ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4314 7・所長
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ankoss
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『7・所長』 33KB
観察 考証 実験 改造 独自設定 6も独自設定でした。これも虐分薄め
観察 考証 実験 改造 独自設定 6も独自設定でした。これも虐分薄め
【所長、事業の広がりを思い描くのこと】
※
虐分が薄めです。
虐分が薄めです。
※
現代社会をベースに、ゆっくり達が「奇妙な新種」として実在する世界だと思ってください。
ノリとしては、新種発見ブームが一段落した後みたいな感じです。
現代社会をベースに、ゆっくり達が「奇妙な新種」として実在する世界だと思ってください。
ノリとしては、新種発見ブームが一段落した後みたいな感じです。
※
anko1323 1・学者
anko1324 2・先輩
anko3853~4 3・小僧(前・後)
anko4274 4・旦那
anko4312 5・小僧
anko4313 6・ゆーか
今作 7・所長
anko1323 1・学者
anko1324 2・先輩
anko3853~4 3・小僧(前・後)
anko4274 4・旦那
anko4312 5・小僧
anko4313 6・ゆーか
今作 7・所長
と、連続しています。
どこから読んでも、それほど問題ないようにしようと努めたつもりですが、
過去作を読んでないと、よくわからない部分があるかもしれません。
けどまぁ、大事なところでもないと思います。
どこから読んでも、それほど問題ないようにしようと努めたつもりですが、
過去作を読んでないと、よくわからない部分があるかもしれません。
けどまぁ、大事なところでもないと思います。
それよりなにより、虐分が薄めという点が問題かも知れません。
※
設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。
設定に違和感を憶える場合もあるかと思いますが
「ああ、こういう世界なのね」と大らかな気持ちで見てくだされば幸いです。
東京特定生物研究所。
『ゆっくり』という、飛び抜けて特殊な生物を研究している研究所である。
名前は「研究所」と、どこかに親組織でもありそうな感じだが、歴とした単独での営利
団体であり、公開はしていないものの株式会社である。その前身が公営だっただけに半官
半民の体質が残っていることは否めないが、運営・経営に関しても他の株式会社のそれと
変わるところはない。
つまりは利益追求のための活動が必要であり、出資者のリクエストに沿った研究や開発
も求められることとなる。
『ゆっくり』という、飛び抜けて特殊な生物を研究している研究所である。
名前は「研究所」と、どこかに親組織でもありそうな感じだが、歴とした単独での営利
団体であり、公開はしていないものの株式会社である。その前身が公営だっただけに半官
半民の体質が残っていることは否めないが、運営・経営に関しても他の株式会社のそれと
変わるところはない。
つまりは利益追求のための活動が必要であり、出資者のリクエストに沿った研究や開発
も求められることとなる。
『一緒に風呂へ入れるゆっくり』の開発も、その一つ。
ゆっくりというのは、生きた饅頭とか動く饅頭と呼ばれているように、菓子類そのもの
の体構造をしていることは、今や誰でも知っていることだろう。当然、入浴に耐えられる
わけもない。
入浴させたところで、お湯によって脆くなった皮はボロボロと崩れ、中身の餡子の流出
が始まり、死に至る。入浴によって清潔になるどころか、お湯と浴槽を無駄に汚して終わ
りなのだ。
ゆっくり達自身も水に弱い自分達の体構造を理解しているのか、たいていは水を怖がり、
近づきたがらない。
ゆっくりというのは、生きた饅頭とか動く饅頭と呼ばれているように、菓子類そのもの
の体構造をしていることは、今や誰でも知っていることだろう。当然、入浴に耐えられる
わけもない。
入浴させたところで、お湯によって脆くなった皮はボロボロと崩れ、中身の餡子の流出
が始まり、死に至る。入浴によって清潔になるどころか、お湯と浴槽を無駄に汚して終わ
りなのだ。
ゆっくり達自身も水に弱い自分達の体構造を理解しているのか、たいていは水を怖がり、
近づきたがらない。
そんなことを思い起こしていると、なんとなく黙っていづらい気分になって、一緒に歩
いている若者へと言い訳がましい口調で話しかけてしまう。
いている若者へと言い訳がましい口調で話しかけてしまう。
「いやぁ、正直に言うとね、無茶を言ってしまったなぁと思っていたんだ。思っていたん
ですよ? お願いをしておいて、こういうことを言うのもなんなんだけど」
ですよ? お願いをしておいて、こういうことを言うのもなんなんだけど」
自分が伝えた要求の無茶さを考えれば、詫びの言葉をいくら重ねても足りないくらいだ。
だが、そんな私の繰り言にも、彼──若く有能な研究者で、すっかり“学者”という愛
称が定着している──は、その心配ももっともだと頷いた。
だが、そんな私の繰り言にも、彼──若く有能な研究者で、すっかり“学者”という愛
称が定着している──は、その心配ももっともだと頷いた。
「所長が仰るとおり、ゆっくりと水は、あまり相性が良くありません。お湯ともなれば、
なおさらです」
なおさらです」
私の肩書きは“所長”というものだが、研究者としての能があるわけではない。単に経
営責任者と言うだけだ。実務に携わる彼ら研究者達と、出資者達の間に立つことになるの
で、気分としては中間管理職の上の方という感じだろうか。
営責任者と言うだけだ。実務に携わる彼ら研究者達と、出資者達の間に立つことになるの
で、気分としては中間管理職の上の方という感じだろうか。
この学者くん、研究部門の主任の一人が自ら推薦してきた人物で、初対面の時からその
優秀さを見せてくれていた。会う以前から提出されていた研究成果やちょっとした論文も、
この私が読んでも興味深く、なにより理解しやすいものだったのである。
それでつい、会ってすぐに可能かどうかを聞いてしまったのだ。「一緒にお風呂へ入れ
るゆっくりというのは、作れますかね?」と。
それに対する彼の答えが、「時間を下さい」というものだった。
いくつもの研究や、急に入ってくる治療や施術と平行して、彼はずっと検討し続けてい
たらしい。
今日、要求に対する一つの回答とその成果が用意できたと、私に報告してきたのだ。
実のところ、私自身はなんのことか、すぐにはわからなかった。忘れていたわけではな
く、彼が携わっている研究課題が、それだけ多いのである。
優秀さを見せてくれていた。会う以前から提出されていた研究成果やちょっとした論文も、
この私が読んでも興味深く、なにより理解しやすいものだったのである。
それでつい、会ってすぐに可能かどうかを聞いてしまったのだ。「一緒にお風呂へ入れ
るゆっくりというのは、作れますかね?」と。
それに対する彼の答えが、「時間を下さい」というものだった。
いくつもの研究や、急に入ってくる治療や施術と平行して、彼はずっと検討し続けてい
たらしい。
今日、要求に対する一つの回答とその成果が用意できたと、私に報告してきたのだ。
実のところ、私自身はなんのことか、すぐにはわからなかった。忘れていたわけではな
く、彼が携わっている研究課題が、それだけ多いのである。
「これから所長にご覧頂くのは、あくまで一つの提案です。許可を頂ければ、今後も別の
方法を模索し続けたいと思っています」
方法を模索し続けたいと思っています」
一緒に入浴できるゆっくりの開発をか、と念押しに聞いてみると、その通りだと学者く
んは頷いてみせた。
今回の成果とやらでは、まだ入浴自体が出来るわけでは無さそうだ。注文しておいてな
んだが、私だって不可能だろうと思ってはいるのだ。それでも彼は、諦めていないらしい。
いや、諦めていないと言うより、満足していないのだろうか? まだまだ試したいこと
がある……そんな口ぶりだ。
んは頷いてみせた。
今回の成果とやらでは、まだ入浴自体が出来るわけでは無さそうだ。注文しておいてな
