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ZERO A EVIL-06 - (2008/07/06 (日) 11:03:21) のソース
#navi(ZERO A EVIL) ルイズは朝食を食べ終わった後、シエスタの淹れてくれた紅茶を飲みながら、のんびりした時間を過ごしていた。 今日はこれからどうするかと考えを巡らせていると、誰かが自分のことを見ているような感じがした。 だが、辺りを見回してみてもこちらを見ている人間はいなかった。 「どうしました?」 「視線を感じたんだけど気のせいだったみたい。それより、シエスタは今日も仕事なの?」 「今日は朝だけですね。この後は、特に予定はありませんよ」 「それなら街まで付き合ってくれない? ひ、一人で行ってもつまらないしね」 「ええ。私でよければお付き合いしますよ」 シエスタと一緒に出かけたいのが本音だったが、いつもの癖でつい言い訳をしてしまう。 この学院に来てから、誰かと出かける事など一切なかったし、虚無の曜日もほとんど一人で過ごしていた。 だが、今日一日は楽しく過ごす事ができそうだ。街に着いたら何をするかでルイズの頭はいっぱいだった。 そんなルイズの姿を見ている者がいた。キュルケの使い魔であるフレイムだ。 使い魔は主人と視聴覚が共有できる。フレイムが見ているルイズの様子はキュルケに筒抜けであった。 そのころキュルケは親友であるタバサの部屋でつまらなそうにしていた。 ルイズに対抗するために魔法の特訓までしていたのに、肝心のルイズはメイドと街に出かけるのを喜んでいる有様だ。 これでは何の為に魔法の特訓をしていたのかわからなかった。 「ごめんなさいね。あなたに付き合ってもらった特訓も無駄になりそうよ」 「別にいい」 タバサにとってはキュルケが心配で特訓に付き合っていたので、二人が戦わなくて済みそうなことにどこかほっとしていた。 表情には出さず、本を読みながら素っ気なく答えているので、はたから見れば無関心に見える。 だが、キュルケにはそんなタバサの心遣いがわかっていた。 「ありがと。あーあ、何だか退屈ね。ねえ、私達も街に出かけましょうか?」 「行かない」 「そう言うと思ったわ。じゃ、今日は久し振りに男の子達とお付き合いしようかしら」 タバサは、虚無の曜日にいつも本を読んで過ごしているのをキュルケは知っていたので、無理に誘う気はなかった。 最近はルイズのことばかり考えていたので、今日は蔑ろにしていた男の子達の相手でもしようとキュルケは思った。 ルイズとシエスタは街一番の大通りとされるブルドンネ街にやってきていた。 二人で通りの露店を眺めながら、他愛もない会話をする。たったそれだけの事がルイズにとってはとても嬉しく感じる。 今までずっと一人だった反動もあり、今日のルイズは少しはしゃぎすぎのようにも見えた。 シエスタはそんなルイズを見ながら嬉しそうにしていた。こんなに喜んでもらえるなら一緒に来たかいもあるというものだ。 これなら、ギーシュと決闘した時のように別人になってしまうことも、もうないだろうとシエスタは思っていた。 そんな二人が歩いていると、裏通りの方から人の怒鳴り声が聞こえてくる。 「もう我慢ならねえ!! やいデル公!! 今日こそてめえを貴族に頼んで溶かしてやるぜ!!」 「やれるもんならやってみろ!! 今更この世に未練なんてねえや!!」 どうやら二人の男が言い争いをしているようだ。 「えらく物騒な会話をしてますけど、何かあったんでしょうか?」 「どうせ傭兵同士の喧嘩でしょ。あの辺は確か武器屋があったはずだし、血の気の多い連中が集まりやすいんでしょ」 二人が話していると、裏通りの方から錆びた長剣を持った中年の男が現れた。いよいよ決闘でも始まるのかと二人は緊張したが、どうも様子がおかしい。 現れたのは中年の男一人だけだったし、その姿はとても屈強な傭兵には見えなかった。 そして一番の違和感は、男が自分の手にしている剣に向かって怒声を浴びせていることだった。 「言ったなデル公!! 今日の俺は本気だからな!!」 「ああ上等だ!! ちょうどそこに貴族の娘っ子がいるから頼んでみたらどうだ!!」 男が持っていたのは意思を持つ剣であるインテリジェンスソードのようだ。剣に言われてルイズ達に気付いた男がこっちに近づいてきた。 「これはこれは貴族の若奥様。お見苦しい所を見せてしまって、申し訳ありません」 「別にいいけど。一体何があったのよ?」 