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とある魔術の使い魔と主-56 - (2009/10/11 (日) 16:04:56) のソース
#navi(とある魔術の使い魔と主) 「まだなのかな?」 「もう少しだよー」 辺りはすでに薄暗くなっている。太陽は既に沈みかけており、それに比例するかのように二つの月が空に浮かんでいく。 闇、というには月明かりが眩しい。しかし、エルザに連れてかれた場所は森の中。木々によって阻まれた光りは僅かだけしか差し込んではくれない。 こんな場所に一体どのような用事があるのだろうか。 エルザに言われて、インデックスは考えも無しにただついていったのだが、薄気味悪い空間が彼女に危険信号を発信させている。 が、何か特別な計らいをして、驚かせようとしているのだろう。そう、インデックスは信じる事にした。 「ねえ」 そんな時だった。今までインデックスの前を歩き続けていたエルザの足がピタッ、と止まった。 が、こちらに振り返ってはくれない。あるのは背中のみ。 エルザの顔を見たいのなら、インデックスが大きく周りこめばいいのではあるかもしれないが、無言の圧力がそれを止める。 「……なにかな?」 気がつくと、インデックスは無意識のうちに片足を下げていた。 エルザの方には右肩しか向けていない。これではまるで……、 いつでも逃げる準備ができているかのようだ。 それでも、実行に移さないのはインデックスの性格だからであろう。幼い子供を一人にさせてはいけないという安易な考えが、彼女の足を板に刺した釘のように地面と繋がっている。 「お姉ちゃんは牛や豚を食べたりするよね?」 ピリッ、と空気が震える。ただ声だけしか聞こえてこないが、こちらからは伺えない顔は怒っているようにインデックスは感じられた。 「うん、そうだね……」 「じゃあさ」 エルザはそこで一回区切り、ようやく振り返った。 インデックスの視界に彼女の顔が入る。 以前見たように、変わらない笑み。幼く、優しく、可愛いその笑みは少女だからこそできる一つの特権。 が、何かがおかしい。その笑みは幼いはずなのに、優しいはずなのに、可愛いはずなのに、 どうしてこんなにも負の感情が襲いかかってくるのだろうか。 いや、もうわかっている。その理由も、答えも、インデックスにはわかっている。 しかし、まだその事実を否定している自分もいる。むしろそちらの方が割合としては大きいのだ。 しかし、 「吸血鬼が人間を食べても同じだよね?」 少女のはかない願望は脆くも崩れさった。 言葉を発するためには口を開かなければならない。 口を開くという事はその中身を見せなければならない。 そこに、あったのだ。人間の犬歯とは比べものにならないぐらい、大きく尖った歯が生えていたのだ。 が、インデックスは逃げない。恐怖という鎖が足を止めているわけではない。 逃げようと思えばできる。その足を動かし、この場からエスケープするのは不可能ではない。 が、それでどうなる。 自分が逃げて話が解決するはずがない。たとえ自分が正直に話したところで、こんな幼い子供がするわけないと一蹴されるに違いない。 インデックスの予想通り、吸血鬼はもっとも疑われず、もっとも安全な位置に属していたのだ。 同時、一つの過ちに気付く。 そう、インデックスの話を信じてくれる人間がいないのだ。あくまで確率の話だが、不思議と断言できた。 それこそ、自分が襲われている瞬間を全員に見て貰わない限り不可能だ。 「お姉ちゃんは、逃げないんだね」 何やらがっかりしたのような意味合いを含まれているようだ。エルザははぁ、と一回ため息を吐く。 「なんか予想外。もっと他の子と同じように逃げ惑う姿を期待してたのになぁ」 「こうやって他の子たちを襲ったの?」 インデックスの問いに、エルザは目を丸くする。