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#navi(ゼロの少女と紅い獅子)
「何なんだい、一体」
倒れこんだゴーレムの肩から辛くも『レビテーション』で逃れたフーケは突然現れた赤い巨人を見上げた。
初めは別のゴーレムでも現れたのかと思った。しかし眼前のそれはゴーレムのような不恰好さは微塵もない。戦士をそのまま
巨大にしたような、その威容にあっけに取られた。
こんな物を相手に勝算などあろうはずもない。彼女はゴーレムをけしかけて早々に退散しようとした。
『ダアァー!』
掛声とともに巨人――レオが先に仕掛けた。倒れこんだままのゴーレムを持ち上げそのまま森の放り投げた。派手な音を立ててゴーレムが
叩きつけられる、あまりに規格外の戦闘にフーケは咄嗟に対応が出来ない。ゴーレムがノロノロと立ち上がるのを見るや、すかさずレオが
肉薄した。
「チッ、応戦しな!」
フーケの命令にゴーレムは愚直に従う。突撃するレオに鉄拳を叩き込む。だがそれをレオはあっさりと回避すると、左脇に抱え込んで
相手を捕らえた。間髪をいれず手刀を肩に喰らわせる。赤熱化した右手は唸りを上げただの一撃でゴーレムの肩を粉砕した。
残る左腕で反撃を試みる相手に対し叩き落した右腕を叩きつけてて弾き飛ばす、喰らったゴーレムは再び仰向けに倒れこむ。
「まだだよ!」
フーケが叫んで杖を振るった。すでにゴーレムの精製で大量の魔力を消費している彼女にとってこれが最後の魔法であった。
ゴーレムは一瞬土くれに戻ったかと思うと、巨大な手のような形に変化しレオを握り潰さんと覆いかぶさった。
だが。
『ヌウウゥン!』
気合一発、纏わりついた土をレオは両腕を振るって弾き飛ばす。今度こそただの土くれに戻ったゴーレムであったものは、
ボトボトと辺りに降り注いだ。
「そんな……」
呆然と呟いてフーケはひざを落とした。スクウェアクラスのメイジにも引けを取らないとの自負があった自分のゴーレムが
こうも簡単に敗れるとは思いもよらなかった。
それ程までに相手――すなわちレオは規格外であった。
そう、規格外なのである。
圧倒的戦闘を見せたレオは、正体不明の障害に襲われていた。
彼ら光の国の戦士は意外にも環境によって発揮できる力が制限される事がある。実際、地球においては悪化した大気の影響で
彼の場合は二分半程しかその実体を維持する事が出来なかった。
ここハルケギニアでは別のものが彼の邪魔をしていた。そう、まさしく意思を以ってウルトラマンレオの行動を阻害しているのだ。
或いは意思と言うよりは本能と言うべきか。
大気を、大地を、水中をその身とし、その安住の地とする精霊たちは彼を敵視し、レオが顕現すると同時に一斉に排除すべく干渉を始めた。
『危険だ』
『個を持ちながら限りなく不死なるもの』
『失せろ』
『傲慢なる光の使いよ』
『我らを喰らってその力を行使するか』
大気は重く淀み纏わりつき、大地は踏みしめるたびに着地を拒絶するようにのめり、離れようとすれば
吸い付いて足元をすくう。大気とともにある水蒸気は呼吸をするたびに器官に止まり内部を侵食する。
有象無象の影響がレオに襲い掛かったのだった。
無論それが精霊の仕業である事をレオは知らない。だが地球のときとは違う明らかに敵意をもった干渉は彼の体力を確実に奪っていた。
彼らのエネルギーは光のみではない。大自然の生きるものの力の一つ一つが彼らの力となる。
そしてそれは、ここハルケギニアでは自ら意思を持ち、そして牙をむいた。それは地球での消耗とは桁違いであった。
ズン、と鈍い音を立ててレオが膝を突いたかと思うと突然全身が発光した。光がそのまま縮小していくのを見てルイズは彼の元に駆けだした。
果たして、そこには元の通りのゲンの姿があった。その後姿からも消耗しているのが見て取れた。そしてその先、数歩も行かないところに
フーケが放心したままへたり込んでいた。
「ゲン! あ、あのえっと、大丈夫?」
彼女は恐る恐る声をかけた。先程までの戦闘を見て物怖じするなと言う方が無理がある。
「ああ、大丈夫だ……」
それが強がりなのは明らかであったが、それでもゲンは気丈に立ち上がった。もう先程までの不可解な現象は消えていた。
