ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1656 クズとゲス
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ankoss
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注意書きです。
このSSは以前張ったものですが、不具合がありまして、一度削除したものを再び張っています。
色々と分からない事ばかりで申し訳ありませんでした。
1.駄文です。話のテンポが遅くイライラしてしまうかもしれません。
2.虐待鬼威惨は出ません。というか、人間が出ません。
3.希少種優遇に近いです。
4.他の作者の方々の作品と似ている可能性があります。
5.ハッピーエンドとは言い難いかもしれません。
それでもOKだよと言う方のみどうぞ。
むかしむかしある山に、たくさんのゆっくり達が住んでおりました。
その山は人間や野生動物が入り込む事は滅多にありませんでした。
ですので天災や事故、病気以外でゆっくりが死ぬ要因がほとんど無かったのです。
そしてその山には長がドスまりさの群れがあり、ドスが捕食種ゆっくりの襲撃から守ってくれるのです。
群れの近くにはゆっくりが溺れにくい浅瀬の小川や、木の実や果物が生っている木が沢山生えていたので、ゆっくり達は食糧や飲み水に困りませんでした。
なかなか平和的な山の中で、ゆっくり達はとてもゆっくりしておりました。
……一部のゆっくりを除いて。
これは、『クズ』と呼ばれたゆっくりと、『ゲス』と呼ばれたゆっくりの物語です。
「クズとゲス」
作者:ぺけぽん
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Side A 「めーりん」
「おい、クズめーりん!いたいめをみたくなかったらそのむしさんをまりさたちによこすんだぜ!」
「ゆぷぷ、まりさはつよいんだよ!さっさとれいむたちにそのむしさんをよこしてね!のろまはせいっさいっするよ!」
「クジュはちねぇ!」
「じゃ、じゃおぅ……」
めーりんは今、とてもゆっくりできていませんでした。
何故なら、いつも他のゆっくり達に虐められたり餌を横取りされるからです。
めーりん種は「じゃお」しか喋る事ができず、他のゆっくり達からは「ゆっくりできない」と見られ、迫害を受けるのです。
ですので自然とめーりん種の個体数は減っていき、今では希少種扱いされています。
現に、このめーりんもゆっくり親子から食糧を寄こすよう脅されている最中です。
このゆっくり親子は先に述べた群れに所属していました。
ですので本当ならば近くに餌も水もあるのでわざわざめーりんから餌を奪う必要は無いのですが……。
「そのむしさんはまりさたちがさきにみつけたんだぜ!よこどりはゆるさないんだぜ!」
「はやくしてね!そのむしさんはクズにはもったいないよ!」
「クジュはちねぇ!」
当然ゆっくり親子達が言っているのは単なる言いがかりで、虫はめーりんが先に見つけ、後からゆっくり親子がやって来たのです。
ゆっくり親子は別に虫を食べなくても、もっとおいしい木の実があるので、スルーしても良かったのです。
相手が『クズめーりん』でなければ。
つまり、要はゆっくり親子はめーりんに適当な難癖を付けてめーりんを虐めているだけなのです。
相手は『クズ』。だから何をしても許される。ゆっくり親子はそう考えていました。
「じゃお……」
他のゆっくり達から迫害を受けているめーりん種ですが、決して馬鹿では無く、むしろ強く賢い種にあるのです。
自称『むれでいちばん』とほざくまりさ種よりも頑丈な体を持ち、ちょっとやそっとでは死にません。
自称『もりのけんじゃ』とほざくぱちゅりー種よりも豊富な知識を持ち、生きる上でその知識を役立たせます。
少し本気を出せば、れいむやまりさ等なら軽く撃退できるのですが、めーりんはそれができませんでした。
一つ、めーりんは優しい性格だったから。たとえ虐められているとしても、誰かを傷つけるような事をするのが嫌なのです。
一つ、めーりんは臆病でもあったから。優しい性格ゆえに争いごとが苦手で、どうしても相手に対して恐怖感を感じてしまうのです。
一つ、このゆっくり親子がドスの群れの一員だから。もし少しでも反撃すれば、めーりんは群れからの報復を受けてしまいます。
「じゃおぅ……」
めーりんには素直に虫を差し出す以外に選択肢はありませんでした。
「しゅしょうなこころがまえだね!でも……」
そう言いながら、いきなりまりさはめーりんに体当たりを仕掛けました。
「じゃおっ!?」
いきなりの不意打ちでめーりんは避ける事もできず、まりさの体当たりをそのまま受けてしまいました。
が、めーりんの皮は頑丈なので痛みはあまりありませんでした。
ですがとりあえずめーりんは痛がるふりをして、後ろに倒れました。
「クズがまりさたちのまえにあらわれたら、それだけでしけいなのぜ!でもまりささまはかんっだいっだからこれですましてやるのぜ!」
「まりさのなさけにかんしゃしてね!こんどはもんどうむようでせいっさいっするよ!」
「クジュはちねぇ!」
そう言い残し、やっとゆっくり親子は去って行きました。
「……じゃお」
ゆっくり親子の姿が見えなくなったのを確認し、めーりんは起き上がりました。
あの親子に食糧を取られてしまったため、新しい食糧を探さなくてはいけません。
めーりんは次の食糧を求め、跳ねて移動します。
付近には木の実や果実が生っている木が生えているのですが、めーりんはそれを食べる事はできません。
それらは全て群れのゆっくり達の食糧で、少しでも食べようものなら食糧泥棒としてたちまちリンチを受けてしまいます。
それ以前に、群れの近くに行く事自体が死亡フラグです。
なのでめーりんは他のゆっくりよりも食糧集めに必死でした。
「じゃお、じゃお……」
今、めーりんの頭の中では食糧探しで夢中で、先ほどの出来事は既に隅の方へ追いやられていました。
このような出来事は一度や二度では無いので、気持ちの切り替えは早くなっているのです。
幸い、めーりんはすぐに食べられそうな草を見つける事ができました。
「じゃおう……?」
ですが、めーりんはその草を見るのは初めてで、どんな味がするのかは分かりませんでした。
見た目は大丈夫そうなのですが、もし毒草だったとしたら。
少し辛かったり不味かったりする程度なら大丈夫なのですが、毒草なら話は別です。
めーりんはどうすれば良いか少し悩みました。
「じゃお!」
そうだ、分からない事は『あの子』に聞けば良い。めーりんはそう思いました。
そして、先程きた方向とは別の方向へと跳ねて行きました。
いつも虐められてばかりのめーりん。
いつも罵られてばかりのめーりん。
ですが、そんなめーりんにも、一つだけ〝ゆっくり〟できる事がありました。
それは、『あの子』に会う事です。
「じゃお、じゃお!」
めーりんの足取りは、自然と速くなっていました。
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Side B 「ゆうか」
「おい!このゲスゆうか!さっさとそこのおはなさんをわたすんだぜ!」
「おはなさんはかってにはえてくるんだよ!ばかなの!?しぬの!?」
「ゲチュはちねぇ!」
「………」
ゆうかは今、とてもゆっくりできていませんでした。
何故なら、いつも他のゆっくり達に自分が育てているお花畑を襲撃されているからです。
ゆうか種は花を愛でるゆっくりであり、自分で花を育てている事が多いです。
ですが、「花は勝手に生えてくる」と思い込んでいるゆっくり達からは、「花を一人占めにするゲス」と見なされています。
現に、このゆっくりもゆっくり親子から花を寄こすよう威嚇されている最中です。
このゆっくり親子は先に述べた群れに所属していました。
ですので本当ならば近くに餌も水もあるのでわざわざゆうかから花を奪う必要は無いのですが……。
「そのおはなさんのみつはとってもあまいのぜ!はやくよこすんだぜぇ!」
「おはなさんをひとりじめするなんて、なんてゲスだよ!はずかしくないの!?」
「ゲチュはちねぇ!」
ゆっくりにとって一番美味しいと感じるのは何よりも『甘い』食べ物です。
以前このゆっくり親子はその別の場所に生えていた花の蜜を舐めていた事があり、その花の事を知っていました。
ですので、それと同じ花を育てているゆうかの花畑に目を付けたのです。
もし逆らおうものなら、その『ゲス』を制裁して、花畑を奪ってしまおう。
相手は『ゲス』。だから何をしても許される。ゆっくり親子はそう考えていました。
「………」
他のゆっくり達から敵視されているゆうか種ですが、ゆうか自身の戦闘力・知識力はかなりのものです。
自称〝むれでいちばん〟とほざくまりさ種よりも素早く強い体当たりをかますことができ、大抵のゆっくりならそれを食らえばすぐに戦意喪失します。
自称〝もりのけんじゃ〟とほざくぱちゅりー種よりも野草や花の知識が豊富で、数多くの花の特徴を覚えています。
少し本気を出せば、れいむやまりさ等なら軽く瞬殺できるのですが、ゆうかはそれができませんでした。
一つ、ゆうかは花を何よりも大切にしているから。もしこの花畑で乱闘などすれば、花を踏みつぶしてしまうかもしれないからです。
一つ、今いるゆっくりが一匹では無いから。片方を殺してももう片方に逃げられてしまう可能性があるのです。
一つ、このゆっくり親子がドスの群れの一員だから。もし逃げた片方がドスの群れの全員にこの事を報告すれば、ドス自らの報復を受けてしまいます。
「……このおはなさんでしょ?……もっていきなさい」
ゆうかには素直に花を差し出す以外に選択肢はありませんでした。
「しゅしょうなこころがまえだね!でも……」
そう言いながら、いきなりまりさはゆうかに体当たりを仕掛けました。
「ッ……!」
いきなりの不意打ちでゆうかは避ける事もできず、まりさの体当たりをそのまま受けてしまいました。
が、ゆうかの皮は頑丈なので全く痛くありませんでした。
ですがとりあえずゆうかは痛がるふりをして、後ろに倒れました。
「ゲスがおはなさんをひとりじめすることは、きょっけいものなのぜ!でもまりささまはうつわがでかいから、これですましてやるのぜ!」
「まりさのじあいにかんしゃしてね!こんどはもんどうむようでせいっさいっするよ!」
「ゲシュはちねぇ!」
そう言い残し、やっとゆっくり親子は去って行きました。
「……ゲスはあなたたちでしょ……」
ゆっくり親子の姿が見えなくなったのを確認し、ゆうかは起き上がりました。
あの親子に花を取られてしまったため、また同じ花を育てなければいけません。
ゆうかはその花の種を土の中に埋め、葉っぱを元に作った容器に貯めこんでいた雨水を土にかけました。
付近にはとても澄んでいていて綺麗な水が流れている小川があるのですが、ゆうかはそれを使うことはできません。
それらは全て群れのゆっくり達の飲み水で、少しでも使おうものなら飲み水泥棒としてたちまちリンチを受けてしまいます。
それ以前に、群れの近くに行く事自体が死亡フラグです。
なのでゆうかは花にかける水の確保に苦労していました。
「このおはなさんには、あまりみずをかけないほうがいいわね……」
今、ゆうかの頭の中では花の水やりで夢中で、先ほどの出来事は既に隅の方へ追いやられていました。
このような出来事は一度や二度では無いので、気持ちの切り替えは早くなっているのです。
幸い、先程の花以外は取られなかったので、作業はすぐに終わりました。
「…すこしつかれたわね」
作業を終えたゆうかは少し休憩する事にしました。
ゆうかの花畑はなかなか広く、それをゆうかだけで管理しているのです。
ですので、ゆうかは体を動かす時間の方が増え、寝たり休んだりする時間の方が減っていました。
「……きょうはくるかしら。」