一体この娘は何を言いたいのだろうか、と表情に出ている。 が、突然プッ、と吹き出すと、声を大きくして笑った。 「凄いね、お姉さん。怖くないの? 吸血鬼に今から襲われて血を吸われることが怖くないのかなぁ?」 インデックスは返事をせず、黙っている。ただ、ジッとエルザの方を見つめるだけだ。 エルザと戦うしかない。それ以外の選択肢など今のインデックスには浮かばない。 戦いの場に余計な馴れ合いなど不必要だ。ゆえにインデックスは相手の出方を伺い、すぐさま行動に移れるような構えを維持する。 エルザにとっては逃げ惑ってほしかったのだろう。そんなインデックスの態度に腹立てたのか、 「つまらないよ、おねえちゃん。枝よ。伸びし森の枝よ。彼女の腕をつかみたまえ」 実力行使に走った。 轟ッ! と無数の木が、意思を持つかのようにインデックスに襲いかかる。 「ッ!」 意識をエルザから木が持つ武器、枝にへと集中させる。 インデックスを束縛しようと迫りくるそれの回避が第一だ。 高い位置から迫る枝は身を屈めて交わし、飛び、手を縮みこませるかのように引っ込め、一つの地点だけでなく、戦場を大きくする事により避ける範囲を広げる。 が、その程度で振り切るのは不可能だ。こちらが枝を破壊する何かがあればよいのだが、手ぶらできたインデックスにその手段はない。 (これはおそらく魔術、言語は通常言語、その効果は捕縛。流れを見る限りは自然界の力を利用した物? ……ない。こんな魔術存在しないよ!) インデックスの頭脳に入っている十万三千冊の魔導書がただの本へと変わった瞬間であった。 しかし、例えどのような魔術かわからなくても、インデックスには強制詠唱という技術を持っている。術者の頭を混乱させ、敵の魔術の指定等を妨害する事だ。 が、それはあくまで相手が直接制御している場合のみ効力を発揮するのだ。 枝の動きからいっておそらく自動、エルザの指示はなく、枝自身の意思で動いているように感じられる。 つまり、彼女にこの術式に対して介入する事は不可能なのだ。 他に何か有効打になる策も術も浮かばない。ただ、守りに集中するだけ。 そんな相手に、一体どうやって勝てるのだろうか? その考えが、彼女に戸惑いと、隙を与えてしまう。 相手の枝は無機物。ゆえにその僅かな隙など気付くわけないと思う。 しかし、ビシッ、とその僅かな隙を狙いつけたかのように左足に枝が巻き付いた。 「くっ……」 動きを封じられた瞬間、今までの回避劇が嘘かのように残った片足と両手も枝に捕まってしまう。 「きゃっ」 小さい悲鳴をあげるが、状態はさらに悪くなる。枝はそのままピンと張られ、インデックスは大の字となって身動きがとれなくなってしまった。 ギシッ、ギシッ、ときつく硬く縛られている。力を入れるが、効果無し。一人で脱出はどうやら不可能なようだ。 「捕まえたっ」 キャハッ、と無邪気に喜ぶ姿は人間のそれと変わらない。ただ、違う点をあげるとするならその背後に黒いオーラが纏まっているような錯覚を覚える。 「うっ……」 「痛いかな? おねえちゃんが逃げちゃうかもしれないからいつも以上にきつく縛っているんだよ」 痛みを堪えるかのように歯を食いしばるインデックス。細い腕、足に絡み付いた枝が血の流れを止めるではないかと思える程威力を強めていく。 「痛い? 痛いかな? 痛いよね。でも緩めることはできないの」 ごめんね。と謝るエルザに、ただ黙るインデックス。 そんな態度に、エルザはプクッと頬を膨らませて不服の態度をあらわにする。 「つまらないよ……喋れないほど縛っているわけではないよね? なんで泣いたり叫ばないのかな?」 「あなた、だったんだね」 しかし、返される言葉は確認。まぁ喋ってくれるだけでいっか、とニッコリ笑った後、続けた。 「うん。誰もわたしだと疑わないんだよ。