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アクマがこんにちわ-01 - (2008/03/22 (土) 22:12:13) のソース
#navi(アクマがこんにちわ) 「あんた誰?」 はじめに視界に入ったのは、抜けるような青空だった。 そのとき自分は呆けていたのだろう、口を半開きにして、頭にクエスチョンマークを浮かべていた気がする。 「ちょっと、何か言いなさいよ?」 空は青い。 ボルテクス界の淀んだ明かりではなく、敵意を含んだ光でもなく、ひたすら重く暗い闇でもなく、ただひたすらに青い。 「ちょっと!聞いてないの?」 「ミス・ヴァリエール、下がりなさい」 視線をほんの少し下げると、ほんの三メートルぐらい向こうに、ピンク色の頭髪を持ちマントを付けた少女がいた。 その少女の肩に、おでこと頭頂部を中心に肌色が見える細面の中年男性が手を置いて、少女を下がらせようとしていた。 「で、でも、召喚が」 「下がりなさい」 男性は先ほどよりも静かな、それでいて強い意志を秘めた言葉で少女を下がらせる。 その瞳は殺気こそ含んでいないものの、警戒心を決してゆるめない強靱な意志を感じさせていた。 それよりももっと後ろの方では、遠巻きに少年少女達がこちらを見ている、よく見るとバグベアーやサラマンダー、フクロウにカエル、竜のような生き物までこちらを注視していた。 少年少女達は、年の頃14~18だろう、それに比べて目の前に立つ頭の禿げた男性は明らかに年長者だ。 「……貴方は何者ですか?言葉が通じるのなら、返答して頂きたいのですが」 「へっ?」 俺は思わず、気の抜けた返事をしてしまった。 改めて目の前の男性を見る、相変わらず気を抜かずこちらを見据えて、右手に何か棒のような物を持っている。 周囲は草原、ビルも見えなければカグヅチの光も見えない、そして闇の行き着く先にあった皆既日食のようなものも無い。 何よりも大地が…大地がどこまでも広がっている。 「えーと、あの、すいません。ここ、どこですか?」 「ここはトリステイン、魔法学院の管理する草原です」 「トリステイン?」 「はい」 頭の禿げた人が俺の質問に答えてくれる、最初は警戒心が強そうな怖い人かと思ったが、もしかしたら悪い人じゃないかもしれない。そう考えて俺は照れ隠しに後頭部をポリポリと掻いた。 「!」 照れ隠しの動作にも、頭の禿げた人は過敏に反応する、棒のような物を一瞬だけぶれさせたが、その先端は明らかに俺の胸、首、口を狙っている…って言うかもしかして俺は警戒されているのだろうか? 「あのー、ちょっとお伺いしたいんですが、わたしはどうしてこのような場所にいるんでしょうか」 「……それは、ここトリステイン魔法学院で行われた儀式のためです」 儀式とは、何の儀式だろう?そう思った俺が質問すると、先ほど禿げの男性に下がらせられた少女が俺の前に立ちはだかり、言葉を遮った。 「儀式、ですか。それって何の」 「使い魔召喚の儀式よ! 言葉が通じてるならちゃんと質問に」 「ミス・ヴァリエール!下がりなさい!」 禿頭の男性は、ピンク髪の少女を咄嗟に下がらせた。 どうやらあの少女はミス・ヴァリエールと言うらしい、でもミスってのは未婚の女性のことだよな、ということはヴァリエールって名字か名前だろう。 しかしちょっと待って欲しい、今とても聞き捨てならない単語が出てきた気がする。 「使い魔召喚って…え? じゃあ、まさか俺呼ばれたの!?その、召喚で!?」 「………」 辺りをキョロキョロ見回しながら狼狽える俺を見て呆れたのか、少女は不機嫌そうに眉をひそめて俺を睨んだ。 禿頭の男性も呆気にとられたのか、口を半開きにしている。 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しをさせてください!こんな変な格好をした平民が召喚されるなんて、間違いです!」 「ななな、なんと!」 ヴァリエールという少女が禿頭のミスタ・コルベールに詰め寄る、変な格好とはまた酷い言われようだ、思わず心中で『おまえらの髪の毛の色も変じゃ!』とツッコミを入れたかったが、大人としてちょっと情けない気がしたので我慢した。 「待ちなさい。とにかく、一度オールド・オスマンに相談をしましょう!」 