ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1453 戻れると思ってたの?
最終更新:
ankoss
-
view
・まえがき
この作品は
『anko1448 ある愛護団体の午後』を先にお読みいただくと、より一層楽しめるかと思われます
一応、頭で続きは考えていたので、捨てられたまりさの末路編を書いてみました
期待に添えたかは分かりませんが、ゆっくりしていただければ幸いです
それでは暫しの時間、お付き合い下さいませ
―――
カーテンの隙間から差す朝日を浴びながら、私は気だるげに身体を起こす。
上半身だけを起き上がらせた状態で、伸びをする。
「うーん…いい朝だなぁ。」
子どもの頃、背伸びをすると背が伸びると親に言われていた。
だが、結局私の身長は伸びないまま、155cm手前で止まってしまった。
まだ伸びることを期待しているが、さすがにこの歳で伸びることはないだろう。
「昔から牛乳も飲んでたのに…はぁ。」
朝から暗い気分になるのを首を振ることで払い、ベッドから降りて着替え始めた。
とあるマンションの9階、909号室。
季節は桜が散り始める4月下旬、そして今日は日曜日。
にもかかわらず、こんなにも早く起きてしまったのは、もはや習慣なのだろう。
レンジで温めたミルクの入ったマグカップを両手で包みこみ、吹いて冷ましながら飲む。
いきなり冷たい飲み物を飲むとお腹を下してしまうので、朝は温かい飲み物にしているのだ。
ミルクの温かさを下で楽しみつつ、ほぅ、とため息をつきながら、今日一日の予定を考える。
「うーん…特に予定もないし、ウィンドウショッピングでもしましょう。」
誰もいない部屋で独り言を呟き、うんうんと頷く。
そして店が開きだす時間まで、テレビを見て過ごすことにする。
電源を入れると、丁度朝のニュースが放送されていた。
テレビからニュースキャスターの声が聞こえてくる。
『――ということで、今日は街に蔓延る野良ゆっくりについての特集です。
本日は野良ゆっくりの生態に詳しい方をお呼びしております、
早速お話していただきましょう。専門家の蓮田さん、よろしくお願いします。』
「野良ゆっくり、かぁ…」
近年、ペットとして飼われていたゆっくりが捨てられることが問題となっていることは
私も知っている。以前に比べて、外で見ることが多くなったからだ。
テレビからは、紹介された人物が熱弁を奮っている声が聞こえる。
『えー、野良ゆっくりの大半はですね、捨てた人間の責任は勿論のこと、
ゆっくり自身に責任が大きいんですね、はい。
そもそも飼い主は、ゆっくりが問題を起こしたからこそ捨てるわけですよ、えぇ。
たとえば、勝手に他のゆっくりと繁殖行為を行ったり、
または飼い主を奴隷のように見なしたりですね、はい。恩知らずもいいところですよ。
生態分析家の九頭さんが仰っていたことですが、
ゆっくりは本当に人間の欲望の凝縮体ですね、はい。あとは特徴としてですね、
再び飼いゆっくりに戻りたいという強い欲求を持つわけですよ。
美味しい食べ物、快適な家、そりゃあ一度味わったら
道端では暮らせないでしょうしねぇ。まぁ、いくらそう思っても――』
話はまだ続いている。
「嫌だねー、野良は。あんなのを拾うなら、ペットショップで買う方が良いでしょうに。」
うんうん、と頷き、テレビのチャンネルを回して、他の番組を見て時間を潰した。
―――
午前11時半。
電車を乗り継いで、普段買い物をしている街に出てきた。
日曜日という事もあり、そこかしこには仲睦まじいカップルの姿が見受けられる。
正直な話をすると、一人身には非常に居づらい雰囲気が醸し出されている。
「誰か誘えばよかったかなぁ…うぅ、一人身寂しいのう寂しいのう…」
誰にも聞こえないように呟き、当初の目的を果たすべく、街を歩く。
数時間後。
「一人だと時間を気にしなくていいからいいわね。やっぱり一人が一番だわ!」
片手にコンビニで買ったペットボトルを持ち、活き活きとした表情で私は叫んだ。
数時間前の自分を全否定しているが、そこは気にしないでほしい。
そのおかげで、こうしてゆっくりと店を回る事が出来たのだから。
「今日は買う予定無かったからスルーしたけど、今度来たら買おう、うん。」
こうして先程から独り言を呟いていても怪しまれないのは、
もう片方の手で携帯を持ち、通話中の振りをしているので、大丈夫だろう。いや、そう思いたい。
さて、帰ろうかと駅に向かって歩道橋を歩いていると――
「おでがいじばず!!ばりざをがいゆっぐりにじでぐださい゛い゛ぃ゛ぃ゛!!!」
目の前に薄汚い野良の姿が目に入り、はぁ、とため息をついた。
歩道橋の端の位置に、“それ”はいた。
それ――野良まりさは、酷い有様だった。
身体中が黒く薄汚れており、トレードマークの帽子もくしゃくしゃである。
金髪の髪にもゴミが絡みついており、不衛生極まりない。
まさしく野良、という見た目だった。番や子どもの姿は周りには見えない。
まりさの前を通る人は、皆眉をしかめ、嫌なものを見たとばかりの目線を送る。
無論それは、私も例外ではなかった。
「はぁ、楽しい気分で今日が終わると思ったのに、最悪…」
再びため息をつき、未だに叫んでいるまりさの横を通り過ぎようとした時、
「ぞごのおねえざん!ばりざのおはなじをぎいでくだざい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
呼び止められてしまった、全くもってついてない。
この時、野良の言う事など無視してそのまま帰ってしまえばよかったのかもしれない。
だが、今日の朝のニュースを見たことと、
今日一日誰とも話していないことも関係あったのか、私はこのまりさの話を聞いてみることにした。
「私に何か用?何も無いんだったら、帰りたいんだけど。」
しゃがみこむことはせず、あくまでも優劣を示すように見下ろす。
通行人の視線が痛いが、気にしない気にしない。
「おねえざん゛ん゛ん゛!!ばりざをがいゆっぐりにじでぐだざいぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!
