのだそうだ。
それは個体差に関係なく集団を形成すれば起こる作用であり、仮に働き者同士、怠け者同士だけを意図的に集めたとしても、何時の間にか元の比率へと戻ってしまう。
そして、そういった「集団に属することで起こり得る個々の変化」は、蜜蜂以外の集団でもメカニズムを違えて起こり得るものでもあると同時に、集団に何かしらの益徳をもたらすのだという。
つまり、毎年、一定の割合でルールを守らないゆっくりが生じるのは、極めて自然なことなのである。
では、それが群にもたらす利益とは何なのだろうか。
「ゆっがぁぁぁぁぁぁ!! ぶざげるな、ごのいぎおぐれのぐぞれいぱぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゆっぎぃぃぃぃぃぃ!! あんたこそだまりなさいよ!! いなかもののくそでいぶ!!」
「ふ、ふたりとも、おちつくんだぜ!!」
どうやら、ぱちゅりーが黙考している間に、議論は随分と白熱していたようだ。
議題は既に「れいむのリボンとありすのカチューシャではどちらが汚いか?」という心底どうでもいいものに姿を変えていた。
最初の威勢は何処へいったのか、まりさは徒々おろおろするだけである。
そのヘタれた色惚けを間に挟んで二匹は睨み合う。今にも相手に噛み付きそうな雰囲気だ。
このまま放置すれば、ぱちゅりーのおうちは、居住不可能な死地と化すだろう。主に、とばっちりで死ぬことが予想される色惚けの死臭によって。
体の弱いぱちゅりーにとって、野宿など命に関わる。
一先ず適当に煽てて、湿地帯に生息している雑魚のように静かにさせなければ。
そう思い、喧しい二匹に話しかけようとしたときである。ぱちゅりーは、ここにいるはずのないモノを見たような気がした。
「にゃっへー、そとは、あっちーんだよー!! まるで、らんしゃまのまむまむのなかなんだよー!!」
茶色の髪から黒毛の猫耳を生やしたゆっくりがぼやく。
その言葉通り外は猛烈な暑さのようだ。そいつは、普段被っている緑色の帽子を背部から生えた二本の尻尾で掴み、団扇代わりにして涼んでいた。
「へい、しすたー!! そういう、ふぁんきーなせくしゃるじょーくは、ようむのせんばいとっきょなんだみょん!!」
それに対して、おかっぱの白髪を黒いカチューシャでまとめたゆっくりがツッコミを入れる。
その目に何処となく生気が宿っていないように感じるのは、暑くて死にかけているからでなく、彼女が既に半分ほど死んでいるからなのかもしれない。
じゃあ特許料払うよー!! ハハハーッ!! と笑い合いながら防空壕の入り口から堂々と入って来たちぇんとようむは、揉めている一同の横を素通りし、更にぱちゅりーの目の前を通過すると、奥の桶に汲んであった水を勝手に飲みはじめた。
無論、ぱちゅりーが自身の弱い体に鞭打って汲んできた水である。
「ちょっと、どうしてこのいなかものたちがここにいるのよ!!」
「れいむに、あまあまをもってきたんだね!! いますぐださないと、せいっさいするよ!!」
思いがけない状況に静止してしまったぱちゅりーを置いて、饅頭二匹が吼えた。
どうもこの連中は、ちぇんとようむが会議に参加出来ないことを、自分達よりも地位が低いからだと考えている節がある。
そうやって普段見下している輩に、こうも清々しく無視されたのが相当腹に据えかねたのだろう。
怒りで膨れる体と同様に膨れ上がった憎悪の矛先は、招かれざる闖入者の方へ向いていた。
一方で謂れのない怒りを差し向けられている二匹はというと、至って自分歩調だ。
口の周りの水を舐め取ると、頬をクッと吊り上げて笑っている。からかい甲斐のある玩具を見つけたと言わんばかりの笑顔である。
「そんなにはっするしてどうしたみょん、ふぁんきーしっとども!? おかおさんがまるで、でいぶのしりのあなみたいだみょん!!」
