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ママの使い魔 - (2007/11/06 (火) 22:13:16) のソース
トリステイン魔法学院で二年生による春の召喚の儀式が行われていた。 順調に進んでいく中、一人の生徒だけが召喚を失敗し続けていた。 十数回後、ついに召喚の手ごたえを感じる。 その生徒は爆煙の向こうに、何が呼び出されたのか、その小さな胸を期待に膨らませた。 あたし、ずっと探し回ってたの。 ずっとずっとずーーーっとママを探してたの。 怖い人たちとか、いっぱい居たんだけど頑張って探したの。 怖い事とか痛いことも沢山されたわ。 だけど、めげちゃ駄目でしょ? だから頑張ったの。 それでね、やっと見つけたの!! ママ!!!ああ、ママ!!! かわいそうにこんな所に閉じ込められて!!! でも今あたしが出してあげるから! ママ!!やっと合えたわママ!! それでね、ママを手に持って逃げようとしたんだけど、怖い人が居たから逃げられないかと思ったの。 だから、怖かったけど、崖の下に飛び降りる事にしたの。 だって、怖い人に捕まるよりいいでしょ? だから飛び降りたの。 えいっ、て。 そうしたら、落ちてく先におっきな鏡があったの。 それでね、気が付いたら原っぱに立ってたの。 ビックリしたわ、周りに変な人たちがたっくさん居るし、眩しかったから。 けど大丈夫、だってあたしはママと一緒だもん! ねえママ。 ママがいるから、あたし安心なの…ママ… あたりは嘲笑でざわついていた。 その嘲笑は召喚を行った者と、召喚された物に向けられていた。 「見ろよ![[ゼロのルイズ]]が平民を召喚したぜ!」 「ああ、しかもバアさんか?こりゃ」 「やっぱりゼロはゼロだよな!」 ゼロと呼ばれた生徒、ルイズ・フランソワーズは怒りと悔しさと悲しさで肩を震わせていた。 召喚された者は、平民、しかも頭巾を被った老婆に見えた。 薄汚れてボロボロに成った半そでのシャツと、ロングスカートを着ており、そこから見える手足もいい加減汚れており傷だらけだ。 背中が曲がっており、両腕をだらんと前に垂らしている。 無気力に垂れ下がった両手には、乳白色の球形の物を持っていた。 そのさまは、どう見ても、ドラゴンやグリフィン、サラマンダーの様な高等な使い魔には見えない。 召喚された事に戸惑っているのか、オシなのか、黙ったまま立ち尽くしている。 何を考えているのか、その顔色は頭全体を覆うような頭巾によって隠されていて伺うことが出来なかった。 「ミスタ・コルベール!!召喚のやり直しをさせてください!!」 「だめだ」 コルベールは光る頭を振った。 「召喚の儀式は神聖な物だ…やり直しは許可できない」 「……」 ルイズもそれは判っていた。 召喚のやり直しをする為には、召喚された者が死ななければ成らないのだ。 気に入らないからといって殺すわけには行かない。 ルイズは腹を決めることにした。 その老婆のような者の方へ近づいていく。 「ねえ、そこのあなた…名前は?」 返事がない。 「ちょっと!平民が貴族の質問を無視する気?!」 やはり返事がない。 周りから、ゼロだから平民からも馬鹿にされている、等と言う嘲笑が聞こえる。 血圧が上がって行くのを感じたルイズだが、同時にその老婆の異変に気が付いた。 持っているものが重いために、背中を曲げて両腕を前に垂らしているのかと思ったが、そうではない。 手かせを…それも普通の護送用ではなく、かなり頑丈な手かせを嵌められているから、両手を前に垂らさざるを得ないのだ。 良く見ると、くるぶしにも足かせの一部が付いている。 つまり、罪人を召喚してしまったんだろうか? 「ねえ……何とか言いなさいよ」 ……… もしかして聞こえてない? それとも、召喚された生き物はしばらく大人しくしているけど、人間も大人しくなるのかしら? 反応を見ようにも、ほぼ頭全体が頭巾によって覆われているので、顔が見えない。 邪魔ね…剥ぎ取っちゃおうかしら? そう考えて近づいて行ったルイズは、老婆の様な者から1メイル半ほどの距離で固まってしまった。 「どうしたのかね?早くコントラクト・[[サーヴァント]]を済ませなさい」 急かすコルベール。 だがルイズは動かない。 不審に思ったコルベールがルイズに近づく。 「さあ早くし「ミスタコルベール!!」…何かね?」 話を途中でさえぎられ、少しムッとしたコルベール。 「こ、こここ、この者が被っているずずず頭巾って!!」 「その者の頭巾がどうかしたの…か……!!!ま…まさか!これは!!」 周囲の生徒たちは、二人が何故薄汚れたボロ頭巾の事を話しているのか判らなかった。 