ごはんざんもごぼじまぜんじ、といれもじっかりでぎまず!!
それに、おねえざんをゆっぐりざぜまずがらああぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
辺りに汁を飛ばしながら、まりさは泣きだした。しゃがまなくて正解だったと胸中で呟く。
「飼うかどうかは、君の身の上話…あー、理解できないか。今まで何をしてきたかを
聞いてから判断するよ。もし面白かったら、考えてあげないことも無いけど、どうする?」
ゆぐっゆぐっ、と言って少しずつ泣きやみながら、一度キリッとした表情をして、まりさは口を開いた。
「まりさはもときんばっじゆっくりだったんだよ…でも、ありすとすっきりーしようとしたら
にんげんにみつかって、おばさんにすてられちゃったんだよおぉぉ!!
それからまりさは、ゆうかんにいきていこうとして――」
この後も誇張された戯言が続くので、頭で整理してみる。
このまりさは元・金バッジゆっくりで、ありすとすっきりしようとしたら見つかり、
飼い主のおばさんに捨てられたらしい。今日の朝のニュースで言っていたケースそのものだ。
その後、野良として生きようと決意し、狩り―――という名のゴミ漁り―――をしていた
ところを野良のれいむに見初められ、永遠にゆっくりしようと誓ったのだそうだ。
子どもも出来て幸せの絶頂期だったが長くは続かず、人間に対して正当な対価―――
どうせ、可愛いちびちゃんを見たから、あまあまちょうだいね!であろう―――を
主張したら、その人間に連れて行かれ、まりさ以外の家族が殺された後、
まりさだけを蹴り飛ばして捨てたらしい。
そして野良としてまた生きようとしたが、見た目がゆっくり出来ないと言われ、
かつて仲良くしていた野良仲間にも迫害され、今に至るらしい。
なんというか、自業自得としか言いようがなかった。
15分前後もそこそこ真面目に話を聞いていた私が馬鹿ではないか。
ため息を漏らした私に対して、まりさは気を持ち直したらしく、キリッとした目で言った。
「まりさはちゃんとおはなししたんだぜ!ぼうけんたんっをきいてゆっくりしたんだから、
さっさとまりささまをいえにつれてかえるのぜ!!はやくするんだぜ!!
…ゆあぁん?おねえさんはしっかりきいてるのかぜ?!まりささまをむし
するんじゃないのぜえぇぇ!!!」
考えないことはない、と言っただけなのに、既に飼ってもらう気満々である。
しかも、コイツ「だぜまりさ」じゃないの…元・金バッジなのに?
って、野良の話を鵜呑みにしてどうする、私。どうせ金バッジだとかは虚構であろう。
「はぁ…あのね、まりさ。私は考えるとは言ったけど、飼うとは言ってないよ?
それに――」
そこでまりさが口を挟んだので、私は会話を中断させられた。
「ゆはあぁぁぁ!?おねえさんはあんこのうなのぜ!?しぬのぜ?!
さっきかうっていったのをわすれるなんて、おおおろかおろか!!
じぶんのむのうさをりかいしたら、さっさとまりささまをいえに
つれていくのぜ!!あまあまとびゆっくりもよういするんだぜ!!!」
駄目だ、会話が成り立たない。もう無視して帰ろうか…。
いや、こうなったらとことん追い詰めてから帰ろう。なんだかさっきから罵倒されてるし。
―――
頭でそれを考えてからは、早かった。早速行動に移すことにする。
「まりさ、人の話を聞きなさい。金バッジならそれくらい出来るでしょう?
もし出来ないなら、私はこのまま放っておいて帰るけど、それでもいいのね?」
放って帰る、に反応してすぐさま文句を言おうとしたが、「ゆぎぎぎ」と
呟くことで堪えたようだ。よほど飼いゆっくりになりたいらしい。
「ゆっ…ゆっくりりかいしたんだぜ。それならはやくおねえさんははなすのぜ!!」
未だに上下関係を理解していないが、それは仕方ないか。これから分からせてやる。
「じゃあ聞くけど。まりさ、あなたは何故捨てられたか理解してる?
理由は分かってるだろうけど、何処が悪かったのか言える?」
「まりささまはなにもわるくないんだぜえぇぇぇ!!!
