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マジシャン ザ ルイズ 3章 (42) - (2008/10/10 (金) 12:50:27) のソース
#center(){[[戻る>マジシャン ザ ルイズ 3章 (41)]] [[マジシャン ザ ルイズ]] [[進む>マジシャン ザ ルイズ 3章 (43)]]} ---- [[マジシャン ザ ルイズ]] 3章 (42)ザルファーの青 舞台は整い、役者は揃った。 災厄の次元渡行者、次元の花嫁、炎蛇、学舎の古老、聖約の白、女王の守り手、魔法博士、魔法大博士、複面の盗賊、情熱の赤、氷の姉妹、風の謳い手、教皇、黒威を駆る者、白い炎の焼却者、青赤の賢竜、そして始祖。 過去の亡霊、未来の英雄、現代の迷い人。 可能性の海に落とされた、きらめくような意志と意志。 これで最高の役者が揃えられたのだろうか? いや、これでは足りない。 今一人、最後の役者が未だ姿を見せていない。 それは…… 名だたるプレインズウォーカー達の犠牲と献身によって、次元の裂け目は閉じられた。 大きな犠牲が払われたのは確かだが、かくしてドミニア崩壊の危機は回避されたのだ。 ここに大修復は完了 された、はずだった。 「……次元の歪みが、修復されていない?」 『久遠の闇』と呼ばれるプレインズウォーカー達に力を与えている原初の闇、始まりの海。ドミニアに無数に存在する世界と世界の狭間にある力に溢れた無の空間。 生きる者もいるはずのないその空間に今、一人の男が存在していた。 彼は黒一色しかないこの空間にあってただ一つ輝く、白い玉座のような形をした機械に腰掛けている。 年齢は二十代の中頃で肌の色は黒、白と青の立派なローブを身につけた魔術師風の姿をしていた。 何より特徴的なのは髪や髭が綺麗に剃られていることである。 彼の名はテフェリー。 かつてトレイリアのアカデミーに学び、天才児にして問題児と称された、時間と空間とを操ることを得意とするプレインズウォーカーである。 もっとも、今の彼は正しくは『元プレインズウォーカー』というのが正しいのだが。 〝どういうこと? 修復は済んだはずじゃなかったの?〟 肘掛けに肘を乗せて頬杖をついていたテフェリーの思考を遮ったのは、彼の頭に直接語りかけてきた女性の声だった。 声の主は遠いドミナリアのアーボーグの地に居る、『ウルザの秘蔵っ子』『永遠のアーティフィクサー』『不老のギトゥ』等の異名を持つ、熟達の工匠ジョイラである。 「分からない……」 〝私たちの知らない裂け目があったということ……?〟 AR46世紀。 ウルザやナインタイタンズ、ドミナリアの人々が一丸となってファイレクシアの侵略を退けてから、300年後の未来。 ドミナリアはマナが失われ荒廃し、滅びかけた世界となっていた。 その原因はファイレクシア侵攻のもっと以前、スランの時代から続く数々の災害や事件によってドミナリアに与えら続けた負荷によって発生した次元の裂け目によるものであった。 次元の裂け目は、ドミナリアを荒廃させるだけに止まらず、多次元宇宙ドミニアに波及して時間や空間を超えて様々な影響を及ぼすに至った。 ミラディンではマナの核が不安定になり、ミラディンの太陽であった五つの宝珠が輝きを失い、神河では隠り世と現り世との帷が弱まったことで神の乱へと発展し、ラヴニカは多次元宇宙と切り離されたことで死者の魂が滞り幽霊街が生まれた。 そして裂け目がドミニアに与える影響が次第に大きくなり、ついにはドミニアそのものを破壊しかねない事態に陥っていると知ったテフェリー・ジョイラの二人は、スカイシュラウドのハーフエルフラーダ、アーボーグの工匠ヴェンセール、 そして多数のプレインズウォーカーや伝説的な魔術師らの助力を得て、裂け目の修復に奔走した。 結果として、プレインズウォーカー達の多大なる犠牲によってドミナリアの裂け目は修復され、ドミニアは救われた。 はずだった。 「修復が行われたことで、これまで気がつかなかった裂け目が活性化したのかもしれない」 〝場所はどこ?〟 「調べてみよう」 シヴの裂け目の修復のために己のプレインズウォーカーとしての力を失ったテフェリーは、今や並かそれ以下の魔術師でしかない。