「んー? そういわれると、たしかにおまえら、でいぶのしりのあなみたいなんだよー!! あなしまいなんだねー、わかるよー!!」
散々な言い様であった。
れいむの尻の穴を比喩表現に用いて、尻の穴の保持者であるれいむ本体すら貶しているにも拘わらず、尻の穴自体は全く貶していない。
そのくせ喩えに用いられたことで、れいむの尻穴に対する印象が恐ろしく悪いものになっている。
まあ、実際、でいぶと呼ばれるほどのデカイ図体をしていれば、出す物も多く、相撲取りと同様に自分で尻が拭けないため不潔には違いないのだが。
「どぼじでそんなこというのーーー!! あじずのとかいはなおかおは、でいぶのあにゃるみたいにきたなくないわよーーー!!」
「どぼじでそんなこというのぉぉぉ!! でいぶのせかいをみりょうするうっすらぴんくいろのあにゃるさんがきたないわけないでしょぉぉぉぉぉ!!」
れいむの気持ち悪い尻穴描写が皆の気持ちを一つにした。
あとついでに、憎悪の矛先が再びかち合った。
どうやら、れいむとありすは、ちぇんとようむの策略に嵌ってしまったようだ。
相手の集団の中から無作為に選んだ対象の身体的特徴を用いて罵倒することで、それが否定された瞬間に仲間割れが起きる。
頭の悪いゆっくりは目先の物にしか集中できない、という特徴を気持ち悪いくらい効果的に利用した煽り方と言えよう。
「えーっと、それよりふたりとも、なにかあったのかしら?」
また罵り合いが始まっては堪らないとばかりに、凍結から立ち直ったぱちゅりーが気だるげに割り込んだ。
会話の流れを断ち切ることが主な目的であったが、ちぇんとようむが来たことから、何事が起きたのか気になったのもまた事実であった。
「んー? べつにたいしたことじゃないんだよー!! だから、さきにかいぎさんをおわらせるといいんだよー!! それまで、ここでまってるんだよー!!」
瞳の中に星を煌かせたちぇんの回答であるが、どう考えても邪魔する気満々である。
水を飲み終わった後に被り直した帽子の横からは、ヒクヒクとしきりに動く猫耳が窺える。その一方で尻尾がピクリとも動いていない。
猫の習性がちぇんにも当て嵌まることを前提に鑑みると、これは非常にwktkしている時の仕草である。
「そうなのぜ? それじゃ……」
「いいえ、さきにおしえてちょうだい!! わざわざここまできたのだから、むれになにかあったのでしょう!?」
一見すると謙虚なちぇんの申し出を、何時の間にか修羅場から脱出していたまりさが何気なく受理しようとした瞬間、何時になくアクティブなぱちゅりーが遮った。
もし、ダブルチョコを交えて会議が続行されれば、混乱の収束が極めて難しくなることなど目に見えていた。
「そー? わかったよー」と言って引き下がったちぇんの横から、ようむが一跳ね進み出てきた。
先程から交互に話しているのは、外を走り回って疲れたからなのだろうか。
疲れているなら無意味に他ゆんを煽りまくるのを止めれば良いのに、とぱちゅりーが厭きれていると、ようむがとんでもないことを口走りはじめた。
「それじゃあ、たいしたことじゃないけど、いちおうほうこくするみょん!! さっきまで、けいびにかこつけて、ゆゆさまのなまめかしいぷっしーをおっかけまわしてたときだみょん!! そこであすほーるみたいなかおしてるれいむの、ふぁっきんどーたーが きんだんのちのほうにはってくのをみたんだみょん!!」
無駄に外来語が多く聞き取り辛い内容であったが、皆にはしっかり伝わった。
前半は前半で問題だらけであったが、それ以上に後半が大問題であった。主にれいむにとって。
「どぼいうごどなのぉぉぉぉぉー!! それめちゃめちゃだいじなことでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「にゃ~ん? てめーのあすほーるからうまれた まてりあるえっくすのひとつやふたつ、きえてなくなったほうがみんなのためなんだねー!! わかれよー!!」