ホント、人間って単純な生き物なんだから」 「その、生き物に両親を殺されたのに?」 ピタッ、とエルザの動きが止まる。禁断の言葉に触れてしまったらしい。 誰にでもわかるよう、口調が冷徹な物に変化した。 「まぁね。だからメイジだけはちゃんと真っ先に殺すの。そしてあなたは冗談でもメイジという単語を使ったからね」 近づき、クイッとその手でインデックスの顎をあげる。 見た目では幼い子供なのだが、そのひとつひとつの動きは妖艶な雰囲気を纏わり付いている。 「安心して。すぐには殺さない。ゆっくりと、ゆっくりと血を吸ってあげるんだから」 エルザはそういうと、小さく指を呪文を唱えるかのように振るった。途端、小さな風の刃がインデックスの頬を掠め、血が流れる。 「まずは味見、でしょ?」 「ん……」 ピクッ、とインデックスの体が震え上がる。突然舌が彼女の頬に触れたため、無意識のうちに体が反応してしまった。 ぺろりと流れていたやや黒い真紅の雫を喉に潤したエルザは、口の端が釣り上がるように笑う。 「おいしい……。今までの中で一番おいしいんだよおねえちゃん。あれ? どうしたのかな?」 再び機嫌がよくなったようだ。無邪気な口調でインデックスの顔を覗き込む。 彼女の頬が朱に染まっているのが目に見えてわかる。心なしか顔を俯せ、必死に何かを隠そうとしている。 「そっか、おねえちゃんは年頃の女の子だし、こういうのは初体験なのかな? でも安心して、これが最初で最後なんだから……」 今度は吸血鬼の象徴である牙をむきだしにする。どうやらメインデッシュの時間のようだ。 インデックスは目頭に頬とは違う、透明な雫をためながらも必死に枝から逃れようとする。 が、両手両足を塞がれた彼女は思うように力がでない。 インデックスの頭脳には十万三千という膨大な数の魔導書が蓄えられている。 しかし、先と同じように、今、この状況から逃れる術はその中には書かれていない。 そうなると純粋な力勝負となるが、あいにくインデックスは小柄な女性。残念ながら大木相手に解ける様子はない。 「悪あがきは見苦しいよ、おねえちゃん。素直に諦めた方がいいと思うけどな~」 エルザの顔がインデックスへと近づく。死のカウントダウンであるかのように、ゆっくりと、確実に迫ってくる。 身動きのとれないインデックスができる事と言うならば、少しでも顔をエルザの牙から離れようとするぐらいだけ。 迂闊であった。 自分でもっとも安全なポジションにいる人間があやしいと言ったのに、なぜ気がつかなかったのであろうか。 いや、原因はやはり自分自身の心だ。 エルザに対してもう少し疑いの眼差しをかけていれば。もう少し注意を払っていれば。 しかし、それらの行為をしていても嫌だな、と感じた。 していなかったからこそ、自分はアレキサンドルとそのおばあさんを信じる事ができた。 それはきっと素晴らしい事だ。 たとえここで命が絶たれたとしても、十分に誇れる事。 ただ、唯一気がかりなのはとある少年に出会えなかった点。 (とうま……) その少年の名前を心の中で呼んだ。このまま会えずに死んでしまうのは、やはり悲しい。 しかし、いまさら悔いてももう襲い。せめてもの悪あがきと言えば、相手の目の前で悲鳴など上げない事。しかし、怖いものは怖い。 せめて自分が血を吸われるその光景は見たくないと目をつむった瞬間、 音が、響いた。 バン! という乾いた音がインデックスの鼓膜に突き刺さり、この森の中一体を反響するかのように拡がっていく。 思わず肩が震え上がった。痛みはないので何かしら傷を負ったわけではない。 わかる。科学に対しての知識が乏しいインデックスでもわかる。 (拳銃……?) インデックスは恐る恐る目を開く。その行動に至るまで何秒とかかったかすらわからない。 もしかしたら一分以上消費したかもしれない。ただ、彼女の目に入ったのは倒れているエルザの姿であった。 