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「笑顔が好きだから-01」(2008/07/01 (火) 22:54:50) の最新版変更点
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#navi(笑顔が好きだから)
わたし、こと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの朝は早い。
宵っ張りの朝寝坊が常のトリステイン……というかハルケギニアの貴族としてはありえないことだし、病的なほどの低血圧であるわたし自身としても信じられないことだけれど、わたしの一日は日の出と共に始まる。
何故なら、つい1週間ほど前に行われたトリステイン魔法学院の春の恒例儀式、新2年生による使い魔召喚の儀式でわたしが呼び出して使い魔になってもらった3人の子供……チャチャ、しいねちゃん、リーヤに、日の出と共に起こされるからだ。
「ルイズ様、朝ですよ」
ほとんど無理矢理拉致した上に使い魔なんかにしてしまったのに、わたしのことを「ルイズ様」って呼んでくれるのは、黒い髪に黒い瞳。とっても賢い魔法使いの弟子、しいねちゃん。
「ルイズちゃん!今日もとってもいいお天気よ!」
天真爛漫っていう言葉を人間の形にするとこうなるんじゃないかっていうくらい、いつも明るく元気な、自称可愛くて優秀な魔女。真っ赤な防空頭巾がトレードマーク、金髪碧眼の見習い魔法使い、チャチャ。
「ルイズー!朝だぞ!起きろー!」
わたしのおなかの上でぴょんぴょん飛び跳ねている灰色の仔犬がリーヤ。喋ってるくらいだから、リーヤはもちろんただの仔犬じゃない。
「あー、もう!分かってるわよ!起きればいいんでしょ!起きれば!」
わたしがガバッと身体を起した拍子に、リーヤは床に転げ落ちた。
「あたた」
しゅぽん!と気の抜けるような音がして、床にころがりおちたリーヤが、仔犬の姿から人間の姿に変身する。
そう、普段のラメ入りのボールにじゃれ付いてる姿からは想像も付かないのだけれど、リーヤは狼男。ハルケギニアでいえば最強の亜人、人狼の子供なのだ。
「ルイズ様、おはようございます」
「ルイズちゃん、おはよう!」
「おはようなのだ!」
ニコニコ笑いながら朝の挨拶をしてくれる3人の顔を見ていると、何故だろう、わたしもつい釣られて笑ってしまう。
「おはよう。チャチャ、リーヤ、しいねちゃん」
朝の挨拶が済むと、次は顔を洗って着替えだ。
わたしはのろのろとベッドから抜け出し、欠伸をしながら洗面所へ行く。
洗面台の鏡に映ったわたしの顔は、寝起きとはいえちょっとアレだ。さっさと顔を洗ってさっぱりしよう。
だけど、洗面台の中の洗面器に水は入っていない。普通なら前の晩のうちに学園のメイドが準備しておいてくれるんだけど、メイドがさぼったんだろうか?
いや、違う。これは、しいねちゃんが教えてくれた、どろしー式魔法訓練法の一つなのだ。
顔を洗いたいわたしの目の前にあるのは空っぽの洗面器。顔を洗うためには洗面器にいっぱいの水が必要だ。
さぁ、どうしよう?………そういうときに使う魔法、井戸から水を汲んでくるように洗面器に水を満たす魔法の練習なんだそうだ。
ちなみに、どろしーっていうのは、しいねちゃんの魔法のお師匠様。
しいねちゃんやチャチャ、リーヤがハルケギニアに来る前に住んでいたチキューっていうところでは、世界一の魔法使いだったこともあるすっごく立派な魔女で、うりずり山っていう人里から離れた山奥にある大きなお城にしいねちゃんと二人で住んでいたんだって。
二人が住んでいたお城はとても大きくて、寝室から水場まではものすごく離れているから、自分で水を汲みに行くのは大変だ。だったら魔法で水を汲んでこよう!この魔法の訓練は、そういう横着をするための魔法なんだそうだけど、しいねちゃん曰く、
「そういう横着をするための努力を馬鹿にしてはいけませんよ。横着をしたい
っていう欲求こそが、魔法を覚える最大の原動力になるんですから」
だって。
まぁ、確かにね。洗面器に水を汲んでくるなんてメイドの仕事だけど、魔法で水が汲めるなら、わざわざメイドを呼びつけて命令する手間も省けるんだし。
「じゃぁ、やるわね」
わたしが愛用の杖で洗面器の縁をコツコツと叩くと、チャチャ達はどきどきわくわくきらきらした目で頷いた。
さてと。わたしは想像する。目の前の洗面器が井戸から汲んできたばかりの、冷たく澄んだ水で満たされてい
るところを。もう春も本番だから、真冬みたいに指が切れそうなほど冷たい水じゃない。真夏の昼間、外に出しっぱなしにしておいたような温い水でもない。程よく冷たくて、一発で目が覚める、そういう冷たい水が、洗面器いっぱいに入っているところを、出来るだけハッキリと思い描く。
うん、OK。出来た。わたしの目の前には、冷たい水が入った洗面器がある。完璧ね。
完成したイメージを精神力に乗せる。チキュー風の呪文を唱える。
「出でよ!洗面器いっぱいの冷たい水!」
そして杖を振る。
杖の先から開放された精神力が、空気の中の水の元素に働きかけてるのが分る!