「おっ、さすがそーるしすたー、いいこといったみょん!! あとで、ゆゆさまのうしろのしょじょあなをふぁっくしてもいいみょん!!」
一応追記しておくが、ようむの言う「ゆゆさま」とは、別段ようむの嫁でも何でもない。
時折、ぱちゅりーの群に襲来し、その度にようむのセクハラ被害に遭い、毎回泣きながら逃げ去っていく捕食種のことである。
それを追い回していたということは、ある意味、防衛の仕事をしていたとも言える。
れいむのおちびちゃんについては、全力でスルーした可能性が極めて高いが。
「どぼじでぇぇぇぇぇぇー!! どぼじで、でいぶばかりがごんなめにぃぃぃぃぃぃぃ!!」
目から涙と言わず、全身から希薄砂糖水を噴出して泣き喚くれいむであるが、その他の幹部の反応は淡白なものであった。
「ふーん、お可哀想に、プギャー」程度の感慨しか湧かなかったぱちゅりーは、騒音を発する汚物を、自機の通常ショットで容赦なくミンチにされる毛玉でも見ている様な目で眺めていた。
ありすも凡そぱちゅりーと同じ様な表情であり、消去法的に考えて最も慈愛に溢れているのが、再びオロオロしているだけのまりさという奇怪な構図を作り出している。
ちぇんとようむに至っては「そんなことしたら、ちぇんがあたまからくわれて、ほんもののふぁんきーしっとになっちまうんだよー!!」「まさに、そびえたつくそだみょん!!」と未だにコントを続けている始末だ。
一応、この場にいる全員が、れいむのおちびちゃんとは面識があった。
今年の春に行われた新旧幹部の顔合わせに、れいむが自信満々で連れてきた二匹の子れいむである。
れいむは殊更に「可愛い」を連呼していたが、ぱちゅりーの竜胆色の双眸には、動物の血を吸ってパンパンに膨らんだ蛭の様な生き物が映っていた。
そして軟体動物共は、糞礼儀知らずな糞餓鬼でもあった。
その憎たらしさといったら、比較的自制心の強いぱちゅりーですら、全力ビンタを放つ寸前まで追い込まれたほどである。
初対面の一同に対して「きゃわいいれいみゅしゃまの、うんうんしゃんをちゃべてみょいいよ!!」などを始めとした数々の暴言を吐き続けたが、遅れてやって来たチョコ組の凄絶な言葉の暴力に敵うことはなかった。子供にも容赦はしないらしい。
マシンガンの様な「SHIT(糞)!!」コールを背に受けて、親れいむ引率のもと去って行く汚饅頭共は、さながら箕作鮫(みつくりざめ)の様に醜悪な表情をしていた。
その後、汚物共は、群の掟で義務教育制度を定めているにも関わらず『がっこう』に来なかったので、教師役を兼任しているぱちゅりーは、死んだものとばかり思って記憶から隔離していたのだが、どうやらしぶとく生き残っていたようだ。
「あんないなかものなおちびちゃんでも、いなくなればかなしいのかしら?」
ぼそりとありすが呟いたが、それは間違いだろう。
「でいぶ」という種は、未だゆっくり同士からは「れいむ」と呼称されているものの、人間の分類上では遺伝子からしてれいむとは別種の生き物である。
そして、頭しかないゆっくりにとって遺伝子が違う、引いては体組織の組成が違うということは、精神構造にすら巨大な違いを生むことになる。
でいぶにとって重要なのは、自身が「ひげきのひろいん(笑)」であり「しんぐるまざー(笑)」であることだ。
これは既にステイタス的な物と一線を隔した、生存本能に由来した衝動と言ってもいい。
「他ゆんからの同情を買えれば、生き延びることが出来る。ついでに子孫も増やせる」
人間に告示した情緒を持つが故に、道徳観念を理解出来ない故に、れいむの大多数が無能であるが故に生じた奇特な進化であった。
今れいむが泣き喚いているのも、生存本能の一部であるしんぐるまざー(笑)の領分が危機に晒されているためである。そこに子共の安否を気遣う親心などは、一切挟まれていない。
ゆっくりや人間の感性からしてゲスとしか映らない態度であるが、れいむ自身に悪気はないのである。
