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もう一人の『左手』-10 - (2008/02/23 (土) 13:11:21) のソース
#navi(もう一人の『左手』) 「カザミ……本当なの? サイトが生きてるって……信じていいのねっ!?」 先程まで悪鬼のような形相で、風見の腹筋にグーパンチを打ち込んでいたルイズが、いきなりふにゃっと歓喜に緩んだ。――この使い魔は、愛想こそ無いが、嘘はつかないという事を知っていたからだ。 「ああ。いま奴は、この学校から南南西の方角に約5kmのポイントを馬車で移動中だ。目的地がどこかまでは、分からんがな」 「5……“きろ”?」 「ああ、こっちの言い方だと5“リーグ”と言った方がいいのか」 「サイトは?」 「ロープで縛られて、荷台に転がされている。……無事だよ。呼吸も顔色も変化は無い」 「でっ、でも、何で分かるのよ、そんな事まで……!? まるで、見てきたような言い方じゃない!?」 風見の正体を知らないキュルケが、ルイズやコルベールを振り返る。 コルベールは思わず、その視線を躱したが、彼やオスマンほどに『カイゾーニンゲン』の詳細を理解していないルイズは、キュルケの視線を受けて風見を見上げた。 その眼差しに、説明しろという意思を込めて。そして、キュルケに説明するふりをしながら、わたしにも理解できるように言いなさい、という意思も込めて。 風見は溜め息をついた。 「コルベール先生、アンタにいつか話した、V3ホッパーの話を覚えているか?」 「ああ……確か、私の記憶が間違ってなければ……上空高く打ち上げて、そこから“敵”の位置やアジトやらを探るための『目』だとか?」 「そうだ。つまり……この世界流に言えば、俺の“使い魔”のようなものだ。それが今、この学校の遥か上空から、女を見張っている」 「使い魔ぁ!?」 キュルケとルイズは、その単語に驚いて、目を見合わせる。 「カザミ、あなたってメイジだったのっ!?」 「ちょっと待ちなさいよっ! あんた言ってたじゃないのっ! 魔法の無い国から来たって!?」 「だから言ったろう、『のようなものだ』と。俺はメイジじゃないし貴族でもない。だが、俺の意思で自在に操作できる“物体”を持っていることは、間違いない。――それを便宜上“使い魔”と呼んだだけだ」 ルイズは納得のいかないという顔をし続ける。 キュルケは、全く以って意味が分からないという表情を崩さない。 「まあいい。君がそういう“しもべ”を所持している事は聞いておった」 オスマンがその一言で、なおも説明を要求する気配が濃厚な、二人の少女を抑える。 「それで、カザミ君、――君は一体、どうしたいのかね?」 「馬を一頭、お貸し願いたい」 風見の視線が、さらに硬くなった。 オスマンは、風見とゴーレムとの戦闘模様を目撃してはいない。 だが、それでも、この老人には分かる。 コルベールが言うように、眼前の青年が、その毅然とした表情の裏に、どれほどの苦痛を封じ込めているのかも。 馬を一頭、ということは……それほどの全身の悲鳴をこらえながら、なおも独りで行く気だというのか……!! 「死ぬ気か……カザミ君?」 「まさか」 「ならば、――少々メイジを甘く見過ぎてはおらんかの?」 風見は答えない。 もっとも、その質問に答えるには、風見にとっては、対メイジの戦闘経験が、余りにも少なすぎるせいもあるのだが……。 「悪いが……君の申し出は、断らせてもらうしかないようじゃ」 オスマンは言った。 「悪く思わんでくれよ。君を行かせて、結局人質の少年もろとも死なせるような事になれば、わしは――」 そう言って、オスマンはルイズをちらりと見ると、 「わしは、ミス・ヴァリエールから、使い魔を全て取り上げてしまう事になるでな」 「……そう、か」 風見はうつむいた。 あるいは、この老人ならばとも思ったが、……やはり、予想は覆らなかった。 (どうする……!?) いまの体調では、おそらく変身したとしても、フルパワーの6割ほどしか動けまい。 いや、それは問題ではない。 おそらく困難なのは、戦うことではなく、殺さぬように手加減する事だ。 全身を、絶え間ない電流のような激痛が走っている。 