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ゼロの双竜-02 - (2007/10/07 (日) 20:42:40) のソース
私は夢を見ていた。 夢の中の私は立派なスクウェアクラスのメイジになっており、立派な杖を構えて私の使い魔であるチョウリュウジンの肩に悠然と立っていた。 ついでにプロポーションもキュルケを軽く追い抜くほどに成長していて、まさに今の私の願望が反映された姿だった。 そして、私を乗せて佇むチョウリュジンの足下では、数多くの貴族や平民たちが私たちを見上げて口々に褒め称えている。 夕日をバックに大地に立つ私たちの姿は、まさしく伝説の『勇者』のようだった。 『マスター』 だが、夢は覚めてしまうものである。 『マスター。起床時間です、マスター』 夢の中の空間に響いてくる使い魔の声を聞き、私は目を覚ました。 ゆっくりと体を起こすと、寝ぼけてよく見えない目に使い魔の姿がぼんやりと映った。 「………ふぇ?」 あれ、なんか昨日よりもちょっと小さくなってるような………気のせい? もう少しよく見てみよう。 「………じー………」 「マスター?」 やっぱり何か変だわ……何が変って、とりあえず全体的に青い。私のチョウリュウジンは赤と青だったはず。 「………じぃ~………」 「いかがなさいました、マスター?」 「………じぃぃ~ッ………」 しばらく見続けていると、私の視界にとんでもないものが映った。 「おーい、氷竜!」 「戻ったか、炎竜。それで、どうだった?」 「……へ?」 それは赤いゴーレムだった。目の前のチョウリュウジン(?)と同じ背格好の赤いゴーレムは、親しげにこちらに近づいてくる。 「おう。SPパック、コルベール先生が預かってくれるってよぉ!後で取りに来るって言ってたぜ!」 「ミスタ・コルベールが?わかった。こちらも、今し方マスターが目覚めたところだ」 「……ッ……!?」 次第に目が慣れ、ようやく私は目の前の存在をはっきりと見ることができた。 「わ………わきゃぁぁぁぁぁぁああああああああああッ!!?」 「マスター何をぐわぁッ!?」 「氷竜ーッ!?」 咄嗟にチョウリュウジン(?)の顔を爆破しつつ慌てて部屋の隅まで飛び退く。 「何をするのですか、マスター!」 窓からは顔面に少し煤をかぶったチョウリュウジン(?)がこちらをのぞき込んでいる。 動転していた私は、ありのまま、今起こったことを叫んでいた。 「チョウリュウジンが、分裂した!!!」 「「……………は?」」 な… 何を言ってるのか わかr [[ゼロの双竜]] 第二話 聖なる左腕 「………そういうことは、先に言ってほしかったわ」 赤いゴーレムのエンリュウと青いゴーレムのヒョウリュウが言うには、チョウリュウジンは彼らが合体した姿だという。じゃあどちらが話していたのかと聞いたら、合体中は人格が統一されていると説明された。なるほど。 その上、目の前で変形したのにも驚かされた。変形した後の姿は、ヒョウリュウたちが言うには………くれーんしゃと、はしごしゃ。見たことも聞いたこともないものだったから何だかわからなかったけど、ようは鉄の馬車みたい。 「ちょうどいいわ。今日は虚無の曜日だし」 「虚無の曜日?」 「そ。虚無の曜日だから授業はないの。街に行く用事を思い出したから、連れて行ってちょうだい」 馬を借りていく予定だったけど、馬車になれるんだからこっちに乗っていった方がいいわ。どうせ召喚した使い魔も連れて行くつもりだったし、一石二鳥ってやつね。 「了解しました、マスター」 「けど、マスター。僕と氷竜のどちらに乗って行くんだ?」 「そうね……」 二人はすぐに了承してくれた。だけど彼らは二人、私は一人。どちらに乗っていくか、という問題があった。 どちらを選ぶか悩んでいると、脳裏にカクカク動く何だかよくわからない人型が浮かんだ。 『せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!』 「せっかくだから、私はこの赤い方を選ぶわ!」 思わず叫んでしまった。何だったんだろう今の電波。 ぶんぶんと左右に頭を振って、頭の中でグルングルン腕を回してる変な人型を追い出そうとする。 『上から来るぞ!気をつけろ!』 うるさい何も来てない。 「えっと、どうしたマスター?」 「何でもないわ。ほら、早く乗せなさいよエンリュウ。それと昨日言い忘れてたけど、私のことはマスターじゃなくてルイズで良いわ」 「「了解!」」 そういって誤魔化しながらエンリュウに走り寄ると、エンリュウの装甲の一部が開いて中に椅子があるのが見えた。これが座席なのだろうか。 私が乗り込んだのと同時に入り口が閉じ、周りのガラスに外の景色が映し出されてゆく。 「うわぁ……これ、どうなってるの?」 『これはモニターって言って、僕が見ているものが映し出されるんだ』 「へー…………確か魔法じゃないのよね、これ………」 正直信じられないけど……でも仮に魔法だとしても何の系統か全くわからない。それに、どういう用途に使うのか全くわからない装置がたくさんある。 私が悩んでいると、エンリュウの言う『もにたー』というものに映っている景色が流れ始めた。二人が発進したらしい。 『さあ、出発するぜ!』 『ではルイズ、道案内をお願いします』 「わかったわ。とりあえず正門を出てちょうだい」 ともかく、そんな具合に私たちは街へ向けて出発した。 『ファイャ!』 まだいたのか。 「(そう言えば、二人はここに来る前どんな生活してたのかしら……)」 揺れ動く車体の中、ふと彼らの存在について疑問を持った。彼らは、ここに来る前はいったい何をしていたのか。そして、何のために作られたのか。 私は彼らに聞こうとした。 『ルイズ、街に着いたぜ』 「え……あ、そうね」 でも、その前に町に着いてしまった。仕方ないから、帰りの道中で聞くことにする。 エンリュウの中から外に出ると、私のおなかが小さく鳴った。 その時、私はようやく自分が朝食を取り忘れたことに気づいたのだった。 トリステイン王国が王都、トリスタニア。 その入り口の前で、炎竜から降りたルイズに少し困った事態が降りかかった。 「私はこれから買い物に行ってくるけど……」 ルイズはビークルモード状態で停車している二人と街の入り口を交互に見比べて、ため息をつく。 「どう考えてもあなた達は入れないわね………一人で行ってくるわね」 「申し訳ありません、ルイズ」 「大きさはどうにもならないな……すまない」 そう、でかいのだ。 彼らのサイズが巨大すぎて街に入れないのである。 「大丈夫よ。じゃ、待っててね『くぅぅぅぅ』まずは食事ね………」 空腹を訴える腹を押さえつつ、ルイズは一人で街へ入っていった。 ルイズが町に入ってしばらくした頃、並んで主人の帰りを待ちながら、氷竜と炎竜は談話していた。 「しかし、ちょっと楽しみにしてたんだがなぁ、街」 王都トリスタニアの道の幅は最も広いとされるブルドンネ街で5メイル、彼らの幅もこの世界の単位に換算して5メイル。 幅がぎりぎりな上に長さに至っては18・5メイルにもなる車体が二台も突入したら平和な町並みが間違いなく阿鼻叫喚の巷と化してしまう。 変形してロボットモードとなれば足幅は半分の2・5メイルになるが、だからといって休日故に多くの人で賑わう街中を全長20・5メイルの巨人が歩き回ったりなどしようものならもう地獄絵図になってしまうだろう。 「だが、入れないものは仕方ないだろう。そう腐るな炎竜………む?誰か来たか」 氷竜がそう言うと同時に、二人は会話を中断した。無用な騒ぎを引き起こさないためである。 と、街の入り口から息を切らしつつ剣を背負った一人の男が走り出てきた。