「あ……か……」 先ほどまでの威勢は消え去り、代わりに弱々しい言葉が口から零れる。撃たれたヶ所は腹辺りなのだろうか、月明かりをバックに鮮血とも呼べる赤い液体が地面へとどろどろ流れる。 「悪いな」 そこに、第三者の声が入り込んだ。 エルザは自分をこんなにした人間を確かめるために顔を向け、インデックスは自分の想像している人間かどうか確かめるために顔を上げる。 「ちょっと手間取ってな」 「もとはる!」 さながらお姫様を助ける主人公かのように、土御門元春は現れた。 彼の手には十五センチほどの拳銃が白いがうっすらと漂っている。 未だに銃口はエルザの方を向いており、いつでも二回目の引き金を引ける準備にある。 「な……んで……」 「簡単だ」 一蹴する土御門にエルザは目を見開く。 「お前はインデックスがメイジだと言った瞬間、僅かばかりだが完全なる憎悪が纏わったからな」 「たった……それだけで……?」 「たった? インデックスをこんな風に捕らえて血を吸おうとしているこの場を『たった』扱いするのか?」 「くっ……」 吸血鬼の生命力は人間のより遥かに凌駕している。エルザは素早く起き上がり、対応を試みようとしたが、 「遅いな」 その前に、銃弾が彼女の胸を貫通した。 「お前ら吸血鬼は人間よりかは身体能力はあるらしいが所詮はそれ止まりなんだろ? 銃弾の速度にはどうあがいても敵わない」 痛い! 痛いぃぃいいいい! と涙を浮かべて悶え続けるエルザ。が、土御門はそれに対してなんら感情を浮かべない。 ただ、冷徹に、冷酷に、だ。 「痛いか? お前が人間にしたことを俺がやっているだけだ。文句はねえだろ?」 言葉一つ一つが刺となってエルザに襲いかかる。 「所詮この世は弱肉強食。強い奴だけが生き残るのさ」 そして、三発目の銃弾が彼女の頭を粉砕した。 ドビュッ、と脳の一部が外へと飛び出した。その後ピクピクッと数回体が痙攣したが、すぐに全ての生命活動は停止し、動かなくなった。 それと同時、雄叫びがあがった。 「え……?」 インデックスの視線の先には、昼間とは似ても似つかないアレキサンドルが牙を剥き出しにしてこちらに攻めてくる。 吸血鬼が自分のしもべとして操る事ができるグール。どうやらそれがアレキサンドルのようであった。 「なるほど、気絶さして縄にかけてたぐらいじゃ意味ないか」 しかし、土御門は待ってましたと言わんばかりの動きで振り返り、どこから来るか見当がついたためか迷う事なく二発、続けさまに発砲する。 一発目で体にあたり、態勢が崩れそうになった所で二発目が脳に直撃。たったそれだけで、グールであるアレキサンドルはこの世から去った。 「ちっ、一発目で仕留めるつもりだったが……。やはりすぐさま撃つのは照準がぶれるな」 短い感想を述べ、土御門は銃をベルトに差し込む。 圧倒的、とはこの事をいうのだろうか。インデックスはただア然とするしかなかった。 たしかにこの星での文化レベルと現代の地球での文化レベルには差がある。 それでも、たがか銃一つでこれだ。 戦闘機の一つでも持ってきたらとんでもない制圧力を誇るだろう。 もっとも、 「これで後九発か……」 それなりの欠点はあるようだが。 「もとはる……?」 仕事の顔、という風に理解しているつもりだが怖い。 インデックスは不謹慎だが早くいつもの土御門に戻ってほしいと願って声をかけた。 「あぁ、悪いな。今助けてやるにゃー」 その願いは通じたのだろうか。いつもの口調へと変わった土御門はインデックスを縛っている枝を、どこから調達わからないがナイフを取り出し、切り裂いた。 エルザが死んだため、枝が持つ力はほとんど失い、インデックスが自由の身になるにはそう時間はかからなかった。 「まあ怪我はないと思うが、一応念のために運んでやるにゃー」 ひょいっと土御門は軽々しくインデックスを背中へおぶさる。 