「で、ですが…」 納得いかない、といった顔でこちらの顔を伺う少女と、何か腫れ物をさわるような目つきでこちらをチラ見するコルベールさん。 このままだと話が進まなそうなので、とりあえずこちらからもう一度質問してみた。 「とりあえず、ここに呼ばれた経緯とかをもうちょっと細かく説明してください。それと……あんまり考えたくないんですが、後ろにいるドラゴンとか、うねうねした動物たちも『召喚』されたんですよね?」 「え、ええ」 引きつった笑顔で答えるコルベールさん。その表情にはどこか申し訳なさも感じられた。 それにしても皮肉な物だなあ…と思ってしまう。今まで仲魔を集め、時には力でねじ伏せて言うことを聞かせ、必要な時に呼び出して利用してきた。 そんな自分が召喚されてしまった、これもきっと仕方のない事だろう、いつの間にか俺は半人半魔から、ただの悪魔になってしまったのだ。 ……半人半魔と言えば、ダンテならこの少女にも『格好いい』なんて言われてただろうか?もうちょっと格好いい姿になりたかったなあ。 「とりあえず、トリステイン魔法学院の責任者に会って頂きたいのですが、よろしいですかな?」 変な妄想に囚われた俺に、おそるおそる声をかけてくるコルベールさん。 「[[わかりました]]。ええと…コルベールさんでしたっけ」 「はい。自己紹介が遅れました。私はジャン・コルベール。トリステイン魔法学院の教師です。今回行われた『春の召喚の儀式』で引率を勤めています」 「へえ、教師…ってことはこの子も後ろの皆さんも生徒?うわー国際色豊かだなあ」 「国際色ですか…まあ留学生もおりますから、あながち間違いではありませんが。歩きながら話を続けてもよろしいですか?」 「ええ、お願いします。いやあ僕召喚されるなんて初めてなんでびっくりしちゃって…」 ちょっとだけうち解けたのか、コルベールさんは笑顔を見せてくれた。 でもヴァリエールさんは俺を睨んでた、ちょっと悲しい。 このままでは悲しい気もするので、俺は勇気を出して少女の前に手を出した。 「俺は……人修羅。よかったら君の名前も教えてくれないか」 「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 少女の名前は長かった。覚えきれないからルイズと呼ぼう、ルイズちゃんは俺の差し出したてを一瞥すると、不機嫌さを隠さずにそっぽを向いて歩き出してしまった。 …俺はやっぱり変態とか変人だとか思われてるんだろうか、ボルテクス界で洋服拾っておけば良かったかなあ。 ■■■ トリステイン魔法学院は、ハルケギニアというこの世界でも由緒正しい魔法学院らしい。 コルベールさんがそんなことを話してくれた。 折角だから学生だった頃を思い出してコルベール先生と呼ばせてもらうことしたら、ひどく驚いた様子だったが気にしない。 コルベール先生は、ドラゴンを従えた青い髪の小柄な少女と、ポケモンより大きそうな火トカゲを従えた学生とは思えない色気の女性に何かを言付けていた。 青い髪の少女は一言で言ってロリだ。もう一人は赤い髪の毛に褐色の肌、ものすごく健康的な大人の女って感じだ。 二人と、他の生徒さんたちは皆空を飛んで行ってしまった。 人って空を飛べるの!?と驚いた、呆れた。 正直言って、メギドやディアの魔法より、空を飛ぶ魔法を覚えてみたかった。 空を飛ぶ魔法が俺にも使えるなら、是非覚えたい。タケコ○ターで空を飛ぶ夢がちょっと違う形で叶うかもしれないのだから。 前を歩くルイズちゃんを見る、ボリュームのあるピンク色の髪の毛が力なく揺れていた、考えてみればこの子もけっこう綺麗だ、不機嫌そうな表情が笑顔になったらグッと来ちゃうんじゃないだろうか? それにしても髪の毛の色が多種多様でしかも鮮やかだ、染めているのか気になったが、コルベール先生がそれを否定してくれた。 古くから血を継承し続けている貴族は、皆特徴的な色を継承しているらしい、貴族ではないが黒髪の人も茶髪の人もいるとか。 「ところでコルベール先生、俺みたいにこの…模様みたいなのが入った人っていますか?」 「いや…それは私の知る限りでは見たことはありませんね。東方や南方には、こことは異なった風習の人も住んでいると言われています、そういった人達ならあり得るかも知れませんが」 「なるほど」 こんな調子で、コルベールさんはいろんな質問に答えてくれた。 