空気の中の、小さな小さな、小さすぎて目に見えないくらい小さい水の元素が集まって、小さな小さな水滴に
なる!その水滴が集まって雨粒ほどの大きさになって、そして!
しゅぽん!と小さな爆発が起きる!
魔法を使うとき、わたしが一番緊張する瞬間だ。
何故なら、しいねちゃんやチャチャ、リーヤの3人に出会うまで、わたしの使う魔法は全部失敗して爆発してたから。
でも、今は違う。爆発の後に、ちゃんと結果が出ることだってあるんだから。
爆煙が消える。そこにあったのは、綺麗な水がいっぱいに入った洗面器!
やたっ!成功だ!これで顔が洗える!………ん?ま、いっか。
「やったぁっ!」
「チャチャよりもう上手だぞ!」
「すごいですねぇ!」
チャチャ達がわたしを褒めてくれるのも気持ちいいしね。
「でも、本当にすごいですね」
顔を洗っているわたしの後、タオルを持って立っているしいねちゃんがしみじみとつぶやいた。
「もう、ほとんど完璧じゃないですか。普通、この手の魔法って、一応使えるようになるのに半年、こんなにちゃんと使えるようになるのには1年くらいかかるんですよ」
「そうなの?」
顔を洗い終わってタオルを受け取る。
「ええ、チャチャさんの先生のセラビーさんみたいな、本物の天才だったら教わったその日のうちに使えるんでしょうけど、ぼくのお師匠様でも三日かかったっていってましたからね。ルイズ様は、地球だったら文句無しの天才ですよ」
ん~、微妙だ。
天才ねぇ。
自慢じゃないけど、天才なんていうのはもちろん、わたしは魔法のことで誰かに褒めてもらったことなんで今まで一度も無かったのだ。
天才。そう言われるのは嬉しい。嬉しいけれど。
「でも、ここ、チキューじゃないのよね」
そう、ここはチキューじゃないのだ。
洗面器に水を汲んでくる魔法、そんな魔法はここハルケギニアには無い。コモン・スペルにも、水魔法にもそんな魔法は無い。噂に聞くエルフ達が使うという先住魔法にもそんな魔法は無いはずだ。
そんな魔法が存在しない以上、わたしが洗面器に水を汲んできても、わたしが魔法を使えたことにはならないのだ。
ここ、ハルケギニアでは。
「そうなんですけど」
変なところですね、ハルケギニアって。
チャチャ達を召喚してしまった日の夜、しいねちゃんはそう言った。
「火を燃やそうとして爆発させちゃったら、火を燃やすっていう目的から考えたら確かに失敗ですけど。爆発っていう結果そのものは残ってるんだから、ルイズさんに魔法の才能が無いっていうことにはならないと思うんですよ」
しいねちゃんは、そう言ってくれた。
「そうよね。本当の失敗って、何も起こらないことだもんね」
魔法の失敗という点では間違い無くわたし以上の失敗をする、チャチャもそう言ってくれた。
でも、いいんだ。
わたしが住んでるのはチキューじゃない。ハルケギニアなんだし。
今はまだ、コモン・スペルも系統魔法も使えないけれど。いつか絶対、コモン・スペルも系統魔法も使いこなして見せるんだから。
「ルイズちゃん、着替えよ」
チャチャが着替えの服を持ってきてくれると、しいねちゃんは入れ替わりで洗面所から出て行く。
「ん、ありがとう」
わたしがそう言うと、チャチャはえへへと笑った。
「あのね、ルイズちゃん。わたしたちの国の魔法には着替えの魔法もあるんだよ」
「着替えの魔法って、わざわざ魔法で着替えるの?」
「うん、そうよ。寝坊して遅刻しそうな時とか便利なの。ルイズちゃんも練習してみる?」
「そうねぇ」
あはは。
ああ、チャチャ達の魔法ってなんて滅茶苦茶で楽しそうなんだろう。
「一人で箒で飛べるようになったら、練習してみようかな。」
わたしの一日は、だいたい、こんな感じで始まる。
#navi(笑顔が好きだから)
#navi(笑顔が好きだから)
わたし、こと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの朝は早い。
宵っ張りの朝寝坊が常のトリステイン……というかハルケギニアの貴族としてはありえないことだし、病的なほどの低血圧であるわたし自身としても信じられないことだけれど、わたしの一日は日の出と共に始まる。