「へえ、実は……」 男から話を詳しく聞くと、ようやく事の真相が見えてきた。 まず、この中年の男は裏通りにある武器屋の主人で、インテリジェンスソードはその店に置かれている商品であるらしい。 今日もいつもどうり店を開けていると、ある貴族が剣を買いに武器屋までやってきた。 最近、土くれのフーケと呼ばれる盗賊がトリステインを荒らしているので、自分の家の使用人にも剣を持たせたいとのことだった。 そこで武器屋の主人は、ゲルマニアの高名な錬金魔術師が鍛えた剣を貴族に勧めることにした。 貴族はその剣を気にいったようだったが、ふと試し斬りをしたいと言い出す。 そして、店に乱雑に積まれていた剣の中から錆びた剣を取り出し、その剣に向かって斬りつけた。 だが貴族の持っていた剣は、錆びた剣を斬る事ができず、逆に斬りつけた所から折れ曲がってしまう。 唖然としている貴族に、試し斬りをした錆びた剣が言葉をかける。 「そんなちゃちな剣で俺を斬ろうなんて甘いんだよ。お前さん剣を見る目がないねえ、よく見ればインチキだってわかりそうなもんなのに」 その言葉を聞いて怒り出した貴族に、武器屋の主人は土下座して必死に謝った。 平民が貴族を騙そうとしたのだからただでは済まない。下手をすれば自分の命が消えてなくなってしまうのだ。 店にある剣を好きなだけ持っていっていいという条件で何とか許してもらえたが、店にとっては大損害であった。 その後、余計な事を喋った剣に激怒した武器屋の主人が、剣を溶かしてもらうために表通りに出たところでルイズ達に出会ったというわけだった。 「事情はわかったけど、貴族にそんな剣を売りつけようとしたあんたが悪いんじゃない」 「あ、あっしも知らなかったんですよ。知ってたらそんな恐れ多い事できませんぜ」 「け! よく言うぜ!」 「うるせえデル公! と、とにかくこの剣と鞘は若奥様に差し上げますんで、どうかどろどろに溶かしてやってくだせえ」 「え? ちょ、ちょっと!」 武器屋の主人はそう言うとインテリジェンスソードと鞘をルイズに渡し、裏通りの方に走り去ってしまった。 ルイズとシエスタはその姿を見ながら、呆然と立ちつくしていた。 「行ってしまいましたね」 「もう! こんな剣渡されても困るのに!」 「あの親父、都合が悪くなりそうだから逃げ出しやがった。さあ貴族の娘っ子、俺を溶かすなり何なり好きに……ん?」 すると、あれほどやかましく喋っていたインテリジェンスソードが急におとなしくなる。 異変を感じたルイズとシエスタが顔を見合わせていると、黙っていたインテリジェンスソードが再び喋りだした。 「こいつはおでれーた。まさかこんな娘っ子が“使い手”だなんて、時代も変わったもんだな」 「おとなしくなったと思ったら急に喋りだして、今度は一体どうしたのよ?」 「貴族の娘っ子、さっきの言葉は取り消しだ。この俺を使ってみちゃくれねえか?」 「いきなり何言い出すのよ。それに、私は剣なんて使ったことないわよ」 突然の提案に戸惑うルイズだが、インテリジェンスソードはそんなことはお構いなしに喋り続ける。 「いいじゃねえか、何事も経験だぜ。損はさせねえぞ」 「ルイズ様、溶かしてしまうのは可哀想ですよ」 「しょうがないわね。溶かしたりはしないけど、あんたを使ってあげるわけじゃないんだからね」 「そうこなくっちゃ! 俺の名前はデルフリンガーってんだ、これからよろしく頼むぜ相棒!」 「誰が相棒よ!」 その後、デルフリンガーを加えて再び大通りを歩き出す。 デルフリンガーはルイズとシエスタの会話にしょっちゅう絡んできたが、ルイズは悪い気はしなかった。 魔法学院ではシエスタしかまともに会話できる人物がいないルイズにとっては、デルフリンガーとの会話は新鮮なものであった。 最初はしぶしぶだったが、今はデルフリンガーを受け入れてよかったとルイズは思い始めていた。 そんな感じで、途中に一悶着はあったが、ルイズは久し振りに満足のいく虚無の曜日を過ごすことができたのである。 だが、その日の夜。 ルイズはいつものように魔法の練習をするため、シエスタと一緒に外に向かっていた。 デルフリンガーは部屋で留守番である。俺も連れて行けとうるさかったが、剣の練習をする気はないルイズは鞘に押し込んで黙らせた。 二人で外に出ると、前方に人影があることに気付く。それはキュルケと青い髪の少女だった。 青い髪の少女は、キュルケと一緒にいるのを何度か見かけたことがあった。 「奇遇ね、ルイズ。今日はそのメイドに一日中べったりと甘えられて、さぞ満足だったでしょうね」 「あ、甘えてなんかいないわ!」 