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ゼロのロリカード-09a - (2008/06/07 (土) 01:43:01) の編集履歴(バックアップ)
青い髪に青い瞳、凹凸のない平坦で小柄な体格、雪のように白い肌に幼いながらも端正な顔立ち。
眼鏡をかけたその表情はひたすら無であり、感情を表すことは滅多にない。
『雪風』のタバサ、北花壇騎士七号である彼女はとある命を受けていた。
その命令主はいつも突然に連絡を寄越し、その都度ガリア王都リュティスにまで越させて任務を告げる。
今回もその例に漏れず、任務を聞かされていた。
眼鏡をかけたその表情はひたすら無であり、感情を表すことは滅多にない。
『雪風』のタバサ、北花壇騎士七号である彼女はとある命を受けていた。
その命令主はいつも突然に連絡を寄越し、その都度ガリア王都リュティスにまで越させて任務を告げる。
今回もその例に漏れず、任務を聞かされていた。
吸血鬼、人の姿をした血を吸う怪物。日光には弱いが、力は強く先住魔法を扱うことが出来る。
生命力も高く、吸血した人間を一人屍人鬼として操ることもできる。狡猾で残忍な最悪の妖魔である。
今回の任務であるサビエラ村の吸血鬼討伐の為、タバサは一度学院に戻って荷物と吸血鬼関連の本を持ち出してきた。
単純に倒すだけでなく、探し出して正体を暴くことから始めなくてはならない。
その為の情報は必要不可欠であった。
生命力も高く、吸血した人間を一人屍人鬼として操ることもできる。狡猾で残忍な最悪の妖魔である。
今回の任務であるサビエラ村の吸血鬼討伐の為、タバサは一度学院に戻って荷物と吸血鬼関連の本を持ち出してきた。
単純に倒すだけでなく、探し出して正体を暴くことから始めなくてはならない。
その為の情報は必要不可欠であった。
タバサは本を小脇に抱えてシルフィードの元へと向かう。すぐに終わるだろうと外にいさせたままだった。
「遅いわお姉さま!きゅいきゅい!」
シルフィードの言葉をタバサはナチュラルに無視した、これもいつもの光景である。
「遅いわお姉さま!きゅいきゅい!」
シルフィードの言葉をタバサはナチュラルに無視した、これもいつもの光景である。
「竜とは喋る生き物だったか・・・?」
突如聞こえてきた声に、タバサとシルフィードは辺りを見回した。
シルフィードが古代種の風韻竜であるとバレるのはまずい、それ故にいつだって周囲には気を配っていた・・・筈であった。
突如聞こえてきた声に、タバサとシルフィードは辺りを見回した。
シルフィードが古代種の風韻竜であるとバレるのはまずい、それ故にいつだって周囲には気を配っていた・・・筈であった。
影が蠢く。陽の光によって作り出されていたタバサの影が、タバサ自身が動いていないのにも拘わらずゆっくりと動いていた。
それは徐々に人の姿を成し、タバサと似た小柄な背恰好へと変化した。
「ごきげんよう、タバサ」
そして少女アーカードは事も無げに挨拶した。
それは徐々に人の姿を成し、タバサと似た小柄な背恰好へと変化した。
「ごきげんよう、タバサ」
そして少女アーカードは事も無げに挨拶した。
吸血鬼、今目前にいる少女である。魔法こそ使えないが、力は強大で日光もものともしない。
生命力はミノタウロスのそれすらを遥かに凌駕し、使い魔も複数使役するらしいルイズの使い魔である。
先日の破壊の杖に関する事件で詳しく知ることとなった彼女、ハルケギニアとは別の世界の吸血鬼だと言う。
生命力はミノタウロスのそれすらを遥かに凌駕し、使い魔も複数使役するらしいルイズの使い魔である。
先日の破壊の杖に関する事件で詳しく知ることとなった彼女、ハルケギニアとは別の世界の吸血鬼だと言う。
「授業中なのにシルフィードが見えたから・・・つい悪気はあったが尾行させてもらった」
「黙ってて」
タバサはただ一言告げる。
「むっ、怒ったのか?」
タバサは首を横に軽く振る。
「そうじゃない、この子が喋ったこと」
そう言ってタバサは杖の先をシルフィードへと向ける。
「黙ってて」
タバサはただ一言告げる。
「むっ、怒ったのか?」
タバサは首を横に軽く振る。
「そうじゃない、この子が喋ったこと」
そう言ってタバサは杖の先をシルフィードへと向ける。
「ん~・・・?」
アーカードは首を傾げ疑問符を浮かべシルフィードを見つめる。
「バレると面倒」
「私と同じような類ということか」
タバサは頷く。と、事情を理解してもらえたところで突然シルフィードが口を開いた。
アーカードは首を傾げ疑問符を浮かべシルフィードを見つめる。
「バレると面倒」
「私と同じような類ということか」
タバサは頷く。と、事情を理解してもらえたところで突然シルフィードが口を開いた。
「お姉さま!この人についてきてもらえばいいのね!」
タバサは目を瞑る。それは考える為ではなく、またこの使い魔は余計な事を言い出して・・・といったうんざりとした感じであった。
タバサにとって任務とは、自己研鑽の為の絶好の機会でもある。
豊富なキャリアは自己をより高みへと登らせてくれるし、戦闘という場面に於いての引き出しも増やしてくれる。
他の者に協力を仰いで任務を達成するよりは、自分一人でクリアした方が経験値は当然多い。
タバサは目を瞑る。それは考える為ではなく、またこの使い魔は余計な事を言い出して・・・といったうんざりとした感じであった。
タバサにとって任務とは、自己研鑽の為の絶好の機会でもある。
豊富なキャリアは自己をより高みへと登らせてくれるし、戦闘という場面に於いての引き出しも増やしてくれる。
他の者に協力を仰いで任務を達成するよりは、自分一人でクリアした方が経験値は当然多い。
「え~と、アーケードさん?」
タバサの思っている事など察するはずもなく、シルフィードは話を続けた。
「アーカードだ」
シルフィードに間違って呼ばれた名前をアーカードは訂正する。
タバサの思っている事など察するはずもなく、シルフィードは話を続けた。
「アーカードだ」
シルフィードに間違って呼ばれた名前をアーカードは訂正する。
「お姉さまはね、いっつもいじわるな従姉姫に任務をさせられているのね!それでアーカードさんに協力してほしいのね!なんせ今度の相手は――」
タバサはポカッと手に持った杖でシルフィードを叩き、言葉を遮る。
「吸血鬼が相手か」