へ? と情けない声でされるがままであった。しかし、徐々にインデックスの顔が赤く染まる。子供扱いされるのが恥ずかしいのだろう。 「あわわわっ。私は平気なんだよ?」 「気にすることないんぜよ。もしかしたら足を怪我をしたのかもしれないからにゃー」 そういって、土御門はインデックスを自分の背中から降ろそうとはしない。 背中に乗った人が暴れるのは危険だ。ゆえに言葉でしか説得できないのだが……、 「とにかく降ろして~」 「にゃー、却下なんぜい。こんな素敵な体験を俺がみすみす離すわけないんぜよ」 どうやら不可能な様子。 インデックスは顔を真っ赤にしながらも、 「お……」 「ん?」 「重い……とか言っちゃダメなんだよ?」 「思い当たる節でもあるのかにゃー?」 うがっ、と爆発したかのように顔を真っ赤にする。 普段はどこにそんなに溜め込む胃袋があるの? と聞きたいぐらい大食いなのだが、やはり女の子。そういった恥じらいは持っているようだ。 「違うもん! 別に太ったりはしてないけど他の人よりちょっと食べてるから、もしかしたらこの体型の標準体重よりちょびっとだけ……お、重いかと思っただけだもん」 『重い』という単語を口から出すだけでも躊躇われるのだから、やはり気にしているのだろう。 土御門に対してそのような発言は禁句である。彼はニヤリと笑うと率直な感想を述べる。 「ちょびっとだけなら違いなんてわかるわけないと思うにゃー」 「なんでそんな軽々しく決めつけられるのかな!? もう少しレディーの心を考えるべきだよ!」 「というか、そんなに気にしてるなら食べなきゃいい気がするんだにゃー」 うー、もとはるのバカー! と結局両手両足をじたばたして土御門から離れようとする。 しかし、にゃーにゃー、と猫の鳴き声を出しながら笑い、それをうまくいなす土御門。バランスを崩す様子もなく、平然と歩いてく姿にインデックスはどんな邪魔をしても無駄なようだ。 しばらく暴れた後、さすがに疲れを感じたのか結局大人しくなった。 アレキサンドルはその場所に放置していたが、エルザはそのまま一緒に連れて、見晴らしのいい所で燃やす事にした。 頭を撃ち抜かれた死体、というのは些かグロテスクの領域に入る。土御門は平然と彼女の足をずるずると引っ張っていたが、その間インデックスは目を閉じていた。 運んだ理由は単純。村長達にエルザやアレキサンドルの亡き姿を見せるわけにはいかない。そう思っての行動であった。 本来はアレキサンドルも一緒に連れていきたがったが、自分より大きい男を運ぶのはどうやらできなかったようだ。 なので、仕方なくその場に放置した。そして願わくば、あそこに人がいかない事を……。 「そいえば、エルザが急にいなくなって村長さんどうなるかなぁ……」 「そいつは心配ないぜよ。今日一日でエルザを連れてく理由は書いてあげたからにゃー。アレキサンドルに関しては……事故にしてもらうしかないんぜい……」 エルザに関しては元から予測していたため、彼女の親戚を土御門が知っているので、彼女も連れてくという手紙を村長の家に残した。 しかし、アレキサンドルの方は違う。もとから殺す気はなかったのだが、どうやらグールという特徴を理解しきれてなかったようだ。 きっとお婆さんは悲しむだろう。たった一人の肉親が連絡もなく行方不明になるなんて。 「そっか……」 「まあこればっかりかは仕方ないにゃー」 「うん……」 怠そうに体を土御門の背中に預ける。やはりというべきか、非常に後味の悪い結末に参っているようだ。 それに加え、 「ごめんね。迷惑かけちゃって」 自分が足を引っ張った事を気にしているのだろう。 「まあ次から気をつけるんぜよ。今回はたまたま俺が気付いたからよかったものの」 「うん……。あれ? でも最初にエルザと会った時にはもう気付いてたんだよね?」 