んだが、私だって不可能だろうと思ってはいるのだ。それでも彼は、諦めていないらしい。
いや、諦めていないと言うより、満足していないのだろうか? まだまだ試したいこと
がある……そんな口ぶりだ。
「こちらです」
「ああ、ここね。ここですか」
「ああ、ここね。ここですか」
先導していた学者くんが示した場所は、つい先頃に作られた屋内プールだった。
ゆっくりの代金としては法外な値段を、「今は懐に余裕があるから」という言葉と共に
ポンと出した人物がおり、そのおかげで我らが研究所は資金面でずいぶんと余裕が出来た
のだ。
ゆっくりの代金としては法外な値段を、「今は懐に余裕があるから」という言葉と共に
ポンと出した人物がおり、そのおかげで我らが研究所は資金面でずいぶんと余裕が出来た
のだ。
扉を開けると、膝よりもいくらか高い柵がある。開けた瞬間にゆっくりが逃げ出さない
ようにと設えてある柵だ。ただ、女性陣はあまり良い顔をしない。当然、跨いで越えなけ
れば部屋へと入ることが出来ないわけだから、スカートを着用することもある女性として
は、あまり人前でしたくない格好をすることになる。
まぁ、学者くんも私も男だし、ズボン履きでもあるから、ごく当然の行動として跨いで
室内へと入った。
入出後、体を伸ばしてドアを閉める点も、不自由か……なにか良い改善方法を模索する
べきかもしれない。
ようにと設えてある柵だ。ただ、女性陣はあまり良い顔をしない。当然、跨いで越えなけ
れば部屋へと入ることが出来ないわけだから、スカートを着用することもある女性として
は、あまり人前でしたくない格好をすることになる。
まぁ、学者くんも私も男だし、ズボン履きでもあるから、ごく当然の行動として跨いで
室内へと入った。
入出後、体を伸ばしてドアを閉める点も、不自由か……なにか良い改善方法を模索する
べきかもしれない。
内部をぐるりと見渡し、軽く首を捻る。
屋内プール自体は、それほど変わったところもない、ごく普通のものだ。我々人間が、
ジムなどでよく利用する設備と大差はないだろう。
プールサイドの壁に添って、やや大振りなカラーボックスの様なものが、横置きでいく
つか並べられている。段ボール紙が、棚の上だけにガムテープで簡単に付けられていて、
少々粗末ではあるが、簡便な蓋付きの棚と言った感じだ。
プールそのものには、中央に細く長い梯子が渡してある。途中途中に、プールの底へと
支えの脚が伸びているらしいので、半ば水没した雲梯のようにも見える。
さらに、その梯子のちょうど真ん中──プール全体でも、ほぼ中心にあたる位置に、白
く円形の浮島が設えてあった。
屋内プール自体は、それほど変わったところもない、ごく普通のものだ。我々人間が、
ジムなどでよく利用する設備と大差はないだろう。
プールサイドの壁に添って、やや大振りなカラーボックスの様なものが、横置きでいく
つか並べられている。段ボール紙が、棚の上だけにガムテープで簡単に付けられていて、
少々粗末ではあるが、簡便な蓋付きの棚と言った感じだ。
プールそのものには、中央に細く長い梯子が渡してある。途中途中に、プールの底へと
支えの脚が伸びているらしいので、半ば水没した雲梯のようにも見える。
さらに、その梯子のちょうど真ん中──プール全体でも、ほぼ中心にあたる位置に、白
く円形の浮島が設えてあった。
「ご覧のように、ゆっくり達が中央の浮島へと至るためには、水を渡らなければなりませ
ん」
ん」
首を傾げている私に、学者くんが淡々とした口調で説明を始めてくれた。
「梯子は、丸く滑らかで、たいして太くもない鉄パイプで構成されています。間隔もそれ
なりにありますから、我々でもバランスに気をつけて渡らなければ、足を滑らせてしまう
でしょう。ゆっくりにとっては、足場にもなりません」
なりにありますから、我々でもバランスに気をつけて渡らなければ、足を滑らせてしまう
でしょう。ゆっくりにとっては、足場にもなりません」
確かに。縦も横も、ゆっくりが足場とするには細すぎるだろう。ほんの少し重心がズレ
ただけで、水中へと落ちるに違いない。
中央の浮島はなんなのかと問うと、あそこが唯一の餌場なのだという。
ということは、プールサイドにある横置きにされた棚は、ゆっくり達の巣ということか。
あの棚一つ一つに、ゆっくり達がいるのだろう。
そして、ここで飼育されているゆっくり達は、あの浮島へと辿り着けない限り、飢えて
死ぬ。だが、浮島へと辿り着くためには、水面を渡らなければならない。
ただけで、水中へと落ちるに違いない。
中央の浮島はなんなのかと問うと、あそこが唯一の餌場なのだという。
ということは、プールサイドにある横置きにされた棚は、ゆっくり達の巣ということか。
あの棚一つ一つに、ゆっくり達がいるのだろう。
そして、ここで飼育されているゆっくり達は、あの浮島へと辿り着けない限り、飢えて
死ぬ。だが、浮島へと辿り着くためには、水面を渡らなければならない。
「水上まりさ……と呼ばれるゆっくりを、ご存じですか?」
存在することを知ってはいたが、生憎とお目に掛かったことはない。
ゆっくり達の中でも、大きく黒い魔女のような帽子が特徴である、まりさ種。その帽子
を、一人乗りのボートのように活用し水上を行き来することに慣れているものが、水上ま
りさと呼ばれているのだ。
個別の種と言うよりも、環境に応じて技能を身につけた個体と言った方が正しい。
ゆっくり達の中でも、大きく黒い魔女のような帽子が特徴である、まりさ種。その帽子
を、一人乗りのボートのように活用し水上を行き来することに慣れているものが、水上ま
りさと呼ばれているのだ。
個別の種と言うよりも、環境に応じて技能を身につけた個体と言った方が正しい。
「まりさ種の帽子に限らず、ゆっくりが付けている『お飾り』というものは、我々の衣服
のように編み上げられたものではありません」
のように編み上げられたものではありません」
なんでも、ゆっくり達が身につけている帽子やカチューシャ、リボンなど、彼らが言う
『お飾り』は、見た目こそ我々人間が身につけているものと大差がないように感じられる
が、実際には製法などに大きな違いがあるのだとか。
木綿生地に代表されるような植物由来の繊維を人間も使用しているから、成分的な面だ
けを見れば、そこまで大きな違いはないらしい。
しかし、製法は「編み上げたものではない」──つまり人間が使用しているような、ま
ずは一本の糸に紡いで、それを縦糸・横糸と編み合わせた生地ではないのだという。
『お飾り』は、見た目こそ我々人間が身につけているものと大差がないように感じられる
が、実際には製法などに大きな違いがあるのだとか。
木綿生地に代表されるような植物由来の繊維を人間も使用しているから、成分的な面だ
けを見れば、そこまで大きな違いはないらしい。
しかし、製法は「編み上げたものではない」──つまり人間が使用しているような、ま
ずは一本の糸に紡いで、それを縦糸・横糸と編み合わせた生地ではないのだという。
「わかりやすく言えば、非常に細かな繊維同士の癒着力であり、それらをアメという接着
剤でコーティングしているだけです。見た目が布地のように見える理由は繊維の方向が大
雑把ではあるものの揃えられているからですね」
剤でコーティングしているだけです。見た目が布地のように見える理由は繊維の方向が大
雑把ではあるものの揃えられているからですね」
なるほど。それで、ゆっくりの飾りを簡単に破いたり、細かく裂き千切ることが出来る
わけか。どうやら、質感こそ布のように感じられるが、織物よりも和紙などに近いものの
ようだ。
また、そういう構成のものだからこそ、ゆっくり達は『舐める』ことで自分のお飾りを
整え、修復すら可能なのだとか。
わけか。どうやら、質感こそ布のように感じられるが、織物よりも和紙などに近いものの
ようだ。
また、そういう構成のものだからこそ、ゆっくり達は『舐める』ことで自分のお飾りを
整え、修復すら可能なのだとか。
ボロボロと大粒の涙を流しながら、傷ついてしまった自分のお飾りを舐めて直そうとし
ているゆっくりを見たことがある人も多いだろう。
なんでも、あの時の涙は糖分がほとんど含まれていない、ほぼ純水に近い水分なのだと
か。その分だけ、ゆっくりの体内糖度は高まり、唾液に含まれる糖分も高くなる。水分が