「さっきのが、貴方の本当の姿?」
「今も本当の姿さ。まあ、説明は後でするよ」
そう言ってフーケのほうに顔を向ける。
「とりあえず、盗んだものを返してもらおうか」
そう言って一歩踏み出すと同時にフーケが後ずさる。魔力を使い切った彼女は今はそれなりに機敏なただの女性に過ぎない。
その拍子に黒い物体が彼女の懐から滑り落ちた。ゲンより先にルイズが駆け寄って拾い上げた。
それは拳二つ分くらいの真っ黒な物体であった。一瞬見た感じはどう見ても石にしか見えない、だがこれほど不自然に黒々とした
石をルイズは見た事がなかった。第一、悪名高いフーケが狙うものとしては余りに奇妙なものだった。
「ちょっと、何なのよコレ? 盗もうとしたくらいだから知ってるんでしょう」
ルイズが詰問口調でフーケに尋ねるが、彼女は口を開こうとはしなかった。流石に小娘に脅されたくらいでホイホイ口を割るほど
肝は小さくはない。
「聞いてんの!? 何なの……キャッ!」
唐突にルイズが小さな悲鳴を上げて黒の物体を取りこぼした。落下した物体から虫のようなものが這い出て来た。
「クックッそれくらいでビビルなんてねえ、お上品な事だ」
フーケが喉で笑うのをジロリと睨むが彼女は意に介さなかった。
「虫が付いていたのか?」
落ちた物体に何気なくゲンは近寄ると、這い出てきた虫とやらに目を向けた。途端に彼の目が険しくなった。
「これは……そんなバカな!」
慌てて黒い物体を拾い上げるゲン、その様子にルイズは勿論フーケもあっけに取られた。実際のところフーケもその正体を知らないのだから
これは仕方がないことであった。
物体を持つゲンは顔を伏せているためルイズにはその表情をうかがうことは出来なかった。だが遠目にも彼の肩が、物体を持った
右手が小刻みに震えているのが見て取れた。
突然、ゲンは無言で這い出てきた虫モドキを踏み潰した。しかも何度も、念入りに、徹底的に。どう見ても異常な光景だった。
その行動が透かすのは驚きと、怒り。
「ねぇ、ゲン……」
ルイズが沈黙に耐えかねて声をかけようとしたその時、ガサリと音を立ててフーケのさらに後ろから男が現れた。
仮面の男であった。何をするでもなく、こちらを値踏みするようにしながら男は無言のまま佇んでいる。無論、友好とは
程遠い雰囲気を発散しながら。
ゲンは勿論ルイズも闖入者に警戒を向けていた。このタイミングでの登場は明らかに偶然ではない。
ゲンが黒い物体を持ったままルイズを守れるように一歩踏み出した瞬間、男はマントを跳ね上げサーベル風の杖を抜き放った。
いち早くゲンが反応する。幾多の戦闘の経験が射撃攻撃を予感させた。が、疲弊した体は思うように動かない。一瞬の逡巡の後彼は
咄嗟にルイズを抱きとめた。
遅れて空気の塊が二人を直撃、軽々と吹き飛ばされた二人は木に激突した。ぶつかった弾みで黒い物体がゲンの手から零れ落ちる。
酷い激突とは裏腹に幸い二人は軽症ですんだ。だが現状はそれを喜ぶのは早計であった。
「なっ、今度はなんだい?」
新たな人物の登場にフーケは混乱の極みにあった。もっとも仮面の男はフーケに危害を加えるつもりはないらしい。
フーケの傍まで来ると一瞬彼女に視線をやった。そして森の奥の方を顎でしゃくる。その仕草でフーケは察したらしい。
「ああ、そう言うことかい。確かに私が捕まったら、アンタも面倒だろうからね」
気を取り直しフーケは立ち上がると一目散にその場を後にした。
仮面の男は無言のまま黒い物体に歩み寄った。そしてそれを拾い上げると確認するように慎重に観察を始めた。
「貴様、それが何か分かっているのか」
隠せぬ疲労の色を滲ませながら、それでもゲンは立ち上がりながら尋ねる。その間もルイズを背後に位置させる事を忘れない。
「勿論だL77星の死に損ない。ああ、今は光の国の連中とつるんでるのだったな。クッカカカ」
唐突に男の表情が変わった。仮面越しにもこちらを嘲笑するのが見て取れるようだ。その変貌にゲンの眉間は一層深くなった。
「マグマ星人……!」
「カカカカ、気付かなかったかやはり。他の知的生命と同化出来るのがお前達の専売だと思わぬ事だ。お陰で俺の気配を薄める事が出来た」
「この世界の人間を乗っ取ったのか!?」