おばさんがありすとすっきりーしろっていうからしようとしたんだぜぇぇぇ!!!!
なのにどうしてまりささまがすてられなくちゃならないんだぜえぇぇぇ!!??」
ん…よく分からないけど、飼い主がすっきりしろと命令しておいて、
しようとしたら怒られたって解釈でいいのかな?話だけ聞けば確かに理不尽ではあるが、
所詮ゆっくりの話だ、真に受けるわけにはいかない。次の質問だ。
「ふーん、そうなんだ。で、次の質問だけど、飼いゆっくりになったら、
まりさは私に何をしてくれるの?お姉さんが納得出来るような理由で答えてくれる?」
私の質問に対して、脊髄反射とも言うべき速度でまりさが答えた。
「かいゆっくりはゆっくりできるんだぜ!だからおねえさんもゆっくりできるのぜ!!」
「それじゃ納得出来ないよ。ゆっくりを飼ってゆっくり出来るなら、わざわざ捨てるような
人はいないでしょう?まりさが捨てられたのはどうして?ゆっくり出来なかったからよ。
まりさのしてくれることはそれだけ?それなら私はもう帰るけど…。」
「ま、まつんだぜ!まだあるんだぜ!!ゆっくりまつのぜ!!」
するとまりさは、ゆんゆん唸りながら考え出した。落ち着くのかは知らないが、
唸りながら身体を上下に伸縮しているので、見ている側としては非常に気持ち悪い、主に身体が。
不快さを顔に出しつつ待っていると、ゆっ!と一声鳴き、まりさは口を開いた。
「まりさをかえば、いっしょにあまあまをたべてあげるのぜ!!
ひとりよりも、みんなでたべるほうがゆっくりできるのぜ!!!」
「そのあまあまは誰が用意するの?私でしょ。まりさはただ待ってるだけなの?
馬鹿なの?死ぬの?そんなゆっくりだったら、私は飼いたくないなー。」
「ゆぐぐぐ…!ま、まだまだあるのぜ!!ちょっとまつのぜ!!!」
そしてまたゆんゆん唸りだした、身体の動きと同時に。
唸って考えないと出てこないなら、駄目じゃないかな…。
その後も、まりさの思いつきの答えは続いた。
「まりささまはきんばっじなのぜ!ぱちゅりーなんかよりあたまがいいのぜ!!
まりささまがおねえさんのおべんきょうをてつだってあげるのぜ!!」
「25×12はいくつ?答えられる?金バッジ試験では一桁の掛け算までってテレビで聞いたけど。」
「ま…まりささまはかりのめいじんなんだぜ!!まいにちおねえさんのために
ごはんさんをさがしてきてあげるのぜ!!!」
「狩りって言っても、ゴミ箱を漁るだけでしょ?それに、人間はゴミなんて食べないし。
あと、ゴミを散らかされえると近所迷惑だから、余計飼いたくないんだけど。」
「ま…まりさはつよいんだぜ!!このきのぼうさんでねこさんをたおしたんだぜ!!
これからはおねえさんをまもってあげるんだぜ!!!」
「お姉さんは誰にも襲われないから大丈夫よ。猫は何故か懐いてくるし。
それより、強いならどうしてその棒で家族を守らなかったの?どうして家族を
見殺しにしたの?家族を大切にしないゆっくりを飼うのはちょっと…。」
「まり、さは……まりさは……」
どうやらついにネタ切れらしく、俯いて同じ言葉を繰り返している。
こんなもんかぁ…うーん、大した答えも出ないし、期待しすぎたかな?
まだ呟きを繰り返しているまりさに、私は再び話しかける。
「どうやらまりさは何も出来ないみたいね、飼いゆっくりにしてあげようと
思ったのに、残念だなぁ…。まだ何か言いたいことはある?」
するとまりさは顔を僅かに上げ、途切れ途切れに言葉を発した。
「ま…まってね…まだあるからまってね…かいゆっくりにしてね…
あまあまと……びゆっくり、と…まりさのゆっくりぷれいす……」
飼いゆっくりへの執念かは知らないけど、こういうところだけは無駄に凄いと思う。
でもま、そろそろ飽きちゃったし帰ろうかな。っとと、その前に…
―――
「ねぇまりさ、最後に一つだけ質問するけど、これに答えられたら特別に
飼いゆっくりにしてあげてもいいよ。どうする?質問を聞く?」
すると、濁った瞳に少しだけ火が灯り、伏し目がちだった顔も
まっすぐとこちらに上げられ、聞く姿勢になったようだ。
「き、く…きくよ…だから、はやくしつもんしてね……
こたえたら、しっかり…やくそくまもって、ね……
あまあま……あまあま………」
よしよし、少しは立ち直ったみたいだね。
そうじゃないと、砕き甲斐がなくてつまらないもんね。
「じゃあ聞くね、まりさ。まりさはさっきから飼いゆっくりになりたいって
言ってるけど、どうしてなりたいの?いや、そもそも――
本当に飼いゆっくりに戻れると思ってたの?」
「………ゆぅ?」
「いやさ、ゆぅ?じゃなくて、本当に飼いゆっくりになれると思ってたの?