キュルケはタバサと一緒にいつもの魔法の特訓を行うため外に出ていた。 特訓の必要はもうあまりなさそうだと考えていたが、タバサと魔法の特訓をするのは楽しかったので、もうしばらくは続けてもいいかと思っていた。 「その子と街に出かけられるとわかった時は大喜びだったじゃない」 「ど、どどどうしてそれを!?」 「さあ、どうしてかしらねー」 キュルケがフレイムを使って様子を探らせていたのをルイズは知る由もなかった。 「あ、あんただって、そこにいる子とこんな夜に二人っきりで何をしようとしてたのかしら」 「この子はタバサっていって、あたしの友達よ」 「どうだか。あんたのことだから、男だけじゃ満足できなくなって女の子にも手を出してるんじゃないの。いやらしいったらありゃしない」 このルイズの悪口はさすがのキュルケも頭にきたようだ。 「言ってくれるじゃない。何なら今から決着をつけましょうか?」 「望むところよ!」 「ル、ルイズ様!」 「シエスタは黙ってて、この女とはいつか決着をつけなくちゃいけないと思っていたのよ」 二人は杖を手に取ると、お互いに距離をとりながら向かい合う。 シエスタとタバサは黙って二人の姿を見守ることしかできない。 その時、少し離れた場所でその様子を見ている人物がいることに気付く者はいなかった。 ルイズとキュルケが同時に杖を相手に突きつけ、呪文を唱える。 キュルケはファイヤーボールの呪文を唱えたようだ。特訓の成果が出ているのか、いつもよりも大きな火球がルイズの方に向かっていく。 それに対し、ルイズもファイヤーボールの呪文を唱えたのだが、いつものように失敗し、キュルケの背後にある宝物庫の壁が爆発する。 キュルケの火球はルイズの足元に着弾し、ルイズは吹き飛ばされてしまう。 よろよろと立ち上がるルイズだが、もう戦うことはできそうになかった。 「ルイズ、もう降参しなさい。今のあなたじゃ、あたしには勝てないわよ」 ルイズを警戒していたキュルケは本気でファイヤーボールを使ったが、吹き飛ばされたルイズを見てやりすぎたと思っていた。 だから、早めにルイズに負けを認めるように促す。 「ま、まだよ。これからあんたに吠え面をかかせてあげるんだから、覚悟しなさい!」 プライドの高いルイズは負けを認めるわけにはいかなかったし、シエスタの前で無様な姿も見せられなかった。 だが、威勢がいいのは口だけで、満身創痍なのは誰が見ても明らかだった その時、ルイズの背後の地面に異変が起こる。突如、高さが30メイルにも及ぶ巨大な土ゴーレムが出現したのだ。 ゴーレムはルイズ達の方に向かってくる。キュルケは慌てて逃げ出すが、ルイズは先程のダメージもあり、すぐに動くことができなかった。 そうこうしている内に、ゴーレムはルイズのすぐ側まで迫ってきていた。 そして、無慈悲にもルイズの頭上にゴーレムの足が振り下ろされる。 「ルイズ様!」 だが、ルイズがゴーレムに踏み潰されることはなかった。ルイズを助けるために走ってきたシエスタがルイズを突き飛ばしたのだ。 ゴーレムの足が振り下ろされる。足の下に誰がいようとゴーレムには関係なかった。 突き飛ばされたルイズが辺りを見回してもシエスタの姿は見えない。 自分の代わりにシエスタがゴーレムに踏み潰されてしまったと結論づけるのにそう時間はかからなかった。 悲しみと怒り、憎しみなどの感情がごちゃまぜになってルイズを襲う。シエスタと過ごした日々を思い出し、ルイズの頬を涙が伝った。 目の前では、ゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけている。 (よくも、よくもシエスタを!! 仇は必ず取ってみせる!!) ギーシュと決闘した時と同じように、ルイズの左手のルーンが光を放っていた。 ルイズはシエスタがゴーレムに踏み潰されたと思っていたが、実はそうではなかった。 踏み潰される直前に、タバサの使い魔である風竜がシエスタを助けたのだ。 風竜にはタバサの他にキュルケも乗っており、今は少し離れた上空でゴーレムの様子を伺っていた。 「ミス・タバサ、ルイズ様も助けてください!お願いします!」 「それはだめ。今近づくと相手を刺激することになる」 「そう。ルイズの安全を考えるなら、今は様子を見るのが一番なのよ」 ゴーレムは宝物庫の壁に穴を開け終わったようだ。ゴーレムの肩から黒いローブ姿のメイジが中に入っていく。 そして、何やら大きな箱をレビテーションで浮かせながら運び出していた。 