だが、それでも、まだ状態はマシだというしかない。 おそらく、ルーンが刻まれる前だったら、この改造強化された身体でさえ、立てるようになるまで二日はかかっただろう。――あのゴーレムの蹴りは、それほどのダメージだったのだ。 それはいい。動けるならば、それに越した事は無い。 だが、痛覚を中途半端に遮断されたおかげで、ボディの状態が正確に把握しづらい。それが困る。 この体調で、山道を駆ける馬車を追うのは、かなり厳しい。 だが、……どのみち、休養を取る気など無い。 女の顔と嘲笑、そして才人の失神した姿が頭にこびりついて、とても寝てなどいられない。 ならば、するべき事は決まっている。 「では――失礼する」 「待ちたまえ」 オスマンが、行こうとする風見を呼び止める。 「念のために訊くが……これからどうするつもりかね?」 知れた事、と言わんばかりの表情で、風見はオスマンに目を向ける 。 「馬が使えなければ、二本の足を使うまでだ」 そう言って、振り返ろうとした瞬間だった。――“それ”が視界に入ったのは。 「カザミ君、君の気持ちも分かる。分かるが、もう少し落ち着いたらどうじゃ」 「カザミさん、いまの体調で、フーケのゴーレムと戦えると、君も本気で思っているわけじゃないだろう?」 「何カッコつけてるのよカザミっ!! 怪我人のあんた一人で行かせたら、御主人様が笑われちゃうでしょっ!!」 「――って、ルイズ、あんた行く気なのっ!?」 風見の周囲で、老人・中年・少女二人の、四つの声が錯綜する。 しかし、いま彼の耳には、そのいずれの声も届いてはいなかった。 「カザミ……君……!?」 オスマンが最初に、彼の異変に気付いた。 風見の見開かれた目が、宝物庫の一角に向けられ、全く微動だにしていないことに。 「……どうしたんじゃ?」 そのオスマンの問いには答えず、風見の脚は、引き寄せられるように、“それ”に向かって踏み出していた。 一歩、また一歩、……まるで夢遊病のようなおぼつかない足取りは、決して、彼の身体に残留した深いダメージのせいだけではない。 そして、とうとう風見は、“それ”に触れた。 ルーンが輝くのが分かる。 たしかにコイツは、ある意味『兵器』だ。あらゆる武器を使いこなすと言われた、このルーンなら、“これ”を『武器』の延長線上にある存在と認知しても、何ら不思議ではない。 そして、輝くルーンから流入してくる圧倒的な情報は、“それ”がまだ『生きている』ことを教える。 「Mr.オスマン……確かここは、マジックアイテムとやらの保管所だったな」 「ああ、そうじゃが……」 「ならば、何故こんなものがここにある?」 「“こんなもの”とは、それか? その『黒金の馬』の事かね?」 . 「くろがねの……うま……」 コルベールが、思わず口を差し挟む。 「カザミさん、それは、かつてロマリアから送られた、『場違いな工芸品』と呼ばれる存在の一つだよ。いつ、誰が、どこで、何のために作ったのかサッパリ分からない。構造を調べようにも分解すら出来ない」 「……」 「君が何故その物体に、そんな表情を向けるのか分からないが……一体どうしたんだね?」 風見は答えなかった。 ただ、全身から込み上げる震えを、ガマンできなかった。 もはや、指先から爪先まで駆け巡る痛みすら、気にならない。それほど有り得ない事だったのだ。――こんなところで、こんな異世界で、自分の分身にめぐり合おうとは!! 「『黒金の馬』、か……。上手いネーミングをつけたものだな、全く……」 「君は、知っておるのか、まさか、それを……!?」 滅多に動じぬオスマンが、信じられないものを見る目で、風見を見る。 「ああ、知っている」 風見は、さっきまでの苦渋の表情が嘘のような、むしろ誇らしげな顔で答えた。 「コイツの名はハリケーン。俺の相棒だ」 「あいぼう……?」 「はりけーん……?」 4人はぽかんとなった。 相棒とは、我ながら上手く言ったものだな。 風見は、心中苦笑する。 たしかに――相棒だ。仮面ライダーが“ライダー”と呼称される由縁。 このマシンを、まさに分身のごとく自由自在に、あらゆる場所で乗りこなす。 そのライディングテクニックがあればこそ、俺たちは“仮面ライダー”なのだ。 