ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1111 北方ゆっくり戦史 二つの群れ
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作:神奈子さまの一信徒
群れの統制と群れ同士の争いについて書いてみたくなり、投稿してみました。
注意点:パロディがひどいです。
独自設定満載です。
長いです。
クラシック好きな人への推奨BGM
シベリウス交響曲第6番
『北方ゆっくり戦史 二つの群れ』
プロローグ1
とある北の町に一匹のゆっくりがいた。
ゆっくりを飼っていたのは、昔気質の、質実剛健な独居老人だった。
老人は自分のもとを離れた娘と同じ名前という、だたそれだけの理由でそのゆっく
りを飼っていた。
そのゆっくりは老人のことが大好きだった。
老人はゆっくりのことを可愛がってくれたし、何よりたくさんのお話を聞かせてく
れた。その話には、老人の大好きな歴史の話や、戦時中の苦労談、小学校の国語の
教科書に載っているようなお話まで含まれていた。
だが、そのゆっくりにとって生涯最高の時間は長くは続かなかった。
ゆっくりが老人のもとに来てから半年も経たないうちに、老人が天に召されたので
ある。
初めて会った老人の親族たちは、そのゆっくりがバッジを持っていないことを確認
すると、ある程度の食糧を与え、老人の家から追い出した。
老人の葬儀がしめやかに行われた後、ゆっくりはまるで墓守のように、老人の奥都
城(神道様式の墓)を守り続けた。意外に知られていないが、墓地には、そのお供え
物を求めて野良や野生のゆっくりが出没、場合によっては棲み付いているのである。
ゆっくりの頭では人間の文化や生活様式を理解することはできなかったものの、そ
のゆっくりは近くの野原や林で取れる草や木の実を食べながら、老人の最後のゆっ
くりぷれいすとあまあまを守り続けた。
ある日、野良ゆっくりの群れが墓地へとやって来た。
あまあまを独り占めしている生意気なゆっくりがいるとの通報に野良の群れのボス
が動いたのである。
そのゆっくりは逃げた。
「三十六計逃げるにしかず」
それは老人の教えてくれた言葉の一つだった。
墓地のお供え物を食い荒らす野良ゆっくりたちに復讐を近い、そのゆっくりは仲間
を探した。
自身の弱さを悔いたそのゆっくりは故老人が読んでくれた一つの絵本を思い出した。
それは、弱い魚たちが一致団結して、一匹の大きな魚となり、強い魚を撃退するお
話だった。
弱いゆっくりたちが、強いゆっくりに媚びるのではなく、一つの生き物、一つの群
れとしてゆっくりすることで、強いゆっくりに対抗する。
それがそのゆっくりの出した結論だった。
この考えは、もとになった絵本から「すいみずむ」と命名された。
そのゆっくりは、野良ゆっくりの中でも上層部に反抗する気概を持つものを探した。
それはすいみずむに感化されたゆっくりたちであり、様々な理由から親に見捨てら
れた捨て子たちであり、なんとか動けるものの、誰からも振り向かれずに町の片隅
で生きていた軽度の奇形ゆっくりたちであった。
彼らは機を見計らい、反撃した。
みょん種やまりさ種といったある程度武器らしいものを上手に扱える種族が敵の主
力に喧嘩を吹っかける。
そして、その隙に群れの巣が固まっていた路地裏を、捨てられ、邪険され、今まで
ゴミみたいに扱われて憎しみに凝り固まった捨て子や奇形ゆっくりたちが奇襲した。
捨て子も奇形ゆっくりも遠慮をする必要性を全く感じなかった。
親の帰りを待つ子ゆっくり、赤ゆっくり、子供たちの世話をする母ゆっくり
みんな永遠にゆっくりさせた。
仇敵の大切なものを奪うだけ奪い取り、彼らは町を脱出した。
もとより、完全勝利は戦力差から不可能と踏んだ上での、精一杯の嫌がらせであっ
た。
彼らは予め用意しておいた発泡スチロールの船で川を下り、人間もいない、野良ゆ
っくりもいない自然の中へと漕ぎ出した。
彼らの理想のゆっくりぷれいす、新天地を求めて
この旅は後に「長征たくさんゆっくり(ろんげすと・まーち)」と呼ばれることにな
る。
プロローグ2
「ここを!まりさたちの新しいゆっくりぷれいすとするよっ!!!」
ドスまりさはとある森の中で高らかに宣言した。
ドスまりさ率いる群れは、もともとは山に住んでいたのだが、ネズミやエゾリス
による食糧の盗難、越冬前のヒグマによる攻撃、エゾシカやキタキツネとの食料資
源をめぐる競合に耐え切れず、新たなゆっくりぷれいすを探して旅立ったのである。
彼らが行き着いた先は、低地の湿原近くの森だった。
ここならば、山から遠いため、ヒグマがやってくることはほとんどない。その上、
生態的地位が成体ゆっくりと部分的に競合するキタキツネやエゾシカもあまりいな
いようだった。
「ここはきつねさんもしかさんもほとんどみかけないよっ!きっとドスたちがあま
りにもゆっくりしているもんだから、怖くて逃げたんだよ!ここならきっとみんな
でゆっくりできるよ!」
森の中の爽やかな空気、新緑と豊富な昆虫類、透明でかすかに甘い天然の良水、全
てがゆっくりたちを称え、ゆっくりしていってねと語りかけてきている。ここはま
さにゆっくりたちがゆっくりするために用意された約束の地だった、ドスまりさは
そう感じ、涙とうれしーしーを垂れ流した。
「ここに!わたしたちの楽園を築き上げるのよ!!!」
ドスまりさの宣言に、参謀であるぱちゅりーが続く。
ぱちゅりーはかつて町で飼いゆっくりであったのだが、せっかく飼い主をゆっくり
させてあげようと産んだ赤ゆっくりを飼い主が気に入らなかったために、赤ゆを潰
された上に、捨てられてしまった悲劇のへろいんだった。
その顔には飼い主の理不尽な怒り(ぱちゅりーはそう認識していた)によって「ゲロ
饅頭」と油性ペンで殴り書きされていた。彼女は長きに渡ってゆっくりさせてきた
にもかかわらず、このような仕打ちをした人間を恨んだ。
そこで、この群れで、愛の精神を説き、人間たちがうらやむような地上の楽園を作
り出そうと堅く決意していた。
その自慢の智謀によってドスまりさに取り入り、参謀としての地位を得たのは、そ
の第一歩に過ぎなかった。
「じゃお~ん!」
「じゃおおおおおおおんっ!!!」
ゲロぱちゅりー、略してゲロりーと共に町から出てきためーりん姉妹も新しいゆっ
くりぷれいすに雄たけびを上げる。
この群れの一ゆっくりであるちぇんは、幹部たちの自信と希望にあふれた様子に、
これから始まる、新しい、希望に満ちたゆっくりらいふを信じて疑わなかった。
「ちぇんはここですてきなひびをおくるんだねー!わかるよー!」
本編
1
ここは寒流に洗われ、冬には流氷が妖精と共に流れ着く北方の広大な島。
その大地には多くの原野が今も昔のままの姿を残し、北国の生命は儚くも精一杯息
づいていた。
ここでもゆっくりと呼ばれる饅頭たちは、厳しい気候の中、野生で生き、食べ、歌
い、跳ね、戦い、そして死んでいた。
これはそんな北の島の広大な湿原地帯で生きるゆっくりたちの悲喜劇である。
ここは人の手がほとんど加わっていない大湿原。
沿岸から山奥まで流れる河川の、無数の支流によって形成された複数の湿原の一つ
である。
ありすたちが属する群れ、「かわのむれ」は、川の下流に位置する湿原とその背後
に広がる森の周縁部を生活の舞台としていた。
一口に湿原と言っても、水がひたひたと地面を覆い、水草が繁茂しているような場
所では、当然のことながらゆっくりは生活できない。ゆっくりが生活圏としている
のは、湿原の中でも地面がしっかりしている部分か、湿原と周辺の森林の境界付近
である。
秋、子ありすは父であるまりさ、母であるありすと共に、来る冬篭りに備えて、食
糧を集めていた。
「おちびちゃん!今日もどんぐりさんを集めに行くよ!どんぐりさんがないととー
みんしている間ゆっくりできないんだよ!!」
「ゆっくりりかいしたわ!どんぐりさんはとかいはなのね!」
ありすはいつものように、湿原のあちこちにある水たまりに近寄り過ぎないように
跳ねながら、湿原縁辺部に発達しているミズナラの林でどんぐりを集めていた。
生育する植物の量・季節が寒冷な気候によって制限される、この北の島において、
どんぐり類は多くの動物、特に越冬前の食糧として重要な位置を占めている。
どんぐり類の豊凶がクマの冬眠後の生存率を決定するとも言われているほどだ。
「ゆゆ!?むしさんがたべた穴のあるどんぐりさんはゆっくりできないから、ゆっ
くり見分けてね!!」
「ゆっくりりかいしたわ!」
ありすはせっせとどんぐりを拾い、口の中に蓄えていった。虫食い穴のある痛んだ
どんぐりは避ける。冬眠中に大事な食糧を虫に食われるのはいただけないからだ。
また、トドマツなど針葉樹の葉も拾い集める。これは冬眠する巣穴の中でベッドと
なる。
「ゆ!!!まいたけさんはゆっくりできるよおおおおっ!!!」
まいたけを見つけた嬉しさのあまり、ダムが決壊したかのようにうれちーちーを流
す父まりさ。
きのこはまりさ種の大好物である。まりさ種、特に野生に生きる個体はきのこに対
する視覚的・嗅覚的識別に優れており、地方によってはきのこ狩りの際、しっかり
と教育を施したまりさを連れてでかけるほどである。
まるでトリュフ狩りの豚だが、森で生きる群れにとって、このまりさ種の能力は食
糧を集める上で貴重であった。
「まいたけさんはだいすきだよおおおっ!!くんかくんかくんかくんか…」
父まりさは自らのうれちーちーで濡らしてしまったまいたけをホクホク顔で帽子の
中にしまいこんだ。しかし、そのくんかくんかしている臭いは自分のしーしーの臭
いなのではないだろうか…
「ゆゆ~…おとうさん、もう食べられるどんぐりさんはほとんどないわ…」
ありすのため息に舞い踊っていたまりさも我に返る。
「ゆゆゆ!?それは困るよ!ぶじにとーみんするためにはまだごはんさんが必要な
んだよ!」
今年は奇妙な年なのだ。
どんぐりだけでなく、木の実の量が少ない。さらにいつもならまだ緑色のコケがカ
ーペットのように湿地を覆っているはずなのに、みな枯れて褐色になっていた。
その上、水も変な味がする。ここの湿原の水は堆積した泥で濁っているものの、水
そのものはとてもきれいであり、澄んだ表層の水は長くに渡り、ゆっくりたちのの
どを潤してきた。
それなのに、今は水が美味しくない。かつてのように澄んだ水ではなかった。
なにか、ゆっくりできないことがおこりつつある…
ありすは子供心にそう思ったが、その不安が直感以上のものに精錬されることはな
かった。
「とにかく、ごはんさんがないことにはゆっくりできないよ!!くささんでも、お
いしくない木の実さんでも、たくさん集めるよ!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!ありすは笹の葉さんを集めるわ!」
笹の葉は頑丈でおいしくない。その上、よく噛まないと、繊維がのどに刺さり、吐
き気を催す厄介な草である。しかし、食べ物の制限されたこの北の大地において、
簡単に手に入る笹の葉やコケの類は一年を通じて貴重な食べ物だった。
当然集めた葉や苔の類は、そのほとんどが越冬中に枯れてしまい、大した栄養価も
味も期待できないものになってしまうのだが、現状では贅沢を言う余地はなかった。
「おとうさん、もしこのゆっくりぷれいすでごはんさんがとれなくなったら引っ越
すの?」
ありすは何気なく聞いてみた。
「ゆぅ…それはできないよ!ここはごはんさん集めるのは大変だけど、とてもゆっ
くりできるゆっくりぷれいすなんだよ!!」
ごはんさんがなければ、ゆっくりできないのではないか?
ありすはそう思いこそすれ、口には出さなかった。
寒冷な気候下にある北の大地は、食糧資源に恵まれた土地がないわけではない。冬
こそ、まるで時間が止まったような静けさが一面を包むものの、山の中や森の中に
は木の実や果実にあふれており、ヒグマを頂点にいただく巨大な生態系が築かれて
いた。
だが、そこに脆弱な饅頭である、ゆっくりが入り込めるかは、また別問題だった。
森の中には、ゆっくりを捕食できる上位捕食者や、ゆっくりと生態的地位が競合す
る雑食・草食動物が棲息している。その一方で、この湿原における上位捕食者は魚
食性の渡り鳥や、猛禽類であり、それらはゆっくりを狙うことは稀であった。
そのため、ゆっくりたちにとってこの湿原は、一定のサイズ以上にまで成長してさ
えしまえば、捕食の危険性とはほぼ無縁なゆっくりぷれいすなのだ。
その代わり、湿原での食糧は、周縁部のどんぐり林を除けば、苔や水辺の植物が主
であり、とても多数のゆっくりを養えるような場所ではなく、水辺であるが故の危
険も存在する。
つまるところ、比較的安全ではあるが貧しい土地であり、上位捕食者の不在は、所
詮、この地の生産力がその程度であることを示していた。
結局、ありすと父まりさは、まりさのしーしーでデコレーションされたまいたけ以
外、大した餌を見つけることも出来ず、葉っぱの類を大量に集めて帰ってきた。
「ゆっくり帰ってきたよ!」
ありすたちの一家が巣としているのは、湿原周縁部に位置する複数の横穴の一つで
ある。この辺りの地盤は溶岩流が冷えて固まったものであり、ゆっくりの巣に適し
た窪地や洞窟が豊富に存在していた。
「ゆっくりおかえりなさいっ!!」
母ありすは、冬に備えて床一面にトドマツの葉を敷き詰めている最中だった。
枯れ草で作ったベッドには、柔らかな葉とつる植物で編み上げたシーツがかかって
いる。同じ作りのシーツが貯蔵してある食糧の上にもかけられているが、これは時
折、ゆっくりの巣内に侵入するエゾリスが食糧を掠め取るのを防ぐためである。
「ゆ!ふかふかのゆかさんはとかいはね!!とってもゆっくりできるわっ!!」
ありすは敷き詰められたトドマツの葉を見ると大喜びで巣の中を跳ね回った。跳ね
るたびにあんよにふかふかとした感触が伝わってくるのが楽しいようだ。
松といっても、トドマツの葉は、我々が一般的に松葉といってイメージするような
ものよりも軟らかく、一部では枕の中身として使われているくらいである。今年生
まれたありすには、トドマツの葉を敷き詰めた床は初めてのことであったが、この
辺りに棲むゆっくりたちにとっては、お馴染みのクッションであった。
「ふかふかよおおおおっ!!!ゆゆゆゆ~ん!!!」
ありすはこの敷物が相当気に入ったのか、ごろごろとゆっくり敷物の上を楽しそう
に転がっていた。
「ゆゆ~ん!まりさのおちびちゃんはほんとうにゆっくりしているよ!」
なかなか食糧が集まらない、という不安も忘れて、ついつい我が子の可愛い様を眺
めてしまう父まりさ。
だが、ずっと巣の中を掃除したり、近隣の奥様方と情報交換をしていた母ありすは
狩りの成果が気になってしまい、我が子の可愛い姿に見とれている暇はなかった。
「ゆ?ありす?…ああ~ごはんさんは全然ゆっくりしてなかったよ…」
そう言って父まりさは帽子の中から葉っぱや苔を取り出す。
母ありすは軽くため息をついた。現時点で、去年冬眠したときの七割程度の食糧し
か集まっていないのである。
過去にも、どんぐりの凶作によって、群れの食糧事情が冬眠前に困窮したことはあ
った。
しかし、今年はゆっくりぷれいすの様子がおかしい、と言われていた。
どんぐりが少ないだけではなく、立ち枯れを起こしつつある木々も少なくなく、そ
してなんとか集めてきた葉っぱも、なんとなく萎びている。
ゆっくりぷれいすがまるでゆっくしていないみたいなのだ。
「でもまいたけさんがとれたよ!まいたけさんはゆっくりできるよっ!!」
「ゆゆ!すてきなまいたけさんね!!とってもとかいは…?」
それはそれは立派なまいたけだった。そこはかとなく、まりさのしーしー臭いのを
除けば。
「どぼじできのござんがらばでぃざのしーしーのにおいがずるのお゛ぉ↑!!?」
母ありすは驚愕した。越冬用の貴重な食糧から愛する夫のしーしーの臭いがすれば
誰だって驚愕するだろう。
「ゆゆ!!?や…やっちゃったんだぜ!!!(キリッ」
母ありすは黙って床に敷き詰めてあったトドマツの葉がついた枝の一房を取ると、
父まりさのあにゃるに差し込んだ。
「ゆぎょおおおおおおっ!!!見える!見えるよ!まりさにも見えるよ!」
何やら新しい世界でも切り開かれてしまったのか、父まりさは目を見開き、何やら
意味不明なことを叫んでいる。
「キリッじゃないでしょ!!?大事なごはんさんでしょ!!?」
母ありすは容赦なく、差し込んだ枝を右へ左へとぐりぐりした。
「ゆっほおおおおっ!!!くるよぉ!!新世界がぁ!…」
「ゆっくりはんせーしてねっ!!」
母ありすはとどめとばかりに、枝を一押しする。
「あ゛ーっ!!!」
父まりさはよだれと涙を流して気絶してしまった。父まりさは伴侶としても、父親
としても水準以上なのだが、少々おびゃきゃなところが玉に瑕だらけだった。
その数日後、日中にも関わらず、気温がマイナスの値を記録するようになり、雪が
降り始めた。
直感的に冬眠のシーズンが到来したことを悟ったゆっくりたちは、食糧の収集を諦
め、一つ、また一つと巣が塞がれていった。
冬季、この寒冷な土地に棲むゆっくりたちは洞窟や地面に掘った穴に篭り冬眠して
冬をやり過ごしていた。
冬眠は単なる越冬とは違い、文字通り、冬、早い個体は11月後半から3月頃まで
代謝を低下させてほとんど眠って過ごす。時折、断続的に起きては食糧を少々齧り、
排泄を済ませてからまた眠る。そのような行動を春が来るまで繰り返すのである。
また、冬眠中は、代謝を極限まで低下させると共に、代謝によって生成されたしー
しーからの水分再吸収も行われるため、水分もほとんど摂取せずに冬を乗り切るこ
とが出来た。
この冬眠は餌事情の厳しい寒冷地に適応したゆっくりにのみ見られる行動であり、
通常の越冬よりもエネルギーの消費は少なく、少ない食料で冬を越すことが出来る
のだ。
ただし、冬眠は利点ばかりではない。一年の四分の一から三分の一を眠って過ごす
ため、成長速度は遅くなり、より温暖な地域に棲息しているゆっくりと比べると、
一年間に生まれる赤ゆの数も半分程度と考えられている。
「それじゃあ、巣の入り口をふういんするよ!」
「はるまでおそとさんとはおわかれなのね!ゆっくりありすを待っててね!」
父まりさと母ありすは、頑丈そうな棒きれや枝に唾液を絡め、これを接着剤として
巣の入り口を固めていく。この唾液は乾燥すると固まり、固まった唾液と枝などが
冬眠中のゆっくりの巣を外敵から守る盾となるのだ。
「じゃあ、ゆっくりおやすみなさい!」
「「ゆっくりおやすみなさい!」」
冬眠前、最後の挨拶を交わし、子ありすとその両親は冬眠に入った。
結局、今年はいつもより少なめの食糧、栄養価の低い食糧をやりくりしながら、ゆ
っくりたちは冬眠することになった。それはありすの一家だけでなかった。
ありす一家が眠りについた数日後には、この北の大地を猛烈な吹雪が襲った。
ユキウサギやキタキツネ、さらに北方から渡ってくる渡り鳥を除けば、湿原を、い
や、この純白のベールで閉ざされた大地に動くものはない。ただ、氷と凍てついた
大気が奏でる無言歌の無機的な調べだけが天から降り注でいていた。
2
春が来た。
万願成就の春が来た。
父まりさと母ありすは、巣の入り口にフタを形成している自身の唾液だったもの
をゆっくりと舐め、唾液によって結合されていた棒切れや枝を解きほぐすように
外してくる。
「ゆゆ!!春のおひさまだよ!!!」
「春のおひさまはぽーかぽーか…とってもとかいはね!!」
半分ほどフタを解きほぐしたところで、外から暖かい光が差し込んでくる。まだ
外気は冷たさを残しているものの、そこにはむわっとするような強烈な土と水の
臭い、むせ返るくらいに狂暴な春の臭いが満ち溢れていた。
ありすは初めての冬眠を無事終えた喜び、再び外の光に出会うことが出来た喜び
と共に、外から差し込む光に呼びかけた。
「おそとよ!ありすはかえってきたよ!!」