タバサはポカッと手に持った杖でシルフィードを叩き、言葉を遮る。
「吸血鬼が相手か」
シルフィードは目を見開いた、途中までしか話してないのに何故わかったのか。
アーカードはその様子を見て、予想が当たったことを確信する。
タバサは抑揚のない瞳でアーカードを見つめる、言及するような眼差しであった。
アーカードはその様子を見て、予想が当たったことを確信する。
タバサは抑揚のない瞳でアーカードを見つめる、言及するような眼差しであった。
「なに、先程吸血鬼に関連する本を見繕ってる最中も見ていただけさ」
その言葉に納得がいったのか、うんうんとシルフィードは首を振る。
「なるほどなのね!というわけで、わかってもらえたところで協力してほしいのね!」
その言葉に納得がいったのか、うんうんとシルフィードは首を振る。
「なるほどなのね!というわけで、わかってもらえたところで協力してほしいのね!」
タバサは迷った。吸血鬼は恐ろしい相手である、自分の力だけじゃ心許ないのも確かである。
「この世界の吸血鬼、とてもすごく興味がある。是非とも同行させてもらおう」
そんなタバサの迷いを押したのは、アーカードの強い好奇心と言葉であった。
「この世界の吸血鬼、とてもすごく興味がある。是非とも同行させてもらおう」
そんなタバサの迷いを押したのは、アーカードの強い好奇心と言葉であった。
「それにだタバサ、リスク管理は大事だぞ。経験を積みたいと思うのも結構なことだ、だが死んしまって元も子もない」
こちらの思惑を完全に読まれていた。薄い笑みを浮かべる目の前の少女には恐らく何を言っても無駄なことだろう。
この使い魔の主人は大層苦労してるんだろうな、などと心の中で一人ごちながらタバサは折れることにする。
こうしてタバサとゼロの吸血鬼はシルフィードに乗り、一路サビエラ村へと向かった。
こちらの思惑を完全に読まれていた。薄い笑みを浮かべる目の前の少女には恐らく何を言っても無駄なことだろう。
この使い魔の主人は大層苦労してるんだろうな、などと心の中で一人ごちながらタバサは折れることにする。
こうしてタバサとゼロの吸血鬼はシルフィードに乗り、一路サビエラ村へと向かった。
◇
「ほほぅ、人の姿になれるのか」
「えっへん、すごいでしょ!きゅいきゅい!」
シルフィードを人間に変化させる。その様子を見ていたアーカードは素直に感心する。
尤もそれはシルフィードに対して向けられたものではなく、魔法とは便利なものだなというものであったが。
「えっへん、すごいでしょ!きゅいきゅい!」
シルフィードを人間に変化させる。その様子を見ていたアーカードは素直に感心する。
尤もそれはシルフィードに対して向けられたものではなく、魔法とは便利なものだなというものであったが。
タバサは荷物の中から服を取り出すと、黙ったままシルフィードに渡そうとする。
「いやいや!布なんか体につけたくない!」
しかしタバサは服を差し出したまま、無言で圧力をかけ続けた。
「うぅ・・・その準備の良さは、おねえさま!わたしに最初から変身させるつもりだったのね!」
シルフィードはぼやきつつも、服を着始める。
「いやいや!布なんか体につけたくない!」
しかしタバサは服を差し出したまま、無言で圧力をかけ続けた。
「うぅ・・・その準備の良さは、おねえさま!わたしに最初から変身させるつもりだったのね!」
シルフィードはぼやきつつも、服を着始める。
「ふむ、私も変わるか」
一体何を言っているのか、アーカードのその言葉がタバサとシルフィードはわからなかった。
直後にアーカードの影が広がりアーカード自身を覆い始める、そのシルエットが少女のそれから別の物に変わっていく。
そして「私も」の意味とは、シルフィードと同じように変化するということだったとと知る。
現れたのは壮年の男性、口と顎に髭をたくわえた長髪で背の高い男。
その男は顔が隠れるほどの長い髪を両手で軽くかき上げ、簡単にだがバックにまとめる。
一体何を言っているのか、アーカードのその言葉がタバサとシルフィードはわからなかった。
直後にアーカードの影が広がりアーカード自身を覆い始める、そのシルエットが少女のそれから別の物に変わっていく。
そして「私も」の意味とは、シルフィードと同じように変化するということだったとと知る。
現れたのは壮年の男性、口と顎に髭をたくわえた長髪で背の高い男。
その男は顔が隠れるほどの長い髪を両手で軽くかき上げ、簡単にだがバックにまとめる。
「・・・・・・ヒゲ」
タバサはその男を見上げてボソッと呟く。
男は優しげな笑みを浮かべ、無骨かつ大きな手で丁寧にタバサの頭をくしゃくしゃと撫でた。
タバサは思わず目を瞑る。姿こそ似てはいない、だけどその雰囲気は今は亡き愛する父を思わせた。
「いったいなんなのね!」
「なに、姿形などは私にとって至極無意味なものだ」
幼女改め壮年男性となったアーカードは淡々と答える。
タバサはその男を見上げてボソッと呟く。
男は優しげな笑みを浮かべ、無骨かつ大きな手で丁寧にタバサの頭をくしゃくしゃと撫でた。
タバサは思わず目を瞑る。姿こそ似てはいない、だけどその雰囲気は今は亡き愛する父を思わせた。
「いったいなんなのね!」
「なに、姿形などは私にとって至極無意味なものだ」
幼女改め壮年男性となったアーカードは淡々と答える。
「理由になってないのね!なんでヒゲの男になったのね!」
「シルフィードが変身できるように、私も変身できるだけだ。ちなみにこの姿がオリジナルだ」
「よくわからないけど、わかったのね!」
再生能力だけでなく変身能力まで備えているとは、つくづく目の前の吸血鬼はとんでもないななどと考える。
仮にこの化物が今回の相手だったとしたら、勝てる見込みなど露ほどにもないような気がした。
「シルフィードが変身できるように、私も変身できるだけだ。ちなみにこの姿がオリジナルだ」
「よくわからないけど、わかったのね!」
再生能力だけでなく変身能力まで備えているとは、つくづく目の前の吸血鬼はとんでもないななどと考える。
仮にこの化物が今回の相手だったとしたら、勝てる見込みなど露ほどにもないような気がした。
「作戦変更」
とりあえずタバサはアーカードの姿を見て、当初考えていた策に変更を加えることにした。
とりあえずタバサはアーカードの姿を見て、当初考えていた策に変更を加えることにした。
◇
