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異世界BASARA-55 - (2008/09/29 (月) 23:38:05) のソース
#navi(異世界BASARA) ――ウェールズ・テューダーの愛の証を貰う―― 松永は手に持った剣の切っ先をウェールズに向けてそう告げた。 「私の愛の証だと?」 「そうだ。ああ、だがその前にもう1つ……」 と、松永は懐に手を入れると何かを取り出した。 松永が取り出した物を見て、ウェールズの目が大きく見開かれる。 彼が出したのは1本の杖。それも、見覚えのある物だった。 父、ジェームズ1世の持っていた杖だ…… 「卿の父から“誇り”を貰っていたのを忘れていた。しかし、既に朽ちかけの誇りだったのでね」 松永はジェームズ1世の杖を地面に放り投げる。そして 「もう飽きてしまったよ」 足で踏みつけ、杖をへし折った。 「貴様あぁぁ!!」 ウェールズの顔が、怒り一色に染まる。その様子を見ていた氏政は、はっと我に返った。 「いかん!そやつは一筋縄ではいかんぞ!焦るでない!!」 狡知に長けている松永久秀が真っ向から戦うとは思えない。 そう考えた氏政は、落ち着かせる為にウェールズの元へ駆け寄ろうとした。 が、次の瞬間。 鍾乳洞の天井が崩れ、上から何かが土煙と共に落下してきた。 落下してきたものは地面に着地すると、目の前にいる氏政を睨む。 降ってきたのは2・5メイル程ありそうな大男だった。 しかし、首から上は違う。 人の顔の代わりに、角の生えた大牛の顔があった。 「ミ、ミ、ミ」 ギーシュが口をパクパクさせて大男を指差す。 「ウルウゥゥオオオオォォォッッ!!!!」 「ミノタウロスだああぁぁぁーー!!」 ギーシュがその名を叫ぶと同時に、大男……ミノタウロスも咆哮を上げた。 「彼も獲物に惹かれてここに来たか、いや僥倖、僥倖」 ミノタウロスの姿を見て、松永は面白そうに笑った。 「では、私はこちらに専念するとしよう」 そう言って松永は視線をウェールズに戻し、剣を盾のように翳した。 その剣にウェールズの放ったエア・[[ハンマー]]が命中する。 衝撃で松永は後ろに下がるが、その顔には相変わらず笑みが浮かんでいた。 反対に、ミノタウロスと対峙している氏政は狼狽していた。 「グルルルル……」 「ななな、何じゃぁこの妖怪は!?」 氏政は目の前に立ちはだかる巨躯の怪物に、思わず後退る。 「逃げろウジマサ!そいつはミノタウロス、とても敵う相手じゃない!」 ギーシュが氏政に促す。 だが氏政が動くより早く、ミノタウロスが手に持ったウォーハンマーが襲い掛かった。 「ぐふえぇっ!」 丸太のような一撃に、氏政の意識は一瞬飛んだ。攻撃が胴に直撃したのだ。 着込んでいた鎧など、この怪物の力の前では何の役にも立たなかった。 「ぐ……こ、この妖怪めぇ……」 それでも氏政は震えながら立ち上がる。激しく咳き込むと、氏政の口から血が溢れた。 「ろ……老獪を……ゲホッ、老獪をなめるでないぞ!!」 血反吐を吐きながらも、氏政は槍を振り回して地面に突き刺す。地面から氷柱が生え、ミノタウロスに命中した。 しかし、鋼のような皮膚に阻まれ、氷柱は砕けてしまった。氏政、そしてギーシュの顔に焦りが浮かぶ。 だが次にミノタウロスが起こした行動に、ギーシュの焦りは絶望に変わった。 ……ギーシュの目の前で、氏政が地面に倒れている。 ギーシュは我が目を、耳を疑った。 自分がおかしくなったのか、それともこの怪物に対する知識が足りなかったのか。 そう考えてしまう程、今起きた出来事が信じられなかった。 このミノタウロスは、氏政の氷柱を防いだその後…… エア・ハンマーを放ったのだ。 魔法を使えるミノタウロス?そんなの聞いた事ない。 知らなかっただけだとしても、そんな怪物に敵うのだろうか? 「……ウゥゥゥルルル……」 氏政を倒したミノタウロスは、低く唸り声を上げながらギーシュを見ている。 咄嗟に杖を振ろうとしたが、精神力が切れているのを思い出した。 ギーシュはミノタウロスに見下ろされ、ただ震えるしか出来なかった。 ミノタウロスはしばらくギーシュを見下ろしていたが、フンと鼻を鳴らすと視線を別の方に向けた。 その先では、ウェールズと松永が未だ戦っていた。 松永はウェールズが放つ風の魔法に、守り一遍の構えを崩さない。 (守りも兼ねる風……成る程、厄介な術だ) そう考えながらも、松永の顔には焦燥の色は浮かんでいなかった。 と、ウェールズが一際強力な「ウィンド・ブレイク」を唱えた。 あまりの威力に、松永の剣は手を離れ、遠くに弾き飛ばされた。 「もらった!父上の仇!!」 ウェールズは続けざまに呪文を唱える。『エア・ニードル』だ。 ウェールズは光る杖を構えると、松永に突進する。 だが、松永は避けようとしない。ただ、左手を前に突き出した。 そして…… 「ラグーズ・ウォータル……」 ウェールズがはっとした顔になる。しかし、もう遅かった。 「イス・イーサ・ウィンデ」 放たれた氷の矢が、ウェールズの胸を貫いた。 「な……ば、かな……」 自分の胸に突き刺さった氷の矢を見て、ウェールズは呟いた。 松永は……杖も持たずに魔法を唱えたのだ。 「ん?私は魔法を使えないなどと言った覚えはないよ?」 松永が馬鹿にするように言った。 ゴホッ!とウェールズの口から血が溢れ、地に倒れた。 「さてと……」 弾き飛ばされた剣を拾うと、松永は息絶えたウェールズに近づく。 そしてしゃがみ込むと、ウェールズの指から“風のルビー”を抜き取った。 「卿の愛の証……確かに頂いた」 「マツナガ様!船は押さえました。中にいた連中も捕らえましたよ」 松永が風のルビーを指にはめたその時、イーグル号の中からセレスタンが出てきた。 松永がウェールズと戦っている隙に制圧したのである。 「ご苦労、では出航させるとしようか」 「あいつはどうします?」 セレスタンが指差す方を見ると、ギーシュと氏政がいた。 「……捨て置け。今は望みの物を手に入れたからな」 松永はそう言うと、イーグル号に乗り込もうとした。 と、タラップを上ろうとした時、松永が足を止めてギーシュに向かって振り返る。 「……悔しいかね?悔しいならば、追ってくるがいい。卿が奪うに値する男であったら……その時はその誇りを奪い取ってやろう」 ギーシュに向けて、松永は静かに言う。 しかし、当のギーシュは動く事が出来なかった。 #navi(異世界BASARA)