こんな日には、『あの子』と会って少し話がしたい。ゆうかはそう思いました。
いつも花を育てる事で忙しいゆうか。
いつも他のゆっくりに花を取られてばかりのゆうか。
ですが、そんなゆうかにも、一つだけ〝ゆっくり〟できる事がありました。
それは、『あの子』に会う事です。
「……ふふ、たのしみね」
ゆうかの表情は自然と笑顔になっていました。
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Side both 「めーりんとゆうか」
「じゃお、じゃおう!」
「あら、めーりん。きてくれたのね。」
ゆうかは口に草を咥えながら跳ねて自分の方へ向ってくるめーりんを快く歓迎しました。
本来ならゆうかは他のゆっくりに対し、花を狙う害獣という見方をしているのですが、このめーりんだけは違いました。
今から数カ月ほど前、餌を探していためーりんはこの花畑にやってきて、そこでゆうかと出会いました。
「……なに、おまえ。おまえもゆうかにころされたいの?」
「じゃ、じゃお……!?」
いきなり殺されたいかと見知らぬゆっくりに言われためーりんは、少し戸惑いました。
ゆうか自身も本来ならすぐに追い返すか殺すのですが、今までめーりん種を見た事がなかったので、少し警戒していました。
「こんかいだけみのがしてあげる。……はやくきえなさい」
「じゃおぅ……」
ゆうかの凄みに怯えためーりんはすぐに花畑から立ち去りました。
その夜、めーりんは昼間に出会ったゆっくりの事を考えていました。
あのゆっくりは、今まで出会ったどのゆっくりとも違っていました。
出会えばすぐに自分を『クズ』と罵り、虐める。
けれども。あのゆっくりは、そんな事はしなかった。
怖かったけど。もしかしたら。本当は、優しいゆっくりかもしれない。
めーりんはそんな事を考えながら眠りにつきました。
その夜、ゆうかは昼間に出会ったゆっくりの事を考えていました。
あのゆっくりは、今まで出会ったどのゆっくりとも違っていました。
出会えばすぐに自分を『ゲス』と見なし攻撃する。
けれども。あのゆっくりは、そんな事はしなかった。
あの時は殺すなんて言ってしまったけど、今思えば悪い事を言ってしまったかもしれない。
ゆうかはそんな事を考えながら眠りにつきました。
……また、会ってみたいな。
そう思いながら。
その後めーりんとゆうかは何度か花畑で会うようになりました。
最初はぎくしゃくしていましたが、何度か会う内に、少しずつ。少しずつですが、お互いに打ち解けてきました。
めーりんはゆうかの花を育て、愛でる事ができる優しさに。
ゆうかはめーりんの相手を思う、ただただ純粋な優しさに。
お互いの優しさに気付いた二匹は、さらに仲良くなっていったのです。
「じゃお、じゃおじゃお」
めーりんはゆうかに自分が咥えてきた草を見せました。
「どうしたの?めーりん。……あら、このくさ。ひさびさにみたわ」
「じゃおう?」
「このくさはね、よくかむとあまいしるがでるの。さいきんここらへんではみなかったの」
「じゃおう!」
「みずにひたすとさらにあまくなるのよ。ちょっとまっててね、いまみずにひたしてくるから」
「じゃーお!」
めーりんから草を渡されたゆうかは水が入った葉っぱの容器に草を入れ、少しの間浸しました。
「はい、どうぞ」
「じゃーお!」
ゆうかから草を受け取っためーりんはすぐに草を口の中にいれました。
するとめーりんはその草を飲み込まずに、歯で草を半分に切り、その半分を吐き出しました。
「どうしたの?……もしかして、あまりくちにあわなかった?」
「じゃーおぅ」
めーりんは体を横に振りました。
「だったらはやくたべなさいな。すいぶんがのこっているうちにたべたほうがいいわよ」
「じゃお、じゃお」
めーりんはその半分の草を口に咥え、ゆうかに差し出します。
「……もしかしてくれるの?」
「じゃおじゃーお」
めーりんは体を縦に振りました。
「……そんな、わるいわ。みつけたのはあなたなんだから」
「じゃお、じゃーおぅ」
それでもめーりんはニコニコしながらゆうかに草を差し出します。
「……ありがとう。それじゃあありがたくいただくわ」
「じゃお!」
めーりんから草を受け取ったゆうかは、口の中で良く噛んで草を食べました。
「とってもおいしわ。めーりんもおいしい?」
「じゃお!」
「ふふ……」
草を食べ終えた後、ゆうかは花の手入れをし、めーりんは花の近くに生えている雑草を抜いて手伝っていました。
お互いの作業を終えた後、ゆうかはめーりんに簡単な言葉を教えていました。
「いい?めーりん。それじゃいってみましょう。はい、『ゆっくり』」
「じゃ、じ、じゃぉ……」
「めーりんのばあいは『じゃ』を『じゅ』といってみたほうがいいわね」
「じ、じゅ……」
「がんばって、めーりん」
「じゅ…、じゅ…、……じゅおう!」
「……ふふ。もうすこしだったわね」
「じゃおぅ……」
「あせらなくてもいいわよ。すぐにできなくても、いつかできるようになるわ」
「じゃおう」
ゆうかは、めーりんが何を伝えたいのか、その全てを理解する事はできません。
ならばせめて、〝ゆっくり〟をいえるようになればどうだろうか。
「じゃお」以外にも言葉の種類が一つでも増えれば、きっとめーりんも喜ぶだろう。ゆうかはそう考えていました。
「きょうはここらへんにして、おひるねしましょうか」
「じゃお!」
めーりんとゆうかはお互いに寄り添い、すやすやと寝息を立てました。
「ZZZ……」
「すぅ……すや……」
花畑の中、お互いに微笑みながら眠っているその姿は、とてもゆっくりしたものでした。
「……ふぁぁ……。……あら、なんだかくらくなってきたわね」
先に目が覚めたゆうかは太陽の日が落ちて辺りが薄暗くなっている事に気づき、横でまだ寝ているめーりんを起こしました。
「おきて、おきて、めーりん」
「じゃおぅ……?」
未だ寝ぼけ眼のめーりんは、頭の中がぼーっとしたままです。
「もうくらくなっているわ。はやくかえらないとよるになるわ」
「じゃお!」
夜になると聞いて、めーりんは焦りました。夜になれば山は平和な世界から捕食種の世界へ変わります。
早く帰らないとれみりあやふらんといった捕食種に襲われてしまうかもしれないのです。
「じゃおじゃお!」
「それじゃあ、きえおつけてかえってね、めーりん」
ゆうかはめーりんの姿が見えなくなるまで見送っていました。
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Side A.Ⅱ 「めーりん」
「じゃおっ、じゃおっ……」
めーりんは暗い夜道を急いで跳ねていました。
早くお家に帰らないと。その事で頭が一杯でした。
もしれみりあやふらんに襲われてしまったらどうしよう。
めーりんはよりいっそう不安になってしまいました。
ですが、めーりんはその点の心配はしなくて良かったのです。
れみりあ種とふらん種は空を飛びながら獲物を襲う事が出来る捕食種です。
その二匹の主食はやはりゆっくり。他のゆっくりからは、ゆっくりキラーとして恐れられています。
ですが、その二匹が絶対に襲わないゆっくり種が存在します。
それは、さくや種とめーりん種です。
主にれみりあ種はさくや種を、ふらん種はめーりん種を優遇する傾向にあるのです。
何故その二種は襲われないのか。
現在ゆっくり研究学会でその理由を調査中ですが、未だ解明されていません。
「じゃおっ、じゃおっ……」
家路を急ぐめーりん。その焦りのためか、めーりんは転んでしまいました。
「じゃおっ!?」
幸い怪我はしませんでしたが、体が少し汚れました。ですが、そんな事を気にしている場合ではありません。
「じゃ、じゃおっ、じゃおっ……」
めーりんは再び跳ねようとしました。
その時です。
「めーりん!まって、めーりん!」
後ろから、花畑で別れたはずのゆうかの声が聞こえてきたのは。
後ろを振り返ると、ゆうかが息を切らしてこちらへ跳ねて来ます。
気のせいか、少し顔が青ざめているようでした。
やがて、ゆうかはめーりんに追い付きました。
「はぁ……、はぁ……」
どうしてゆうかは私の自分の事を追いかけてきたのだろう。何かあったのだろうか。
めーりんは少し不安になってきました。
そして、いくらか落ち着いたゆうかがめーりんにこう言いました。
「……あのね、……めーりん。……おねがいがあるの」
今まで一度も見た事がない、何かを誓ったような顔で。
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Side B.Ⅱ 「ゆうか」
「はぁっ、はぁっ……!」
ゆうかは暗い夜道を急いで跳ねていました。
……時間が無い。
少しの時間も本当に惜しい。
急がなければ。急がなければ。その事で頭が一杯でした。
ゆうかは、〝ある事〟をめーりんに協力してもらおうと、めーりんを追いかけていました。
もしめーりんに追い付く事ができなければどうしよう。
……そうなれば、自分一人でやるしかない。
自分一人だけで全て終わらせる事が出来るかどうかは分からない。
でも、自分だけでやれば、めーりんを巻き込まずに済む。ゆうかはそう考えていました。
ですが、頭で考えている事と実際の行動は180度違うものでした。
めーりんを巻き込みたくないはずなのに、私は今走っている。
……なんて『ゲス』なのだろう、私は。ゆうかはそう思っていました。
たった一人の理解者なのに。
たった一人の友達なのに。
私は。その友達を利用しようとしている。
……これでは、あのゆっくり達の言う〝ゲス〟と変わらないではないか。
ゆうかの頭の中では自己嫌悪の言葉が渦巻いています。
ですがゆうかは跳ねる事をやめて戻る事ができませんでした。
少し向こうで転んでいるめーりんを目にしてしまったから。
「めーりん!まって、めーりん!」
ゆうかはめーりんに向かって大声で叫びました。
ゆうかの声が聞こえたのか、めーりんはゆうかの方へ振り向きました。
今のゆうかの表情や雰囲気から何かを察したのか、めーりんは心配そうにゆうかを見ていました。
その表情を見て、さらにゆうかの胸の奥が痛みました。
「はぁ……、はぁ……」
めーりんに追い付いたゆうかは、どうすれば良いかどうか迷いました。
もし言えば。もしめーりんに頼めば、めーりんの性格から、私に協力してくれるだろう。
……そうだ。私は。
「……あのね、……めーりん。……おねがいがあるの」
彼女の優しい心を。裏切るのだ。
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Side Other 「ドスまりさ」
「ドス!もうすぐでおはなばたけにつくね!」
「ゆゆ~ん!はやくあまいみつをすいたいよぉ!」
「あみゃみゃ~!」
「……そうだね、ドスも楽しみだよ」
時刻は昼。森の中を大勢のゆっくり達が行進していました。
先頭には背丈3メートルを超えるドスまりさが。
その後ろからは大勢のゆっくり達が付いてきました。
そう、このゆっくり達はドスまりさが治める群れのゆっくりでした。
そのゆっくり達が向かっているのはゆうかのいる花畑。
何故ゆっくり達が花畑に向かっているのか。
それは昨晩の事でした。
「……なにをしにきたの?あなたたち」
「……ゆうか。私達は、その花をもらいに来たんだよ」
めーりんがゆうかの花畑から帰って数十分後、ドスまりさ率いるゆっくりの群れが花畑に押しかけて来たのです。
「ゆうか!おはなさんをひとりじめにするのはゆるさないんだぜ!だからまりさたちにもよこすんだぜ!」
「そうだよ!あまあまなみつはみんなでわけるべきだよ!」
「あみゃあみゃよこちぇ~!」
ドスまりさの後ろでギャーギャー騒いでいるのは、昼間ゆうかが花を渡したゆっくり親子でした。
恐らく、この親子が群れの皆にゆうかの花畑の事を吹き込んだのでしょう。
……あの時に殺していれば良かった。ゆうかはそう思いましたが、すでに後の祭りです。
「なかなかとかいはなおはなさんね!きっとさぞかしあまあまなのでしょうね!」
