コルベールがそれに気づいたのは、学院の午前中の授業の終わりごろ、昼休みも間近という頃だった。
自分が担当している午前中の授業は終わったので、それからライフワークとなっている機械いじりをずっと行っていた。
作業がひと段落ついたところで空腹を感じ、食堂へ向かおうとしたところ、ふと見ると宝物庫の扉が開いているのである。
コルベールは不思議に思った。あそこは貴重な秘宝、危険な宝を保管しておく場所であり、
そうそう足を踏み入れるところではない。大体普段は鍵もかかっており、特別な用事がなければ開けることさえ許されない。
一体誰が?そう思い、コルベールは宝物庫へ足を運んだ。
つん、と鼻に来る、閉鎖空間によくある特徴的な匂い。コルベールは薄暗い室内に誰かいるのか、と目をやる。
そしてその人は、あっさりと見つけることが出来た。
後姿しか見えないが、短く刈った髪にがっしりとした体つき、シャツを無雑作に着ている。
少なくとも、この辺りで見た覚えのない人間。それが宝を物色するかのように、中腰になっている。
コルベールの脳内に、ある一つの答えが出るのは当然と言えた。
すなわち、
「ど、どろぼーっ!!」
「どろぼう!?泥棒じゃない!トレジャーハンターだ!」
コルベールの叫びが気に入らなかったのか、男は一瞬で後ろを振り向き怒声を上げた。
しかし落ち着け、今の状況でそんなことを言っても意味がないだろう。
「ミスタ・コルベール!彼は泥棒じゃありません!」
後ろからいきなりかけられる声。コルベールが後ろを振り向くと、そこにいたのはコルベールも良く知っている女性だった。
「ミス・ロングビル?」
「彼はミス・ヴァリエールの召喚した使い魔です!」
言われてもう一度男に目をやる。薄暗くてよく見えなかったが、確かにそこで
この辺りでは見ない、赤を基調とした特徴的な服を羽織ろうとしているのは、
数日前に召喚された明石暁その人だった。
自分が担当している午前中の授業は終わったので、それからライフワークとなっている機械いじりをずっと行っていた。
作業がひと段落ついたところで空腹を感じ、食堂へ向かおうとしたところ、ふと見ると宝物庫の扉が開いているのである。
コルベールは不思議に思った。あそこは貴重な秘宝、危険な宝を保管しておく場所であり、
そうそう足を踏み入れるところではない。大体普段は鍵もかかっており、特別な用事がなければ開けることさえ許されない。
一体誰が?そう思い、コルベールは宝物庫へ足を運んだ。
つん、と鼻に来る、閉鎖空間によくある特徴的な匂い。コルベールは薄暗い室内に誰かいるのか、と目をやる。
そしてその人は、あっさりと見つけることが出来た。
後姿しか見えないが、短く刈った髪にがっしりとした体つき、シャツを無雑作に着ている。
少なくとも、この辺りで見た覚えのない人間。それが宝を物色するかのように、中腰になっている。
コルベールの脳内に、ある一つの答えが出るのは当然と言えた。
すなわち、
「ど、どろぼーっ!!」
「どろぼう!?泥棒じゃない!トレジャーハンターだ!」
コルベールの叫びが気に入らなかったのか、男は一瞬で後ろを振り向き怒声を上げた。
しかし落ち着け、今の状況でそんなことを言っても意味がないだろう。
「ミスタ・コルベール!彼は泥棒じゃありません!」
後ろからいきなりかけられる声。コルベールが後ろを振り向くと、そこにいたのはコルベールも良く知っている女性だった。
「ミス・ロングビル?」
「彼はミス・ヴァリエールの召喚した使い魔です!」
言われてもう一度男に目をやる。薄暗くてよく見えなかったが、確かにそこで
この辺りでは見ない、赤を基調とした特徴的な服を羽織ろうとしているのは、
数日前に召喚された明石暁その人だった。
「…なるほど、宝物庫の目録を作ろうとしていたんですか」
「ええ、そうしたら彼が来て、手伝うから宝を見せて欲しいと言われたんです。
さすがに数も多いですし、別に盗みはしないだろうと思ったので手伝ってもらったんです」
ロングビルが説明し終わると、三人は安心のため息をついた。