「そこまで貴様に教えてやる必要はない」
自らの有利を完全に確信した上での嘲りである。左手で黒い物体をもてあそびながらも、右手のステッキはゲンからその切っ先を
外す事はない。
「まあ、このブラックスターの欠片を見つけたのは偶然だが」
「やはり、それは!」
叫びとともにゲンが弾けるようにマグマに飛び掛る、だが万全ではない彼の動きはいかにも緩慢であった。あっさりとかわされると、
したたかに杖を叩き込まれる。思わず半身が折れ曲がったところに間髪をいれず全力の蹴りが跳ね上げられ、ゲンは無様に吹っ飛ばされた。
「この世界に迷い込んだのは偶然だが、中々面白い事になっているようだ。貴様が知っている以上にな。もっとも、」
仰向けに倒れたゲンにゆっくりとマグマが迫る。
「貴様がここまで弱っているのが最大の発見だがなあ!! ヒヒヒハハハハハ!!!」
大げさに上体を逸らして大笑いしてみせるマグマ、だがそれはピタリと止まった。そして醒めた視線をレオに送る。
「と言うわけで死ね」
立ち上がろうとしたゲンを再び蹴り倒して踏みつける。そして杖を高々と掲げた。
と、同時に杖が爆発した。と言っても粉々に砕け散っただけだったが、マグマの注意を引くのは十分だった。
「うぉおお!!」
ゲンが力を振り絞って自分を踏みつけるマグマを跳ね除ける、バランスを崩した相手の胴に蹴りを叩き込むのも忘れない。
「あぁん?」
大したダメージにはならなかったらしい。マグマは憎々しげな視線を向ける。その先にいるのは、
「また失敗、か。まあ今回に限れば成功かしらね」
片腕でデルフリンガーを抱いたままのルイズがいた。咄嗟に彼女が放った錬金の魔法は、詠唱が不十分だったか、杖自体に
固定化が施されていたか、彼女が予想したほどの威力にはならなかったが、ともかくゲンの救出には成功した。
「ガキが……」
マグマの顔が憤怒に染まる。だがその顔は再び一瞬で変貌し、再び顔色が伺えぬようになってしまった。
まるで人が入れ替わったような雰囲気の変貌にルイズが不気味げに呟く。
「何なのあれ? まぐませーじんって皆ああなの」
「おそらく同体化した人物と精神まで一体化してないんだろう。だから表にも別の人格が出てくる」
「どうたい? どっかのメイジと混ざってるの?」
ゲンはそれには応えず、油断なく相手を見据える。
仮面の男が懐から予備であろう、小型の杖を引き抜く。それを引金にゲンは、ルイズに鞘を持たせたままデルフリンガーを引き抜くと、
「下がってろ!」
そう叫ぶと一直線に切りかかった。だが無論動きは鈍い。振り回す剣はことごとくかわされ、その間に男は呪文を構築していく。
「相棒! 今のおめえじゃあ無理だ、逃げろ!」
「そうも行かん!」
逃げ切れるわけがない。そう判断しての行動だった。だがこの相手に対しては無謀だった。
魔法が完成したか、男が杖を振るう。発動させまいとゲンが大剣を振りかぶるが、男はそれを片手で制すると呪文を唱えた。
「消えよ」
振るわれた杖から、渦となって回転し刃となった空気発生しが至近距離からゲンを襲う。咄嗟に体を捻って急所への直撃は免れたが、
放たれた『エア・ニードル』はゲンの体のあちこちを貫通した。
「ぐ…あぁ……」
堪らずひざまずくゲン。男は無力化したゲンには目を繰れずルイズに標的を定める。
「逃げ…ろ!」
ゲンの叫びが響くが、ルイズは足がすくんで動けなかった。それでも気丈に杖を振るってどうにかしようとした。
「……無駄だ」
呟きとともに『エア・ニードル』が放たれて彼女の杖を弾き飛ばす。これでルイズはただの少女だ。
「イ、イヤ……来ないで……!」
へたり込むルイズに男が迫る。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
最後の気力を振り絞り、ゲンが男を後ろから取り押さえようと飛びつく。男が煩そうに肘をゲンのわき腹に叩き込む。だがそれで離れる
ゲンではない。激痛と消えそうな意識に耐えながら男を羽交い絞めにする。
「ルイズ、逃げろ! 逃げるんだ!!」
ゲンに叱咤されルイズが立ち上がる、だがそれと同時に男がゲンを振りほどいた。
再び杖がルイズに向けられる、だが次の瞬間。
「ゲン! 離れて!」