「ぎく」 「……ひょっとして私を囮にしようと最初から考えて――」 「そ、そんなことないにゃー」 とは言っているが、土御門の目はどこか泳いでる。インデックスはジト目になり、ホントに~、と疑いの言葉をかける。 「ホ、ホントはもっと楽な策があったけどインデックスがとてとてー、っと勝手に話を進めちゃうからこうなっただけぜよ!」 「なっ……とてとてって言い方にどうかと思うんだよ!」 案外この二人、気が合うのかもしれない。 周りに人がいたら確実ににやけるであろうこのカップルは、平気で大声をあげる。 もっとも、周りに人がいないとわかっているからこその行動かもしれないが。 「だいたいもとはるは格好がどうかと思うんだよ! サングラスなんてかけたら第一印象最悪なんだよ!」 「それは違うなインデックス。これは少しでもモテようと俺の中で考えに考えたファッションなんぜよ! まっ、俺は舞夏にしか目がないけどにゃー」 もはや論点が完全にズレているのだが、同時にこの状況を楽しんでいるようにしか思えない。 その時、土御門があることに気付く。 とても大事な内容であろう。その肩がふるふると震えている。 「ど、どうしたの?」 インデックスは土御門の状態の変化に気付き、不安そうな声に変わる。 何か先の村で忘れ物でもしたのだろうか? そうインデックスは想像していたのだが、 「にゃー! ツルペタバンザーイ!」 予想から斜め上に外れた答えが返って来た。 もしインデックスが地面に立っていたのなら、間違いなくこけていたに違いない。そうでなくても、確実に修道服は少し横にズレているだろう。 が、そんなインデックスを土御門は背負っているため、彼自身彼女の変化に気付いていない。 そう、土御門はインデックスを背負っている。 つまり、女性であると象徴する部分が土御門の背中に直に触れているのだ。 この事実により、むしろさらなる暴走を遂げている。 「さすがインデックス! ぺたぺたの中のぺたぺただと手にとるようにわかるにゃー。くぅ、カミやんはこんなにおいしい思いをしているのかー」 アッハッハッー、と土御門のテンションが急激に上昇している。というか、一人別世界に行ってしまったというべきだろう。 それを象徴するかのように、歩く速度が明らか走っている速度に変わっている。 この土御門、下手をするとどこまでも突き進んでしまう勢いがある。 そしてインデックスもようやく彼が何を言っているのか気付く。 自分のそれが、土御門の背中に当たっている事を。 そして土御門が言っている言葉が自分のそれを指している事を。 途端、インデックスの中で何かがキレた。 当然のように土御門は背負っているインデックスから放たれる怒りのオーラに気付く様子はない。 その事実を知らせてやろうと、インデックスは口を開く。 「ねぇもとはる」 「なんだにゃー?」 ブチッ、という音がインデックスの脳内に何重にも響き渡った。 口笛を吹きそうな、あまりにも陽気な返し方に、インデックスの怒りのボルテージが突き破った。 「いただきます! そしてごちそうさま!」 は? とわけがわからない土御門の無防備な頭に、インデックスがガブリと噛み付いた。 「にゃぁぁぁぁああああああああっ!? 待てインデックス。それはカミやんにしかやらない最終技じゃって痛い、痛いんぜよ!」 「ふんだ! 悪いかな? 胸が小さいことがそんなに悪いかな!?」 「いや、むしろ喜ばしいことなんだが!? ……まさか、インデックスお前だからいつもそんなにたくさん飯を――」 「それ以上言っちゃダメェェェェエエエエ!」 口封じと言わんばかりに噛みつく威力をさらに上げていく。若干その顔が赤くなっている事から、もしかしたら土御門が言った内容は正しいのかもしれない。 ギィヤァァァアアアア、と誰からも助けが貰えない深夜の道で、土御門は叫び続ける事になった。 #navi(とある魔術の使い魔と主)