尤も、悪気がないだけで、その性質が現在進行形で皆に迷惑をかけていることに変わりなかった。
先程から嘆き悲嘆にくれているれいむであるが、自分から何かをする気配はない。
これは待っているのだ。誰かが優しくしてくれるのを。
鬱陶しい事この上ない状況なのだが、寧ろぱちゅりーには、不毛な会議をさっさと終わらせるチャンスであった。
状況に大きな進展があったのは、それから数分後のことである。
一同は、件の失踪現場にあんよを運ぶこととなった。
ぱちゅりーが行ったのは、特に難しいことでもなく、れいむに対して「みんなでおちびちゃんをさがしにいきましょう」と提案しただけである。
「どうしてかわいいれいむが、そんなめんどうなことしなくちゃいけないの!? れいむのかわいいおちびちゃんのためなんだよ!! おまえらが、みをけずってふんこつさいしんしてくればいいでしょぉぉぉぉぉ!!」
常のれいむであれば、そう答えたのだろう。
しかし、可愛いおちびちゃん(笑)がいなくなったことで思考停止していたれいむは、中枢餡からの信号が途絶えた入力待ちの空白状態であった。
こういうときは、人間もゆっくりも大して変わらない反応をする。
従ってしまうのだ。自身に向けられた好意的な言葉、甘言に。
最善でも最良でもないが、とりあえず自分の害にならないから従う。
ギャンブルや詐欺で痛い目に遭う典型的なパターンである。
そして、この提案は、幹部一同を失踪現場に連れてくるためにも一役買っていた。
ぱちゅりー自身は、禁断の地に群の一員を連れてくることを嫌っていたのだが、実際に現場に赴いて調査をしない限り、皆納得しないだろうとも思っていた。
昨年と同じように。
しかし、その現地調査について触れる幹部はいなかった。
皆尻込みしていたのだ。恐らく、会議の流れで調査を提案しても無意味だったに違いない。
そこで、ぱちゅりーは、皆の心を空白にするためのタイミングを見計らっていた。
訪れた好機自体は、意図しない闖入者のために無為に終わったのだが、結果として彼女らは、より都合の良い状況を作り出してくれた。
れいむが思考放棄状態に陥っていたとき、まりさとありすの思考力も、それぞれ異なる理由で確実に低下していたのだ。
結果として昼前におうちを出て、太陽が頂点を過ぎた頃に禁断の地に到着した。
ジージーみんみんと気が滅入る音の奔流に揉まれ、容赦なく照りつける夏の日差しの中を汗だくになって進んだ先に、その場所はあった。
れいむ種のけっかいさんを強固にしたような物で囲われていたが、一箇所だけ結界の張られていない部分が存在している。
そこが入り口なのだろう。
「ここでは、しずかにね」
不意にぱちゅりーの発した言葉に皆一様に首を傾げたが、れいむが喧しく急かすため、心に留める程度にして境界を跨いだ。
ボロボロに腐敗した薄い木製の板が立て掛けられている場所を境にして、世界が切り替わるかのように音と熱が遮断される。
意外なことに、そのことを一番初めに察知したのは、ぱちゅりーでなかった。
「ゆひー、ゆひー、つかれたよ!! なんでみんな、ぐずぐずしてるの!? さっさとおちびちゃんをさがしてね!! はやくしないと、ひがくれるよ!!」
移動に時間が掛ったのは、体力のないぱちゅりーが足をひっぱたのも一要因であるが、それ以上に遅れの原因を作ったのは、運動不足のれいむである。
煩いからという理由でちぇんとようむは置いて来られたのだが、もし着いて来ていれば非難轟々であったに違いない。
都合の良い事を言うれいむに皆げんなりとしていたが、疲労困憊で突っ込む気にもなれなかった。
地面からの放射熱が最大になる時間とは、つまり一日の内で最も気温の上がる時間帯である。
熱で生クリームが軟化してしまい、軽い熱射病の様相を呈したぱちゅりーは、木陰に身を潜めて木に背中を預けた。
その位置からは、ここら一体が見渡せるようだ。