まったく予期せぬ方向から女性の声がとんだ。ゲンは男と体を入れ替えるとルイズをかばうように彼女に飛びつく。
数瞬遅れて声のした方から巨大な火球が男に迫った。だが、男もさるもの。一瞬で呪文を構築し人間大の竜巻を発生させ火球を相殺した。
「ジャジャーン! と。ヒロイン登場のタイミングにしてはぴったりかしらね」
声の主はキュルケだった。その後ろからは無理やりつき合わされたかタバサも続く。
「あ、あんた達……何で?」
ゲンに覆い被さられたままルイズが尋ねる。
「ゴーレムが暴れたと思ったら、今度が赤い巨人が突然現れるんだもの、ビックリよ。で、落ち着いたみたいだったから
どうなったかと思って来てみたら」
そう言いながら仮面の男の方に視線を向ける。口調とは裏腹にその顔に笑みはない。
「中々、愉快な事になってるわね」
台詞は終わっていたかどうか。容赦無用と言わんばかりに再び火球を繰り出すキュルケ。男は再び竜巻で掻き消すと
更に呪文を唱えようとしたがそこに今度は氷の塊が襲い掛かる、タバサの呪文だ。今度は烈風を巻き起こし氷を逸らす仮面の男。
「強敵」
「へえ、やってくれんじゃないの!」
立て続けに魔法を無力化され二人にも流石に緊張がみなぎる。だが、男は意外にも一行から間合いを取った。
この状況を不利と判断したか、それとも無駄に時間を割きたくなかったか、男は突風を発生させるとその勢いと闇夜にまぎれて
消え去った。
「フン、逃げたか。締まらないわね」
「見逃されたのかも」
それぞれ感想を述べるとキュルケはルイズ達に向き直る。
「で、何時までそうしてるの」
依然ルイズはゲンの下敷きになったままだった。逃れようとルイズがもがいている。
「そうじゃないでしょ! ゲン、ねえ、大丈夫?」
だが、返事はない。ぬるりとした感触を手に感じたルイズは思わず彼の胴の下にあった手を引き抜いた。
彼女の手は真っ赤に染まっていた。正体は言うまでもない。
「あ……。ねえ! ゲンしっかりしてよ! ねえってば!!」
突然、ゲンの体がふわりと浮かんだ。タバサが『レビテーション』を唱えてくれたようだ。
「医務室へ」
意外な人物の対応に一瞬言葉が紡げずにいたルイズだったが、その言葉に無言で何度も頷いた。
「アンタは大丈夫なの?」
キュルケの尋ねにルイズはわが身を調べてみたが特に外傷はなかった。
「大丈夫、みたい。ゲンが守ってくれたわ」
そう、と呟いてキュルケはタバサの後に続いた。
普通なら何が毒の一つも混ぜるキュルケが素直に身を案じてくれる事を、ルイズは嬉しく思った。
無論、言葉には出さないが。
「おーい、娘っこ。悪いが回収しちゃくれねえか」
放り出されていたデルフリンガーを鞘に収めて彼女も校舎に戻った。
驚異的なことに、ゲンは翌日の昼過ぎには意識を取り戻した。校医の診察によれば、肋骨数本の骨折と『エア・ニードル』による
全身の外傷からの出血と内蔵の損傷、そして原因不明の衰弱。
ありていに言って死んでいなければならない程の重症であった。無論校医がゲンの容態を見るや、校内中から水系メイジを召集して
治療を手伝わせた結果であるのだが。
「ルイズ、無事だったか」
開口一番この台詞だったので、ルイズは目を丸くした後ため息をついた。
「自分の体のことを心配したほうが良いんじゃない?」
「ハハ、それもそうだな」
それっきり黙ってしまう二人。たった一夜で色々とありすぎだった。
常識はずれのゴーレム、それを上回る巨人、謎の物体とそれに対するゲンの行動、そして仮面の男。
どれから話すか、どれから聞こうか、あるいは聞かずに置くべきか。そんな考えが二人の頭をグルグル回って占領し、
なんともいえない沈黙を作っていた。
「すまない」
ゲンが口を開いた。ルイズが彼の方に向く。
「いずれこの事はちゃんと説明する。今は、俺にも分からない事が多すぎる」
ルイズは一瞬俯いたが直ぐに顔を上げて、
「当然でしょ。主に隠し事なんてするのは使い魔失格よ」
そう言い放つと、部屋を出て行った。部屋を出る直前。
「主を守るという点では最高なんだから、私を失望させちゃダメなんだからね」
その言葉を残して扉は閉まった。
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