「ちーんぽ!びっくまらぺにす!」
「れいむはにんっしんっちゅうだよ!だからあまあまがひつようなんだよ!さっさとよこしてね!」
そのゆっくり親子につられ、他のゆっくり達も騒ぎ始めます。
「……あなたたちにはきのみやくだものがあるじゃないの。それに、ひるまにはなをわたしたじゃないの」
「なにいってるんだぜぇぇぇ!?あれだけでたりるはずがないんだぜぇぇぇぇ!!」
「そうだよ!ゆうかだけあまあまなおはなさんをひといじめなんてずるいよ!おはなさんはかってにはえてくるものなのに!」
「……」
内心ゆうかはかなり呆れていましたが、今更このゆっくり達に花の事を教えても理解できるとは思えないので、黙っていました。
「ゆうか、なにも全部取ろうって訳じゃないんだよ。半分くらいで良いんだ」
ゆうかとゆっくり達とのやり取りの中で一人黙っていたドスが口を開きます。
「「「「「「ドスぅぅぅぅ!?なにいってるのぉぉぉぉ!?」」」」」」
半分で良い。そのドスの信じられない発言に他のゆっくり達は猛反発です。
「……ドス。うしろのゆっくりたちがうるさいわ。……ふたりだけではなしをましょう」
「……分かったよ。ぱちゅりー、ちょっと皆を向こうへ連れて行って。ドスはゆうかと二人で話をしたいんだ」
「むきゅきゅ!?でも……」
「良いから。そうじゃないと話が全然進まないよ」
「むきゅう……わかったわ。みんな!さんぼうのぱちゅりーのいうとおりにしてね!」
他のゆっくり達は不平不満を言いましたが、全ては甘い花のため。しぶしぶ言う通りにしました。
「……だいぶしずかになったわね」
「そうだね、これで話も進めやすく「ドス」……何?」
「これが、あなたのいう『ゆっくりした』むれなの?」
「……そうだよ。私にはあの子達をゆっくりさせる義務があるんだ」
「そのけっかがこれ?たんなるあまやかしじゃないの。まるであかちゃんゆっくりだわ」
ゆうかが蔑むような眼でドスを見つめます。ドスはその視線から目をそらす事無くゆうかを見ていました。
「……しょうがないよ。これがゆっくりだもの。皆、自分がゆっくりできれば、それで良いって思ってるんだよ」
「そこまでわかってて、なんで「ゆうか」……」
「さっきも言った通り、私はドスだから。だからだよ。……例え、『ゲス』の群れでも」
「……かわったわね。……まりさ」
「……」
ゆうかはドスをドスでは無く『まりさ』と呼びました。『まりさ』は一瞬顔を曇らせましたが、そのまま黙っていました。
「ねぇ、まりさ。むかしのあなたはそんなこんじょうなしじゃなかったわ。じぶんにしょうじきで、だれよりもせいぎかんがあふれていたわ」
「……」
「あなたがドスになったとき、ほんとうにうれしかった」
「……」
「……まりさ。……あなたは、それでいいの?」
ゆうかの問い掛けに、『まりさ』は暫く黙ったままでしたが、やがて口を開きました。
「……良いんだよ。ドスは。これで。……幸せだよ」
「……」
「ドスぅぅぅ!!まだなのぉぉ!?はやくしてよぉぉぉ!!」
ゆうかと『まりさ』が話をしてまだ5分も経っていないのですが、我慢強くないゆっくりはそれだけで痺れを切らしていました。
「あぁ、ごめんね!もうすぐ終わるからね!」
「……」
「……ゆうか。明日の昼まで待つよ。それまでこの花畑から立ち退いていなかったら。……実力行使だよ」
「……わかったわ。あしたのひるね」
「「「「「「ドスぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」」」」」」
「皆!今終わったよ!明日の昼にまた来る事になったからね!」
「「「「「「なんでいまじゃないのぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」
「もう暗いよ!早く帰らないとれみりゃやふらんが大勢やって来るよ!」
「「「「「「れみりゃ(ふらん)こわいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」」」」」」
「分かった?それじゃあ今日は帰ろうね!」
『まりさ』は向こうに行こうとしました。
「……ばいばい。まりさ」
後ろからゆうかが声を掛けました。
「……」
ゆうかの言葉に対し、『まりさ』は何も言い返しませんでした。
「ドス~ついたよ~!!」
やがてドスの群れは花畑に到着しました。
花畑にはゆうかはいませんでした。
「……それじゃあ皆、食べて良いからね!」
「「「「「「ゆわ~い!!!!!!」」」」」」
ドスの許しが出たのでゆっくり達は我先にと花畑へ跳ねて行きました。
「ゆゆ~ん!おいしそうなはなだよぉ!」
その花は水滴が付いており、太陽の光に反射し、とても輝いていました。
他の花も同様で、まるでその花畑だけ別世界のような美しさを表現していました。
「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~!!」
「うっめ!これめっちゃうっめ!」
「ふ、ふん!まあまあそれなりじゃないの!」
「ちんぽっぽー!」
ゆうかが長い間愛で続けてきた花は、ものの数分でゆっくり達の腹の中に治まりました。
ドスまりさはその光景を無表情な顔で見つめるだけでした。
「げふぅ、おいしかったんだぜ!」
「ちあわちぇ~!」
ゆっくり達がいるそこはもはや花畑では無く、何一つない土地と化していました。
「おはなさん、つぎにれいむたちがくるまでにちゃんとはえていてね!」
「なかなかとかいはなあじだったわ!またたべてもいいわよ!」
ゆっくり達は口々に勝手な感想を並べていました。
「ゆげぇぇぇっ!?」
一匹のれいむが命の餡子を吐き出して絶命するまでは。
「れ、れいむ!?なんでグボェェッ!?」
「ぐ…ぐるじギュブゥゥッ!!」
「むきゅ……エレエレエレ……」
「ゆぴゃあぁぁ……」
「ぢんぼゴボボボ……」
「ぢにだぐだ……ゲボォッ!」
次々と餡子を吐き出し絶命していくゆっくり達。
数分前とは違い、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していました。
苦しむゆっくり達の表情は皆、訳が分からないといったものでした。
「ド…ドス……たすけ……ゴボッ……」
一匹のれいむがドスまりさに助けを求めました。
ですがドスまりさは少しも動こうとしません。
ドスまりさは、ただ一人だけその光景を無表情な顔で見つめるだけでした。
数分後、あの花を食べたゆっくり達は全て餡子を吐いてピクリとも動かなくなり、生きているゆっくりはドスだけになりました。
「……これで良かったのかなぁ……、私は。……まりさは。……ねぇ、ゆうかお姉ちゃん……」
ドス、いや、まりさは誰に言う訳でも無く、そう呟きました。
「……まりさは、もう、疲れたよ……」
そしてまりさは、一人山の奥深くへと消えて行きました。
その日を最後に、その山でまりさを見かけた者は、誰一人いませんでした。
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Side both.Ⅲ 「クズとゲス」
「……」
ゆうかは花畑からかなり離れた所で一人立ち止まっていました。
その表情は心底ゆっくりできていない、疲れ切った顔でした。
昨夜、ゆっくりの群れの訪問を受けたゆうかは、ゆっくり達が去った後にめーりんを追いかけました。
ゆうかがめーりんに頼んだ事。
それは、ゆっくり殺しの片棒を担ぐ事でした。
ゆうかは花や野草の知識に長けており、様々な花や草の特徴を熟知しています。
どの草がゆっくりにとっての猛毒を持っており、どれだけの量でゆっくりを死に至らしめるかという事も。
あの時ドスまりさがゆうかに実力行使をすると言った時点で、ゆうかは花畑の事を諦めていました。
いくら並大抵のゆっくりより強いからと言って、ゆっくり基準で反則級の実力を持つドスまりさに勝てるはずが無いのです。
ドスまりさ達が帰った後、ゆうかはすぐに花畑から立ち去る準備をしようとしました。
しかし、ゆうかの頭の中で一つの不安が浮かび上がりました。
……もし、またあのゆっくり達に見つかったら。
もし、花畑を作るのに適した新天地を見つける事ができたとしても。
またゆっくり達がやって来るかもしれない。
そして先程と同じように、花を寄こすよう脅される。
何度も、何度も、何度も。
……ゆっくりできない。
ゆうかはそう思いました。
……あいつらがいる限り、自分はゆっくりできない。……そんなのは、嫌だ。
そして、ゆうかは非道な計画を実行に移す事にしました。
自分の大切な花と親友を利用してこそ、初めて成功する計画を。
まず、大量の毒草をかき集め、それを全て水に数時間浸す。
その毒草を浸した水を、全ての花に浴びせる。
そうすれば花に水が染み渡り、毒花の完成です。
しかしここで問題が一つありました。
使用する毒草はその草特有の臭いを発しており、花にも同じ臭いが染み付いてしまうのです。
もし誰か一人でも花から発する異臭に気付いたら、その花を食べようとはせず、計画は失敗に終わります。
そこで、めーりんの協力が必要なのです。
めーりんが昼間持ってきた『甘い』草。あの草を水に浸して毒花に浴びせれば、甘い臭いと毒草の臭いが相殺されるのです。
花畑の付近にはその草は生えていません。
ですので、めーりんだけが、その草の生えている場所を知っているのです。
もちろん、本当の理由をめーりんに教える訳にはいきません。
めーりんの優しい性格上、その事に反対するでしょう。そうなれば、草の生えている場所を教えてもらえません。
だからゆうかは、めーりんにこう言いました。
「ひるまにたべたくさ、とてもおいしかったわ。だから、またたべたいから、あのくさのばしょをおしえてほしいの」
何も知らないめーりんは喜んでその草の場所を教えてくれました。
めーりんが本当に帰った事を確認すると、ゆうかは急いでその場所へ向かいました。
めーりんに教えてもらった場所には、昼間の草が大量に生えていました。
ゆうかはその草を口に含めるだけ含め、花畑へと戻りました。
……そして現在。
ゆうかの計画が完璧に遂行しているならば、今頃ゆっくり達はあの世へ逝っている事でしょう。
……ドスまりさを除いて。
しかし、ゆうかは多分、ドスまりさはゆうかに対して復讐をしないだろうと思っていました。
理由は、昨夜のドスまりさの表情でした。
その表情は、今の自分と同じものでした。
心底疲れ果てており、早く楽になりたい。そんな表情でした。
それよりもゆうかには、ドス以上に気掛かりな事があったのです。
それは、めーりんの事です。
何も知らないめーりんは今日もまた、あの花畑へと向かうでしょう。自分に会うために。
そこにはゆうかも花畑もなく、代わりにたくさんのゆっくりの死骸がある事でしょう。
めーりんは訳も分からずにうろたえるでしょう。
その原因の一つが、自分であるとも知らずに。
「……めーりん……」
めーりんが真実を知った時。めーりんは間違いなく、私を怨むだろう。
裏切られ、ゆっくり殺しの共犯者になってしまったのだから。
めーりんに問い詰められた場合、隠し通せるとは思えません。
だから、ゆうかはめーりんに何も告げずに去る事を選びました。
めーりんには、これからも何も知らずに生きてほしい。
身勝手な理由だという事は分かっていました。ですが、今のゆうかはめーりんに会わせる顔がありませんでした。
「……さよなら。めーりん。……ゆるしてくれとはいわないわ」
ゆうかが再び歩き出そうとした、その時です。
「じゃおう!!」
そこには、傷だらけで目元が真っ赤になっているめーりんがいました。
昨夜、めーりんがゆうかに甘い草の場所を教え、ゆうかと別れた後の事です。
「すご……ね……ドス……」
「あした……はな……」
「とて……たのし……ね……」
「じゃお……?」
帰り道の途中、少し離れた所からゆっくり達の声が聞こえてきました。
何故こんな時間に……?