雪解けの水が軽やかなタランテッラを奏で、凍てついた大地の心を解きほぐす春。
新しい緑が、真っ白な雪の中から、褐色の大地の中から顔を出す春。
時に激しく、時に優しい春風が新しい命を、長い冬を耐え忍んだ命を祝福するか
のように愛撫する春…
しかし、ゆっくりたちが見たのは「沈黙の春」であった。
新しい緑色のドレスを羽織るはずの木々は立ち枯れ、緑色のカーペットが敷かれ
るはずの湿地には、褐色と灰色の植物だったものが渦巻く怨嗟の声のように堆積
していた。
「どぼじで…どぼじではるなのにごはんざんないのおおおおおお゛っ!!?」
「くささんがぜんぶかれてるよぉ~っ!!わからないよぉ~っ!!!」
「ごはんざん~っ!!!ごはんざんないとゆっぐりでぎないぃっ!!!」
湿原のあちこちでゆっくりたちの絶望の声が響く。
自然はいつも変化している。
ゆっくりたちは知らなかったが、この湿原は年々少しずつ沈下しており、それに
伴い周縁部から海水が侵入していたのである。それでも今までは砂州や湿地の地
形が海水の湿原への本格的な介入を阻止してきた。
その地形による防御が越冬中の地盤沈下によってついに崩れ、この湿原に膨大な
量の海水が侵入、湿原の植物たちを枯死させてしまったのである。
唯一、汽水域でも生育が可能なヨシはなんともないようだったが、この季節はま
だ褐色の葦原が広がっており、食糧としての価値はなかった。
「ゆっぎゃあああああああああっ゛!!!じょっばいっ!!!おみずざんがゆっ
ぐりできないいいいいっ!!!」
空腹に耐え切れず水を飲んだのであろう。一匹のゆっくりがその塩辛さに悶え、
転がりまわる。
「むーしゃ…むーしゃ…まじゅいぃ…ゆっくりできないよおおおおおっ!!」
なんとか変色した草を口に含むも、既に枯れており、瑞々しい新しい緑の味を期
待していたゆっくりたちは落胆し、明日を悲観した。
「ごはんさんっ!!!みどりいろのくささんやおはなさんをたべたいよおおおお
おおっ!!!」
「ゆっぐりできないいいっ!!!ごんなのどがいはじゃないいいっ!!!」
ゆっくりたちが冬眠のために体内に蓄えておいたエネルギーはほとんど使い果た
されてしまっており、越冬後、いかに栄養を摂取するかは、ゆっくりの生死を左
右する問題でもあった。通常の越冬よりも生存率が高いとも言われる冬眠だが、
その分リスクもあり、冬眠から覚めた後の生存率は、通常の越冬と大差ないとい
う報告もある。
「ゆゆ~ぅ…なんじゃかちょうしわるいよ…」
また、排泄の問題もある。長い冬眠によって、ゆっくりの体内には古い餡子が溜
まってしまっており、冬眠後すぐに水気の多い草を食べることで、うんうんしー
しーの排出を促す必要があるのだ。
群れによっては、冬眠から覚めた後、アルカロイド毒を含むミズバショウを少量
食べることで下痢を起こし、強制的に古い餡子を排出する習慣を持っている。こ
れは越冬後のヒグマと同じ行動である。
しかし、この湿原にはミズバショウは生えていないため、ゆっくりたちがすっき
り春を迎えるには、大量の繊維質と水分を摂取する必要があった。
「ゆゆぅ…なんだかきもぢわるいわ…」
母ありすも古い餡子がたまっているせいか、動きが鈍く、巣の中に戻ってしまっ
た。
「ゆゆ!?ありすはゆっくり休んでいてね!!まりさは一家のおんばしらだから
ゆっくりしないでごはんさんを探しに行くよ!!」
大黒柱と言いたかったらしい。だが、どこに行っても目にするのは沈黙の春。
辺りを覆っていたトドマツはそのほとんどが立ち枯れを起こしており、なんとか
緑色の新芽を出している木ももう長くは持たないように見えた。
トドマツに巣を作っているはずのエゾモモンガやクマゲラも姿は見えない。
「おとうさん、おかあさん!ありすはどんぐりさんの森に行ってみるわ!」
「ゆゆ!気をつけてね!」
「ゆっくり行ってきてね!」
ありすは秋にどんぐりを拾いに行ったミズナラ林にまで跳ねていった。
しかし、ミズナラなどのどんぐりの木が餌の供給源となるのは、秋の間のみであ
る。今は季節が季節なので、どんぐりは落ちていなかった。ありすは必死に林の
中を跳ね回り、秋に落ちたどんぐりから出たのであろう若い新芽を数本集め、巣
へと持ち帰った。
「ゆゆゆっ!!!さっすがまりさのおちびちゃんだね!!」
「ありがとうおちびちゃん!これできっとぽんぽもすっきりするわ!!!」
「ゆふふ!うれしいわ、おとーさん、おかーさん!もっとありすをほめてね!」
父まりさと母ありすはこの緊急時に、単独で餌を採ってきた我が子の優しさに頬
を緩ませた。ありすの採ってきたどんぐりの新芽は少々硬かったが、古い餡子を
押し出す刺激としては十分だった。
父まりさは早速便意を催したようだ。
「ゆゆ!?きたよおおおおっ!!!おとーさんはうんうんして(ぶぴゅっ)すっき
りしてくるよ(ぶりっ)!!!」
父まりさはあんよで優雅にステップを踏み、鼻歌を歌いながらうんうんするため
にお外へ向かう。だが、気づいてか、気づかずにか、父まりさが動く度に、あに
ゃるでうんうんが小噴火を繰り返していた。
ぶりっぱっ
そして次の一発が母ありすの顔面を直撃する。
「おとーさんはすっきりおとーさんになるよぉ♪…ゆ?あり…す…?」
「くぉぬぉっ!!う゛ん゛う゛ん゛ぶぐろ゛がああああっ!!!」
母ありすの憤怒の形相に驚いた父まりさが、思わずぶりりとうんうんを噴出する。
「ゆゆーっ!!!ありず!!うんうんぐざいよおおおおっ!!!」
「おまえのせいだろうがあっ!!!どんだけしまりがわるいんじゃああっ!!!」
母ありすは怒りに任せて巣にフタをしていた枝の一本を父まりのあにゃるにぶち
込む。
「ゆっほおおおおおっ!!!せっがぐぎもぢよぐうんうんずるどごろだっだのに
いいいいいっ!!!」
「もうしてるだろがっ!!!」
父まりさは泣きながら外へ跳ねていってしまった。跳ねる度にあにゃるに突き刺
さった枝がぶんぶんと上下する。
「ゆんやああああ゛!!!」
どうやら着地した際に、枝が思いっきりあにゃるの中に入り込んでしまったらし
い。父まりさはうんうんを漏らしながら気絶した。
「はあ…」
母ありすは深々とため息をついた。
次、同じことをしたら、父まりさが大事にしている帽子でうんうんを拭き取って
やる、そう心に誓った母ありすであった。
無事?うんうんを排出できた父まりさはともかく、かわのむれ全体としては、水
も食糧も手に入らない、沈黙の春に困惑していた。
本来、冬の長い眠りから覚めたゆっくりの餡子を潤してくれるはずの、ふきのと
うや新鮮な水草、苔などがまるでないのだ。冬の間に進行した海水の湿原への侵
入は、この辺りの植物を壊滅に追い込みつつあった。
また、湿原周縁部の林の中には、立ち枯れが相次ぎ、荒れ果ててしまった場所も
散見された。もうこの場所は水中に増え続ける塩のせいで、荒れていく一方であ
り、回復する見込みはなかった。ひょっとしたら、現在の植生と入れ替わるよう
に汽水環境の植生が現れ、そこにゆっくりも適応していくかもしれない。しかし
、それは短時間でできることではなく、ゆっくりたちの選択肢にも入ってはいな
かった。
結局、ゆっくりたちは他の群れに受け入れてもらえないか相談することにした。
この辺りの群れは大きく三つ。
まず、もっとも河口側の湿地帯に住んでいるのが、今回、海水の浸入によってゆ
っくりぷれいすを失うことになったこの群れである。
残り二つの群れはより上流側にゆっくりぷれいすを持っており、これらの群れの
生活圏は地盤沈下による打撃を受けていなかった。
川から離れた森の中にいるのが、ドス率いる「もりのむれ」である。
この群れは最近山から降りてきた群れである。彼らの新天地である森はミズナラ
を主としたどんぐりの木によって構成されており、その豊富な恵み故に、この地
に定住したと言われている。
また、りーだーであるどすまりさは、大らかな個体であり、豊富な森の恵みの下
個性豊かなゆっくりたちがゆっくりしているとされていた。実際、3つの群れの
中では最大規模のゆん口を誇っているのである。
もう一つの群れは、森に隣接した沼沢地にゆっくりぷれいすを持つ、さなえ率い
る「ぬまのむれ」である。
この群れは、さなえによる恐怖政治によって統治されており、群れの秩序を乱す
ものは片っ端からせいっさいっされることで有名だった。
こちらはゆん口は3つの群れの中で最小であるが、優秀で善良な個体を選別する
ことによって規律のとれた群れを作り上げていた。
かわのむれのゆっくりたちは、どちらの群れを頼るかで悩んだ。ゆっくりたちは
基本的にゆっくりしたがる。そのため、心情的にはドス率いるもりのむれに加わ
りたがるゆっくりが多かった。
しかし、これからの季節は捕食種の活動が活発化する季節であり、、特に森に棲
む9匹のすかーれっと(れみりゃとふらんの総称)は「ナズグゆ」として恐れられ
ていた。
「まりさはれみりゃやふらんに会ったことがないから、森での生活はゆっくりで
きないよ…」
「ありすのおねーちゃんがぬまのむれのゆっくりと番になって生活しているわ!
おねーちゃんをゆっくり頼りましょう!」
結局、ありす一家はぬまのむれに加えてもらうことになった。
緑色の支配者が君臨する湿原の群れに。
「それじゃあ、ゆっくり出発しんこーするよ!!」
棲み慣れた巣穴を放棄し、ぬまのむれが棲んでいる上流の湿原に向かうありす一
家。父まりさの帽子の中には、わずかに残った冬眠用の食糧と、母ありすが手間
暇かけて編み上げた、葉っぱのシーツが入っていた。
「おとーさん!おかーさん!いつかありすたちのゆっくりぷれいすが、またゆっ
くりできるようになったら、ありすはここでもう一度ゆっくりしたいよ!!」
他の群れに受け入れてもらう、それがどういうことか、まだ小さいありすにはわ
からなかったようだ。
最後に一度だけ、父まりさと母ありすは、二匹が出会い、愛を育んできたこのゆ
っくりぷれいすを振り返った。
春の青空の下、かつて緑が広がった湿原は、くすんだ褐色の枯れ草と枯れ木で覆
われていた。
3
広大な湿原の中にある歪んだ三日月形の沼地、ぬまのむれはそこに棲んでいた。
もっとも、文字通り沼の中に棲んでいるわけではなく、実際は、その沼に張り出
した涙滴型の半島の中央、トドマツとミズナラが小さな林を形成している部分に
集中的に巣を設けていた。
ぬまのむれの巣がある場所にたどり着くには、ゆっくり数匹が横に並べる程度の
狭い陸橋を通っていく以外になく、陸橋には常に警備の兵ゆっくりが置かれてい
た。この地形こそが、ぬまのむれのゆっくりたちの防備の要なのだ。
ありす一家がこの沼地にたどり着いたとき、既に日は傾きかけていた。ありす一
家は懸命に陸橋の入り口のところまで跳ねていく。
「ゆっくり止まってね!ここから先はおやかたさまの領土だよ!」
長い棒の先に打撃用の石を取り付けた武器を持ったまりさがありす一家の前に立
ちふさがった。
「御用があるならまりさがゆっくり聞くよ!勝手にこの先に入らないでね!」
「ゆゆ!!まりさはまりさだよ!ゆっくりしていってね!!」
「まりさもまぁるぃぃすぁだよ!!ゆっくりしていってね!!」
「ありすはありすよ!!おねーちゃんに会いに来たわぁ!」
兵まりさは困った顔をする。
「この群れにありすはたくさんいるよ!どんなありすか分からないよ!」
「誰よりもゆっくりの神々を信仰していたわ!!」
「…あ~ああ~…ゆっくり分かった気がするよ!呼んでくるからゆっくり待って
てね!」
兵まりさが連れてきたのは、切り出した石材のようなごっつい容貌を持つありす
だった。不細工とかそういうレベルではない。ごっついのである。
「おねーちゃん!!」
「!!?」
母ありすがそのようなごっついありすを姉と呼んだことに、父まりさは驚き、う
んうんをぶじゅりと漏らし、唖然とした表情で嫁とその姉の顔を見比べていた。
「小生を呼ぶのは…かわいい妹ですね…ゆっくりしていってね!」
ごっつありすはその石像のような顔に優しい笑みを浮かべて妹に挨拶した。母あ
りすは姉に現在のかわのむれの置かれた状況を説明した。そして、ぬまのむれの
一員となれないか相談した。
「事情はわかりました…しかし、この群れですべてをお決めになるのは神々の御
使いであるとかいはなさなえさまただひとり…小生が取り次ぎますから、ありす
はゆっくり待っていってね…」
ありす一家はごっつありすに導かれ、群れを統率する「おやかたさま」さなえの
所へと案内された。
お館さなえは今まで見たどのゆっくりよりも冷たい目をしたゆっくりだった。
ありすは知る由もなかったが、その目はかつてとある島で強力な権力を築き上げ
ようとしたとあるゆっくりのものによく似ていた。違う点はただ一つ、さなえは
決して笑わなかった。
「話はわかったわ。我の群れに入りたいと言うのですね…」
話を聞いている間も、口を開いてからも、お館さなえの目はずっと、氷が張って
いるかのように無機質な光を放っていた。その隣では護衛だろうか?潰れた帽子
を深く被ったゆっくりできなそうなまりさが控えていた。
「まりさはずっと川の湿原でゆっくりしてきました。森の中ではどうゆっくりす
ればいいのか分からないんです。」
「まりさとありすだけではおちびちゃんをゆっくりさせられません。群れに入れ
てください!ゆっくりおねがいします!!」
父まりさと母ありすは必死に頭を下げた(実際は前屈みになっているようにしか
見えないが)。
自分達だけでは子供をゆっくりさせられないとは、聞きようによっては噴飯もの
だが、この食糧の限られた土地で、互いに助け合いながらなんとか生きてきたゆ
っくりにとっては正直な意見だった。
「おのれの弱さを知るや良し…いいでしょう、ゆっくりしていってね。」
お館さなえは何の感情も込めずにそう言った。
「ありがとうございます!!まりさたちはゆっくりしていくよ!!」
「さなえはとってもゆっくりしているわ!!」
お館さなえはありす一家を自身の群れに迎えるにあたって、条件を出した。
群れの掟の遵守である。お館さなえ率いる群れの掟は
一つ、ゆっくり殺しは絶対ゆるさなえ
一つ、ごはんの泥棒は絶対ゆるさなえ
一つ、敵前逃亡は絶対ゆるさなえ
一つ、れいぱーは絶対ゆるさなえ
一つ、ゲスは絶対ゆるさなえ
の五か条である。
相手が例え、ゆっくりできないゆっくりに見えても、勝手にせいっさいっした場
合、掟破りとしてゆるさなえされることも忠告された。
これは、以前、風で帽子を飛ばされたまりちゃの集団が私刑によって虐殺されて
しまったこと、そして、この群れのとある事情からできたルールだった。
さらに、安全のために狩りは集団で行うこと、巣一つにつき、母ゆっくりと赤ゆ
以外にはいざというとき兵ゆっくりとして捕食種や、ほかの群れと戦うことが義
務付けられる。実際、この群れは、数回の捕食種との戦闘に加え、去年の秋ごろ
に近くの森に引っ越してきたドスの群れとの間で、餌場をめぐる国境紛争じみた
争いが何度か起きていた。
「群れの掟を乱した場合、実の妹とはいえ小生は容赦しません。ゆっくりりかい
してね!」
「ありすはとかいはよ!姉さんを悲しませたりしないわ!」
「それはとってもとかいはですね…」
その後、父まりさは兵ゆっくりとしての任務につくことになった。兵ゆっくりと
いっても四六時中動員されているわけではない。それでは餌を集めるゆっくりが
いなくなってしまうからだ。
今のところ、父まりさは時折行われる訓練に水上戦力として参加するぐらいだっ
た。
ありす一家は一刻も早く新しいゆっくりぷれいすを見つけたかったせいか、特に
抵抗なく、掟や兵役を受け入れたが、すべての移住ゆっくりがそうだったわけで
はない。
「ふざけないでねっ!!」
ぬまのむれに入れてもらおうと、かわのむれからやってきたゆっくりたちの中に
は、やれ掟だ、やれ兵ゆっくりを出せ、と注文の多さにゆっくりできず、怒り出
してしまうゆっくりもいた。このれいむとちぇんの番もその一例である。
「れいむはゆっくりするためにうまれたんだよ!!!ゆっくりできないるーるを
おしつけるなんて、ゆっくりできないゆっくりはしね!!だからみどりはくずっ
て呼ばれるんだよっ!!!神様がしっとするほどかわいいかわいいれいむをみな
らってゆっくりしてね!!!」
「こんなにいろいろきまりがあってはゆっくりできないね~!分かるよ~!」
実際は、飼いゆっくりが主人から与えられる決まりごとと比べても、特に変な決
まりがあるわけではない。ただし、掟を破ったときに与えられる罰は、おしおき
どころではなく、せいっさいっのだが。
「受け入れられぬというなら去ね。群れのことを心配できぬゆっくりはこちらも
ゆっくりできないわ。」
お館さなえは興味がないとでも言いたげに一瞥すると、そっぽを向いてしまった。
「頼まれなくてもこんなところでゆっくりしないよ!わかってね~!!!」
「れいむはうたがっせんのしんぼるなんだよ!!そのれいむのぶーてぃふるヴぉ
いすを聞けないことをゆっくりこーかいしてね!ばーきゃばーきゃ!」
このれいむとちぇんは口は悪いが、特にげすというわけではない。ただ、基本的
に野生のゆっくりは何かに縛られるのが嫌い。
というよりは、何か決まりを守る、というような教育を両親からされる場合の方
が少ないのだ。あまつさえ、かわのむれは群れといっても、いざという時助け合
う以外、自由な群れであった。
翌日、新しく与えられた巣穴をごっつありすが訪れた。
「姉さんようこそ!ゆっくりしていってね!」
「ありす!ゆっくりしていってね!」
ごっつありすはしげしげと、母ありすが作った葉っぱのシーツを眺める。それは、
かつての巣から持ち出したものであった。
「ありすは器用なんですね…小生ではこうもとかいはなものは作れません。おか
ーさんに似たんですね…」
「ありがとう、姉さんにほめてもらうとゆっくり嬉しいわ!今度姉さんにも作っ
てあげるわね!」
「それは…楽しみです…」
ほのぼのとした表情で妹と語り合っていたごっつありすの顔が変わる。何しにこ
こへ来たのか思い出したようだ。
「さなえさまによると今日は雨が降らないそうです。ここに来たばかりで分から
ないことも多く、ゆっくり出来ないでしょう。今日は小生と一緒にゆっくり狩り
に行きませんか?」
さなえ種やすわこ種は雨を予知すると言われている。すわこが鳴いたら雨が降る
とは、良く知られた迷信の一つである。しかし、生き物による天気予報に関する
迷信の中では的中率が比較的高く、近年は表皮上に持つ化学受容体によって、大
気中の水分を感知しているのではないかとも考えられている。
この群れの「おやかたさま」であるさなえは、この天気予知によって、ある種の
神性をゆっくりたちから得て、それを自身の支配に利用していた。もちろん、さ
なえ種が感知できるのは、大気中の水蒸気の変化であり、雨が降るかどうかを直
接感知しているわけではない。だが、ある程度当たる、というだけでも、他のゆ
っくりから信仰され、支配の正統性を得るには十分だった。
実際、お館さなえが群れを率いるようになった初期に、何匹かお館さなえの忠告
を無視して狩りに出かけたゆっくりが、雨によって永遠にゆっくりしてしまった
ことがあり、それ以降、さなえによる天気予知に口をはさむものはいなくなった。
ごっつありすはありす一家を巣の裏側の湿原へと案内した。そこには見たことも
ない露に覆われた小さな植物がびっしりと生えている。
「これはとてもゆっくりできない草さんです。ここには決して立ち入らないよう
ゆっくりりかいしてね…」
「「ゆっくりりかいしたよ!!」」
次にごっつありすは一家をミズゴケの群生地帯へと案内した。
「もう少しぽーかぽーかしないと…おいしい草さんや花さんは生えてきません。
今はこけさんを食べてゆっくりがまんしてください…」
「むーしゃむーしゃ…それなり~…」
春先は貧食に耐えなければならないのは、湿原ならどこでも一緒である。しか
し、夏に生まれたありすにはミズゴケは苦かったようだ。
「ありすせんせーっ!!!ゆっくりしていってね!!!」
ごっつありすの知り合いだろうか?