「こここここれって…そそそのこれはひ「そんな事はない!!」…」 コルベールが叫ぶ。 「そんな事があるはずないじゃないか?!これはサルの皮だ!サルだよ!!そうに違いない!!」 「そ、そうですか?」 「そうだよ!サルの顔の皮を張り合わせているだけだ!そういう頭巾だってあるだろう!さっさと契約を済ませたまえ!!二年生に進級したいのでしょう!!」 「はいぃ!」 コルベールに推され、半ば強引にサモンサーヴァントの呪文を唱えるルイズ。 「ちょっとあんた!!そこを動くんじゃあないわよ!!」 と怒鳴ってから口付けのために近づいていく。 やはり…近づけば近づくほど、そうとしか見えない。 いや!これはサルの皮サルの皮!! 世界は広いのよ!こういうサルも居るわ!! ルイズが勝手に頭巾をめくり口付けしようとするが、その老婆の様な者に動きはない。 次の瞬間「ひッ!」っと、短い悲鳴を上げるルイズ。 頭巾の下に存在していた顔には、唇がなく歯が剥き出しで、頬の肉すら無い。 眼窩の中に目玉が納まっているが、それも白濁している。 ま、まるで亡者…亡者を見たこと無いけど。 死体を漁って貪り食うっていうあれね… だけど、これは逆に喜ぶべきことよね? あたしが平民を召喚したんじゃあないという事なんだから!! そうよ!空飛ぶ目玉とか、蛸の化け物とか、気色悪いカエルが立派な使い魔なら、こいつも立派な使い魔よ!! 良くわからない不気味な生き物だけど、平民よりずっとましよ! さっさと契約を済ませて、この汚らしいボロ頭巾を取って平民じゃないって皆に見せてやらなきゃ! そう意気込んだルイズは、その老婆の様な者の歯に(唇が良かったけど)口付けをした。 この人は誰? ピンクの髪の毛なんて…気持ち悪いわ。 まさか…ママを連れて行こうとするつもり? そんな事したら、暴れてやるんだから! ここに居る皆を殴ってやるんだから!! 本気なんだからね!! …でもそうじゃないみたい。あたしの顔を覗き込んだわ。 何をするの? 痛いことするの? …… キスしたわ。 そうしたら手が痛くなったの。 でももう痛いのには慣れたの。 いっぱいいっぱい銃で撃たれたから慣れたの。 でも…何?この感じは…? ママ?…あれ?ママは? これは…ママじゃない!! 折角見つけたのに!! ママ!!どこいったの?!! ママ!!どこなのママ!! …あれ?この人……ママ? ママなの? ママなのね? ああ!やっぱりママだった! 何で間違えてたんだろう? この人があたしのママだったんだわ! 髪の毛の色が変わってもわかったもんね! でも…体が小さくなってるの。 何でだろう? きっとあの悪い奴らに体を取り替えられちゃったのね? だから間違えちゃったんだわ。 まかせて!あたしが何とかしてあげるから! 「ミス・ヴァリエール、いつまで口づ…オホン…コントラクト・サーヴァントを続けているつもりですか?」 軽く口付けをすればいいだけの儀式を手間取っているルイズにコルベールが注意した。 周囲からは、ゼロだから念入りにやってるんだよ、そっち系の趣味なのかも、などと聞こえてくる。 だが、様子がおかしい。 そう思った時、ルイズの足元に、老婆が持っていた乳白色の物が落ちている事に気づいた。 それは年月を経た人の頭蓋骨だった。 いつの間にか、老婆の様な者の手が、ルイズの顔の方に伸びている。 そして、必死にその手を押さえるルイズ。 コントラクトサーヴァントを手間取っているのではない!あの者に顔を掴まれているのだ!! 「ミス・ヴァリエール!!」 そう叫びコルベールはルイズと使い魔の方へ駆け出した。 その刹那、嫌な音が当たりに響いた。 ブチ…ブチブチ…ビリビリビリビリィ!! ルイズの顔から、まるで花びらが散るように周囲に鮮血が噴出した。 「…ぁぁあああああああああああああああああああッ!!!!!!」 ルイズは悲鳴を上げ、弾ける様に後ろに転がった。 叫びながら顔をさえうずくまって行く。 周りの生徒たちは何が起きたのか判からず、ただ狼狽している。 「ミス・ヴァリエール!!!!しっかりしろ!!!」 コルベールが素早くルイズを助け起こしす。 「う!…」 絶句するコルベール。 「何ということだ…!」 顔が無かった。 ルイズは顔の皮膚を完全に、下あごから髪の毛の生え際まで全て失っていた。 剥ぎ取った顔の皮はルイズの使い魔、リサ・トレヴァーの手の中に在った。 リサはしばらく眺めると、それを高々と掲げた。 そして、この世界に召喚されてから初めて、言葉を発した。 「……マ゙ァァマ゙ァァァアアアアアアア!!」 ---- -バイオハザード1のリメイクより悲劇の少女リサ・トレヴァーを召喚