ハルケギニアという世界、東方にあると言われるロバ・アル・カリイエ、ハルケギニアの貴族の祖となった始祖ブリミル。 改めてここが別の世界なんだと思いつつ、空を見上げた。 空は青くて、雲が時々流れてくる。 澄んだ青空の下を歩ける幸福感は、すぐ別の、申し訳ないという感情に変化してしまった。 先生と、千晶、勇……自分のせいで再生することもなく滅んでしまった東京、日本、世界に申し訳が無くて、心の中で『ごめん』と呟いた。 ■■■ 魔法学院の本塔。 ビルみたいに大きい塔の中に、学院長の部屋があった。 コルベール先生に連れられて部屋に入ろうとしたが、その前にルイズちゃんは部屋で待機するようにと言われ、眼鏡をかけたこれまた綺麗な女の人に連れ添われてどこかへ行ってしまった。 エメラルドグリーンの頭髪は、初めて見るとキツイ、けど二~三度まばたきをしているうちに慣れてしまった、だって美人なんだもんあのお姉さん…。 気を取り直して、学院長室に入ると、貴族が魔法を学ぶ学校らしく学院長室も綺麗に整えられていた。 悪魔になる前に、NHKの深夜放送で見たイギリスだかフランスだかのお城の一室に雰囲気が似ている気がする。 「ようこそ。ワシがこのトリステイン魔法学院の学院長オスマンじゃ」 「どうも。はじめまして。僕は人修羅といいます」 俺が名前を名乗ると、オスマンという老人は顎から伸びる長い髭を撫でながら、不思議そうな顔で俺を見た。 くすんだ紺色のローブに、長い杖、長い白髪と、口元をほとんど隠してしまう立派な髭、いかにも魔法使いって感じのオスマンさんを見て、俺は内心で『魔法使いだ!漫画みたいだ!』と叫びながら小躍りしたい気分だった。 とりあえず学院長というぐらいだからオスマン先生と呼ぼう。 「ふーむ……君がミス・ヴァリエールに召喚されたのかね?」 「自分ではよく解らないんですが……コルベール先生が一部始終を見ていたらしいですし、僕も仲魔を召喚していたことがあるので、僕も同じように召喚されたんじゃないかと思っています」 「ふむ。コルベール君から話を聞いたかもしれんが、君のような魔力を持つ存在が召喚された前例は、ワシの知る限りでは存在しないんじゃ。コルベール君が君を警戒したかもしれんが、生徒の安全を思ってのことじゃ、許してくれないかのう」 「はぁ……そうなんですか」 思わずため息をついてしまった。 危険物扱いされているのはうすうす感づいていたが、改めて言われるとちょっとショックだ。 ハルケギニアという世界に聞き覚えはないが、ここにいる人たちは間違いなく『人間』だ。 久しぶりに人間と会話できて喜んでいたが、その人間から危険視されてしまうこの現実が辛かった。 「ところで、俺の扱いはどうなるんですか?召喚された以上は、無茶な事でない限りあのルイズって女の子につきますけど」 俺がそう言うと、コルベール先生とオスマン先生は驚いたような顔をした。 「使い魔になるというのかね?」 オスマン先生はテーブルに肘を突いて、こちらをのぞき込むように身体を前に傾けた。 「条件次第ですかね。コルベール先生が教えてくれましたけど、この世界の使い魔ってメイジと一生を共にするとか……それが僕の考えてる『仲魔』とは違うんで、説明をしてほしいんです」 「ふぅむ…そうじゃなあ、まず、サモン・[[サーヴァント]]について説明しておかねば」 オスマン先生との話では、サモン・サーヴァントは使い魔を『ハルケギニアから呼び出す』ものであり、別の世界から呼び出されることは無いらしい。 それだと自分が呼ばれた説明が付かない…と思ったが、ハルケギニアでアクマが召喚されるようなことでもあれば、俺が呼び出される可能性はゼロではない。 もっともその場合、この世界には俺の仲魔も召喚されているかもしれないのだが……アマラやボルテクス、仲魔などの言葉が知られていないので、その可能性は低いだろう。 何らかの要因で、突発的に、俺だけがこの世界に呼ばれてしまった…そう考えた方がいいかもしれない。 ついでに、『風韻竜』『エルフ』といった単語に心当たりがあるかとも聞かれた。 エルフはまあ存在しないことも無いが、この世界で言われているエルフはサハラという砂漠に住む存在らしいので、俺が知っている仲魔とは違うだろう。 風韻竜についてはまったく心当たりがない、風韻竜とは人語を理解する程の知能を持ち、もはや存在しないと言われる希少種らしい。 