一匹の子れいむが元気良く挨拶して、跳ねて行った。
群れの何気ない日常の何気ない一幕のはずであった。だが、母ありすは気がつい
た。そして、ぎょっとした、先程の子れいむは右目に瞳がなかったのである。
ごっつありすは妹の反応から、状況を悟ったようだった。
「小生はここに来る前から、きけいやすてごゆっくりの世話をしてきました。
どうかあの子をゆっくりできない子などと考えないであげてください。ここは掟
さえ守ればさなえさまのおかげでみんなゆっくりできるのです…」
ありす一家が回りを見回すと、他の群れなら捨てられているようなゆっくりたち
が普通に暮らしていた。
飾りを喪失し、代わりに葉や木の実を身につけたゆっくり、片目がないゆっくり、
禿げ饅頭、明らかに遺餡子の異常で先天的に体の何かがおかしいゆっくり…
さすがに動けないような重度の奇形ゆっくりがいないのは、重度ではそもそも生
きていけないからだろう。
「あちらに行きましょう。ぬまの草さんがとりやすい場所があります。」
ごっつありすは三匹のゆっくりの心の中に生じた波紋を察したかのように、別の
場所へと一家を案内した。そこは視界が開けた沼のほとりだった。
「ここはおみずさんがとっても静かだよ!!!これならまりさはお帽子さんで
ゆっくりできるよっ!!!」
お館さなえたちの群れの居住区を囲むこの沼は波一つ立つことのない静かな沼だ
った。
中には水上に帽子を浮かべ、器用に櫂を操って、ジュンサイを集めているまりさ
もいる。
「もうちょっとがまんすればゆっくりできるごはんさんも取れるようになるから、
ゆっくり我慢してね!」
「おかーさん…ゆっくりりかいしたよ…」
がっかりする我が子に優しくすーりすーりしてあげる母ありす。そんな妹の姿を
姉のごっつありすも微笑ましげに見つめていた。
「ゆんやああああああああ゛!!!」
ゆっくりの悲鳴がありす一家の柔らかな空気を切り裂いたのはそのときである。
かわのむれから加入したゆっくりの中に早速掟破りが出現したのだ。
お館さなえの巣の前には、ツルで縛られた三匹のゆっくりが整列させられている。
番と思しきまりさとれいむ、その子まりさである。その周りには、騒ぎを聞きつ
けたゆっくりたちが大勢集まり、あるものは怯えた視線を、あるもの好奇の視線
のこの舞台の主役たちに送っていた。
この番は、夏に生まれた子まりさが、ミズゴケをまずいと受け付けなかったため、
群れの備蓄の木の実に手ならぬ、舌を出してしまったのである。
「言ったはずです…泥棒は絶対ゆるさなえと…」
「うるさいんだぜ!このくそみどり!!まりさのおぢびちゃんはゆっくりしたご
はんさんしか食べられないんだぜ!さっさと解放しろ!!さもないと痛い目にあ
うんだぜっ!!!ぺっぺっぺ!!!」
自棄になっているのか、まりさは暴言を吐きつつ、お館さなえに向かって唾を飛
ばす。
お館さなえは唾がかかるのも気にせず、ただ冷たく、あんよをじたばたさせるま
りさを見ていた。
「周りが見えないの?ゆっくりできるごはんなど、この季節にないわ…」
「みんなまりさの話を聞くんだぜ!まりさは見たんだぜ!どんぐりさんがいっぱ
い集めてあったんだぜ!自分だけいい思いしようなんてまりさはゆるさないんだ
ぜ!!みんなでこいつをせいっさいっしてゆっくりできるどんぐりさんをむーし
ゃむーしゃするんだぜ!!!」
だが、まりさの呼びかけに答えるものはいなかった。
あるものは怯えた目で、あるものは妄信とすら思える眼差しで、あるものはただ
冷静に、この群れを率いるお館さなえを見つめているだけだった。
そして、お館さなえは、餌を蓄えるということを理解していないまりさにため息
を返しただけだった。
「なにやってるんだぜ!!!さなえをたおすんだぜ!!!そしてまりさをたすけ
るんだぜ!!!」
このまりさは新入りの自分達がいきなり群れの掟を破って、周りから助けてもら
えるとでも思っているのだろうか?
お館さなえはあきれたように周りの兵ゆっくりに促す。
二匹のみょんが前に出てきて、鋭く尖った棒をまりさに突きつけた。
「ゆひいいっ!!!や!やめるんだぜ!!なんでこれくらいのことでまりさがこ
んな目にあわなきゃいけないんだぜ!絶対おかしいんだぜ!!!」
あんよをじたばたと動かし、無駄と知りつつも逃げようとするまりさ。当然、縛
られたままで移動など出来るはずもなく、ただ、しーしーの染みが足元に広がっ
ただけだった。
「まりさはおちびちゃんをおなかいっぱいにするために仕方なく盗んだんだよ!
ゆっくりりかいしてゆるしてね!!!」
「ぱぱはつよいんだぜ!いまどげざすればまりしゃしゃまのどれいになるだけで
ゆるちてやるんだじぇっ!!」
番のれいむと、二匹の子の子まりさがただならぬ事態に喚き始める。
「これはいただいておこう…」
お館さなえはそっと、まりさの帽子を取り上げた。罪人の帽子はそのまま水上部
隊に利用されるのだ。
「ゆわああああああ゛!!!かえぜ!!!まりさのだんでぃなおぼうじかえぜえ
ええええええっ!!!」
「皆のものよく見ておきなさい、これが群れの掟を破ったものの哀れな末路よ!」
お館さなえの合図と共に、さっきからぷりんぷりんと動いていたまりさの尻に二
本の鋭く先端を尖らせた棒が差し込まれた。
「ゆっぎゃああああああああああああああああああああああ!!!ばでぃざの!
ばでぃざのずぇくじーなおじりがあああああっ!!!」
「やべでね!!までぃざいやがっでるよっ!!!たじゅげであげでね!!!」
絶叫し、ぶんぶんとおさげを振り回すまりさ。それを心配し、必死に助けを求め
るれいむ。
だが、この群れにおいては掟を破ってしまった時点で二度目はなかった。
「ゆえええん!痛そうだよ!ゆっくりできないよっ!!!」
あまりの惨状に思わず目を背けるありす。
「目を逸らしてはなりません!!!」
ごっつありすは、怯えるありすをぎょろりとにらみつけた。
「群れで生きるということは、時に自分たちのゆっくりも捨てなければならない
ということ!それを理解できぬゆっくりを永遠にゆっくりさせるのもりーだーの
役目!!皆で楽しく生きることが群れの表の一面なら、群れのちつじょを乱した
ものをせいっさいっするのは裏の一面!!!この両面があってこそ、とかいはな
群れとなるのです!!!」
「ゆっぴいいっ!!!」
ごっつありすの迫力に怯えるありす。
ありすの後ろにいた父まりさは、ごっつありすのあまりの顔芸に恐怖し、勢い良
くうんうんぶらすとを噴射してしまっていた。正真正銘筋金入りの糞親父である。
「貴様らは助かりません。掟を破ったものは永遠にゆっくりするしかない…」
「ゆっぎゃああああああ!!!いやじゃあああ!!!ばでぃざはゆっぐりじだい
いいいいっ!!!」
「自分達だけゆっくりしようとする…それこそゆっくりできない行為だと知りな
さい!」
さらにあにゃる、口、頬から棒が差し込まれる。巧みに中枢餡を避けて棒を差し
込んでいるのは、少しでも長く、痛々しい悲鳴を周囲のゆっくりに聞かせること
で、さらなる掟破りを防止するためである。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ゆああああああ゛!!!ばでぃざあああああ゛!!!」
口を貫かれ、もうまりさは満足に絶叫することすらできなかった。
「ごはんさんを蓄えるのは皆が困ったときのためです。自力で何とかせず、他の
ゆっくりに助けを求めることもせず、それを盗みに走るとは…愚か…」
「ゆああああ゛!!!ゆああああ゛!!!」
まりさは何か言おうとしていたが、その度に傷口から餡子がみちみちと溢れて
いく。
「そろそろゆっくりさせてあげなさい…」
「みょん!」
お館さなえの指示を受け、一匹のみょんが、棒をまりさの眉間に突き刺し、中
枢餡を破壊した。
「ゆ!!?げっ!!!」
そしてまりさは動かなくなった。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!ばでぃざあああああっ!!!」
愛する番の無残な最期に涙するれいむ。
「ゆっげえええっ!!!なんじぇぴゃぴゃちんでるのおおおっ!!?まりちゃ
は!まりちゃはいいこだきゃらたしゅけてね!!!」
子まりさはげすだったようだ。
死んだまりさの番だったれいむは涙目をキッと見開き、冷たく見下すお館さな
えに向かって咆哮した。
「ばでぃざは!ばでぃざはあいずるかぞぐのだめにやっだんだようぅ!!!わ
るいごどだっだがもじれないげど!!!なにもごんな!!ごんなめにっ!!」
「麗しい愛のためなら仕方ないと申すか…」
少しだけ、ほんの少しだけ、お館さなえの凍った瞳の奥に炎が揺らめいた。
「いやなら最初からこの群れに入らなければ良かったのだ。他の群れでゆっく
りしていれば良かったのだ…それを今更…!」
お館さなえは髪飾りでまとめた一房の髪の中に仕込んであった、尖った棒−そ
れは折れた指揮棒だった−をぐっとれいむの眉間に差し込んだ。
「ゆびびいいいいいいっ!!!れいぶの!れいぶのうるおいべびーすぎんがあ
あああっ!!!」
「ごはんさんがない時期は皆苦しい、皆我慢している…皆ができることをお前達
はできなかった。やろうとしなかった。それが罪よ…」
お館さなえはれいむの眉間に差し込んだ指揮棒に力を込めた。ぐるんぐるんと中
の餡子をかき回した。言いようのない吐き気と頭痛がれいむを襲う。
「ゆっくりりかいしなくていいよ…すぐ永遠にゆっくりできるから…」
「ゆぎいいいぎぎぎぎぎいいいいっ!!!ゆべえあああ゛!!!」
ぐぐっと指揮棒はれいむの頭に沈んで行き、そして、れいむは事切れた。
だが、今回のれいむはせいっさいっされた個体としては幸せだったかもしれない。
どうしようもないげすとみなされた個体は、奇形ゆっくりたちによってどこかに
連行され、帰ってきた者はなかった。
お館さなえはれいむから指揮棒を引き抜き、最後に残った子まりさの方へと向き
直った。
「さて…」
「やべじぇね!!!まりじゃなんにもわるいこどじでないよっ!!!ゆっぐりたじ
ゅげでね!!!もうやじゃあああ!!!うんうんじゅるよおおおおっ!!!」
先に死んだ親まりさと同じようにあんよをじたばたさせる子まりさ。
そのとき、ありすが群集の中から飛び出し、お館さなえの前に立ち塞がった。
「かわいそうだよっ!!どうしてみんなころしちゃうの!!!」
黙ってありすを見つめるお館さなえ。その瞳は相変わらず氷の薄幕が張っているか
のようだった。
いつの間にか、あのゆっくりできない雰囲気を漂わせた潰れた帽子のまりさが、あ
りすの背後に迫っていたが、お館さなえはまりさに合図するかのように、首を横に
振った(実際は顔を震わせたようにしか見えないが)。
潰れた帽子のまりさがすっと一歩下がるのを確認すると、お館さなえはいつもの冷
たい調子で口を開いた。
「我はただ掟の通りに裁いているに過ぎません。」
我が子の行動に仰天した父まりさと母ありすが群集から飛び出し、お館さなえとあ
りすの間に立ち塞がった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいいいいいっ!!!なんで謝ってるの
かまりさにも分からないけど、ごめんなさいぃっ!!!」
「この子はっ!やさしいゆっくりした子なんです!!どうか殺さないで…」
お館さなえは鬱陶しそうに目を細め、口を開いた。
「なにを勘違いしている…?」
相変わらず、お館さなえの口調には何の感情も込められてはいなかった。
「この子ありすは掟を破っていない。我が裁く理由はありません…」
お館さなえは再び、子まりさの前に立った。
「お前自身は掟を破っていない。せいっさいっしない。」
お館さなえの一言と共に、左右についていたみょんが子まりさの縄を解いた。
「掟を破ればどうなるか、もう餡子に染み付いたはずだ。このまま掟を守って群れ
に留まりなり、出て行くなり…好きにするが良い。」
この子まりさは、盗んだどんぐりを口にしているので、掟に抵触するかどうかは、
微妙なところがあった。もし、どんぐりを盗ってくるよう積極的に親に働きかけ
ていたなら、せいっさいっされていただろう。
「…こ…こにょゆっくりごろし!!!ぱぱとままをかえちぇっ!!!くじゅっ!!
それができないならあまあまもってきょい!!!たきゅさんだよっ!!!」
自分が助かると分かった瞬間、子まりさは手のひらを返したかのようにお館さなえ
に暴言を叩きつける。先程まで必死に命乞いをしていたはずなのだが。
「そこのありす…」
お館さなえは何も聞こえないかのように、子ありすの前に立ち、問いかけた。
「貴様は…もしも群れの半分が越冬できる分の餌しかなかったらどうするの?」
ありすはゆっくり考えた。まず、質問の意味を理解するだけでも子ゆっくりである
ありすにはすぐにできることではなかったのだ。
「冬…冬さんの半分までみんなで生きて、後はそれからゆっくり考えるよ!」
その答えを聞いて、お館さなえの顔がひきつる。少なくともありすにはそう見えた。
「育ちが良いわね……だが、無責任……りーだーほどゆっくりらしくないものはな
い…」
お館さなえはそれだけ言うと、その日の餌を採るため、護衛のみょん、そしてあの
ゆっくりできない潰れた帽子のまりさと共にに跳ねていってしまった。
ありすは分からなかった。ゆっくり殺しならともかく、一度の過ちでなぜ、せいっ
さいっされなければいけないのか。
4
群れの食糧を盗んだまりさとれいむがせいっさいっされてから数日後、ありすは新
しくできた友人とお外で遊んでいた。
「ありすをひみつのえさばにつれてってあげるみょん!」
「ひみつのえさばとひみつのはなぞのはとってもとかいはな匂いがするわ!!!」
それは、生まれつき髪がアフロになっている奇形のみょんであった。大きさから判
断して成体になったばかりであろうか?
