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#navi(使い魔はじめました)
使い魔はじめました―第五話―
トリステイン魔法学院の食堂に辿り着いたサララとチョコは言葉を失っていた
長いテーブルが三つ並んでおり、百人は優に座れそうだ
それぞれのテーブルに幾つも蝋燭が立てられ、花が飾られ、
フルーツの乗った籠が並んでいる
幾度か訪れたことのある王城の中と並ぶくらい、あるいは
それ以上に豪華な施設に、ただただ目を丸くする一人と一匹
その様子を見たルイズが、鳶色の目を輝かせながら自慢げに語りだす
「魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃあないのよ。
貴族たるべく教育を存分に受けるのよ。
だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないの」
「ふーん……ねえじゃあさあ」
この食堂は貴族のもの、という趣旨の言葉を聞いたチョコが疑問を口にする
「ぼくたちのご飯はどーするのさ?」
「あ」
ルイズは食堂の入り口で頭を抱えた
一応魔法使い崩れとはいえ、彼女は平民であり、ましてや使い魔である
本来なら、使い魔は外の宿舎か床で食事を取らせるのだが、
そもそもサララの食事の手配すら忘れていた
忘れていた、というよりは出来なかった、というほうが正しいのだが
「……どうしよう」
「えー!お腹空いたよー!ご飯ご飯ー!」
にゃあにゃあと騒ぎ立てるチョコと、いざとなったら
『あの鍋』に石ころでも投げ込もうと考えているサララ
そして頭を抱えたままのルイズの下に一人のメイドが駆け寄ってきた
「あの……どうかなさいましたか?」
「あ、え、ええと、あなた!」
閃いた!というような顔をしてルイズは、びしっと音がせんばかりに
そこにやってきたメイド―シエスタ―を指さした
「ちょっとした手違いで、私の使い魔の食事の用意が出来てないの!
し、仕方ないから、何か適当に食べさせてやってちょうだい!」
「は、はい、分かりました」
いきなりそう言われてびっくりしたものの、食事が出来ずに困っているのが
今朝会ったサララだと分かると、シエスタは一人と一匹を厨房へ案内した
「マルトーさん」
「おう、シエスタじゃねえか。……何だ、そのちっこいのは」
丸々と太った男性にじろり、と睨まれてサララとチョコは思わず身震いする
「こちらはサララさんと、それから飼い猫のチョコさんです。
ほら、使い魔召喚の儀式で召喚されてしまったって言う……」
「おお、デカい鍋と一緒に召喚されたって噂のあいつらか。
で、その貴族様の使い魔が何の用だ?」
何処か不機嫌そうに問いかけるマルトー
どうやら、彼はあまり貴族が好きではないようだ、とサララは考える
「実は、ミス・ヴァリエール……彼女を召喚した貴族の方が、
彼女に食事を用意するように、とおっしゃられて……」
「何ぃ?」
再びじろり、と睨みつけてくるマルトーだったが、やがてくるり、と背を向けた
「仕方ねえな。賄いのシチューがあっただろ。あれでも食べさせてやれ」
「ぼくにはお肉だけちょうだいね。熱いの嫌いだから」
ワガママを言う飼い猫を目線で嗜めた後、サララはほっと一息つく
そして、今はまだあまり好かれてないらしいマルトーとも
いつかは仲良くなりたいな、と思うのだった
無論、人に嫌われるのがあまり好きではないというサララ自身の性分ゆえに、だが、
こんな所で料理長をやっているし、服装も綺麗だし、
きっと結構な収入があるから、あわよくば常連さんに……という
商売人ならではの打算も、ほんの少しだけ入っている
おいしいシチューを存分に味わった後で、
サララは何か手伝うことはないか、とシエスタに問いかけた
世の中はギブアンドテイクである
「今は特にありませんが……では、昼食の後で、
デザートを配るのを手伝ってくださいませんか?」
その言葉に了解の意を示し、マルトーにも丁重に礼を言うと厨房を出た
「ちゃんと食事はとれた?」
幸いにも厨房から出てすぐ、ルイズと合流できた
「これから何処行くの?」
「勿論授業よ。といっても、今日のは復習程度の簡単なものだけどね」
チョコの問いにルイズが答えた通り、次に辿り着いた場所は広々とした部屋だった
「うわぁーひろーい。ここで勉強するんだ?」
「ええ、そうよ」
階段状に机と椅子が並んでおり、一番下の段には黒板と変わった机がある
多分、あそこで教師が授業をするのだろう、とサララは予想した