もっとも、誤解が解けた安心、泥棒でなかった安心、大騒ぎにならなかった安心と、安心の内容は三者三様だったが。
「しかし、本当に面白いものばかり置いてありますね。それもこれほど大量にあるとは」
微妙に途切れた空気を変えるために、明石が会話を始める。
明石の言葉に、勘違いした恥ずかしさからか、小さくなっていたコルベールは顔を明るくした。
「そうだろう?ここの宝の中には、ハルケギニア全土にもそうそうないようなものがあるからね。
それも結構頻繁に宝を持ってきたりするから、目録を作るのも一苦労なんだ」
笑顔を見せるコルベール。やはり自分の学院のことを褒められると嬉しいのか、やけに饒舌になっている。
「一年程前にも学院長のオールド・オスマンが色んなものを持ってきてね。
なんでも危ないところを助けてもらった人から、預かってもらえないかと渡されたとか。
私には一体なんなのか分からないものばかりだったよ。『眩き槍』と『光の箱』と『秘宝の地図』
だったかな。確かオールド・オスマンはそう呼んでいたよ」
「秘宝の地図?」
途端に明石の目の色が変わる。こんな不思議な世界の宝物庫に安置されるような秘宝の地図。
一体どんなものが記されているのか、興味を引かれずにはいられなかった。
「その宝の地図、見せてもらっていいですか!?どこに置いてあるんです!?」
「え?ああ、別に構わないが、なにやら暗号めいた文で書かれてて読めないぞ」
「暗号!?すっごいわくわくするじゃないですか!ぜひみせてくださ」
「いたああああああああああ!!!」
耳をつんざかんばかりの大声に、三人が声の方向を向く。そこにいたのは明石の主人、ルイズだった。
「授業の時もいない!授業終わってもこない!いったいどこほっつき歩いてるのかと思ったら!」
「い、いや待てルイズ、落ち着け」
「やかましい!」
のし、のしと肩をいからせて歩いて近づくと、ルイズは明石の首筋をつかんで引っ張る。
その力と迫力はいくつもの戦いを潜り抜けてきた明石やコルベールも思わず冷や汗をかきそうになるほどだった。
「ちょっと待ってくれルイズ!宝の地図が!宝の地図が見たいんだ!」
「宝の地図!?知ったこっちゃ無いわよそんなの!さっさとついてきなさい!」
「俺の地図ーーー!!!」
泣きそうな声で絶叫する明石を引っ張っていくルイズ。
突然の出来事に、コルベールとロングビルは、彼らが視界から消えるまで、固まったままだった。
「ええ、そうしたら彼が来て、手伝うから宝を見せて欲しいと言われたんです。
さすがに数も多いですし、別に盗みはしないだろうと思ったので手伝ってもらったんです」
ロングビルが説明し終わると、三人は安心のため息をついた。
もっとも、誤解が解けた安心、泥棒でなかった安心、大騒ぎにならなかった安心と、安心の内容は三者三様だったが。
「しかし、本当に面白いものばかり置いてありますね。それもこれほど大量にあるとは」
微妙に途切れた空気を変えるために、明石が会話を始める。
明石の言葉に、勘違いした恥ずかしさからか、小さくなっていたコルベールは顔を明るくした。
「そうだろう?ここの宝の中には、ハルケギニア全土にもそうそうないようなものがあるからね。
それも結構頻繁に宝を持ってきたりするから、目録を作るのも一苦労なんだ」
笑顔を見せるコルベール。やはり自分の学院のことを褒められると嬉しいのか、やけに饒舌になっている。
「一年程前にも学院長のオールド・オスマンが色んなものを持ってきてね。
なんでも危ないところを助けてもらった人から、預かってもらえないかと渡されたとか。
私には一体なんなのか分からないものばかりだったよ。『眩き槍』と『光の箱』と『秘宝の地図』
だったかな。確かオールド・オスマンはそう呼んでいたよ」
「秘宝の地図?」
途端に明石の目の色が変わる。こんな不思議な世界の宝物庫に安置されるような秘宝の地図。
一体どんなものが記されているのか、興味を引かれずにはいられなかった。