どうか仲良くしてやってほしい、と母ありすの姉にあたるごっつありすが連れてき
たのである。
いきなり奇形ゆっくりを連れてきた姉に対して、母ありすは困惑した笑顔で、父ま
りさは満面の笑顔で出迎えたが、その下腹部ではあにゃるすぱぁくが起きており、
後に母ありすにくそぶくろ呼ばわりされながら、あにゃるにいろいろ突っ込まれる
ことになる。なお、父まりさがあにゃるへヴんという全く新しい境地に達するのは、
もう少し後の話である。
「ここだみょん!!」
アフロみょんがありすを連れてきたのは、陸橋の入り口から、川の方向へと少し入
り込んだ場所だった。そこにはまだ一部、積雪が小さな氷河のように大地に残り、
まばらに生えた木々の下に、点々とミズバショウの花が手を合わせて祈りを捧げて
いた。
「このお花さんを食べるの?」
「ちがうみょん!それをたべるとうんうんがもりもりじゃなくて、ぴーぴーになる
んだみょん!注意するみょん!」
アフロみょんがありすを連れてきたのは残雪の上にできた小さな水溜りだった。
「ゆ!?おたまじゃくしさん!!?」
エゾアカガエルのような積雪地帯に生きるカエルは時として、雪解け水によって出
来た水溜りに産卵する。そのため、孵化したオタマジャクシが、積雪上の小さな水
溜りから出られず、そのまま死んでしまうことも珍しい光景ではない。
「草さんばかりじゃおなかがすくみょん!ありすはみょんと一緒におたまじゃくし
さんを食べるみょん!!!」
アフロみょんは小さな水溜りの中でにっちもさっちも行かなくなっているオタマジ
ャクシを水ごと一気に飲み込んだ。
「ぴゅ~…」
そして、冷たい雪解け水だけを口から水鉄砲のように噴射し、口内に残ったオタマ
ジャクシを咀嚼する。
「ありすもやってみるみょん!」
ありすもみょんがやった通りにオタマジャクシを捕まえてみた。オタマジャクシは
思ったより簡単に捕まった。
「むーしゃむーしゃ!しあわせ~っ!」
「喜んでくれてうれしいみょん!」
それから二匹で辺りを跳ね回り、枯れ木の下に隠れていたダンゴムシを捕まえたり、
苔のマットの上で競走したりした。
一緒に遊んでいる間、アフロみょんはずっとニコニコしていた。
「みょんはとってもゆっくりしているのね!」
「みょんはお外に出れたからゆっくりできたみょん!みょんはありすが一緒に遊ん
でくれるからとってもゆっくりできてるみょん!」
正直、ありすはここ最近あまりゆっくりできていなかった。食べるものと言えば、
苔やあまり美味しくない草が中心で、ありすの大好きな木の実や花を全く口にでき
ていなかったからだ。
おまけに掟や群れのための貯蓄分の食糧の確保など、気をまわさなければならない
ことがあまりに多い、ありすはそう感じていたのである。
「ありすはあまりゆっくりできてないわ!毎日ごはんさんがこけさんやくささんば
かりなの!とかいはなごはんさんじゃないわ!」
ありすはつい、自分の不満をアフロみょんにぶつけてしまった。
しかし、それに答えるアフロみょんの表情は変わらず、にこにこしていた。
「そんなことないみょん!みょんはごはんさんが食べられるだけでゆっくりできる
みょん!」
アフロみょんは自身の半生をありすに語った。
両親は正常なゆっくりだったのに、自分だけ奇形として生まれてきてしまったこと。
町にいた頃は、ごはんさんを手に入れるだけでも一苦労であり、人間さんや他のゆ
っくりに見つからないようこそこそしなければならなかったこと。
夏は暑苦しいからという理由で家族と一緒に眠らせてもらえなかったこと。
奇形ではなかった両親、姉妹にも邪険され、ふるぼっこされてゴミ捨て場に捨てら
れたこと。
ごっつありすに拾われ、お館さなえと出会い、奇形でも自分でごはんさんを取って
きて、群れの掟を守ればゆっくりできると教えられたこと。
そして、今でも正常なゆっくりと奇形ゆっくりの間に多少の軋轢はあるものの、普
通にゆっくりできてしあわせ~であること。
「そっか…みょんはとてもゆっくりしてるんだね…」
ありすはお外を跳ねられる、誰かと一緒に遊べる、ごはんさんが食べれる…たった
それだけのことで、心からゆっくりしているアフロみょんのことがちょっと理解で
きなかった。でもちょっとうらやましかった。
「そろそろ、帰るみょん!みょんは変なゆっくりだけど…ありすさえよければ、ま
た遊んでほしいみょん!」
アフロみょんが何気なく言ったその一言の裏で、怯えているのがありすには分かっ
た。いや、ひょっとしたらずっと怯えていたのかもしれない。
ありすはさっきアフロみょんの半生を聞いたから、やっと分かるようになったのか
もしれない。アフロみょんが、この普通の生活が壊れてしまうことをずっと恐れ続
けていることに。
「ええ!またゆっくりしましょう!」
ありすは哀しそうな笑顔でにっこりと微笑んだ。
「ゆゆ!!?ゆっくりできないみょんがいるよっ!!!」
ありすとアフロみょんがかわのむれからの移住組であろう、れいむとあほ毛が立
ったさなえの番に出会ったのは、陸橋への帰り道のことであった。
さっきまでにこにこした笑顔だったアフロみょんの顔が一気に真っ青になる。
「ち!ちがうみょん!みょんはゆっくりした群れの一員だみょんっ!!!」
アフロみょんは顔を青ざめさせたまま、必死に陸橋にいる兵ゆっくりのところへ
と跳ね始めた。
「もてかわれいむは逃がさないよっ!!!」
「ゆぐふっ!!?」
もてかわれいむがもみあげで横殴りにアフロみょんを叩き飛ばし、その上にあほ
毛さなえがのしかかって動きを止める。
「やめてね!みょんはゆっくりできるみょんなんだよっ!!!」
やっと事態を飲み込めたありすが二匹を止めようとする。
「ありすは目が腐ってるんですね、これはゆっくりできないみょんです!」
二匹は聞く耳を持たなかった。ありすが必死に体当たりをしようとしても、まだ
子ゆっくりのありすでは太刀打ちできなかった。
「せいっさいっを邪魔するありすはゆっくりしないであっちに行っててね!」
ありすはもてかわれいむのもみあげで弾き飛ばされ、草むらで全身をしたたかに
打ちつけて気絶した。
「ありすぅ~っ!!!」
できたばかりの友達を心配するアフロみょん。だが、アフロみょんに、他のゆっ
くりを心配している暇はなかった。
「ゆっくりできないみょんはせいっさいっするよっ!!!」
「変な髪形のみょんはゆっくりできませんっ!!!」
「やべでっ!!!やべでねっ!!!みょんは!!!やっどゆっぐり!!!どもだ
ぢが!!?」
もてかわれいむとあほ毛さなえの二匹は餅つきのように交互にアフロみょんの上
で飛び跳ねた。
その度に、アフロみょんが潰れ、皮が破れ、眼球が破裂し、ホワイトチョコレー
トが緑色の苔のマットに広がり、染み渡っていく。
「いくよ!れいむのびゅーてぃーひろいんあだっぐぅ~っ!!!」
「ゆっくりできないみょんごときが!かぜのほうりに勝てるとでも思ってたんで
すか!!?」
「いやじゃ!!みょんはやっどゆっぐりぃっ!!?」
成体とは言え、まだまだ体の小さいアフロみょんに、この状況から脱出する術も
機会もありはしなかった。
「…ゆ゛げ…ゆ゛げげ…」
もはやアフロみょんは痙攣するだけのホワイトチョコレートの塊に過ぎなかった。
「ゆっくりできないゆっくりごときがゆっくりしてるとか!ともだちとか!生意気
なんだよ!!!ゆっくりりかいしてね!!!」
もてかわれいむが最後に振りかぶったもみあげを叩きつけ、アフロみょんは永遠に
ゆっくりした。
「ふぅ…ほんとうに汚いいきものでした…」
二匹が立ち去った後、気絶していたありすが見たのは、ただの真っ白な染みと、ぐ
じょぐじょになった銀色のもじゃもじゃした髪の毛だけだった。
アフロみょんを永遠にゆっくりさせたれいむとさなえの番が、ありすの通報によ
って逮捕されたのは、それから2時間ほど後のことであった。
「どぼじでれいぶがだいぼざれなぎゃいげないのおおおおおおっ!!?」
「さなえはゆっくりしたゆっくりなんですよっ!!!もっとゆっくりさせなきゃ
いけないんですよっ!!!」
逮捕されたもてかわれいむとあほ毛さなえが、処刑場、即ちお館さなえの巣の前
へと引っ立てられる。
かわのむれのゆっくりたちが来て以来、似たような事件は何度か起こっていたが、
今までは常に巣の近くであったがために、掟破りの事態になる前に誰かが止めに
入っていた。ゆっくり殺しが裁かれるのは、移住組を受け入れて以来、初めての
ことであった。
「やべで!たじげでぇっ!!!れいぶはゆっぐじじでるんだよっ!!ゆっぐりで
きないゆっぐりをえいえんにゆっぐりざせると!ゆっぐりできるんだよっ!!」
「他のゆっくりを見下すことでしかゆっくりできないくずなど、この群れにはい
らないわ…」
お館さなえはもてかわれいむのあにゃるに棒を刺し込んだ。
「ゆぎゃあああああああああっ!!!れいぶのおーろらのようなあにゃるがああ
ああああああっ!!!」
お館さなえはそのまま、もてかわれいむの正中線に沿って、まむまむ、口へと切り
裂いていった。
「やべろおおおおおおっ!!れいぶのあんよがっ!!まむまむがあああっ!!」
お館さなえはもてかわれいむの目と目の間まで切り裂き、そこで棒を離した。
「餡子をかき出せ…」
せいっさいっの手伝いを命じられた奇形ゆっくりたちは、遠慮なくもてかわれいむ
の体に棒を突っ込み、中に詰まっている餡子を葉っぱの上に取り出していった。
あまりに悲惨な刑罰に、多くの見物ゆっくりたちが目を背け、もてかわれいむの痛
々しい悲鳴に、巣の中でゆっくりしていたゆっくりですら震え上がった。
「や゛あ゛あ゛っ!!!や゛あ゛あ゛っ!!!や゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
本来ならば、れいむの餡子取らないでー!と叫んでいるのだろうが、口も切り裂か
れている以上、ほとんど声らしい声になっていなかった。
「やめてえええ!れいむの餡子とらないであげてくださいいいいいいっ!!!」
隣で縛り上げられているあほ毛さなえが泣き喚く。
「ゆ゛ゆ゛…ゆ…ゆ゛ゆ゛…」
生きたまま餡子を取られたもてかわれいむは、餡子を半分ほど取り出された段階で
痙攣しかしなくなり、そのまま中身を全て取り出されてしまった。
親衛隊のゆっくりたちが、その餡子をとある穴へと運んでいく。その餡子がどうな
るのか知っているゆっくりはほとんどいなかった。
「さて…」
お館さなえは、次はあほ毛さなえの番と言わんばかりに、そちらへと向き直った。
「や!!!やべでぐだざいっ!!!ざなえもざなえなんでずよっ!!!」
あほ毛さなえは、お館さなえに向かって同属だからと、赦しを求めた。
「だからどうした?例えさなえでも掟破りは絶対にゆるさなえ!!!」
お館さなえは公正であろうとしていた。以前、奇形ゆっくりが調子に乗って、正常
ゆっくりから食糧を奪った際は、泥炭地に掘られたゴミ穴に顔だけ残して埋められ、
餓死するまで放置された。
お館さなえは、もてかわれいむにしたのと同じように、そのあにゃるに棒を突き刺
し、まむまむまで一気に切り裂いた。中からみちみちと音を立てて、ずんだ餡があ
ふれ出す。
「あぎゃああああああああああああっ!!!ざなえのずぃーどなまむまむがあああ
あああっ!!!」
「ゆっくりできない掟破りはゆっくり死ね!!!」
お館さなえはそこから一気に、目と目の間まであほ毛さなえの皮を切り裂いた。
「ああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ぶすり、ぶすりと棒が何本も突き立てられ、あほ毛さなえのずんだ餡がほじくり出
されていく。
「覚えておけ!掟を破るゆっくりは誰であろうと絶対にゆるさなえっ!!!」
あまりに凄惨な光景に静まり返るゆっくりたちに向かってお館さなえはそう宣言し
た。
「みょん…」
ありすは、かつてせいっさいっを止めに入ったありすは、この凄惨な光景をただじ
っと最後まで見つめていた。
もてかわれいむとあほ毛さなえからほじくり出された餡子は、お館さなえとその親
衛隊が管理する穴―倉庫の一つへと運び込まれた。
取り出された餡子は暗所に安置され、葉っぱの上で乾燥される。
倉庫の中には、同様に乾燥させている餡子やチョコレートが葉っぱの上に置かれて
安置されていた。中には、葉っぱの中に小分けされ、笹の葉で巻かれて保存されて
いるものもある。
これを木の実や草と混ぜ、舌が味を覚えてしまわないよう味をわざと落とし、越冬
のための非常食として使ったこともあった。だが、この餡子の使い道はそれだけで
はなかった。
5
両親を処刑された子まりさはぬまのむれを離れ、もりのむれに身を寄せていた。
「まりしゃしゃまはぬまのむれからにげてきたんだじぇ!!まりしゃのぱぱとまま
はまりしゃしゃまのためにとってきちゃごはんしゃんをさなえにうばわれて、えい
えんにゆっくりしちゃったんだじぇ!!!だからたすけてほしいんだじぇ!!!」
ドスまりさの前で必死に弁明する子まりさ。
正直、ドスまりさはこの亡命子まりさの口調にゆっくりできないものを感じ取って
いたが、寛大なボスでいたいドスまりさは鷹揚な口調で亡命子まりさを弁護し、群
れへと歓迎した。
「ドスのことを頼ってくれてうれしいよ!こども一人じゃ大変だろうから、ごはん
さんに困ったらいつでもドスを頼ってね!これはかんげいのごちそうだよ!」
ドスの言葉と共に、亡命子まりさの目の前には、軟らかそうなシダの新芽、さっき
死んだばかりの新鮮なケラやダンゴムシ、去年貯蓄したどんぐりなどが並べられた。
それと同時にれいむ合唱団による、ゆっくりによる愛と平和を謳ったおうたが合唱
される。
この群れは参謀であるゲロぱちゅりー、ゲロりーの指導の下、弱いゆっくりを見捨
てない方針を採っていた。例え、罪を犯したゆっくりでも、周りのゆっくりが励ま
し、立派に暮らしていけるよう群れがサポートしてくれるのである。
ついこの間も、一匹のゆっくりがれいぽぅ事件を起こしたが、ゲロりーが必死に更
生するようゆっくり説得したことで、最後には泣いてゲロりーに謝罪したほどだっ
た。
今では、このゆっくりは群れからごはんさんの支援を受けながら、立派に働ける機
会をうかがっているはずだった。
当然、かわいそうな亡命ゆっくりやしんぐるまざーにも手厚い保護が与えられ、最
低限の食糧は無条件で群れが補償してくれることになっていた。
「すごんだじぇ!!どすはとってもゆっくりしてるんだじぇ!このむれは、さなえ
のむれとはおおちがいなんだじぇ!!!ここならまりしゃしゃまもゆっくりできる
んだじぇ!!!」
れいむたちのとろけるような美声に聞きほれ、思わず目の前のご馳走をおなかに詰
め込むのも忘れてしまう亡命子まりさ。
「ゆふふ!ドスがとてもゆっくりしているのは当然のことなんだよ!ちぇん!むれ
のあたらしい仲間にもっとごちそうを持ってきてね!ゆっくりでいいよ!」
「ドス!わかったよ~!」
ドスは今までも、こうやって自分を頼ってきたゆっくりたちにご馳走を振舞い、ド
スとその群れがいかにゆっくりした存在であるかを示してきた。こうしてドスの、
そしてこの群れの寛大さに感激したゆっくりたちは、自ら進んで群れのために動く
ようになるだろうという目論見である。
これもゲロりーの献策である。
「むきゅ!ぱちぇはもりのけんじゃになるわ!どすはもりのじんくんになるのよ!」
ゲロりーはかつてドスにそう語ったものだった。
「むきゅ!強いゆっくりや狩りの上手なゆっくりが、まりちゃみらいな弱くてかわ
いそうなゆっくりを守って、ごはんさんをあげるのは当然のことなのよ!これこそ
が愛なのよっ!!!」
小さな新参者に対してゲロりーは早速、自身の目指す「愛」を説いた。
「ゆゆ~ん!みんながまりしゃしゃまをゆっくりさせるのはとうぜんなんだじぇ!