まりさ、自分をよく見てみなよ。
体は黒ずんでて、お飾りの帽子はぐちゃぐちゃ。
髪の毛だってゴミがついてて汚いし、とても触りたいとは思わないよ。
それにさっきから『ゆっくりさせます』だの『手伝ってあげる』だの『守ってあげる』
だの言ってるけどさ、そこから既に間違っていることは理解できる?
させる、だの。あげる、じゃなくて。『させていただきます』でしょ?
あのね、まりさ。人間とゆっくりは対等だと勘違いしてない?
確かに善良なゆっくりに関しては、対等の関係でもいいかもしれない。
でも、まりさはどう?汚いし善良じゃないし、その上野良でしょ?
それとも、自分は特別だって思いこんで、対等だって勘違いしちゃったのかな。」
「ゆぐぐぐ…まりさは……」
「金バッジだ、って言いたいの?じゃあ、金バッジってことにしてあげる。
だとしたらさ、どうして金バッジなのに、捨てられるようなことをしたの?
金バッジなら、していいことと悪いことの違いくらい分かるでしょうに。
…ねぇ、お姉さん間違ったこと言ってるかな?何か言ってよ、まりさ。」
畳み掛けたのはいいものの、理解出来てるのか不安になってしまう。
だが、どうやら打ちひしがれている様を見るに、理解は出来ているらしい。
反論しないのは、自分も認め始めているが故か、それとも反論出来ないのか。
だが、どちらでも良いことだ。早く切り上げて帰る事にしよう。
「残念だけど、私はまりさを飼ってあげられないよ。でも、お姉さんは
まりさがこれからもここで人に声をかけることは止めはしないよ。
飼いゆっくりになりたいんだからね、それなら頑張るしかないね。
まぁ、いくらそう思っても――」
自然に私は、今朝のニュースで聞いたセリフをそのまま口に出していた。
「無駄だと思うけどね、飼いゆっくりに戻るなんてさ。それに、ゆっくりを
飼いたい人だったら、まずはペットショップに行くだろうし。
一度手にした幸福を、当たり前のものとして過ごしてたのが悪いんだよ。
もっと飼いゆっくりとして然るべきことをしていれば、
こんなことにはならなかったかもしれないのにね。
じゃあねまりさ、飼いゆっくりになれるといいね。」
そして私は、固まったままのまりさを放置して、再び歩き出す。
後ろからは、再び私を呼びとめる声は、もう聞こえなかった。
―――
その帰り、私はペットショップに寄ってみた。
金バッジのゆっくりは、どれ程の値段がするのかを確かめるためだ。
以前、テレビで取り上げられていた気がするが、その日は見逃してしまった。
店員さんに案内されたショーケースを眺め、
その隅に掛けられていた値札を見て、私は驚きを隠せなかった。
「や、安くて十万円もするんですね、金バッジゆっくりって…。」
「金バッジともなると、飼い主さんに迷惑をかけないように徹底的に教育
されていますからね。この様なお値段になってしまうんですよ。ですが、
しっかり教育されているだけあって、不満も言いませんし、飼いやすい
事は保証致しますよ。」
にこやかな営業スマイルで、店員さんはその様に言った。
だとしたら、あのまりさは飼われている間にああなったのか…。
ペットショップから出て、私ははぁ、とため息をついた。
「ゆっくりかぁ…確かに可愛いけど、高いなぁ…。」
そう、いつの間にか値段確認をしに来たつもりが、
すっかりゆっくりの虜となってしまっていた。
金バッジ故かもしれないが、ショップのゆっくりは笑顔も実に愛らしく、好感が持てた。
とはいえ、お金は出来るだけかけたくない。野良などもっての外だ。
安いゆっくりを買おうとしたら、
「銅は飼いゆっくりの証明みたいなもので、教育はされてません。
正直、初めて飼われるお客様では、飼育は少し難しいかと…。」
と言われてしまい、そのまま出てきたわけだ。
「うーん、どこかにゆっくりを譲ってくれる人はいないかな…あ、そういえば。」
ふと、同じ学部の異性が、ゆっくりの引き取り手が云々と言っていた事を思い出した。
早速電話をかけてみると、一匹譲ってくれるとの事だった。
「ただ、道具は渡せないから、それは近くのショップで買ってね。必要なのは――」
「うん、うん。分かった、ありがとね!それじゃ、明日お願い~。」
電話を切って、小さくガッツポーズをする。
ゆっくり自体を買わなくて済むなら、道具くらいは安いものだ。
「教育はしてくれてるみたいだけど、どんな子が来るのかなぁ…。
ありすの好きな食べ物ってなんだろう、ついでに店員さんに聞いてみよっと。」
そして私は、今出たばかりのペットショップへの道を戻り始めた。
今日会ったまりさのようには絶対にしないと、心に誓って。
完
―――
・あとがき
虐待が無い上、あまりすっきりした終わり方にはなっていませんね
そろそろ虐待を書きたいぞー、ということで次は虐待物になると思います
一作目 anko988 横バンジー
二作目 削除しました
三作目 anko1295 縁日に行こう
四作目 anko1448 ある愛護団体の午後
この作品は
『anko1448 ある愛護団体の午後』を先にお読みいただくと、より一層楽しめるかと思われます
一応、頭で続きは考えていたので、捨てられたまりさの末路編を書いてみました
期待に添えたかは分かりませんが、ゆっくりしていただければ幸いです
それでは暫しの時間、お付き合い下さいませ
―――
カーテンの隙間から差す朝日を浴びながら、私は気だるげに身体を起こす。
上半身だけを起き上がらせた状態で、伸びをする。