減っているために、無理矢理に唾液を分泌しようとすれば、通常よりも濃いものとなるわ
けだ。
そして、ゆっくりの体温自体も通常より高くなり、体内流動も活発になっているらしい。
それは、体構成を変更しているために起こる発熱であり、人間に喩えれば成長期の間接痛
や微熱のようなものなのだとか。
お飾りを破壊されたゆっくりは、自分の体を構成するものから、大急ぎで食物繊維を集
める。それらは埃や糸くずレベルの“極小の繊維”として纏められ、お飾りを舐めるとい
う動作で、唾液と一緒に塗りつけられるのだ。
何度も一定方向に舐め続けることで、方向を揃えられ、唾液の乾燥と共に、紙のように
繊維同士が結びつき、修復が成される。そして糖分は、その結びつきを補強する役目を持
っているわけだ。
確かに、お飾りを損壊されたゆっくりというのは、何もそこまでと言うほど泣き、騒ぎ、
無駄に暴れる。それらは、余剰の水分を体外へと追い出し、体内流動を活発にするために
必要な運動を、本能的かつ反射的に行っていたということだろう。
ているゆっくりを見たことがある人も多いだろう。
なんでも、あの時の涙は糖分がほとんど含まれていない、ほぼ純水に近い水分なのだと
か。その分だけ、ゆっくりの体内糖度は高まり、唾液に含まれる糖分も高くなる。水分が
減っているために、無理矢理に唾液を分泌しようとすれば、通常よりも濃いものとなるわ
けだ。
そして、ゆっくりの体温自体も通常より高くなり、体内流動も活発になっているらしい。
それは、体構成を変更しているために起こる発熱であり、人間に喩えれば成長期の間接痛
や微熱のようなものなのだとか。
お飾りを破壊されたゆっくりは、自分の体を構成するものから、大急ぎで食物繊維を集
める。それらは埃や糸くずレベルの“極小の繊維”として纏められ、お飾りを舐めるとい
う動作で、唾液と一緒に塗りつけられるのだ。
何度も一定方向に舐め続けることで、方向を揃えられ、唾液の乾燥と共に、紙のように
繊維同士が結びつき、修復が成される。そして糖分は、その結びつきを補強する役目を持
っているわけだ。
確かに、お飾りを損壊されたゆっくりというのは、何もそこまでと言うほど泣き、騒ぎ、
無駄に暴れる。それらは、余剰の水分を体外へと追い出し、体内流動を活発にするために
必要な運動を、本能的かつ反射的に行っていたということだろう。
さらには、成長に伴いお飾りも大きくなっているのは、体の成長に合わせて調整し、作
り直してすらいるのだとか。何度も軽く噛むことによって結合を緩め、丹念に舐めながら
繊維を追加して、体に合うように大きくしているらしい。
ゆっくり達が、毎日飽きもせず自分のお飾りを舐め整えるのは、そのためということか。
さぞかし、時間の掛かる作業だろう。
り直してすらいるのだとか。何度も軽く噛むことによって結合を緩め、丹念に舐めながら
繊維を追加して、体に合うように大きくしているらしい。
ゆっくり達が、毎日飽きもせず自分のお飾りを舐め整えるのは、そのためということか。
さぞかし、時間の掛かる作業だろう。
「成長による変化が大きい幼体の時期は、両親もその作業を手伝うようです」
なるほど。その分だけ非常に強い愛着を示すのだろうし、親と自分の中から出したもの
で作られているからこそ、同じデザインのお飾りでも、瞬時に違いがわかり、家族を見分
ける目印となっているのかもしれない。
で作られているからこそ、同じデザインのお飾りでも、瞬時に違いがわかり、家族を見分
ける目印となっているのかもしれない。
「アメで固めた紙のようなものなので、熱には弱いです。火を近づければ結合させている
糖分は緩みますし、細かな繊維の集合体ですから着火もしやすい。ですが冷水に対しては、
他の部分よりも耐性は高いと言えます」
糖分は緩みますし、細かな繊維の集合体ですから着火もしやすい。ですが冷水に対しては、
他の部分よりも耐性は高いと言えます」
そうなのだろうと、私にも理解できる。
だからこそ、水上まりさなんてものが存在するのだろう。他にも、ゲリラ豪雨の後で、
本体は醜く崩れ去ったのに、お飾りだけは元のまま残っているなんて状態を目にしたりす
るわけだ。
だからこそ、水上まりさなんてものが存在するのだろう。他にも、ゲリラ豪雨の後で、
本体は醜く崩れ去ったのに、お飾りだけは元のまま残っているなんて状態を目にしたりす
るわけだ。
ゆっくり達のお飾りに関しての説明が一段落付くのを待っていたかのように、先ほど閉
めた入り口がガチャリと開いた。
ひょこりと、金髪頭が覗き込んでくる。
めた入り口がガチャリと開いた。
ひょこりと、金髪頭が覗き込んでくる。
「あ、すみません。急いだつもりなんですけど……遅くなっちゃったかなぁ?」
アルバイトの青年で、髪を脱色している割には真面目で人当たりも悪くない。ただどう
しても、何事も軽い調子に感じられてしまうのは、彼の個性なのだろうか。それとも若さ
故なのか。
未熟者であるとズバリ指摘しているような、「小僧」という愛称を付けられ、初めの頃
こそ嫌そうにしていたものの、最近ではすっかり小僧呼ばわりされることに慣れてしまっ
ているようだ。
しても、何事も軽い調子に感じられてしまうのは、彼の個性なのだろうか。それとも若さ
故なのか。
未熟者であるとズバリ指摘しているような、「小僧」という愛称を付けられ、初めの頃
こそ嫌そうにしていたものの、最近ではすっかり小僧呼ばわりされることに慣れてしまっ
ているようだ。
学者くんが「頼んでいたものは?」と確認すると、小僧くんはケージを軽く掲げて見せ
た。中には、成体のまりさ種が入れられている。
た。中には、成体のまりさ種が入れられている。
「えさはこび の どれいが、まりささま にたいして ぶれいをはたらくなんて、せいっさ
いっ ものなんだぜ!? かくご は いいんだぜ!?」
いっ ものなんだぜ!? かくご は いいんだぜ!?」
ずいぶんと、態度の良くないまりさ種のようだ。
ここはゆっくりを研究する施設だけあって、かなりのスペースを使って、多くのゆっく
りを飼育している。出来るだけ自然に近い環境でと気を配ってはいるが、飼料を与えたり
施設のメンテナンスが必要だったりと、ゆっくりと人間が触れ合う機会も少なくない。
そして、ゆっくりという存在は、どういうわけだか……
りを飼育している。出来るだけ自然に近い環境でと気を配ってはいるが、飼料を与えたり
施設のメンテナンスが必要だったりと、ゆっくりと人間が触れ合う機会も少なくない。
そして、ゆっくりという存在は、どういうわけだか……
「何でか知らないですけど、定期的にこういうヤツが出てくるんですよねぇ。ゆっくり共
らしいっちゃ、らしいんだけど」
らしいっちゃ、らしいんだけど」
私が考えていたとおりのことを、小僧くんが苦笑しながらぼやく。
環境に気をつけようと、教育を施そうと、必ずと言って良いほど『人間を見下す個体』
が現れる。
一匹や二匹、そういう個体が混じっているだけなら、さほど問題ないのかもしれない。
だが人間に対する不用意な見下しが、飼育しているゆっくり全体に波及すると、発生し得
る面倒事というのが多々予想されるのだ。
そのための対処・対策を長く検討していたのだが、先頃、とあるゴタゴタを切っ掛けと
して、実に大胆な対処法を提示された。
その対処法というのが『定期的な一罰百戒』。つまり見せしめに処罰・処刑し、人間の
恐ろしい面を認識させ、決まりを守ることの大切さを思い知らせるという、やや乱暴な上
に微妙に矛盾している手法だったのだが……これがまた、一定以上の効果があった上に、
代案もないということで、それ以来定期的に行われている。
ちなみに、『とあるゴタゴタ』の中心にいたのが金髪の小僧くんなのだが、それに関し
ては少々脱線となるので、ここでは割愛させてもらおう。
環境に気をつけようと、教育を施そうと、必ずと言って良いほど『人間を見下す個体』
が現れる。
一匹や二匹、そういう個体が混じっているだけなら、さほど問題ないのかもしれない。
だが人間に対する不用意な見下しが、飼育しているゆっくり全体に波及すると、発生し得
る面倒事というのが多々予想されるのだ。
そのための対処・対策を長く検討していたのだが、先頃、とあるゴタゴタを切っ掛けと
して、実に大胆な対処法を提示された。
その対処法というのが『定期的な一罰百戒』。つまり見せしめに処罰・処刑し、人間の