その事が気になっためーりんは、危険と思いながらも声のした方へと慎重に跳ねて行きました。
そこには大勢のゆっくり達が騒がしく談笑をしていました。少し離れた所にはドスまりさがいました。
めーりんは茂みの中に隠れ、ゆっくり達の会話に耳を傾けました。
「ゆゆん!あしたがたのしみだよ!」
「ほんとだね!あしたになればおいしいおはなさんをいっぱいむ~しゃむ~しゃできるよ!」
「あのゆうかがまだいたら、こんどこそようしゃはしないよ!」
お花。ゆうか。ゆっくり達から発せられたそのキーワードを聞いためーりんは青ざめました。
「ドスにかかればゆうかなんていちころだよ!」
「そうだね!ドスにかてるはずがないもん!」
大変だ。ゆうかがドスまりさに殺される。
めーりんは急いで茂みから抜け出し、ゆうかがいる花畑の方向へ向かいました。
早く知らせなければ。ゆうかが危ない。
めーりんはゆうかの身を案ずる気持ちで一杯でした。
しばらくすると、ゆうかの花畑が見えてきました。
そして、花畑の中央にはゆうかがいました。
「じゃ……!?」
めーりんはゆうかに声をかけようとしましたが、それができませんでした。
ゆうかは一心不乱に何かを花にかけていました。何度も、何度も。
ゆうかの表情は、ただただ必死そのものでした。
……なにかが変だ。めーりんはそう思い、ゆうかの目に見えないように、木の陰に隠れました。
ゆうかの周りを良く見回すと、水に濡れた二種類の草が落ちていました。
一つは、先程の草。
そしてもう一つは……、めーりんが一度目にした事がある草でした。
以前、その草を見つけて食べようとした矢先に他のゆっくりが現れ、めーりんの目の前でその草を食べてしまいました。
途端にそのゆっくりは苦しみ出し、餡子を吐き出して永遠にゆっくりしてしまいました。
……食べなくて良かった。
この時初めて自分が虐められている事に感謝しました。
それと同時に、その草の危険性がしっかりと頭の奥に刻み込まれたのです。
何故あの草をゆうかが持っているのか。めーりんは分かりませんでした。
しかし、めーりんが必死になって花にかけている物が水だという事は分かりました。
あの草は水で濡れていた。ゆうかは今、花に水をかけている。つまり……。……!!
その瞬間。めーりんは理解してしまいました。ゆうかが何をしようとしているのかを。
それは、とてもゆっくり出来ない事です。
それは、ゆうかにとって、とてもゆっくり出来ない事でした。
ですが。ですが。
「じゃおぅぅ……!!」
めーりんは、ゆうかを止める事ができませんでした。
もし、自分がこのままゆうかを止めなかったら。
あの花はとても危険だ。そんな花をあのゆっくり達が食べたら。
……確実に、死ぬ。そうなれば……。
自分は、これからずっと、ゆっくりできる。
そう考えてしまっていたのです。
毎日毎日虐められ、罵られる日々。
苦労して探した食糧はいつも横取りされ、腹を空かす日々。
『クズ』めーりんとして情けない思いをして過ごす日々。
……自分が永遠にゆっくりするまで。
……そんなのは、嫌だ。
あいつらが全員死ねば。
自分は。『クズ』じゃなくなる。
めーりんは、そう考えてしまったのです。
そして、めーりんは振り返る事無く、その場を去りました。
自分は何も見なかった。何も聞かなかった。
そう自分に言い聞かせながら。
「……じゃお」
翌日の昼、めーりんはゆうかの花畑へ向かいました。
そこには、綺麗な花も、大好きなゆうかも、何もありませんでした。
代わりに、絶望の表情を浮かべながら事切れているゆっくり達の死骸があるだけでした。
「じゃおぅ……」
何故だろう。こうなる事は、自分が望んでいた事なのに。
「じゃおぅ……」
これで、自分はゆっくりする事ができるのに。
「じゃ、じゃ、おっ、う…、うっく……う、うぅ……」
目から涙が、勝手に溢れてくるのです。
めーりんは、とても後悔していました。
自分がゆっくりしたいから。
その為だけに。
ゆうかをゆっくり殺しにしてしまったのです。
確かに実行犯はゆうかです。
自分がした事は、甘い草の場所を教えただけ。それだけです。
自分が殺した訳ではありません。
ですが。
自分は。世界で一番大好きなゆうかを。利用してしまったのです。
「じゃおおぅぅぅぅ……!!」
花を愛する優しい心を持ったゆうかを。利用してしまったのです。
めーりんは泣きました。泣いて、泣いて、涙が枯れる位に泣きました。
そして。
「……じゃお……!」
流せる涙が一滴も無くなっためーりんは。
走り出しました。
ゆうかに会いたい。その一心で、走り出しました。
会いたい。会って。謝りたい。謝って償いきれる罪じゃ無いけれど。
会いたい。ただ、それだけでした。
何度も転びました。何度も木にぶつかりました。何度も新しい傷を作りました。
それでもめーりんは走る事を止めません。
走って、走って、走って。
そして……。
「……どうしてあなたがいるの……?……めーりん」
そこには、泣きそうな顔で自分を見つめるゆうかがいました。
「……めーりん。……わたしね。……あなたをりようしたの」
ゆうかはめーりんにそう告げました。
「じゃおじゃーお」
めーりんは頷きました。
「……しってたの?」
ゆうかはめーりんに問いかけます。
「……じゃお」
めーりんは短く頷きました。
「……わたしね。ゆっくりごろしなの」
ゆうかは自分の罪をめーりんに告白しました。
「じゃお、じゃーお」
めーりんは何度も頷きました。
「じゃお、じゃおじゃお!」
めーりんは自分の罪を告白しました。
「……ごめんなさい。なにをいっているかわからないわ」
ゆうかは正直に答えました。
「じゃ、じゃお……」
めーりんは少しへこみました。
「……もしかして、あなたも、わたしとおなじことをしたというの……?」
ゆうかはめーりんに問いかけます。
「……じゃお!」
めーりんははっきりと頷きました。
「……あなたはわたしをとめなかったのね?」
ゆうかはめーりんに問いかけます。
「……じゃお」
めーりんは短く頷きます。
「……あなたは『クズ』ね……」
ゆうかあめーりんにそんな言葉を投げかけました。
「……」
めーりんはその言葉が胸に突き刺さりましたが、静かに頷きました。
「……わたしは『ゲス』だわ」
ゆうかは自分をそう呼びました。
「じゃ、じゃお!じゃおじゃおう!」
めーりんは体全体を横に振らせて否定しました。
「たとえ、どんなりゆうがあったとしても……、わたしと、あなたは、『クズ』と『ゲス』なのよ」
「……」
二人の間に、しばらく沈黙が流れました。
「……ねぇ、めーりん」
先に沈黙を破ったのはゆうかでした。
「じゃお……?」
めーりんはゆうかの言葉を待っていました。
「……ごめんなさい」
ゆうかはそう言うと、めーりんの胸へ飛び込んできました。
ゆうかは、静かに涙を流しました。
「……じゃおぅ」
めーりんはそう言うと、ゆうかの体を受け止めました。
めーりんは、静かに涙を流しました。
二人は、ただただ、お互いに体を寄り添いあいながら、静かに泣き続けました。
互いに犯した罪は、永遠に許されないものでした。
ですが、今は二人とも、ただ泣いていたかったのです。
そこには、静かに泣き続ける、二人の『クズ』と『ゲス』の姿があるだけでした。
END
あとがき
反省点をいくつか。
1.めーりんとゆうかがメインのSSを書きたかったのに、めーりんの影が薄くなってしまいました……。
2.ゆうかとドスまりさの関係をまとめきれなかったような気が……。
3.見直してみると、やっぱり無理矢理感が漂っているような……。
結論
やっぱりSSを書くのって、凄く難しいです!