何故なら、つい1週間ほど前に行われたトリステイン魔法学院の春の恒例儀式、新2年生による使い魔召喚の儀式でわたしが呼び出して使い魔になってもらった3人の子供……チャチャ、しいねちゃん、リーヤに、日の出と共に起こされるからだ。
「ルイズ様、朝ですよ」
ほとんど無理矢理拉致した上に使い魔なんかにしてしまったのに、わたしのことを「ルイズ様」って呼んでくれるのは、黒い髪に黒い瞳。とっても賢い魔法使いの弟子、しいねちゃん。
「ルイズちゃん!今日もとってもいいお天気よ!」
天真爛漫っていう言葉を人間の形にするとこうなるんじゃないかっていうくらい、いつも明るく元気な、自称可愛くて優秀な魔女。真っ赤な防空頭巾がトレードマーク、金髪碧眼の見習い魔法使い、チャチャ。
「ルイズー!朝だぞ!起きろー!」
わたしのおなかの上でぴょんぴょん飛び跳ねている灰色の仔犬がリーヤ。喋ってるくらいだから、リーヤはもちろんただの仔犬じゃない。
「あー、もう!分かってるわよ!起きればいいんでしょ!起きれば!」
わたしがガバッと身体を起した拍子に、リーヤは床に転げ落ちた。
「あたた」
しゅぽん!と気の抜けるような音がして、床にころがりおちたリーヤが、仔犬の姿から人間の姿に変身する。
そう、普段のラメ入りのボールにじゃれ付いてる姿からは想像も付かないのだけれど、リーヤは狼男。ハルケギニアでいえば最強の亜人、人狼の子供なのだ。
「ルイズ様、おはようございます」
「ルイズちゃん、おはよう!」
「おはようなのだ!」
ニコニコ笑いながら朝の挨拶をしてくれる3人の顔を見ていると、何故だろう、わたしもつい釣られて笑ってしまう。
「おはよう。チャチャ、リーヤ、しいねちゃん」
朝の挨拶が済むと、次は顔を洗って着替えだ。
わたしはのろのろとベッドから抜け出し、欠伸をしながら洗面所へ行く。
洗面台の鏡に映ったわたしの顔は、寝起きとはいえちょっとアレだ。さっさと顔を洗ってさっぱりしよう。
だけど、洗面台の中の洗面器に水は入っていない。普通なら前の晩のうちに学園のメイドが準備しておいてくれるんだけど、メイドがさぼったんだろうか?
いや、違う。これは、しいねちゃんが教えてくれた、どろしー式魔法訓練法の一つなのだ。
顔を洗いたいわたしの目の前にあるのは空っぽの洗面器。顔を洗うためには洗面器にいっぱいの水が必要だ。
さぁ、どうしよう?………そういうときに使う魔法、井戸から水を汲んでくるように洗面器に水を満たす魔法の練習なんだそうだ。
ちなみに、どろしーっていうのは、しいねちゃんの魔法のお師匠様。
しいねちゃんやチャチャ、リーヤがハルケギニアに来る前に住んでいたチキューっていうところでは、世界一の魔法使いだったこともあるすっごく立派な魔女で、うりずり山っていう人里から離れた山奥にある大きなお城にしいねちゃんと二人で住んでいたんだって。
二人が住んでいたお城はとても大きくて、寝室から水場まではものすごく離れているから、自分で水を汲みに行くのは大変だ。だったら魔法で水を汲んでこよう!この魔法の訓練は、そういう横着をするための魔法なんだそうだけど、しいねちゃん曰く、
「そういう横着をするための努力を馬鹿にしてはいけませんよ。横着をしたいっていう欲求こそが、魔法を覚える最大の原動力になるんですから」
だって。
まぁ、確かにね。洗面器に水を汲んでくるなんてメイドの仕事だけど、魔法で水が汲めるなら、わざわざメイドを呼びつけて命令する手間も省けるんだし。
「じゃぁ、やるわね」
わたしが愛用の杖で洗面器の縁をコツコツと叩くと、チャチャ達はどきどきわくわくきらきらした目で頷いた。
さてと。わたしは想像する。目の前の洗面器が井戸から汲んできたばかりの、冷たく澄んだ水で満たされてい
るところを。もう春も本番だから、真冬みたいに指が切れそうなほど冷たい水じゃない。真夏の昼間、外に出しっぱなしにしておいたような温い水でもない。程よく冷たくて、一発で目が覚める、そういう冷たい水が、洗面器いっぱいに入っているところを、出来るだけハッキリと思い描く。
うん、OK。出来た。わたしの目の前には、冷たい水が入った洗面器がある。完璧ね。
完成したイメージを精神力に乗せる。チキュー風の呪文を唱える。
「出でよ!洗面器いっぱいの冷たい水!」
そして杖を振る。
杖の先から開放された精神力が、空気の中の水の元素に働きかけてるのが分る!