『夕飯に中国料理が食べたい』と言って青龍を困らせていた俺には、喋る竜なんて珍しいと思わなかったが、この世界では違うようだ。 話が進み、俺が半人半魔の存在だと話したところで、何かひらめいたのかコルベール先生が「それが原因かもしれません」と呟いた。 亜人と呼ばれる人間に近い存在なら、召喚されることもあるらしい、つまり俺は人間としてではなく悪魔として呼び出されたのではないか…とのことだった。 サモン・サーヴァントで召喚される使い魔は、メイジと一心同体であり、使い魔の契約は一生の物、そして未だ才能の開花しないメイジにとっては、メイジの性質や方向性を決める大事な存在でもあるらしい。 魔法学院では二年目からより専門的な分野の学習をするので、二年生への進級テストを兼ねた使い魔召喚の儀式で、その生徒の力や方向性を見るそうだ。 …俺って何だろ? 車椅子に乗った、金髪の老紳士は俺を見て『新たな闇の悪魔が産まれたのだ』と言ってたから、俺の属性は闇なのだろうか? でも、それはおかしい。 俺が得意とする技『破邪の光弾』はその名前の通り邪悪を排する、けれどその一方で『ベノンザッパー』みたいに毒々しい技も使える、仲魔だって魔神もいれば天使もいる。 あえて言うならカオスだろう。 …ルイズって子は、魔神と神を従えた俺を召喚した。 どういう事だ? 「すみません、あのルイズって子について質問があるんですけど」 ■■■ 「…………。」 人修羅が学院長室で話し込んでいる頃、ルイズは自室の椅子に座っていた。 両手は膝の上で握りしめられており、服にはいくつもの涙の痕がある。 ルイズは泣いていた。 自分が召喚した使い魔が、変な格好の平民だった。 他の同級生達は皆ちゃんとした動物を召喚している、しかもその中には風竜や、サラマンダーまで存在していた。 ルイズは、使い魔召喚の儀式に尋常ならざる意気込みで挑んでいた。 メイジとして、魔法を行使する貴族として、自分の魔法を知る最後の機会がこの『使い魔召喚の儀式』だった。 もし風竜などのドラゴン種が召喚されていたら?きっと意気揚々としてその背に飛び乗り、魔法学院に帰ってきただろう。 だが実際はそんなに甘くなかった。 表れたのは平民、上半身が裸で、黒いズボンをはいていた。 あの奇妙な姿からすると、東の果てや、西の海の向こうに居ると言われる蛮族かもしれない。 しかもそいつは、ミスタ・コルベールの手で学院長室に連れて行かれてしまった。 平民が召喚されるなんて話は古今東西聞いたことがない、たぶん、あの平民の処遇をどうするのかを学院長達が話し合っているのだろう。 …もし、召喚が失敗したとみなされたら、自分は進級できなくなる。 二学年になれず、一学年をやり直すことになる。 使い魔召喚の失敗は、二学年進級試験の失敗でもあるのだから、情けなくて涙が出てくる。 ルイズは思う。 使い魔の召喚に失敗しなければ、今頃は…いや、使い魔の召喚に失敗したなら、やり直せばいい、やり直したい、もう一度召喚すればいい! ルイズはマジカルタクトと呼ばれる杖を手に取り、それを撫でた。 魔法を使うには杖が必要であり、杖がなければ魔法を使うことはできない。 杖に向かって、ルイズは何度も何度も念じた、今度こそ、今度こそ成功してくれと。 「宇宙の果ての、どこかにいる、私の使い魔よ……」 ■■■ 「爆発ですか…そりゃ何て言うか、過激ですね」 人修羅の言葉に、コルベール先生が同意する。 「ええ。原因が全く分からずに難儀しておりますが、とにかくミス・ヴァリエールは魔法が成功せず、いつもいつも爆発させてしまうのです」 そう言いつつ、コルベール先生は杖の先端に灯した火を消した。 先生が簡単な魔法を見せてくれたおかげで、ボルテクス界で使っていた魔法や技とちがう、別の魔法の世界だというのがよく理解できた。 そのお返しとして、吹雪を作る魔法『ブフ』を胸の前だけで行使し、氷を作り出す。 その様子に二人ともものすごく驚いたようだったが、あんな簡単に空を飛ぶこの世界の方が驚きだ。 後で俺も空を飛べるか聞いてみよう。 「ミスタ・人修羅。そちらにとっては不本意かもしれんが、我々はサモン・サーヴァントで呼び出した使い魔を一生のパートナーとする。元の世界に帰す方法は研究されていないのじゃよ。