サビエラ村の村長の屋敷、タバサとアーカードはそこに宿泊することになった。しかし現在そこには他にも多数の人間がいた。
村長は勿論のこと、両親をメイジに殺され身寄りがなかったところを村長に引き取られ育てられているという少女エルザ。
さらには吸血鬼は若い女性の血を好むというので、タバサの提案により村に残っている若い娘達を集めて避難所としていた。
村長は勿論のこと、両親をメイジに殺され身寄りがなかったところを村長に引き取られ育てられているという少女エルザ。
さらには吸血鬼は若い女性の血を好むというので、タバサの提案により村に残っている若い娘達を集めて避難所としていた。
アーカードはタバサの杖を持たされ、メイジで騎士という役割を担った囮役。
本来ならばその役はシルフィードであったのだが、アーカードの見た目の方が適任ということでお役御免となった。
今はタバサの合図があるまで近くの空を飛んでるか適当なところで休んでいることだろう。
タバサは騎士の従者を演じている。無論杖はアーカードが持っているので魔法を使うことはできない。
本来ならばその役はシルフィードであったのだが、アーカードの見た目の方が適任ということでお役御免となった。
今はタバサの合図があるまで近くの空を飛んでるか適当なところで休んでいることだろう。
タバサは騎士の従者を演じている。無論杖はアーカードが持っているので魔法を使うことはできない。
貫禄のある風貌と落ち着いた気性で一挙一動するアーカードは、前回派遣され殺された騎士よりも遥かに頼もしく見えたらしい。
村人達もある程度は安心しているようだった。しかし昼間の調査では一悶着があった。
村人達もある程度は安心しているようだった。しかし昼間の調査では一悶着があった。
「本命はアレキサンドルとマゼンダか」
調査中の一悶着、アレキサンドルらにかけられた嫌疑。
越してきて間もなく、マゼンダは昼日中には外に出ず、アレキサンドルには二つの吸血痕のような傷があるという。
物的証拠こそないものの、状況証拠としては十分過ぎる。大した教養もない村人達にとっては状況証拠だけでも十分決め付けるに値するのである。
薬草師のレオンと他多数の村人達が激昂し、マゼンダが吸血鬼なのではないのかと言及していた。
その場は村長が収め事なきをえたものの、村全体がきな臭い雰囲気なのは疑う余地もない。
調査中の一悶着、アレキサンドルらにかけられた嫌疑。
越してきて間もなく、マゼンダは昼日中には外に出ず、アレキサンドルには二つの吸血痕のような傷があるという。
物的証拠こそないものの、状況証拠としては十分過ぎる。大した教養もない村人達にとっては状況証拠だけでも十分決め付けるに値するのである。
薬草師のレオンと他多数の村人達が激昂し、マゼンダが吸血鬼なのではないのかと言及していた。
その場は村長が収め事なきをえたものの、村全体がきな臭い雰囲気なのは疑う余地もない。
「まだ・・・・・・わからない」
吸血鬼は屍人鬼を巧みに使い街一つ全滅させるほどあるという、油断や慢心は禁物である。
現に村で九人もの犠牲者を出し、その中にはガリアの正騎士も含まれている。
そんな吸血鬼が村の中であからさまに怪しい人物でした、なんてことが果たしてあるのだろうか。
入念な調査をしたり、囮役だのなんだのと対策を練ったところで憂いを払拭することは出来ない。
吸血鬼は屍人鬼を巧みに使い街一つ全滅させるほどあるという、油断や慢心は禁物である。
現に村で九人もの犠牲者を出し、その中にはガリアの正騎士も含まれている。
そんな吸血鬼が村の中であからさまに怪しい人物でした、なんてことが果たしてあるのだろうか。
入念な調査をしたり、囮役だのなんだのと対策を練ったところで憂いを払拭することは出来ない。
「ふむ、とりあえず私は今から散歩してこよう。杖の持っていないメイジ、恰好の獲物だろうからな」
「・・・罠だと思って近付いてこないと思う」
アーカードは唇だけで笑う。
「仮に私がメイジでない歴戦の勇者だとしても、無手の相手に吸血鬼がそこまで警戒することもあるまい」
「・・・・・・わかった、私は残る」
「・・・罠だと思って近付いてこないと思う」
アーカードは唇だけで笑う。
「仮に私がメイジでない歴戦の勇者だとしても、無手の相手に吸血鬼がそこまで警戒することもあるまい」
「・・・・・・わかった、私は残る」
タバサは静かに思考を巡らせていた。昼間集めた情報を今一度取捨選択しまとめる。
吸血鬼が活動し始める夜に備え、予め昼間に多少睡眠を取っておいたので眠気もない。
アーカードは自らを囮とし、杖を持たず夜の村を歩き回っている。
夜の帳が下りた村は閑散とし、騎士がいるとはいえ村人達は吸血鬼の恐怖に怯えているだろう。
隣の客間にいる少女達も例外ではない。
吸血鬼が活動し始める夜に備え、予め昼間に多少睡眠を取っておいたので眠気もない。
アーカードは自らを囮とし、杖を持たず夜の村を歩き回っている。
夜の帳が下りた村は閑散とし、騎士がいるとはいえ村人達は吸血鬼の恐怖に怯えているだろう。
隣の客間にいる少女達も例外ではない。
事が起こったのは人々が寝静まる静寂の時。窓を叩き割るような音と、複数の絹を裂くような悲鳴響き渡った。
タバサの動きは早かった、奇襲も想定の範囲内。頭より早く体は行動し、すぐに隣の部屋へと駆け込む。
血走った目の一人の男がキョロキョロと辺りを見渡していた。数人の少女達はパニックを起こし、タバサを押し退けて我先にと部屋の外へ出ていく。
「アレキサンドルよ!やっぱり彼が屍人鬼だったのよ!!」
部屋の隅に退避しつつ、一人の利発そうな少女が叫ぶ。
タバサの動きは早かった、奇襲も想定の範囲内。頭より早く体は行動し、すぐに隣の部屋へと駆け込む。
血走った目の一人の男がキョロキョロと辺りを見渡していた。数人の少女達はパニックを起こし、タバサを押し退けて我先にと部屋の外へ出ていく。
「アレキサンドルよ!やっぱり彼が屍人鬼だったのよ!!」
部屋の隅に退避しつつ、一人の利発そうな少女が叫ぶ。
牙が生え、人間のそれとは明らかに別種のオーラを纏っていたがそれは昼間見たアレキサンドルであった。
アレキサンドルは駆けつけてきたタバサの方へと顔を向ける。目が合った瞬間、アレキサンドルは低く唸るような獣の咆哮をあげた。
四肢を地につけ、肉食獣が獲物に襲いかからんとするような体勢を取る。
(狙いは・・・自分!?)