学校というものには馴染みがないが、何かの書物でこういう風な教室を見た気がする
二人と一匹が入っていくと、教室の生徒達が一斉に振り向き、
くすくすと小さな笑い声を立て始めた
「何なんだよもう、感じ悪いなあ……」
チョコが不満を漏らす中で、サララは辺りを見回した
皆、様々な使い魔を連れていた
キュルケのサラマンダーは椅子の下で眠り込んでいる
少しぽっちゃりした生徒の肩にはフクロウが乗っていた
窓からは巨大な蛇が頭を覗かせていたし、カラスも、
チョコと同じような猫もいた
六本足のトカゲもいたし、目玉のオバケに蛸の人魚もいた
見慣れない生物達にサララは目をぱちくりさせる
もし、あれらと戦うことになったとして勝てるだろうか、
元居た場所と違って彼らは喋ってくれなさそうであるから、
交渉をするのも難しいだろうなあ、とため息をつく
戦って勝てそうなら戦う、駄目なら逃げるか、交渉
ダンジョンで鍛えた戦略も通じなさそうで肩を落とす
「ほら、椅子を引きなさいよ、気がきかないわねえ」
ルイズにそう言われて、慌てて椅子をひいた
そして、自分もその隣の椅子に座ろうとする
「おい、ゼロのルイズ!使い魔を椅子に座らせるのかよ!」
フクロウを肩に止めた少年が、ニヤニヤと笑いながら声をかけてきた
「うるさいわね!でもあんたのフクロウはそこでいいんじゃない?
やわらかくて、さぞ居心地がいいでしょうよ、風邪っぴきのマリコルヌ!」
ちょっと気が大きくなっているルイズが少年に言い返した
「風邪っぴきじゃない!僕は『風上』だ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人をサララはおろおろとしながら見る
扉の開く音がして見やれば、紫のローブに身を包んだふくよかな女性が入ってきた
ローブと揃いの色の帽子を被り、手には小ぶりな杖を持っている
彼女は言い争いをしている二人を見るとため息をつき、呪文を唱えた
立ち上がり言い争っていた二人は、糸が切れた操り人形のようにすとん、と席につく
「ケンカはおよしなさいな。さて、皆さん。春の使い魔召喚の儀式は
成功したようですわね。こうやって様々な使い魔を見るのが、このシュヴルーズの
楽しみですのよ。……中には、少し多めに召喚なさった方もいるようですが」
サララとチョコを見たシュヴルーズのとぼけた声に、クラス中が笑う
「ゼロのルイズ!召喚できなかったからって、その辺の子供と猫を連れてくるなよ!」
「違うわ!ちゃんと召喚したもの!」
「そうだそうだ!」
ルイズに同調してチョコも抗議する
「嘘つ……むぐ」
さらにからかおうとした生徒の口に、赤土の粘土が貼り付く
「およしなさい、と言っているでしょう。さあ、授業を始めますよ」
シュヴルーズが杖を振ると机の上に石ころが幾つか現れる
サララは始められた授業を興味深く聞いていた
ダンジョンにおける『熱』『冷』『雷』の法則はこちらに存在しないようだが、
魔法の四大元素が『火』『水』『土』『風』であることは変わらなさそうだ
さらにこの世界には、失われた系統である『虚無』が存在するそうである
シュヴルーズの言葉によれば、『土』は建物を建てるのにも、
金属を加工するのにもかかせない系統であるらしい
自分の知る限りでは、魔法は攻撃や治癒、身体能力の一時的向上などに使われるが
この世界では生活自体に密接に関わっているんだな、と感心しきりである
「今から皆さんには、『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を
覚えてもらいます。一年生の時点でできるようになった方もいるでしょうが、
何事も基本は大事です。では、手本を見せますね」
シュヴルーズは石ころに向かって小ぶりな杖を振り上げた
そして短くルーンを呟くと石ころが光りだした
その光がおさまったあと、石ころはピカピカひかる金属に変わっていた
「ゴゴ、ゴールドですか、ミセス・シュヴルーズ!」
キュルケが興奮した様子で身を乗り出した
「違います。ただの真鍮ですわ。ゴールドを錬金できるのは
『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」
もったいぶった咳をして、シュヴルーズは続けた
「『トライアングル』ですから」
「ね、ルイズ」
チョコが、ちょいちょい、とルイズの腕をつついた
「なによ。授業中よ」
「スクウェアとかトライアングルって、どういうこと?」
「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」