恐ろしい面を認識させ、決まりを守ることの大切さを思い知らせるという、やや乱暴な上
に微妙に矛盾している手法だったのだが……これがまた、一定以上の効果があった上に、
代案もないということで、それ以来定期的に行われている。
ちなみに、『とあるゴタゴタ』の中心にいたのが金髪の小僧くんなのだが、それに関し
ては少々脱線となるので、ここでは割愛させてもらおう。
「今回は、その一体だけかな? まぁ、処分する数が少ないのは、結構なことだ。うん、
結構なことですよ」
結構なことですよ」
ゆっくり達も、タダではないのだ。処分される数は、少ない方が良い。うんうんと頷く
私にたいして、小僧くんが申し訳なさそうに「それが、結構いるんですよ。すみません」
と頭を下げた。
いや。なにも君が謝ることじゃない。
私にたいして、小僧くんが申し訳なさそうに「それが、結構いるんですよ。すみません」
と頭を下げた。
いや。なにも君が謝ることじゃない。
なんでも学者くんが、処分対象の中からまりさ種を持ってくるように言っておいたのだ
とか。
その学者くんは、ちょっと残念そうに「まりさ種は、一体だけですか」と首を傾げた後、
仕方ないというように一つ頷いた。
とか。
その学者くんは、ちょっと残念そうに「まりさ種は、一体だけですか」と首を傾げた後、
仕方ないというように一つ頷いた。
「口頭での説明ばかりではなんですから、まずは実際に見てもらいましょうか。小僧くん、
ケージから出して」
ケージから出して」
検討し続けた結果である一つの提案とやらを、まずは私に見せてくれるということだろ
う。確かに、私のように研究者としての頭を持っていない人間にとっては、論より証拠。
まずは実物を見せて貰うのが一番である。何を見せてくれるというのか、楽しみになって
きた。
水上まりさの話が出たと言うことは、人為的に水上活動に適応したまりさ種を見せてく
れると言うことだろうか? だとすると、小僧くんが持ってきた“処分対象であるまりさ”
は一体なんのために……
う。確かに、私のように研究者としての頭を持っていない人間にとっては、論より証拠。
まずは実物を見せて貰うのが一番である。何を見せてくれるというのか、楽しみになって
きた。
水上まりさの話が出たと言うことは、人為的に水上活動に適応したまりさ種を見せてく
れると言うことだろうか? だとすると、小僧くんが持ってきた“処分対象であるまりさ”
は一体なんのために……
「やい、くそ にんげん! よくも この まりささまを、せまいところに おしこめたんだ
ぜ!? おわびとして、あまあまをたくさんもってこないと、せいっさいっするんだぜ!」
ぜ!? おわびとして、あまあまをたくさんもってこないと、せいっさいっするんだぜ!」
ケージから出され、床に降ろされたまりさ種が、早速我々三人に食ってかかる。
小僧くんは、その暴言の一つ一つをきちんと聞き分けて、いちいち反論しているが、私
も学者くんもただ聞き流しているだけだ。
そもそも感情を荒げたゆっくりの言葉は、聞き取りにくいのだ。
小僧くんは、その暴言の一つ一つをきちんと聞き分けて、いちいち反論しているが、私
も学者くんもただ聞き流しているだけだ。
そもそも感情を荒げたゆっくりの言葉は、聞き取りにくいのだ。
「みんな。出てくるんだ」
騒ぐまりさを無視していた学者くんが、周囲に向かって声を放つ。
その声に「ゆっくり りかい したよ、せんせい!」と複数の声が綺麗に揃って返事をし、
プールサイドにある棚から大勢のまりさ種が現れた。
ざっと10匹以上はいるか。そのまりさ達が、お行儀良く我々の前に整列して見せた。
どの個体も、ケージから出された処分対象のまりさと比べると、いくらか小柄のように見
える。
その声に「ゆっくり りかい したよ、せんせい!」と複数の声が綺麗に揃って返事をし、
プールサイドにある棚から大勢のまりさ種が現れた。
ざっと10匹以上はいるか。そのまりさ達が、お行儀良く我々の前に整列して見せた。
どの個体も、ケージから出された処分対象のまりさと比べると、いくらか小柄のように見
える。
それにしても、いろいろと驚くことがあって、どこから聞いたものか迷うほどだ。
「……今、先生と呼んだかい? 君のことを、先生と呼びましたよね?」
とりあえず、学者くんにたいして『呼び方』に関する質問をすることにした。
ゆっくり達は、人間を「おにいさん」「おねえさん」と呼ぶことはある。というより、
その二種以外はほとんど無いはずだ。
あったとしても、先ほど小僧くんが持ってきた“群れに悪影響を与える処分対象”が言
った「くそにんげん」や「くそじじい」のような悪口か……いずれにせよ、誰かを限定し
ないものばかりだ。役職なり身分なりと関わる呼び方と言えば「どれい」などの、これま
た見下すものばかり。
彼らが「先生」とはどういうものかを、理解した上で呼称として使用しているのだとし
たら、これは滅多にないことなんじゃないだろうか?
ゆっくり達は、人間を「おにいさん」「おねえさん」と呼ぶことはある。というより、
その二種以外はほとんど無いはずだ。
あったとしても、先ほど小僧くんが持ってきた“群れに悪影響を与える処分対象”が言
った「くそにんげん」や「くそじじい」のような悪口か……いずれにせよ、誰かを限定し
ないものばかりだ。役職なり身分なりと関わる呼び方と言えば「どれい」などの、これま
た見下すものばかり。
彼らが「先生」とはどういうものかを、理解した上で呼称として使用しているのだとし
たら、これは滅多にないことなんじゃないだろうか?
「そう呼ぶように教えましたから」
さして驚くことでもないという様子で、学者くんが答える。彼は躾けに関しても優れた
技量を発揮するのだと、つくづく感心してしまう。
そんな私にたいして、学者くんは軽く首を傾げて見せた。
技量を発揮するのだと、つくづく感心してしまう。
そんな私にたいして、学者くんは軽く首を傾げて見せた。
「私が行っているものは、『躾け』や『教育』というものから、いくらか遠いのではない
かと思いますが……どちらかと言えば、訓練や調教と言った方がいいでしょう」
「調教かね? それはまた、ずいぶんと厳しそうだな。厳しそうですよ?」
「ええ。厳しく、残酷なやり方です。意味を教え諭しているわけでもありません。簡単に
言えば、反復練習の結果ですね」
かと思いますが……どちらかと言えば、訓練や調教と言った方がいいでしょう」
「調教かね? それはまた、ずいぶんと厳しそうだな。厳しそうですよ?」
「ええ。厳しく、残酷なやり方です。意味を教え諭しているわけでもありません。簡単に
言えば、反復練習の結果ですね」
どんなやり方なのか、詳しく聞くことはやめておくことにした。ゆっくりに対して、好
悪の感情は格別ないつもりだが、それでも残酷な話は好きではない。
それよりも、私にまず見せたいと言うものを拝見することにした。
悪の感情は格別ないつもりだが、それでも残酷な話は好きではない。
それよりも、私にまず見せたいと言うものを拝見することにした。
学者くんは“処分対象のまりさ”に対して「お望みの『あまあま』なら、ここにある」
と、自分で持ってきた袋──安物ではあるが、クッキーがたっぷり入っている──を掲げ
て見せた。
と、自分で持ってきた袋──安物ではあるが、クッキーがたっぷり入っている──を掲げ
て見せた。
「よこすんだぜ! その あまあまは、ぜんぶ まりささまのものなんだぜ! なにしてん
だぜ!? ゆっくりしないで、さっさとするんだぜ、この くそにんげん!」
だぜ!? ゆっくりしないで、さっさとするんだぜ、この くそにんげん!」
聞き取りにくいが、クッキーを要求しているらしい“処分対象のまりさ”に、学者くん
は「自分で取りに行って、好きなだけ食べればいい」とだけ言って、スッスッとなんの乱
れもない歩調で、プールの中央に設えられた水上の梯子を渡り始めた。
は「自分で取りに行って、好きなだけ食べればいい」とだけ言って、スッスッとなんの乱
れもない歩調で、プールの中央に設えられた水上の梯子を渡り始めた。
「虐待お兄さんなら、にやりと笑うところなのに……ずっと無表情なんだもんなぁ」
面白がっているような、苦笑しているような、その中間という笑みを浮かべて、小僧く
んが呟いた。
どうやら、“処分対象のまりさ”にとっては、過酷な何事かが始まるようだ。