さすがぱちゅりーのかんがえはゆっくりできるんだじぇ!!!まりしゃ!このむれ
がだいすきになったんだじぇ!!!」
どうやら自分勝手なところがあるようだが、まだ子供だから仕方ないだろう。それ
よりもゲロりーはこの新参者がゲロりーの考えをゆっくりしていると言ってくれた
ことが嬉しかった。
「むっきゅん!愛の大切さが分かっているみたいね!この群れは愛によってみんな
ゆっくりしているのよ!!」
ドスたちの目論見の現実性云々はともかく、ドスの群れは実際、とてもゆっくりし
ていた。ドスたちがこの土地にやってきた去年の秋は、ドスの来訪に感激した森が
たくさんのどんぐりを実らせた。そして、冬眠中、食糧の少ない春先を乗り切るの
に十分すぎる量を蓄えることが出来たのである。
この豊富な蓄えがこの群れがもっと大きくなる一助となる。ドスまりさはそう信じ
ていた。実際にドスの群れは当初の二倍にまでゆん口が増えていた。これこそがゲ
ロりーが思い描き、ドスが実行した仁政の賜物だった。そして、かわのむれからの
移住組は、ドスまりさからの厚遇に、自分達の選択が正しかったことに満足した。
だが、ドスたちが描いた甘い夢が穴だらけであったことが、群れの食糧倉庫に追加
の食糧を取りに行かせたちぇんから伝えられる。
「ドス!もうむれのそうこにごはんさんがないんだよー!わかってねー!」
つづく
群れの統制と群れ同士の争いについて書いてみたくなり、投稿してみました。
注意点:パロディがひどいです。
独自設定満載です。
長いです。
クラシック好きな人への推奨BGM
シベリウス交響曲第6番
『北方ゆっくり戦史 二つの群れ』
プロローグ1
とある北の町に一匹のゆっくりがいた。
ゆっくりを飼っていたのは、昔気質の、質実剛健な独居老人だった。
老人は自分のもとを離れた娘と同じ名前という、だたそれだけの理由でそのゆっく
りを飼っていた。
そのゆっくりは老人のことが大好きだった。
老人はゆっくりのことを可愛がってくれたし、何よりたくさんのお話を聞かせてく
れた。その話には、老人の大好きな歴史の話や、戦時中の苦労談、小学校の国語の
教科書に載っているようなお話まで含まれていた。
だが、そのゆっくりにとって生涯最高の時間は長くは続かなかった。
ゆっくりが老人のもとに来てから半年も経たないうちに、老人が天に召されたので
ある。
初めて会った老人の親族たちは、そのゆっくりがバッジを持っていないことを確認
すると、ある程度の食糧を与え、老人の家から追い出した。
老人の葬儀がしめやかに行われた後、ゆっくりはまるで墓守のように、老人の奥都
城(神道様式の墓)を守り続けた。意外に知られていないが、墓地には、そのお供え
物を求めて野良や野生のゆっくりが出没、場合によっては棲み付いているのである。
ゆっくりの頭では人間の文化や生活様式を理解することはできなかったものの、そ
のゆっくりは近くの野原や林で取れる草や木の実を食べながら、老人の最後のゆっ
くりぷれいすとあまあまを守り続けた。
ある日、野良ゆっくりの群れが墓地へとやって来た。
あまあまを独り占めしている生意気なゆっくりがいるとの通報に野良の群れのボス
が動いたのである。
そのゆっくりは逃げた。
「三十六計逃げるにしかず」
それは老人の教えてくれた言葉の一つだった。
墓地のお供え物を食い荒らす野良ゆっくりたちに復讐を近い、そのゆっくりは仲間
を探した。
自身の弱さを悔いたそのゆっくりは故老人が読んでくれた一つの絵本を思い出した。
それは、弱い魚たちが一致団結して、一匹の大きな魚となり、強い魚を撃退するお
話だった。
弱いゆっくりたちが、強いゆっくりに媚びるのではなく、一つの生き物、一つの群
れとしてゆっくりすることで、強いゆっくりに対抗する。
それがそのゆっくりの出した結論だった。
この考えは、もとになった絵本から「すいみずむ」と命名された。
そのゆっくりは、野良ゆっくりの中でも上層部に反抗する気概を持つものを探した。
それはすいみずむに感化されたゆっくりたちであり、様々な理由から親に見捨てら
れた捨て子たちであり、なんとか動けるものの、誰からも振り向かれずに町の片隅
で生きていた軽度の奇形ゆっくりたちであった。
彼らは機を見計らい、反撃した。
みょん種やまりさ種といったある程度武器らしいものを上手に扱える種族が敵の主
力に喧嘩を吹っかける。
そして、その隙に群れの巣が固まっていた路地裏を、捨てられ、邪険され、今まで
ゴミみたいに扱われて憎しみに凝り固まった捨て子や奇形ゆっくりたちが奇襲した。
捨て子も奇形ゆっくりも遠慮をする必要性を全く感じなかった。
親の帰りを待つ子ゆっくり、赤ゆっくり、子供たちの世話をする母ゆっくり
みんな永遠にゆっくりさせた。
仇敵の大切なものを奪うだけ奪い取り、彼らは町を脱出した。
もとより、完全勝利は戦力差から不可能と踏んだ上での、精一杯の嫌がらせであっ
た。
彼らは予め用意しておいた発泡スチロールの船で川を下り、人間もいない、野良ゆ
っくりもいない自然の中へと漕ぎ出した。
彼らの理想のゆっくりぷれいす、新天地を求めて
この旅は後に「長征たくさんゆっくり(ろんげすと・まーち)」と呼ばれることにな
る。
プロローグ2
「ここを!まりさたちの新しいゆっくりぷれいすとするよっ!!!」
ドスまりさはとある森の中で高らかに宣言した。
ドスまりさ率いる群れは、もともとは山に住んでいたのだが、ネズミやエゾリス
による食糧の盗難、越冬前のヒグマによる攻撃、エゾシカやキタキツネとの食料資
源をめぐる競合に耐え切れず、新たなゆっくりぷれいすを探して旅立ったのである。
彼らが行き着いた先は、低地の湿原近くの森だった。
ここならば、山から遠いため、ヒグマがやってくることはほとんどない。その上、
生態的地位が成体ゆっくりと部分的に競合するキタキツネやエゾシカもあまりいな
いようだった。
「ここはきつねさんもしかさんもほとんどみかけないよっ!きっとドスたちがあま
りにもゆっくりしているもんだから、怖くて逃げたんだよ!ここならきっとみんな
でゆっくりできるよ!」
森の中の爽やかな空気、新緑と豊富な昆虫類、透明でかすかに甘い天然の良水、全
てがゆっくりたちを称え、ゆっくりしていってねと語りかけてきている。ここはま
さにゆっくりたちがゆっくりするために用意された約束の地だった、ドスまりさは
そう感じ、涙とうれしーしーを垂れ流した。
「ここに!わたしたちの楽園を築き上げるのよ!!!」
ドスまりさの宣言に、参謀であるぱちゅりーが続く。
ぱちゅりーはかつて町で飼いゆっくりであったのだが、せっかく飼い主をゆっくり
させてあげようと産んだ赤ゆっくりを飼い主が気に入らなかったために、赤ゆを潰
された上に、捨てられてしまった悲劇のへろいんだった。
その顔には飼い主の理不尽な怒り(ぱちゅりーはそう認識していた)によって「ゲロ
饅頭」と油性ペンで殴り書きされていた。彼女は長きに渡ってゆっくりさせてきた
にもかかわらず、このような仕打ちをした人間を恨んだ。
そこで、この群れで、愛の精神を説き、人間たちがうらやむような地上の楽園を作
り出そうと堅く決意していた。
その自慢の智謀によってドスまりさに取り入り、参謀としての地位を得たのは、そ
の第一歩に過ぎなかった。
「じゃお~ん!」
「じゃおおおおおおおんっ!!!」
ゲロぱちゅりー、略してゲロりーと共に町から出てきためーりん姉妹も新しいゆっ
くりぷれいすに雄たけびを上げる。
この群れの一ゆっくりであるちぇんは、幹部たちの自信と希望にあふれた様子に、
これから始まる、新しい、希望に満ちたゆっくりらいふを信じて疑わなかった。
「ちぇんはここですてきなひびをおくるんだねー!わかるよー!」
本編
1
ここは寒流に洗われ、冬には流氷が妖精と共に流れ着く北方の広大な島。
その大地には多くの原野が今も昔のままの姿を残し、北国の生命は儚くも精一杯息
づいていた。
ここでもゆっくりと呼ばれる饅頭たちは、厳しい気候の中、野生で生き、食べ、歌
い、跳ね、戦い、そして死んでいた。
これはそんな北の島の広大な湿原地帯で生きるゆっくりたちの悲喜劇である。
ここは人の手がほとんど加わっていない大湿原。
沿岸から山奥まで流れる河川の、無数の支流によって形成された複数の湿原の一つ
である。
ありすたちが属する群れ、「かわのむれ」は、川の下流に位置する湿原とその背後
に広がる森の周縁部を生活の舞台としていた。
一口に湿原と言っても、水がひたひたと地面を覆い、水草が繁茂しているような場
所では、当然のことながらゆっくりは生活できない。ゆっくりが生活圏としている
のは、湿原の中でも地面がしっかりしている部分か、湿原と周辺の森林の境界付近
である。
秋、子ありすは父であるまりさ、母であるありすと共に、来る冬篭りに備えて、食
糧を集めていた。
「おちびちゃん!今日もどんぐりさんを集めに行くよ!どんぐりさんがないととー
みんしている間ゆっくりできないんだよ!!」
「ゆっくりりかいしたわ!どんぐりさんはとかいはなのね!」
ありすはいつものように、湿原のあちこちにある水たまりに近寄り過ぎないように
跳ねながら、湿原縁辺部に発達しているミズナラの林でどんぐりを集めていた。
生育する植物の量・季節が寒冷な気候によって制限される、この北の島において、
どんぐり類は多くの動物、特に越冬前の食糧として重要な位置を占めている。
どんぐり類の豊凶がクマの冬眠後の生存率を決定するとも言われているほどだ。
「ゆゆ!?むしさんがたべた穴のあるどんぐりさんはゆっくりできないから、ゆっ
くり見分けてね!!」
「ゆっくりりかいしたわ!」
ありすはせっせとどんぐりを拾い、口の中に蓄えていった。虫食い穴のある痛んだ
どんぐりは避ける。冬眠中に大事な食糧を虫に食われるのはいただけないからだ。
また、トドマツなど針葉樹の葉も拾い集める。これは冬眠する巣穴の中でベッドと
なる。
「ゆ!!!まいたけさんはゆっくりできるよおおおおっ!!!」
まいたけを見つけた嬉しさのあまり、ダムが決壊したかのようにうれちーちーを流
す父まりさ。
きのこはまりさ種の大好物である。まりさ種、特に野生に生きる個体はきのこに対
する視覚的・嗅覚的識別に優れており、地方によってはきのこ狩りの際、しっかり
と教育を施したまりさを連れてでかけるほどである。
まるでトリュフ狩りの豚だが、森で生きる群れにとって、このまりさ種の能力は食
糧を集める上で貴重であった。
「まいたけさんはだいすきだよおおおっ!!くんかくんかくんかくんか…」
父まりさは自らのうれちーちーで濡らしてしまったまいたけをホクホク顔で帽子の
中にしまいこんだ。しかし、そのくんかくんかしている臭いは自分のしーしーの臭
いなのではないだろうか…
「ゆゆ~…おとうさん、もう食べられるどんぐりさんはほとんどないわ…」
ありすのため息に舞い踊っていたまりさも我に返る。
「ゆゆゆ!?それは困るよ!ぶじにとーみんするためにはまだごはんさんが必要な
んだよ!」
今年は奇妙な年なのだ。
どんぐりだけでなく、木の実の量が少ない。さらにいつもならまだ緑色のコケがカ
ーペットのように湿地を覆っているはずなのに、みな枯れて褐色になっていた。
その上、水も変な味がする。ここの湿原の水は堆積した泥で濁っているものの、水
そのものはとてもきれいであり、澄んだ表層の水は長くに渡り、ゆっくりたちのの
どを潤してきた。
それなのに、今は水が美味しくない。かつてのように澄んだ水ではなかった。
なにか、ゆっくりできないことがおこりつつある…
ありすは子供心にそう思ったが、その不安が直感以上のものに精錬されることはな
かった。
「とにかく、ごはんさんがないことにはゆっくりできないよ!!くささんでも、お
いしくない木の実さんでも、たくさん集めるよ!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!ありすは笹の葉さんを集めるわ!」
笹の葉は頑丈でおいしくない。その上、よく噛まないと、繊維がのどに刺さり、吐
き気を催す厄介な草である。しかし、食べ物の制限されたこの北の大地において、
簡単に手に入る笹の葉やコケの類は一年を通じて貴重な食べ物だった。
当然集めた葉や苔の類は、そのほとんどが越冬中に枯れてしまい、大した栄養価も
味も期待できないものになってしまうのだが、現状では贅沢を言う余地はなかった。
「おとうさん、もしこのゆっくりぷれいすでごはんさんがとれなくなったら引っ越
すの?」
ありすは何気なく聞いてみた。
「ゆぅ…それはできないよ!ここはごはんさん集めるのは大変だけど、とてもゆっ
くりできるゆっくりぷれいすなんだよ!!」
ごはんさんがなければ、ゆっくりできないのではないか?
ありすはそう思いこそすれ、口には出さなかった。
寒冷な気候下にある北の大地は、食糧資源に恵まれた土地がないわけではない。冬
こそ、まるで時間が止まったような静けさが一面を包むものの、山の中や森の中に
は木の実や果実にあふれており、ヒグマを頂点にいただく巨大な生態系が築かれて
いた。
だが、そこに脆弱な饅頭である、ゆっくりが入り込めるかは、また別問題だった。
森の中には、ゆっくりを捕食できる上位捕食者や、ゆっくりと生態的地位が競合す
る雑食・草食動物が棲息している。その一方で、この湿原における上位捕食者は魚
食性の渡り鳥や、猛禽類であり、それらはゆっくりを狙うことは稀であった。
そのため、ゆっくりたちにとってこの湿原は、一定のサイズ以上にまで成長してさ
えしまえば、捕食の危険性とはほぼ無縁なゆっくりぷれいすなのだ。
その代わり、湿原での食糧は、周縁部のどんぐり林を除けば、苔や水辺の植物が主
であり、とても多数のゆっくりを養えるような場所ではなく、水辺であるが故の危
険も存在する。
つまるところ、比較的安全ではあるが貧しい土地であり、上位捕食者の不在は、所
詮、この地の生産力がその程度であることを示していた。
結局、ありすと父まりさは、まりさのしーしーでデコレーションされたまいたけ以
外、大した餌を見つけることも出来ず、葉っぱの類を大量に集めて帰ってきた。
「ゆっくり帰ってきたよ!」
ありすたちの一家が巣としているのは、湿原周縁部に位置する複数の横穴の一つで
ある。この辺りの地盤は溶岩流が冷えて固まったものであり、ゆっくりの巣に適し
た窪地や洞窟が豊富に存在していた。
「ゆっくりおかえりなさいっ!!」
母ありすは、冬に備えて床一面にトドマツの葉を敷き詰めている最中だった。
枯れ草で作ったベッドには、柔らかな葉とつる植物で編み上げたシーツがかかって
いる。同じ作りのシーツが貯蔵してある食糧の上にもかけられているが、これは時
折、ゆっくりの巣内に侵入するエゾリスが食糧を掠め取るのを防ぐためである。
「ゆ!ふかふかのゆかさんはとかいはね!!とってもゆっくりできるわっ!!」
ありすは敷き詰められたトドマツの葉を見ると大喜びで巣の中を跳ね回った。跳ね
るたびにあんよにふかふかとした感触が伝わってくるのが楽しいようだ。
松といっても、トドマツの葉は、我々が一般的に松葉といってイメージするような
ものよりも軟らかく、一部では枕の中身として使われているくらいである。今年生
まれたありすには、トドマツの葉を敷き詰めた床は初めてのことであったが、この
辺りに棲むゆっくりたちにとっては、お馴染みのクッションであった。
「ふかふかよおおおおっ!!!ゆゆゆゆ~ん!!!」
ありすはこの敷物が相当気に入ったのか、ごろごろとゆっくり敷物の上を楽しそう
に転がっていた。
「ゆゆ~ん!まりさのおちびちゃんはほんとうにゆっくりしているよ!」
なかなか食糧が集まらない、という不安も忘れて、ついつい我が子の可愛い様を眺
めてしまう父まりさ。
だが、ずっと巣の中を掃除したり、近隣の奥様方と情報交換をしていた母ありすは
狩りの成果が気になってしまい、我が子の可愛い姿に見とれている暇はなかった。
「ゆ?ありす?…ああ~ごはんさんは全然ゆっくりしてなかったよ…」
そう言って父まりさは帽子の中から葉っぱや苔を取り出す。
母ありすは軽くため息をついた。現時点で、去年冬眠したときの七割程度の食糧し
か集まっていないのである。
過去にも、どんぐりの凶作によって、群れの食糧事情が冬眠前に困窮したことはあ
った。
しかし、今年はゆっくりぷれいすの様子がおかしい、と言われていた。
どんぐりが少ないだけではなく、立ち枯れを起こしつつある木々も少なくなく、そ
してなんとか集めてきた葉っぱも、なんとなく萎びている。
ゆっくりぷれいすがまるでゆっくしていないみたいなのだ。
「でもまいたけさんがとれたよ!まいたけさんはゆっくりできるよっ!!」
「ゆゆ!すてきなまいたけさんね!!とってもとかいは…?」
それはそれは立派なまいたけだった。そこはかとなく、まりさのしーしー臭いのを
除けば。
「どぼじできのござんがらばでぃざのしーしーのにおいがずるのお゛ぉ↑!!?」
母ありすは驚愕した。越冬用の貴重な食糧から愛する夫のしーしーの臭いがすれば
誰だって驚愕するだろう。
「ゆゆ!!?や…やっちゃったんだぜ!!!(キリッ」
母ありすは黙って床に敷き詰めてあったトドマツの葉がついた枝の一房を取ると、
父まりさのあにゃるに差し込んだ。
「ゆぎょおおおおおおっ!!!見える!見えるよ!まりさにも見えるよ!」
何やら新しい世界でも切り開かれてしまったのか、父まりさは目を見開き、何やら
意味不明なことを叫んでいる。
「キリッじゃないでしょ!!?大事なごはんさんでしょ!!?」
母ありすは容赦なく、差し込んだ枝を右へ左へとぐりぐりした。
「ゆっほおおおおっ!!!くるよぉ!!新世界がぁ!…」
「ゆっくりはんせーしてねっ!!」
母ありすはとどめとばかりに、枝を一押しする。
「あ゛ーっ!!!」
父まりさはよだれと涙を流して気絶してしまった。父まりさは伴侶としても、父親
としても水準以上なのだが、少々おびゃきゃなところが玉に瑕だらけだった。
その数日後、日中にも関わらず、気温がマイナスの値を記録するようになり、雪が
降り始めた。
直感的に冬眠のシーズンが到来したことを悟ったゆっくりたちは、食糧の収集を諦
め、一つ、また一つと巣が塞がれていった。
冬季、この寒冷な土地に棲むゆっくりたちは洞窟や地面に掘った穴に篭り冬眠して
冬をやり過ごしていた。
冬眠は単なる越冬とは違い、文字通り、冬、早い個体は11月後半から3月頃まで
代謝を低下させてほとんど眠って過ごす。時折、断続的に起きては食糧を少々齧り、
排泄を済ませてからまた眠る。そのような行動を春が来るまで繰り返すのである。
また、冬眠中は、代謝を極限まで低下させると共に、代謝によって生成されたしー
しーからの水分再吸収も行われるため、水分もほとんど摂取せずに冬を乗り切るこ
とが出来た。
この冬眠は餌事情の厳しい寒冷地に適応したゆっくりにのみ見られる行動であり、
通常の越冬よりもエネルギーの消費は少なく、少ない食料で冬を越すことが出来る
のだ。
ただし、冬眠は利点ばかりではない。一年の四分の一から三分の一を眠って過ごす
ため、成長速度は遅くなり、より温暖な地域に棲息しているゆっくりと比べると、
一年間に生まれる赤ゆの数も半分程度と考えられている。
「それじゃあ、巣の入り口をふういんするよ!」
「はるまでおそとさんとはおわかれなのね!ゆっくりありすを待っててね!」
父まりさと母ありすは、頑丈そうな棒きれや枝に唾液を絡め、これを接着剤として
巣の入り口を固めていく。この唾液は乾燥すると固まり、固まった唾液と枝などが
冬眠中のゆっくりの巣を外敵から守る盾となるのだ。
「じゃあ、ゆっくりおやすみなさい!」
「「ゆっくりおやすみなさい!」」
冬眠前、最後の挨拶を交わし、子ありすとその両親は冬眠に入った。
結局、今年はいつもより少なめの食糧、栄養価の低い食糧をやりくりしながら、ゆ
っくりたちは冬眠することになった。それはありすの一家だけでなかった。
ありす一家が眠りについた数日後には、この北の大地を猛烈な吹雪が襲った。
ユキウサギやキタキツネ、さらに北方から渡ってくる渡り鳥を除けば、湿原を、い
や、この純白のベールで閉ざされた大地に動くものはない。ただ、氷と凍てついた
大気が奏でる無言歌の無機的な調べだけが天から降り注でいていた。
2
春が来た。
万願成就の春が来た。
父まりさと母ありすは、巣の入り口にフタを形成している自身の唾液だったもの
をゆっくりと舐め、唾液によって結合されていた棒切れや枝を解きほぐすように
外してくる。
「ゆゆ!!春のおひさまだよ!!!」