「その宝の地図、見せてもらっていいですか!?どこに置いてあるんです!?」
「え?ああ、別に構わないが、なにやら暗号めいた文で書かれてて読めないぞ」
「暗号!?すっごいわくわくするじゃないですか!ぜひみせてくださ」
「いたああああああああああ!!!」
耳をつんざかんばかりの大声に、三人が声の方向を向く。そこにいたのは明石の主人、ルイズだった。
「授業の時もいない!授業終わってもこない!いったいどこほっつき歩いてるのかと思ったら!」
「い、いや待てルイズ、落ち着け」
「やかましい!」
のし、のしと肩をいからせて歩いて近づくと、ルイズは明石の首筋をつかんで引っ張る。
その力と迫力はいくつもの戦いを潜り抜けてきた明石やコルベールも思わず冷や汗をかきそうになるほどだった。
「ちょっと待ってくれルイズ!宝の地図が!宝の地図が見たいんだ!」
「宝の地図!?知ったこっちゃ無いわよそんなの!さっさとついてきなさい!」
「俺の地図ーーー!!!」
泣きそうな声で絶叫する明石を引っ張っていくルイズ。
突然の出来事に、コルベールとロングビルは、彼らが視界から消えるまで、固まったままだった。
明石を探すのに手間取り時間を食ってしまったため、時間が押していることを考え、
昼食を少し急ぎつつ取りながら、ルイズは考え事をしていた。
自分の使い魔の、明石のことである。
彼を召喚し、契約も行った。理想とはかなり、かなり違ってはいたが、初めて成功した魔法の成果なのだ、
嬉しくないはずがない。
だが、ここ数日彼と生活しているうちに、その『初めて成功した魔法』が本当に成功しているのか疑わしくなってきたのだ。
使い魔は主人に絶対服従、となるはずなのに、全くと言っていいほどその気配が見られない。
朝自分を起こし、朝食を摂ったら、それ以後はお構いなしで辺りを散策する。
他の生徒の使い魔に興味があるらしく、使い魔たちとじゃれあっていることも珍しくない。
授業が終わるとタバサから文字を教わっているらしい。タバサに明石の事を尋ねたらただ一言、
「子供みたいな人」と返してきた。覚えは早いらしいがその辺はどうでもいい。
問題は、主人である自分の事をほとんど考えずに、自分の興味の向くままに行動している、という点だ。
それどころか、たまに話すことになると「子供を躾けるのは大人の役目」とか考えていそうな対応をしてくる。
一体自分を何だと思っているのか。そう思うと腹の底から苛立ちがむくむくとわきあがってくる。
誰が主人で、自分がどういう立場にいるか躾けてやろう、と思い、色々と行動したこともある。
「使い魔に個室なんてないんだから床で寝てね」とやると、野宿は慣れているのかあっさり寝る。
次の日にはどこからか失敬してきた藁を布団がわりにして寝ていた。
「無礼な事をやる使い魔には食事抜き」とやると、本を読んで覚えたての山菜やら小動物やらを取ってきて、
料理長に料理してもらっていたのには絶句した。
結局、どんな躾けも、どういう状況にも適応する明石には効果がなかったのだ。
それを思い出してちょっと凹みつつ、ルイズは心の中で始祖ブリミルに毒づいた。
(もう少し、もう少しだけでいいんで素直で従順な使い魔が来てほしかったんですが、ブリミル様。
あたしにはそれすら贅沢ですかそうですか)
まあいいや。いつか必ずあいつを自分に従わせて、立派な魔法使いになってみせる。
あたしはまだ走り出したばかりなのよ、この果てしないメイジ坂を……
「君は自分が何をやったのかわかってるのかい!」
食堂に響く声に反応して、途端に硬直するルイズ。まさか明石がまたなにかやったのか、
一番最初にそんな考えが浮かんでくる自分がちょっと嫌になりながら、ルイズは辺りを見回す。
食堂の中心に人だかりが出来ており、そこでメイドを誰かが怒鳴りつけている。
見覚えのあるあの後姿は、同じクラスのギーシュ・ド・グラモンだ。
一体何をやってるのかと耳を傾ける。どうやらメイドの彼女が拾った香水のビンのせいでギーシュの二股がばれたらしい。
それで、八つ当たりに彼女を苛めている、というわけだ。