「え?どういうこと?」
ルイズは小さい声でチョコに説明し出す
サララもそれに耳を傾けた
「『火』『土』のように二つの系統を足せるのがラインメイジ、
『土』『土』『火』のように三つの系統を足せるのが、
シュヴルーズ先生みたいなトライアングルメイジ」
「同じ系統を足してどうすんのさ?」
「その系統がより強力になるのよ」
異世界だと、やはり魔法も随分と違うらしい、とサララは説明を聞きながら頷く
「で、ルイズは幾つ足せるの?」
チョコの問いに、ルイズは押し黙ってしまった
そんな風に喋っているのを見咎められ、錬金の実践を求められた
途端、教室の中がにわかに騒がしくなる
「先生!危険ですのでやめてください!」
キュルケが立ち上がり進言するが、シュヴルーズはそれを却下する
ルイズは緊張した面持ちで机の前へと向かった
生徒達は、慌てて椅子の下に隠れ出している
「え?何?何なの?」
事情が分からずサララとチョコはうろたえながら辺りを見回すばかりである
ルイズはルーンを唱え終わり、杖を振りおろす
その瞬間、石ころは机ごと爆発を起こした
爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズが黒板に叩きつけられる
爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し教室の中は阿鼻叫喚の地獄絵図である
「だから彼女にやらせるな、と言ったじゃない!」
キュルケがフレイムを落ち着かせようと必死になりながら叫ぶ
「あー!俺のラッキーが蛇に食われたー!!」
使い魔のカラスを飲み込まれた様子の生徒が慌てている
カラスって不幸を呼びそうな生き物なのに、ラッキーってつけるのは
随分無茶なネーミングだな、などと爆音にふらつき
まともな思考のできていないサララはその叫びを聞きながら考える
煤で真っ黒になり、ボロボロになったルイズは
大騒ぎになっている教室を意に介した風もない
取り出したハンカチで顔を拭きながら、淡々とした声で言った
「ちょっと失敗みたいね」
その言葉に生徒達が猛然と反撃した
「何処がちょっとだ!!」
「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」
「いつだって、成功の確率ゼロじゃないかよ!」
サララはやっと、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているか理解した
自分と同じ『魔法の使えない』魔女だからなのだ、と
#navi(使い魔はじめました)
#navi(使い魔はじめました)
[[使い魔はじめました]]―第五話―
トリステイン魔法学院の食堂に辿り着いたサララとチョコは言葉を失っていた
長いテーブルが三つ並んでおり、百人は優に座れそうだ
それぞれのテーブルに幾つも蝋燭が立てられ、花が飾られ、
フルーツの乗った籠が並んでいる
幾度か訪れたことのある王城の中と並ぶくらい、あるいは
それ以上に豪華な施設に、ただただ目を丸くする一人と一匹
その様子を見たルイズが、鳶色の目を輝かせながら自慢げに語りだす
「魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃあないのよ。
貴族たるべく教育を存分に受けるのよ。
だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないの」
「ふーん……ねえじゃあさあ」
この食堂は貴族のもの、という趣旨の言葉を聞いたチョコが疑問を口にする
「ぼくたちのご飯はどーするのさ?」
「あ」
ルイズは食堂の入り口で頭を抱えた
一応魔法使い崩れとはいえ、彼女は平民であり、ましてや使い魔である
本来なら、使い魔は外の宿舎か床で食事を取らせるのだが、
そもそもサララの食事の手配すら忘れていた
忘れていた、というよりは出来なかった、というほうが正しいのだが
「……どうしよう」
「えー!お腹空いたよー!ご飯ご飯ー!」
にゃあにゃあと騒ぎ立てるチョコと、いざとなったら
『あの鍋』に石ころでも投げ込もうと考えているサララ
そして頭を抱えたままのルイズの下に一人のメイドが駆け寄ってきた
「あの……どうかなさいましたか?」
「あ、え、ええと、あなた!」
閃いた!というような顔をしてルイズは、びしっと音がせんばかりに
そこにやってきたメイド―シエスタ―を指さした
「ちょっとした手違いで、私の使い魔の食事の用意が出来てないの!