もし次のSSを書く機会があるなら、もみじかさとりが主人公のSSを書きたいなぁ……。
ご感想、お待ちしています。
このSSは以前張ったものですが、不具合がありまして、一度削除したものを再び張っています。
色々と分からない事ばかりで申し訳ありませんでした。
1.駄文です。話のテンポが遅くイライラしてしまうかもしれません。
2.虐待鬼威惨は出ません。というか、人間が出ません。
3.希少種優遇に近いです。
4.他の作者の方々の作品と似ている可能性があります。
5.ハッピーエンドとは言い難いかもしれません。
それでもOKだよと言う方のみどうぞ。
むかしむかしある山に、たくさんのゆっくり達が住んでおりました。
その山は人間や野生動物が入り込む事は滅多にありませんでした。
ですので天災や事故、病気以外でゆっくりが死ぬ要因がほとんど無かったのです。
そしてその山には長がドスまりさの群れがあり、ドスが捕食種ゆっくりの襲撃から守ってくれるのです。
群れの近くにはゆっくりが溺れにくい浅瀬の小川や、木の実や果物が生っている木が沢山生えていたので、ゆっくり達は食糧や飲み水に困りませんでした。
なかなか平和的な山の中で、ゆっくり達はとてもゆっくりしておりました。
……一部のゆっくりを除いて。
これは、『クズ』と呼ばれたゆっくりと、『ゲス』と呼ばれたゆっくりの物語です。
「クズとゲス」
作者:ぺけぽん
==========================================
Side A 「めーりん」
「おい、クズめーりん!いたいめをみたくなかったらそのむしさんをまりさたちによこすんだぜ!」
「ゆぷぷ、まりさはつよいんだよ!さっさとれいむたちにそのむしさんをよこしてね!のろまはせいっさいっするよ!」
「クジュはちねぇ!」
「じゃ、じゃおぅ……」
めーりんは今、とてもゆっくりできていませんでした。
何故なら、いつも他のゆっくり達に虐められたり餌を横取りされるからです。
めーりん種は「じゃお」しか喋る事ができず、他のゆっくり達からは「ゆっくりできない」と見られ、迫害を受けるのです。
ですので自然とめーりん種の個体数は減っていき、今では希少種扱いされています。
現に、このめーりんもゆっくり親子から食糧を寄こすよう脅されている最中です。
このゆっくり親子は先に述べた群れに所属していました。
ですので本当ならば近くに餌も水もあるのでわざわざめーりんから餌を奪う必要は無いのですが……。
「そのむしさんはまりさたちがさきにみつけたんだぜ!よこどりはゆるさないんだぜ!」
「はやくしてね!そのむしさんはクズにはもったいないよ!」
「クジュはちねぇ!」
当然ゆっくり親子達が言っているのは単なる言いがかりで、虫はめーりんが先に見つけ、後からゆっくり親子がやって来たのです。
ゆっくり親子は別に虫を食べなくても、もっとおいしい木の実があるので、スルーしても良かったのです。
相手が『クズめーりん』でなければ。
つまり、要はゆっくり親子はめーりんに適当な難癖を付けてめーりんを虐めているだけなのです。
相手は『クズ』。だから何をしても許される。ゆっくり親子はそう考えていました。
「じゃお……」
他のゆっくり達から迫害を受けているめーりん種ですが、決して馬鹿では無く、むしろ強く賢い種にあるのです。
自称『むれでいちばん』とほざくまりさ種よりも頑丈な体を持ち、ちょっとやそっとでは死にません。
自称『もりのけんじゃ』とほざくぱちゅりー種よりも豊富な知識を持ち、生きる上でその知識を役立たせます。
少し本気を出せば、れいむやまりさ等なら軽く撃退できるのですが、めーりんはそれができませんでした。
一つ、めーりんは優しい性格だったから。たとえ虐められているとしても、誰かを傷つけるような事をするのが嫌なのです。
一つ、めーりんは臆病でもあったから。優しい性格ゆえに争いごとが苦手で、どうしても相手に対して恐怖感を感じてしまうのです。
一つ、このゆっくり親子がドスの群れの一員だから。もし少しでも反撃すれば、めーりんは群れからの報復を受けてしまいます。
「じゃおぅ……」
めーりんには素直に虫を差し出す以外に選択肢はありませんでした。
「しゅしょうなこころがまえだね!でも……」
そう言いながら、いきなりまりさはめーりんに体当たりを仕掛けました。
「じゃおっ!?」
いきなりの不意打ちでめーりんは避ける事もできず、まりさの体当たりをそのまま受けてしまいました。
が、めーりんの皮は頑丈なので痛みはあまりありませんでした。
ですがとりあえずめーりんは痛がるふりをして、後ろに倒れました。
「クズがまりさたちのまえにあらわれたら、それだけでしけいなのぜ!でもまりささまはかんっだいっだからこれですましてやるのぜ!」
「まりさのなさけにかんしゃしてね!こんどはもんどうむようでせいっさいっするよ!」
「クジュはちねぇ!」
そう言い残し、やっとゆっくり親子は去って行きました。
「……じゃお」
ゆっくり親子の姿が見えなくなったのを確認し、めーりんは起き上がりました。
あの親子に食糧を取られてしまったため、新しい食糧を探さなくてはいけません。
めーりんは次の食糧を求め、跳ねて移動します。
付近には木の実や果実が生っている木が生えているのですが、めーりんはそれを食べる事はできません。
それらは全て群れのゆっくり達の食糧で、少しでも食べようものなら食糧泥棒としてたちまちリンチを受けてしまいます。
それ以前に、群れの近くに行く事自体が死亡フラグです。
なのでめーりんは他のゆっくりよりも食糧集めに必死でした。
「じゃお、じゃお……」
今、めーりんの頭の中では食糧探しで夢中で、先ほどの出来事は既に隅の方へ追いやられていました。
このような出来事は一度や二度では無いので、気持ちの切り替えは早くなっているのです。
幸い、めーりんはすぐに食べられそうな草を見つける事ができました。
「じゃおう……?」
ですが、めーりんはその草を見るのは初めてで、どんな味がするのかは分かりませんでした。
見た目は大丈夫そうなのですが、もし毒草だったとしたら。
少し辛かったり不味かったりする程度なら大丈夫なのですが、毒草なら話は別です。
めーりんはどうすれば良いか少し悩みました。
「じゃお!」
そうだ、分からない事は『あの子』に聞けば良い。めーりんはそう思いました。
そして、先程きた方向とは別の方向へと跳ねて行きました。
いつも虐められてばかりのめーりん。
いつも罵られてばかりのめーりん。
ですが、そんなめーりんにも、一つだけ〝ゆっくり〟できる事がありました。
それは、『あの子』に会う事です。
「じゃお、じゃお!」
めーりんの足取りは、自然と速くなっていました。
==========================================
Side B 「ゆうか」
「おい!このゲスゆうか!さっさとそこのおはなさんをわたすんだぜ!」
「おはなさんはかってにはえてくるんだよ!ばかなの!?しぬの!?」
「ゲチュはちねぇ!」
「………」
ゆうかは今、とてもゆっくりできていませんでした。
何故なら、いつも他のゆっくり達に自分が育てているお花畑を襲撃されているからです。
ゆうか種は花を愛でるゆっくりであり、自分で花を育てている事が多いです。
ですが、「花は勝手に生えてくる」と思い込んでいるゆっくり達からは、「花を一人占めにするゲス」と見なされています。
現に、このゆっくりもゆっくり親子から花を寄こすよう威嚇されている最中です。
このゆっくり親子は先に述べた群れに所属していました。
ですので本当ならば近くに餌も水もあるのでわざわざゆうかから花を奪う必要は無いのですが……。
「そのおはなさんのみつはとってもあまいのぜ!はやくよこすんだぜぇ!」
「おはなさんをひとりじめするなんて、なんてゲスだよ!はずかしくないの!?」
「ゲチュはちねぇ!」
ゆっくりにとって一番美味しいと感じるのは何よりも『甘い』食べ物です。
以前このゆっくり親子はその別の場所に生えていた花の蜜を舐めていた事があり、その花の事を知っていました。
ですので、それと同じ花を育てているゆうかの花畑に目を付けたのです。
もし逆らおうものなら、その『ゲス』を制裁して、花畑を奪ってしまおう。
相手は『ゲス』。だから何をしても許される。ゆっくり親子はそう考えていました。
「………」
他のゆっくり達から敵視されているゆうか種ですが、ゆうか自身の戦闘力・知識力はかなりのものです。
自称〝むれでいちばん〟とほざくまりさ種よりも素早く強い体当たりをかますことができ、大抵のゆっくりならそれを食らえばすぐに戦意喪失します。
自称〝もりのけんじゃ〟とほざくぱちゅりー種よりも野草や花の知識が豊富で、数多くの花の特徴を覚えています。
少し本気を出せば、れいむやまりさ等なら軽く瞬殺できるのですが、ゆうかはそれができませんでした。
一つ、ゆうかは花を何よりも大切にしているから。もしこの花畑で乱闘などすれば、花を踏みつぶしてしまうかもしれないからです。
一つ、今いるゆっくりが一匹では無いから。片方を殺してももう片方に逃げられてしまう可能性があるのです。
一つ、このゆっくり親子がドスの群れの一員だから。もし逃げた片方がドスの群れの全員にこの事を報告すれば、ドス自らの報復を受けてしまいます。
「……このおはなさんでしょ?……もっていきなさい」
ゆうかには素直に花を差し出す以外に選択肢はありませんでした。
「しゅしょうなこころがまえだね!でも……」
そう言いながら、いきなりまりさはゆうかに体当たりを仕掛けました。
「ッ……!」
いきなりの不意打ちでゆうかは避ける事もできず、まりさの体当たりをそのまま受けてしまいました。
が、ゆうかの皮は頑丈なので全く痛くありませんでした。
ですがとりあえずゆうかは痛がるふりをして、後ろに倒れました。
「ゲスがおはなさんをひとりじめすることは、きょっけいものなのぜ!でもまりささまはうつわがでかいから、これですましてやるのぜ!」
「まりさのじあいにかんしゃしてね!こんどはもんどうむようでせいっさいっするよ!」
「ゲシュはちねぇ!」
そう言い残し、やっとゆっくり親子は去って行きました。
「……ゲスはあなたたちでしょ……」
ゆっくり親子の姿が見えなくなったのを確認し、ゆうかは起き上がりました。
あの親子に花を取られてしまったため、また同じ花を育てなければいけません。
ゆうかはその花の種を土の中に埋め、葉っぱを元に作った容器に貯めこんでいた雨水を土にかけました。
付近にはとても澄んでいていて綺麗な水が流れている小川があるのですが、ゆうかはそれを使うことはできません。
それらは全て群れのゆっくり達の飲み水で、少しでも使おうものなら飲み水泥棒としてたちまちリンチを受けてしまいます。
それ以前に、群れの近くに行く事自体が死亡フラグです。
なのでゆうかは花にかける水の確保に苦労していました。
「このおはなさんには、あまりみずをかけないほうがいいわね……」
今、ゆうかの頭の中では花の水やりで夢中で、先ほどの出来事は既に隅の方へ追いやられていました。
このような出来事は一度や二度では無いので、気持ちの切り替えは早くなっているのです。
幸い、先程の花以外は取られなかったので、作業はすぐに終わりました。
「…すこしつかれたわね」
作業を終えたゆうかは少し休憩する事にしました。
ゆうかの花畑はなかなか広く、それをゆうかだけで管理しているのです。
ですので、ゆうかは体を動かす時間の方が増え、寝たり休んだりする時間の方が減っていました。
「……きょうはくるかしら。」
こんな日には、『あの子』と会って少し話がしたい。ゆうかはそう思いました。
いつも花を育てる事で忙しいゆうか。
いつも他のゆっくりに花を取られてばかりのゆうか。
ですが、そんなゆうかにも、一つだけ〝ゆっくり〟できる事がありました。