男は周りを見渡すと、停車している氷竜たちの後ろに回った。 男の手にはなぜかルイズの財布が握られている。 なにやらざまあみろ貴族めなどと呟いているので、二人は男を『スリ』だと断定した。 日頃、頻繁に意見の食い違う彼らだが、こういう局面で見事に意見が一致するのもまた、彼らの特徴なのである。 そして、スリだと断定したこの男に対しこれから起こす行動も、彼らはまるで申し合わせたかのように全く同じ考えなのであった 「「システムチェンジッ!!」」 氷竜と炎竜の巨体が浮かび上がり変形を開始。 車体から腕や足が展開され、三十秒もかからないうちに人型への変形が完了した。 「氷竜!」 「炎竜!」 「う、うわぁぁぁぁぁッ!?」 突如現れた二体の巨人を前に、男は咄嗟に剣を抜くが取り落としてしまう。 恐れおののく男に対して、氷竜はあくまで優しくゆっくり、しかしはっきりと、死刑宣告のような凄みをこめた声で宣言した。 「それはわたくしたちの主の持ち物だ。返して欲しい」 「あ、あわ、あわわわ…………」 わたわたと後ずさる男に向けて二人は一歩詰め寄る。 尋常ではない体格差があるため、近づくだけで男にとっては相当な恐怖となるのだ。 「ひぃぃッ!!」 「命までは取らない」 「だが、その財布は返してもらうッ!」 二人がもう一歩詰め寄ると、男は慌てて財布を捨て逃げていく。 投げ出された財布を炎竜が拾い上げた、そのとき 「おでれーた!」 二人の後ろから声が聞こえた。 声に反応して二人は振り返ったが、そこには誰もいない。 ただ、男の落とした剣が転がっているだけだった。 「炎竜、わたくしはこちらの方向から、人の声がしたと思ったのだが」 「僕も聞いた。確かに聞いたんだが……誰もいないぜ、氷竜」 「おいぃ!ここだよ!お前さんたちの足下!!」 「「何ッ!?」」 二人は目を疑った。なんと、彼らの足下に落ちている錆び付いた剣が柄の部分を口のようにカタカタと動かして喋っているのだ。 喋る物、すなわち生きた無機物。彼らはそれに該当する危険な存在を一つしか知っていた。 「まさか、ゾンダーかッ!?」 「は?」 「いや、会話能力がある以上、ゾンダーではなくゾンダリアンと見た方が良い!」 「え?いや、ちょっ……なっ何をするだァー!」 逃がさないとばかりに剣を踏みつける炎竜。 突如としてそんな仕打ちを受けた喋る剣の喚き声を華麗にスルーしつつ、氷竜は剣に最大レベルのスキャニングをかけ全力で解析する。 だが、その結果は予想していた生機融合体などではなく、ただの物質であるというものだった。 「炎竜……どうやら違うらしい。どういう原理で話しているのかはわからないが、材質的にはただの剣だ」 「喋る剣……か。魔法なんて物があるんだから、これくらいは普通なのかもしれねぇな」 「やいコラてめぇらァ!いきなり踏みつけるたァひでェじゃねぇか!!」 炎竜は踏みつけていた足をどけ、剣をつまんで拾い上げると、炎竜の左手に刻まれた使い魔のルーンが光を放ちはじめた。 すると、喚いていた剣がいきなりおとなしくなった。 「………おでれーた。てめ、『使い手』か」 「使い手?」 「そう、『使い手』だ!おめ、俺を持ってけ!損はさせねーぜ!俺はデルフリンガー。長ぇならデルフって呼んでくれや!」 デルフと名乗った剣は態度を一変させ、自身を連れて行けと言い出した。 だが、『使い手』とは何かや、ルーンが発光した理由を訪ねても『忘れた』『わからない』とのことであった。 6000年もの昔から存在しており、時間がたつうちにいろいろなことを忘れてしまっているらしい。 この世に飽き飽きして武器屋で腐っていたところ、先ほどのスリ男に買われてしまいやるせなくなって完全に口を閉ざしていたという。 「すまねぇ。でもよ、俺ぁ前にもそのルーンの持ち主に使われてたような気がするんだよなァ……くそ、やっぱうまく思い出せねぇや」 「そうか……。