「…バカバカしい」
自業自得の典型だ、そう思うルイズ。ギーシュ本人もそう思ってるのだろうが、一旦始めると止められないのか、
どんどんメイドを追い詰めていく。メイドは今にも泣きそうになりながら必死に謝っている。
正直、見ていて愉快なものではなかった。
いい加減止めなきゃ。ルイズがそう決心して動こうとしたとき、
「その辺にしたらどうだ」
ギーシュの目の前に、メイドをかばうようにして、明石が立っていた。
「アカシさん!」
メイドは思わず驚きの声を上げていた。
「あ…のバカ!」
ルイズは思わず怒声を上げていた。
昼食を少し急ぎつつ取りながら、ルイズは考え事をしていた。
自分の使い魔の、明石のことである。
彼を召喚し、契約も行った。理想とはかなり、かなり違ってはいたが、初めて成功した魔法の成果なのだ、
嬉しくないはずがない。
だが、ここ数日彼と生活しているうちに、その『初めて成功した魔法』が本当に成功しているのか疑わしくなってきたのだ。
使い魔は主人に絶対服従、となるはずなのに、全くと言っていいほどその気配が見られない。
朝自分を起こし、朝食を摂ったら、それ以後はお構いなしで辺りを散策する。
他の生徒の使い魔に興味があるらしく、使い魔たちとじゃれあっていることも珍しくない。
授業が終わるとタバサから文字を教わっているらしい。タバサに明石の事を尋ねたらただ一言、
「子供みたいな人」と返してきた。覚えは早いらしいがその辺はどうでもいい。
問題は、主人である自分の事をほとんど考えずに、自分の興味の向くままに行動している、という点だ。
それどころか、たまに話すことになると「子供を躾けるのは大人の役目」とか考えていそうな対応をしてくる。
一体自分を何だと思っているのか。そう思うと腹の底から苛立ちがむくむくとわきあがってくる。
誰が主人で、自分がどういう立場にいるか躾けてやろう、と思い、色々と行動したこともある。
「使い魔に個室なんてないんだから床で寝てね」とやると、野宿は慣れているのかあっさり寝る。
次の日にはどこからか失敬してきた藁を布団がわりにして寝ていた。
「無礼な事をやる使い魔には食事抜き」とやると、本を読んで覚えたての山菜やら小動物やらを取ってきて、
料理長に料理してもらっていたのには絶句した。
結局、どんな躾けも、どういう状況にも適応する明石には効果がなかったのだ。
それを思い出してちょっと凹みつつ、ルイズは心の中で始祖ブリミルに毒づいた。
(もう少し、もう少しだけでいいんで素直で従順な使い魔が来てほしかったんですが、ブリミル様。
あたしにはそれすら贅沢ですかそうですか)
まあいいや。いつか必ずあいつを自分に従わせて、立派な魔法使いになってみせる。
あたしはまだ走り出したばかりなのよ、この果てしないメイジ坂を……
「君は自分が何をやったのかわかってるのかい!」
食堂に響く声に反応して、途端に硬直するルイズ。まさか明石がまたなにかやったのか、
一番最初にそんな考えが浮かんでくる自分がちょっと嫌になりながら、ルイズは辺りを見回す。
食堂の中心に人だかりが出来ており、そこでメイドを誰かが怒鳴りつけている。
見覚えのあるあの後姿は、同じクラスのギーシュ・ド・グラモンだ。
一体何をやってるのかと耳を傾ける。どうやらメイドの彼女が拾った香水のビンのせいでギーシュの二股がばれたらしい。
それで、八つ当たりに彼女を苛めている、というわけだ。
「…バカバカしい」
自業自得の典型だ、そう思うルイズ。ギーシュ本人もそう思ってるのだろうが、一旦始めると止められないのか、
どんどんメイドを追い詰めていく。メイドは今にも泣きそうになりながら必死に謝っている。
正直、見ていて愉快なものではなかった。
いい加減止めなきゃ。ルイズがそう決心して動こうとしたとき、
「その辺にしたらどうだ」
ギーシュの目の前に、メイドをかばうようにして、明石が立っていた。
「アカシさん!」
メイドは思わず驚きの声を上げていた。
「あ…のバカ!」
ルイズは思わず怒声を上げていた。