し、仕方ないから、何か適当に食べさせてやってちょうだい!」
「は、はい、分かりました」
いきなりそう言われてびっくりしたものの、食事が出来ずに困っているのが
今朝会ったサララだと分かると、シエスタは一人と一匹を厨房へ案内した
「マルトーさん」
「おう、シエスタじゃねえか。……何だ、そのちっこいのは」
丸々と太った男性にじろり、と睨まれてサララとチョコは思わず身震いする
「こちらはサララさんと、それから飼い猫のチョコさんです。
ほら、使い魔召喚の儀式で召喚されてしまったって言う……」
「おお、デカい鍋と一緒に召喚されたって噂のあいつらか。
で、その貴族様の使い魔が何の用だ?」
何処か不機嫌そうに問いかけるマルトー
どうやら、彼はあまり貴族が好きではないようだ、とサララは考える
「実は、ミス・ヴァリエール……彼女を召喚した貴族の方が、
彼女に食事を用意するように、とおっしゃられて……」
「何ぃ?」
再びじろり、と睨みつけてくるマルトーだったが、やがてくるり、と背を向けた
「仕方ねえな。賄いのシチューがあっただろ。あれでも食べさせてやれ」
「ぼくにはお肉だけちょうだいね。熱いの嫌いだから」
ワガママを言う飼い猫を目線で嗜めた後、サララはほっと一息つく
そして、今はまだあまり好かれてないらしいマルトーとも
いつかは仲良くなりたいな、と思うのだった
無論、人に嫌われるのがあまり好きではないというサララ自身の性分ゆえに、だが、
こんな所で料理長をやっているし、服装も綺麗だし、
きっと結構な収入があるから、あわよくば常連さんに……という
商売人ならではの打算も、ほんの少しだけ入っている
おいしいシチューを存分に味わった後で、
サララは何か手伝うことはないか、とシエスタに問いかけた
世の中はギブアンドテイクである
「今は特にありませんが……では、昼食の後で、
デザートを配るのを手伝ってくださいませんか?」
その言葉に了解の意を示し、マルトーにも丁重に礼を言うと厨房を出た
「ちゃんと食事はとれた?」
幸いにも厨房から出てすぐ、ルイズと合流できた
「これから何処行くの?」
「勿論授業よ。といっても、今日のは復習程度の簡単なものだけどね」
チョコの問いにルイズが答えた通り、次に辿り着いた場所は広々とした部屋だった
「うわぁーひろーい。ここで勉強するんだ?」
「ええ、そうよ」
階段状に机と椅子が並んでおり、一番下の段には黒板と変わった机がある
多分、あそこで教師が授業をするのだろう、とサララは予想した
学校というものには馴染みがないが、何かの書物でこういう風な教室を見た気がする
二人と一匹が入っていくと、教室の生徒達が一斉に振り向き、
くすくすと小さな笑い声を立て始めた
「何なんだよもう、感じ悪いなあ……」
チョコが不満を漏らす中で、サララは辺りを見回した
皆、様々な使い魔を連れていた
キュルケのサラマンダーは椅子の下で眠り込んでいる
少しぽっちゃりした生徒の肩にはフクロウが乗っていた
窓からは巨大な蛇が頭を覗かせていたし、カラスも、
チョコと同じような猫もいた
六本足のトカゲもいたし、目玉のオバケに蛸の人魚もいた
見慣れない生物達にサララは目をぱちくりさせる
もし、あれらと戦うことになったとして勝てるだろうか、
元居た場所と違って彼らは喋ってくれなさそうであるから、
交渉をするのも難しいだろうなあ、とため息をつく
戦って勝てそうなら戦う、駄目なら逃げるか、交渉
ダンジョンで鍛えた戦略も通じなさそうで肩を落とす
「ほら、椅子を引きなさいよ、気がきかないわねえ」
ルイズにそう言われて、慌てて椅子をひいた
そして、自分もその隣の椅子に座ろうとする
「おい、[[ゼロのルイズ]]!使い魔を椅子に座らせるのかよ!」
フクロウを肩に止めた少年が、ニヤニヤと笑いながら声をかけてきた
「うるさいわね!でもあんたのフクロウはそこでいいんじゃない?