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ……あんた何言ってんの? これは王宮から魔法学院に預けられたマジックアイテムなのよ。まさか、わたしたちが知らないと思って、デタラメ並べてネコババしようなんて――」 「ハリケーンっ!!」 風見が、ルイズの声を遮るように叫んだ。 ――ドルン!! ドルンドルン!! 風見の一喝と同時にそのマシン……ハリケーンのエンジンに火が入る。 オスマン、コルベール、ルイズ、キュルケの4人は……もはや声もない。 彼は、そうするのが当然である、と言わんばかりの自然さで、ハリケーンに跨った。 変わらない。 たとえ、世界が入れ替わっても、コイツの乗り心地だけは変わらない。 「Mr.オスマン、馬はもう要らなくなった。代わりにコイツを返して貰う」 「返してもらうって……こいつはたまげたわい……!!」 「学院長」 呆気にとられるオスマンに、ルイズが駆け寄る。 「カザミを行かせてあげてください。いま、サイトを救えるのは、彼だけなんです! お願いします!!」 「[[ルイズ!]]?」 「ミス・ヴァリエール!?」 キュルケとコルベールが、驚きの声を上げる。 この少女は、自分の使い魔が、どういうコンディションか聞いていなかったのか? 「確かにカザミは、無愛想だし、目付き悪いし、言うこと聞かないし、いま大怪我してるかも知れないけど、それでも、こいつが」 そこでルイズは、一度言葉を切り、 「――いえ、わたしたちが行かなきゃ始まらないんです! カザミが危なくなったら、わたしが助けます! だから、行かせてください、お願いしますっ!!」 オスマンの深い目が、必死になってそう訴える少女を見つめる。 「……その言葉の結果が、いかなる結末を迎える事になっても、誰も責任は取れんのじゃぞ、ミス・ヴァリエール。それでも良いのじゃな?」 その問いに、ルイズは答える言葉を持たない。――だが、ルイズはもう、うつむかなかった。 彼女には分かっていた。自分がこのまま、何も為さず、まんじりと座して夜明けを待つことなど、到底出来そうもないことを。 「仕方ない、かの……」 オスマンが、何かを諦めたかのように、何かを吹っ切ったかのように、微笑んだ。 「――あっ、ありがとうございますっ!!」 そうだ、それでいいんだ。 何を迷っていたんだろう。 使い魔を助けるのは主の勤め! わたしがサイトを助けてあげなくて、一体誰が、あのばか犬を救い出せるっていうのよっ!! その思いは、悲壮感に沈みこんでいたルイズの心を、鎖から解き放つカンフルとなった。 「さあ、行くわよカザミ、準備はいい!?」 「ちょっ、ちょっと待ちなさいルイズ!」 キュルケが、ハリケーンのタンデムシートに座ろうとするルイズを引き止める。 「宜しいんですか学院長!?――いや、カザミの体調じゃなくて、あの『黒金の馬』のことですわ!!」 さすがのキュルケも、うろたえた声を出す。 「あたしはゲルマニアからの留学生ですが、失礼ですけど、いま学院長がなさった決断が、トリステインにとって、取り返しのつかない事態を招きかねないのは分かりますわ!!」 「取り返しのつかない事態?」 「あの『黒金の馬』は、確か、ロマリアから送られた国宝なんでしょう!? それを平民に勝手に与えてしまうなんて、……下手したら外交問題ですわよっ!!」 そう、確かにキュルケの言う事は正しい。だが、オスマンは深沈たる眼差しでかぶりを振った 「『勝手に与えた』と言うならば、そもそもあれは、我々が“勝手に”所有権を主張し、使い方さえ理解できず、ついには“勝手に”蔵に放置するしか出来なかった代物じゃぞ?」 「しっ、しかし!!」 オスマンは、なだめるようにキュルケに言う。 「ミス・ツェルプストー、あの『馬』のいななきを聞きたまえ。まるで喜んどるようじゃないか? 久しぶりに主に出会うて、喜び勇んどるようじゃないか?」 「学院長……」 「『黒金の馬』はフーケに盗られて、永久に失われたことにしておこう。ここにあるのは、彼の愛馬『ハリケーン』じゃ。よいな?」 そう言って、オスマンは、キュルケを見、ルイズとコルベールを見、そして、風見を見た。 「Mr.