我先にと禁断の地の奥へ進み、早々に息を切らしたれいむの姿もよく見える。
「ゆゆ!! ここは、とってもすずしいよ!! そうだよ、ここでおうちせんげんすれば、きんだんのちも、にんげんのおまんじゅうもれいむのものだよ!!」
分かりきっていたことではあるが、れいむの中でおちびちゃんとは、既に二の次の存在と化していた。
そのくせ、噂の「人間の饅頭」については、意地汚く憶えていたようだ。彼女が今までここに来なかったのは、恐怖と体重のためだったのだろう。
そんなれいむを気にかける存在は、この場にいなかった。
まりさは、ぱちゅりーを介抱しようとして冷たくあしらわれ、ありすは、その様子を歯噛みしながら見つめていた。
そのために、皆その瞬間を見逃してしまった。
「きょうから、ここをれいむのゆっくりぷれい――」
ぱちゅりーを除いて。
蝉の音すら響かない薄ら寒い大気に、不気味な静寂が混じる。
突如として途切れたおうち宣言に不穏な空気を感じ、まりさとありすが振り返った先に、れいむの姿は無かった。
否、よく見ると「姿」だけは、残っている。
れいむがいたであろう位置には、不自然な黒い染みがボツリと存在感を醸し出していた。
静寂な空気の中に、聞こえない筈の虫の音が響いた。
「れ、れいむ……? なんなの、あ、ああ、そうなのね、みんなをおどろかすつもりなんでしょう!! そういう、いなかものなまねは……」
「ありす、うるさいから、しずかにしてちょうだい」
突如として生じた不可思議に動揺するありすは、れいむのいなくなった事態を自身の納得出来る理由で解釈しようとしていた。
それを途中で遮ったぱちゅりーの声音には、熱中症による若干の揺れが窺えるものの、恐怖も動揺も混じってはいなかった。
それがありすを意味もなく苛々させる。
懇意な間柄ではなかったが、それでも仲間の一人であったれいむが消え失せたのだ。
普段からぱちゅりーを敵視していたありすの目に、その冷然とした態度は、自分を馬鹿にでもしているかの様に映っていた。
「うるさいですって!? あなたなにをいって……」
「どまんじゅう」
再びありすの声を遮ったのは、ゆっくりにとって屈辱的な言葉だった。
土饅頭、言葉の指す本来の意味を知るゆっくりは殆ど存在しないが、親からの記憶継承により子ゆっくりへ受け継がれる記憶において、それは人間がゆっくりを罵る際に使用する言葉であった。
人間曰く、ゆっくりとは饅頭である。
餡子やクリームを小麦粉が主成分となる皮で包んだ存在、饅頭。それも土の上を跳ねる汚い饅頭。
即ち土饅頭。
馬鹿らしいことだ、とありすは考えていた。
ご飯をむーしゃむーしゃして、とかいはなこーでぃねーとで飾ったお家に暮らし、いつか素敵なまりさと結ばれるべき自分は、命を持った存在である。命を持たない饅頭である筈がないと。
それを同族であるぱちゅりーは、否定するというのか。
体内のカスタードが怒りで熱を帯び、流動性の高い攻撃用のクリームがありすを満たしていく。
あんよに力を籠め、何時に無く腹立たしい引篭もり女を亡き者にせんと、ありすが構えた。
その一方で、それを無視するように、ぱちゅりーは話を続ける。
まりさに単純な驚愕を、ありすに激しい怒り、そして微かに薄暗い歓喜を覚えさせる内容を。
「にんげんの、おはかのことよ。じめんにうめたにんげんのなきがらのうえに、まあるくつちをのせるの。それが、おまんじゅうにみえるから、つちのまんじゅう、つまり、どまんじゅうとよぶのよ」
「このあたりにも、むかしあったらしいわね」とも、ぱちゅりーは言った。
ぱちゅりーの言葉をより正確に補足するなら、その墳墓形式は土葬の一形態であるとでも言えば良いのだろうか。
地面に埋もれた死体や棺桶が腐敗し、体積が減るに連れて饅頭部分は消えて行き、最後は平らになってしまう。
その上に石を置いて墓石とするのが一般的な様式である。
単に死体が腐っていくこの過程であるが、見方を変えることで、また違った解釈が出来る。