しっかし、このルーン……なんか妙な感覚だな」 「どうした、炎竜?」 「いや、ルーンが光ってから、どういう訳か僕の体の稼働効率が上昇しているんだ」 炎竜が自身の左手を見ながら言う。彼の左手の甲に刻まれたルーンは、先ほどから光を放ち続けていた。 「マスターは使い魔のルーンには何らかの効果が付属する場合がある、と言っていた。おそらくは我々のルーンの効果なのだろう。そうだな……例えば『武器を持ったら身体能力が向上する』というような」 そう言いつつ氷竜は自身の愛銃『フリージングガン』を取り出す。すると、氷竜に刻まれたルーンも、炎竜のそれと同じように輝き、氷竜の予想が正しい物であると証明した。 「…………驚いた。正直かなり曖昧3セン……いや、適当に言っただけだったのだが」 「当たり………てことか」 「おーい!頼むから俺を連れてってくれよ!」 「あーもうわかったよデルフ!そこまで言うならルイズ……えっと、主に掛け合ってみるよ!」 「おっしゃぁあ!さすが相棒たち、話がわかるぜぇ!」 「まあ、生きている以上勇者として置いていくわけにもいかない………相棒?」 「相棒……とは?」 「……なんだろ。なんか知らねぇが、でも相棒は相棒なんだ」 「なんだそりゃ……」 「まぁ、そのうちいろいろ思い出して役に立つから、持っててくれや!」 二人と一振りが何とも微妙な会話をしていると、肩を落としたルイズがとぼとぼと帰ってきた。 「お帰りなさい、ルイズ」 「おお、お帰り、[[ルイズ!]]」 「ただいま……。うぅ……私のおこずかいが…」 「おっと、ルイズ!これを」 「へ?……はっ、え!?ななな何でこれ私の財布、ど、どうしてエンリュウが!?」 スリから財布を取り戻したことや、デルフのことなどを話す。デルフを持って行くことに対してちょっと難色を示したが、財布を取り返してくれたからそのくらいの願いは聞いてくれるようだ。 買い物自体は出来ていたルイズがもう帰ると言うので、とりあえずその辺にあった頑丈そうなロープでデルフを炎竜のミラーシールドにくくりつけてビークルモードに変形。 ルイズが氷竜のコクピットに入ると、二人は魔法学園に向けて発進した。 「ねぇ、ヒョウリュウ、エンリュウ。あなたたちは、私に召喚される前、いったい何処で何をしていたの?」 馬車なんかよりもずっと早い速度で学園へ走るヒョウリュウの中でガタゴトと揺られながら、私は彼らに質問した。 魔法がなく、月が一つしかない世界。 魔法ではない、ハルケギニアではあり得ない技術で作られたその身体。 彼らは何のために作られたのか、その世界で何をしていたのか。 『何処で何を……ですか』 『そうだなぁ……ルイズには、ちょっと信じられないかもしれないが…』 『わたくしたちは、ここではない別の星の出身です』 「別の……星?」 聞けば、彼らが生まれたのは『地球』という星にある日本という国で、メイジはいない、貴族もいない。さらに、月が一つしかない。魔法がないため、『科学』という技術が進歩している。彼らもその『科学』によって作られたという。 言葉だけだと正直理解できなかったかもしれないけど、ヒョウリュウがもにたーに図を写してくれているし、ハルケギニアの文字で名前や説明も表示してくれるからとてもわかりやすい。いや、それでも信じられない物ではあったけど。 「何よこの街の広さ………ブルドンネ街なんて目じゃないじゃないの……」 『僕たちから見れば、さっきの街の狭さが信じられないくらいなんだがな……』 もにたーの映像が切り替わり、見たこともない奇妙な街が写し出された。天を突く塔のような建物が無数に建ち並び、車輪の付いた箱が街を走り回っている。 『自動車』と呼ばれるこの箱はヒョウリュウたちと同じ馬を必要としない鉄の馬車で、なんと一家に一つはあるほど普及しているらしい。