オスマン……済まない」 「やれやれ、若い者にはかなわんの」 老人のその目は、笑っているように見えた。 その老熟と寛容を併せ持った眼差しは、風見の知るある人物にそっくりであった。 「ありがとう。――おやっさん」 風見は、そう照れ臭げに呟くと、そのままハリケーンのアクセルを吹かし、壁の穴から闇の中に飛び出していった。 一緒について行く気満々だったルイズを取り残して。 「こら~~!! 何で御主人様を置いて行くのよ、ばかばかばか~~~!!」 「目が覚めたかい? 坊や」 風の冷たさで、才人が意識を取り戻した瞬間、つやっぽい女性の声が聞こえた。 「ここは……?」 体を起こそうとした途端、“床”がガタンと地震のような振動を起こした。肩が捻り上げられるような衝撃が才人を襲う。 「いででっ!!」 その時になって、ようやく才人は、自分が後ろ手に縛り上げられている事、また、“床”だと思っていたのが、荷馬車の荷台だという事、さらには、馬車が走っているのが、石ころだらけの暗い林道である事に気付いた。 そして、御者席に座り、その馬車を猛烈なスピードで走らせる女性……! 「あんた、一体何者なんだ……!?」 女は、御者台からちらりと振り返ると、フードを取った。 「そういや、お互い自己紹介がまだだったねえ」 「あんた、……ミス・ロングビル、じゃない……のか?」 すでに捨てたはずの名で呼ばれ、女はくくくっ、と笑った。 「わたしの名は『土くれ』のフーケ。ロングビルってのは、むかし近所に住んでた行き遅れのオバサンから借りた名前さ。よろしくね――ガンダールヴ」 「ガン、ダム……?」 「おや、まだコルベールやオスマンのエロジジイから、何も聞いてないのかい?」 「おれはヒラガサイトだっ! そんなモビルスーツみたいな名前じゃ――ぐむっ!?」 才人はだんご虫のように、いきなりうずくまり、丸くなった。 「くくくっ ――舌噛んじまったかい? 山道の馬車は揺れるからねえ」 むかついた。 この女が、自分をゴーレムで握り殺しかけたという事以上に、自分について自分以上に何か知っているらしいという態度が、才人には非常に気に食わなかった。 だが――、 「安心しな、そんなに怯えなくても殺しやしないよ」 そう言われた瞬間に、恐ろしいほどの恐怖が背筋に這い登ってきた。 そうだ、おれは、――この女の顔を、はっきり見てる。 普通、こういう場合って、くっ、くっ、くっ、……口封じに……!! 「きえええええぇぇぇぇっっっ!!!」 悲鳴にもならない悲鳴が、才人の口から迸った。 そして、自分がどういう体勢なのかも省みず、馬車から飛び降りて脱出を図ろうとしたが……、 「えっ、えっ、ええ~~~!!?」 後ろ手に縛られたロープが、なんと馬車の荷台に結びつけられていたらしい。両肩が脱臼せんばかりの激痛が走った。そして、そのまま荷台に置いてあった、細長い木箱に、いやというほど脳天をぶつける。 才人は、再び失神した。 「まったく、……あんた馬鹿じゃないの?」 再び意識が戻った時、才人は山小屋の中で、床に転がされていた。 それをフーケが呆れたような顔をして、見下ろしている。 「感謝して欲しいもんだわね、命を救ってあげたんだから」 「へ?」 その言い草の、あまりの意外さに、才人はキョトンとなった。 「分からないのかい? もしアンタ、あのまま馬車から飛び降りてたら、受身も取れずに、石に頭ぶつけて死んでたよ」 才人はそう言われて、――馬車の荷台から見た、街灯一本ない暗闇の眺めや、5秒に1度は、石を踏んでゴツンゴツンに揺れていたデコボコの山道を思い出し、ぞっとした。 「あんたみたいな向こう見ずなガキが、ガンダールヴなんて……信じられないよ、まったく」 そう言いながらフーケは、背中に回された才人の両手のロープを解き、 「ホラ、食いな」 と、パンを差し出す。 「え?」 「いらないのかい?」 「え、あ、いや、――ありがとう」 そのパンは、半ば硬くなっており、ろくに味もしなかったが、それでも才人は、貪るように食い尽くした。思い返せば、彼は夕飯を食べていなかった。 例の『使い魔品評会』の出場問題で、ルイズを怒らせて、抜かれてしまったのだ。 しかし……。 「あの――?」 「なんだい」 「わざわざロープを解いたのは、おれにこのパンをくれるため、なのか?」 