少女達には目もくれず、自分を確認した瞬間に敵意を見せて攻撃態勢をとった。反撃せねば殺られるのは自分であろう、タバサはすぐに呪文を詠唱する。
エア・ハンマー、アレキサンドルが駆け出そうとする刹那のタイミングを逃さず、視認できない空気の塊がアレキサンドルを大きく吹き飛ばした。
アレキサンドルは駆けつけてきたタバサの方へと顔を向ける。目が合った瞬間、アレキサンドルは低く唸るような獣の咆哮をあげた。
四肢を地につけ、肉食獣が獲物に襲いかからんとするような体勢を取る。
(狙いは・・・自分!?)
少女達には目もくれず、自分を確認した瞬間に敵意を見せて攻撃態勢をとった。反撃せねば殺られるのは自分であろう、タバサはすぐに呪文を詠唱する。
エア・ハンマー、アレキサンドルが駆け出そうとする刹那のタイミングを逃さず、視認できない空気の塊がアレキサンドルを大きく吹き飛ばした。
タバサは割られた窓から外に投げ出されたアレキサンドルを追撃する為に駆け出す。
窓から外を見るとアレキサンドルが起き上がるのが見える。
タバサは躊躇なく飛び降りると自分にレビテーションをかけて着地する。
アレキサンドルは魔法を警戒しているのか、すぐに動き出さずタバサの様子を窺っているようだった。
窓から外を見るとアレキサンドルが起き上がるのが見える。
タバサは躊躇なく飛び降りると自分にレビテーションをかけて着地する。
アレキサンドルは魔法を警戒しているのか、すぐに動き出さずタバサの様子を窺っているようだった。
勢いよく手に持った杖を振り上げる。単純なフェイントであったが、アレキサンドルは反射的にタバサへと飛び掛かった。
タバサは振り上げた杖をそのまま振り下ろし、同時にウィンディ・アイシクルを放つ。
無数の氷の矢に刺し貫かれ、屍人鬼アレキサンドルはそのまま地面へと倒れた。 そして土をかけると錬金で油へと変え、発火の呪文でグールを燃やし尽くす。
グールが完全に灰と化し、残った炎も消えたところでタバサは気付いた。
村全体に仄かに照らされている。それは先程の炎のような生半可なものではなく、もっと大きなものが燃えている灯り。
タバサは嫌な予感がして、すぐさま光源へと走った。
タバサは振り上げた杖をそのまま振り下ろし、同時にウィンディ・アイシクルを放つ。
無数の氷の矢に刺し貫かれ、屍人鬼アレキサンドルはそのまま地面へと倒れた。 そして土をかけると錬金で油へと変え、発火の呪文でグールを燃やし尽くす。
グールが完全に灰と化し、残った炎も消えたところでタバサは気付いた。
村全体に仄かに照らされている。それは先程の炎のような生半可なものではなく、もっと大きなものが燃えている灯り。
タバサは嫌な予感がして、すぐさま光源へと走った。
◇
燃えていたのはマゼンダの家、周囲には複数の村人達、そしてアーカードがいた。
アーカードはタバサへと一瞥をくれる。しかしすぐさま視線を戻し、怪訝な顔で既に燃え尽きつつある家を眺めていた。
家の様子を見る限り、かなりの勢いで燃えたのは明白だった。恐らく中にいた者は間違いなく死んでいるだろう。
村人達はそれぞれ罵声を家に、家主だった者に向かって浴びせかけていた。
タバサはその様子を見ながら、また新たに思考を巡らせていた。
アーカードはタバサへと一瞥をくれる。しかしすぐさま視線を戻し、怪訝な顔で既に燃え尽きつつある家を眺めていた。
家の様子を見る限り、かなりの勢いで燃えたのは明白だった。恐らく中にいた者は間違いなく死んでいるだろう。
村人達はそれぞれ罵声を家に、家主だった者に向かって浴びせかけていた。
タバサはその様子を見ながら、また新たに思考を巡らせていた。
少し遅れて村長がエルザを連れてやってきた。主導となって動いたであろうレオンへと近付くと事情を問い質している。
数人の村人は家へと入っていき状況を確認しているようだった。その者達も合流すると全員でタバサとアーカードの元へとやってきた。
数人の村人は家へと入っていき状況を確認しているようだった。その者達も合流すると全員でタバサとアーカードの元へとやってきた。
「吸血鬼は燃えて灰になったよ」
レオンが敵意の滲んだ目で睨みながら言う。
「まさかそっちのお嬢ちゃんが騎士だったとはな。アンタも騎士かい?」
アーカードは黙って頷きその言葉を肯定する。レオンは皮肉の混じったような声で言う。
「そうかい、騎士様は二人いたのかい。そりゃありがたいこったねぇ」
レオンが敵意の滲んだ目で睨みながら言う。
「まさかそっちのお嬢ちゃんが騎士だったとはな。アンタも騎士かい?」
アーカードは黙って頷きその言葉を肯定する。レオンは皮肉の混じったような声で言う。
「そうかい、騎士様は二人いたのかい。そりゃありがたいこったねぇ」
「なぜこんな強行を・・・?」
声のトーンはそのままに、タバサはレオンに向かって質問する。
「アレキサンドルが犠牲者の家の煙突で、これを回収しようとしてたのを見つけたのさ」
そう言って見せたのは何か布の切れ端だった。自慢げな笑みを浮かべながらレオンは続ける。
「派手な染めだろ?こんなのを着てるのはあの婆さんだけ、加えてアレキサンドルがグールだったんだ」
タバサは何も言わない、アーカードもただ黙って事を静観していた。
声のトーンはそのままに、タバサはレオンに向かって質問する。
「アレキサンドルが犠牲者の家の煙突で、これを回収しようとしてたのを見つけたのさ」
そう言って見せたのは何か布の切れ端だった。自慢げな笑みを浮かべながらレオンは続ける。
「派手な染めだろ?こんなのを着てるのはあの婆さんだけ、加えてアレキサンドルがグールだったんだ」