「タバサ、これからどうするの? このまま黙って見てるわけにもいかないでしょ」 「ばれないように追跡。油断している時に箱を奪い返す」 「そうね。それなら、ルイズも安全だし」 二人が今後の行動を考えていると、急にシエスタが叫びだした。 「ルイズ様!!」 「急にどうしたのよ!」 「いけない」 ルイズの方に目を向けると、ゴーレムに向かって走り出しているのがわかった。タバサはこちらに注意を向かせるために風竜をゴーレムに近づける。 だが、ルイズの走るスピードは早く、もうゴーレムの側まで近づいていた。 その時、三人は信じられない光景を目にする。 ルイズがゴーレムに飛び乗り、上にいるメイジの所まで一気に駆け上がったのだ。そして、突如現れたルイズに驚いている黒いローブのメイジに向かって飛び蹴りを放つ。 不意を突かれた黒いローブのメイジは、それを避けられずに顔の辺りを蹴られていた。その際、レビテーションが切れたのか、浮かせていた大きな箱が地面に落下していく。 ルイズは畳み掛けるように攻撃しようとするが、黒いローブのメイジの方もすぐさまゴーレムで反撃に移る。 ゴーレムがルイズを捕まえるために腕を伸ばすが、素早い動きのせいで中々捕まえることができない。 ルイズの方もゴーレムの腕に邪魔されて、黒いローブのメイジに近づけないようだった。 風竜の上でその様子を見ていたキュルケは唖然としていた。表情には出さないが、タバサも驚いているようだった。 武術の達人のような素早い動きを見せるルイズは、さっきまでとは別人のように二人には見えた。 シエスタは、ルイズが再び別人ようになってしまったことに不安を覚えていた。 何か取り返しがつかないことが起こってしまう前に、一刻も早くルイズの側に行かなければならないと思った。 「お願いしますミス・タバサ! 私をルイズ様の所に連れて行ってください!」 ゴーレムの上で果敢に攻撃を仕掛けるルイズだが、最初の飛び蹴り以外の攻撃が当たることはなかった。 黒いローブのメイジは、ゴーレムでルイズの攻撃を防いでいる。まずはこのゴーレムをなんとかしなければならなかった。 その時、ゴーレムを破壊する方法を考えているルイズの目にある物が写った。 地面に落下した際に壊れた箱から飛び出し、無造作に転がっている物体。細長い筒状の形をしており、六本の銃身とレバーが付いている。 胴体からは無数の弾丸がまるで蛇のように伸びていた。 それを見た瞬間、ルイズは素早くゴーレムを駆け下りる。 地面に横たわっている胴体を起こし左手で支えると、銃身をゴーレムに向け右手でレバーを掴む。 使い方はわかっている。当然だ、これはかつて自分が使っていた最強の武器なのだから。 「シエスタをかわいがってくれたお礼はたっぷりしてあげるわ。受け取りなさい……このガトリング銃の弾をね!!」 ルイズがレバーを回転させると、ガトリング銃から弾丸が勢いよく発射された。 発射された無数の弾丸を浴びているゴーレムは、見る見るうちに穴だらけになっていく。 黒いローブのメイジはゴーレムを修復しようとするが、絶え間なく浴びせられる弾丸のせいでとても修復が追いつかない。 そして、銃身が徐々に上に向けられていることに気付く。自分が狙われていることを悟った黒いローブのメイジはフライで逃走を図った。 たとえこの場は逃げられても、飛び蹴りが当たった時に顔をはっきりと見ている。 まさか学院長の秘書が盗賊とは予想外だったが、例え相手が誰であろうとシエスタを殺した報いは受けさせなければならない。 シエスタの仇を討つ機会はまだあるが、このままあっさりと逃がすわけにはいかなかった。 ルイズが黒いローブのメイジに狙いを付けようとした時、一匹の風竜がこちらに近づいてくるのが見えた。 「ルイズ様!! 駄目です!!」 その声を聞いた瞬間、ルイズの動きが止まる。声のした方に恐る恐る目を向けると、風竜の上にいるシエスタの姿を発見した。 左手のルーンは急速に光を失い、ルイズの手を離れたガトリング銃は地面に落下する。 ルイズのすぐ近くに着地した風竜からシエスタが勢い良く飛び降りる。そして、唖然としているルイズを抱きしめた。 「盗賊は逃げました。だから、ルイズ様が戦う必要はもうないんです」 そう優しく囁きかけてくれる声や抱きしめてくれる感触が、シエスタが生きていることをルイズに実感させる。 それに気付いた時、大粒の涙がルイズの頬を流れていく。安堵感と嬉しさのあまり、感情の歯止めが利かなくなっていた。 キュルケとタバサはそんな二人の様子を静かに見守っていた。 #navi(ZERO A EVIL)