そう、おずおずと訊く才人に、フーケはフンと鼻を鳴らして、 「当たり前だろ? それともあんた、犬食いがしたかったのかい?」 と言った。 才人は数瞬、あっけにとられたが、――どうやら、メイジである彼女は、現役高校生の腕力による逆襲など、全く歯牙にもかけていないらしいと、ようやく理解した。 「さて、それじゃあ、本題に入ろうかね」 目の前に置かれたのは、1,5mほどの細長い木箱。 「アンタは、自分が“ガンダールヴ”だという事実を、まだ認識していないらしいけど……少し試させてもらうよ」 そういうと、『練金』で小さなナイフを錬成し、才人の傍らの床に投げ刺した。 「抜きな。左手の甲のルーンが見えるようにしながらね」 才人は未だに何の事か分からない。 しかし、こんなナイフ一本で、巨大ゴーレムを自在に錬成し、操作する女に逆らう気は起きない。 そして、ナイフを――言われた通り左手の甲を見せながら――抜いた瞬間、ルーンが煌煌と輝いた。 「なっ!?」 いや、それだけではない。 ルーンが輝いた瞬間に、いまだ残る両肩の痛みが消え、体が軽くなった……!? ――パチン!! フーケが指を弾いた瞬間、ナイフがいきなり土に変化した。 彼女が『練金』を解いたようだ。 まるで理科の授業で、物質の腐食と風化の超早送りVTRをみせられたようだった。 「そのルーン……やっぱり本物だったか……わたしは盗賊の神様に感謝すべきだねえ」 涎をたらさんばかりの笑顔を見せ、 「まさか、どうやって身柄を抑えようか悩んでいた、当の本人が、自分から飛び込んできてくれるなんてねえ……」 「なあ、ちょっと待ってくれよ、説明してくれよ。おれ、あんたが何を言ってるのか全然分からないんだよ」 さっきの怪現象はなんだったんだ!? そういや、ギーシュとかいうキザ野郎と決闘した時も、剣を握った瞬間に、体から痛みが抜けた。いや、それだけじゃない。その剣で、等身大の金属人形を、真っ二つにした……このおれが……!? 今まで知らなかった自分自身の情報を突きつけられ、才人は狼狽する。 そして、フーケは言い放つ。 「もう分かってるんだろ? あんたはあらゆる『武器』を使いこなす。――あんた自身の力じゃない、全部そのルーンの力さ。伝説の使い魔“ガンダールヴ”のルーンのね」 ――伝説の、使い魔……? なんだそりゃ……!!? 「さあ、説明は以上だ。その木箱を開けて、『破壊の杖』の使い方を教えてもらおうか? そいつが魔力に反応するタイプの、単なるマジックアイテムじゃないっていうのは、ディティクト・マジックでもう分かってるんだ」 「教えるって、……おれが?」 「分かった事を素直に全部言ってくれれば、――無事、魔法学院まで送ってやるよ」 つまり、期待通りの情報を言えなければ、命は無い。 そういう事か……!? 殺すのか、殺すのか、おれを、殺すのか、おれは、殺されるのか!? もう、否も応もなかった。 才人は、眼前の木箱を引っくり返し、夢中で、蓋とおぼしき板を引っぺがした。 中に入っていたのは、長さ1・2m程度の……。 これって、あの、たしか、――ガンダムで、ザクとかドムが使ってた、アレ? でも、たしか『杖』って……。これ、杖でも何でもねえじゃん。 おそるおそるフーケを見上げる。 「なにグズグズしてるんだいっ!! さっさとしなっ!!」 その一喝に、才人は反射的にその“物体”をつかむ。 ルーンが光る。 その瞬間に、この“物体”に関する、おびただしいデータが彼の脳内に流入してきた。 「ひいいいいいぃぃぃっっっ!!!」 「なっ、なんだいっ! どうしたんだいっ!?」 目を見開いて、発狂したように取り乱す才人。まるで、白昼に幽霊でも見たような絶叫をあげ、山小屋の隅まで転がって、がたがた震える。 フーケは、何が起こったのか分からず、目をぱちくりさせた。いくら何でも、この反応は予想の斜め上を行き過ぎている。それともまさか、呪いのアイテムなのか!? 「おいっ! 坊やっ!! 答えるんだ、アレは一体、何だったんだよっ!!?」 「――かっ、かかかか……」 「か?」 「かめ……ばずーか……!!」 哀れなる『土くれ』のフーケは、……その才人の言葉の正確な意味を、知らなかった。 #navi(もう一人の『左手』)