空気の中の、小さな小さな、小さすぎて目に見えないくらい小さい水の元素が集まって、小さな小さな水滴に
なる!その水滴が集まって雨粒ほどの大きさになって、そして!
しゅぽん!と小さな爆発が起きる!
魔法を使うとき、わたしが一番緊張する瞬間だ。
何故なら、しいねちゃんやチャチャ、リーヤの3人に出会うまで、わたしの使う魔法は全部失敗して爆発してたから。
でも、今は違う。爆発の後に、ちゃんと結果が出ることだってあるんだから。
爆煙が消える。そこにあったのは、綺麗な水がいっぱいに入った洗面器!
やたっ!成功だ!これで顔が洗える!………ん?ま、いっか。
「やったぁっ!」
「チャチャよりもう上手だぞ!」
「すごいですねぇ!」
チャチャ達がわたしを褒めてくれるのも気持ちいいしね。
「でも、本当にすごいですね」
顔を洗っているわたしの後、タオルを持って立っているしいねちゃんがしみじみとつぶやいた。
「もう、ほとんど完璧じゃないですか。普通、この手の魔法って、一応使えるようになるのに半年、こんなにちゃんと使えるようになるのには1年くらいかかるんですよ」
「そうなの?」
顔を洗い終わってタオルを受け取る。
「ええ、チャチャさんの先生のセラビーさんみたいな、本物の天才だったら教わったその日のうちに使えるんでしょうけど、ぼくのお師匠様でも三日かかったっていってましたからね。ルイズ様は、地球だったら文句無しの天才ですよ」
ん~、微妙だ。
天才ねぇ。
自慢じゃないけど、天才なんていうのはもちろん、わたしは魔法のことで誰かに褒めてもらったことなんで今まで一度も無かったのだ。
天才。そう言われるのは嬉しい。嬉しいけれど。
「でも、ここ、チキューじゃないのよね」
そう、ここはチキューじゃないのだ。
洗面器に水を汲んでくる魔法、そんな魔法はここハルケギニアには無い。コモン・スペルにも、水魔法にもそんな魔法は無い。噂に聞くエルフ達が使うという先住魔法にもそんな魔法は無いはずだ。
そんな魔法が存在しない以上、わたしが洗面器に水を汲んできても、わたしが魔法を使えたことにはならないのだ。
ここ、ハルケギニアでは。
「そうなんですけど」
変なところですね、ハルケギニアって。
チャチャ達を召喚してしまった日の夜、しいねちゃんはそう言った。
「火を燃やそうとして爆発させちゃったら、火を燃やすっていう目的から考えたら確かに失敗ですけど。爆発っていう結果そのものは残ってるんだから、ルイズさんに魔法の才能が無いっていうことにはならないと思うんですよ」
しいねちゃんは、そう言ってくれた。
「そうよね。本当の失敗って、何も起こらないことだもんね」
魔法の失敗という点では間違い無くわたし以上の失敗をする、チャチャもそう言ってくれた。
でも、いいんだ。
わたしが住んでるのはチキューじゃない。ハルケギニアなんだし。
今はまだ、コモン・スペルも系統魔法も使えないけれど。いつか絶対、コモン・スペルも系統魔法も使いこなして見せるんだから。
「ルイズちゃん、着替えよ」
チャチャが着替えの服を持ってきてくれると、しいねちゃんは入れ替わりで洗面所から出て行く。
「ん、ありがとう」
わたしがそう言うと、チャチャはえへへと笑った。
「あのね、ルイズちゃん。わたしたちの国の魔法には着替えの魔法もあるんだよ」
「着替えの魔法って、わざわざ魔法で着替えるの?」
「うん、そうよ。寝坊して遅刻しそうな時とか便利なの。ルイズちゃんも練習してみる?」
「そうねぇ」
あはは。
ああ、チャチャ達の魔法ってなんて滅茶苦茶で楽しそうなんだろう。
「一人で箒で飛べるようになったら、練習してみようかな。」
わたしの一日は、だいたい、こんな感じで始まる。
#navi(笑顔が好きだから)
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