タバサは何も言わない、アーカードもただ黙って事を静観していた。
「小さい騎士様、一応感謝しておこう。村の娘達をグールのアレキサンドルと戦って守ってくれたそうだしな。
でもな、昼間にアンタらが止めてなければもっとスムーズに事は済んで、娘達は余計に怖い思いをしなくて済んだんじゃねえのか?」
他の村人達がそうだそうだと同意の声を上げる。
「やめんか、結果的に犠牲は出ず事件も解決したんじゃ。これ以上揉めても仕方なかろう!」
村長はレオン達を窘めた後、二人へと向く。
「申し訳ありません騎士様、まだ気が立っているようですので私の家へと戻って今日はもうお休みください。
こちらは私がなんとかしておきますので・・・・・・」
でもな、昼間にアンタらが止めてなければもっとスムーズに事は済んで、娘達は余計に怖い思いをしなくて済んだんじゃねえのか?」
他の村人達がそうだそうだと同意の声を上げる。
「やめんか、結果的に犠牲は出ず事件も解決したんじゃ。これ以上揉めても仕方なかろう!」
村長はレオン達を窘めた後、二人へと向く。
「申し訳ありません騎士様、まだ気が立っているようですので私の家へと戻って今日はもうお休みください。
こちらは私がなんとかしておきますので・・・・・・」
この場にこれ以上長居しても仕方がない。未だ興奮している村人達は村長に任せて、タバサとアーカードは黙したまま村長宅へと戻ることにした。
◇
「ねえ、おねえちゃん。どう違うの?ムラサキヨモギを摘むのとわたしがあなたの血を吸うのと一体なにが違うの?」
「・・・どこも違わない」
「・・・どこも違わない」
村のはずれの森の中、ムラサキヨモギの群生地で二人の少女が月夜の中にいた。
一人は先住魔法により伸びた木の枝に捕まり、さらに幼い容姿のもう一人の少女はそれを悠然とそれを眺めて笑みを浮かべている。
村長宅に戻ってからある程度時間が経った後、タバサはエルザに連れられここにきた。
両親をメイジに殺されたというトラウマがあるエルザが、怖がるといけないということで杖も置いてくることにした。
アーカードは目の届く範囲にはおらず、またエルザはおねえちゃんに見せたいものがあると言い、結局タバサ一人で行くことになった。
一人は先住魔法により伸びた木の枝に捕まり、さらに幼い容姿のもう一人の少女はそれを悠然とそれを眺めて笑みを浮かべている。
村長宅に戻ってからある程度時間が経った後、タバサはエルザに連れられここにきた。
両親をメイジに殺されたというトラウマがあるエルザが、怖がるといけないということで杖も置いてくることにした。
アーカードは目の届く範囲にはおらず、またエルザはおねえちゃんに見せたいものがあると言い、結局タバサ一人で行くことになった。
まんまと罠に嵌り、吸血鬼エルザの先住魔法によって枝が絡みつき身動きが取れない。
元々杖のない少女に対抗する術はなかったのだが、さらに体まで拘束されては最早如何ともし難い状況であった。
元々杖のない少女に対抗する術はなかったのだが、さらに体まで拘束されては最早如何ともし難い状況であった。
月明かりの中、タバサは森の闇に閉ざされた虚空の気配に気付いて顔を向ける。エルザはクスクスと笑う。
「新しいグールよ、誰かの家で酒を飲んだのか酔って自分の家へと帰る途中だったみたい。
おあつらえ向きに一人だったし、周囲にも他の誰もいなかった。とっても都合が良かったわ」
そこには血走った目で獣のような唸りをする、元は薬草師であったレオンがいた。
「新しいグールよ、誰かの家で酒を飲んだのか酔って自分の家へと帰る途中だったみたい。
おあつらえ向きに一人だったし、周囲にも他の誰もいなかった。とっても都合が良かったわ」
そこには血走った目で獣のような唸りをする、元は薬草師であったレオンがいた。
タバサは氷のような冷たい眼差しでエルザを睨みつける。
「・・・・・・どうして私を襲わせたの」
グールのレオンを見て、アレキサンドルが自分を襲ってきたときの事を思い出す。
集まっていた村娘達を無視し、明らかに自分を狙っていた。
「・・・・・・どうして私を襲わせたの」
グールのレオンを見て、アレキサンドルが自分を襲ってきたときの事を思い出す。
集まっていた村娘達を無視し、明らかに自分を狙っていた。
「だって、メイジであろう騎士がこれみよがしに持ち歩いていた筈の杖を持ってないなんておかしいじゃない?誰だって罠だと思うでしょ。
最初に持っていた杖はフェイクで、実は本当の杖を携帯していてそれで戦うんだろうと思ったの。またそれだけ自負のある強者であるとも認識したわ。
だからね、とりあえず策を練ったの。まず最初にグールが薬草師のレオンの家の近くで物音を立てる。
何事かと思ったレオンは、当然外を見に行くでしょ?そして犠牲者の家の煙突にいるグールと化したアレキサンドルを見せたのよ。
本当は偽の物的証拠である、マゼンダの服の切れ端を仕込んでたわけだけど・・・逆にその証拠を回収しにきたように見せ掛けて、ね。ふふっ」
最初に持っていた杖はフェイクで、実は本当の杖を携帯していてそれで戦うんだろうと思ったの。またそれだけ自負のある強者であるとも認識したわ。
だからね、とりあえず策を練ったの。まず最初にグールが薬草師のレオンの家の近くで物音を立てる。
何事かと思ったレオンは、当然外を見に行くでしょ?そして犠牲者の家の煙突にいるグールと化したアレキサンドルを見せたのよ。
本当は偽の物的証拠である、マゼンダの服の切れ端を仕込んでたわけだけど・・・逆にその証拠を回収しにきたように見せ掛けて、ね。ふふっ」