「うーん…いい朝だなぁ。」
子どもの頃、背伸びをすると背が伸びると親に言われていた。
だが、結局私の身長は伸びないまま、155cm手前で止まってしまった。
まだ伸びることを期待しているが、さすがにこの歳で伸びることはないだろう。
「昔から牛乳も飲んでたのに…はぁ。」
朝から暗い気分になるのを首を振ることで払い、ベッドから降りて着替え始めた。
とあるマンションの9階、909号室。
季節は桜が散り始める4月下旬、そして今日は日曜日。
にもかかわらず、こんなにも早く起きてしまったのは、もはや習慣なのだろう。
レンジで温めたミルクの入ったマグカップを両手で包みこみ、吹いて冷ましながら飲む。
いきなり冷たい飲み物を飲むとお腹を下してしまうので、朝は温かい飲み物にしているのだ。
ミルクの温かさを下で楽しみつつ、ほぅ、とため息をつきながら、今日一日の予定を考える。
「うーん…特に予定もないし、ウィンドウショッピングでもしましょう。」
誰もいない部屋で独り言を呟き、うんうんと頷く。
そして店が開きだす時間まで、テレビを見て過ごすことにする。
電源を入れると、丁度朝のニュースが放送されていた。
テレビからニュースキャスターの声が聞こえてくる。
『――ということで、今日は街に蔓延る野良ゆっくりについての特集です。
本日は野良ゆっくりの生態に詳しい方をお呼びしております、
早速お話していただきましょう。専門家の蓮田さん、よろしくお願いします。』
「野良ゆっくり、かぁ…」
近年、ペットとして飼われていたゆっくりが捨てられることが問題となっていることは
私も知っている。以前に比べて、外で見ることが多くなったからだ。
テレビからは、紹介された人物が熱弁を奮っている声が聞こえる。
『えー、野良ゆっくりの大半はですね、捨てた人間の責任は勿論のこと、
ゆっくり自身に責任が大きいんですね、はい。
そもそも飼い主は、ゆっくりが問題を起こしたからこそ捨てるわけですよ、えぇ。
たとえば、勝手に他のゆっくりと繁殖行為を行ったり、
または飼い主を奴隷のように見なしたりですね、はい。恩知らずもいいところですよ。
生態分析家の九頭さんが仰っていたことですが、
ゆっくりは本当に人間の欲望の凝縮体ですね、はい。あとは特徴としてですね、
再び飼いゆっくりに戻りたいという強い欲求を持つわけですよ。
美味しい食べ物、快適な家、そりゃあ一度味わったら
道端では暮らせないでしょうしねぇ。まぁ、いくらそう思っても――』
話はまだ続いている。
「嫌だねー、野良は。あんなのを拾うなら、ペットショップで買う方が良いでしょうに。」
うんうん、と頷き、テレビのチャンネルを回して、他の番組を見て時間を潰した。
―――
午前11時半。
電車を乗り継いで、普段買い物をしている街に出てきた。
日曜日という事もあり、そこかしこには仲睦まじいカップルの姿が見受けられる。
正直な話をすると、一人身には非常に居づらい雰囲気が醸し出されている。
「誰か誘えばよかったかなぁ…うぅ、一人身寂しいのう寂しいのう…」
誰にも聞こえないように呟き、当初の目的を果たすべく、街を歩く。
数時間後。
「一人だと時間を気にしなくていいからいいわね。やっぱり一人が一番だわ!」
片手にコンビニで買ったペットボトルを持ち、活き活きとした表情で私は叫んだ。
数時間前の自分を全否定しているが、そこは気にしないでほしい。
そのおかげで、こうしてゆっくりと店を回る事が出来たのだから。
「今日は買う予定無かったからスルーしたけど、今度来たら買おう、うん。」
こうして先程から独り言を呟いていても怪しまれないのは、
もう片方の手で携帯を持ち、通話中の振りをしているので、大丈夫だろう。いや、そう思いたい。
さて、帰ろうかと駅に向かって歩道橋を歩いていると――
「おでがいじばず!!ばりざをがいゆっぐりにじでぐださい゛い゛ぃ゛ぃ゛!!!」
目の前に薄汚い野良の姿が目に入り、はぁ、とため息をついた。
歩道橋の端の位置に、“それ”はいた。
それ――野良まりさは、酷い有様だった。
身体中が黒く薄汚れており、トレードマークの帽子もくしゃくしゃである。
金髪の髪にもゴミが絡みついており、不衛生極まりない。
まさしく野良、という見た目だった。番や子どもの姿は周りには見えない。
まりさの前を通る人は、皆眉をしかめ、嫌なものを見たとばかりの目線を送る。
無論それは、私も例外ではなかった。
「はぁ、楽しい気分で今日が終わると思ったのに、最悪…」
再びため息をつき、未だに叫んでいるまりさの横を通り過ぎようとした時、
「ぞごのおねえざん!ばりざのおはなじをぎいでくだざい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
呼び止められてしまった、全くもってついてない。
この時、野良の言う事など無視してそのまま帰ってしまえばよかったのかもしれない。
だが、今日の朝のニュースを見たことと、
今日一日誰とも話していないことも関係あったのか、私はこのまりさの話を聞いてみることにした。
「私に何か用?何も無いんだったら、帰りたいんだけど。」
しゃがみこむことはせず、あくまでも優劣を示すように見下ろす。
通行人の視線が痛いが、気にしない気にしない。
「おねえざん゛ん゛ん゛!!ばりざをがいゆっぐりにじでぐだざいぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!