それでもこのプレインズウォーカーが次元の移動に利用する『久遠の闇』にいられるのは、彼が座っているテレポーターに依るところが大きい。 テフェリーはヴェンセールとギトゥの工匠達が作り上げたテレポーターのコンソールを、素早く叩いて操作した。 そうしてからテフェリーはドミナリアへと意識を向け、目を閉じてどこに裂け目があるのかを探ろうとした。 数分ほども経ったろうか。 テフェリーの額には球のような汗がいくつも浮かび、きつく閉じられた目のために皺が刻まれていた。 〝どう、何か分かった?〟 「いいや……駄目だ。ドミナリアのどこにも、裂け目の存在は感じられない」 〝では、別の次元にあるということ?〟 「それも違う。確かにドミナリアに次元の裂け目は存在する。いや、むしろ我々が目を向けていない部分に裂け目があると考えた方良いかもしれない」 〝例えば海中や地中のような?〟 その言葉にテフェリーは、相手が見ていないにも関わらず首を左右に振った。 「いいや、視点を空間的・時間的に広げてみるんだ」 ドミナリアの歴史において起こったおもだった災害の中心に存在した裂け目は、既に修復が終えられている。ならばこれまで除外していた部分、裂け目によって引き起こされた変化に焦点を当てて探せばいい。 仮説に従いテフェリーが視点を変えて探すこと数分。 今度は先ほどよりも短い時間で彼は結論を出した。 「ドミナリアと重なっている、別の次元。そこに大きな裂け目が三つある」 〝別の次元?〟 「そう。今まで私も気がつかなかった。だが確かにそこにそれはある」 それは他のプレインズウォーカーであっても気がつかないような、些細な綻びからの推測であった。 〝でもそれが分かってどうするの? もうあなたはプレインズウォーカーではないわ。次元は渡れない〟 そう、彼はもうプレインズウォーカーではないのだ。 以前は息を吸うように行えた空間跳躍も、今ではヴェンセールが作ったこのマシーンの補助を受けてでしか行えない。 しかし、それでも彼は、空間と時間の達人であった。 「フェイジングだ」 〝フェイジング?〟 フェイジング、それはテフェリーが得意とする空間に干渉する転移の魔法。 対象物の相位をずらし、一時的に別次元であるフェイズ空間へと押しやる、テフェリーが最も得意とする呪文である。 「問題となっている次元は、ドミナリアの裏にある。そこに移動するだけなら、プレインズウォーカーの力が無くとも十分可能だ」 〝どうやって〟 「簡単さ。フェイジングした後に、更にフェイジングを行うのだよ」 〝! テフェリー! あなた、それは……!〟 フェイズ・インして別次元へ送られたものを、フェイズ・アウトさせずに更にフェイズ・インする。そうするとそれはテフェリーも知らないどこか別の次元、未知の領域へと放逐されてしまう。そのことを、ジョイラは知っていた。 〝待って! それは非常に危険よ!〟 「いいや、待てないね。こうしている間にも裂け目の影響はドミニアへと広がっている」 〝だからってあなた一人が行くことはないわ、私も一緒に行くわ〟 「だから駄目なのさ。どうなるか分からない計画に、君を巻き込むわけにはいかない」 〝テフェリー!〟 「少しの間さようならだ、ジョイラ。もしも、私が帰ってこなかったら、別の方法で裂け目を閉ざす方法を考えて欲しい」 テフェリーはそう言って強引にジョイラとのテレパシーの回線を切断すると、計画実行の準備を始めた。 大きく息を吸い込んでドミナリアを思い浮かべる。 青い海、豊かな森、草木が芽吹く平地、溢れ出る力を秘めた山、腐る沼地。 その中でも特に海を、ザルファーの海を強く思い浮かべて、テフェリーは注意深く青のマナを集めた。 そして、十分に魔力が集まったことを確認すると呪文を唱え、彼は自分自身を転移させたのだった。 かくて役者は出揃った。 ハルケギニアを、ドミナリアを、ドミニアを巻き込んだ争いの終幕が開かれる。 ウルザの後継者? そんな大それたものじゃない。 ――ザルファーの魔道士テフェリー ---- #center(){[[戻る>マジシャン ザ ルイズ 3章 (41)]] [[マジシャン ザ ルイズ]] [[進む>マジシャン ザ ルイズ 3章 (43)]]}