それは、『あの子』に会う事です。
「……ふふ、たのしみね」
ゆうかの表情は自然と笑顔になっていました。
==========================================
Side both 「めーりんとゆうか」
「じゃお、じゃおう!」
「あら、めーりん。きてくれたのね。」
ゆうかは口に草を咥えながら跳ねて自分の方へ向ってくるめーりんを快く歓迎しました。
本来ならゆうかは他のゆっくりに対し、花を狙う害獣という見方をしているのですが、このめーりんだけは違いました。
今から数カ月ほど前、餌を探していためーりんはこの花畑にやってきて、そこでゆうかと出会いました。
「……なに、おまえ。おまえもゆうかにころされたいの?」
「じゃ、じゃお……!?」
いきなり殺されたいかと見知らぬゆっくりに言われためーりんは、少し戸惑いました。
ゆうか自身も本来ならすぐに追い返すか殺すのですが、今までめーりん種を見た事がなかったので、少し警戒していました。
「こんかいだけみのがしてあげる。……はやくきえなさい」
「じゃおぅ……」
ゆうかの凄みに怯えためーりんはすぐに花畑から立ち去りました。
その夜、めーりんは昼間に出会ったゆっくりの事を考えていました。
あのゆっくりは、今まで出会ったどのゆっくりとも違っていました。
出会えばすぐに自分を『クズ』と罵り、虐める。
けれども。あのゆっくりは、そんな事はしなかった。
怖かったけど。もしかしたら。本当は、優しいゆっくりかもしれない。
めーりんはそんな事を考えながら眠りにつきました。
その夜、ゆうかは昼間に出会ったゆっくりの事を考えていました。
あのゆっくりは、今まで出会ったどのゆっくりとも違っていました。
出会えばすぐに自分を『ゲス』と見なし攻撃する。
けれども。あのゆっくりは、そんな事はしなかった。
あの時は殺すなんて言ってしまったけど、今思えば悪い事を言ってしまったかもしれない。
ゆうかはそんな事を考えながら眠りにつきました。
……また、会ってみたいな。
そう思いながら。
その後めーりんとゆうかは何度か花畑で会うようになりました。
最初はぎくしゃくしていましたが、何度か会う内に、少しずつ。少しずつですが、お互いに打ち解けてきました。
めーりんはゆうかの花を育て、愛でる事ができる優しさに。
ゆうかはめーりんの相手を思う、ただただ純粋な優しさに。
お互いの優しさに気付いた二匹は、さらに仲良くなっていったのです。
「じゃお、じゃおじゃお」
めーりんはゆうかに自分が咥えてきた草を見せました。
「どうしたの?めーりん。……あら、このくさ。ひさびさにみたわ」
「じゃおう?」
「このくさはね、よくかむとあまいしるがでるの。さいきんここらへんではみなかったの」
「じゃおう!」
「みずにひたすとさらにあまくなるのよ。ちょっとまっててね、いまみずにひたしてくるから」
「じゃーお!」
めーりんから草を渡されたゆうかは水が入った葉っぱの容器に草を入れ、少しの間浸しました。
「はい、どうぞ」
「じゃーお!」
ゆうかから草を受け取っためーりんはすぐに草を口の中にいれました。
するとめーりんはその草を飲み込まずに、歯で草を半分に切り、その半分を吐き出しました。
「どうしたの?……もしかして、あまりくちにあわなかった?」
「じゃーおぅ」
めーりんは体を横に振りました。
「だったらはやくたべなさいな。すいぶんがのこっているうちにたべたほうがいいわよ」
「じゃお、じゃお」
めーりんはその半分の草を口に咥え、ゆうかに差し出します。
「……もしかしてくれるの?」
「じゃおじゃーお」
めーりんは体を縦に振りました。
「……そんな、わるいわ。みつけたのはあなたなんだから」
「じゃお、じゃーおぅ」
それでもめーりんはニコニコしながらゆうかに草を差し出します。
「……ありがとう。それじゃあありがたくいただくわ」
「じゃお!」
めーりんから草を受け取ったゆうかは、口の中で良く噛んで草を食べました。
「とってもおいしわ。めーりんもおいしい?」
「じゃお!」
「ふふ……」
草を食べ終えた後、ゆうかは花の手入れをし、めーりんは花の近くに生えている雑草を抜いて手伝っていました。
お互いの作業を終えた後、ゆうかはめーりんに簡単な言葉を教えていました。
「いい?めーりん。それじゃいってみましょう。はい、『ゆっくり』」
「じゃ、じ、じゃぉ……」
「めーりんのばあいは『じゃ』を『じゅ』といってみたほうがいいわね」
「じ、じゅ……」
「がんばって、めーりん」
「じゅ…、じゅ…、……じゅおう!」
「……ふふ。もうすこしだったわね」
「じゃおぅ……」
「あせらなくてもいいわよ。すぐにできなくても、いつかできるようになるわ」
「じゃおう」
ゆうかは、めーりんが何を伝えたいのか、その全てを理解する事はできません。
ならばせめて、〝ゆっくり〟をいえるようになればどうだろうか。
「じゃお」以外にも言葉の種類が一つでも増えれば、きっとめーりんも喜ぶだろう。ゆうかはそう考えていました。
「きょうはここらへんにして、おひるねしましょうか」
「じゃお!」
めーりんとゆうかはお互いに寄り添い、すやすやと寝息を立てました。
「ZZZ……」
「すぅ……すや……」
花畑の中、お互いに微笑みながら眠っているその姿は、とてもゆっくりしたものでした。
「……ふぁぁ……。……あら、なんだかくらくなってきたわね」
先に目が覚めたゆうかは太陽の日が落ちて辺りが薄暗くなっている事に気づき、横でまだ寝ているめーりんを起こしました。
「おきて、おきて、めーりん」
「じゃおぅ……?」
未だ寝ぼけ眼のめーりんは、頭の中がぼーっとしたままです。
「もうくらくなっているわ。はやくかえらないとよるになるわ」
「じゃお!」
夜になると聞いて、めーりんは焦りました。夜になれば山は平和な世界から捕食種の世界へ変わります。
早く帰らないとれみりあやふらんといった捕食種に襲われてしまうかもしれないのです。
「じゃおじゃお!」
「それじゃあ、きえおつけてかえってね、めーりん」
ゆうかはめーりんの姿が見えなくなるまで見送っていました。
==========================================
Side A.Ⅱ 「めーりん」
「じゃおっ、じゃおっ……」
めーりんは暗い夜道を急いで跳ねていました。
早くお家に帰らないと。その事で頭が一杯でした。
もしれみりあやふらんに襲われてしまったらどうしよう。
めーりんはよりいっそう不安になってしまいました。
ですが、めーりんはその点の心配はしなくて良かったのです。
れみりあ種とふらん種は空を飛びながら獲物を襲う事が出来る捕食種です。
その二匹の主食はやはりゆっくり。他のゆっくりからは、ゆっくりキラーとして恐れられています。
ですが、その二匹が絶対に襲わないゆっくり種が存在します。
それは、さくや種とめーりん種です。
主にれみりあ種はさくや種を、ふらん種はめーりん種を優遇する傾向にあるのです。
何故その二種は襲われないのか。
現在ゆっくり研究学会でその理由を調査中ですが、未だ解明されていません。
「じゃおっ、じゃおっ……」
家路を急ぐめーりん。その焦りのためか、めーりんは転んでしまいました。
「じゃおっ!?」
幸い怪我はしませんでしたが、体が少し汚れました。ですが、そんな事を気にしている場合ではありません。
「じゃ、じゃおっ、じゃおっ……」
めーりんは再び跳ねようとしました。
その時です。
「めーりん!まって、めーりん!」
後ろから、花畑で別れたはずのゆうかの声が聞こえてきたのは。
後ろを振り返ると、ゆうかが息を切らしてこちらへ跳ねて来ます。
気のせいか、少し顔が青ざめているようでした。
やがて、ゆうかはめーりんに追い付きました。
「はぁ……、はぁ……」
どうしてゆうかは私の自分の事を追いかけてきたのだろう。何かあったのだろうか。
めーりんは少し不安になってきました。
そして、いくらか落ち着いたゆうかがめーりんにこう言いました。
「……あのね、……めーりん。……おねがいがあるの」
今まで一度も見た事がない、何かを誓ったような顔で。
==========================================
Side B.Ⅱ 「ゆうか」
「はぁっ、はぁっ……!」
ゆうかは暗い夜道を急いで跳ねていました。
……時間が無い。
少しの時間も本当に惜しい。
急がなければ。急がなければ。その事で頭が一杯でした。
ゆうかは、〝ある事〟をめーりんに協力してもらおうと、めーりんを追いかけていました。
もしめーりんに追い付く事ができなければどうしよう。
……そうなれば、自分一人でやるしかない。
自分一人だけで全て終わらせる事が出来るかどうかは分からない。
でも、自分だけでやれば、めーりんを巻き込まずに済む。ゆうかはそう考えていました。
ですが、頭で考えている事と実際の行動は180度違うものでした。
めーりんを巻き込みたくないはずなのに、私は今走っている。
……なんて『ゲス』なのだろう、私は。ゆうかはそう思っていました。
たった一人の理解者なのに。
たった一人の友達なのに。
私は。その友達を利用しようとしている。
……これでは、あのゆっくり達の言う〝ゲス〟と変わらないではないか。
ゆうかの頭の中では自己嫌悪の言葉が渦巻いています。
ですがゆうかは跳ねる事をやめて戻る事ができませんでした。
少し向こうで転んでいるめーりんを目にしてしまったから。
「めーりん!まって、めーりん!」
ゆうかはめーりんに向かって大声で叫びました。
ゆうかの声が聞こえたのか、めーりんはゆうかの方へ振り向きました。
今のゆうかの表情や雰囲気から何かを察したのか、めーりんは心配そうにゆうかを見ていました。
その表情を見て、さらにゆうかの胸の奥が痛みました。
「はぁ……、はぁ……」
めーりんに追い付いたゆうかは、どうすれば良いかどうか迷いました。
もし言えば。もしめーりんに頼めば、めーりんの性格から、私に協力してくれるだろう。
……そうだ。私は。
「……あのね、……めーりん。……おねがいがあるの」
彼女の優しい心を。裏切るのだ。
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Side Other 「ドスまりさ」
「ドス!もうすぐでおはなばたけにつくね!」
「ゆゆ~ん!はやくあまいみつをすいたいよぉ!」
「あみゃみゃ~!」
「……そうだね、ドスも楽しみだよ」
時刻は昼。森の中を大勢のゆっくり達が行進していました。
先頭には背丈3メートルを超えるドスまりさが。
その後ろからは大勢のゆっくり達が付いてきました。
そう、このゆっくり達はドスまりさが治める群れのゆっくりでした。
そのゆっくり達が向かっているのはゆうかのいる花畑。
何故ゆっくり達が花畑に向かっているのか。
それは昨晩の事でした。
「……なにをしにきたの?あなたたち」
「……ゆうか。私達は、その花をもらいに来たんだよ」
めーりんがゆうかの花畑から帰って数十分後、ドスまりさ率いるゆっくりの群れが花畑に押しかけて来たのです。
「ゆうか!おはなさんをひとりじめにするのはゆるさないんだぜ!だからまりさたちにもよこすんだぜ!」
「そうだよ!あまあまなみつはみんなでわけるべきだよ!」
「あみゃあみゃよこちぇ~!」
ドスまりさの後ろでギャーギャー騒いでいるのは、昼間ゆうかが花を渡したゆっくり親子でした。
恐らく、この親子が群れの皆にゆうかの花畑の事を吹き込んだのでしょう。
……あの時に殺していれば良かった。ゆうかはそう思いましたが、すでに後の祭りです。
「なかなかとかいはなおはなさんね!きっとさぞかしあまあまなのでしょうね!」
「ちーんぽ!びっくまらぺにす!」
「れいむはにんっしんっちゅうだよ!だからあまあまがひつようなんだよ!さっさとよこしてね!」