ごはんざんもごぼじまぜんじ、といれもじっかりでぎまず!!
それに、おねえざんをゆっぐりざぜまずがらああぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
辺りに汁を飛ばしながら、まりさは泣きだした。しゃがまなくて正解だったと胸中で呟く。
「飼うかどうかは、君の身の上話…あー、理解できないか。今まで何をしてきたかを
聞いてから判断するよ。もし面白かったら、考えてあげないことも無いけど、どうする?」
ゆぐっゆぐっ、と言って少しずつ泣きやみながら、一度キリッとした表情をして、まりさは口を開いた。
「まりさはもときんばっじゆっくりだったんだよ…でも、ありすとすっきりーしようとしたら
にんげんにみつかって、おばさんにすてられちゃったんだよおぉぉ!!
それからまりさは、ゆうかんにいきていこうとして――」
この後も誇張された戯言が続くので、頭で整理してみる。
このまりさは元・金バッジゆっくりで、ありすとすっきりしようとしたら見つかり、
飼い主のおばさんに捨てられたらしい。今日の朝のニュースで言っていたケースそのものだ。
その後、野良として生きようと決意し、狩り―――という名のゴミ漁り―――をしていた
ところを野良のれいむに見初められ、永遠にゆっくりしようと誓ったのだそうだ。
子どもも出来て幸せの絶頂期だったが長くは続かず、人間に対して正当な対価―――
どうせ、可愛いちびちゃんを見たから、あまあまちょうだいね!であろう―――を
主張したら、その人間に連れて行かれ、まりさ以外の家族が殺された後、
まりさだけを蹴り飛ばして捨てたらしい。
そして野良としてまた生きようとしたが、見た目がゆっくり出来ないと言われ、
かつて仲良くしていた野良仲間にも迫害され、今に至るらしい。
なんというか、自業自得としか言いようがなかった。
15分前後もそこそこ真面目に話を聞いていた私が馬鹿ではないか。
ため息を漏らした私に対して、まりさは気を持ち直したらしく、キリッとした目で言った。
「まりさはちゃんとおはなししたんだぜ!ぼうけんたんっをきいてゆっくりしたんだから、
さっさとまりささまをいえにつれてかえるのぜ!!はやくするんだぜ!!
…ゆあぁん?おねえさんはしっかりきいてるのかぜ?!まりささまをむし
するんじゃないのぜえぇぇ!!!」
考えないことはない、と言っただけなのに、既に飼ってもらう気満々である。
しかも、コイツ「だぜまりさ」じゃないの…元・金バッジなのに?
って、野良の話を鵜呑みにしてどうする、私。どうせ金バッジだとかは虚構であろう。
「はぁ…あのね、まりさ。私は考えるとは言ったけど、飼うとは言ってないよ?
それに――」
そこでまりさが口を挟んだので、私は会話を中断させられた。
「ゆはあぁぁぁ!?おねえさんはあんこのうなのぜ!?しぬのぜ?!
さっきかうっていったのをわすれるなんて、おおおろかおろか!!
じぶんのむのうさをりかいしたら、さっさとまりささまをいえに
つれていくのぜ!!あまあまとびゆっくりもよういするんだぜ!!!」
駄目だ、会話が成り立たない。もう無視して帰ろうか…。
いや、こうなったらとことん追い詰めてから帰ろう。なんだかさっきから罵倒されてるし。
―――
頭でそれを考えてからは、早かった。早速行動に移すことにする。
「まりさ、人の話を聞きなさい。金バッジならそれくらい出来るでしょう?
もし出来ないなら、私はこのまま放っておいて帰るけど、それでもいいのね?」
放って帰る、に反応してすぐさま文句を言おうとしたが、「ゆぎぎぎ」と
呟くことで堪えたようだ。よほど飼いゆっくりになりたいらしい。
「ゆっ…ゆっくりりかいしたんだぜ。それならはやくおねえさんははなすのぜ!!」
未だに上下関係を理解していないが、それは仕方ないか。これから分からせてやる。
「じゃあ聞くけど。まりさ、あなたは何故捨てられたか理解してる?
理由は分かってるだろうけど、何処が悪かったのか言える?」
「まりささまはなにもわるくないんだぜえぇぇぇ!!!