エルザは笑う。既に見た目相応の少女の笑みではなく、狡猾で邪悪な吸血鬼のそれであった。
「姿を見られたアレキサンドルは逃走。尤も暗がりではっきりとは見えなかったでしょうけどね、でもアレキサンドルと思しき姿を確認してくれるだけで充分。
薬草師のレオンは当然その煙突を調べるわ。そして仕込まれたマゼンダの服の切れ端を見つける。
アレキサンドルらしい男と物的証拠である切れ端。それら二つの要素により疑いが確信に変わった彼はマゼンダを吸血鬼、アレキサンドルを屍人鬼と認定。
わたしの思惑通り、レオンはすぐさま村の男達を募ってマゼンダの家を火攻めにし、殺してくれたわ。
レオンの前から逃走したアレキサンドルはそのまま村長宅を襲い従者であるあなたを殺す、その後に騎士の男の方も襲って返り討ち。
騎士はグールを殺し、吸血鬼とされたマゼンダもレオンら村人達に殺されて事件は無事解決。
そして最後に、張っていた気を緩めた騎士を殺して万々歳。という予定だったんだけど・・・ここで一つの誤算が生じてしまった」
薬草師のレオンは当然その煙突を調べるわ。そして仕込まれたマゼンダの服の切れ端を見つける。
アレキサンドルらしい男と物的証拠である切れ端。それら二つの要素により疑いが確信に変わった彼はマゼンダを吸血鬼、アレキサンドルを屍人鬼と認定。
わたしの思惑通り、レオンはすぐさま村の男達を募ってマゼンダの家を火攻めにし、殺してくれたわ。
レオンの前から逃走したアレキサンドルはそのまま村長宅を襲い従者であるあなたを殺す、その後に騎士の男の方も襲って返り討ち。
騎士はグールを殺し、吸血鬼とされたマゼンダもレオンら村人達に殺されて事件は無事解決。
そして最後に、張っていた気を緩めた騎士を殺して万々歳。という予定だったんだけど・・・ここで一つの誤算が生じてしまった」
タバサは依然として捕らえられたまま、静かに目の前の吸血鬼を話を聞いている。
「それは従者の筈のあなたがメイジであったということ。結果としてグールは返り討ちにあってしまった。
さすがに騎士が二人も派遣されてくるとは予想つかなかった。でもね、それも大した問題じゃなかった。
どちらに転んでも事件が解決したという事実に変わりないの。そしてあなたは幼い外見で心に傷を持つ少女を演じる私に、まんまとついてきてしまった。
今からあなたを私の意のままに動く屍人鬼にしてあげる。あとはグールと化したあなたがもう一人の騎士を殺しておしまい。
あなたがメイジだったというのも、なんのことはないイレギュラー。むしろよりスムーズに二人とも殺すことができて良かったわ」
さすがに騎士が二人も派遣されてくるとは予想つかなかった。でもね、それも大した問題じゃなかった。
どちらに転んでも事件が解決したという事実に変わりないの。そしてあなたは幼い外見で心に傷を持つ少女を演じる私に、まんまとついてきてしまった。
今からあなたを私の意のままに動く屍人鬼にしてあげる。あとはグールと化したあなたがもう一人の騎士を殺しておしまい。
あなたがメイジだったというのも、なんのことはないイレギュラー。むしろよりスムーズに二人とも殺すことができて良かったわ」
グールにしてやる、それは己の死と同義である。しかしタバサは微動だにせず冷たい瞳で吸血鬼を見据え続けた。
「ふふっ、気丈な子ね。でもその顔が失意に変わり、絶望に染まる瞬間がとてもたまらないの」
牙を剥き出しにしたエルザは、ゆっくりとタバサの首筋へと顔を近づけていく。
「ふふっ、気丈な子ね。でもその顔が失意に変わり、絶望に染まる瞬間がとてもたまらないの」
牙を剥き出しにしたエルザは、ゆっくりとタバサの首筋へと顔を近づけていく。
次の瞬間、エルザは数メイルほどぶっ飛ばされていた。当然エルザは状況が理解できなかった。
いざ血を吸おうと牙を皮膚に突き立てた瞬間、顔面に衝撃が走ったのである。
倒れた体を起こして何事かとタバサの方を向く、そこには月に照らされた影が蠢き人型を作っていた。
いざ血を吸おうと牙を皮膚に突き立てた瞬間、顔面に衝撃が走ったのである。
倒れた体を起こして何事かとタバサの方を向く、そこには月に照らされた影が蠢き人型を作っていた。
「残念でした」
聞こえたのは少女の声。タバサとは別の、闇夜にこれ以上ないくらいまでまでに響き芯まで通る声。
「どうした吸血鬼、立てよ」
夜闇に浮かび上がるシルエット、声の通りそれは少女であった。
「一発殴られてハイお終いって訳にはいかないんだよ、小娘。それなりに考えて策を巡らせていたようだが・・・お生憎様」
聞こえたのは少女の声。タバサとは別の、闇夜にこれ以上ないくらいまでまでに響き芯まで通る声。
「どうした吸血鬼、立てよ」
夜闇に浮かび上がるシルエット、声の通りそれは少女であった。
「一発殴られてハイお終いって訳にはいかないんだよ、小娘。それなりに考えて策を巡らせていたようだが・・・お生憎様」
「な・・・なんなの!?」
咄嗟にでた言葉はそれであった。いきなり現れた少女が一体誰なのかも、何が起こったのかも把握できてない故の言葉。
「今から捕食される側が知っても詮無いことだ。だがご丁寧に長々と説明を垂れてくれたからの、一つだけ教えてやろう」
咄嗟にでた言葉はそれであった。いきなり現れた少女が一体誰なのかも、何が起こったのかも把握できてない故の言葉。
「今から捕食される側が知っても詮無いことだ。だがご丁寧に長々と説明を垂れてくれたからの、一つだけ教えてやろう」
月の光に照らされて、黒髪紅目の少女は虫けらをジワジワと痛めつけるような邪悪な笑みを浮かべている。