やわらかくて、さぞ居心地がいいでしょうよ、風邪っぴきのマリコルヌ!」
ちょっと気が大きくなっているルイズが少年に言い返した
「風邪っぴきじゃない!僕は『風上』だ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人をサララはおろおろとしながら見る
扉の開く音がして見やれば、紫のローブに身を包んだふくよかな女性が入ってきた
ローブと揃いの色の帽子を被り、手には小ぶりな杖を持っている
彼女は言い争いをしている二人を見るとため息をつき、呪文を唱えた
立ち上がり言い争っていた二人は、糸が切れた操り人形のようにすとん、と席につく
「ケンカはおよしなさいな。さて、皆さん。春の使い魔召喚の儀式は
成功したようですわね。こうやって様々な使い魔を見るのが、このシュヴルーズの
楽しみですのよ。……中には、少し多めに召喚なさった方もいるようですが」
サララとチョコを見たシュヴルーズのとぼけた声に、クラス中が笑う
「ゼロの[[ルイズ!]]召喚できなかったからって、その辺の子供と猫を連れてくるなよ!」
「違うわ!ちゃんと召喚したもの!」
「そうだそうだ!」
ルイズに同調してチョコも抗議する
「嘘つ……むぐ」
さらにからかおうとした生徒の口に、赤土の粘土が貼り付く
「およしなさい、と言っているでしょう。さあ、授業を始めますよ」
シュヴルーズが杖を振ると机の上に石ころが幾つか現れる
サララは始められた授業を興味深く聞いていた
ダンジョンにおける『熱』『冷』『雷』の法則はこちらに存在しないようだが、
魔法の四大元素が『火』『水』『土』『風』であることは変わらなさそうだ
さらにこの世界には、失われた系統である『虚無』が存在するそうである
シュヴルーズの言葉によれば、『土』は建物を建てるのにも、
金属を加工するのにもかかせない系統であるらしい
自分の知る限りでは、魔法は攻撃や治癒、身体能力の一時的向上などに使われるが
この世界では生活自体に密接に関わっているんだな、と感心しきりである
「今から皆さんには、『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を
覚えてもらいます。一年生の時点でできるようになった方もいるでしょうが、
何事も基本は大事です。では、手本を見せますね」
シュヴルーズは石ころに向かって小ぶりな杖を振り上げた
そして短くルーンを呟くと石ころが光りだした
その光がおさまったあと、石ころはピカピカひかる金属に変わっていた
「ゴゴ、ゴールドですか、ミセス・シュヴルーズ!」
キュルケが興奮した様子で身を乗り出した
「違います。ただの真鍮ですわ。ゴールドを錬金できるのは
『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」
もったいぶった咳をして、シュヴルーズは続けた
「『トライアングル』ですから」
「ね、ルイズ」
チョコが、ちょいちょい、とルイズの腕をつついた
「なによ。授業中よ」
「スクウェアとかトライアングルって、どういうこと?」
「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」
「え?どういうこと?」
ルイズは小さい声でチョコに説明し出す
サララもそれに耳を傾けた
「『火』『土』のように二つの系統を足せるのがラインメイジ、
『土』『土』『火』のように三つの系統を足せるのが、
シュヴルーズ先生みたいなトライアングルメイジ」
「同じ系統を足してどうすんのさ?」
「その系統がより強力になるのよ」
異世界だと、やはり魔法も随分と違うらしい、とサララは説明を聞きながら頷く
「で、ルイズは幾つ足せるの?」
チョコの問いに、ルイズは押し黙ってしまった
そんな風に喋っているのを見咎められ、錬金の実践を求められた
途端、教室の中がにわかに騒がしくなる
「先生!危険ですのでやめてください!」
キュルケが立ち上がり進言するが、シュヴルーズはそれを却下する
ルイズは緊張した面持ちで机の前へと向かった
生徒達は、慌てて椅子の下に隠れ出している
「え?何?何なの?」
事情が分からずサララとチョコはうろたえながら辺りを見回すばかりである
ルイズはルーンを唱え終わり、杖を振りおろす
その瞬間、石ころは机ごと爆発を起こした
爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズが黒板に叩きつけられる
爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し教室の中は阿鼻叫喚の地獄絵図である
「だから彼女にやらせるな、と言ったじゃない!」
キュルケがフレイムを落ち着かせようと必死になりながら叫ぶ
「あー!俺のラッキーが蛇に食われたー!!」
使い魔のカラスを飲み込まれた様子の生徒が慌てている
カラスって不幸を呼びそうな生き物なのに、ラッキーってつけるのは
随分無茶なネーミングだな、などと爆音にふらつき
まともな思考のできていないサララはその叫びを聞きながら考える
煤で真っ黒になり、ボロボロになったルイズは
大騒ぎになっている教室を意に介した風もない
取り出したハンカチで顔を拭きながら、淡々とした声で言った
「ちょっと失敗みたいね」
その言葉に生徒達が猛然と反撃した
「何処がちょっとだ!!」
「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」
「いつだって、成功の確率ゼロじゃないかよ!」
サララはやっと、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているか理解した
自分と同じ『魔法の使えない』魔女だからなのだ、と
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