その“処分対象のまりさ”は、学者くんを追いかけようとして梯子の手前で躊躇し、水
面を見て怯え、遠くへと去っていく学者くんの背に向かって、なにやら罵っている。
んが呟いた。
どうやら、“処分対象のまりさ”にとっては、過酷な何事かが始まるようだ。
その“処分対象のまりさ”は、学者くんを追いかけようとして梯子の手前で躊躇し、水
面を見て怯え、遠くへと去っていく学者くんの背に向かって、なにやら罵っている。
「ねぇ、小僧くん。君は、学者くんがやろうとしていることを知ってるのかな? 知って
るんですか?」
「ええ、まぁ……察しは付きます。ここんとこ、学者さんの手伝いをいろいろとやらせて
もらってますから。これでもなかなか、便利に使われてるんですよ、俺」
るんですか?」
「ええ、まぁ……察しは付きます。ここんとこ、学者さんの手伝いをいろいろとやらせて
もらってますから。これでもなかなか、便利に使われてるんですよ、俺」
問いかけた私に、小僧くんは嬉しそうに笑って答えた。「便利に使われている」という
言葉は、それほど喜ぶべき状況を表さないと思うのだが。
言葉は、それほど喜ぶべき状況を表さないと思うのだが。
プール中央の浮島に到着した学者くんが、その真ん中にクッキーをドサドサとバラまく。
ゆっくり達にも食べやすい、個別包装はされていないもののようだ。
ゆっくり達にも食べやすい、個別包装はされていないもののようだ。
「こっちに もってくるんだぜ! さっさとするんだぜ! まりささまが ほんきで おこる
と、こわいんだぜ! さっさとしろぉおおおっ!!」
と、こわいんだぜ! さっさとしろぉおおおっ!!」
何度も飛び跳ねながら“処分対象のまりさ”は罵り続けている。が、やはり水は怖いら
しい。梯子を渡ることを試そうともしない点は、賢明だと言っても良いのかもしれない。
しい。梯子を渡ることを試そうともしない点は、賢明だと言っても良いのかもしれない。
「みんな、よく聞け」
学者くんがプール中央の浮島から、ゆっくり達に静かに語りかけてる。さして張り上げ
てもいない声だが、聞き取りにくい罵りを繰り返している“処分対象のまりさ”の大声よ
りも、良く通って聞こえた。
てもいない声だが、聞き取りにくい罵りを繰り返している“処分対象のまりさ”の大声よ
りも、良く通って聞こえた。
「今朝に話しておいたとおり、みんながどれほど頑張ってきたのか、所長に見ていただこ
う。ご褒美は、ここに置いたクッキー。所長が喜んでくれたら、それ以上のご褒美もある
かもしれない」
う。ご褒美は、ここに置いたクッキー。所長が喜んでくれたら、それ以上のご褒美もある
かもしれない」
整列していた“教育されたまりさ達”が、「ゆっくり りかい したよ!」と、これまた
声を綺麗に揃えて答えた。
もうすでに十分、何かご褒美を上げたいくらい感心させてもらっている。
それに比べて“処分対象のまりさ”は……
声を綺麗に揃えて答えた。
もうすでに十分、何かご褒美を上げたいくらい感心させてもらっている。
それに比べて“処分対象のまりさ”は……
「そんなのどうでもいいから、まりささま に あまあまを たべさせるんだぜ!」
聞き取りにくい罵りを、飽きもせずに続けているばかりだ。
“処分対象のまりさ”は引き続き無視することにして、“教育されたまりさ達”に話し
かけてみることにする。
“処分対象のまりさ”は引き続き無視することにして、“教育されたまりさ達”に話し
かけてみることにする。
「何を見せてくれるんだい? 何か、凄いことが出来るんですかね?」
おおよその想像は付いている。それでも問いかけることで、自分が見せて貰う者──所
長であることを、ゆっくり達にアピールしてみたのだ。
長であることを、ゆっくり達にアピールしてみたのだ。
「しょちょーさんですか?」
“教育されたまりさ達”の一匹が、体を傾けて確認してきた。しかも、「ですか?」と
丁寧な言い方で。
学者くんのことを「せんせい」と呼び、私のことを「しょちょーさん」なのかと確認し
てくる。
飼い主以外の人間でも個体識別や身分の理解、あるいは、それに近いことを継続して行
えるのなら、躾けの結果であれ調教の成果であれ、たいしたものだろう。
これはこれで、ウリになるのだ。方法論が確立すれば、喜んでくれる出資者も少なくな
いだろう。
丁寧な言い方で。
学者くんのことを「せんせい」と呼び、私のことを「しょちょーさん」なのかと確認し
てくる。
飼い主以外の人間でも個体識別や身分の理解、あるいは、それに近いことを継続して行
えるのなら、躾けの結果であれ調教の成果であれ、たいしたものだろう。
これはこれで、ウリになるのだ。方法論が確立すれば、喜んでくれる出資者も少なくな
いだろう。
「ああ、そうだよ。そうですとも。私が、この研究所の所長だ」
「しょちょーさん! まりさたちは、これから、おみずさんのうえを、ぷ~か、ぷ~か、
すいーして、せんせいの、いるところまで、いくんです!」
「しょちょーさん! まりさたちは、これから、おみずさんのうえを、ぷ~か、ぷ~か、
すいーして、せんせいの、いるところまで、いくんです!」
一つ一つ、言葉を句切って“教育されたまりさ達”の一匹が答えてくる。人間が聞き取
りやすいようにと、これも教育されたのだろうか?
どこか得意げで、褒めて欲しそうな笑顔を浮かべている。生首然としていると言えば不
気味だが、その顔は元々愛嬌のある造作をしているし、今見せている表情も可愛らしいも
のだ。
こういうゆっくりだけを見ていれば、自宅で飼育したいという気持ちが湧くことも、わ
からなくはない。
りやすいようにと、これも教育されたのだろうか?
どこか得意げで、褒めて欲しそうな笑顔を浮かべている。生首然としていると言えば不
気味だが、その顔は元々愛嬌のある造作をしているし、今見せている表情も可愛らしいも
のだ。
こういうゆっくりだけを見ていれば、自宅で飼育したいという気持ちが湧くことも、わ
からなくはない。
水の上を行くという答えに驚いて見せ、どうやるのか聞いてみると、「みててください」
と元気よく言って“教育されたまりさ達”は揃ってプールの際まで跳ねていく。
帽子を一旦プールサイドで脱ぎ、その中から木製の小振りな櫂のようなものを咥え出し
た。そして逆さにした帽子を、慎重に水面へと浮かべ、素速く櫂を咥えると、ふわりと帽
子の上に乗り、何度か状態を確認するように身じろぎする。
そして、咥えた櫂で器用に水面を掻きながら、中央の浮島へ向かって進み出したのだ。
と元気よく言って“教育されたまりさ達”は揃ってプールの際まで跳ねていく。
帽子を一旦プールサイドで脱ぎ、その中から木製の小振りな櫂のようなものを咥え出し
た。そして逆さにした帽子を、慎重に水面へと浮かべ、素速く櫂を咥えると、ふわりと帽
子の上に乗り、何度か状態を確認するように身じろぎする。
そして、咥えた櫂で器用に水面を掻きながら、中央の浮島へ向かって進み出したのだ。
案の定、水上まりさのように帽子で水の上を進むようだ。
水面へと浮かぶまでの動作一つ一つは、とても慎重でありながら、同時にキビキビとし
ていた。
たとえば、帽子を水面へと浮かべた段階では、その帽子のツバの一端はプールサードに
引っかけた状態になるように気を配っていた。それが終われば、櫂を咥えるのは素速く、
しかし帽子へと飛び乗る際は勢いを付けすぎないよう慎重にと、実に鮮やかなものだった。
水面へと浮かぶまでの動作一つ一つは、とても慎重でありながら、同時にキビキビとし
ていた。
たとえば、帽子を水面へと浮かべた段階では、その帽子のツバの一端はプールサードに
引っかけた状態になるように気を配っていた。それが終われば、櫂を咥えるのは素速く、
しかし帽子へと飛び乗る際は勢いを付けすぎないよう慎重にと、実に鮮やかなものだった。
そして今、水上を進む姿は優雅ですらある。
優雅とはほど遠いはずの顔付き饅頭が、口に咥えた櫂で漕ぎ進んでいるというのに。
右の水面を左の水面をと、その丸い体をくねらせ水を掻いている動きが、リズムも良く、
柔らかなためだろうか。
優雅とはほど遠いはずの顔付き饅頭が、口に咥えた櫂で漕ぎ進んでいるというのに。
右の水面を左の水面をと、その丸い体をくねらせ水を掻いている動きが、リズムも良く、
柔らかなためだろうか。
「ゆ? ゆあ……!? ゆぉおおお! すごいんだぜぇ……って!? ふっ、ふ~んだ!