衣食住はこちらで保証するので、返る方法が解るまで大人しくしていてくれないかね」 「人修羅で結構です、ミスタなんて呼ばれるのはなんかむず痒いですし…。それに俺が変なことしたら、俺を呼び出したルイズさん迷惑がかかるでしょう」 「そう言ってくれるとありがたい」 オスマン先生は人の良さそうな笑みを浮かべた、つられて俺も笑顔になる、何て言うかこの人も悪い人じゃ無さそうだ、ボルテクス界で感じたような邪気がまったく感じられないし…。 「あ、そうだ、ルイズさん…じゃなかった、ルイズさんは今後どうするんでしょうか、なんか俺、嫌われちゃったかもしれないんですけど」 「それについてはワシから直接話そう、人修羅…くんを呼び出したというだけでも驚くべき事じゃし、使い魔召喚の儀式を再度行わせるなどして調節することになるじゃろうなあ」 「それが失敗したら落第ですか?」 「…残念じゃがそう言うことになるのう」 「あのう……ルイズさんがなぜ魔法を失敗するのか、それを解決できるか解りませんが…何か手伝えることはありませんか?」 俺の言葉に、オスマン先生とコルベール先生がまたもや驚いた顔をする。 もしかして俺は甘い言葉で小学生を誘拐する誘拐犯のような存在だと思われてるんだろうか、だとしたら凄くショックだ。 「すまんが、こちらから質問させてくれんか、君はなぜそこまでしてくれるのだね?」 オスマン先生がテーブルに肘を突いて、身を乗り出すようにして質問してきた。 「…まあ、先ほども説明しましたけど、世界を破滅させて作り替える儀式に巻き込まれて、半分悪魔になってしまった俺は、人間のいない世界で悪魔や精霊や妖精や… とにかく人間とは違う存在と戦ったり、仲魔になったりして暮らしてきたんです。久しぶりに人間に会えたんですから、その機会をくれたルイズさんには感謝しないと」 「なんとまあ。いまどき見上げた心がけじゃなあ」 呆れたように呟くオスマン先生。 「いやはや、人は見かけによらないと言いますが…。」 こちらも呆れたように呟くコルベール先生。 二人とも俺のことどんな風に見てたんだろう。 苦笑いを浮かべた俺の目の前に、光り輝く鏡のようなものが突然あらわれた。 ■■■ 目の前には、サモン・サーヴァントによって開かれた、使い魔召喚のゲートが浮かんでいる。 部屋の中に大きな使い魔が召喚されたらどうなってしまうのか、まったく考えていなかった。 ルイズは、自分の部屋の中にあらわれた召喚ゲートをまじまじと見つめた。 いったいここから、何が出てくるのだろうか、小さな猫だろうか、ネズミだろうか、トカゲだろうか、それとも大きなミノタウロスやドラゴンだろうか、それとも亜人だろうか? ゲートが開かれてからまだ十秒しか経っていないのに、ルイズにとってはそれが一時間にも感じられた。 頭の中では、めまぐるしい勢いで、いろいろな言葉が浮かんでいる。 その中には八つ当たりもあり、始祖ブリミルへの懇願もあった。 (どんな使い魔でも文句は言いません!だから、今度こそ成功してっ……) ルイズは、泣きはらした眼と、まぶたの周辺を赤く腫れさせながら、唇をかみしめて必死で祈っていた。 そこに、ぬっ…と、先ほどと同じ奇妙な格好をした平民が、身体にいくつもの線を描いた平民が姿を現した。 ■■■ ゲートをくぐり抜けると、そこにはルイズさんがいた。 ルイズさんは、この世界では高校二年に相当する年齢らしい、あの草原で見かけた青い髪の毛の少女は、この娘よりさらに小さかったが、発育の差異だと思えば納得できる。 そんなことを考えながら、ルイズさんの前に立つ。 薄暗い部屋の中で、俺の身体を走るいくつもの線が青白く、ぼんやりと光を放っていた。 呆然としていたルイズさんは、はぁとため息をつくと、右手に掲げていた杖を力なく降ろした。 落胆されている。そう感じた俺は、どんな風に声をかけて良いか思いつかないまま、膝を突いて目線を合わせた。 『使い魔になってやろう!』では傲慢すぎる。 『使い魔にしてください』ではちょっと俺の立場が弱くなるかもしれない。 『踏んでください!』だめだ、俺にそんな趣味はない、無いはずだ。 俺は、上手い言葉が思いつかないので、そっとルイズさんの右手を左手で優しく掴み、その上に右手を重ねて、ルイズさんの手のひらを包み込んだ。 「ルイズさん…だよね。改めてこんにちは。俺は『人修羅』。今後とも、よろしく…」 第一話おわり #navi(アクマがこんにちわ)