おばさんがありすとすっきりーしろっていうからしようとしたんだぜぇぇぇ!!!!
なのにどうしてまりささまがすてられなくちゃならないんだぜえぇぇぇ!!??」
ん…よく分からないけど、飼い主がすっきりしろと命令しておいて、
しようとしたら怒られたって解釈でいいのかな?話だけ聞けば確かに理不尽ではあるが、
所詮ゆっくりの話だ、真に受けるわけにはいかない。次の質問だ。
「ふーん、そうなんだ。で、次の質問だけど、飼いゆっくりになったら、
まりさは私に何をしてくれるの?お姉さんが納得出来るような理由で答えてくれる?」
私の質問に対して、脊髄反射とも言うべき速度でまりさが答えた。
「かいゆっくりはゆっくりできるんだぜ!だからおねえさんもゆっくりできるのぜ!!」
「それじゃ納得出来ないよ。ゆっくりを飼ってゆっくり出来るなら、わざわざ捨てるような
人はいないでしょう?まりさが捨てられたのはどうして?ゆっくり出来なかったからよ。
まりさのしてくれることはそれだけ?それなら私はもう帰るけど…。」
「ま、まつんだぜ!まだあるんだぜ!!ゆっくりまつのぜ!!」
するとまりさは、ゆんゆん唸りながら考え出した。落ち着くのかは知らないが、
唸りながら身体を上下に伸縮しているので、見ている側としては非常に気持ち悪い、主に身体が。
不快さを顔に出しつつ待っていると、ゆっ!と一声鳴き、まりさは口を開いた。
「まりさをかえば、いっしょにあまあまをたべてあげるのぜ!!
ひとりよりも、みんなでたべるほうがゆっくりできるのぜ!!!」
「そのあまあまは誰が用意するの?私でしょ。まりさはただ待ってるだけなの?
馬鹿なの?死ぬの?そんなゆっくりだったら、私は飼いたくないなー。」
「ゆぐぐぐ…!ま、まだまだあるのぜ!!ちょっとまつのぜ!!!」
そしてまたゆんゆん唸りだした、身体の動きと同時に。
唸って考えないと出てこないなら、駄目じゃないかな…。
その後も、まりさの思いつきの答えは続いた。
「まりささまはきんばっじなのぜ!ぱちゅりーなんかよりあたまがいいのぜ!!
まりささまがおねえさんのおべんきょうをてつだってあげるのぜ!!」
「25×12はいくつ?答えられる?金バッジ試験では一桁の掛け算までってテレビで聞いたけど。」
「ま…まりささまはかりのめいじんなんだぜ!!まいにちおねえさんのために
ごはんさんをさがしてきてあげるのぜ!!!」
「狩りって言っても、ゴミ箱を漁るだけでしょ?それに、人間はゴミなんて食べないし。
あと、ゴミを散らかされえると近所迷惑だから、余計飼いたくないんだけど。」
「ま…まりさはつよいんだぜ!!このきのぼうさんでねこさんをたおしたんだぜ!!
これからはおねえさんをまもってあげるんだぜ!!!」
「お姉さんは誰にも襲われないから大丈夫よ。猫は何故か懐いてくるし。
それより、強いならどうしてその棒で家族を守らなかったの?どうして家族を
見殺しにしたの?家族を大切にしないゆっくりを飼うのはちょっと…。」
「まり、さは……まりさは……」
どうやらついにネタ切れらしく、俯いて同じ言葉を繰り返している。
こんなもんかぁ…うーん、大した答えも出ないし、期待しすぎたかな?
まだ呟きを繰り返しているまりさに、私は再び話しかける。
「どうやらまりさは何も出来ないみたいね、飼いゆっくりにしてあげようと
思ったのに、残念だなぁ…。まだ何か言いたいことはある?」
するとまりさは顔を僅かに上げ、途切れ途切れに言葉を発した。
「ま…まってね…まだあるからまってね…かいゆっくりにしてね…
あまあまと……びゆっくり、と…まりさのゆっくりぷれいす……」
飼いゆっくりへの執念かは知らないけど、こういうところだけは無駄に凄いと思う。
でもま、そろそろ飽きちゃったし帰ろうかな。っとと、その前に…
―――
「ねぇまりさ、最後に一つだけ質問するけど、これに答えられたら特別に
飼いゆっくりにしてあげてもいいよ。どうする?質問を聞く?」
すると、濁った瞳に少しだけ火が灯り、伏し目がちだった顔も
まっすぐとこちらに上げられ、聞く姿勢になったようだ。
「き、く…きくよ…だから、はやくしつもんしてね……
こたえたら、しっかり…やくそくまもって、ね……
あまあま……あまあま………」
よしよし、少しは立ち直ったみたいだね。
そうじゃないと、砕き甲斐がなくてつまらないもんね。
「じゃあ聞くね、まりさ。まりさはさっきから飼いゆっくりになりたいって
言ってるけど、どうしてなりたいの?いや、そもそも――
本当に飼いゆっくりに戻れると思ってたの?」
「………ゆぅ?」
「いやさ、ゆぅ?じゃなくて、本当に飼いゆっくりになれると思ってたの?