ま、まりささまにだって、あれくらい……って、あああっ! ずるいんだぜ!」
ま、まりささまにだって、あれくらい……って、あああっ! ずるいんだぜ!」
水面を滑っていく“教育されたまりさ達”を、感動したかのように見送っていた“処分
対象のまりさ”が、ふんぞり返ったかと思うと、何かにショックを受け、誰かを罵りだし
た。
対象のまりさ”が、ふんぞり返ったかと思うと、何かにショックを受け、誰かを罵りだし
た。
「まりささまには、ないんだぜ!? あの ぼうさんがあれば、まりささまだって あれく
らい できるんだぜ!!」
らい できるんだぜ!!」
“処分対象のまりさ”が言うことは、聞き取りにくい上に、意味もわからない。
ゆっくりに対して聞き直しても、またよくわからない返事が返ってくるだけだろうから、
小僧くんに顔を向ける。
ゆっくりに対して聞き直しても、またよくわからない返事が返ってくるだけだろうから、
小僧くんに顔を向ける。
「坊さんと言ったかい、このまりさは。お坊さんが、なんで急に出てくるんですかねぇ?」
「坊さんじゃなくって、棒っきれのことっすよ。あの櫂さえあれば、自分にも出来るって
言ってるんです」
「ああっ! はいはい、棒ね、棒。もぉ~っ、何にでも「さん」付けするから、聞く方と
しちゃ混乱するよ。混乱しますよねぇ?」
「坊さんじゃなくって、棒っきれのことっすよ。あの櫂さえあれば、自分にも出来るって
言ってるんです」
「ああっ! はいはい、棒ね、棒。もぉ~っ、何にでも「さん」付けするから、聞く方と
しちゃ混乱するよ。混乱しますよねぇ?」
プール中央の浮島目指して、水上を遠ざかっていく同族の後ろ姿に向かって、「ずるい、
ずるい」と“処分対象のまりさ”は声を張り上げ罵っている。
その姿は、負け犬の遠吠えという言葉がピッタリだ。
ずるい」と“処分対象のまりさ”は声を張り上げ罵っている。
その姿は、負け犬の遠吠えという言葉がピッタリだ。
「あの棒なら、ここに一つあるぜ?」
そう言いながら小僧くんが、“教育されたまりさ達”の使っている櫂を一つ、“処分対
象のまりさ”に差し出した。これをやるから、お前もやってみたらどうだというわけだ。
象のまりさ”に差し出した。これをやるから、お前もやってみたらどうだというわけだ。
「よこすんだぜ! その ぼうさんさえあれば、あまあまは ぜんぶ まりささま のものな
んだぜ!」
んだぜ!」
逆らわずに、小僧くんはゆっくり用に作られたらしい小さな櫂を“処分対象のまりさ”
に渡す。
それを咥え、遅れてなるものかと急いでプール際まで跳ねていくと、勢いよく帽子を水
面目掛けて飛ばすように脱いだ。
水面に放られた帽子は、偶然だろうが上手く逆さの状態で浮かぶ。しかし……
に渡す。
それを咥え、遅れてなるものかと急いでプール際まで跳ねていくと、勢いよく帽子を水
面目掛けて飛ばすように脱いだ。
水面に放られた帽子は、偶然だろうが上手く逆さの状態で浮かぶ。しかし……
「ゆあああ!? おぼうしさん!? なんで、いっちゃうのぉおお!? まってぇええ!
まりさを おいてっちゃ だめなんだぜ!」
まりさを おいてっちゃ だめなんだぜ!」
浮かんだ帽子は、スルスルと独りでに水面を滑っていく。
プールサイドからさほど離れず、添うようにして流れていく帽子を追いかけて、“処分
対象のまりさ”がぴょんぴょん跳ねていった。
プールサイドからさほど離れず、添うようにして流れていく帽子を追いかけて、“処分
対象のまりさ”がぴょんぴょん跳ねていった。
「ここのプール、緩やかではあるんですけど流れを作ってあるんですよ。底の方で、全体
をぐるりと回る感じで」
をぐるりと回る感じで」
呆気にとられている私に、小僧くんが説明してくれた。
水面近くでは緩やかに感じられるものの、底の方では結構な流れなのだとか。
もしも、ゆっくりが水中へと落ちたなら、流れがある分だけ溶け易く、崩れ易い。流れ
に弄ばれているうちに、程なく崩れ、中身を流出させて死ぬことになるだろう。
水面近くでは緩やかに感じられるものの、底の方では結構な流れなのだとか。
もしも、ゆっくりが水中へと落ちたなら、流れがある分だけ溶け易く、崩れ易い。流れ
に弄ばれているうちに、程なく崩れ、中身を流出させて死ぬことになるだろう。
「おぼうしさん!? まりささま の いうことを きかないと、おぼうしさんでも ぷんぷ
んなんだぜ! おこっちゃうんだぜ? せいっさいっ されたく なければ……あぁんっ!
まつんだぜ、おぼうしさぁん!」
んなんだぜ! おこっちゃうんだぜ? せいっさいっ されたく なければ……あぁんっ!
まつんだぜ、おぼうしさぁん!」
わざわざ立ち止まって、流されていく自分の帽子を罵る“処分対象のまりさ”。何を言
ったところで、帽子が返事をするわけでも無し、言うことを聞いて泳いでくるはずも無し、
立ち止まった分だけ、引き離されてしまう。
それでも、何度も立ち止まり、罵り、また跳ねて追いかけ、止まっては怒鳴りと繰り返
す。その様子に呆れる私の隣で、同じように呆れながら、小僧くんが「モタモタしてると、
溶けるってのに」と、愚行を繰り返す“処分対象のまりさ”を鼻で笑った。
ったところで、帽子が返事をするわけでも無し、言うことを聞いて泳いでくるはずも無し、
立ち止まった分だけ、引き離されてしまう。
それでも、何度も立ち止まり、罵り、また跳ねて追いかけ、止まっては怒鳴りと繰り返
す。その様子に呆れる私の隣で、同じように呆れながら、小僧くんが「モタモタしてると、
溶けるってのに」と、愚行を繰り返す“処分対象のまりさ”を鼻で笑った。
「暖かいでしょ、ここ? 温水プールなんですよ、あれ。温度は40℃前後だから、風呂
並みっすね」
並みっすね」
風呂並み? と小僧くんの言葉にオウム返しで答えていると、学者くんが説明してくれ
たことを思い出した。
ゆっくり達のお飾りは、他の部分よりも水に対する耐性は高い。しかし、アメ細工のよ
うなものだから、熱には弱く……
たことを思い出した。
ゆっくり達のお飾りは、他の部分よりも水に対する耐性は高い。しかし、アメ細工のよ
うなものだから、熱には弱く……
「あああっ!? お、おぼうしさぁん!? まりさの! まりささまの、おぼうしさんが!
なんだが ふにゃふにゃに!?」
なんだが ふにゃふにゃに!?」
驚きの声を上げるために、またも立ち止まって大袈裟に騒いだ“処分対象のまりさ”が、
それどころではないとハッと気付いた様子をこれまた大袈裟にしてみせて、流されていく
帽子を追いかけて跳ねていく。
風呂並みの温水に温められて、帽子を形作っていたアメがもう溶け出しているのだろう
か。
それどころではないとハッと気付いた様子をこれまた大袈裟にしてみせて、流されていく
帽子を追いかけて跳ねていく。
風呂並みの温水に温められて、帽子を形作っていたアメがもう溶け出しているのだろう
か。
「その通りです。水も熱も、糖分を溶かします。溶解と融解の違いがありますが、ゆっく
りのお飾りにとっては“その結合を解く”という点において、どちらも厄介な相手である
ことに変わりはありません」
りのお飾りにとっては“その結合を解く”という点において、どちらも厄介な相手である
ことに変わりはありません」
いつの間にか戻ってきていた学者くんが、私の呟きを引き取って説明を再開してくれた。
糖分による補強が失われることは、その形を維持していられなくなる。糊付けされたシャ
ツはピシッとしているが、そうでなければすぐクシャクシャになるようなものだろう。さ
らに、糖分による補強を失えば水の浸食も早くなる。
糖分による補強が失われることは、その形を維持していられなくなる。糊付けされたシャ
ツはピシッとしているが、そうでなければすぐクシャクシャになるようなものだろう。さ
らに、糖分による補強を失えば水の浸食も早くなる。
水上まりさの発見報告は、列島北部や標高の高い地点などがほとんどなのだとか。どう
やら、一年を通して水が冷たい場所に限るらしい。数少ない南側での発見報告でも、いず
れも標高が高く、冷たい湧水で著名な土地。湧水目当ての観光客に持て囃されたり、水場
を汚すと問題が起こっていたりと話題にもなっているのだとか。
やら、一年を通して水が冷たい場所に限るらしい。数少ない南側での発見報告でも、いず
れも標高が高く、冷たい湧水で著名な土地。湧水目当ての観光客に持て囃されたり、水場
を汚すと問題が起こっていたりと話題にもなっているのだとか。
“教育されたまりさ達”の帽子は、その外面──ボートとして使用した際に水と接する