目の前の少女の為に月は存在する。そう言われても納得できるほどに、その姿は幻想的に映えていた。
「貴様と同種だよ、吸血鬼」
そう言うと少女は無造作に、タバサを絡め捕らえている枝を引き千切る。
さらにどこから出したのか、杖をタバサへと渡す。
目の前の少女の為に月は存在する。そう言われても納得できるほどに、その姿は幻想的に映えていた。
「貴様と同種だよ、吸血鬼」
そう言うと少女は無造作に、タバサを絡め捕らえている枝を引き千切る。
さらにどこから出したのか、杖をタバサへと渡す。
「私はこやつ、タバサはあっち」
そう言って少女アーカードは飄々と、吸血鬼エルザと屍人鬼レオンの方を次いで指さした。
タバサは頷き、杖を構え、グールの方へと体を向ける。
そう言って少女アーカードは飄々と、吸血鬼エルザと屍人鬼レオンの方を次いで指さした。
タバサは頷き、杖を構え、グールの方へと体を向ける。
エルザは認識する、今ここで殺す。同種だろうがなんだろうが殺さなければ『食われる』。
そう直感的に感じた。次いでグールにも命令を下す、目の前の敵を殲滅しろと。
そう直感的に感じた。次いでグールにも命令を下す、目の前の敵を殲滅しろと。
距離がある。目前の敵はへらへらと余裕の表情を浮かべこちら見ていた。
もう一人がグールの方へと走っていくのが見える。グールも命令通りそれに相対する形。
もう一人がグールの方へと走っていくのが見える。グールも命令通りそれに相対する形。
先程の打撃のダメージがまだ体に残っていた。近付いて白兵戦に持ち込むよりも、確実に先住魔法で攻撃した方がいい。
唱えよう口を開けた刹那、またも衝撃で体が大きく吹き飛ぶ。
先程殴られたのとはまた別種の衝撃、失いかかる意識を必死に保つ。
薄れる瞳で必死に相手の姿を探す、悠々と少女はさらに離れた距離を歩いてきていた。
フリークス
「.454カスール改造銃。ランチェスター大聖堂の銀十字、錫溶かして作った13mm爆裂鉄鋼弾だ。こいつ喰らって平気な化物なんかいないよ」
ゆっくりとしかし確実に距離を詰めてくる少女、その手には白色のなにか。気付けば腹部に大きな穴が開いていた。
飛び道具か魔法か。持っているものは杖なのか武器なのか、本当に同種なのか目の前の存在は。
頭の中で警鐘が鳴らされる、しかし思考がおっつかない。
唱えよう口を開けた刹那、またも衝撃で体が大きく吹き飛ぶ。
先程殴られたのとはまた別種の衝撃、失いかかる意識を必死に保つ。
薄れる瞳で必死に相手の姿を探す、悠々と少女はさらに離れた距離を歩いてきていた。
フリークス
「.454カスール改造銃。ランチェスター大聖堂の銀十字、錫溶かして作った13mm爆裂鉄鋼弾だ。こいつ喰らって平気な化物なんかいないよ」
ゆっくりとしかし確実に距離を詰めてくる少女、その手には白色のなにか。気付けば腹部に大きな穴が開いていた。
飛び道具か魔法か。持っているものは杖なのか武器なのか、本当に同種なのか目の前の存在は。
頭の中で警鐘が鳴らされる、しかし思考がおっつかない。
「だがこれを使うのは無粋でつまらん、弾数も限りがあるしな。それにもう・・・魔法も唱えられまい」
そう言うと、少女は白色の銃をしまう。グールが斃されたのが感じられる。視線を向けると青色髪の少女が、炎を背にして佇んでいるのが見えた。
まだ幼い少女ながらも、アレキサンドルを苦もなく倒してのけたメイジだ。奇襲ならともかくタイマンで負けることなどありえはしない。
そう言うと、少女は白色の銃をしまう。グールが斃されたのが感じられる。視線を向けると青色髪の少女が、炎を背にして佇んでいるのが見えた。
まだ幼い少女ながらも、アレキサンドルを苦もなく倒してのけたメイジだ。奇襲ならともかくタイマンで負けることなどありえはしない。
視線を戻すと、もう黒髪の少女が目の前にいた。最早抵抗する気力も残っておらず、体もまともに動かなかった。
「ふむ、もう終わりか呆気ない。所詮こんなものなのか」
アーカードは左手でエルザの顎を掴み無理やり立たせる。
「ふむ、もう終わりか呆気ない。所詮こんなものなのか」
アーカードは左手でエルザの顎を掴み無理やり立たせる。
「な・・・なんで・・・・・・あなた、よくわからないけど同属なんでしょ・・・?なんで・・人間なん・・・・かに・・・・・」
エルザは精一杯に肺を引き絞り、必死に声を出す。
「さる事情で人間に飼われているだけだ、それ以上でもそれ以下でもない。」
アーカードはエルザへと顔をぐっと近づけ瞳を覗き込む。
エルザは精一杯に肺を引き絞り、必死に声を出す。
「さる事情で人間に飼われているだけだ、それ以上でもそれ以下でもない。」
アーカードはエルザへと顔をぐっと近づけ瞳を覗き込む。
「それに・・・・・・闘争を始める者に、人間も非人間も男も女も子供も大人もあるものか。・・・おまえは来た。
殺し、打ち倒し、血を吸うために。殺されに、打ち倒されに、血を吸われるために。それが全て、全てだ」
アーカードは淡々と続ける。
「闘争の契約だ、おまえは自らのカードに自らの全てをかけた、そういう事だ。なれば殺されなければならない。
それを違える事はできない、誰にもできない唯一ツの理だ。神も悪魔も私もお前も」
目を瞑りアーカードは一呼吸置く。エルザはただ聞き入っていた。
殺し、打ち倒し、血を吸うために。殺されに、打ち倒されに、血を吸われるために。それが全て、全てだ」
アーカードは淡々と続ける。
「闘争の契約だ、おまえは自らのカードに自らの全てをかけた、そういう事だ。なれば殺されなければならない。
それを違える事はできない、誰にもできない唯一ツの理だ。神も悪魔も私もお前も」