ここにいる人たち全員平民のはずよね。 それと、全くわからなかった『クレーン車』と『梯子車』についても理解できた。その機能は、両方とも『レビテーション』の代わりとなるためのものだった。 なるほど、魔法が無い世界だからこそ、重い物を運んだり、人が高いところに上るためには彼らの能力が必要とされたのか。 「信じられない……」 もう何度同じことを呟いたかわからない。でも、そう呟かずにはいられないようなものを見たのだから仕方がない。 でもこの時、私はこれらの情報がまだ序の口にすぎなかったことなんて、知るよしもなかった。 大勢の人を一度に運ぶ『電車』、空を飛ぶ鋼の鳥『飛行機』、果ては宇宙へと飛ぶ『スペースシャトル』など、もにたーに次々と写されてゆくビックリドッキリメカたちの説明を受け、もうただただ驚いているしかなかった私の前で、またもにたーが切り替わった。 また見たことがないものだった。どうやら場所は水の中で、上から下に向かって突き出ている塔のような建造物のようだ。今までに見た物とはちがう、何というか特殊な形をしてる。 「ヒョウリュウ、エンリュウ……これは?」 『わたくしたちの、勤務先です』 『そして、僕たちが生まれた場所さ』 地球防衛勇者隊『ガッツィ・ジオイド・ガード』、通称『GGG』と呼ばれる組織が、彼らの生みの親だという。 私は驚愕した。だって、地球防衛勇者隊なんて組織に隊員として所属していると言うことは、二人は、つまり――― 「勇………者……!?」 絞り出したような私の言葉に、ただ『その通り』とだけ返した二人に対して、私はまた同じことを呟いてしまった。 「信じられない……」 学園に到着し、氷竜から降りて寮まで歩く。氷竜も炎竜も私の早さに合わせてついてきてくれた。 寮の前まで戻ると、ミスタ・コルベールがいた。何でも、二人に頼まれごとがあったらしい。 私も買い物したり財布を盗られたりしたせいで疲れがあったから、二人に自由にするように言って、部屋で休むことにした。二人はミスタ・コルベールについて行ったようだ。 「……………ふぅ……」 部屋に戻るなりベッドに身体を横たえつつ、私はさっき氷竜の中で見聞きしたことに思いをはせた。 先ほど彼らから伝えられたのは、本当に凄まじい事実だった。 未知の敵。宇宙人『EI-01』の襲来。ゾンダーの驚異。 それに対抗するために組織された『ガッツィ・ジオイド・ガード』(後に改名されて『ガッツィ・ギャラクシー・ガード』になったらしい)。通称『GGG』。勇者の組織。 そして、GGGによって市民を守るべく作られた二人の勇者。それが私の使い魔『氷竜』『炎竜』。 私は、星を守るために戦う勇者を二人も召喚出来たことをうれしいと思う反面、もしかしてとても酷いことをしてしまったのではないかとも思った。 私に召喚され、使い魔になったということは、彼らはもう母星を守るために戦うことが出来ないことを意味する。 彼らは………地球に帰りたいんじゃないのだろうか。 そう思っていると、窓の外からなにやら急ぐような話し声が聞こえた。 「おい、聞いたかよ…!ギーシュの奴がヴェストリの広場で決闘やるんだってさ!」 「へぇ……相手は誰なんだ?」 「それがよ……あの『ゼロ』の使い魔だってさ!どうなるか見に行こうぜ!」 「………ッ!?」 どういうこと?何で彼らが決闘を!? 私はすぐにベッドから飛び降り、ヴェストリの広場目指して走り出した。 コルベールにSPパックを預けた後、炎竜はビークルモードで散歩をしていた。 ルイズに自由にして良いと言われているので、ちょっと散策してからルイズの部屋の前に帰るつもりだ。二人で移動すると道が狭いから氷竜は別の道から戻るという。 「……うーん、ギーシュさま、何処にいるのかしら……」 「お?」 ふと、炎竜の前方から一人の貴族の少女がとてとてと走ってきた。