部分──に、手を加えてあるのだという。撥水効果も高く、熱にも強い素材。グラスコー
ティングと言って、なんとガラス素材での表面保護加工をしてあるのだとか。ほぼ無味無
臭なため、加工後も持ち主であるゆっくり達は嫌がらないこと。美しい艶が生まれるため、
その点は喜ぶということ。また、コーティングによって硬度も増すため、美しい形が維持
される点も、ゆっくり達には喜ばしいことらしい。そして、先に挙げた高い撥水性と、必
要十分の耐熱性。
利点は多くある。
グラスコーティングというと、車や外壁に対して行うものだと思っていたが、紙や布に
も行われているのだとか。紙なり布なりをコーティングし、汚れはもちろん耐燃・耐火性
を高め、照明に活用するなど、用途は様々らしい。
部分──に、手を加えてあるのだという。撥水効果も高く、熱にも強い素材。グラスコー
ティングと言って、なんとガラス素材での表面保護加工をしてあるのだとか。ほぼ無味無
臭なため、加工後も持ち主であるゆっくり達は嫌がらないこと。美しい艶が生まれるため、
その点は喜ぶということ。また、コーティングによって硬度も増すため、美しい形が維持
される点も、ゆっくり達には喜ばしいことらしい。そして、先に挙げた高い撥水性と、必
要十分の耐熱性。
利点は多くある。
グラスコーティングというと、車や外壁に対して行うものだと思っていたが、紙や布に
も行われているのだとか。紙なり布なりをコーティングし、汚れはもちろん耐燃・耐火性
を高め、照明に活用するなど、用途は様々らしい。
「難点としては、成体のゆっくりに対してしか使用できないことです。ゆっくり達自身に
は、コーティングした面のメンテナンスは出来なくなります。今、水上にいる彼らも、コ
ーティング処理してからは、もっぱら内側を整えるために舐めるだけですし」
は、コーティングした面のメンテナンスは出来なくなります。今、水上にいる彼らも、コ
ーティング処理してからは、もっぱら内側を整えるために舐めるだけですし」
確かに、そうだろう。ガラス素材の表面加工を施してしまっては、大きさを変えること
なんて出来なくなるに違いない。
私としては、どうしても費用面などが気になってしまうが……まぁ、その点は自分でも
調べられるから、今ここで質問する必要はないか。
なんて出来なくなるに違いない。
私としては、どうしても費用面などが気になってしまうが……まぁ、その点は自分でも
調べられるから、今ここで質問する必要はないか。
「水上まりさ達にとって、もう一つ大切な要素があるのですが……あの状況では、見てい
ただくことは難しそうですね」
ただくことは難しそうですね」
残念そうに溜め息をつく学者くんに、小僧くんが「すみません」と謝った。だから、君
が謝るようなことでもないでしょうに。
二人が揃って“処分対象のまりさ”の目をやったので、私もそちらへ改めて目を向ける。
が謝るようなことでもないでしょうに。
二人が揃って“処分対象のまりさ”の目をやったので、私もそちらへ改めて目を向ける。
「ゆぁあああ!? おぼうしさんっ!? げんき だすんだぜ! そんな かっこうわるい
おぼうしさんは、まりささま の おぼうしさん しっかく なんだぜ!?」
おぼうしさんは、まりささま の おぼうしさん しっかく なんだぜ!?」
水面を漂う帽子は、温水にすっかり温められ、フニャフニャと形を維持できないくらい
に柔らかくなってしまっているようだ。ユラユラと流されながら、頼りなく形を変え続け
ている。
に柔らかくなってしまっているようだ。ユラユラと流されながら、頼りなく形を変え続け
ている。
「でも、おぼうしさんが ないと まりささまは こまるんだぜ! はやく げんきになって
こっちにくるんだぜ!」
こっちにくるんだぜ!」
いくら言っても答えてくれない、自ら動くことなどあるはずもない相手だと言うことを、
いつまで経っても理解しないまま、自分中心の発言を繰り返している。
いつまで経っても理解しないまま、自分中心の発言を繰り返している。
そんな“処分対象のまりさ”の帽子は、少しずつプールサイドから離れていっているよ
うだ。
プールの底で、ぐるりと一周するように流れが作られているということは、緩やかでは
あるが大きな一つの渦とも言えるわけだ。当然、回りながら徐々に中央へと寄せられてい
くことになるだろう。
うだ。
プールの底で、ぐるりと一周するように流れが作られているということは、緩やかでは
あるが大きな一つの渦とも言えるわけだ。当然、回りながら徐々に中央へと寄せられてい
くことになるだろう。
「おぼうしさんっ!? なんで まりささま の いうことを きかないんだぜ!? もう、
おこったんだぜ! こうなったら、まりささまの『すーぱーじゃんぷ』をみせてやるんだ
ぜ!」
おこったんだぜ! こうなったら、まりささまの『すーぱーじゃんぷ』をみせてやるんだ
ぜ!」
なにやら叫んでいる“処分対象のまりさ”の声に、小僧くんが「結局、最後は自殺か」
とボソッと呟いた。
その言葉の通り、“処分対象のまりさ”は助走を付けて、プールサイドから跳躍した。
自分の帽子へと真っ直ぐに跳んでいるし、飛距離もゆっくりにしてはたいしたものだ。
とボソッと呟いた。
その言葉の通り、“処分対象のまりさ”は助走を付けて、プールサイドから跳躍した。
自分の帽子へと真っ直ぐに跳んでいるし、飛距離もゆっくりにしてはたいしたものだ。
「まりさ! すーぱー・じゃーーーーんぷ! なのぜ!! そして! おぼうしさんへと、
かれいに ちゃくち……」
かれいに ちゃくち……」
ズボンッ!ともドボンッ!とも取れる音を立てて、水中へと消えた。
「ぶはっ!? ごぶ! ばっ!? ばんべっ!? ばんっ……!! なんでぇえええ!?」
小僧くんが「なんでじゃねーだろ」と呆れた声で呟くのが聞こえた。まったくもって、
私も同意見だ。
勢いよく飛び移れば、ちゃんとしたボートでもぐらつくし、転覆する場合だってあるだ
ろう。ましてや、ゆっくりの身一つを支えるのが精一杯の帽子で、さらには温められ、ゆ
るゆるに解けかけていたのだから。
表情をまるで変えていない学者くんが、静かな口調で話し始めた。
私も同意見だ。
勢いよく飛び移れば、ちゃんとしたボートでもぐらつくし、転覆する場合だってあるだ
ろう。ましてや、ゆっくりの身一つを支えるのが精一杯の帽子で、さらには温められ、ゆ
るゆるに解けかけていたのだから。
表情をまるで変えていない学者くんが、静かな口調で話し始めた。
「糖分が融解し解けかけた帽子には、ゆっくりを支えるだけの浮力を維持できなかったか
ら……ではあるのですが、仮にあのまりさが上手く帽子へと乗っていたとしても、水上を
行き続けることは不可能に近かったはずです」
ら……ではあるのですが、仮にあのまりさが上手く帽子へと乗っていたとしても、水上を
行き続けることは不可能に近かったはずです」
帽子そのものの浮力は、ゆっくりを支え得るほどのものではないのだという。帽子が抱
え込んでいる空気こそが、ゆっくりを水上へと浮かべられる浮力となる。
鉄で出来た船が水上に浮かぶ理由と、同じなのだ。
“教育されたまりさ達”は──そして、おそらくは野生の水上まりさ達も──その体の
底部を、清潔に、荒れなく、滑らかで柔らかいものとして維持し続けることに、もっとも
気を遣っているのだとか。
底部が柔らかく滑らかである必要性は、帽子に載ったときにピッタリと密着するため。
密着し、その魔女帽のように大きく突き出した部分にたっぷりと空気を含んだ状態を維持
出来るように。
また、その帽子の方も、通常は見かけることもある柔らかな裏生地などはなく、まりさ
が乗ったときに触れる部分は他よりも厚さが増すほどに念入りに手入れされ、滑らかにさ
れているらしい。
え込んでいる空気こそが、ゆっくりを水上へと浮かべられる浮力となる。
鉄で出来た船が水上に浮かぶ理由と、同じなのだ。
“教育されたまりさ達”は──そして、おそらくは野生の水上まりさ達も──その体の
底部を、清潔に、荒れなく、滑らかで柔らかいものとして維持し続けることに、もっとも
気を遣っているのだとか。
底部が柔らかく滑らかである必要性は、帽子に載ったときにピッタリと密着するため。
密着し、その魔女帽のように大きく突き出した部分にたっぷりと空気を含んだ状態を維持
出来るように。
また、その帽子の方も、通常は見かけることもある柔らかな裏生地などはなく、まりさ
が乗ったときに触れる部分は他よりも厚さが増すほどに念入りに手入れされ、滑らかにさ
れているらしい。