「どまんじゅうがたいらになっていくのは、じめんが、ひとでできたおまんじゅうをたべてるみたいにおもえない?」
影の落ちたぱちゅりーの表情を窺うことは出来ない。
この時、ありすの目には、目の前の紫もやしが酷く悍ましい物に映っていた。
噂に出てきた人間のお饅頭、これは疑うべくもなく土饅頭のことなのだろう。
それに気付けたのは、ありすが聡かったからではない。
常にぱちゅりーに対して悪感情を抱いていたが故に、話の内容を全て否定的に捉えたのだ。
それが偶々、真実に突き当たっていた。
「まちなさいよ……。じゃあ、なんで、それをみんなにおしえなかったの!?」
最早、訊くまでもないことだろう。
だが、ありすには、訊かずにいられなかった。
それは、同じ群の仲間を信じたかったからでも、義憤に駆られたからでもない。
「だって、それをしったら、さすがにばかなゆっくりでも、ここまで、しににくることがなくなるじゃない」
この邪魔者を消し去る為の、正当な理由を欲したからに他ならない。
ありすの顔は、唇だけを大きく吊り上げた歪な笑顔で固まっていた。
「ああ、それと、きをつけなさい」と、未だ何事か話続けるぱちゅりーの言葉は、既にありすへ届かない。
一度へこませた体に、最大限の反動をつけて跳躍する。
数跳ね分の距離を行く間、一跳ね一跳ね丁寧に殺意を籠める様に疾駆して、最後の一歩を踏み出す。
「ゆふ、ゆふ、ゆふほほほほほほっ!! し、ししししぃしになさい!! こんの、いぃなかも――」
「ゆっくりって『にんげんみたいなおまんじゅう』でしょう?」
自身の身に何が起こったのか、ありすには理解出来なかった。
それは、本当に一瞬の出来事であった。
ただ、事の成り行きを呆然と見ていたまりさには、そこに発生した奇怪を、この世のモノから隔離された異形を知覚出来てしまった。
まりさの語彙で以って表現するなら、赤茶色の蔦とでも言えばいいのだろうか。
おちびちゃんが実る蔦の持つ、安心感とでも言うべきものが一切欠如した気持ちの悪い形状をしていた。
葉が一切生えていない蔦は、ヌラヌラとした光沢を放つ油状の液体で湿っており、穴の開いた灰色の半球に表面の所々が覆われていた。
その半球は、まりさのおうちから程近くにある桜の木に付着している物と酷似している。
今は亡きまりさの母は、それを蛾の卵だと教えてくれた。
その生理的な嫌悪感を誘う物体は、ぱちゅりーに飛び掛ろうとしていたありすの足元から確かに生えてきた。
瞬きを一回していれば見逃してしまっただろう。
鈍重なゆっくりの動体視力では本来捉えきれない筈の光陰は、まりさの心身を底から揺さ振り、その記憶の中へと鮮明に焼きついた。
地面の中にありすを引きずり込む光景と共に。
一方、ぱちゅりーは、まりさが蔦であると認識したソレを、また別の物として捉えていた。
舌である、と。
赤褐色の錆付いた金属質な粘膜に覆われた舌。
表面を覆う口内炎の様な出来物からは、膿の様な汚泥が湧き出し、醜悪な印象に拍車を掛けていた。
ソレは、地面に走った一本の『口』から飛び出すと、一瞬でありすに絡み付き、ぺろりと一口で平らげてしまった。
蝉の声は、やはり聞こえない。
だが、無い耳を澄ませば、それは確かに聞こえてくる。地面に接したあんよの底を震わせて。
地に穿たれた隙間から這い出すように、底の見えない暗闇から細く々く響くように。
ユンヤー!! ナンナノココハー!!
トケルー!! カラダガ、トケルー!!
ヤメテー!! マリサハ、タベモノジャナイー!! ムーシャムーシャジナイデー!!
ユピー!! ユックリサセテー!!
ユンヤー!! レイミュノキャワイイオキャオギャー!!
ムッキュー!! タチュケテママー!!
ユッガー!! グザイー!!
ドボジデー!! ドボジデー!!
ブザゲルナー!! マジザザマニゴンナゴ……ギッギッユッギー!!
パピプペポパピプペポパピプペポー!!