息を切らして、誰かを捜しているようだ。 疲れているようなので、炎竜はとりあえず少女に話しかけてみることにした。 「君、誰か探しているのか?」 「え、ひゃぁあっ!?」 炎竜が話しかけると、少女は非常に驚いた様子で飛び退いた。 どうやら、目的の人物を捜すのに夢中で炎竜が視界に入っていなかったらしい。いきなり真っ赤に塗装された謎物体に話しかけられて驚いたのだ。 なので、炎竜は自身を彼らにとってわかりやすい形態、人型に変形した。 「システムチェンジッ!」 「きゃっ……うわぁ………ゴーレム……?」 先ほどよりも驚かない。ビークルモードと比べると迫力や威圧感は段違いに上のはずなのだが、やはり少しでも知っている物の方が気が楽なのだろうか。 「ゴーレム……まぁ、そうだ。ルイズ……あー…と、ミス・ヴァリエールの使い魔をやってる」 「まぁ、使い魔の方だったのですか!いやだ、わたしったらはしたないところをお見せしてしまって……」 この少女、ケティ・ド・ラ・ロッタは、ギーシュ・ド・グラモンという恋人の少年を捜しているという。だが、長い時間探していたので疲れてしまったようだ。 「金髪に薔薇ねぇ……悪いが、見てないな」 「そうですか……ごめんなさい、お時間を取らせてしまいましたわね。では……」 「おっと待った。どうも君は疲れているようだし、僕に乗っていくと良い」 「え……?」 そう言って、炎竜はもう一度システムチェンジを行い、ビークルモードに変形する。 自身が鉄の馬車であること説明すると、ケティは物珍しそうに炎竜の車体を眺め始めた。 炎竜の装甲の一部が開き、内部の座席が現れる。ケティは恐る恐る座席に着くと、装甲が閉じ、モニターに光がともった。 「君は座って休んでいるといい。僕が見る物がこの画面に映るから、見つけたら言ってくれ」 「すごい…でも、何だか申し訳ないですわ。あなたの時間を取ってしまって」 「いいってことよ、困った人を助けるのも、僕たち『勇者』の仕事だからな!」 「勇、者……?あなたは勇者さまなのですか?」 「あ」 「……えーと、ここにはいないようですわ、エンリュウさま」 『そうか、じゃあ向こうの広場にも行ってみようか、ケティちゃん』 「はい、お願いします」 炎竜とケティは、ギーシュという少年を捜して校舎外の広場を探し回っていた。校舎内は炎竜とあった時点ですでにケティが探し回ったらしい。 先ほどうっかり口を滑らせてしまった炎竜だったが、ルイズに言われた通りに東方『ロバ・アル・カリイエ』から来た、と誤魔化しておいた。 なんでも、『別の星から来た』等と知られたら『アカデミー』という研究集団が黙ってないとのこと。 厄介事はご免なので、素性はなるべく隠すようにと先ほど氷竜と決めたのだ。決めてから遭遇二人目でバレたが。 『お、該当者一名発見』 次の広場についたとき、炎竜の視界に一人の人物が写った。何人かの少年と話している、金髪の少年。胸ポケットには薔薇の造花がさしてある。 炎竜のモニターに映るその少年を見たケティが、あっ、と呟いた。 『どうした?』 「あの方がギーシュさまですわ、エンリュウさま」 『ほー。ああ、ちょっと待ってな、今開けるからさ』 外に繋がる扉である装甲が、稼働音を立てて開き始める。 と、そのとき、モニターを眺めていたケティが何かに気づいたような声を上げた。 「ぇ……あれはッ!?」 『ん……?どうしt「もっと、大きく映してくださいッ!!」お、おう、わかった』 炎竜はケティの指示通りにモニターの画像を拡大する。 言うとおりに拡大すると、ギーシュの足下に液体の入った小瓶が落ちているのが映った。ケティは、その小瓶を食い入るように見つめている。 「この色………これは……まさか、そんな」 『あー、と……ケティさん?』 小瓶を見続けるにつれて、ケティの表情が絶望に染まっていく。 