目を瞑りアーカードは一呼吸置く。エルザはただ聞き入っていた。
チェックメイト
「少々説教臭くなってしまったな。王手詰みだ、あとはおまえの命に色々と聞いてみるとしよう」
そのままアーカードは口を大きく開き、露出させたその鋭利な牙を首筋へと立てる。
「ひ・・・・・・あ゛・・・が・・・あぁぁああ・・・・あ゛・・お゛・・・・・・ぉお゛・・あ」
体がぷるぷると、小刻みに震え痙攣する。今までは吸う側であった彼女にとって最初で最後の体験。
己が血を吸われ死ぬということを朦朧とする頭で認識する。そして理解する、自分を吸血している少女の存在を。
エルザはアーカードから顕現した影に、下半身から少しずつ飲まれていく。
そのまま最後には綺麗さっぱりこの世から消えてしまった。
こうして事件は今ここに解決した。
「少々説教臭くなってしまったな。王手詰みだ、あとはおまえの命に色々と聞いてみるとしよう」
そのままアーカードは口を大きく開き、露出させたその鋭利な牙を首筋へと立てる。
「ひ・・・・・・あ゛・・・が・・・あぁぁああ・・・・あ゛・・お゛・・・・・・ぉお゛・・あ」
体がぷるぷると、小刻みに震え痙攣する。今までは吸う側であった彼女にとって最初で最後の体験。
己が血を吸われ死ぬということを朦朧とする頭で認識する。そして理解する、自分を吸血している少女の存在を。
エルザはアーカードから顕現した影に、下半身から少しずつ飲まれていく。
そのまま最後には綺麗さっぱりこの世から消えてしまった。
こうして事件は今ここに解決した。
◇
村へと戻り、村長に事の経緯を全て説明した。
マゼンダが吸血鬼ではなかったこと、レオンがグールになり死んだこと、エルザが吸血鬼だったこと。
それらの事実を村人達に話すか否かは村長に一任する。酷く悼み悲しんだ様子であった。
マゼンダが吸血鬼ではなかったこと、レオンがグールになり死んだこと、エルザが吸血鬼だったこと。
それらの事実を村人達に話すか否かは村長に一任する。酷く悼み悲しんだ様子であった。
タバサとアーカードは夜明け前に村を出た。
一日に満たない時間で全てが終わり、タバサは疲れを残しつつも顔に出さず口笛を吹く。
一日に満たない時間で全てが終わり、タバサは疲れを残しつつも顔に出さず口笛を吹く。
タバサは改めてアーカードをジっと見つめる。
全てが作戦の内であった。侵入口が煙突であるということから大まかな目星はつけていた。
既に入念に調べていた筈の煙突から出てきたマゼンダの服の切れ端を見て、未だ吸血鬼が存在するということを確信した。
全てが作戦の内であった。侵入口が煙突であるということから大まかな目星はつけていた。
既に入念に調べていた筈の煙突から出てきたマゼンダの服の切れ端を見て、未だ吸血鬼が存在するということを確信した。
アレキサンドル襲撃の一件から吸血鬼が自分に狙いをつけていると踏んで、囮役を急遽自分へと変更。
アーカードには他の村人の家で酒を振る舞ってもらっているという口実で、一時的に姿を眩ましてもらう。
そしてタバサ自身が単独行動になるようなことがあれば、それに追従するような形でアーカードに潜んでいてもらうことにしたのである。
学院でタバサが吸血鬼の本を探している時、アーカードが隠れていた時のように。
アーカードには他の村人の家で酒を振る舞ってもらっているという口実で、一時的に姿を眩ましてもらう。
そしてタバサ自身が単独行動になるようなことがあれば、それに追従するような形でアーカードに潜んでいてもらうことにしたのである。
学院でタバサが吸血鬼の本を探している時、アーカードが隠れていた時のように。
「どうした?」
アーカードはタバサの視線に気付き声を掛ける。
「なぜその姿なの」
タバサはなんとなく、お髭の旦那の方が気に入ったので何の気なしに聞いてみる。
姿形が自在らしいのに、元の姿でなく何故少女の姿を取っているのか少しだけ気になったのだ。
アーカードはタバサの視線に気付き声を掛ける。
「なぜその姿なの」
タバサはなんとなく、お髭の旦那の方が気に入ったので何の気なしに聞いてみる。
姿形が自在らしいのに、元の姿でなく何故少女の姿を取っているのか少しだけ気になったのだ。
「なぁに、所詮は・・・・・・膨大な私の過去を、膨大な私の未来が粉砕するまでの・・・我が長き生の中の一時の児戯に過ぎん。
精神は肉体に影響を受けるものだ、故に若いおまえ達を相手にする時はこちらの方が色々と都合が良いのさ」
「そう」
黎明時の空を仰ぐと、遠目であるが雲間にシルフィードの姿が見えた。
精神は肉体に影響を受けるものだ、故に若いおまえ達を相手にする時はこちらの方が色々と都合が良いのさ」
「そう」
黎明時の空を仰ぐと、遠目であるが雲間にシルフィードの姿が見えた。
「任務はどうだった?きゅいきゅい」
タバサとアーカードからのレスポンスはない。
「二人とも、きっと疲れてるのね。しょうがないのね」
雲の上の風韻竜の背の上で、二人はナチュラルにシルフィードの言葉を無視する。それもいつもの光景である。
タバサはポケットの中にあったムラサキヨモギの葉を口に入れる。
アーカードは夜明けの日の光を静かに眺め、ゆっくりと目を閉じた。
タバサとアーカードからのレスポンスはない。
「二人とも、きっと疲れてるのね。しょうがないのね」
雲の上の風韻竜の背の上で、二人はナチュラルにシルフィードの言葉を無視する。それもいつもの光景である。
タバサはポケットの中にあったムラサキヨモギの葉を口に入れる。
アーカードは夜明けの日の光を静かに眺め、ゆっくりと目を閉じた。