ゆっくりが乗れば、帽子は単体の時よりも水中へと深く入ることになる。帽子そのもの
は柔らかく、容易くクシャクシャに出来てしまうのだから、ちょっとした水圧の変化で形
を崩す。形が崩れれば、その分だけ中に含まれている空気が減り、浮力は減る。浮力が減
ればさらに深く沈み……と、大きく広いツバがあっても、全体が水面下へと沈むことにな
る。
内側へと水が入ってくれば当然、もう保たない。ゆっくりごと水中へと沈んでいくこと
になるのだ。
ピタリと密着し空気を逃さないように、ゆっくり自身が蓋となっていれば、必要な浮力
を失わずに済む。
まりさ達の帽子は、大きく広いツバは水面へと浮いたときの安定性を得るために、その
大きなトンガリ帽子の形状は、中に空気を取り込んでおくためにも役立つし、後部へとや
や折れた円錐形を水中へと突き入れた形になるので、進路を取りやすく安定面でも一役買
っているのだとか。
は柔らかく、容易くクシャクシャに出来てしまうのだから、ちょっとした水圧の変化で形
を崩す。形が崩れれば、その分だけ中に含まれている空気が減り、浮力は減る。浮力が減
ればさらに深く沈み……と、大きく広いツバがあっても、全体が水面下へと沈むことにな
る。
内側へと水が入ってくれば当然、もう保たない。ゆっくりごと水中へと沈んでいくこと
になるのだ。
ピタリと密着し空気を逃さないように、ゆっくり自身が蓋となっていれば、必要な浮力
を失わずに済む。
まりさ達の帽子は、大きく広いツバは水面へと浮いたときの安定性を得るために、その
大きなトンガリ帽子の形状は、中に空気を取り込んでおくためにも役立つし、後部へとや
や折れた円錐形を水中へと突き入れた形になるので、進路を取りやすく安定面でも一役買
っているのだとか。
「なるほどねぇ。上手くできているもんだ。うん、上手くできてますよ」
「水面へと浮かべ、水上を行くものとして考えられ作られた船と比べれば、遙かに不安定
ではあります。ですが、船のように活用するに至っただけの理由は、存在していたんです」
「そういうことなんだねぇ。うん? 先頭を行っていた子が、浮島に到着したようですよ。
おやおや、こちらにお辞儀して。うんうん、行儀の良い子だ」
「水面へと浮かべ、水上を行くものとして考えられ作られた船と比べれば、遙かに不安定
ではあります。ですが、船のように活用するに至っただけの理由は、存在していたんです」
「そういうことなんだねぇ。うん? 先頭を行っていた子が、浮島に到着したようですよ。
おやおや、こちらにお辞儀して。うんうん、行儀の良い子だ」
続々と、“教育されたまりさ達”が浮島へと到着し、こちらへとお辞儀し、クッキーに
ありつき始めている。誰がどのクッキーをどれだけ食べるかということで少々揉めたよう
だが、それもすぐに収まって、みんな仲良く食べているようだ。
それに比べて……
ありつき始めている。誰がどのクッキーをどれだけ食べるかということで少々揉めたよう
だが、それもすぐに収まって、みんな仲良く食べているようだ。
それに比べて……
「ぶべはっ! あっ! あばっ……! あまあばはっ! ぜんぶ、ばびばばばぼ、ぼぼぼ
ぼぼぼ……!!」
ぼぼぼ……!!」
流されながらも浮かび上がろうと必死だった“処分対象のまりさ”は、ついに力尽きた
のか水面に顔を出せなくなったようだ。そのまま、静かに沈み始め、周りの水もジワリと
濁り始める。
暴れているうちに、脆くなった皮のどこかが破れでもしたのだろう。
のか水面に顔を出せなくなったようだ。そのまま、静かに沈み始め、周りの水もジワリと
濁り始める。
暴れているうちに、脆くなった皮のどこかが破れでもしたのだろう。
「このプールの流れは、水質浄化のために必要なものでもあります。ゴミも綺麗に掃除さ
れますから、ご安心を」
れますから、ご安心を」
別にそんな心配をしていたわけではないが、なるほど。いったい何匹のまりさ達が、先
ほどの“処分対象”のように水中へと消え、水を汚してきたのか……想像も付かないが、
かなりの数だろう。
それでも、人手を割かずに水を綺麗な状態に維持できるから、ほとんど学者くんと小僧
くんの二人だけでも、実験を続けられたのだろう。
ほどの“処分対象”のように水中へと消え、水を汚してきたのか……想像も付かないが、
かなりの数だろう。
それでも、人手を割かずに水を綺麗な状態に維持できるから、ほとんど学者くんと小僧
くんの二人だけでも、実験を続けられたのだろう。
「なるほど、なるほど。これはこれで、有用だね。うん、価値ある成果ですよ」
一緒にお風呂へ入る……とは言い難いが、水上まりさに関する研究レポートや、人為に
よってその性能を向上させる手法などは、出資者達に報告するだけの値はある。
それに教育された水上まりさというものも、これはこれで売り物になりそうだ。ただ、
今のところどこに需要があるのかわからないが……
それは、私の仕事だろう。こうなってくると、営業や広報の人員がいかにも手薄だ。
経理・事務には、正規もバイトも不足はないが、これはこれで、ゆっくりの扱いに関し
て研究部署と意識の差があったりして、ちょくちょくトラブルが発生したりもする。
ゆっくりを商品として……モノとして見て平然としていられる人を、営業なり広報なり
で雇った方が良いかもしれない。
よってその性能を向上させる手法などは、出資者達に報告するだけの値はある。
それに教育された水上まりさというものも、これはこれで売り物になりそうだ。ただ、
今のところどこに需要があるのかわからないが……
それは、私の仕事だろう。こうなってくると、営業や広報の人員がいかにも手薄だ。
経理・事務には、正規もバイトも不足はないが、これはこれで、ゆっくりの扱いに関し
て研究部署と意識の差があったりして、ちょくちょくトラブルが発生したりもする。
ゆっくりを商品として……モノとして見て平然としていられる人を、営業なり広報なり
で雇った方が良いかもしれない。
「これとは別に、入浴可能なゆっくりの研究を、これからも続けて良いでしょうか?」
学者くんが、念のためという感じで確認してきた。良いも悪いも、ぜひ継続して欲しい。
それに関しては確かなクライアントがいることだし。
今回の水上まりさに関することも、経過報告及び研究の副産物として提示すれば、喜ん
でもらえるだろう。ゆっくりと一緒に入浴したがるほどの人だから、ひょっとしたら報告
だけでは満足せずに、この水上まりさ達を見学したがるかもしれない。
それに関しては確かなクライアントがいることだし。
今回の水上まりさに関することも、経過報告及び研究の副産物として提示すれば、喜ん
でもらえるだろう。ゆっくりと一緒に入浴したがるほどの人だから、ひょっとしたら報告
だけでは満足せずに、この水上まりさ達を見学したがるかもしれない。
「もちろんだとも。こちらからお願いしたいくらいだ。うん、お願いしますよ。ただねぇ、
学者くんは他にもいろいろ抱えているだろう? 無理はいけない、無理はしないでくださ
いね? 小僧くんもね、ただお手伝いするんじゃなくて、ちゃんと報告するんだよ? お
手当にだって反映しなくちゃならんでしょ」
学者くんは他にもいろいろ抱えているだろう? 無理はいけない、無理はしないでくださ
いね? 小僧くんもね、ただお手伝いするんじゃなくて、ちゃんと報告するんだよ? お
手当にだって反映しなくちゃならんでしょ」
嬉しげな顔で頭を下げる小僧くんに比べ、学者くんの方はまるで表情を動かさず静かに
頭を下げた。
つくづく、感情の読めない子だ。
頭を下げた。
つくづく、感情の読めない子だ。
「この後、飼育スペースで問題ありとされた個体を処分するのですが……所長も、立ち会
われますか?」
われますか?」
顔を上げた学者くんが、これも念のためという感じで問いかけてくる。ゆっくりに対し
て好悪の感情はないが、処分となればきっと悲鳴を聞いたりすることになるだろう。
て好悪の感情はないが、処分となればきっと悲鳴を聞いたりすることになるだろう。
「いや、勘弁勘弁。意気地無しと言われようが、悲鳴を聞いたりするのは私にはきつくて
ね。ええ、心臓に良くない。たとえ、ゆっくりのものだとしてもね。勘弁してください」
ね。ええ、心臓に良くない。たとえ、ゆっくりのものだとしてもね。勘弁してください」
それよりも、見えてきたやるべきことを、一つ一つ検討して、実行に移さなければなら
ない。
後のことは彼らに任せて、私は自分用の事務室へと戻ることにした。
ない。
後のことは彼らに任せて、私は自分用の事務室へと戻ることにした。
─ 所長、事業の広がりを思い描くのこと 了 ─