まりさ、自分をよく見てみなよ。
体は黒ずんでて、お飾りの帽子はぐちゃぐちゃ。
髪の毛だってゴミがついてて汚いし、とても触りたいとは思わないよ。
それにさっきから『ゆっくりさせます』だの『手伝ってあげる』だの『守ってあげる』
だの言ってるけどさ、そこから既に間違っていることは理解できる?
させる、だの。あげる、じゃなくて。『させていただきます』でしょ?
あのね、まりさ。人間とゆっくりは対等だと勘違いしてない?
確かに善良なゆっくりに関しては、対等の関係でもいいかもしれない。
でも、まりさはどう?汚いし善良じゃないし、その上野良でしょ?
それとも、自分は特別だって思いこんで、対等だって勘違いしちゃったのかな。」
「ゆぐぐぐ…まりさは……」
「金バッジだ、って言いたいの?じゃあ、金バッジってことにしてあげる。
だとしたらさ、どうして金バッジなのに、捨てられるようなことをしたの?
金バッジなら、していいことと悪いことの違いくらい分かるでしょうに。
…ねぇ、お姉さん間違ったこと言ってるかな?何か言ってよ、まりさ。」
畳み掛けたのはいいものの、理解出来てるのか不安になってしまう。
だが、どうやら打ちひしがれている様を見るに、理解は出来ているらしい。
反論しないのは、自分も認め始めているが故か、それとも反論出来ないのか。
だが、どちらでも良いことだ。早く切り上げて帰る事にしよう。
「残念だけど、私はまりさを飼ってあげられないよ。でも、お姉さんは
まりさがこれからもここで人に声をかけることは止めはしないよ。
飼いゆっくりになりたいんだからね、それなら頑張るしかないね。
まぁ、いくらそう思っても――」
自然に私は、今朝のニュースで聞いたセリフをそのまま口に出していた。
「無駄だと思うけどね、飼いゆっくりに戻るなんてさ。それに、ゆっくりを
飼いたい人だったら、まずはペットショップに行くだろうし。
一度手にした幸福を、当たり前のものとして過ごしてたのが悪いんだよ。
もっと飼いゆっくりとして然るべきことをしていれば、
こんなことにはならなかったかもしれないのにね。
じゃあねまりさ、飼いゆっくりになれるといいね。」
そして私は、固まったままのまりさを放置して、再び歩き出す。
後ろからは、再び私を呼びとめる声は、もう聞こえなかった。
―――
その帰り、私はペットショップに寄ってみた。
金バッジのゆっくりは、どれ程の値段がするのかを確かめるためだ。
以前、テレビで取り上げられていた気がするが、その日は見逃してしまった。
店員さんに案内されたショーケースを眺め、
その隅に掛けられていた値札を見て、私は驚きを隠せなかった。
「や、安くて十万円もするんですね、金バッジゆっくりって…。」
「金バッジともなると、飼い主さんに迷惑をかけないように徹底的に教育
されていますからね。この様なお値段になってしまうんですよ。ですが、
しっかり教育されているだけあって、不満も言いませんし、飼いやすい
事は保証致しますよ。」
にこやかな営業スマイルで、店員さんはその様に言った。
だとしたら、あのまりさは飼われている間にああなったのか…。
ペットショップから出て、私ははぁ、とため息をついた。
「ゆっくりかぁ…確かに可愛いけど、高いなぁ…。」
そう、いつの間にか値段確認をしに来たつもりが、
すっかりゆっくりの虜となってしまっていた。
金バッジ故かもしれないが、ショップのゆっくりは笑顔も実に愛らしく、好感が持てた。
とはいえ、お金は出来るだけかけたくない。野良などもっての外だ。
安いゆっくりを買おうとしたら、
「銅は飼いゆっくりの証明みたいなもので、教育はされてません。
正直、初めて飼われるお客様では、飼育は少し難しいかと…。」
と言われてしまい、そのまま出てきたわけだ。
「うーん、どこかにゆっくりを譲ってくれる人はいないかな…あ、そういえば。」
ふと、同じ学部の異性が、ゆっくりの引き取り手が云々と言っていた事を思い出した。
早速電話をかけてみると、一匹譲ってくれるとの事だった。
「ただ、道具は渡せないから、それは近くのショップで買ってね。必要なのは――」
「うん、うん。分かった、ありがとね!それじゃ、明日お願い~。」
電話を切って、小さくガッツポーズをする。
ゆっくり自体を買わなくて済むなら、道具くらいは安いものだ。
「教育はしてくれてるみたいだけど、どんな子が来るのかなぁ…。
ありすの好きな食べ物ってなんだろう、ついでに店員さんに聞いてみよっと。」
そして私は、今出たばかりのペットショップへの道を戻り始めた。
今日会ったまりさのようには絶対にしないと、心に誓って。
完
―――
・あとがき
虐待が無い上、あまりすっきりした終わり方にはなっていませんね
そろそろ虐待を書きたいぞー、ということで次は虐待物になると思います
一作目 anko988 横バンジー
二作目 削除しました
三作目 anko1295 縁日に行こう
四作目 anko1448 ある愛護団体の午後