そのゆっくり親子につられ、他のゆっくり達も騒ぎ始めます。
「……あなたたちにはきのみやくだものがあるじゃないの。それに、ひるまにはなをわたしたじゃないの」
「なにいってるんだぜぇぇぇ!?あれだけでたりるはずがないんだぜぇぇぇぇ!!」
「そうだよ!ゆうかだけあまあまなおはなさんをひといじめなんてずるいよ!おはなさんはかってにはえてくるものなのに!」
「……」
内心ゆうかはかなり呆れていましたが、今更このゆっくり達に花の事を教えても理解できるとは思えないので、黙っていました。
「ゆうか、なにも全部取ろうって訳じゃないんだよ。半分くらいで良いんだ」
ゆうかとゆっくり達とのやり取りの中で一人黙っていたドスが口を開きます。
「「「「「「ドスぅぅぅぅ!?なにいってるのぉぉぉぉ!?」」」」」」
半分で良い。そのドスの信じられない発言に他のゆっくり達は猛反発です。
「……ドス。うしろのゆっくりたちがうるさいわ。……ふたりだけではなしをましょう」
「……分かったよ。ぱちゅりー、ちょっと皆を向こうへ連れて行って。ドスはゆうかと二人で話をしたいんだ」
「むきゅきゅ!?でも……」
「良いから。そうじゃないと話が全然進まないよ」
「むきゅう……わかったわ。みんな!さんぼうのぱちゅりーのいうとおりにしてね!」
他のゆっくり達は不平不満を言いましたが、全ては甘い花のため。しぶしぶ言う通りにしました。
「……だいぶしずかになったわね」
「そうだね、これで話も進めやすく「ドス」……何?」
「これが、あなたのいう『ゆっくりした』むれなの?」
「……そうだよ。私にはあの子達をゆっくりさせる義務があるんだ」
「そのけっかがこれ?たんなるあまやかしじゃないの。まるであかちゃんゆっくりだわ」
ゆうかが蔑むような眼でドスを見つめます。ドスはその視線から目をそらす事無くゆうかを見ていました。
「……しょうがないよ。これがゆっくりだもの。皆、自分がゆっくりできれば、それで良いって思ってるんだよ」
「そこまでわかってて、なんで「ゆうか」……」
「さっきも言った通り、私はドスだから。だからだよ。……例え、『ゲス』の群れでも」
「……かわったわね。……まりさ」
「……」
ゆうかはドスをドスでは無く『まりさ』と呼びました。『まりさ』は一瞬顔を曇らせましたが、そのまま黙っていました。
「ねぇ、まりさ。むかしのあなたはそんなこんじょうなしじゃなかったわ。じぶんにしょうじきで、だれよりもせいぎかんがあふれていたわ」
「……」
「あなたがドスになったとき、ほんとうにうれしかった」
「……」
「……まりさ。……あなたは、それでいいの?」
ゆうかの問い掛けに、『まりさ』は暫く黙ったままでしたが、やがて口を開きました。
「……良いんだよ。ドスは。これで。……幸せだよ」
「……」
「ドスぅぅぅ!!まだなのぉぉ!?はやくしてよぉぉぉ!!」
ゆうかと『まりさ』が話をしてまだ5分も経っていないのですが、我慢強くないゆっくりはそれだけで痺れを切らしていました。
「あぁ、ごめんね!もうすぐ終わるからね!」
「……」
「……ゆうか。明日の昼まで待つよ。それまでこの花畑から立ち退いていなかったら。……実力行使だよ」
「……わかったわ。あしたのひるね」
「「「「「「ドスぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」」」」」」
「皆!今終わったよ!明日の昼にまた来る事になったからね!」
「「「「「「なんでいまじゃないのぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」
「もう暗いよ!早く帰らないとれみりゃやふらんが大勢やって来るよ!」
「「「「「「れみりゃ(ふらん)こわいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」」」」」」
「分かった?それじゃあ今日は帰ろうね!」
『まりさ』は向こうに行こうとしました。
「……ばいばい。まりさ」
後ろからゆうかが声を掛けました。
「……」
ゆうかの言葉に対し、『まりさ』は何も言い返しませんでした。
「ドス~ついたよ~!!」
やがてドスの群れは花畑に到着しました。
花畑にはゆうかはいませんでした。
「……それじゃあ皆、食べて良いからね!」
「「「「「「ゆわ~い!!!!!!」」」」」」
ドスの許しが出たのでゆっくり達は我先にと花畑へ跳ねて行きました。
「ゆゆ~ん!おいしそうなはなだよぉ!」
その花は水滴が付いており、太陽の光に反射し、とても輝いていました。
他の花も同様で、まるでその花畑だけ別世界のような美しさを表現していました。
「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~!!」
「うっめ!これめっちゃうっめ!」
「ふ、ふん!まあまあそれなりじゃないの!」
「ちんぽっぽー!」
ゆうかが長い間愛で続けてきた花は、ものの数分でゆっくり達の腹の中に治まりました。
ドスまりさはその光景を無表情な顔で見つめるだけでした。
「げふぅ、おいしかったんだぜ!」
「ちあわちぇ~!」
ゆっくり達がいるそこはもはや花畑では無く、何一つない土地と化していました。
「おはなさん、つぎにれいむたちがくるまでにちゃんとはえていてね!」
「なかなかとかいはなあじだったわ!またたべてもいいわよ!」
ゆっくり達は口々に勝手な感想を並べていました。
「ゆげぇぇぇっ!?」
一匹のれいむが命の餡子を吐き出して絶命するまでは。
「れ、れいむ!?なんでグボェェッ!?」
「ぐ…ぐるじギュブゥゥッ!!」
「むきゅ……エレエレエレ……」
「ゆぴゃあぁぁ……」
「ぢんぼゴボボボ……」
「ぢにだぐだ……ゲボォッ!」
次々と餡子を吐き出し絶命していくゆっくり達。
数分前とは違い、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していました。
苦しむゆっくり達の表情は皆、訳が分からないといったものでした。
「ド…ドス……たすけ……ゴボッ……」
一匹のれいむがドスまりさに助けを求めました。
ですがドスまりさは少しも動こうとしません。
ドスまりさは、ただ一人だけその光景を無表情な顔で見つめるだけでした。
数分後、あの花を食べたゆっくり達は全て餡子を吐いてピクリとも動かなくなり、生きているゆっくりはドスだけになりました。
「……これで良かったのかなぁ……、私は。……まりさは。……ねぇ、ゆうかお姉ちゃん……」
ドス、いや、まりさは誰に言う訳でも無く、そう呟きました。
「……まりさは、もう、疲れたよ……」
そしてまりさは、一人山の奥深くへと消えて行きました。
その日を最後に、その山でまりさを見かけた者は、誰一人いませんでした。
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Side both.Ⅲ 「クズとゲス」
「……」
ゆうかは花畑からかなり離れた所で一人立ち止まっていました。
その表情は心底ゆっくりできていない、疲れ切った顔でした。
昨夜、ゆっくりの群れの訪問を受けたゆうかは、ゆっくり達が去った後にめーりんを追いかけました。
ゆうかがめーりんに頼んだ事。
それは、ゆっくり殺しの片棒を担ぐ事でした。
ゆうかは花や野草の知識に長けており、様々な花や草の特徴を熟知しています。
どの草がゆっくりにとっての猛毒を持っており、どれだけの量でゆっくりを死に至らしめるかという事も。
あの時ドスまりさがゆうかに実力行使をすると言った時点で、ゆうかは花畑の事を諦めていました。
いくら並大抵のゆっくりより強いからと言って、ゆっくり基準で反則級の実力を持つドスまりさに勝てるはずが無いのです。
ドスまりさ達が帰った後、ゆうかはすぐに花畑から立ち去る準備をしようとしました。
しかし、ゆうかの頭の中で一つの不安が浮かび上がりました。
……もし、またあのゆっくり達に見つかったら。
もし、花畑を作るのに適した新天地を見つける事ができたとしても。
またゆっくり達がやって来るかもしれない。
そして先程と同じように、花を寄こすよう脅される。
何度も、何度も、何度も。
……ゆっくりできない。
ゆうかはそう思いました。
……あいつらがいる限り、自分はゆっくりできない。……そんなのは、嫌だ。
そして、ゆうかは非道な計画を実行に移す事にしました。
自分の大切な花と親友を利用してこそ、初めて成功する計画を。
まず、大量の毒草をかき集め、それを全て水に数時間浸す。
その毒草を浸した水を、全ての花に浴びせる。
そうすれば花に水が染み渡り、毒花の完成です。
しかしここで問題が一つありました。
使用する毒草はその草特有の臭いを発しており、花にも同じ臭いが染み付いてしまうのです。
もし誰か一人でも花から発する異臭に気付いたら、その花を食べようとはせず、計画は失敗に終わります。
そこで、めーりんの協力が必要なのです。
めーりんが昼間持ってきた『甘い』草。あの草を水に浸して毒花に浴びせれば、甘い臭いと毒草の臭いが相殺されるのです。
花畑の付近にはその草は生えていません。
ですので、めーりんだけが、その草の生えている場所を知っているのです。
もちろん、本当の理由をめーりんに教える訳にはいきません。
めーりんの優しい性格上、その事に反対するでしょう。そうなれば、草の生えている場所を教えてもらえません。
だからゆうかは、めーりんにこう言いました。
「ひるまにたべたくさ、とてもおいしかったわ。だから、またたべたいから、あのくさのばしょをおしえてほしいの」
何も知らないめーりんは喜んでその草の場所を教えてくれました。
めーりんが本当に帰った事を確認すると、ゆうかは急いでその場所へ向かいました。
めーりんに教えてもらった場所には、昼間の草が大量に生えていました。
ゆうかはその草を口に含めるだけ含め、花畑へと戻りました。
……そして現在。
ゆうかの計画が完璧に遂行しているならば、今頃ゆっくり達はあの世へ逝っている事でしょう。
……ドスまりさを除いて。
しかし、ゆうかは多分、ドスまりさはゆうかに対して復讐をしないだろうと思っていました。
理由は、昨夜のドスまりさの表情でした。
その表情は、今の自分と同じものでした。
心底疲れ果てており、早く楽になりたい。そんな表情でした。
それよりもゆうかには、ドス以上に気掛かりな事があったのです。
それは、めーりんの事です。
何も知らないめーりんは今日もまた、あの花畑へと向かうでしょう。自分に会うために。
そこにはゆうかも花畑もなく、代わりにたくさんのゆっくりの死骸がある事でしょう。
めーりんは訳も分からずにうろたえるでしょう。
その原因の一つが、自分であるとも知らずに。
「……めーりん……」
めーりんが真実を知った時。めーりんは間違いなく、私を怨むだろう。
裏切られ、ゆっくり殺しの共犯者になってしまったのだから。
めーりんに問い詰められた場合、隠し通せるとは思えません。
だから、ゆうかはめーりんに何も告げずに去る事を選びました。
めーりんには、これからも何も知らずに生きてほしい。
身勝手な理由だという事は分かっていました。ですが、今のゆうかはめーりんに会わせる顔がありませんでした。
「……さよなら。めーりん。……ゆるしてくれとはいわないわ」
ゆうかが再び歩き出そうとした、その時です。
「じゃおう!!」
そこには、傷だらけで目元が真っ赤になっているめーりんがいました。
昨夜、めーりんがゆうかに甘い草の場所を教え、ゆうかと別れた後の事です。
「すご……ね……ドス……」
「あした……はな……」
「とて……たのし……ね……」
「じゃお……?」
帰り道の途中、少し離れた所からゆっくり達の声が聞こえてきました。
何故こんな時間に……?