ありすだった染みを前に、どれほどの時間が経過した後だろうか。
暫しの間漂っていた沈黙を破ったのは、ぱちゅりーであった。
「しょうじき、いがいだったわ。あなたが、いちばんさいしょに、わたしをころそうとするんじゃないかとおもっていたのに……」
そう言われて、ビクリと震えたまりさの表情は、ぱちゅりーの想像と著しく乖離していた。
ぱちゅりーを亡き者にしようという野心も、目の当たりにした異形に対する恐怖も窺えなかった。
まりさは、泣いていた。
「だっで……、だっで、ばぢゅりーは、ばぢゅりーは、びんなのために、いづも……、いづも」
濃い蜂蜜色の双眸から、ぼろぼろと飽和砂糖水の涙を溢すまりさは、まるで子供のようであった。
いや、実際に子共なのだ。
これで何度目かになるが、まりさはアホである。
だが、愚かではなかった。
ぱちゅりーの学校に通うまりさは、いつもぱちゅりーを見ていた。
厳しくも優しく見守ってくれる姿を、弱い体でありながら誰からの援助も受けずに生きる姿を、そして誰よりも群のことを考え行動する姿を。
多くのゆっくりに誤解を受けながらも、皆に厳しく、そして何よりも自身に対して厳格に生きる姿は、誰のゆん生よりも貴く正しい。まりさは、そう感じた。
幹部になろうと決意した発端も、恩師であるぱちゅりーを支えたいという純粋な想いに過ぎない。
ただ、まりさは、自分が出来の悪い生徒であることを自覚していた。
そこで、実際に幹部として働くゆっくりを模倣することにしたのだ。
もし、ぱちゅりーが実のある幹部制を実施していれば、この試みは幾らかの障害を経た末に成功したのだろう。
しかし、残念なことにぱちゅりーの幹部制は、先に記した様な張りぼて的な代物であった。
そして、不幸なことにまりさが参考にしたのは、彼女と同様にアホであり、それに加えて愚かでもあった。
今、ぱちゅりーの目の前には、母親に見捨てられた子犬の様に泣きじゃくるまりさがいる。
愚か者の鍍金が剥がれたまりさを暫くの間マジマジと観察していたぱちゅりーは、フッと溜息を吐くと、身を預けていた木から離れ踵を返した。
十分に休息をとった歩みに、熱射病の残滓はない。
――ああ、失望された。
まりさは、悲嘆に暮れた。
しかし、絶望はなかった。
ぱちゅりーが自分を置き去りにして蔦の餌食にする心算ならば、それが群の為になることなのだろう。
そう思えば、誇らしくもあった。
「うっとうしくなくのをやめたら、なるべくしずかに、ついてきなさい。あれは、じめんのしたいがいは、みえないものらしいわ」
それから程なくして、生物の気配が消えた。
打ち捨てられた古い墓所は、これから先も気味の悪い静寂を保ち続ける。
墓場に広がる染みは、決して途絶えることはないだろう。
基本的に、ゆっくりは怠惰でスッとろく、そして、何よりも頭が悪いからだ。
時を経て土饅頭が平地になってしまうように、楽しかったことも、辛かったことも忘れてしまう。
故に「集団」は、繰り返すことで記憶を繋げる。
その巨大な力の前に個々の意思が挟まれる余地などない。
何故なら、ゆっくりは生きているからだ。
この世に満ち溢れる大凡の物がそうであるように、生きる事に力が宿る。
醜い芋虫が美しい蝶へ変態する様に、長大な川の流れが巨岩を削り取る様に、紙面の中で文字が躍り世界を形作る様に。
饅頭ですら少女の夢を見る。
なら、星が饅頭を食らうことに、何の不都合があるというのだろうか。
地球さんだって生きてるんだよ。
終わり
以下、あとがきという名の愚痴
さて、今回の話ですが、最後まで読んで下さった読者様方には、きっとバレてしまっているでしょう。正直モチベーション続かんかった。サーセン。
病院で某漫画を読んで「そうかお星様も生きていたのか!!」ってなって、10kb程度の小ネタにしようと思っていたら……。
いつにも増して厨二病がひでーやー。ハハ、ワロス。
あ、それと、今回の話の主題を根底から覆すようで恐縮なのですが、僕自身、ゆっくりから「いきてるんだよ!!」とか言われたら全力で否定しますよ。つうか、ゆっくり以外の生き物から言われても否定するよ。こんな感じで。
この世の中に、自分以外の生き物が生きてる、なんて戯言を本気で信じてる奴なんざいるわけねーよ!!
いえ、勿論理屈では「生きてるんだよ!!」で正しいと思います。ただ、周りの生物も生きていると感覚で理解したら、もう僕は、ご飯も食べられないし、他人とおしゃべりもできない、こうやってSSさんを勝手に生えてこさせることも出来ないです。
長々と、あとがき書いてさーせんwww
では、また機会があれば、お会いしましょう。さようなら。
一見すると三つ有るように見える不思議な過去作
anko2899 友達がいた‐前編
anko2900 友達がいた‐後編
anko2916 それは酷く臭う