「春のおひさまはぽーかぽーか…とってもとかいはね!!」
半分ほどフタを解きほぐしたところで、外から暖かい光が差し込んでくる。まだ
外気は冷たさを残しているものの、そこにはむわっとするような強烈な土と水の
臭い、むせ返るくらいに狂暴な春の臭いが満ち溢れていた。
ありすは初めての冬眠を無事終えた喜び、再び外の光に出会うことが出来た喜び
と共に、外から差し込む光に呼びかけた。
「おそとよ!ありすはかえってきたよ!!」
雪解けの水が軽やかなタランテッラを奏で、凍てついた大地の心を解きほぐす春。
新しい緑が、真っ白な雪の中から、褐色の大地の中から顔を出す春。
時に激しく、時に優しい春風が新しい命を、長い冬を耐え忍んだ命を祝福するか
のように愛撫する春…
しかし、ゆっくりたちが見たのは「沈黙の春」であった。
新しい緑色のドレスを羽織るはずの木々は立ち枯れ、緑色のカーペットが敷かれ
るはずの湿地には、褐色と灰色の植物だったものが渦巻く怨嗟の声のように堆積
していた。
「どぼじで…どぼじではるなのにごはんざんないのおおおおおお゛っ!!?」
「くささんがぜんぶかれてるよぉ~っ!!わからないよぉ~っ!!!」
「ごはんざん~っ!!!ごはんざんないとゆっぐりでぎないぃっ!!!」
湿原のあちこちでゆっくりたちの絶望の声が響く。
自然はいつも変化している。
ゆっくりたちは知らなかったが、この湿原は年々少しずつ沈下しており、それに
伴い周縁部から海水が侵入していたのである。それでも今までは砂州や湿地の地
形が海水の湿原への本格的な介入を阻止してきた。
その地形による防御が越冬中の地盤沈下によってついに崩れ、この湿原に膨大な
量の海水が侵入、湿原の植物たちを枯死させてしまったのである。
唯一、汽水域でも生育が可能なヨシはなんともないようだったが、この季節はま
だ褐色の葦原が広がっており、食糧としての価値はなかった。
「ゆっぎゃあああああああああっ゛!!!じょっばいっ!!!おみずざんがゆっ
ぐりできないいいいいっ!!!」
空腹に耐え切れず水を飲んだのであろう。一匹のゆっくりがその塩辛さに悶え、
転がりまわる。
「むーしゃ…むーしゃ…まじゅいぃ…ゆっくりできないよおおおおおっ!!」
なんとか変色した草を口に含むも、既に枯れており、瑞々しい新しい緑の味を期
待していたゆっくりたちは落胆し、明日を悲観した。
「ごはんさんっ!!!みどりいろのくささんやおはなさんをたべたいよおおおお
おおっ!!!」
「ゆっぐりできないいいっ!!!ごんなのどがいはじゃないいいっ!!!」
ゆっくりたちが冬眠のために体内に蓄えておいたエネルギーはほとんど使い果た
されてしまっており、越冬後、いかに栄養を摂取するかは、ゆっくりの生死を左
右する問題でもあった。通常の越冬よりも生存率が高いとも言われる冬眠だが、
その分リスクもあり、冬眠から覚めた後の生存率は、通常の越冬と大差ないとい
う報告もある。
「ゆゆ~ぅ…なんじゃかちょうしわるいよ…」
また、排泄の問題もある。長い冬眠によって、ゆっくりの体内には古い餡子が溜
まってしまっており、冬眠後すぐに水気の多い草を食べることで、うんうんしー
しーの排出を促す必要があるのだ。
群れによっては、冬眠から覚めた後、アルカロイド毒を含むミズバショウを少量
食べることで下痢を起こし、強制的に古い餡子を排出する習慣を持っている。こ
れは越冬後のヒグマと同じ行動である。
しかし、この湿原にはミズバショウは生えていないため、ゆっくりたちがすっき
り春を迎えるには、大量の繊維質と水分を摂取する必要があった。
「ゆゆぅ…なんだかきもぢわるいわ…」
母ありすも古い餡子がたまっているせいか、動きが鈍く、巣の中に戻ってしまっ
た。
「ゆゆ!?ありすはゆっくり休んでいてね!!まりさは一家のおんばしらだから
ゆっくりしないでごはんさんを探しに行くよ!!」
大黒柱と言いたかったらしい。だが、どこに行っても目にするのは沈黙の春。
辺りを覆っていたトドマツはそのほとんどが立ち枯れを起こしており、なんとか
緑色の新芽を出している木ももう長くは持たないように見えた。
トドマツに巣を作っているはずのエゾモモンガやクマゲラも姿は見えない。
「おとうさん、おかあさん!ありすはどんぐりさんの森に行ってみるわ!」
「ゆゆ!気をつけてね!」
「ゆっくり行ってきてね!」
ありすは秋にどんぐりを拾いに行ったミズナラ林にまで跳ねていった。
しかし、ミズナラなどのどんぐりの木が餌の供給源となるのは、秋の間のみであ
る。今は季節が季節なので、どんぐりは落ちていなかった。ありすは必死に林の
中を跳ね回り、秋に落ちたどんぐりから出たのであろう若い新芽を数本集め、巣
へと持ち帰った。
「ゆゆゆっ!!!さっすがまりさのおちびちゃんだね!!」
「ありがとうおちびちゃん!これできっとぽんぽもすっきりするわ!!!」
「ゆふふ!うれしいわ、おとーさん、おかーさん!もっとありすをほめてね!」
父まりさと母ありすはこの緊急時に、単独で餌を採ってきた我が子の優しさに頬
を緩ませた。ありすの採ってきたどんぐりの新芽は少々硬かったが、古い餡子を
押し出す刺激としては十分だった。
父まりさは早速便意を催したようだ。
「ゆゆ!?きたよおおおおっ!!!おとーさんはうんうんして(ぶぴゅっ)すっき
りしてくるよ(ぶりっ)!!!」
父まりさはあんよで優雅にステップを踏み、鼻歌を歌いながらうんうんするため
にお外へ向かう。だが、気づいてか、気づかずにか、父まりさが動く度に、あに
ゃるでうんうんが小噴火を繰り返していた。
ぶりっぱっ
そして次の一発が母ありすの顔面を直撃する。
「おとーさんはすっきりおとーさんになるよぉ♪…ゆ?あり…す…?」
「くぉぬぉっ!!う゛ん゛う゛ん゛ぶぐろ゛がああああっ!!!」
母ありすの憤怒の形相に驚いた父まりさが、思わずぶりりとうんうんを噴出する。
「ゆゆーっ!!!ありず!!うんうんぐざいよおおおおっ!!!」
「おまえのせいだろうがあっ!!!どんだけしまりがわるいんじゃああっ!!!」
母ありすは怒りに任せて巣にフタをしていた枝の一本を父まりのあにゃるにぶち
込む。
「ゆっほおおおおおっ!!!せっがぐぎもぢよぐうんうんずるどごろだっだのに
いいいいいっ!!!」
「もうしてるだろがっ!!!」
父まりさは泣きながら外へ跳ねていってしまった。跳ねる度にあにゃるに突き刺
さった枝がぶんぶんと上下する。
「ゆんやああああ゛!!!」
どうやら着地した際に、枝が思いっきりあにゃるの中に入り込んでしまったらし
い。父まりさはうんうんを漏らしながら気絶した。
「はあ…」
母ありすは深々とため息をついた。
次、同じことをしたら、父まりさが大事にしている帽子でうんうんを拭き取って
やる、そう心に誓った母ありすであった。
無事?うんうんを排出できた父まりさはともかく、かわのむれ全体としては、水
も食糧も手に入らない、沈黙の春に困惑していた。
本来、冬の長い眠りから覚めたゆっくりの餡子を潤してくれるはずの、ふきのと
うや新鮮な水草、苔などがまるでないのだ。冬の間に進行した海水の湿原への侵
入は、この辺りの植物を壊滅に追い込みつつあった。
また、湿原周縁部の林の中には、立ち枯れが相次ぎ、荒れ果ててしまった場所も
散見された。もうこの場所は水中に増え続ける塩のせいで、荒れていく一方であ
り、回復する見込みはなかった。ひょっとしたら、現在の植生と入れ替わるよう
に汽水環境の植生が現れ、そこにゆっくりも適応していくかもしれない。しかし
、それは短時間でできることではなく、ゆっくりたちの選択肢にも入ってはいな
かった。
結局、ゆっくりたちは他の群れに受け入れてもらえないか相談することにした。
この辺りの群れは大きく三つ。
まず、もっとも河口側の湿地帯に住んでいるのが、今回、海水の浸入によってゆ
っくりぷれいすを失うことになったこの群れである。
残り二つの群れはより上流側にゆっくりぷれいすを持っており、これらの群れの
生活圏は地盤沈下による打撃を受けていなかった。
川から離れた森の中にいるのが、ドス率いる「もりのむれ」である。
この群れは最近山から降りてきた群れである。彼らの新天地である森はミズナラ
を主としたどんぐりの木によって構成されており、その豊富な恵み故に、この地
に定住したと言われている。
また、りーだーであるどすまりさは、大らかな個体であり、豊富な森の恵みの下
個性豊かなゆっくりたちがゆっくりしているとされていた。実際、3つの群れの
中では最大規模のゆん口を誇っているのである。
もう一つの群れは、森に隣接した沼沢地にゆっくりぷれいすを持つ、さなえ率い
る「ぬまのむれ」である。
この群れは、さなえによる恐怖政治によって統治されており、群れの秩序を乱す
ものは片っ端からせいっさいっされることで有名だった。
こちらはゆん口は3つの群れの中で最小であるが、優秀で善良な個体を選別する
ことによって規律のとれた群れを作り上げていた。
かわのむれのゆっくりたちは、どちらの群れを頼るかで悩んだ。ゆっくりたちは
基本的にゆっくりしたがる。そのため、心情的にはドス率いるもりのむれに加わ
りたがるゆっくりが多かった。
しかし、これからの季節は捕食種の活動が活発化する季節であり、、特に森に棲
む9匹のすかーれっと(れみりゃとふらんの総称)は「ナズグゆ」として恐れられ
ていた。
「まりさはれみりゃやふらんに会ったことがないから、森での生活はゆっくりで
きないよ…」
「ありすのおねーちゃんがぬまのむれのゆっくりと番になって生活しているわ!
おねーちゃんをゆっくり頼りましょう!」
結局、ありす一家はぬまのむれに加えてもらうことになった。
緑色の支配者が君臨する湿原の群れに。
「それじゃあ、ゆっくり出発しんこーするよ!!」
棲み慣れた巣穴を放棄し、ぬまのむれが棲んでいる上流の湿原に向かうありす一
家。父まりさの帽子の中には、わずかに残った冬眠用の食糧と、母ありすが手間
暇かけて編み上げた、葉っぱのシーツが入っていた。
「おとーさん!おかーさん!いつかありすたちのゆっくりぷれいすが、またゆっ
くりできるようになったら、ありすはここでもう一度ゆっくりしたいよ!!」
他の群れに受け入れてもらう、それがどういうことか、まだ小さいありすにはわ
からなかったようだ。
最後に一度だけ、父まりさと母ありすは、二匹が出会い、愛を育んできたこのゆ
っくりぷれいすを振り返った。
春の青空の下、かつて緑が広がった湿原は、くすんだ褐色の枯れ草と枯れ木で覆
われていた。
3
広大な湿原の中にある歪んだ三日月形の沼地、ぬまのむれはそこに棲んでいた。
もっとも、文字通り沼の中に棲んでいるわけではなく、実際は、その沼に張り出
した涙滴型の半島の中央、トドマツとミズナラが小さな林を形成している部分に
集中的に巣を設けていた。
ぬまのむれの巣がある場所にたどり着くには、ゆっくり数匹が横に並べる程度の
狭い陸橋を通っていく以外になく、陸橋には常に警備の兵ゆっくりが置かれてい
た。この地形こそが、ぬまのむれのゆっくりたちの防備の要なのだ。
ありす一家がこの沼地にたどり着いたとき、既に日は傾きかけていた。ありす一
家は懸命に陸橋の入り口のところまで跳ねていく。
「ゆっくり止まってね!ここから先はおやかたさまの領土だよ!」
長い棒の先に打撃用の石を取り付けた武器を持ったまりさがありす一家の前に立
ちふさがった。
「御用があるならまりさがゆっくり聞くよ!勝手にこの先に入らないでね!」
「ゆゆ!!まりさはまりさだよ!ゆっくりしていってね!!」
「まりさもまぁるぃぃすぁだよ!!ゆっくりしていってね!!」
「ありすはありすよ!!おねーちゃんに会いに来たわぁ!」
兵まりさは困った顔をする。
「この群れにありすはたくさんいるよ!どんなありすか分からないよ!」
「誰よりもゆっくりの神々を信仰していたわ!!」
「…あ~ああ~…ゆっくり分かった気がするよ!呼んでくるからゆっくり待って
てね!」
兵まりさが連れてきたのは、切り出した石材のようなごっつい容貌を持つありす
だった。不細工とかそういうレベルではない。ごっついのである。
「おねーちゃん!!」
「!!?」
母ありすがそのようなごっついありすを姉と呼んだことに、父まりさは驚き、う
んうんをぶじゅりと漏らし、唖然とした表情で嫁とその姉の顔を見比べていた。
「小生を呼ぶのは…かわいい妹ですね…ゆっくりしていってね!」
ごっつありすはその石像のような顔に優しい笑みを浮かべて妹に挨拶した。母あ
りすは姉に現在のかわのむれの置かれた状況を説明した。そして、ぬまのむれの
一員となれないか相談した。
「事情はわかりました…しかし、この群れですべてをお決めになるのは神々の御
使いであるとかいはなさなえさまただひとり…小生が取り次ぎますから、ありす
はゆっくり待っていってね…」
ありす一家はごっつありすに導かれ、群れを統率する「おやかたさま」さなえの
所へと案内された。
お館さなえは今まで見たどのゆっくりよりも冷たい目をしたゆっくりだった。
ありすは知る由もなかったが、その目はかつてとある島で強力な権力を築き上げ
ようとしたとあるゆっくりのものによく似ていた。違う点はただ一つ、さなえは
決して笑わなかった。
「話はわかったわ。我の群れに入りたいと言うのですね…」
話を聞いている間も、口を開いてからも、お館さなえの目はずっと、氷が張って
いるかのように無機質な光を放っていた。その隣では護衛だろうか?潰れた帽子
を深く被ったゆっくりできなそうなまりさが控えていた。
「まりさはずっと川の湿原でゆっくりしてきました。森の中ではどうゆっくりす
ればいいのか分からないんです。」
「まりさとありすだけではおちびちゃんをゆっくりさせられません。群れに入れ
てください!ゆっくりおねがいします!!」
父まりさと母ありすは必死に頭を下げた(実際は前屈みになっているようにしか
見えないが)。
自分達だけでは子供をゆっくりさせられないとは、聞きようによっては噴飯もの
だが、この食糧の限られた土地で、互いに助け合いながらなんとか生きてきたゆ
っくりにとっては正直な意見だった。
「おのれの弱さを知るや良し…いいでしょう、ゆっくりしていってね。」
お館さなえは何の感情も込めずにそう言った。
「ありがとうございます!!まりさたちはゆっくりしていくよ!!」
「さなえはとってもゆっくりしているわ!!」
お館さなえはありす一家を自身の群れに迎えるにあたって、条件を出した。
群れの掟の遵守である。お館さなえ率いる群れの掟は
一つ、ゆっくり殺しは絶対ゆるさなえ
一つ、ごはんの泥棒は絶対ゆるさなえ
一つ、敵前逃亡は絶対ゆるさなえ
一つ、れいぱーは絶対ゆるさなえ
一つ、ゲスは絶対ゆるさなえ
の五か条である。
相手が例え、ゆっくりできないゆっくりに見えても、勝手にせいっさいっした場
合、掟破りとしてゆるさなえされることも忠告された。
これは、以前、風で帽子を飛ばされたまりちゃの集団が私刑によって虐殺されて
しまったこと、そして、この群れのとある事情からできたルールだった。
さらに、安全のために狩りは集団で行うこと、巣一つにつき、母ゆっくりと赤ゆ
以外にはいざというとき兵ゆっくりとして捕食種や、ほかの群れと戦うことが義
務付けられる。実際、この群れは、数回の捕食種との戦闘に加え、去年の秋ごろ
に近くの森に引っ越してきたドスの群れとの間で、餌場をめぐる国境紛争じみた
争いが何度か起きていた。
「群れの掟を乱した場合、実の妹とはいえ小生は容赦しません。ゆっくりりかい
してね!」
「ありすはとかいはよ!姉さんを悲しませたりしないわ!」
「それはとってもとかいはですね…」
その後、父まりさは兵ゆっくりとしての任務につくことになった。兵ゆっくりと
いっても四六時中動員されているわけではない。それでは餌を集めるゆっくりが
いなくなってしまうからだ。
今のところ、父まりさは時折行われる訓練に水上戦力として参加するぐらいだっ
た。
ありす一家は一刻も早く新しいゆっくりぷれいすを見つけたかったせいか、特に
抵抗なく、掟や兵役を受け入れたが、すべての移住ゆっくりがそうだったわけで
はない。
「ふざけないでねっ!!」
ぬまのむれに入れてもらおうと、かわのむれからやってきたゆっくりたちの中に
は、やれ掟だ、やれ兵ゆっくりを出せ、と注文の多さにゆっくりできず、怒り出
してしまうゆっくりもいた。このれいむとちぇんの番もその一例である。
「れいむはゆっくりするためにうまれたんだよ!!!ゆっくりできないるーるを
おしつけるなんて、ゆっくりできないゆっくりはしね!!だからみどりはくずっ
て呼ばれるんだよっ!!!神様がしっとするほどかわいいかわいいれいむをみな
らってゆっくりしてね!!!」
「こんなにいろいろきまりがあってはゆっくりできないね~!分かるよ~!」
実際は、飼いゆっくりが主人から与えられる決まりごとと比べても、特に変な決
まりがあるわけではない。ただし、掟を破ったときに与えられる罰は、おしおき
どころではなく、せいっさいっのだが。
「受け入れられぬというなら去ね。群れのことを心配できぬゆっくりはこちらも
ゆっくりできないわ。」
お館さなえは興味がないとでも言いたげに一瞥すると、そっぽを向いてしまった。
「頼まれなくてもこんなところでゆっくりしないよ!わかってね~!!!」
「れいむはうたがっせんのしんぼるなんだよ!!そのれいむのぶーてぃふるヴぉ
いすを聞けないことをゆっくりこーかいしてね!ばーきゃばーきゃ!」
このれいむとちぇんは口は悪いが、特にげすというわけではない。ただ、基本的
に野生のゆっくりは何かに縛られるのが嫌い。
というよりは、何か決まりを守る、というような教育を両親からされる場合の方
が少ないのだ。あまつさえ、かわのむれは群れといっても、いざという時助け合
う以外、自由な群れであった。
翌日、新しく与えられた巣穴をごっつありすが訪れた。
「姉さんようこそ!ゆっくりしていってね!」
「ありす!ゆっくりしていってね!」
ごっつありすはしげしげと、母ありすが作った葉っぱのシーツを眺める。それは、
かつての巣から持ち出したものであった。
「ありすは器用なんですね…小生ではこうもとかいはなものは作れません。おか
ーさんに似たんですね…」
「ありがとう、姉さんにほめてもらうとゆっくり嬉しいわ!今度姉さんにも作っ
てあげるわね!」
「それは…楽しみです…」
ほのぼのとした表情で妹と語り合っていたごっつありすの顔が変わる。何しにこ
こへ来たのか思い出したようだ。
「さなえさまによると今日は雨が降らないそうです。ここに来たばかりで分から
ないことも多く、ゆっくり出来ないでしょう。今日は小生と一緒にゆっくり狩り
に行きませんか?」
さなえ種やすわこ種は雨を予知すると言われている。すわこが鳴いたら雨が降る
とは、良く知られた迷信の一つである。しかし、生き物による天気予報に関する
迷信の中では的中率が比較的高く、近年は表皮上に持つ化学受容体によって、大
気中の水分を感知しているのではないかとも考えられている。
この群れの「おやかたさま」であるさなえは、この天気予知によって、ある種の
神性をゆっくりたちから得て、それを自身の支配に利用していた。もちろん、さ
なえ種が感知できるのは、大気中の水蒸気の変化であり、雨が降るかどうかを直
接感知しているわけではない。だが、ある程度当たる、というだけでも、他のゆ
っくりから信仰され、支配の正統性を得るには十分だった。
実際、お館さなえが群れを率いるようになった初期に、何匹かお館さなえの忠告
を無視して狩りに出かけたゆっくりが、雨によって永遠にゆっくりしてしまった
ことがあり、それ以降、さなえによる天気予知に口をはさむものはいなくなった。
ごっつありすはありす一家を巣の裏側の湿原へと案内した。そこには見たことも
ない露に覆われた小さな植物がびっしりと生えている。
「これはとてもゆっくりできない草さんです。ここには決して立ち入らないよう
ゆっくりりかいしてね…」
「「ゆっくりりかいしたよ!!」」
次にごっつありすは一家をミズゴケの群生地帯へと案内した。
「もう少しぽーかぽーかしないと…おいしい草さんや花さんは生えてきません。
今はこけさんを食べてゆっくりがまんしてください…」
「むーしゃむーしゃ…それなり~…」
春先は貧食に耐えなければならないのは、湿原ならどこでも一緒である。しか
し、夏に生まれたありすにはミズゴケは苦かったようだ。
「ありすせんせーっ!!!ゆっくりしていってね!!!」
ごっつありすの知り合いだろうか?