状況が読めず、どうしたらいいかと思案する炎竜の視界に、一人のメイドの姿が映った。 昨晩、彼が洗濯物を頼んだメイド、シエスタだった。 彼女はギーシュが落とした小瓶に気づくと、拾ってギーシュに手渡した。だが、拾ってもらったにもかかわらず、ギーシュは渋い顔をしている。 「(どういうことだ?せっかく拾ってもらったっていうのに……)」 いまいち事態が飲み込めない炎竜は、単純な好奇心で自身の聴覚センサーの感度を上げた。そして次に聞こえてきた会話によって、彼の疑問は解決することとなった。 『おや?これは、ミス・モンモランシの香水ではないか!』 『知 っ て る ぞ……!これはミス・モンモランシが自身の為だけに調合している秘蔵の香水……!』 『それをギーシュ!お前が持っていると言うことはッ!お前が今付き合っている相手はミス・モンモランシであるということを意味するッ!!』 『ちょっと待ちたまえ、君たち!いいかい、彼女の名誉のために言っておくが……』 「………そん、な……ギーシュさま………」 『…………ッ…』 炎竜の聴覚はコックピットに繋がっているため、炎竜が傍受した少年たちの会話はケティにも聞こえていた。 瞳に涙をためながら、ケティは力無い動作で炎竜のコックピットから降りた。 そして、炎竜もこの状況を理解するに至っていた。 つまるところ、このギーシュという少年は『二股』をやらかしたのだ。 『炎竜』 『…氷竜?』 唐突に氷竜から通信が入る。周囲を確認すると、広場の反対側の入り口から向かってくる、見慣れた青い車体が視界に入った。 氷竜は炎竜より少し離れた場所に停車し、自身の装甲を開く。そしてそこから出てきたのは、金髪の巻き毛の少女だった。 「…ッ、ミス・モンモランシ……!」 この少女こそ、先ほどの会話に出ていたギーシュのもう一人の恋人、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシであった。 ギーシュ・ド・グラモンは今、危機に瀕していた。明らかに自業自得だが。 普段の彼からすれば、今のように少女二人から迫られるというのは幸福に分類されるはずである。 「ギーシュさま……(光の宿らない瞳で)」 「ギーシュ………?(満面のイイ笑顔で)」 こんな感じのシチュエーションでなければ、だが。こんな感じとは何だ、と問われれば、二股がばれてピンチだ、と返すほか無い。 有り体に言えば、修羅場である。なんというか、少女たちが二人で一つの大きな凶器っぽい物を引きずってきているあたりが特に。 「ねぇ……さっき二人で相談したの。ギーシュ、あなたの処遇についてね」 「モ、モンモランシー?ケティ?そ、その錆び付いた剣はいったい何だね?」 「錆び付いた剣じゃねぇ!デルフリンガー様だ!」 「ヒッ、い、インテリジェンスソード?」 モンモランシーとケティが協力して持っているその剣は、炎竜の背部のミラーシールドに括られていたはずのデルフリンガーだった。 氷竜と炎竜は、少女たちの後ろから様子をうかがっている。 何故こんな状況になっているのか。時間は少しさかのぼる。 氷竜と共に現れたモンモランシーは、ギーシュの浮気癖に少々業を煮やしており、ケティに『一緒にギーシュを痛い目に遭わせてや ら な い か(かなり物理的に)』と、申し出てきたのだ。 ちなみに氷竜と出会った経緯は、炎竜がケティに出会った時の状況とほぼ同じであった。 モンモランシーにギーシュの浮気歴を聞かされ、何だか完全に表情の消えてしまったケティはこれを了承した。 そして、少女たちがやれワインの瓶で思い切り殴ってやろうだのいいえ先輩の水で息を塞いでわたしの火で足下から焼くべきですだのと、どうやってギーシュを痛めつけるかというだいぶ黒い議論を始めたところで、 「娘ッ子たちィィ!俺を使えぇぇェッ!!」 