その事が気になっためーりんは、危険と思いながらも声のした方へと慎重に跳ねて行きました。
そこには大勢のゆっくり達が騒がしく談笑をしていました。少し離れた所にはドスまりさがいました。
めーりんは茂みの中に隠れ、ゆっくり達の会話に耳を傾けました。
「ゆゆん!あしたがたのしみだよ!」
「ほんとだね!あしたになればおいしいおはなさんをいっぱいむ~しゃむ~しゃできるよ!」
「あのゆうかがまだいたら、こんどこそようしゃはしないよ!」
お花。ゆうか。ゆっくり達から発せられたそのキーワードを聞いためーりんは青ざめました。
「ドスにかかればゆうかなんていちころだよ!」
「そうだね!ドスにかてるはずがないもん!」
大変だ。ゆうかがドスまりさに殺される。
めーりんは急いで茂みから抜け出し、ゆうかがいる花畑の方向へ向かいました。
早く知らせなければ。ゆうかが危ない。
めーりんはゆうかの身を案ずる気持ちで一杯でした。
しばらくすると、ゆうかの花畑が見えてきました。
そして、花畑の中央にはゆうかがいました。
「じゃ……!?」
めーりんはゆうかに声をかけようとしましたが、それができませんでした。
ゆうかは一心不乱に何かを花にかけていました。何度も、何度も。
ゆうかの表情は、ただただ必死そのものでした。
……なにかが変だ。めーりんはそう思い、ゆうかの目に見えないように、木の陰に隠れました。
ゆうかの周りを良く見回すと、水に濡れた二種類の草が落ちていました。
一つは、先程の草。
そしてもう一つは……、めーりんが一度目にした事がある草でした。
以前、その草を見つけて食べようとした矢先に他のゆっくりが現れ、めーりんの目の前でその草を食べてしまいました。
途端にそのゆっくりは苦しみ出し、餡子を吐き出して永遠にゆっくりしてしまいました。
……食べなくて良かった。
この時初めて自分が虐められている事に感謝しました。
それと同時に、その草の危険性がしっかりと頭の奥に刻み込まれたのです。
何故あの草をゆうかが持っているのか。めーりんは分かりませんでした。
しかし、めーりんが必死になって花にかけている物が水だという事は分かりました。
あの草は水で濡れていた。ゆうかは今、花に水をかけている。つまり……。……!!
その瞬間。めーりんは理解してしまいました。ゆうかが何をしようとしているのかを。
それは、とてもゆっくり出来ない事です。
それは、ゆうかにとって、とてもゆっくり出来ない事でした。
ですが。ですが。
「じゃおぅぅ……!!」
めーりんは、ゆうかを止める事ができませんでした。
もし、自分がこのままゆうかを止めなかったら。
あの花はとても危険だ。そんな花をあのゆっくり達が食べたら。
……確実に、死ぬ。そうなれば……。
自分は、これからずっと、ゆっくりできる。
そう考えてしまっていたのです。
毎日毎日虐められ、罵られる日々。
苦労して探した食糧はいつも横取りされ、腹を空かす日々。
『クズ』めーりんとして情けない思いをして過ごす日々。
……自分が永遠にゆっくりするまで。
……そんなのは、嫌だ。
あいつらが全員死ねば。
自分は。『クズ』じゃなくなる。
めーりんは、そう考えてしまったのです。
そして、めーりんは振り返る事無く、その場を去りました。
自分は何も見なかった。何も聞かなかった。
そう自分に言い聞かせながら。
「……じゃお」
翌日の昼、めーりんはゆうかの花畑へ向かいました。
そこには、綺麗な花も、大好きなゆうかも、何もありませんでした。
代わりに、絶望の表情を浮かべながら事切れているゆっくり達の死骸があるだけでした。
「じゃおぅ……」
何故だろう。こうなる事は、自分が望んでいた事なのに。
「じゃおぅ……」
これで、自分はゆっくりする事ができるのに。
「じゃ、じゃ、おっ、う…、うっく……う、うぅ……」
目から涙が、勝手に溢れてくるのです。
めーりんは、とても後悔していました。
自分がゆっくりしたいから。
その為だけに。
ゆうかをゆっくり殺しにしてしまったのです。
確かに実行犯はゆうかです。
自分がした事は、甘い草の場所を教えただけ。それだけです。
自分が殺した訳ではありません。
ですが。
自分は。世界で一番大好きなゆうかを。利用してしまったのです。
「じゃおおぅぅぅぅ……!!」
花を愛する優しい心を持ったゆうかを。利用してしまったのです。
めーりんは泣きました。泣いて、泣いて、涙が枯れる位に泣きました。
そして。
「……じゃお……!」
流せる涙が一滴も無くなっためーりんは。
走り出しました。
ゆうかに会いたい。その一心で、走り出しました。
会いたい。会って。謝りたい。謝って償いきれる罪じゃ無いけれど。
会いたい。ただ、それだけでした。
何度も転びました。何度も木にぶつかりました。何度も新しい傷を作りました。
それでもめーりんは走る事を止めません。
走って、走って、走って。
そして……。
「……どうしてあなたがいるの……?……めーりん」
そこには、泣きそうな顔で自分を見つめるゆうかがいました。
「……めーりん。……わたしね。……あなたをりようしたの」
ゆうかはめーりんにそう告げました。
「じゃおじゃーお」
めーりんは頷きました。
「……しってたの?」
ゆうかはめーりんに問いかけます。
「……じゃお」
めーりんは短く頷きました。
「……わたしね。ゆっくりごろしなの」
ゆうかは自分の罪をめーりんに告白しました。
「じゃお、じゃーお」
めーりんは何度も頷きました。
「じゃお、じゃおじゃお!」
めーりんは自分の罪を告白しました。
「……ごめんなさい。なにをいっているかわからないわ」
ゆうかは正直に答えました。
「じゃ、じゃお……」
めーりんは少しへこみました。
「……もしかして、あなたも、わたしとおなじことをしたというの……?」
ゆうかはめーりんに問いかけます。
「……じゃお!」
めーりんははっきりと頷きました。
「……あなたはわたしをとめなかったのね?」
ゆうかはめーりんに問いかけます。
「……じゃお」
めーりんは短く頷きます。
「……あなたは『クズ』ね……」
ゆうかあめーりんにそんな言葉を投げかけました。
「……」
めーりんはその言葉が胸に突き刺さりましたが、静かに頷きました。
「……わたしは『ゲス』だわ」
ゆうかは自分をそう呼びました。
「じゃ、じゃお!じゃおじゃおう!」
めーりんは体全体を横に振らせて否定しました。
「たとえ、どんなりゆうがあったとしても……、わたしと、あなたは、『クズ』と『ゲス』なのよ」
「……」
二人の間に、しばらく沈黙が流れました。
「……ねぇ、めーりん」
先に沈黙を破ったのはゆうかでした。
「じゃお……?」
めーりんはゆうかの言葉を待っていました。
「……ごめんなさい」
ゆうかはそう言うと、めーりんの胸へ飛び込んできました。
ゆうかは、静かに涙を流しました。
「……じゃおぅ」
めーりんはそう言うと、ゆうかの体を受け止めました。
めーりんは、静かに涙を流しました。
二人は、ただただ、お互いに体を寄り添いあいながら、静かに泣き続けました。
互いに犯した罪は、永遠に許されないものでした。
ですが、今は二人とも、ただ泣いていたかったのです。
そこには、静かに泣き続ける、二人の『クズ』と『ゲス』の姿があるだけでした。
END
あとがき
反省点をいくつか。
1.めーりんとゆうかがメインのSSを書きたかったのに、めーりんの影が薄くなってしまいました……。
2.ゆうかとドスまりさの関係をまとめきれなかったような気が……。
3.見直してみると、やっぱり無理矢理感が漂っているような……。
結論
やっぱりSSを書くのって、凄く難しいです!
もし次のSSを書く機会があるなら、もみじかさとりが主人公のSSを書きたいなぁ……。
ご感想、お待ちしています。