一匹の子れいむが元気良く挨拶して、跳ねて行った。
群れの何気ない日常の何気ない一幕のはずであった。だが、母ありすは気がつい
た。そして、ぎょっとした、先程の子れいむは右目に瞳がなかったのである。
ごっつありすは妹の反応から、状況を悟ったようだった。
「小生はここに来る前から、きけいやすてごゆっくりの世話をしてきました。
どうかあの子をゆっくりできない子などと考えないであげてください。ここは掟
さえ守ればさなえさまのおかげでみんなゆっくりできるのです…」
ありす一家が回りを見回すと、他の群れなら捨てられているようなゆっくりたち
が普通に暮らしていた。
飾りを喪失し、代わりに葉や木の実を身につけたゆっくり、片目がないゆっくり、
禿げ饅頭、明らかに遺餡子の異常で先天的に体の何かがおかしいゆっくり…
さすがに動けないような重度の奇形ゆっくりがいないのは、重度ではそもそも生
きていけないからだろう。
「あちらに行きましょう。ぬまの草さんがとりやすい場所があります。」
ごっつありすは三匹のゆっくりの心の中に生じた波紋を察したかのように、別の
場所へと一家を案内した。そこは視界が開けた沼のほとりだった。
「ここはおみずさんがとっても静かだよ!!!これならまりさはお帽子さんで
ゆっくりできるよっ!!!」
お館さなえたちの群れの居住区を囲むこの沼は波一つ立つことのない静かな沼だ
った。
中には水上に帽子を浮かべ、器用に櫂を操って、ジュンサイを集めているまりさ
もいる。
「もうちょっとがまんすればゆっくりできるごはんさんも取れるようになるから、
ゆっくり我慢してね!」
「おかーさん…ゆっくりりかいしたよ…」
がっかりする我が子に優しくすーりすーりしてあげる母ありす。そんな妹の姿を
姉のごっつありすも微笑ましげに見つめていた。
「ゆんやああああああああ゛!!!」
ゆっくりの悲鳴がありす一家の柔らかな空気を切り裂いたのはそのときである。
かわのむれから加入したゆっくりの中に早速掟破りが出現したのだ。
お館さなえの巣の前には、ツルで縛られた三匹のゆっくりが整列させられている。
番と思しきまりさとれいむ、その子まりさである。その周りには、騒ぎを聞きつ
けたゆっくりたちが大勢集まり、あるものは怯えた視線を、あるもの好奇の視線
のこの舞台の主役たちに送っていた。
この番は、夏に生まれた子まりさが、ミズゴケをまずいと受け付けなかったため、
群れの備蓄の木の実に手ならぬ、舌を出してしまったのである。
「言ったはずです…泥棒は絶対ゆるさなえと…」
「うるさいんだぜ!このくそみどり!!まりさのおぢびちゃんはゆっくりしたご
はんさんしか食べられないんだぜ!さっさと解放しろ!!さもないと痛い目にあ
うんだぜっ!!!ぺっぺっぺ!!!」
自棄になっているのか、まりさは暴言を吐きつつ、お館さなえに向かって唾を飛
ばす。
お館さなえは唾がかかるのも気にせず、ただ冷たく、あんよをじたばたさせるま
りさを見ていた。
「周りが見えないの?ゆっくりできるごはんなど、この季節にないわ…」
「みんなまりさの話を聞くんだぜ!まりさは見たんだぜ!どんぐりさんがいっぱ
い集めてあったんだぜ!自分だけいい思いしようなんてまりさはゆるさないんだ
ぜ!!みんなでこいつをせいっさいっしてゆっくりできるどんぐりさんをむーし
ゃむーしゃするんだぜ!!!」
だが、まりさの呼びかけに答えるものはいなかった。
あるものは怯えた目で、あるものは妄信とすら思える眼差しで、あるものはただ
冷静に、この群れを率いるお館さなえを見つめているだけだった。
そして、お館さなえは、餌を蓄えるということを理解していないまりさにため息
を返しただけだった。
「なにやってるんだぜ!!!さなえをたおすんだぜ!!!そしてまりさをたすけ
るんだぜ!!!」
このまりさは新入りの自分達がいきなり群れの掟を破って、周りから助けてもら
えるとでも思っているのだろうか?
お館さなえはあきれたように周りの兵ゆっくりに促す。
二匹のみょんが前に出てきて、鋭く尖った棒をまりさに突きつけた。
「ゆひいいっ!!!や!やめるんだぜ!!なんでこれくらいのことでまりさがこ
んな目にあわなきゃいけないんだぜ!絶対おかしいんだぜ!!!」
あんよをじたばたと動かし、無駄と知りつつも逃げようとするまりさ。当然、縛
られたままで移動など出来るはずもなく、ただ、しーしーの染みが足元に広がっ
ただけだった。
「まりさはおちびちゃんをおなかいっぱいにするために仕方なく盗んだんだよ!
ゆっくりりかいしてゆるしてね!!!」
「ぱぱはつよいんだぜ!いまどげざすればまりしゃしゃまのどれいになるだけで
ゆるちてやるんだじぇっ!!」
番のれいむと、二匹の子の子まりさがただならぬ事態に喚き始める。
「これはいただいておこう…」
お館さなえはそっと、まりさの帽子を取り上げた。罪人の帽子はそのまま水上部
隊に利用されるのだ。
「ゆわああああああ゛!!!かえぜ!!!まりさのだんでぃなおぼうじかえぜえ
ええええええっ!!!」
「皆のものよく見ておきなさい、これが群れの掟を破ったものの哀れな末路よ!」
お館さなえの合図と共に、さっきからぷりんぷりんと動いていたまりさの尻に二
本の鋭く先端を尖らせた棒が差し込まれた。
「ゆっぎゃああああああああああああああああああああああ!!!ばでぃざの!
ばでぃざのずぇくじーなおじりがあああああっ!!!」
「やべでね!!までぃざいやがっでるよっ!!!たじゅげであげでね!!!」
絶叫し、ぶんぶんとおさげを振り回すまりさ。それを心配し、必死に助けを求め
るれいむ。
だが、この群れにおいては掟を破ってしまった時点で二度目はなかった。
「ゆえええん!痛そうだよ!ゆっくりできないよっ!!!」
あまりの惨状に思わず目を背けるありす。
「目を逸らしてはなりません!!!」
ごっつありすは、怯えるありすをぎょろりとにらみつけた。
「群れで生きるということは、時に自分たちのゆっくりも捨てなければならない
ということ!それを理解できぬゆっくりを永遠にゆっくりさせるのもりーだーの
役目!!皆で楽しく生きることが群れの表の一面なら、群れのちつじょを乱した
ものをせいっさいっするのは裏の一面!!!この両面があってこそ、とかいはな
群れとなるのです!!!」
「ゆっぴいいっ!!!」
ごっつありすの迫力に怯えるありす。
ありすの後ろにいた父まりさは、ごっつありすのあまりの顔芸に恐怖し、勢い良
くうんうんぶらすとを噴射してしまっていた。正真正銘筋金入りの糞親父である。
「貴様らは助かりません。掟を破ったものは永遠にゆっくりするしかない…」
「ゆっぎゃああああああ!!!いやじゃあああ!!!ばでぃざはゆっぐりじだい
いいいいっ!!!」
「自分達だけゆっくりしようとする…それこそゆっくりできない行為だと知りな
さい!」
さらにあにゃる、口、頬から棒が差し込まれる。巧みに中枢餡を避けて棒を差し
込んでいるのは、少しでも長く、痛々しい悲鳴を周囲のゆっくりに聞かせること
で、さらなる掟破りを防止するためである。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ゆああああああ゛!!!ばでぃざあああああ゛!!!」
口を貫かれ、もうまりさは満足に絶叫することすらできなかった。
「ごはんさんを蓄えるのは皆が困ったときのためです。自力で何とかせず、他の
ゆっくりに助けを求めることもせず、それを盗みに走るとは…愚か…」
「ゆああああ゛!!!ゆああああ゛!!!」
まりさは何か言おうとしていたが、その度に傷口から餡子がみちみちと溢れて
いく。
「そろそろゆっくりさせてあげなさい…」
「みょん!」
お館さなえの指示を受け、一匹のみょんが、棒をまりさの眉間に突き刺し、中
枢餡を破壊した。
「ゆ!!?げっ!!!」
そしてまりさは動かなくなった。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!ばでぃざあああああっ!!!」
愛する番の無残な最期に涙するれいむ。
「ゆっげえええっ!!!なんじぇぴゃぴゃちんでるのおおおっ!!?まりちゃ
は!まりちゃはいいこだきゃらたしゅけてね!!!」
子まりさはげすだったようだ。
死んだまりさの番だったれいむは涙目をキッと見開き、冷たく見下すお館さな
えに向かって咆哮した。
「ばでぃざは!ばでぃざはあいずるかぞぐのだめにやっだんだようぅ!!!わ
るいごどだっだがもじれないげど!!!なにもごんな!!ごんなめにっ!!」
「麗しい愛のためなら仕方ないと申すか…」
少しだけ、ほんの少しだけ、お館さなえの凍った瞳の奥に炎が揺らめいた。
「いやなら最初からこの群れに入らなければ良かったのだ。他の群れでゆっく
りしていれば良かったのだ…それを今更…!」
お館さなえは髪飾りでまとめた一房の髪の中に仕込んであった、尖った棒−そ
れは折れた指揮棒だった−をぐっとれいむの眉間に差し込んだ。
「ゆびびいいいいいいっ!!!れいぶの!れいぶのうるおいべびーすぎんがあ
あああっ!!!」
「ごはんさんがない時期は皆苦しい、皆我慢している…皆ができることをお前達
はできなかった。やろうとしなかった。それが罪よ…」
お館さなえはれいむの眉間に差し込んだ指揮棒に力を込めた。ぐるんぐるんと中
の餡子をかき回した。言いようのない吐き気と頭痛がれいむを襲う。
「ゆっくりりかいしなくていいよ…すぐ永遠にゆっくりできるから…」
「ゆぎいいいぎぎぎぎぎいいいいっ!!!ゆべえあああ゛!!!」
ぐぐっと指揮棒はれいむの頭に沈んで行き、そして、れいむは事切れた。
だが、今回のれいむはせいっさいっされた個体としては幸せだったかもしれない。
どうしようもないげすとみなされた個体は、奇形ゆっくりたちによってどこかに
連行され、帰ってきた者はなかった。
お館さなえはれいむから指揮棒を引き抜き、最後に残った子まりさの方へと向き
直った。
「さて…」
「やべじぇね!!!まりじゃなんにもわるいこどじでないよっ!!!ゆっぐりたじ
ゅげでね!!!もうやじゃあああ!!!うんうんじゅるよおおおおっ!!!」
先に死んだ親まりさと同じようにあんよをじたばたさせる子まりさ。
そのとき、ありすが群集の中から飛び出し、お館さなえの前に立ち塞がった。
「かわいそうだよっ!!どうしてみんなころしちゃうの!!!」
黙ってありすを見つめるお館さなえ。その瞳は相変わらず氷の薄幕が張っているか
のようだった。
いつの間にか、あのゆっくりできない雰囲気を漂わせた潰れた帽子のまりさが、あ
りすの背後に迫っていたが、お館さなえはまりさに合図するかのように、首を横に
振った(実際は顔を震わせたようにしか見えないが)。
潰れた帽子のまりさがすっと一歩下がるのを確認すると、お館さなえはいつもの冷
たい調子で口を開いた。
「我はただ掟の通りに裁いているに過ぎません。」
我が子の行動に仰天した父まりさと母ありすが群集から飛び出し、お館さなえとあ
りすの間に立ち塞がった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいいいいいっ!!!なんで謝ってるの
かまりさにも分からないけど、ごめんなさいぃっ!!!」
「この子はっ!やさしいゆっくりした子なんです!!どうか殺さないで…」
お館さなえは鬱陶しそうに目を細め、口を開いた。
「なにを勘違いしている…?」
相変わらず、お館さなえの口調には何の感情も込められてはいなかった。
「この子ありすは掟を破っていない。我が裁く理由はありません…」
お館さなえは再び、子まりさの前に立った。
「お前自身は掟を破っていない。せいっさいっしない。」
お館さなえの一言と共に、左右についていたみょんが子まりさの縄を解いた。
「掟を破ればどうなるか、もう餡子に染み付いたはずだ。このまま掟を守って群れ
に留まりなり、出て行くなり…好きにするが良い。」
この子まりさは、盗んだどんぐりを口にしているので、掟に抵触するかどうかは、
微妙なところがあった。もし、どんぐりを盗ってくるよう積極的に親に働きかけ
ていたなら、せいっさいっされていただろう。
「…こ…こにょゆっくりごろし!!!ぱぱとままをかえちぇっ!!!くじゅっ!!
それができないならあまあまもってきょい!!!たきゅさんだよっ!!!」
自分が助かると分かった瞬間、子まりさは手のひらを返したかのようにお館さなえ
に暴言を叩きつける。先程まで必死に命乞いをしていたはずなのだが。
「そこのありす…」
お館さなえは何も聞こえないかのように、子ありすの前に立ち、問いかけた。
「貴様は…もしも群れの半分が越冬できる分の餌しかなかったらどうするの?」
ありすはゆっくり考えた。まず、質問の意味を理解するだけでも子ゆっくりである
ありすにはすぐにできることではなかったのだ。
「冬…冬さんの半分までみんなで生きて、後はそれからゆっくり考えるよ!」
その答えを聞いて、お館さなえの顔がひきつる。少なくともありすにはそう見えた。
「育ちが良いわね……だが、無責任……りーだーほどゆっくりらしくないものはな
い…」
お館さなえはそれだけ言うと、その日の餌を採るため、護衛のみょん、そしてあの
ゆっくりできない潰れた帽子のまりさと共にに跳ねていってしまった。
ありすは分からなかった。ゆっくり殺しならともかく、一度の過ちでなぜ、せいっ
さいっされなければいけないのか。
4
群れの食糧を盗んだまりさとれいむがせいっさいっされてから数日後、ありすは新
しくできた友人とお外で遊んでいた。
「ありすをひみつのえさばにつれてってあげるみょん!」
「ひみつのえさばとひみつのはなぞのはとってもとかいはな匂いがするわ!!!」
それは、生まれつき髪がアフロになっている奇形のみょんであった。大きさから判
断して成体になったばかりであろうか?