王都の入り口で拾われて以来喋るタイミングを逃し続けていたデルフが痺れを切らして立候補したのだった。 錆び付いているとはいえ結構大きめの剣なので見た目的にも威圧感があり、なおかつ重さもあり打撃力も申し分ないということで、デルフはめでたく採用されることとなった。 ただ、結構な重量があるため少女一人では上手く持てないので、二人で協力して扱うこととなったのだ。 まぁ二人的には、二人で一つの武器を使ってギーシュをしばくのは何だか共同作業のようで胸が躍る、とのこと。 何かがおかしいのは仕様だ。 ともかくそういうわけで、二人は炎竜の背部のミラーシールドに括られていたデルフを取り外して引きずりながらギーシュの前に現れ、冒頭に至るのであった。 怯えて狼狽えるギーシュの前でモンモランシーとケティはゆっくりとデルフを持ち上げる。 「あ、ああ…何をする気だね?そそ、そんな錆びたk「デルフリンガー様」で、でるふりんがーさまを高々と振り上げて……や、やめておくれ二人とも……う、あ……」 もはや呂律が回らないギーシュにモンモランシーが一言「駄・目♪」と返し、少女二人は頭上に掲げたデルフの側面を、目の前の男の脳天めがけて力の限り振り下ろした。 「「ギーシュ・ド・グラモン……光にぃなぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇむしろ死ねー」」 「ひ、ちょ…や、やめ……い、いィィけませェェェェェェェnがふァッ!!?」 しばらくの間、皆がお茶を楽しむ平和な広場に、スイカをバットで叩き割るような音が断続的にぐっちょんぐっちょん鳴り響いたのだった。 同時に少女たちのキャッキャウフフといった笑い声が聞こえてきたのは幻聴だと信じたい。 「……ふぅ、今回はこのくらいで勘弁してあげるわ、ギーシュ」 「これに懲りたら、もう浮気なんてしないでくださいませね、ギーシュさま」 一通り事が済むと、モンモランシーとケティの二人は晴れ晴れとした笑顔で氷竜と炎竜のもとに戻ってきた。 先ほどまで死んだ魚のような目をしていたケティも、すっかりもとの笑顔を取り戻し、モンモランシーと笑いあっている。 どうやら共同作業を経て、二人の少女の間に友情が芽生えたらしい。 二人の頬や服のあちこちにに付いていてはいけない液体というか体液が付着しているが、誰もが見ないふりをしている。 「ミスタ・エンリュウ。今、剣をお返しいたしますわね」 「お……おう」 水の魔法でデルフに付着した赤黒い何かを洗い流しながら、女神のような笑顔で話すモンモランシーに、どもりつつ返事をする炎竜。 「……おでれーた」 洗われているデルフは、こんな展開になるとは予想していなかったらしい。 と、血の海に沈んでいたギーシュがゆらり、と立ち上がった。モンモランシーの治癒魔法で一応傷はふさがっているが、見てくれは未だ血達磨である。 立ち上がったギーシュは、辺りを見回すと、一人のメイドを睨みつける。 事態について行けずに呆然としていたそのメイドは、シエスタであった。 ギーシュはシエスタに薔薇の造花の杖を突きつけると、 「きみが軽率にも香水の瓶を拾ってくれたせいで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 などと因縁をつけ始めた。 シエスタは酷く怯えた様子で尻餅をつく。 平民である彼女にとって、貴族の怒りを買うことは即ち死刑と同義とも言えるのだ。たとえ、それがどんな理不尽な理由であろうとも。 周りの貴族は皆『こいつは何を言ってるんだ』というような冷ややかな目線でギーシュを見ているものの、誰も止めに入ろうとしない。 この世界に置いて、平民とは須く弱者であり、貴族によって虐げられるモノであると、ここにいる誰もが理解しているのだ。 「「シス!テム!チェェェェンジッ!!」」 ただし、この二匹の竜は例外であった。