どうか仲良くしてやってほしい、と母ありすの姉にあたるごっつありすが連れてき
たのである。
いきなり奇形ゆっくりを連れてきた姉に対して、母ありすは困惑した笑顔で、父ま
りさは満面の笑顔で出迎えたが、その下腹部ではあにゃるすぱぁくが起きており、
後に母ありすにくそぶくろ呼ばわりされながら、あにゃるにいろいろ突っ込まれる
ことになる。なお、父まりさがあにゃるへヴんという全く新しい境地に達するのは、
もう少し後の話である。
「ここだみょん!!」
アフロみょんがありすを連れてきたのは、陸橋の入り口から、川の方向へと少し入
り込んだ場所だった。そこにはまだ一部、積雪が小さな氷河のように大地に残り、
まばらに生えた木々の下に、点々とミズバショウの花が手を合わせて祈りを捧げて
いた。
「このお花さんを食べるの?」
「ちがうみょん!それをたべるとうんうんがもりもりじゃなくて、ぴーぴーになる
んだみょん!注意するみょん!」
アフロみょんがありすを連れてきたのは残雪の上にできた小さな水溜りだった。
「ゆ!?おたまじゃくしさん!!?」
エゾアカガエルのような積雪地帯に生きるカエルは時として、雪解け水によって出
来た水溜りに産卵する。そのため、孵化したオタマジャクシが、積雪上の小さな水
溜りから出られず、そのまま死んでしまうことも珍しい光景ではない。
「草さんばかりじゃおなかがすくみょん!ありすはみょんと一緒におたまじゃくし
さんを食べるみょん!!!」
アフロみょんは小さな水溜りの中でにっちもさっちも行かなくなっているオタマジ
ャクシを水ごと一気に飲み込んだ。
「ぴゅ~…」
そして、冷たい雪解け水だけを口から水鉄砲のように噴射し、口内に残ったオタマ
ジャクシを咀嚼する。
「ありすもやってみるみょん!」
ありすもみょんがやった通りにオタマジャクシを捕まえてみた。オタマジャクシは
思ったより簡単に捕まった。
「むーしゃむーしゃ!しあわせ~っ!」
「喜んでくれてうれしいみょん!」
それから二匹で辺りを跳ね回り、枯れ木の下に隠れていたダンゴムシを捕まえたり、
苔のマットの上で競走したりした。
一緒に遊んでいる間、アフロみょんはずっとニコニコしていた。
「みょんはとってもゆっくりしているのね!」
「みょんはお外に出れたからゆっくりできたみょん!みょんはありすが一緒に遊ん
でくれるからとってもゆっくりできてるみょん!」
正直、ありすはここ最近あまりゆっくりできていなかった。食べるものと言えば、
苔やあまり美味しくない草が中心で、ありすの大好きな木の実や花を全く口にでき
ていなかったからだ。
おまけに掟や群れのための貯蓄分の食糧の確保など、気をまわさなければならない
ことがあまりに多い、ありすはそう感じていたのである。
「ありすはあまりゆっくりできてないわ!毎日ごはんさんがこけさんやくささんば
かりなの!とかいはなごはんさんじゃないわ!」
ありすはつい、自分の不満をアフロみょんにぶつけてしまった。
しかし、それに答えるアフロみょんの表情は変わらず、にこにこしていた。
「そんなことないみょん!みょんはごはんさんが食べられるだけでゆっくりできる
みょん!」
アフロみょんは自身の半生をありすに語った。
両親は正常なゆっくりだったのに、自分だけ奇形として生まれてきてしまったこと。
町にいた頃は、ごはんさんを手に入れるだけでも一苦労であり、人間さんや他のゆ
っくりに見つからないようこそこそしなければならなかったこと。
夏は暑苦しいからという理由で家族と一緒に眠らせてもらえなかったこと。
奇形ではなかった両親、姉妹にも邪険され、ふるぼっこされてゴミ捨て場に捨てら
れたこと。
ごっつありすに拾われ、お館さなえと出会い、奇形でも自分でごはんさんを取って
きて、群れの掟を守ればゆっくりできると教えられたこと。
そして、今でも正常なゆっくりと奇形ゆっくりの間に多少の軋轢はあるものの、普
通にゆっくりできてしあわせ~であること。
「そっか…みょんはとてもゆっくりしてるんだね…」
ありすはお外を跳ねられる、誰かと一緒に遊べる、ごはんさんが食べれる…たった
それだけのことで、心からゆっくりしているアフロみょんのことがちょっと理解で
きなかった。でもちょっとうらやましかった。
「そろそろ、帰るみょん!みょんは変なゆっくりだけど…ありすさえよければ、ま
た遊んでほしいみょん!」
アフロみょんが何気なく言ったその一言の裏で、怯えているのがありすには分かっ
た。いや、ひょっとしたらずっと怯えていたのかもしれない。
ありすはさっきアフロみょんの半生を聞いたから、やっと分かるようになったのか
もしれない。アフロみょんが、この普通の生活が壊れてしまうことをずっと恐れ続
けていることに。
「ええ!またゆっくりしましょう!」
ありすは哀しそうな笑顔でにっこりと微笑んだ。
「ゆゆ!!?ゆっくりできないみょんがいるよっ!!!」
ありすとアフロみょんがかわのむれからの移住組であろう、れいむとあほ毛が立
ったさなえの番に出会ったのは、陸橋への帰り道のことであった。
さっきまでにこにこした笑顔だったアフロみょんの顔が一気に真っ青になる。
「ち!ちがうみょん!みょんはゆっくりした群れの一員だみょんっ!!!」
アフロみょんは顔を青ざめさせたまま、必死に陸橋にいる兵ゆっくりのところへ
と跳ね始めた。
「もてかわれいむは逃がさないよっ!!!」
「ゆぐふっ!!?」
もてかわれいむがもみあげで横殴りにアフロみょんを叩き飛ばし、その上にあほ
毛さなえがのしかかって動きを止める。
「やめてね!みょんはゆっくりできるみょんなんだよっ!!!」
やっと事態を飲み込めたありすが二匹を止めようとする。
「ありすは目が腐ってるんですね、これはゆっくりできないみょんです!」
二匹は聞く耳を持たなかった。ありすが必死に体当たりをしようとしても、まだ
子ゆっくりのありすでは太刀打ちできなかった。
「せいっさいっを邪魔するありすはゆっくりしないであっちに行っててね!」
ありすはもてかわれいむのもみあげで弾き飛ばされ、草むらで全身をしたたかに
打ちつけて気絶した。
「ありすぅ~っ!!!」
できたばかりの友達を心配するアフロみょん。だが、アフロみょんに、他のゆっ
くりを心配している暇はなかった。
「ゆっくりできないみょんはせいっさいっするよっ!!!」
「変な髪形のみょんはゆっくりできませんっ!!!」
「やべでっ!!!やべでねっ!!!みょんは!!!やっどゆっぐり!!!どもだ
ぢが!!?」
もてかわれいむとあほ毛さなえの二匹は餅つきのように交互にアフロみょんの上
で飛び跳ねた。
その度に、アフロみょんが潰れ、皮が破れ、眼球が破裂し、ホワイトチョコレー
トが緑色の苔のマットに広がり、染み渡っていく。
「いくよ!れいむのびゅーてぃーひろいんあだっぐぅ~っ!!!」
「ゆっくりできないみょんごときが!かぜのほうりに勝てるとでも思ってたんで
すか!!?」
「いやじゃ!!みょんはやっどゆっぐりぃっ!!?」
成体とは言え、まだまだ体の小さいアフロみょんに、この状況から脱出する術も
機会もありはしなかった。
「…ゆ゛げ…ゆ゛げげ…」
もはやアフロみょんは痙攣するだけのホワイトチョコレートの塊に過ぎなかった。
「ゆっくりできないゆっくりごときがゆっくりしてるとか!ともだちとか!生意気
なんだよ!!!ゆっくりりかいしてね!!!」
もてかわれいむが最後に振りかぶったもみあげを叩きつけ、アフロみょんは永遠に
ゆっくりした。
「ふぅ…ほんとうに汚いいきものでした…」
二匹が立ち去った後、気絶していたありすが見たのは、ただの真っ白な染みと、ぐ
じょぐじょになった銀色のもじゃもじゃした髪の毛だけだった。
アフロみょんを永遠にゆっくりさせたれいむとさなえの番が、ありすの通報によ
って逮捕されたのは、それから2時間ほど後のことであった。
「どぼじでれいぶがだいぼざれなぎゃいげないのおおおおおおっ!!?」
「さなえはゆっくりしたゆっくりなんですよっ!!!もっとゆっくりさせなきゃ
いけないんですよっ!!!」
逮捕されたもてかわれいむとあほ毛さなえが、処刑場、即ちお館さなえの巣の前
へと引っ立てられる。
かわのむれのゆっくりたちが来て以来、似たような事件は何度か起こっていたが、
今までは常に巣の近くであったがために、掟破りの事態になる前に誰かが止めに
入っていた。ゆっくり殺しが裁かれるのは、移住組を受け入れて以来、初めての
ことであった。
「やべで!たじげでぇっ!!!れいぶはゆっぐじじでるんだよっ!!ゆっぐりで
きないゆっぐりをえいえんにゆっぐりざせると!ゆっぐりできるんだよっ!!」
「他のゆっくりを見下すことでしかゆっくりできないくずなど、この群れにはい
らないわ…」
お館さなえはもてかわれいむのあにゃるに棒を刺し込んだ。
「ゆぎゃあああああああああっ!!!れいぶのおーろらのようなあにゃるがああ
ああああああっ!!!」
お館さなえはそのまま、もてかわれいむの正中線に沿って、まむまむ、口へと切り
裂いていった。
「やべろおおおおおおっ!!れいぶのあんよがっ!!まむまむがあああっ!!」
お館さなえはもてかわれいむの目と目の間まで切り裂き、そこで棒を離した。
「餡子をかき出せ…」
せいっさいっの手伝いを命じられた奇形ゆっくりたちは、遠慮なくもてかわれいむ
の体に棒を突っ込み、中に詰まっている餡子を葉っぱの上に取り出していった。
あまりに悲惨な刑罰に、多くの見物ゆっくりたちが目を背け、もてかわれいむの痛
々しい悲鳴に、巣の中でゆっくりしていたゆっくりですら震え上がった。
「や゛あ゛あ゛っ!!!や゛あ゛あ゛っ!!!や゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
本来ならば、れいむの餡子取らないでー!と叫んでいるのだろうが、口も切り裂か
れている以上、ほとんど声らしい声になっていなかった。
「やめてえええ!れいむの餡子とらないであげてくださいいいいいいっ!!!」
隣で縛り上げられているあほ毛さなえが泣き喚く。
「ゆ゛ゆ゛…ゆ…ゆ゛ゆ゛…」
生きたまま餡子を取られたもてかわれいむは、餡子を半分ほど取り出された段階で
痙攣しかしなくなり、そのまま中身を全て取り出されてしまった。
親衛隊のゆっくりたちが、その餡子をとある穴へと運んでいく。その餡子がどうな
るのか知っているゆっくりはほとんどいなかった。
「さて…」
お館さなえは、次はあほ毛さなえの番と言わんばかりに、そちらへと向き直った。
「や!!!やべでぐだざいっ!!!ざなえもざなえなんでずよっ!!!」
あほ毛さなえは、お館さなえに向かって同属だからと、赦しを求めた。
「だからどうした?例えさなえでも掟破りは絶対にゆるさなえ!!!」
お館さなえは公正であろうとしていた。以前、奇形ゆっくりが調子に乗って、正常
ゆっくりから食糧を奪った際は、泥炭地に掘られたゴミ穴に顔だけ残して埋められ、
餓死するまで放置された。
お館さなえは、もてかわれいむにしたのと同じように、そのあにゃるに棒を突き刺
し、まむまむまで一気に切り裂いた。中からみちみちと音を立てて、ずんだ餡があ
ふれ出す。
「あぎゃああああああああああああっ!!!ざなえのずぃーどなまむまむがあああ
あああっ!!!」
「ゆっくりできない掟破りはゆっくり死ね!!!」
お館さなえはそこから一気に、目と目の間まであほ毛さなえの皮を切り裂いた。
「ああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ぶすり、ぶすりと棒が何本も突き立てられ、あほ毛さなえのずんだ餡がほじくり出
されていく。
「覚えておけ!掟を破るゆっくりは誰であろうと絶対にゆるさなえっ!!!」
あまりに凄惨な光景に静まり返るゆっくりたちに向かってお館さなえはそう宣言し
た。
「みょん…」
ありすは、かつてせいっさいっを止めに入ったありすは、この凄惨な光景をただじ
っと最後まで見つめていた。
もてかわれいむとあほ毛さなえからほじくり出された餡子は、お館さなえとその親
衛隊が管理する穴―倉庫の一つへと運び込まれた。
取り出された餡子は暗所に安置され、葉っぱの上で乾燥される。
倉庫の中には、同様に乾燥させている餡子やチョコレートが葉っぱの上に置かれて
安置されていた。中には、葉っぱの中に小分けされ、笹の葉で巻かれて保存されて
いるものもある。
これを木の実や草と混ぜ、舌が味を覚えてしまわないよう味をわざと落とし、越冬
のための非常食として使ったこともあった。だが、この餡子の使い道はそれだけで
はなかった。
5
両親を処刑された子まりさはぬまのむれを離れ、もりのむれに身を寄せていた。
「まりしゃしゃまはぬまのむれからにげてきたんだじぇ!!まりしゃのぱぱとまま
はまりしゃしゃまのためにとってきちゃごはんしゃんをさなえにうばわれて、えい
えんにゆっくりしちゃったんだじぇ!!!だからたすけてほしいんだじぇ!!!」
ドスまりさの前で必死に弁明する子まりさ。
正直、ドスまりさはこの亡命子まりさの口調にゆっくりできないものを感じ取って
いたが、寛大なボスでいたいドスまりさは鷹揚な口調で亡命子まりさを弁護し、群
れへと歓迎した。
「ドスのことを頼ってくれてうれしいよ!こども一人じゃ大変だろうから、ごはん
さんに困ったらいつでもドスを頼ってね!これはかんげいのごちそうだよ!」
ドスの言葉と共に、亡命子まりさの目の前には、軟らかそうなシダの新芽、さっき
死んだばかりの新鮮なケラやダンゴムシ、去年貯蓄したどんぐりなどが並べられた。
それと同時にれいむ合唱団による、ゆっくりによる愛と平和を謳ったおうたが合唱
される。
この群れは参謀であるゲロぱちゅりー、ゲロりーの指導の下、弱いゆっくりを見捨
てない方針を採っていた。例え、罪を犯したゆっくりでも、周りのゆっくりが励ま
し、立派に暮らしていけるよう群れがサポートしてくれるのである。
ついこの間も、一匹のゆっくりがれいぽぅ事件を起こしたが、ゲロりーが必死に更
生するようゆっくり説得したことで、最後には泣いてゲロりーに謝罪したほどだっ
た。
今では、このゆっくりは群れからごはんさんの支援を受けながら、立派に働ける機
会をうかがっているはずだった。
当然、かわいそうな亡命ゆっくりやしんぐるまざーにも手厚い保護が与えられ、最
低限の食糧は無条件で群れが補償してくれることになっていた。
「すごんだじぇ!!どすはとってもゆっくりしてるんだじぇ!このむれは、さなえ
のむれとはおおちがいなんだじぇ!!!ここならまりしゃしゃまもゆっくりできる
んだじぇ!!!」
れいむたちのとろけるような美声に聞きほれ、思わず目の前のご馳走をおなかに詰
め込むのも忘れてしまう亡命子まりさ。
「ゆふふ!ドスがとてもゆっくりしているのは当然のことなんだよ!ちぇん!むれ
のあたらしい仲間にもっとごちそうを持ってきてね!ゆっくりでいいよ!」
「ドス!わかったよ~!」
ドスは今までも、こうやって自分を頼ってきたゆっくりたちにご馳走を振舞い、ド
スとその群れがいかにゆっくりした存在であるかを示してきた。こうしてドスの、
そしてこの群れの寛大さに感激したゆっくりたちは、自ら進んで群れのために動く
ようになるだろうという目論見である。
これもゲロりーの献策である。
「むきゅ!ぱちぇはもりのけんじゃになるわ!どすはもりのじんくんになるのよ!」
ゲロりーはかつてドスにそう語ったものだった。
「むきゅ!強いゆっくりや狩りの上手なゆっくりが、まりちゃみらいな弱くてかわ
いそうなゆっくりを守って、ごはんさんをあげるのは当然のことなのよ!これこそ
が愛なのよっ!!!」
小さな新参者に対してゲロりーは早速、自身の目指す「愛」を説いた。
「ゆゆ~ん!みんながまりしゃしゃまをゆっくりさせるのはとうぜんなんだじぇ!
さすがぱちゅりーのかんがえはゆっくりできるんだじぇ!!!まりしゃ!このむれ
がだいすきになったんだじぇ!!!」
どうやら自分勝手なところがあるようだが、まだ子供だから仕方ないだろう。それ
よりもゲロりーはこの新参者がゲロりーの考えをゆっくりしていると言ってくれた
ことが嬉しかった。
「むっきゅん!愛の大切さが分かっているみたいね!この群れは愛によってみんな
ゆっくりしているのよ!!」
ドスたちの目論見の現実性云々はともかく、ドスの群れは実際、とてもゆっくりし
ていた。ドスたちがこの土地にやってきた去年の秋は、ドスの来訪に感激した森が
たくさんのどんぐりを実らせた。そして、冬眠中、食糧の少ない春先を乗り切るの
に十分すぎる量を蓄えることが出来たのである。
この豊富な蓄えがこの群れがもっと大きくなる一助となる。ドスまりさはそう信じ
ていた。実際にドスの群れは当初の二倍にまでゆん口が増えていた。これこそがゲ
ロりーが思い描き、ドスが実行した仁政の賜物だった。そして、かわのむれからの
移住組は、ドスまりさからの厚遇に、自分達の選択が正しかったことに満足した。
だが、ドスたちが描いた甘い夢が穴だらけであったことが、群れの食糧倉庫に追加
の食糧を取りに行かせたちぇんから伝えられる。
「ドス!もうむれのそうこにごはんさんがないんだよー!わかってねー!」
つづく